私、重巡洋艦なんです!   作:探照灯要員

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ちょっとした、決意なのかもしれない。


二回目の夜警。

 

 

 

 

『古鷹さん! どこ行くんですか?』

 

 ここで見るのは二回目となる夕日を見送り、夜を迎える。太陽は変わらぬ様子で沈んでいった。私の周りの世界がどうなっていようと、太陽は能天気にまた朝を運んでくるのだろう。

 

「……すぐ戻りますから」

 

『自分たちも連れてってくださいよー』

 

 既に食事を終え、焚火の火は落とされている。昨日は安全のために夜通し火を焚いていたのだが、今夜は状況が違う。

 私は、明確な敵意を持った相手から攻撃を受けた。

 

 攻撃を受けた偵察機には一応偽装進路を取らせてあるのでまだ位置は割れていないと思う、思いたい、が……火をつけておけばそれは最早「ここを撃ってください」と言っているようなものだ。だから消した。

 

 とはいえ夜間の方が活発になる傾向にある動物への警戒を怠るわけにはいかないので、また昨日と同じように小人たちを交代で見張りにつけさせることに決定。

 ……そんな調子で夜を迎え、空には昨日と同じ満天の星空が。

 

 そんな状況下で一人歩きとは、身の程知らずにもほどがあるというものかも知れない。

 

 だが、少し一人になりたかったのだ。

 なんせ……今日はあまりに出来事が多すぎた。

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 少し時を遡る。

 

 

 あの後、偵察機を回収した私は、その偵察機よりもたらされた情報をもとに航海科小人と共に地図を睨み合っていた。広げられている地図は航海用として重宝されるメルカトル図法。ここでは緯線と経線がいずれの場所でも直角に交わっており、球体である地球を航海するうえで求めるのが難しい「この方角にまっすぐ進むとどうなるのか」を求めるのに最適な地図と言える。自分たちが地図と聞いてまず初めに思い浮かべる地図もこれだろう。

 まあ、この地図では極地へ向かうほど誤差が生じてしまうのだが……幸いにも現在の緯度は南緯9度、この地図の誤差は大して気にせずに済む。

 

 天体観測により緯度を求めることは可能だ。しかし地球は常に回転しており、天体を使って経度を求めることは不可能だ。船が航海する際は出発点と経過時間を元に経度を割り出すそうだが……出発点が分からない。

 

 なら、照らし合わせるしかないだろう。偵察機が観測した大まかな周囲の島の配置のメモをもとに、最も似ている海図を探す。方位も緯度も分かっている。似ている海図を発見することは容易だった。

 

 しかし、だ。

 

「これは……」

 

『……ここ、ですか』

 

「でも、ここですよね……?」

 

 あ、ちなみに今見ている海域は現在でいうソロモン諸島(国名)のあたり。それを聞いた瞬間はやはりポリネシアだったかと喜んだのだが……。

 

 海図に書かれているのはいくつかの島。偵察結果を書き留めたメモと位置関係は一致しており、間違いはないだろう。

 

「私たちがいる今の島がここ……そして、この真南にある島が……ガ、」

 

 

 ガダルカナル。

 

 

 多少戦史に興味があれば誰だって知っている。太平洋戦争……おっと、太平洋戦争は米国の一方的な呼称だったか。自分の住んでいた日本の政府も太平洋戦争という呼称を使っていたけれども……ともかく祖国を、世界全体のバランスを大きく変えた第二次世界大戦、その太平洋戦線における転換点(ターニングポイント)。万単位の陸軍将兵と数百の航空機、戦艦2隻を含む大量の艦艇を失った戦い。

 

 ……何故、なぜここなのだ。何か特別な意味があるのか? いや、確かに「自分の知っている」軍艦古鷹にとっては特別な場所だろう。なんせ彼女の墓標だ。

 

 

 しかしだ、この世界の大日本帝国が……そう、第二次世界大戦の時よりも遥かに進んだテクノロジーを保有しているのが明らかな大日本帝国が、なぜCA-Furutakaをこんなところに派遣しているのだろうか。その説明はつかない。

 

 無理矢理説明するとするなら……。

 

「……まさかとは思いますが……対米戦争継続中……?」

 

『わ、私に向って言われましても……』

 

 いやまあ、それはそうなんだけども。他に言う相手がいなかったのだ。

 

 ……しかし、対米戦争継続中? だが私が大日本帝国海軍に所属しているという仮定に基づくなら、そうとしか考えられない。いやまて、ガダルカナル周辺へ派遣=対米戦争とするのは日本人としての視点だ、実際にそうとは限らないじゃないか。

 

「……証言を聞きましょう、飛行科さん?」

 

 すぐに新手の小人が現れる。飛行科小人には休むよう言っていたのでで呼び出すのはちょっと悪いが、正直その「ちょっと」と、今起きていることの重大性は桁違いなのでそんなこと言っていられない。

 

『なんですかー』

 

「単刀直入に聞きます……攻撃を受けた相手は、米軍機でしたか?」

 

 もしも、先ほど偵察機一番を攻撃してきたのが米軍機であれば、この状況にも説明がつく。私、軍艦古鷹は大日本帝国海軍の尖兵としてここ、ソロモン諸島に送り込まれているのだと。

 ……それはつまり、私にとって最悪の状況を意味するのだが。

 

『いいえ、違いますよ……本当に見たことのない機体でした』

 

「そ、そうですか……よかった」

 

『?』

 

 何が良かったのか分からないといった風な様子の飛行科小人。分からないって素敵なことだと思う。

 ……自分は状況が分かるにつれて追い詰められていく気がしてならなかった。

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 適当に海岸を進み、小人の気配が感じられなくなったところで止まる。今夜も星空はきれいだった。太陽も、その太陽に照らされることで初めて輝く月も、そのいずれもいないからこそ星空は完全体となる。

 

 星は夜にしか見えない。空を彩る星々の光は常に地上へと降り注いでいるが、太陽の強すぎる光がそれを遮っているのだ。

 

 それは……自分が見ている世界に似ているかもしれない。初めは巨大な太陽、即ち、自分が私になってしまったという説明すら叶わない事象にただただ困惑した。

 

 では、自分に夜は来るだろうか。攻撃を受け、ドックタグが意味を持ち始め、そして居場所も分かった。全ての情報が主観によるものであり、自分の中で膨張してしまった太陽だ。

 

 

 自分を真に取り巻く世界、一つの主観にとらわれた世界でなく、多くの事実が交差する視点に、自分は立てるだろうか。

 

 

「無理……だよね」

 

 なんせ、今発したこの声も、ここまで歩いてきた華奢な足も、星空を捉えているはずの眼だって自分のものであると信じられないのだ。私がただの記憶喪失であるという可能性もあるというのに。

 

 自分が私……軍艦古鷹でないと思い続ける限り、主観にとらわれた世界からは逃れられない。

 

 

 では、どうすればいいだろうか。そっと自分の腕を撫でる。それが無意識であったことに気付いてから、自分がここで独りだったことを思い出す。確かに行動を共にしてくれる小人は自分と違う思考回路を持ち、行動している。しかし、しかしだ、やはりそれも軍艦古鷹の一部であり、結局のところ他者にはなりえない存在なのだ。今日一日過ごしてよく分かった。彼らが無事で嬉しいと思った気持ちも、恐らくは延長された自己愛なのだろう。

 

 なら、明確な他者は、彼女しかいない。

 

「……古鷹さん、聞こえていますか?」

 

 気づいたときには口に出ていた。

 

「自分は……もはや名前すら思い出せませんが、あなたではありませんでした」

 

 今からするのは、一種の儀式だ。もちろん私は自分であり、話しかける相手などいない、そう思うだろう。

 

 自分がこれから語り掛けるのは、自分の知っている軍艦古鷹に対して。軍艦は同じ名前の艦の名誉を受け継ぐ……と、聞いたことがある。

 それなら、私はきっと、軍艦古鷹の名を継いだ軍艦古鷹なのだろう。

 

「まだ私のことも、周囲を取り巻く状況も分かっていません……ですが、自分は……」

 

 

 もしも自分が本当に古鷹なのならば、それに恥じぬ行動が求められる。それが祖先への、最低限の敬意だ。

 

 

 

 自己満足なのは分かっているが、それが今の自分に出来る精一杯の決意表明だった。

 

 

 

 

 

 




ども、恐縮です、作者です!

これにて二日目も終了です……この作品、皆さんに楽しめて貰えているのか不安です……。

ともかく次回から三日目が始動、三日目は古鷹以外の艦娘も登場予定です。


……多くのお気に入り、アクセスありがとうございます!
あ、次回からは隔日投稿になります……流石に一日3000字以上書き続けるのはきついっす……書き溜めはありませんがプロットとやる気はあるので……頑張ります。

それでは。

<追記>

なんかすごーいアクセスが伸びてると思ったら……15/10/26の日刊ランキング23位を頂いていたようです! 皆さん、ありがとうございます!
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