私、重巡洋艦なんです!   作:探照灯要員

3 / 32
【前回までのあらすじ!】

俺が、俺たちが! 重巡洋艦だ!

ΩΩ Ω<ナ、ナンダッテー?!


装備分析は大切ですね!

 太陽はその四分の三以上が隠れ、既に水平線以外は星空である。

 

 

 ……さて、大問題だ。

 

 

 見える星空が日本のそれと全く違うじゃあないか!

 

 北極星はもちろん、南十字星、それらの判断材料となる星座が全く見えない。

 ああ、そうとも、自分の考えが至っていなかった、ここは熱帯気候どころか完全なる赤道線だとしたら?

 

 北極星は見えず。南十字星も水平線に沈んでしまっているかもしれない。

 

「えっと……」

 

 南十字星を特定するための星座、そう、ケンタウルス座を探すのだ!

 

『古鷹さん、古鷹さん!』

 

「ちょっと待って! 今、現実逃避してるから!」

 

『なんで現実逃避なんですか!』

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

 戻ってきてください、古鷹さん! そう言われて何度も深呼吸。ようやく落ち着いてきた。太陽はもう完全に沈み切り、真っ暗な海と星々の輝きで判別がつく水平線のちょっと上に現実逃避の材料にされた南十字星が輝いている。

 

「……えーと、つまり」

 

 私はいま、砂浜の上に正座している。砂のせいでちくちくする。もちろん足は隙間なく閉じてある。いや開いてたらスースーして嫌でも閉じたくなるから。

 

「……私『が』大日本帝国海軍の巡洋艦「古鷹」ってこと……なの?」

 

 困惑気味のこちらに戸惑ったのか、向こうも言葉を選ぶように返事をする。

 

『そうなります……ね』

 

 訳が分からない。いや、何を言っているのかは分かってるよ。一応。

 

 わたし は ぐんかん らしい

 

 うん、確かに軍艦は女性名詞だ。船に女性を乗せると災いが起こるとか昔言われてたくせに船は彼女(she)と呼ばれる。まあ船乗りの恋人は船で、ほかの女性を乗せると嫉妬で沈んでしまうと考えると面白いが……いやそんなことはどうでもいいんだよ、今。

 

「……つまり、どういうこと?」

 

『どういうことと……いわれましても』

 

 答える「砲術科」小人。なんだそれ。つまり分からないと?

 ……どういうことなの。

 

「じゃああなたたちは?」

 

 五つの小人、砲術・水雷・飛行・機関・航海。確かにそれらは軍艦を動かすのに必要な職種だ。彼らは自分が「古鷹」であることを初めから理解していたようで、つまり分かっていたはずなのだ。

 

『私たちは、古鷹さんのバックアップをするためのメンバー……だと思うのですが』

 

 自分のことに関しても曖昧な表現。何か隠している? それとも……。

 

 縮こまって私と同じく正座している五つの小人をじっと見つめる。いろいろ担当が決まっているらしいが、どれも同じに見える。

 

「……」

 

 考える、が答えが出るはずもない。そして、選択肢などは存在しない。

 そんなこと分かっている。

 

「……分かりました。あなた方がそう言うのならそうであると考えるしかありませんね」

 

 パアッと明るくなる小人。彼らの真意がどうであれ、自分がこの娘として存在しているという受け入れがたい事実は変わらない。ともかく今は、彼らと友人でいよう。真偽の精査は後々やればいい。

 

「では、あなた方自身のことを、分かる範囲で教えてもらってもいいでしょうか?」

 

 情報において重要なのは質より量だ。嘘の情報だって量を捌いていればいずれ綻びが出るというもの。聞けることは聞いておこう。

 

『はい、私らの役目は、古鷹さんの艤装……あぁ、主砲や魚雷、航空機のことですね……これの操作を行うことです』

 

 小人たちを代表するように答える砲術科。主砲はあの取り付け式装備のこと。魚雷は……認めたくなかったが、確かにそれらしいものは足に取り付けられていた。航空機に関しては影も形もないんだけど。そんな事より大切なことがある。

 

「砲術科と水雷科、飛行科は分かりますけど……機関科と航海科は何を?」

 

 自分が軍艦ということは、なんとなく察しはつくが。

 

『古鷹さんの航行をお助けします!』

 

『古鷹さんの航海をお助けします!』

 

 果たしてその通りだったようだ。機関科は艦の心臓である機関室を担当。航海科は進路の設定や航海計画の立案を行う部署だ。

 

 そう、航海。

 

「つまり……」

 

『……はい』

 

 こちらが間を置けば、向こうも緊張の面持ちで次の言葉を待つ。

 

「私は……海に出られる?」

 

『はい!』

 

 ……。

 

 ……今日のスタートは目覚めたら見知らぬ土地で女の子になっていたところからだ。今更何にも驚くまいと思っていたが、これには……驚いた。いや驚きの感情が上がってこないあたり、自分はどこかで呆れているのかもしれない。何でもありか、と。そりゃ軍艦が海を走れずしてなんであるかと言われたらその通りだが……。

 

 しかしこれ、よく分からないことだがとてつもなく有益な情報ではないだろうか。海を走れるということはつまり、日本へ帰る道筋が出来たということ。祖国日本は四方を海に囲まれる国家、海はすべて繋がっているのだから、ここがどこであれ必ず帰れるわけだ。

 まあ、緯度経度が分からないことにはどうしようもないけれど……例えば直近の課題である食料などの確保は出来るだろう。魚を探して海を走り、網で捕まえてしまえばいいのだ。

 

 あ、いや、ちょっと待った。軍艦ってことは、燃費はそんなに良くないはず……燃料はどうなるんだ? それ以前に、私は重油をがぶ飲みでもするのだろうか。

 ……一気に開けてきた先行きが急に閉じてしまった。私の感情は山の天気か。

 

 と、ともかく、日本に帰るとか帰らない(自分の住んでいた日本でないことはほぼ確定だが、それでも故郷へ帰るのだと自分は考えたい)はひとまず保留として、まずは漁のことを考えよう。

 

「ちなみに、どのくらいの時間海に出られるの?」

 

『燃料の続く限りは出られますよー』

 

 来た、燃料。

 

「燃料って、なに?」

 

『え、いや……そのままの意味ですけど』

 

 そのままの意味じゃダメだろ、私に燃料を飲めというのか、あのヌルッヌルの重油を?!

 

 機関科の小人は私が持ってきた装備品の一つに取りついた。するとそこから光が出て、空中にウインドウが現れる。おぉ~SFだ。やっぱりこの世界の大日本帝国はすごいようだ。

 と感心している場合じゃないか。いったい何が表示されているんだ? これは。ちょっと情報が多すぎる。誰だって予備知識なしにプロパティファイルを見せられたらそりゃ困惑するものだ。

 

 もちろんそれは小人もよく分かっているようで、それぞれの計器を指さしながら教えてくれる。どうでもいいけど、大日本帝国な雰囲気が全く漂ってない、訴訟。

 

『これが、古鷹さんの残り燃料、主砲弾、魚雷、対空砲や機銃の残弾です。いずれも積載量限界ですね。あ、こっちは航空燃料と弾薬の情報です』

 

 なるほど、これが主砲弾(20.3㎝砲弾と書いてあるのが見えたが、きっとmmの間違いだよね……流石にもう現実逃避は無理か)で、こちらが魚雷という感じで表示されているのか。積載限界ということは満タンということ。食料や拳銃などの自衛武器同様、今の私は完全装備のようだ。へぇ……魚雷が発射管の二倍積まれてる……古鷹って結構古い艦だった覚えがあるんだけど、次発装填機能はこの時点で完成していたのか……いや、これは単に大日本帝国の科学力の成果なのか?

 うーん、役に立たない知識はないというけれど、もう少し軍艦のこと調べとくんだったな……軍事は一応いくつかある趣味の一つであった訳だし。まぁ、こんな謎事態に陥るなんて誰も考えないし、それは無理な相談というやつか。

 

 ともかく、これはまた貴重な情報だった。少なくとも自分が持っている装備がどんなものか分かっただけでも大きな成果である。

 

 

 で、で、そんな事よりも。

 

「燃料って……やっぱり重油ですか?」

 

『はい、そうなりますね』

 

 石油。国家の血液。もちろん血液だけじゃ身体は維持できないけど、日本にとっての資源代表格はこいつだ。

 

「私が……飲むんですか?」

 

 言ってからその様子を想像し、思わず唾を飲み込む。こんな柔らかい喉に、食道に重油を落とし込むというのか……。

 

『あ、勘違いされてるようですけど、口からは飲みませんよ?』

 

 口からは、あぁー知ってる。あれでしょ、ものが飲み込めなくなった人にやる「胃ろう」ってやつね。胃の中に直接重油を流し込むのね。そう思っておへその当たりに視線をやる。きゅっと綺麗に締まったくびれ。あ、さっきまでは誰も見ていなかった関係でスカートほどは気にしていなかったけど……この服、おへそ周りがむき出しなんだよね。小人たちが発情(ちなみに彼らの性別は不明だ)しても制圧は可能だろうけど、出来れば女らしいところは隠したいなぁ……。そう思いながらおなかをさする。若い女性の肌の張りはすごいと聞いてはいたが、ほんと凄いわ……。

 興奮で顔をわずかに赤らめ、自分の腹をガン見しながら擦る痴女。

 

『いや、古鷹さんが重油を摂取するわけじゃないんですよ』

 

 何を思ったのか小人が発言する。

 

「……はっ、いや、そういう意味じゃなんです!」

 

『へ?』

 

「え?」

 

 あ、別に自分のことを変態として見ていたわけじゃなかったのか。助かった。こんなことで信用失ったらたまったもんじゃないよ……危ない危ない。

 

『……とにかく、古鷹さんは重油を直接摂取するんじゃなくて、艤装のほうに補給してくれればいいんです。航行すると必然的に消費するので、出来る限り多くの燃料が欲しいですね』

 

「……艤装って、ここに入れるんですか?」

 

 ……主砲塔の取り付けられたそれを見る。いったいこの中はどんな構造をしているんだ……?

 

『あ、いえ、こっちですよ』

 

 そう言いながら小人は地面を指さす。地面というか、私の靴だ。え、靴も艤装なの? あ、航行するなら当たり前か……女の子が航行するのは当たり前じゃないけど。

 航行時にはスクリューを展開したりとかするんだろうか? この世界の大日本帝国ならやれそうだ。

 

「でも、小さいですね……ここに入るんですか、燃料」

 

『はい、私らの力で押し込みます!』

 

 ガッツポーズをする小人。押し込むってね、あなた……液体は圧縮すると個体になるんですよ? あれ、そもそも化石燃料って圧縮されてできたんだっけ。うーん複雑怪奇。

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

『緯度は……南緯9度ぐらいですね』

 

 と航海科の小人は言う。それは水平線上にに浮かぶ南十字星を基準にして求められた数字。なるほど、どうやらこの小人たちはそれぞれ持っているノウハウが違うようだ。航海科なら星を基準に緯度を求めるのは当然のこととドヤ顔で言われる私。まあそうでしょうね、としか返せない。

 ……ちなみに、経度はそもそもの出発点が分からないので求めようがないそうだ。うーん……。

 

 

 あ、自分が今しているのは就寝準備。夜となるとすることも少なく、なにより貴重なライターのオイルやフラッシュライトの電池を浪費するわけにもいかない。松明が作れれば森の探索も行えるが、まあ危険なのでやりたくない。

 もちろん夜行性の動物に獰猛なものが多いのも理由の一つだが……それ以前に、方角しかわからない状況下で森に踏み込むという愚行は避けたいのだ。無計画すぎる。

 

 そしてなにより……疲れた。想定外のことが起きるだけで人間は疲れるもの。それは頭を使ったとか身体を使ったとかではなく、異常事態を受けた身体がどんな事態にも対応できるようにするために警戒状態を保つ……つまり筋肉を強張らせて緊張していた故の疲労である。今になって疲れが出てきているのは、小人たちに出会ったおかげで緊張が緩んだからだろう。

 

 緊張が緩んだのも、彼らのおかげか……。

 

 私は焚火の周りをちょこちょこ走り回る小人たちを眺める。彼らが誰かは分からない。私も誰なのかはまだ謎だ。

 

 

 でも、ここには確かに『他者』がいる。自分は独りではないのだ。

 

 

 たとえそれが自分を欺こうとしていても……あ、悪いけどまだ私が重巡洋艦であることは認めないからね? だって水の上に浮けるとかいうけど、ニンジャなら出来るってコミックとアニメイションで散々刷り込まれたから。どう見てもこの主砲203mmもないから。うん。ほんとそれ。

 

 ついでに、私がここで次目覚めるまでは、自分が異世界で女の子になったなんて信じないよ。世の中には夢落ちという素晴らしいストーリーも存在するのだ。

 

「じゃあ、夜警担当の時間になったら起こしてくださいね」

 

『はい!』

 

 最初の夜警担当となった(最初の夜警は楽だ。それ故に揉めた)砲術科さんにそう頼み、横になる。夜、未開の自然の中で寝るとするなら、誰か見張り担当を決めて火を一晩中絶やさないことが望ましい。今回は私含めて五つと一人いるので、交代で行う夜警の担当時間までたっぷり寝れることだろう。

 

 あ、普通すぎて忘れてたけど、腕時計も装備されていた。見る限りはやはり軍用の匂いがするけど、時計は結構趣味が出るからなぁ……この娘はどんな趣味だったのだろう。

 

 

 

 

 ともかく、おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと長くなりましたが、一日目終了です。厳密にはまだ夜警の時間がありますけど。日付変更線は超えるので一日目は終了です。はい。

多くの閲覧だけでなく、お気に入り登録や感想まで……ありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。