私、重巡洋艦なんです! 作:探照灯要員
《海上を移動中の艦船を発見しました!
……一瞬ではあるが、何を言われているのか全く分からなかった。
だが、混乱していいのは一瞬だけだ。
「……詳しい報告を、お願いします。どうぞ」
声が震える、当然だ。目覚めて以来、初めての未知……私も小人も未知だが、それは棚に上げる……との接触である。気持ちが昂らない訳がなかった。
《場所は出発点から南南西75㎞ほどです……確認の後に高度をすぐ下げましたのでまだ相手には気づかれていないと思いますが……どうしましょう? 送れ》
どうするも何も……そう言おうとして、やめる。確かにここでの判断は重要だ。現時点で確定しているのは私が『偵察機を運用できる装備品を所持している』ということだけ。小人の話も、「IJN」と刻まれたドックタグも、あくまで私の立場を推測するための状況証拠に過ぎない。
偵察機……大きさから考えると、自分の住んでいた日本でいう
……つまるところ自分が言いたいのは、一般に装備品を見られるのは極力避けた方がいい、ということだ。海は経済活動の場であって、航行しているのは当然軍艦よりも商船の方が桁違いに多い、加えて「古鷹」のような軍艦がいるのは世界が完全なる平和を実現していないからだ。友好的な船ばかりが航海していると考えられるほど、自分はバカじゃない。
「……相手に感付かれず、どれくらいまで近づけますか? どうぞ」
もちろん、都合のいい注文だということは分かっている。だが航空機は空を飛ぶ、航空機が船を水平線に捉えている時、船から見た航空機は水平線、もしくはそのギリギリ下だ。発見は難しいはず。
《難しいですが……古鷹さんのご命令とあらば。送れ》
……さて、それはどう捉えるべきだろか。向こうは難しいとはっきり口に出した。しかし命令ならやると言っている。自分はもちろん、最悪の状況なら一番偵察機を見捨てる覚悟はある。だがここでそのリスクを命令によって偵察機に進んで背負わせるほどの覚悟はなかった。
そして、まだ見つかっていない、進むも退くも自由という状況が、自分に判断の時間があると思い込ませた。
それが、その僅かな時間が、失態を生む。
《……! ぎゃ、逆探に感あり!》
「えっ?!」
逆探。電波探知機。それは一言でいえば
……まぁ、今の時代じゃ電波探知機の出番はないが。電波兵器が貧弱な時代だからこその兵器と言える。
ちょっと話が長くなってしまったが、とにかく相手は電探を持っているらしい。
しかしこれ、実は吉報だ。
逆探の性質は相手の電波をキャッチすること。即ち、電波を使っている相手がいるということだ。電波は不思議なものだが魔法じゃない。理論は実証済みだし、その実用性は民間で広く使われていることからも分かるだろう。
ともかく、電波を使いこなすぐらいの文明を持った相手が偵察機のそばにいるということだ。
今の時代、航海用のレーダーを積むのは常識だ。小型の漁船にだって搭載されている。せめて船種と国籍だけでも確認したいところだ。出来れば接触もしたいが……あぁ、もし仮に相手が日本もしくは友好国の軍艦だったなら、そちらに頼んで日本まで送ってもらう手もある。そんな楽に進むとは思えないが。
「どこの電波かは分かりますか? どうぞ」
《あ、すいません……自分まだ逆探不慣れでして……どこのまでかはちょっと……送れ》
逆探は電波をキャッチするが、もちろん電波の定義は世界共通なわけで、その性質は同じだ。発信装置は各国の独自開発だろうから訓練さえすれば見分けることも可能なのだろうが……かなり難しいのだろう。大和魂にも限界はある。そういうものだ。
あ、小人たちは私と一緒に目覚めたのだからそもそも電波の種類なんて判別のしようがないか……。後で私の電波兵器を使って訓練できないかやってみよう。
……そんな事より94式に逆探なんて積んでなかったような気が……。ということは無線電話と同様に大日本帝国による追加装備?
大日本帝国ホント物持ちいいっすね……。
ともかく、だ。所属が分からずとも、相手は何らかの電波装置を備える文明の塊。ここがどこかも分からない今、接触すれば得られる情報はとんでもなく大きいだろう。
先ほどは見つからないように近づけないかなどと無理なことを言ってしまったが……ここは迷わずに接触するべきである。
もう既に見つかっているの『かも』しれないのだ。そして、ここを逃せばチャンスはないかもしれない。
「……小人さん」
周囲の小人に話しかける。
『はい?』
「私は、ここで偵察機を向かわせ、接触すべきと考えます……何か異論はありますか?」
状況を鑑みれば、接触以外に選択肢はない。不安要素はただ一つ。自分の立場がはっきりしていないことだ。ドックタグの通りに自分が大日本帝国海軍の所属だとしても、この世界での大日本帝国の立ち位置は分からないのである。
もちろんそれは小人にとっても同じであるが……セカンドオピニオンとして、一応聞いておきたかった。
『異論はありません。お任せします』
お任せします。人に言わせればそれは投げやりな表現にもなるのかも知れない。しかし、指揮権は私、自分が持っている。任せるという表現になるのも仕方がないだろう。
結局のところ、責任は自分にのしかかるのだ。
「……分かりました。では古鷹1は国籍が確認できるまで接近してください。船種も確認してくださいね。どうぞ」
《古鷹1、了解です! おわり》
★ ★ ★
時間はヒトの主観で流れる。駆け込み乗車の一分は新幹線を思わせる速さで流れ、遅延でいつまで経っても現れない電車をまつ一分はカタツムリをいつまでも眺めている気分になる。
今回はそのどちらにも当てはまらない。私は偵察機の次の報告を今か今かと待ちわびている。
そして……無線が開いた。
《こちら古鷹1……問題が起きました。送れ》
落ち着いた声だった。何かを抑えるような声。
「……何があったんですか? どうぞ」
そう言いつつこちらも唾を飲み込む、目の前には能天気な一面の海が広がっているが……無線の先には、緊張感が漂っていた。
《……向こうから航空機の発艦を確認。こちらへ向かってきます。数は1です。送れ》
……どういうことだろうか。航空機の発艦を確認? 慌てて記憶の中から航空機を運用する民間船を探したが、記憶の限りじゃそんなものは……あー、そういえばアニメ映画で見たな。戦闘機積んでる客船。退役軍人が操縦してたんだっけ? 劇中では思いっきり当て馬だったけど。
……え、戦闘機?
「機種は分かりますか?」
いったい何が来るというのだ。無線の先で繰り広げられる未知の世界と、アニメ映画で見た水上機に乗る空賊たちの航空機のイメージが急速に接近する。関係ないのは分かってるけど。
《水上機だと思われますが……あんなの見たことありません。知らない機種です》
「国際標識は?」
軍用機だけでなく、全ての航空機は所属国を示すことが義務付けられている。民間の飛行機にも国が判別できるように文字が刻まれているはずだ。こちらの偵察機にも、間違えることなく日本の国際標識である赤い丸が描かれていた。
《……ここからだとよく見えません。回り込みます》
嫌な予感がしてきた。確かに自分は物事に疑ってかかるタイプかもしれない。しかし今回の嫌な予感は特に強いのだ……誰だよ、吉報だなんて言った奴。
《識別記号らしきものはないですね……ん! 相手も回り込んできました!》
『これ……厄介なことになってきましたね』
と横から小人が口を挟む。気づくと先ほどまで釣り糸を垂らしていた小人も皆こちらに集まってきていた。
その通りだ、厄介なことになって来た。
「……こちらに、敵対の意思がないことを伝えてください。それと、いったん距離を取ってください」
近づかれたのが気に食わないだけなら、離れさえすれば追ってこないはず。
《古鷹1、了解です》
……いやはや困った。出会った相手は海賊だとでもいうのか?
《モースルを送りましたが、呼びかけに応じる気配はありません。送れ》
「英語に切り替えてください……可能なら他の言語でも」
《古鷹さん……これは勘ですが……向こうはこちらに敵意を持っているかと》
そんなことを言われたって困る。
私のタグには確かに『IJN』と書いてあるのだ。日本とのつながりがゼロとは思えないし、この娘はまず間違いなく何らかの組織に所属していたはずなのだ。装備品の良さがそれを物語っている。相手が敵意を持っていたとして、自分にどうしろというのだ。
無線は直接は言わなかった。しかし、古鷹1の言わんとしていることは明白だ。
《古鷹さん……!》
やられなきゃ、やられると言わんばかりの無線。あぁ、そういえば二次大戦中にタイムスリップする話とかあったよね……指揮系統も消え、孤立した護衛艦。あれを読んでるときは「早う撃て」と思っていたが……。
「……分かりました。正当防衛が成立する場合に限り、武器の使用を許可します」
《了解》
正当防衛。それ即ち、相手に攻撃を受けるということ。
攻撃を受ける……攻撃を受けるだと?
領海という概念の登場と時を同じくして、公海という概念も生まれた。公海とは、文字通り公の海、人類みんなの海である。そこでは航海の自由が認められ、どんな艦種であっても航行の制限は受けない。
……まぁもちろん、領海へと続く接続海域に仮想敵国の軍艦が入って来たら大騒ぎになるし、何事も『程度』というものを弁えなければいけないが。
それは航空機だって同じはず。現に偵察機は警告を受けたわけではないし、いきなり撃たれるなんて野蛮なことがあってはならない。
……しかし、だ。無線は、無線の先の世界は自分にその考えを捨てろと言っている。
自分だって正当防衛の危険性は承知している。航空戦は一撃で勝負がつく。いくら正当防衛でも、撃墜されたらおしまいだ。
相手にいくら非があろうと、失ってしまえば古鷹1は帰ってこない。
だが、こちらから戦端を開くわけにはいかなかった。こちらが野蛮になりたいなら話は別だが、自分はあくまで平和的に祖国に帰りたいだけだ。
「(お願い……何も起こらないで……!)」
この世界での初めての外部との接触が、最悪の形で始まろうとしている。
戦闘機積んでる客船は、あれですね。『紅の豚』ですね。
ジブリ作品のああゆうメカ描写好き。実際には……流石にないですよね? あるとしたらパsイタリアすげえな……。
もし実在するなら、教えてくださると助かります。
<追伸>
感想の方で親切な方が教えてくださいました。
第二次世界大戦時の英国で航空機運用艦の不足を補うために「CAMシップ」という輸送船にカタパルトを取り付けた船があったようです。
パイロット以外は全員民間で運用されており、当然着艦は出来ないので独空軍機を迎撃した後に周囲の基地へ向かうかパラシュートで脱出したらしいですね……脱出パイロットの回収が間に合わず死亡してしまうケースもあったようです。
米国による護衛空母量産によりその後の英国通商網はだいぶマシになるのですが……いやはや、海上護衛戦はいつも悲惨ですね……。