第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP22

 

別の異なる世界 近未来 東京

 

 市街地に、非常事態サイレンが鳴り響く。

 

『緊急避難命令が発令されました。市民の皆さんは指示に従い、シェルターに避難してください。繰り返します…』

 

 避難を促す放送に、逃げる市民の悲鳴が重なり、それをかき消すように戦闘車両のエンジン音が鳴り響く。

 

「降車!」

「目標に向けて構え!」

 

 緊急出動した自衛隊の陸戦部隊が、手に手に重火器を持って構える。

 

「なんだあいつら!?」

「ノイズじゃない!?」

「ノイズじゃないならむしろ好都合だ!」

 

 眼の前に迫る存在に、自衛官達は思わず叫ぶ。

 それは、漆黒の体表に赤黒い光を灯す、無数の軍勢だった。

 戦車や飛行機にも見えるそれらは、キャタピラの代わりに甲殻な足が生え、あるはずのエンジンを持たず、搭乗ハッチやコクピットのような物すら見当たらない。

 そして、その奇怪な兵器のような物達は、市街地に無差別に銃撃やビーム攻撃を行い、破壊の限りを尽くしていた。

 

「目標、射程範囲に入りました!」

「攻撃開始!」

 

 号令と共に、自衛官達の銃火器が一斉に火を噴く。

 迫ってきていた目標に、高速ライフル弾やグレネード弾が炸裂し、表面が大きく削れていく。

 

「よし、効果あ…」

 

 こちらの攻撃が効く事を確認しようとした自衛官達だったが、そこで信じられない事が起きる。

目の前で目標のえぐれた部分に光が生じたかと思うと、まるで映像を逆再生するように元へと戻っていく。

 

「さ、再生した!?」

「怯むな! 弾幕を途切れさせるな! 増援が来るまで持ちこたえれば!」

「くそ! くたばりやがれ!」

「小火器じゃダメだ! もっと破壊力のある奴を!」

「どけ!」

 

 自衛官の一人が、切り札とばかりに対戦車用携行ミサイルを持ち出し、それを発射する。

 噴煙を上げて射出された小型ミサイルは目標の一つに直撃、数瞬を持って目標は光の粒子となって砕け散る。

 

「再生しない!」

「もっと火力を…」

「よし…」

 

 追加の携行ミサイルを用意しようとした所で、重火器を積んでいた車両がビーム攻撃の直撃を食らって吹き飛ぶ。

 

「な………」

「くそ!」

「撃ちまくれ! せめて増援が来るまで持ちこたえるんだ!」

「火線を集中! 倒せないわけでは…」

 

 必死に防戦を試みる自衛官だったが、それをあざ笑うように、軍勢は迫ってくる。

 

「ここまでか…」

 

 絶望を誰もが感じ始めた時、戦場にそぐわない物が聞こえ始める。

 それは、歌声だった。

 

「これは………」

「来てくれたのか!」

 

 自衛官達の顔に希望が宿り、その歌声の方へと視線を向ける。

 それは上空に飛来したヘリから、飛び降りる複数の人影だった。

 シルエットから少女と分かる彼女達は、手に何か赤いクリスタルのような物を掲げながら、口々に歌を口ずさむ。

 すると、手にしたクリスタルが突如として弾けて少女達の体を纏う鎧へと変化していった。

 

「シンフォギア装者!」

「S.O.N.G.が動いたのか!」

 

 自衛官達を守るように、三人の少女が降り立つ。

 超古代の異端技術の結晶である聖遺物の力を歌を媒介にしてエネルギーへと還元、《シンフォギア》と呼ばれる鎧として再構成させる事が出来る装者と呼ばれる適合者達が、謎の軍勢へと対峙した。

 

「何だこいつら!」

 

 銀髪を長いお下げにし、聖遺物《イチイバル》の変化した赤いシンフォギアをまとった少女、雪音 クリスがその手にアームドギアと呼ばれる具現武装、クロスボウを構えながら叫ぶ。

 

「見た事も無いってのは分かるデス!」

「そもそも、これは何?」

 

 金髪のショートヘアの少し変わった口調で話す聖遺物《イガリマ》の変化した緑のシンフォギアをまとった少女、暁 切歌が手に大鎌のアームドギアを振りかざし、黒髪をツインテールにした物静かな口調で聖遺物《シャルシャガナ》の変化したピンクのシンフォギアをまとった少女、月詠 調が丸鋸のアームドギアを頭部のプロテクターにセットしつつ、相手を観察する。

 

「構わねえ、端から倒せばいいだけだ!」

「その通りなのデス!」

「待って…」

 

 謎の敵に向かい、クリスと切歌が同時に攻撃を開始。

 クロスボウのアームドギアから放たれた赤い光矢が次々と突き刺さり、振るわれた大鎌が次々と相手を切り裂いていく。

 だが、大きく損傷したはずの箇所が無数の六角形のブロックに区切られたかと思うと、新たに生じたブロックが瞬く間に傷口を覆い、即座に再生してしまった。

 

「なっ!?」

「直っていくデス!?」

「でもさっき、物理攻撃で破壊出来たのは見えた。何か条件があるはず」

「じゃあ、まずは火力だ!」《BILLION MAIDEN!》

 

 調が牽制に丸鋸のアームドギアを次々と射出する中、クリスのアームドギアがクロスボウから二門×二丁のガトリングへと変化。

 計四問からなる銃撃を掃射していく。

 強烈な弾幕が謎の軍勢へと次々炸裂し、数体が光の粒子となって砕け散るが、斉射が終わると再度再生していく。

 

「火力じゃないのか!?」

「じゃあ分解してやるのデス!」《双斬・死nデRぇラ!》

 

 切歌が手にした大鎌のアームドギアを二本に分裂、組み合わせてはさみのような形状とし、相手へと斬りかかる。

 恐ろしい切味で文字通り両断される相手だったが、まるで何もなかったかの様に再生が始まる。

 

「これでもだめデスか!?」

「!」

 

 切歌が思わず叫んだ時、調の目に何かが見え、その何かに向かってアームドギアを射出する。

 すると、再生が始まっていたはずの相手が一瞬で砕け散る。

 

「調、何したデス!?」

「切ちゃん、もう一回今度は左右に切ってみて」

「分かったデス!」

 

 切歌が巨大なはさみと化したアームドギアを90度回し、迫ってきていた相手を左右に両断。

 すると相手は今度は砕け散る。

 

「おい、どうなってんだこれは!」

「わ、分からないのデス!」

「今度は上下!」

 

 射撃を続けながらも、相手の消滅の条件が分からないクリスが思わず叫び、切歌も首を傾げるが、調の言葉に従い今度は上下に二分する。

 戦車を思わせる相手が上下に分かれ、上部分が消失するが下部分がそれとは逆に再生していく、そこで三人共にある物を発見する。

 

「そこ!」

 

 再生の光に包まれる前に、相手の内部にあった赤い球状の部分に調のアームドギアが突き刺さり、今度こそ相手は木っ端微塵に砕け散る。

 

「そういう事か! こいつら、どこかにあるあの赤い玉を破壊しないと倒せないのか!」

「しかもノイズに比べると結構硬い」

「表面壊して、中にあるコアっぽい物を見つけて壊さないとだめデス!」

「面倒くせえ! ガワはアタシが壊す! お前らは玉を…」

 

 クリスがアームドギアを構えて前へと出ようとした時、一際大きな地鳴りが響く。

 

「な…」

「大きいの来た!」

「何なんデスかコレ!?」

 

 外見こそ他の物に似ているが、一軒家を軽く上回る巨体が姿を表し、三人は絶句する。

 

「下がってろ! お前らじゃこいつの相手は無理だ!」

「けど…」

「いや、間に合ったみたいデス!」

 

 クリスが調と切歌を下がらせようとする中、切歌が上空に飛来したヘリと、そこから飛び出す人影に気付く。

 その人影の口から、聖遺物を称える聖詠が紡がれ、その体を白のシンフォギアが纏っていく。

 そして、歌声と共に突き出された拳が、大型の装甲を一撃で貫いた。

 

「みんな、遅れてゴメン!」

 

 相手を破砕しながら降り立った茶色のショートカットの快活そうな少女、聖遺物《ガングニール》のシンフォギアを纏う立花 響が、そういって笑みを浮かべる。

 

「響、後ろだ!」

「え?」

 

 クリスの予想外の言葉に、思わず響は振り返り、そこで自分が砕いたはずの相手が再生していくのを見て驚愕、直後に放たれたビームが直撃する。

 

「響!」

「だ、大丈夫!」

 

 かろうじてシンフォギアの防御機能が持った響が、白煙を漂わせながら飛び退って距離を取る。

 

「どうなってんの!? 今私確かに…」

「この連中、どこかに赤くて丸いコアっぽい物がある」

「それを破壊しないとダメなんデス!」

「そうなの!?」

「そうだよ!」

「で、それってどこ?」

「今貴方がぶち抜いた所以外」

 

 手短に情報を交換(?)した四人のシンフォギア装者が、それぞれ大型へと向けて構える。

 

《α式 百輪廻!》

 

 先制とばかりに調が多数の丸鋸のアームドギアを大型へと射出、だが放たれたアームドギアは大型へと突き刺さっただけで砕け散る。

 

「硬い………」

「下がってろ! アタシと響でガワは砕く!」

「二人はコアっぽい物探して!」

 

 叫びながら、クリスと響は同時に前へと出る。

 

(LiNKER無しのあいつらじゃ、小型の奴はともかく、あの大型の装甲には通じねえ!)

(翼さんとマリアさんがいない分、私達で!)

 

 互いに思う所が有りつつ、二人の口からは歌が奏でられる。

 街と人々を守るための、歌が。

 

 

 

同時刻 東京近海 海中

 

 ある一隻の潜水艦内、そのブリッジで数人のオペレーターが刻一刻と変わる戦況を解析、報告していく。

 

「響ちゃん到着しました! 三人と合流し交戦に入りました!」

「市民の避難はほぼ完了!」

「自衛隊の増援部隊が向かっています! 物理攻撃は一応効果がある模様!」

 

 オペレーターから矢継ぎ早に入る報告を、筋肉質で精悍な中年男性が静かに聞いていた。

 

「一体、何なんだこいつらは」

 

 その中年男性、国連直轄の超常災害対策機動タスクフォース『S.O.N.G.』(正式名称Squad of Nexus Guardians)司令、風鳴 弦十郎が画面に映し出される謎の軍勢に、鋭い視線を送る。

 S.O.N.G.所属のシンフォギア装者達が激戦を繰り広げているが、それが何なのかをその場にいる誰もが疑問に思っていた。

 

「ノイズでもアルカノイズでもない、けど………」

「どこかで作り上げた新兵器の類? けどこんな物は…」

「翼とマリアがいないというのに………」

「大丈夫だ。二人がいないのは戦力的に厳しいが、彼女達ならば…」

「緒川さんから緊急入電! あちらに所属不明の敵が出現、現在翼さんとマリアさんが交戦中! 外見的特徴から、こちらに現れたのと同タイプだと推定!」

「何だと!?」

 

 予想外の報告に、弦十郎は思わず狼狽した声を上げた………

 

 

同時刻 イギリス ミレニアム・スタジアム

 

「観客の避難は完了してます! 現在市街地にも避難が拡大!」

「つまり、遠慮する必要は無いな」

「そういう事」

 

 聖遺物《天羽々斬》の変じた蒼のシンフォギアを纏い、手に刀のアームドギアを構えたスレンダーな体型の装者、風鳴 翼が呟くのを、隣にいる聖遺物《アガートラーム》の変じた白銀のシンフォギアを纏い、短剣のアームドギアを構えたグラマーな装者、マリア・カデンツァヴナ・イブが不敵に笑う。

 二人の周囲には、既に破壊され、光となって消失している敵だった物が転がっていたが、その二人の前に東京に現れたのと同じ、大型の姿が有った。

 

「現在、東京の方にも同タイプと思われる敵が出現! 向こうでも交戦中の模様です!」

 

 翼のマネージャー、そしてS.O.N.G.のエージェントでもある緒川 慎次が叫ぶのを聞きながら、二人は互いに目配せする。

 

「向こうは任せて大丈夫だろうか」

「任せるしかないわね。けど………」

「こっちとあっち、両方に現われたという事は」

「狙いは間違いなく、シンフォギア装者」

「どこから来たかは知らないが、こちらが目的と言うのなら、今一度剣として立ち向かうのみ」

「その通りね」

 

 二人が不敵な笑みを浮かべた所で、大型からビームが放たれ、同時に二人は左右へと飛んで避ける。

 

《蒼ノ一閃!》

《EMPRESS†REBELLION!》

 

 翼のアームドギアが巨大化しつつ放たれた青いエネルギー刃と、マリアのアームドギアが長大な蛇腹剣となって大型へと襲いかかった。

 

 

 

「敵、大多数が消滅! ただし大型が複数残存!」

「響ちゃん達、苦戦してます! 増援の自衛隊各隊も苦戦中!」

「再生とは厄介だな………」

 

 矢継ぎ早の報告に、弦十郎は表情を険しくする。

 

「コアらしき物を破壊しないと、即座に再生するようです。なんとかその場所を特定出来れば…」

 

 弦十郎の側の席に座る小柄な少女、技術顧問を務めるエルフナインが相手のデータを解析しながら、なんとかコアの場所を特定しようとする。

 

「探査ドローンを飛ばせるか?」

「やってみます」

「自衛隊の損耗率が上昇してます! 戦線維持が限度です!」

「在日米軍が日米安保による出撃要請している模様!」

「この際、使える物は使おう。日本政府に要請を受けるように連絡を…」

 

 弦十郎が指示を出そうとした中、突然画面にノイズが走ったかと思うと、戦闘の様子を映していた画面全てがノイズだらけになる。

 

「何事だ!」

「これは、ECMです! しかもかなり強力な!」

「通信全途絶! 交戦状況確認不可能!」

「ECCMは!」

「かけていますが、こんなレベルの物は前代未聞です! おそらく、戦場周辺では軒並み電子機器に異常が出ているはずです!」

「どういう事だ………」

 

 てっきり何者かの作り出した新型兵器の実験の類を疑っていた弦十郎だったが、現状確認すら難しいレベルの強烈なECMに、その線を否定せざるを得なくなる。

 

「戦場近海まで急行! なんとしても回線を復帰させるんだ!」

「了解!」

 

 

 

「あれ、もしもし? もしもし?」

「どうした!」

「通信が、切れてる」

「こっちもデス!」

 

 突然本部との通信が途切れた事に、まず響が気づき、他の者達もすぐにそれを知る事となる。

 

「ちっ、電波妨害って奴か!」

「何がどうなってるんデス!」

「分からない。けど…」

 

 クリスと切歌が思わず悪態をつくが、調は向こう側、防衛戦を構築していた自衛隊の動きが鈍くなってきている事にも気付いていた。

 

「この辺一帯の電子機器が使用不能になってると思う」

「あっち! ヘリが落ちそう!」

「ちょ、響!」

 

 不安定な姿勢で落下しそうになっている戦闘ヘリを見つけた響が即座にそちらへと向かって飛び出し、クリスが慌ててガードに入る。

 

「人助けも状況考えろ!」

「いつもの事」

「なのデス!」

 

 調と切歌もガードに入ろうとするが、大型の戦車の砲塔を思わせる部分が旋回し、こちらへと向けて発砲してくる。

 

「避けろ!」

 

 クリスの号令と共に三人が散開、先程まで三人が居た場所に直撃した砲弾が強烈な爆炎と爆風を周囲に撒き散らす。

 

「なんて火力だ!」

「硬いし、攻撃力も高い」

「ノイズの方がマシデス!」

「仕方ねえ、少しだけ時間稼げ! イグナイトモジュール、抜剣!」

『ダインスレイフ』

 

 言うやいなや、クリスは胸元の聖遺物のクリスタルを手に取り、叫びながら取り外す。

 同時に電子音声を発しながらクリスタルが剣を思わせる形状に変化し、クリスの胸へと突き刺さる。

 

「く、ああ………」

 

 クリスのシンフォギア周囲に黒い闇のような物が漂い、クリス自身も苦悶の声を上げる。

 

「ああああぁぁ!!」

 

 そして、一際大きな絶叫と共に闇が収束、クリスのシンフォギアが漆黒の紋様を覆う。

 魔剣ダインスレイフの力を持って、シンフォギアを半暴走状態にする切り札、イグナイトモードを発動させたクリスが、大型へと向き直り、聖詠を歌い始める。

 

「切ちゃん、足を止めよう!」

「分かってるデス、調!」

《Δ式 艶殺アクセル!》

《災輪・TぃN渦ぁBェル!》

 

 調と切歌が同時に高速で回転を始め、調は刃と変じたスカートで、切歌は振り回したアームドギアでそれぞれ大型の脚部を一本ずつ切断に成功する。

 

「今!」「今デス!」

《ARTHEMIS SPIRAL!》

 

 その隙を逃さず、クリスはアームドギアを巨大なロングボウへと変化、そこから巨大な矢を放ち、矢はミサイルが如く噴煙を上げて大型へと突き刺さり、盛大に爆砕する。

 

「どうだ!」

 

 クリスのとっておきを叩き込まれた大型は、装甲ごとコアを破壊され、光の粒子となって砕け散っていく。

 

「やった」

「どんなもんデス!」

 

 調と切歌も思わず喝采を上げた時、頭上を影が覆う。

 

「な………んだと?」

 

 

「コントロール不能! 墜落する!」

「うわああぁ!」

 

 突然の強烈なECMを食らい、バランスを崩した戦闘ヘリがなんとか体勢を建て直そうとするが、それよりも早くマンションの屋上へと落ちていく。

 

「くそ、ダメか!」

「どっせ~い!」

 

 パイロットが思わず目をつぶった瞬間、気合と共に屋上へと追突寸前だった機体が止まる。

 

「?」

 

 恐る恐る目を開けたパイロットは、そこで両手で機体を支えている少女と目が合った。

 

「よい、っしょ!」

 

 墜落寸前だった戦闘ヘリをなんとか受け止めた響は、再度気合と共に戦闘ヘリを屋上へ置き直した。

 

「シンフォギア装者か! 助かった!」

「これ位、シャトル受け止めた時より軽いです!」

「あの噂本当だったのか………」

 

 パイロットとガンナーに向かってガッツポーズをする響だったが、そこで頭上が突然陰る。

 

「な、なんだアレ………」

 

 ガンナーが思わず呆然とした声を上げ、響はガンナーが見ていた方向へと振り向く。

 そして、そこにある物を見てしまう。

 

「うそ………」

 

 それは、ビルすら覆い隠せるほどの巨体を持った飛行物体だった。

 漆黒の体表と赤い光から襲ってきた軍勢と同質の物と思えるが、その途方もない巨体は文字通りUFOを思わせる形をしており、凄まじいまでの威圧感を周囲へと撒き散らしていた。

 響も思わずたじろぐが、それも僅かな間で即座に表情を引き締める。

 

「ここは私達に任せて退避してください!」

「あれと戦う気なのか!?」

「はい!」

 

 ためらいなく答えて向かっていく響を、パイロットとガンナーは呆然と見ていた。

 

「くそ、女の子ばかりに任せてられるか! 各部チェック急げ!」

「なんとか本部に連絡! 増援を!」

 

 自分達に出来る事をすべく、残された二人は行動を開始した。

 

 

 

「デカすぎる!」

「UFO?」

「なんか前に見た映画でこんなシーンあったデス………」

「それって、アレか?」

「どれ?」

「確か、下がゆっくり開いて…」

 

 あまりに予想外の相手に、三人の装者は呆然としていたが、そこで切歌が映画の1シーンを思い出し、それと同じ光景が目の前で起きていく。

 

「調、逃げるデス!」

「もちろん!」

「パクリか!?」

 

 三人が血相を変えて一斉に退避した直後、今までの敵とは比べ物にならない、強烈なビームが真下へと発射される。

 ビームは地面へと直撃し、凄まじい爆風が周辺を吹き荒れる。

 

「うわぁ!」「きゃあぁ!」「でえぇ!」

 

 シンフォギアの力を持ってしても耐えきれず、三人は吹き飛ばされながらもなんとか体勢を立て直す。

 

「冗談きつすぎるだろ………」

「なんてパワー………」

「映画そのままデス………」

 

 直撃を喰らえば、確実に命に関わるレベルの火力に、三人は愕然とする。

 

「あいつにもコアみたいなのがあるのか?」

「多分………」

「あんなデカくて空飛んでる奴の、どこをどどうやって探せば…」

 

 言葉の途中で、今度は無数の拡散ビームが一斉に地面へと照射される。

 

「避けろ!」

「もちろん」

「無茶苦茶デス!」

 

 三人は回避やアームによる迎撃で、必死になってビーム攻撃を防ぐ。

 

(どうする!? イグナイトモードでも、あのサイズ相手はきつい! 大技出してる隙も無さそうだ。このままじゃ!)

 

 クリスはあまりに巨大過ぎる相手に、攻めあぐねながらも必死になって考える。

 そこへ、どこかから放たれた衝撃波が超大型へと直撃、わずかにその巨体が揺らぐ。

 

「響か!」

「ゴメン、今度こそお待たせ!」

 

 再度の遅延を謝りつつ、イグナイトモードを発動させた響が、アームドギアの生成のエネルギーをそのまま拳から打ち出して攻撃を試みるが、あまりのサイズ差と装甲の厚さに有効な一撃とはならない。

 

「やっぱり直接じゃないと…」

「あんなデカくて飛んでる相手をどうやって殴るんだよ!」

「モードを上げれば!」

「危険、いくら攻撃力を上げても、コアを破壊しないとダメみたい」

「けど、どうやってあの中のを探せばいいんデスか!?」

 

 合流した四人がなんとか突破口を見つけようとするが、決め手が見つからずにいた。

 

「いっそ、まとめて吹っ飛ばせば!」

「それはそうなんデスが…」

「エクスドライブでもないと無理」

「………有る! まとめて吹っ飛ばす方法!」

 

 クリスが物騒な事を言ったのを切歌と調が否定しようとした時、響が突然肯定する。

 

「そうか、S2CA!」

「それしかない!」

 

 シンフォギアの切り札である装者の負荷を超えるパワーを引き出す《絶唱》、それを響がコントロールして負荷を軽減させる《Superb Song Combination Arts》、通称S2CAの使用を響が断言する。

 

「問題が一つ」

「S2CA発動までの隙が無いデス!」

 

 断続的に続く超大型からのビーム攻撃に、調と切歌が回避しつつ叫ぶ。

 S2CAには響の他者と繋ぐ力を仲介とする必要があり、文字通り手を繋ぎ合ってリンクさせる事が条件だった。

 

「アタシが時間を稼ぐ! その間に三人でやれ!」

「アレ相手に一人なんて…!」

「けど、どうすれば…」

 

 クリスが一人で立ち向かおうとするのを調と切歌が止めようとした時、超大型に何処かから飛んできたミサイルが直撃する。

 

「撃ちまくれ!」

「外しようが無い!」

 

 通信を含んだ電子機器が不調の中、マニュアルで体勢を立て直した自衛隊が、各自の判断で超大型に攻撃を加えていた。

 

「あれ、さっきのヘリの人達…」

「今だ!」

「イグナイトモジュール」「抜剣!」

 

 自衛隊の決死の援護を無駄にしないためにも、調と切歌は同時にイグナイトモードを発動、全身を苛む苦悶を何とか押さえ込み、手を伸ばす。

 

「クリスちゃん!」

「おうよ!」

「切ちゃん!」

「調!」

 

 響を中心に、四人が手を繋ぎ合う。

 

「じゃあ、行くよ!」

 

 響の合図と同時に、四人の口から物悲しい歌が紡がれ始める。

 全てに滅びをもたらす滅亡の歌、絶唱の合唱が戦場に響いていく。

 歌う装者自身も滅ぼす事すらある絶唱の負荷を、響が己の能力を持って相殺、そして絶唱その物を束ねて威力を増していく。

 

《S2CA・スクエアバースト!》

 

 四人分の絶唱が収束し、超大型へと向かって放たれる。

 そのすさまじい破壊の歌は、超大型の装甲を次々と砕いていき、やがてその中に見えたコアごと、その全てを粉砕していった。

 

「はあっ、はあっ………」

「無事かお前ら………」

「何とか………」

「やったデス………」

 

 超大型を文字通り跡形もなく消し飛ばした装者達は、疲労のあまりその場に座り込み、調と切歌はシンフォギアすら解けていた。

 

「か、考えたらこのバージョンはまだ練習してなかったね………」

「上手くいったからいいだろ………」

「そうだね………うん?」

 

 一番負荷のかかった響が息を荒げながら、何気に視線を上に向けた時だった。

 

「あれ、何だろ?」

「は?」

 

 釣られてクリスも上を見ると、そこに奇妙な物体が有った。

 それは、円形レーダーを持った軍用電子偵察機によく似ていたが、その全身が振動しているかのようにぶれ、輪郭が判然としない。さらにその表面に縞模様のような物が明滅しており、不気味な事この上なかった。

 

「あいつらの仲間か!?」《RED HOT BLAZE!》

 

 クリスがアームドギアを大型のスナイパーライフルに変化、謎の飛行物体を狙撃する。

 放たれた銃弾は正確に飛行物体を貫通、するとその飛行物体は爆発して粉々に砕け散った。

 

「どんなもんだ」

「………今の有人機?」

「知らないデス」

 

 ガッツポーズを取るクリスだったが、調と切歌の呟きにそのまま凍りつく。

 

「でも、あんな飛行機見た事無いような?」

「何か、気色悪い奴だったし」

「やっぱ、あいつらの仲間?」

「分からないデス………」

 

 四人が首をかしげる中、突然通信が復活する。

 

『通信回復を確認! 全員無事!?』

「あ、皆大丈夫です。敵は殲滅しました」

「それと妙な奴もいた。つうか全部妙だったが………」

『今迎えが行きますから、その場で待機しててください』

 

 通信に答えながら、響は破壊痕以外残っていない市街地を見る。

 

「また、戦いが始まるのかな………」

 

 

 

「装者全員の無事を確認!」

「敵らしき反応無し!」

「イギリスでも敵の撃破に成功した模様!」

「取り敢えずは一段落か………」

 

 弦十郎が大きく息を吐くが、そこで再度表情が引き締まる。

 

「敵の解析は?」

「途中から観測不能になってデータ不足ですが、それまでに観測したデータを解析中」

「やはり、ノイズやアルカノイズとは全く違う存在ですね」

「物理攻撃が効くとなると、やはりどこかの新型兵器でしょうか………」

「多分、違うと思います………」

 

 解析を進める中、エルフナインがぽつりと呟く。

 

「根拠は?」

「あ、はい。あの謎の敵が出現した時の様子です」

 

 エルフナインが突如襲撃してきた敵の出現の様子を映し出す。

 そこには、突然出現した霧の竜巻から次々と現れる敵の姿が有った。

 

「この霧の竜巻のような物は、恐らく次元を湾曲した次元ホールの類です。ノイズやアルカノイズの出現の際にも似たような反応が見られる物なのですが…」

 

 そこでエルフナインはあるグラフを表示させる。

 

「こちらはノイズ、こっちはアルカノイズ出現の時の次元湾曲数値。そしてこれが先程のです。見ての通り、数値があまりに桁違い過ぎるんです」

「つまり、どういう事だ?」

「………これだけの次元湾曲、惑星内からの転移にしては大き過ぎるんです。これだけの次元湾曲を起こしたら、地球から飛び出してしまいます」

「じゃあ、別の星からエイリアンでも攻めてきたとか?」

「もしくは………」

「もしくは?」

「まったく違う世界から来た、か」

 

 エルフナインの仮説に、オペレーター達は思わず顔を見合わせる。

 

「パラレルワールドって奴?」

「エルフナインちゃん、幾らなんでもそれは………」

「じゃなかったらエイリアンだな」

 

 弦十郎も思わず茶化すが、その目だけは真剣なままだった。

 

「でも、そう考えればこの数値に納得が行くんです」

「エイリアンかパラレルワールドか、判断に迷う所だな」

 

 それが、ネウロイと呼ばれる異なる世界の敵だと知るのは、しばし先の事だった………

 

 

 

また別の世界 惑星エアル ヴィントブルーム王国

 

 砂漠に周囲を囲まれた都市内に、緊迫した警報が鳴り響く。

 

『非常事態宣言、非常事態宣言。所属不明の軍勢がこちらに向かっている模様。市民は誘導に従い、避難してください。繰り返します…』

 

 警報に続き、遠くから爆発音のような物が鳴り響く。

 市民達が半ばパニックになって逃げ惑う中、なぜか一番パニックになりそうな子供達は落ち着いて空を見上げていた。

 

「ちょっと、聞こえてるだろ!? 避難するんだよ!」

 

 母親が空を見上げている子供の腕を引っ張るが、子供は平然としていた。

 

「大丈夫だよ、この国にはアリンコがいるから」

「まあ、確かに…」

「あ!」

 

 別の子供が、叫びながら空を指差す。

 そこには、空を斬り裂くように飛ぶピンクの光が有った。

 

「アリンコだ!」

「女王様のマイスター乙HiME(オトメ)!」

「がんばって!」

 

 子供達が口々に歓声を上げる中、ピンクの光はそれに応じるように、速度を上げていった。

 

『よいかアリカ、決して市街地に近づけてはならんぞ!』

「分かってるよマシロちゃん!」

 

 通信を受けながら、左耳に青いピアスをつけたお下げ髪の元気そうな少女は答える。

 乙Type Highly-advanced Materialising Equipment(乙式高次物質化能力)、通称 《乙HiME》と呼ばれる力を持ちい、その身をローブと呼ばれる高次物質化武装のピンクのスーツで包んだ少女、そしてヴィントブルーム王国を収めるマシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム女王をマスターとする《蒼天の青玉》のマイスター乙HiME、アリンコことアリカ・ユメミヤはこちらに向かってくる謎の敵へと向かっていた。

 

「いた、って何あれ?」

 

 驚異的な速度で飛ぶアリカの視界に、謎の敵の姿が入ってくる。

 それは、この星ではかつての大戦で失われた戦闘機によく似た形状をし、全体が鳴動しているのか輪郭はぶれ、更にその表面を縞模様が絶えず明滅している、不気味な軍勢だった。

 

「スレイブじゃない! でも何だろう?」

 

 それがかつて戦った事のあるいかなる存在とも違うらしい事に首を傾げるアリカだったが、謎の敵の下、炎上している砂上船を見つけて顔色を変える。

 

「なんて事を! これ以上行かせないんだから!」

 

 アリカはエレメントと呼ばれる乙HiME専用武装のダブルセイバーをかざし、謎の敵へと向かっていく。

 

「たああぁ!」

 

 気合と共にダブルセイバーを一閃、一撃で謎の敵の一体を両断、爆散させる。

 

「やっぱりスレイブじゃない! 変な手応え………」

 

 アリカは更に疑問を深めるが、構わず次の敵へと向かっていく。

 驚異的な速度のまま、アリカは手にしたダブルセイバーを振るって次々と謎の敵を撃破していくが、敵は後から後から湧いてくる。

 

「なんて数! でも!」

 

 撃破されていくのを気にも止めないのか、押し寄せてくる敵に更に攻撃を加えようとするが、そこで横手から来た攻撃が敵の一角を崩す。

 

「舞衣(まい)さん!」

「助太刀するわ!」

 

 その身にオレンジのローブをまとった、ショートカットの頼れる雰囲気の《炎綬の紅玉》の乙HiME、鴇羽(ときは)舞衣がエレンメントである両手の法輪をかざしながら、アリカの隣に並ぶ。

 

「舞衣さん、これって…」

「ミコトも見た事が無いって言ってたわ」

 

 舞衣に謎の敵の事を聞こうとするアリカに、舞衣が前もって答える。

 

「ミコトちゃんが見た事が無いって事は…」

「どこかで新開発されたか、それともこの星の物じゃないって事!」

 

 一応の推論を述べつつ、舞衣の法輪が旋回し業火を纏って放たれ、謎の敵を撃墜していく。

 

「それと気付いてる? こいつらの目標は…」

「目標は?」

「真後ろ見てみなさい!」

 

 思わず怒鳴った舞衣に、アリカは振り向いてようやく謎の敵が向かっていた先に気付く。

 

「ガルデローベ!」

「ついでに直線上攻撃してるだけよ! なんとしても防ぐわよ!」

「了~解!」

 

 二人の乙HiMEは、自分達の母校を守るべく、謎の敵へと向かっていった。

 

 

 

ヴィントブルーム王国内ビューネ自治区 ガルデローベ

 

「間違いないのか!」

『未確認存在、まっすぐこのガルデローベに向かってきます! スレイブではありません! 現在アリカさんと舞衣さんが応戦中!』

 

 この星唯一の乙HiME養成専門学校・《ガルデローベ》の学園長室で、黒の長髪の女性が電話越しに思わず叫ぶ。

 ガルデローベの学園長兼ビューネ自治区国家元首にして、乙HiMEの真祖に使える五柱の二の柱・《氷雪の銀水晶》、ナツキ・クルーガーは学園長室の窓から、遠くに見える戦闘を見つめて歯噛みする。

 

「状況は?」

『二人とも善戦していますが、数が多いです! それに飛行型と地上型、それらもかなりの種類が…』

「ええい分かった! 今度はどこが攻めてきた! 五柱の二、学園長たる我、ナツキ・クルーガー、御真祖様に願う。エマージェンシー、全ての僕に、ローブの展開を認められたし」

 

 緊急事態と判断したナツキは、ガルデローベの全生徒のローブ展開を決断、校内に非常事態宣言を発する。

 

「こちら学園長のナツキ・クルーガーだ。現在謎の軍勢がこのガルデローベに向かっている。蒼天の青玉と炎綬の紅玉が応戦中だが、状況如何によっては当自治区内に被害が出る可能性がある。コーラルクラス(予科生)はヴィントブルーム市街地にて市民の避難を援助、パールクラス(本科生)はその護衛に当たれ。トリアスは応戦中の二名に増援。私も出る!」

 

 手早く指示を出すと、ナツキは学園長室を飛び出す。

 

「シズル、聞こえてるか!」

『よう聞こえてますわナツキ』

 

 最近になって使えるようになった携帯電話を取り出し、ナツキは補佐役の五柱の三の柱・《嬌嫣の紫水晶》のシズル・ヴィオーラに連絡を取る。

 

「そっちはどうなっている!」

『どうもこうも、今出発しようとした矢先にこれや。もうかなわんな~』

「それはこの際、猫神山に戻しておけ! 出られるか!?」

『護衛の皆さんに今そう言うとった所や。奪回に来た、いう雰囲気やあらしまへんな。おや?』

「どうした!」

『急用やさかい、ちと切るわ』

 

 言うや否や、電話が切れる。

 

「ナギ移送の日に合わせてきたのは偶然か? それとも…」

 

 建物から外に出たナツキの目に、遥か上空に火の玉が複数浮かぶのが見える。

 

「何だ!? マテリアライズ!」

 

 それが何かを確かめる暇も無く、ナツキは叫ぶ。

 ローブ展開のキーワードと共に、その身を銀色のローブが覆っていく。

 一瞬で展開を終えたナツキは、手に長大な砲のエレメントを出現させ、宙へと舞い上がる。

 

「シズル、どうなっている!」

『ナツキ、頑張ってるお二人さんの頭上を超えて爆撃しようとしとった奴がおったわ。それと妙な帽子付きもついでにお掃除したさかい』

 

 乙HiMEの証であるピアス、GEMを通した通信で呼びかけたナツキに、シズルは平然とした声で答えてくる。

 

『ここはウチがおさえるさかい、ナツキは地上を頼むわ。そちらもわんさと来とるさかい』

「分かった! そちらは任せた!」

 

 そう言いながら、ナツキは戦場へと一直線に向かっていく。

 その後を追うように、ガルデローベの各所から赤のローブをまとったコーラルクラス、灰色のローブをまとったパールクラスの乙HiME候補生達が市街地へと向かっていった。

 

 

 

「むう………」

 

 修験者を思わせる格好をした、短髪のどこか野性的な少女が遠くに見える戦闘を見ながら唸る。

 

「やはり見た事が無い………どこから来た?」

 

 あぐらをかいて唸り続ける少女だったが、その真下から何かを叩く音が響く。

 

『お~い、何が起きてるんだい? 何かさっきから戦闘音が聞こえる気がするんだけど?』

 

 少女が座っていた物、異常なまでに厳重な護送車の中から、少年の声が響く。

 

「黙っててくれ。考え中」

 

 護送車内の声に適当に返しつつ、少女は首を傾げ続ける。

 

「あの~、猫神様?」

「なんだ?」

 

 唸り続ける少女、猫神様こと高次物質化能力者の最後の生き残りの水晶の姫、そして舞衣のマスターでもあるミコトは、護送車を囲んでいた兵士達に顔を向ける。

 

「我々はどうしたら………」

「とりあえず、このままでいいだろ。その内、舞衣とアリカがあいつら片付ける」

「そう言われましても…」

「む」

 

 そこでミコトは突然立ち上がり、手にした錫杖を振るう。

 何かすさまじい音と共に、錫杖に弾かれた何かが地面に当たって盛大にクレーターを穿つ。

 

「うわあああ!」

「遠くから狙える奴がいるな………あ、舞衣が落とした」

『ちょっと!? 今すごく近かったんだけど!?』

 

 謎の敵の狙撃を錫杖一本で弾いたミコトだったが、周辺の兵士達は慌て、護送車内からも誰何の声が響く。

 

「まあ、この調子なら大丈夫か」

 

 そう言うと、ミコトは護送車の上で寝っ転がる。

 

「猫神様!? まさかナギ元大公が狙われて…」

「偶然だな。ま、このクルマ目立つし」

『ちょっとミコト君!? ボクは一応これからエアリーズの刑務所に護送される身なんだけど!?』

「え~と、そうだ自業自得って奴だ。舞衣もフリョのジコが起きたりして? って言ってたぞ」

『一応元評議会のメンバーだよ!? それはそれで問題あると思わない!?』

「思わない」

 

 それだけ言うと、ミコトは護送車の上で目を閉じる。

 程なくして漏れる寝息に、兵士達は顔を見合わせた。

 

 

 

『BOLT FROM THE BLUE(蒼天の霹靂)!』

 

 アリカの巨大化したダブルセイバーから放たれたビームが迫ってきていた敵へと直撃、その点を中心に重力球が発生し、周辺をまとめて圧縮消失させる。

 

「大分減ってきた………」

「下と上も頑張ってるわ、あとひと押し!」

 

 隣に並んだ舞衣も押し寄せる敵を撃退しつつ、周辺の状況を確認する。

 

「これ、何なんでしょう? 何かスレイブとも違うし………」

「分からない、ってのが正直な所ね。残骸も残さず消えちゃうのはスレイブと一緒だけど」

 

 敵が減った事で余裕が出てきたのか、二人は謎の敵を観察しようとするが、そこに影が差す。

 

「え…」

「どうやら、大物のお出ましね」

 

 自分達の頭上に巨大な敵影、この星ではすでに失われて久しい大型爆撃機を模した敵に、アリカは仰天し、舞衣は気合を入れて構え直す。

 アリカも爆撃機型に相対しようとするが、そこで爆撃機型の底部が複数箇所開く。

 

「え?」

「は?」

 

 それが何か一瞬分からなかった二人だったが、そこから無数の何かが投下される。

 

「何、何?」

「下に落とさないで!」

 

 アリカは困惑するが、舞衣は半ば直感で法輪を射出。

 法輪が直撃したそれは、舞衣の予想を上回る爆発を起こし、しかもそれが一つにつき数度起こる。

 

「!! これ、中に爆弾が大量に詰まってる!」

「させない!」

 

 クラスター爆弾、と呼ばれる面制圧兵器の事なぞ知らない舞衣がありったけの法輪を射出して次々とクラスター爆弾を撃破し、アリカは高速で飛行しながら手当たり次第にクラスター爆弾を破壊していく。

 

「数が多過ぎ!」

「あっ!?」

 

 矢継ぎ早に投下されるクラスター爆弾に、とうとう撃破しきれなくなって下へと漏れる。

 

『どいてろ二人共! ロードクロードカートリッジ!』

 

 そこへ下からの強烈な砲撃が放たれ、撃ち漏らしたクラスター爆弾が一撃で軒並み消し飛んでいく。

 

「サンキュー、ナツキ!」

『下は大体片付いた! 後はそいつを片付ければ終わる!』

 

 自分達の下、地上で陸戦型と思われる敵と戦っていたナツキが、エレメントをかざしながら叫ぶ。

 

「だってさ」

「よおし! 一気に行くよ! マシロちゃん!」

『分かっておる! 蒼天、認証!』

「蒼天!」

 

 短期決着を付けるべく、アリカがマスターであるマシロから奥の手の認証を承認。

 アリカがまとうローブの色が蒼へと変わり、三つ編みの髪がほどけて広がる。

 乙HiMEの中でも高速を誇る蒼天の青玉の真の力が開放され、アリカの速度が更に上がって爆撃機型へと迫る。

 

「いっけえ!」

 

 ダブルセイバーを振りかざすアリカだったが、そこで爆撃機型の底部が再度開く。

 爆撃を行うよりも早く相手を撃破しようと迫るアリカだったが、爆撃機型から突然ネットのような物が放たれる。

 

「!?」

 

 とっさに軌道を変えて回避したアリカだったが、完全に回避しきれず、ネットのような物が足に触れたかと思うと、異常なまでの粘着性で動きが止まる。

 

「何これ!?」

「動かないで!」

 

 舞衣が投じた法輪が粘着ネットを焼き切り、アリカは自由を取り戻す。

 

「爆弾の次はトリモチ!? なんて陰険なの!」

「舞衣さん!」

 

 舞衣が思わず悪態をついた時、今度は爆撃機型の底部から一斉に複数の粘着ネットが放出される。

 

「舐めないでよね!」

 

 複数の粘着ネットが迫るのを見た舞衣が、ローブのバックル部分から炎をまとった巨大な法輪を具現化、その内部を突っ切るとその全身が炎に包まれ、業火を纏ったままの飛び蹴りが粘着ネットを軒並み焼き払いながら、爆撃機型を貫く。

 

「これでどう!?」

 

 纏った炎が消えていく中、舞衣が振り返るが、そこには致命傷では無かったのか、爆撃型の各所の機銃が一斉に舞衣を狙って弾幕を張ってくる。

 

「アリカちゃん! 決めて!」

「分かりました! 暁!」

 

 アリカのGEMに『ULTIMATE BLUE SKY SWORD of AKATUKI EXPANSION』と表示され、アリカが叫びながらダブルセイバーを上へと投じると、ダブルセイバーは彼女の身長の倍はある巨大な剣へと変化、それを受け取ったアリカの全身も光を帯び、その髪も金色に輝く。

 

「だあああぁぁ!!」

 

 アリカの全エネルギーを乗せた両手構えの大剣の斬撃が、こちらに向けて放たれる弾幕を弾き返しつつ爆撃機型へと迫り、そして一気に相手を両断する。

 限界に達した爆撃機型が、爆発して粉々に砕け散り、それを見た舞衣とアリカが胸を撫で下ろす。

 

「あと残ってるのはいる!?」

「今のが最後どす」

「変な連中だったな~」

 

 舞衣が周囲を見回す中、上空から降りてきた紫のローブをまとったウェーブヘアの乙HiME、シズルが残敵がいない事を確認。

 アリカが思いっきり力を抜くが、シズルの目は敵以外の物を探していた。

 

(マスターらしき者は一人もおらへんいう事は、やはりスレイブの類では無し。そんなら、アレは一体?)

『皆ご苦労だった。あとは軍に任せて撤収を。アリカ、舞衣、すまないが敵の詳細を確認したいのでガルデローベまで来てくれ』

「分かりました!」

「は~い」

 

 ナツキの指示が飛ぶ中、蒼天の力が解け、元のピンクのローブ姿になったアリカが元気よく返事し、舞衣もそれに続こうとして、ふと呟く。

 

「それにしても、本当に何だったのかしら………」

 

 

 

 ヴィントブルームから離れた砂漠で、虚空を見上げる人影が有った。

 

「ヴィントブルーム近辺にて大規模な転移反応確認。空間転移にしては反応大」

 

 砂漠のど真ん中に立つその人影は、ツバ広帽にコート姿の表情に乏しい短髪の女性だった。

 

「転移技術がこの星から消失して久しい。惑星上で行われてた転移ではない。そしてこのエネルギー量、次元転移の可能性あり」

 

 淡々と解析していく女性の肩で、黄色い小鳥が小さく鳴く。

 

「次元転移は移民歴以前でも完成していない。詳細を確認する必要があります」

 

 そう言うと女性は傍らに置いておいたバイクへとまたがり、エンジンを掛ける。

 

「空間歪曲、人為的操作の可能性大。何かが起きようとしている………」

 

 バイクを走らせながらその女性、その正体は惑星シフルに住む人々の行く末を見守る使命を持つ戦闘用アンドロイド《Merciful Intelligential Yggdrasil Unit》、通称ミユは速度を上げる。

 この星でただ一人、現状を理解しているミユは、この先何が起こるかを調べるため、ヴィントブルームへと向かっていた………

 


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