私、重巡洋艦なんです! 作:探照灯要員
もっと軽いノリで書いていければいいのですが……自分には無理そうです。軽い調子の作品は他作者様方にお任せすることにします。
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一発の弾丸。それはそのままの意味だ。ライフリングの有無に関わらず火薬の力で押し出され、そして銃身から飛び出す。ただそれだけだ。
そこには何の意思も、意味もない。物理法則に従って飛ぶだけの、至極簡単に説明できる現象。
しかし、一発の弾丸は違う。同じ言葉かもしれないが、違うのだ。
歴史を紐解けば、多くの国家が起り、そして滅んだ。全世界を手中に収めた国家など未だなく、常に国は敵を持ち続けた。必然的な衝突、時には意図的に起きる衝突。
第一次世界大戦の引き金はセルビア青年の放った一発の弾丸であったかと聞かれれば、答えはNOだ。
……しかし、象徴ではある。
だからこれから起こることも象徴となる出来事なのだ。相手がこちらに撃って。それで正当防衛が成立。
それだけだ。
自分にとって……これから放たれる弾丸は、自分が求めてきた「この世界はどうなっているのか」という問いに答える存在であり……と同時にこの世界を受け入れろと強要させる全ての存在、それの象徴となるのだろう。
★ ★ ★
《こちら古鷹1、不明機が発砲した! これより反撃する!》
「……発砲を許可します」
《発砲許可だ! やれ!》
送り出した偵察機一番機からの無線電話にトトト……と連続音が響く。備え付けの機銃の音だろう。不明機の発砲を確認したということは、まあつまり初撃は避けられたということだ。良かった。
しかし……ついに始まってしまった。
もちろん戦闘の可能性を一切考慮していなかった訳ではない。目覚めた時に既に自分は艤装、それだけでなく拳銃などでも武装していた。南国に観光目的で来た奴が、ここまでの重装備でいいはずがない。
そしてドックタグの『IJN』と『CA-Furutaka01』。私が軍属、もしくは軍に関連する何かに関わっていたことをほのめかすものだ。
「……それにしても、無警告で撃ってくるなんて……」
正直、信じたくない話だ。偵察機は鈍足だが、小さいし小回りも……。
……あれ、さっきまで考えが及んでいなかったけれど……偵察機は手のひらサイズだ……誰に攻撃を受けているというんだ?
《古鷹1……ひとまず追い払いました……敵機、撤退してゆきます》
無線が入る。
「被害報告をお願いします」
《翼に何発か食らいましたが……飛行に支障はありゃしません、大丈夫!》
「はぁ……よかった……」
思わず息が漏れる。当然だ。危うく自分の指揮の下で、小人とはいえ部下を失うところだったのだから。
「それでは、本日の探索は現時点をもって終了します。偽装進路を取ったうえで、帰投してください……どうぞ」
《了解です、おわr……》
《古鷹さん! 今回のMVPは俺っすよね!》
と、遮られる声。割り込んできたのは操縦手だろうか? 戦闘の興奮か、弾んだ調子の無線。
《おいこら、奴さんをやったのは機銃手である俺だぜ? MVPはこっちだろうが》
敵に尻向けてたくせに、なんだと初撃避けられたのは誰のおかげと思ってるといった具合で掛け合いが続く。
「ふふっ……ちゃんと帰るまでが、偵察ですからね?」
小人たちの会話があまりに状況にそぐわなかったせいだろうか。
思わず笑ってしまった。
……無事でよかった。
★ ★ ★
しかし問題は山積みである。偽装進路を取って……つまり回り道をして帰って来た偵察機を回収すると、私は早速情報の整理に取り掛かった。
偵察機は羽を撃ち抜かれていた。しかしそれだけ、機体の骨組み自体にダメージはなかったようだ。流石は布張りの94式水上偵察機というべきだろう。布張りと聞くと驚くかもしれないが、当時の航空機はまだ木や金属で骨組みを作り、そこに布を張るという設計が一般に使われていた時代だ。布張りの飛行機は雨にこそ弱いが、雨になればどうせ航空機は飛べない。そういう点では、仮に被弾しても弾が布を貫通する関係で空中分解に至りづらい布張りは優秀だったのだ。
実際、この94式も戦争の後半までずっと活躍しているわけだし……ほら、かの有名な伝説、ソードフィッシュも布張りだ。
そういう点では、実は全金属製の96式艦上戦闘機とかは、有名な零戦なんかよりずっと革新的な装備だったのだろう、少なくとも技術屋たちの間では。
閑話休題。帰って来た一番機は激戦を思わせるいくつかの被弾痕をその翼に作っていたわけだが、その被弾痕はあまりに不思議だった。
……なんというべきか……小さすぎるのである。そう、まるで針で突いたかのように小さい。もちろん偵察機自体が小さいせいで不自然ではない。その姿はまるで精巧に出来た模型のようだった。
「あの、確認なんですけど……攻撃は航空機から受けたんですよね?」
『ええ、そうですけど……?』
ということはつまり、この被弾痕は敵航空機によるということ。
「……敵機の大きさは、同じぐらいだった、ということですよね?」
『はい、そうですよ?』
小人は首をかしげる。確かに、彼にしてみればそれは決して不思議なことではないのだろう。そりゃそうだ、彼にとってはこの掌サイズの偵察機が世界標準なのだから。
「そして、それを放った艦艇は?」
『艦種の識別は出来ませんでした……すみません』
そう……この大きさの水上機を放つ艦艇……。
「それってつまり……相手は人型って、ことですよね……」
『そうですけど?』
そんなけろりとした顔で言わないで欲しい。無線電話では音声のみのやり取りなので気づかなかったが、相手は人型だったらしい……。いや、確かに私『が』軍艦であることを告げてきたのは他でもない彼らだ。彼らにとっての軍艦とは、海を上に立つ人型のことを言うのであって、自分の知っている軍艦の姿など、見たことすらないのかも知れない。
……。
……まじか。
これで動揺しないほど人間は高性能ではない。しかし動揺するからこそ対応できるものもある。
初日で女の子になって、小人に出会ってすぐに私が軍艦だと告げられ。そして次の日は攻撃を受けてしかも相手は海の上に立つ人間!
……前言撤回、どれか一つだけでも異常なのに、こんなの対応できるわけがない。
「……」
だが……これではっきりしたことがある。
私の存在は、決して特異なものではないらしい。
根拠は簡単だ。それは、私の艦載機が迷うことなく攻撃を受けたこと。普通、手のひらサイズの飛行機は海の上を飛んでいない。そりゃ当然だ、墜落したら回収できない。そして、こんな小さな物体に出来ることなんてたかが知れているわけで、精々がさっきまでやっていたような偵察である。小人は爆撃やら制空だかもやりたがっているようだが、もちろんこんな小さな偵察機に積まれた
しかし、相手はこちらを攻撃してきた。意味のない攻撃など存在しない。94式を排除しなければ相手方に何らかの不利を及ぼすから攻撃したのだろう。見つかりたくなかった、ということだろうか?
……少々仮定の要素が入るが、相手が特殊部隊で、何らかの隠密行動をしていたのなら一応の説明はつく。
次に、電探だ。相手が94式を視認してから航空機を発進させた可能性は確かにあるが、とりあえず逆探が相手の電波を拾った時点で既に発見されていたものとする(現代のレーダーは電波の届く範囲はとんでもなく広いからだ)。
……一般にレーダーは高性能になればなるほど「ノイズ」が多くなる。当然だ、空には様々なものが浮かんでいる。ゴミだったり鳥だったり……とにかく様々なものその全てに電波は反射する。そんなものをいちいち拾っていては、何が何だか分からなくなってしまう。
それ故に、現代のレーダーはあるのノイズ程度をコンピューター処理の段階で「消去」している。こんな小さな飛行物体は当然ノイズとして消去されて然るべきな訳だ。
でも、見つかった。なぜか。
簡単だ。コンピューター処理で消去されなかったのだ。むしろ消去されるどころか、認識されたのである……もちろん、排除対象として。
それはつまり、この手のひらサイズの94式が認識されている存在であるということで、この世の中に認められている存在であるということだ。
私の装備は世界に認識されている存在。そうなると……ここでようやく私のドックタグが有力な証拠品となってくる。
IJN
CA―Furutaka01
……
これは即ち、私を認識するための記号だ。この世界には大日本帝国という組織が存在し、そのもとで軍艦古鷹は運用されている……そう考えることが出来る。
そして私の94式に攻撃を仕掛けてきたのはこの大日本帝国に反する組織、もしくは人物(艦?)であり、相手は大日本帝国と問答無用で戦闘できるような愉快な関係にある……ということだ。
たんなる海の無法者か……はたまた戦争状態か。
……いずれにせよ、これからは私が大日本帝国海軍という
……そういう点では、自分は正当防衛とはいえ無許可で発砲を許可してしまった。これがどう響くかは、この世界の地図を一度も見たことのない自分には全く予想がつかない。いやホント、盧溝橋みたいなノリで国家滅亡とかなってしまったら切腹しても死にきれない。
まあ反撃してしまったものはしてしまったものなので、これ以上深くは考えない。肝心なのはこれからどうするか、だ。
となると重要になるのが相手の動きであるが、こちらのことを探してくるだろう。恐らく。まぁ先ほどの仮定のように隠密作戦中なら追ってこないだろうが、それは甘い見立て、楽観的な予測だ。想定するなら自分に不利な状況の方がいい……悲観論者なんて言わないでくれ、自分のは慎重論だ。
では繰り返しで済まないがまた仮定する。
1:私は相手に敵対勢力であると認識されている。
2:相手は私と同等の装備(航空機や取り付け式の火器とか)を装備している。
3:ここは相手の縄張り(国なら領海もしくは排他的経済水域、無法者ならシマ)であり、相手の目標は私の排除である。
……まぁ、分かってはいたが……対話の道はまずありえないと見るべきだろう。相手が先に攻撃してきたのだ、こちらが縄張りを侵しているのは恐らく間違いない。そして無警告だったことからこちら側が話の通じない相手と思われていることも推測される。大日本帝国海軍とよほど不仲なのだろうか? 戦争状態なら目も当てられないが……。
また、同等の装備なら私が接触し、そこから過剰防衛という展開も避けたい。というか直接接触するという選択肢はなしだ。さっきも言った通り、自分が好き勝手やるのが正しいとは言えない。そしてそもそも場所も分からないのに戦闘行為を行うのはまずい。損傷した時の対処が出来ない上に、補給とかどうするつもりなんだ。
で、そうなると選択肢は一つしかないわけだ。
身を隠す……逃げよう。
とりあえず、偵察機の持ち帰った情報を精査し、移動先を決める。そして、準備を素早く整えたら……そう、次の朝にでもすぐ出発しよう。
私は徐々に意味を持ち始めたこのドックタグを胸に仕舞った。
……この娘の原隊に、いつかは復帰できると良いのだが。