私、重巡洋艦なんです!   作:探照灯要員

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二日目、始まります。

あ……前書きでいきなりこういう話するのもどうかと思うけど……ほら、80時間遠征後の艦娘の云々を云々したいってコメントよくあるじゃないですか。

でもさ……ふつう何十時間も身体洗わず汚いままとか、それってブラックすぎるし、かわいそうだよね。紳士諸君には申し訳ないが、私は美しい軍艦が汚れるなんて嫌です。

だからこうしてるんだと思う。
妖精さんマジ優秀。


地理情報を確認しますね!

『総員起こし!!』

 

 

 朝っぱらから大声、そして続くラッパ音。

 

「え? なに?!」

 

 いきなり鳴らされればびっくりするのも当然だ。飛び起きてから、起床ラッパのそれだと気づく。あぁ、私『は』軍艦なんだっけ。なんかはっきり目が覚めちゃったせいで、現実逃避もできずに現在の自分の身体特徴を感じる……夢じゃないよね、そりゃ。二度あることは三度あるっていうし……。

 

 ……は! 同じようなことわざで『三度目の正直』というじゃあないか!

 

 つまりもう一度寝れば……。そう思ってもう一度横になろうとしたのだが。

 

 

『古鷹さん、おはようございます!』

 

『『『『おはようございます!!』』』』

 

 

 小人たちの挨拶……すっごい大きな声だ。よくあんな小さな身体で……あれ?

 

 小人の数を数える、ひいふうみい……なんだろ。まだ寝不足なのかな。

 

 

「……なんか、増えていませんか?」

 

 うん、どう見ても増えてる。その増え方は二倍とか三倍とかじゃない、数十はいるぞ、これ。そして全部同じものに見える。

 

『はい、自分らは軍艦古鷹を助ける存在、必要なら必要数だけ人員を用意します!』

 

「……なるほど」

 

 分からん。顔が同じなのも分からん。

 

『まぁ、上限はありますけども』

 

「……なるほど」

 

 上限というと、それはつまり乗組員の総人数か? ○○科という分類から考えると、そういうことだろう。乗員が小人で、軍艦は女の子……なるほど、分からん。

 

 そんなこちらの様子に構わず、小人はいきなり号令をかけた。

 

『それでは……総員、かかれっ!!』

 

 その掛け声で一斉に動き出す小人たち、え、何が始まるんです? わ、なんか身体に飛びついてきた! え、え、どうなっちゃうの? ナニされちゃうの?!

 

 こちらの困惑気味な表情を察したのか、小人は親切に教えてくれた。

 

『なにって……もちろん甲板清掃です!』

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

 甲板清掃。それに驚き、慌てて否定し、でも必要ですからと押し切られてから数分。

 

 猛スピードで私の肌は磨かれてゆく。昨日は小人が全員眠っていたせいで全く甲板清掃をやらないという失態を犯したせいで、今朝のは特に張り切りたいのだとか。というか、あなた方にとっても「古鷹」勤務はまだ二日目でしょう?! もう少し落ち着いていきましょうよ! 誰だこんな規則作ったの……あぁ、海軍か。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 でもまぁ、初めは一斉に飛びついてくる小人にエロ同人みたいにされるのかと恐れおののいたが、慣れれば意外と気持ちいいものである。ちょっと痒いところもかいてくれるし、『回れ、回れ!』と掛け声をかけながら一糸乱れず清掃してゆく小人たちには頼もしさも感じる。

 上から下まで全部やってくれたし、服を着ているところを洗われる時も特に不快感はなかった(服の中に入られてるという感じが全くしないのだ、ホント不思議)。これはとても助かる、特に重要な部分(バイタルパート)を直視しなく済むのはホント助かる。

 

 あぁちなみに、清掃は肌を清潔に保つ程度で、服を綺麗にしたりは出来ないらしい……いつかは洗濯=そのために裸にならなきゃいけない日が来るということか……。顔も知らない娘の裸を見るのは……うーん、鏡もしくはそれに準ずるものの入手を急がねばならないな……。

 まあ、肌が常に清潔に保たれるということは洗濯しなければならない日が来るのは当面先のことだろう。その時になってから考えよう。

 

「あ、小人さん」

 

『なんですか?』

 

「……耳掃除してもらっても、いいですか?」

 

 なんか気持ちよさそう。

 

『もちろんですとも!』

 

 ひょいっと肩に飛び乗ってどこからともなく耳かきを取り出す小人。いやその小さな体のどこに耳かきを隠していたというのだ。

 

 お。

 

『どうですか? 別にごみは見当たりませんけど』

 

 あぁ……これはいいなぁ。気持ちいい。この身体になって初めて得した気分になれた。この一連の清掃が終わってしまえば現実を直視しなければならないのだが、これはいいものである。役得である。

 

 ……ん? 役得?

 

 

 ……小人たちには役職がある。砲術科や水雷科といった具合に。自分の役職……。そうだ、自分の役職がなきゃおかしい、軍艦とは装備と人員それ全てあわせて軍艦だ。

 

 

 今まで何の妨害もなく身体を動かすことが出来てきた。小人たちは私のことを巡洋艦だというのにも関わらず、だ。そしてこうして今も厚待遇も受けている……。

 

 つまり、つまりだ。

 

 自分は……。

 

 

 

「……艦長職?!」

 

『はわわ、いきなり動かないでください!』

 

 耳にぶら下がった小人に注意される。耳かきを入れられていたはずだが、痛くない。流石だ……。

 いやいやいや、今そんな事どうでもいい! 自分の手を見る。どう見ても自分のそれでない、細くてきれいな私の手。

 

 周りにいる小人たちを見る。そうだ、彼らはなぜ「科」と名乗っていたのだ? 普通なら「砲雷長」といった具合に名乗るべきだ。でもそうしなかった。

 

 上位階級がいないから。違う。

 

 

 ……私が、上位階級だから。

 

 

 つ、つまり私は誉れ高き帝国海軍、一等巡洋艦古鷹型一番「古鷹」の……艦長職やら副長職、各科の長といった幹部職を総なめしていると……いうことになるのか?

 

 

 それは、あまりに大きな衝撃だ。いやこれまでも考える隙はあったはずだ。軍艦は鋼鉄の塊、それ自身が意思を持つことはない……時に彼女らが意思を持っているのかのように語られることがあるのは、乗組員たちが魂を吹き込むからなのだ。

 

 自分は、図らずして菊の御紋を賜った軍艦古鷹の長になってしまったということなのか?!

 

 ……これは……畏れ多いことだ。

 

 なんせこの小人、この身体……その全責任を負うのは、それに命じる自分なのだから。

 

 

 

 

 ……う、うーん。

 自分で言っておいてあれだけど、なんかこの理論……無理やり過ぎないか?

 

 うん、だっておかしいよ、それなら女の身体になる理由がない。いややめた、これ以上は考えない。今はそういう風に解釈しておこう。そうすりゃ今みたいな厚待遇にも甘えられるし、小人たちが自分を助けてくれることへの説明もつく。

 

 ……人間とは、かくも都合がいいように解釈する生き物なのだ。

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 さて、清掃も終わり、携帯食料と水筒で軽い朝食を済ませる。

 

 では早速、祖国への第一歩を踏み出そう。

 

 

「飛行科さん?」

 

『はい! お呼びになりましたか!』

 

 呼ぶと、ぴょこんと視界に入ってくる小人。やっぱり見分けはつかない。

 

「稼働機はいつくありますか?」

 

 すると小人は飛び跳ねながら喜ぶ。

 

『やった! 全機発艦可能です! 爆撃ですか? 制空ですか!?』

 

 ……なんで戦争が前提になってるんですかね? 現状戦争してる訳じゃないでしょ。

 

「あ、いや……偵察活動を……お願いしたいのですが……」

 

『ぁ……偵察ですか』

 

 見るからにテンションを落とす小人。ええええ、いやちょっと、頼むよ! 確かに偵察は地味だけどさ!

 

「あぁあ、そんな落ち込まないでください! 今の私たちには偵察が一番必要なんです!」

 

『ほんとですかー』

 

 見事な棒読みである。

 

「ホントですって……古鷹の運命を決めるのは、あなたたち飛行科なんです!」

 

『……』

 

「お願い!」

 

 自分では出来ないことだし、こればっかりは頼みこむしかない。

 

『分かりました、発艦準備します!』

 

 元気な調子に戻ってくれたようだ。良かった。

 

『あ、古鷹さん、艤装付けてください』

 

 艤装、この取り付け式の装備品のこと。発艦に必要らしい……まあ、当たり前と言えば当たり前なのだろうが……当たり前でないことが多すぎるのが悪いのだ。

 

「はい、分かりました」

 

 艤装を取り付ける。大きくて重いはずなのに、軽々と持ち上がるそれ。昨日は不思議でしょうがなかったが、きっと小人たちが支えてくれているのだろう。そうに違いない。そして飛行科小人はその艤装の一部に飛び乗り、二人に、三人にと分裂する。影分身みたいだ。

 

『カタパルト用意!』

 

 ガシャンと『らしい』音を立てながら細長い板が登場……これがカタパルトだ。帝国海軍は火薬式のカタパルトを使用している。というか収納式なんだ。軍艦のカタパルトは普通に設置してあるものだけれど……これもまた、大日本帝国の超技術ということか……うーんすごい。

 

「あれ……? 飛行機はどこにあるんですか?」

 

 カタパルトだけでどうするというのだ。石でも乗っけて飛ばすのか?

 

『ふふふ、ここからが、我ら飛行科の本領発揮ですよ』

 

 なにか意味ありげに笑う飛行科小人。

 

『発艦位置に!』

 

 一つの小人がカタパルトに飛び乗った……ってええ?

 

『エンジン始動!』

 

 小人は光に包まれ……違う、光を放ちながらたちまち変化する。カタパルトに乗っているのはもう二頭身の小人ではない。帝国海軍の偵察機、94式水上偵察機だ。そのエンジンをブルブル鳴らし、それに合わせて回り始めたプロペラもすぐに高回転へと達する。すごい、小さいとはいえ、実際に動くゲタ履き(水上機のこと)なんて初めて見た。

 

『あ……今失礼なこと考えましたね?』

 

 あ、ゲタ履きっていうと怒るか……そりゃそうだ。飛行科は自分の仕事に誇り持ってるんだから。

 ごめんなさい。

 

『さぁーいきますよー、古鷹さん、ご命令を!』

 

 おお、自分が命令を下すわけだ。古鷹の初ミッションが自分の号令で始まるわけか。

 

 では早速……!

 

「古鷹航空隊、発艦!」

 

『射出!!』

 

 パァン、火薬の弾ける音。それと同時に水上機が打ち出される!

 

『続いて二番機、発艦位置に!』

 

『エンジン始動!』

 

 

 

『射出!!』

 

 

 二機目も無事に発射。打ち出された複葉の鷹たちは、空を切り裂き舞い上がる。

 

 ……すごい、あれが小人だったなんて変化するところを見ていても信じられない。分裂したり変身したり、もう何でもありだな。なんか自分が女の子になったのも不思議じゃなくなって……いや、なくなって来ないな。うん。

 

 

《こちら古鷹1、聞こえますか? 送れ》

 

 お、無線電話なのか。てっきりモールスだと思っていた(ちなみに自分はモースル知らないので、ほかの小人に訳してもらうつもりだった)。

 

 やはり大日本帝国、侮れぬ……いや、この場合は新型機開発しろよ。うん。

 

「はい、こちら古鷹、聞こえますよー。どうぞ」

 

《こちら古鷹2、聞こえています? 送れ》

 

《おいこら割り込んでくるな》

 

《えーいいじゃないですかー》

 

《古鷹さんといま話しているのは俺だぞ?!》

 

 

 ……通信のマナー(というか規則だっけ?)が守られてませんね。普通は声が被らないように「送れ」やら「どうぞ」など言うものなんだが……。

 

「あの、二人とも?」

 

《《は、はいっ!》》

 

「喧嘩はほどほどにね?」

 

《す、すみません……》

《どうかお許しを……》

 

 別に強い意味を込めたつもりはなかったのだが、空の飛行機が二機とも揺れた。どうやら動揺しているらしい。

 

 何故そこまで動揺するか分からないが……まあいいや、遊んでもいられない。

 

 

「では、1番は東へと向かってください。今回は周囲の捜索が目的ですので、30㎞地点で変針、そこから南西方向へ向かい、現在地の30㎞南で再び変針……」

 

 今回の偵察プランは極めて単純。現在地から東西南北30㎞地点をダイヤモンド形に繋ぎ、それを探索させる。そんな調子で周囲をぐるりと回り、次第にそのダイヤモンドを大きくしていけば、広範囲を満遍なく探索できるはずだ。航法が不安なのでまっすぐにしか飛ばさせない。

 

 ……まぁ誘導電波が出せるらしいので、最悪道に迷っても大丈夫だけど。というかホント発達してるな、航空艤装。なんで94式なんだ? 零式、いやもっと良い偵察機作れるだろ、絶対。

 

「島影を見つけたら、それの大まかな場所をメモしておいてくださいね。どうぞ」

 

《古鷹1、了解です! おわり》

 

 

 一番機が東へと飛んでゆく……あ、二番機にも指示出さなきゃ。

 

「……では、二番機は海岸沿いに飛んでください。もちろん限界点で引き返してくださいね」

 

 ここが大陸なら向かった方向から帰ってくることになるだろうが、もしここが島なら一周して戻ってくるはずだ。

 

《古鷹2、了解しました! ……あ、おわり!》

 

 

 そういって二番機も飛び去って行った。やっぱり航空機はロマンだよね……というか、ちょっと興奮して作戦会議忘れてた。今の説明って射出前にするべきだよね……反省。

 

 

 

 

 

 ともかく、偵察機からの吉報に期待しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 




偵察機は戦争を変えるよね。ほんと。

まぁ陸軍大国ほど軽視される傾向にありましたが…(砲兵隊と航空隊は欧州のどの国でも仲悪かったらしい)。

ちなみに、古鷹型は専用艦載偵察機の運用を前提とした初めての巡洋艦らしいっすね。カタパルトがなかったせいで一時は滑り台から落とすように飛行機を発艦させていたらしいですが……それで発艦できる複葉、三葉機ってすごい。
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