第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP23

「全艦娘、出撃確認! 陣形を組みます!」

「行くぞ、暁の水平線に勝利を刻め!」

 

 横須賀鎮守府に属する、出撃可能な全艦娘出撃という非常事態に、鎮守府は蜂の巣を突いたかのような騒ぎとなっていた。

 

「出撃していた者達と連絡は!」

『それが、通信が途絶してます! しかもこの鎮守府周辺が通信その物が不通に! 短距離通信が限度です!』

「何だと!」

 

 旗艦となった長門の問いに、大淀からの返信が飛び込んでくる。

 

『案ずるな。足柄が率いている以上、早々最悪の事態には陥ってないはずだ』

「確かに、彼女はしぶといですから」

 

 提督からの通信に長門は頷きつつ、今は鎮守府の防衛に専念する事にする。

 その時、遠くから偵察部隊の上げた信号弾に続いて、何かが光る。

 

「敵発見! こちらにまっすぐ向かってきている模様!」

「電探に辛うじて感有り! 凄い速度です!」

『航空隊を発艦! 迎撃を!』

 

 探査能力に優れた艦娘達の報告に、提督の号令が響き、直後に空母の艦娘達が矢や式を放ち、それが空中で戦闘機となって向かってくる敵を迎撃すべく、飛来していく。

 だが、接敵したかと思った直後に無数の閃光が走り、航空隊は次々撃墜されていく。

 

「ああっ!?」

「今のは、発砲炎じゃない?」

「まさか、光線兵器!」

「うろたえるな! 三式弾装填可能な艦は装填! 射程内に入ると同時に発射!」

 

 遠目にだが、明らかに見た事もない相手の兵装に艦娘達が狼狽するが、即座に長門の号令が飛ぶ。

 戦艦や重巡が前へと出て艦砲を向けるが、相手は恐ろしいほど高速で迫ってくる。

 

「ダメじゃ! 早すぎて狙いが定まらん!」

「このままじゃ、有効距離を割り込まれる!」

 

 二つに分けた髪をリボンで結んだ利根型重巡洋艦一番艦『利根』が相手のあまりの高速に必死になって狙いを調整し、短髪に髪飾りを付けた妙高型重巡洋艦四番艦『羽黒』が時限信管の設定に戸惑う。

 

『時間は最低に、狙いは後回しだ。撃て!』

「撃て!」

 

 提督の指示に続けて長門の号令と共に、無数の砲火が一斉に放たれ、飛来した三式弾が向かってくる相手に一斉に炸裂する。

 

「当たった!」

「でも、一部だけ!」

「次弾装填急げ…」

『間に合わん! 総員対空戦闘!』

 

 相手の一部が回避し損ね、直撃を食らって墜落していくが、それでも多数の敵が向かってくるのに長門は再度砲撃を準備しようとするが、提督が相手の驚異的な速度に即座にそれを断念して対空に専念させる。

 

「護衛機を全て発艦! 陣形を維持、対空砲、対空機銃で弾幕を張れ! 相対速度が違い過ぎる、狙いはつけようと思うな!」

「総員、一斉射撃!」

 

 提督の指示に従い、長門の号令の元に一斉に艦娘達が弾幕を張る。

 

「撃て! 撃ちまくれ!」

「護衛機は上空を死守させて!」

 

 無数の砲火が飛び交う中、長門だけでなく陸奥の号令も飛び交う。

 

「来る…」

 

 誰かの声と共に、向こうの反撃が来る。

 閃光や高速の砲撃が、艦娘達へと襲いかかる。

 

「うわぁ!」

「きゃぁ!」

「装甲の薄い者は下がらせろ! 戦艦、重巡は前へ!」

「ダメ、速過ぎる!」

 

 長門が陣形を組み替えようとするが、相手は護衛機すら置き去りにする高速で安々とこちらの上空に飛来し、爆撃を行ってくる。

 

「させません!」

 

 長髪に赤い袴姿の赤城型正規空母一番艦《赤城》が爆撃で一瞬速度が落ちた瞬間を狙い、矢を放つ。

 放たれた矢は戦闘機へと変じ、爆撃してきた相手を攻撃、破壊するが他に複数の相手が爆撃を行ってくる。

 

「被害状況!」

「小破艦が複数、まだ戦闘は可能!」

「けど、これは…」

 

 誰もが気付き始めた相手との圧倒的な性能差に、焦りが生まれ始める。

 

「あれは、何だ? 深海棲艦の新型ではなさそうだが………」

「どこかの国の新兵器、にしては性能差が桁違い過ぎるわ」

 

 始終全体を鳴動させつつ奇妙な縞模様で明滅させ、電探にほとんど探知出来ず、異常な高速で飛行し、見た事もない兵器を使う。

 あまりに未知過ぎる敵に、長門と陸奥は畏怖を感じ始める。

 

『恐れるな、こちらの攻撃は効いている。着実に向こうの戦力を削る事に終始しろ』

「了解、提督…」

「敵群後方から更に高速接近してくる物体を確認! は、速過ぎる!?」

「何っ!?」

 

 提督の指示に返信した長門だったが、陸奥の電探感知に思わず声を上げる。

 

「何か来る!」

「あっちよりも早い!?」

「敵の増援!?」

 

 他の艦娘達にも動揺が走るが、その謎の高速物体が相手とすれ違ったかと思った瞬間、相手は爆発四散する。

 

「何だ!?」

「こっちに…」

 

 突然の事態に誰もが困惑する中、その物体が艦娘達の頭上を通り過ぎる。

 

「! 今の見えた!?」

「見えたよ!」

「何がだ!」

「あれ、女の子の姿してた!」

「え?」

 

 何人かがすれ違いざまに相手の姿を確認したが、予想外の正体に陸奥が思わず間抜けな声を上げる。

 

「戻ってきた!」

「味方、なのか?」

 

 誰もが目を凝らし、再度上空を通り過ぎる瞬間、それが褐色の肌に飛行機のような艤装を付けた少女だと気付く。

 

「見えたか?」

「見えたわ。飛行艤装、なんてのは聞いた事も無いわね」

「だが…」

 

 長門と陸奥も困惑する中、褐色の少女が再度敵へと攻撃を仕掛けていくのを見た長門はそれが味方だと確信する。

 

「提督!」

『こっちでは姿まではよく分からないが、少なくとも向こうと敵対しているのは確かだ。総員、その謎の少女を援護!』

「了解!」

 

 褐色の少女が縦横に飛来し、敵に攻撃を加える隙を突いて艦娘達の攻撃が敵を囲い込む。

 超高速戦闘と飽和攻撃の波状攻撃に、敵は徐々にその数を減らしていった。

 

「これで最後!」

 

 褐色の少女が手にしたグルカナイフですれ違いざまの斬撃で動きが鈍った相手に、長門がトドメの砲撃を叩き込み、爆散させる。

 

「残存敵勢力確認!」

「見当たりません!」

「今のが最後です!」

『負傷した艦は至急戻らせろ』

 

 長門の確認に、艦娘達が電探、偵察機、目視などで確認するが、何とか撃退に成功した事を確認すると、提督が一部撤退を指示する。

 

「さて、問題は………」

「彼女ね」

 

 謎の増援の褐色の少女だったが、こちらへと向かってきたかと思うと、何かを投下してくる。

 

「爆撃!?」

「じゃないみたいだけど………」

 

 一瞬攻撃かと思った長門だったが、それが爆弾の類で無さそうな事に陸奥は首を傾げる。

 パラシュートを開き、ゆっくりと降りてくる筒を陸奥が真下まで行って受け取る。

 それを確認したのか、褐色の少女は一気に加速してその場から急速離脱していく。

 

「あ、行っちゃう」

「置き土産ひとつで、こちらの礼も聞かずか。せわしない奴じゃ」

「結局、何者だったのでしょう」

 

 羽黒・利根・赤城が既に姿の見えなくなった謎の少女の飛び去った方向を見つめて思い思いの感想を言う中、陸奥と長門はその少女が置いていった物を繁々と観察していた。

 

「これって、通信筒?」

「のようだが………どう開けるんだ?」

 

 受け取った物が軍での情報伝達に使われる物に似てはいるが、見た事もない材質でしかもどう開けるかも分からない長門だったが、陸奥はあれこれいじり、ようやくボタンらしき物を押すと機械音と共にそれが開く。

 

「やっぱり、通信筒のようね」

「何が入って…」

 

 筒の中から出てきた物を見た長門だったが、そこで目を大きく見開く。

 

「これは………」

「吹雪ちゃん!?」

「え、本当?」

「見せて見せて!」

 

 中から出てきた数枚の写真に、行方不明になっている吹雪の姿が映っている事に陸奥が思わず声を上げ、それを聞いた他の艦娘達も覗き込んでくる。

 

「こちらは第六駆逐隊、そっちは第五遊撃部隊か」

「これって、大型艦か何かの甲板みたいだけど………」

「なぜに甲板の上でバーベキューしとるのじゃ」

 

 写真の一枚を受け取った利根が、その珍妙な光景に首を傾げる。

 

「こっちは金剛さんが喫茶みたいな所でお茶してます………」

「隣のテーブルでパンケーキ一緒に食べてるの北上さんと大井さんです」

「姉さまはいつも通りですね」

「こっちの二人もね」

「でもこれ、国内ではないような………」

 

 羽黒も受け取った写真を見て首を傾げるが、長髪でどこかおっとりした金剛型戦艦三番艦《榛名》が安心し、メガネを掛けた知的な雰囲気の金剛型戦艦四番艦《霧島》が周囲に映っている風景を念入りに観察する。

 

「提督、どうやらあの謎の少女は行方不明になった者達の行方を知っているようです」

『本当か?』

「はい、送られてきた写真を見る限り、全員無事のようです。バーベキューしたりお茶したりしているようですが」

『………確かに無事のようだが』

「でも、無事を知らせてくれるなら、なぜ場所を知らせてくれなかったのかしら?」

「確かに妙だ………これだけではどこかも分からん」

「こちらの写真、端の方にだが銀髪の人影がおるぞ?」

「見て下さい、この喫茶の看板、フランス語では?」

「………本当にどこにいるんだ?」

 

 長門と陸奥の疑問に、利根と霧島が気付いた事を追加して更に疑問が深まる。

 

『とりあえず後だ。全員帰還、その写真をこちらに持ってきてくれ』

「了解しました、冬后提督」

 

 

「戦闘行動終結を確認」

「JAMの介入世界、更に拡大の模様」

「戦闘への正式参加を要請」

「最早、私達は観察者ではいられない………」

 

 

「総員整列! 嶋 元・少将並びに視察団一堂に敬礼!」

 

 ラウラの号令に岸辺に一列に並んだ黒ウサギ隊が一斉に敬礼をする。

その視線の先には、青い船体の潜水艦がゆっくりと近づいてきていた。

 

「あれがイー401か」

「亜乃亜さん達から聞いてた通りですわね」

 

 艀の上に立つ千冬とどりあが、それを眺めていた。

 

「彼女達は?」

「見学に来たがる生徒達を抑えるために、校内での説明に回ってもらってます」

 

 千冬の問いに後ろに控えていた楯無が答える。

「興味を持つな、というのは無理ですわね」

 

 そんな会話の中、水しぶきを上げながら、イー401がその巨体を出来たばかりの艀へと近付けていく。

 

「艀の方もなんとか間に合ったな」

「ええ、皆さん手伝ってくれましたし」

 

 代表者達が出迎える中タラップが伸ばされ、401から続々と人が降りてくる。

 

「出迎え感謝する。視察団の団長の、人類統合軍 嶋 秋嵩 元・少将だ」

「IS学園教師の織斑 千冬です」

「東方帝都学園特別講師の瑠璃堂 どりあと申します」

 

 それぞれの代表が挨拶しつつ、握手をかわす。

 

「今回は突然の事で、未だ戸惑っていると思われますが」

「ええ、正直何がなんだか………」

「困惑しています」

「正直な事を言えば、私もだ。だが、似たような経験があるので、何とか対処は出来るかもしれん。今回はそのためにこちらに伺った」

「ご助言、ありがたく賜わいますわ」

「まずは校内の案内を。更識」

『はい』

 

 案内役を仰せつかった更識姉妹が前へと出る。

 

(おや?)

 

 嶋の後ろに続いてた加山が、二人の顔を見て僅かに眉を寄せた。

 

「IS学園生徒会長の更識 楯無です」

「IS学園一年の更識 簪です」

「成る程、姉妹か。オレは帝国華撃団の加山 雄一。よろしく」(成る程、似て非なる世界とはこういう事か)

 

 内心ある事を悟りつつ、加山はにこやかに更識姉妹と握手する。

 

「すまないが、物資を下ろす段取りも頼みたいのだが」

「分かっています。準備を」

 

 嶋の提言に、千冬が黒ウサギ隊を始めとして予め用意しておいたISやパンツァー達を格納ハッチへと向かわせていく。

 

「それと転移装置の設置場所は?」

「指示通りに用意させています」

「お手伝い出来そうな生徒達もスタンバイさせてますし」

「じゃあ私はそちらに」

「そこ、もうちょっと丁寧に!」

 

 エミリーとヒュウガが転移装置設置場所に向かう中、他の者達も続々と艦から降りてくる。

 

「それでは、私はこちらの仕事を」

「ああ、頼む」

「扶桑海軍の坂本 美緒少佐だ。今回は軍事顧問として同行している。さっそくだが、活動状況を見せてもらいたいのだが」

「分かりました。簪、そちらの少佐を案内して」

「はい姉さん。今日はカレンダーだとちょうど休日なので、皆さん部活とかの最中ですけれど」

「それはちょうどいい。武道系の活動を見たかった所だ。桜野、一緒に来い」

「はい坂本さん」

 

 視察団がそれぞれ動く中、校舎の方から生徒達が鈴生りとなってその様子を見ていた。

 

「あのおっかなそうな人が?」

「うん、団長の嶋少将。おっかなそうじゃなくておっかない」

「あっちのポニーテールの人が坂本少佐、元エースウィッチで今教官をしているそうよ」

「何か、帯刀してるしね………」

 

 亜乃亜とエミリーの説明を聞きながら、双方の生徒達がまじまじと視察団を観察していた。

 

「にしても、デカい潜水艦だな………」

「潜水艦って初めて見た~」

「蒼き鋼・旗艦、イー401だっけ」

「名前と外見こそ二次大戦時のと一緒だけど、中身は全く別物らしいのだ」

 

 一夏とどりすが401の方をガン見する中、ツガルとマオチャオが送られていたデータから説明する。

 

「それで、艦長ってどちらの方?」

「ああ、あのダークスーツ着た方です」

 

 つばさの質問に、エグゼリカが艦から降りてきたばかりの群像を指差す。

 

「ええ!? あの人!?」

「若っ!?」

「結構かっこいいかも………」

「でも、なんか隣に銀髪の女の子がくっついてるけど」

 

 群像の予想外の若さに、生徒達にさざ波のように動揺が走っていく。

 

「確か、18歳だそうです」

「それで艦長か、すごいな………」

 

 エグゼリカの続いての説明に、一夏が思わず呟くが、そこで更にエグゼリカが続ける。

 

「あ、正規の軍人ではなくて、蒼き鋼を彼が組織したとか。最初は群像さんと隣にいるイオナさんの二人だけで始めたそうです」

「じゃああれが、メンタルモデルって奴? 普通の子にしか見えないけど」

「私もそうですけど」

 

 思わず呟いたシャルロットだったが、エグゼリカの一言に手を叩く。

 

「そう言えばそうだったね………この短い間にボクの常識幾つ塗り替えられただろ………」

「安心せい、ウチらもや」

「視察終わったら、取材させてもらえるかな?」

 

 シャルロットが微妙に表情を曇らせる中、そばにいたのぞみとつばさも苦笑する。

 

「はいはい皆さん、興味があるのは分かりますが、視察団の人達に迷惑はかけないように」

『は~い』

 

 生徒達と一緒になって視察団の様子を観察していた真耶だったが、一応一段落させて皆を解散させる。

 

「ねえねえ、あの潜水艦の中って見学出来るかな?」

「う~ん、どうだろ?」

「あのスーツの艦長さんに頼んでみたらどうや?」

「そうする!」

「ちょっとマスター!」

 

 どりすが興奮を抑えられないのか、マオチャオと一緒に我先に艀の方に向かっていく。

 

「ちょっとどりす!」

「あかん、軍事機密とかあるんやないか!? 止めんと!」

 

 つばさとのぞみが慌てて後を追うのを、そろそろ慣れてきた生徒達が呆れて見送る。

 

「プリンセスは元気ですね~」

「あれで一夏と激戦繰り広げたってんだから………」

 

 真耶が脳天気に見送り、シャルロットが呆れ顔で後ろ姿を見送った。

 

 

 

「聞いた?」

「聞いた聞いた」

「さっき来た潜水艦の艦長、結構イケてるらしいって」

「しかも18だってさ」

 

 メンテナンスブースで紅椿の調整を行っていた箒の耳に、周囲の整備科の生徒達の噂話が入ってくる。

 

「随分と情報が早い………」

「学園内だけだけど、携帯使えるようになったしね~」

 

 箒と一緒に、紅椿の調整を行っていた束が適当に聞き流しつつ、何かのアプリを用意していく。

 

「それで箒ちゃん、魚料理だけでなく、お肉とかも捌けるようなプリセットを用意してみたんだけど」

「………姉さんは紅椿をどうするつもりですか」

「いや~、そもそもISって宇宙開発用に作ったんだから、サバイバル用の設定も必要かな~って」

「出来ればこれ以上厳しい環境に行くのはちょっと………」

 

 実の姉ながら、何を考えているのかまったく分からない束に箒は微妙な表情をする。

 

「失礼いたします。少しよろしいでしょうか?」

 

 そこに、サイコに案内された分厚いコートを着た女性とぬいぐるみを持った少女が姿を現す。

 

「構いませんが、そちらの方々は?」

「視察団の者だ、見学させてもらっていいだろうか?」

「いいよ~♪」

 

 箒の問にコートの女性、ハルナが身分を名乗り、束が勝手にOKを出す。

 

「君が技術顧問?」

「いや、私は付き添いだ。技官はこっち」

「はい!」

 

 束の問いに、ハルナではなく足元の蒔絵が元気よく手を挙げる。

 

「………は?」

 

 思わず箒が間抜けな声を上げるが、それは周囲にいた整備科の生徒達も同様だった。

 

「それじゃあ、パンツァーとISの基礎スペックを見せてほしいんだけど」

「はい、こちらに」

 

 帝都、IS双方の生徒が唖然とする中、蒔絵はサイコから渡されたデータをてきぱきとチェックしていく。

 

「能力の具現化と機械化の並行、ウィッチの魔法力に近いのかな? こっちは元宇宙開発用の機体の応用、なるほど、高速機動と耐久性の理由はこれか~」

 

 頷きながらパンツァーとISの特性をまとめていく蒔絵に、そばにいた生徒達は全員絶句していた。

 

「何あれ………」

「天才少女って奴?」

「とんでもないのが来た………」

「まさか、ここまでとは………」

「ハルハル、そっちのアナライズしておいて」

「分かった」

 

 その場にいた誰も、案内してきたサイコですら二の句も言えない中、ハルナが紅椿の前に立つと、突然周囲にサークルグラフを出現させる。

 

「うわ!?」

「何アレ!?」

「な、何をしている!?」

 

 箒ですら慌てる中、束だけは平然とその様子を見ていた。

 

「成る程~君、メンタルモデルって奴だね」

「そうだ、私は霧の大戦艦、ハルナのメンタルモデルだ」

「あの、姉さん………」

「いいよいいよ好きに調べて。その代わり後で君達のデータももらうよ?」

「構わない」

「言っておくが、私達自身、メンタルモデルの事は分からない事だらけだぞ?」

「へ~そうなんだ」

「………あの、今クマのぬいぐるみがしゃべったような?」

「ロボット?」

「失礼な! 私はこれでも霧の大戦艦、キリシマのメンタルモデルだ!」

「じゃあヨタロウ、こっちのお願い」

「む、分かった」

 

 クマのぬいぐるみがハルナ同様、サークルグラフを展開させるのを見た箒含め周囲の生徒達は、今度こそ完全に絶句する。

 

「亜乃亜さんがクマのメンタルモデルがいるとは言ってましたが………」

「何かの比喩かと思ってた………」

(とんでもない連中が来た………)

 

 その様子にサイコと箒を中心に皆が目を丸くし、誰もが心中共通見解にたどり着いた所で、箒の携帯が鳴る。

 

「はい篠ノ之」

『篠ノ之さん! すぐに剣道場に来て!』

 

 表示された通話相手が剣道部の部長だという事は気付いていたが、相手のあまりに狼狽した声に箒は驚く。

 

「あの部長、何が………」

『多分貴方クラスじゃないとダメだから! 急いで! え、もう!?』

 

 それだけ言うと、突然電話が切れる。

 

「姉さん、何か急用みたいなので…」

「みたいだね。私はこの子とやってるから、行ってきていいよ~」

 

 一応姉に断りを入れた箒が急いで剣道場に向かう。

 束はそちらに見向きもせず、黙々と作業を続ける蒔絵へと関心を向けていた。

 

(ふ~ん。この子、多分………)

 

 

 

「おっと」

「あっ!」

 

 曲がり角でぶつかりそうになった美緒と箒が、慌てて互いに回避する。

 

「おお、これはすまなかった」

「いえ、こちらこそ」

 

 互いに謝る中、箒は美緒の肩にアーンヴァルがいる事に気付く。

 

「武装神姫?」

「ああ、これは私をマスターにしているアーンヴァルだ」

「よろしくお願いします」

「そう言えば、こっちにも二体来てるんだっけ」

「そだよ」

「結構いるんですね」

 

 美緒の後ろにいた音羽とその頭の上のヴァローナにも気付いた箒が驚く中、箒ははふと二人+二体が剣道場の方に来た事に気付いた。

 

「あの、ひょっとして剣道場から?」

「ああそうだ。なかなか皆鍛えてあるな」

「いや、まあ………」

 

 持参していたらしい手ぬぐいで汗を拭いている美緒に、何故か音羽は苦い顔をしていた。

 

「待ってください坂本少佐!」

「おっと、手間を増やしてしまったか」

 

 そこに何かひどく慌てている簪が駆けつけてくる。

 

「なに、一応手加減はしておいた」

「それはそうみたいですけれど………」

「何の話だ?」

「それがその………」

 

 簪の明らかに狼狽している様子に箒は問い質すが、何故か簪は口ごもる。

 

「では次に行くとしよう」

「はいマスター」

「出来れば、このような事は控えてもらいたいのですが………」

「了解した」

「あの、あまり気にしないように言っておいてもらえる? その、比較するには坂本さんはちょっと…」

「は?」

「え~と、お大事に!」

「こりずに頑張ってね~」

「??」

 

 先を急ぐ美緒とアーンヴァルに、何かをたしなめる簪、そして意味不明な言葉を残していく音羽とヴァローナに首をかしげつつ、箒は剣道場に急ぐ。

 

「な………」

「あ、篠ノ之さん………遅かったわ………」

 

 剣道場に入った箒の目に飛び込んできたのは、帝都、IS両学園の合同練習中のはずの剣道部員、その全員がある者はうずくまり、ある物は床に倒れ伏したりしている、死屍累々の光景だった。

 

「ぶ、部長! これは一体………」

「視察に来たって言うポニーテールの軍人さんが、ちょっと試させてもらうって竹刀を手にしてね………」

「一人残らず返り討ちにされたの………」

 

 座り込んでいる部長の隣で、膝を抱えてうずくまっている副部長が力なく答える。

 

「ま、待ってください! 部長から電話もらって急いで来たはず………」

「だからその間に」

「強い、強すぎる………」

「防具すらつけてなかったのに……」

「かすりすらしなかったなんて……」

「インターハイクラスの子もいたのに………」

「ついでに隣の薙刀部と銃剣道部の子も倒していったわよ………」

「どんな怪物送り込まれたの………」

 

 誰もが完全に自信喪失し、うつろな声で呟く様は、少なくても今日いっぱいは練習にならなさそうな雰囲気に、箒はゆっくりと先程すれ違った美緒の去っていった方向を見る。

 

「こちらで言う所の二次大戦時の軍人だって話よ」

「現役からは引退してるそうですけど………」

「つまり、本物の実戦上がり………」

 

 一緒に来ていた音羽から聞いた情報を教えつつ、冷却パッドをくばっているマネージャー達からの話に箒も思わず唾を飲み込む。

 

「私でも、相手になっただろうか………」

「さあね………」

 

 箒の呟きに、部長は力なく答える。

 その日の内に、学園内では美緒に《サムライ少佐》のあだ名が付く事になった。

 

 

 

「あちらが第三闘技場、主に射撃訓練に使われます。もっとも、帝都学園の射撃場と混ざってますが」

「話には聞いていたが、ここまで奇怪に融合しているとは………」

「ええ、それでどの施設も問題なく動いてます」

「デザイン的には前衛的すぎるのが問題ですけれど」

「いや~、これはこれでいいんじゃないかな?」

 

 楯無の案内で幾つもの施設を見学しながら、その異常さに嶋が顔をしかめるが、千冬とどりあがそれが異常なく動いている事を説明、加山はそれらを面白そうに見て回っていた。

 

「ミサキ君はどう思う?」

「異常、としか。そもそも規格が同一とは限らない施設が、融合して普通に稼働するとは思えません」

 

 タブレットを手に、加山の背後についていたミサキが意見を求められ、率直に答える。

 

「それはこちらも確認した。だがどうやって調整されてるのか分からないレベルで調整されている」

「配線関係も全部チェックしましたが、かなり怪奇に繋がって普通に機能してました。JAMというのはかなり器用な方々のようで」

 

 千冬も同意見を述べ、楯無も自らチェックした結果を報告する。

 

「こちらも、航空基地が滑走路ごと転移させられたからな。計測したら、滑走路の水平まで完璧だったそうだ」

「恐ろしい程高度な転移技術です。私達の時代でもそこまでは………」

「あら、そういうのがある世界から?」

「はい、西暦で言えば2301年から」

「24世紀!?」

 

 どりあの質問にミサキが答えた所で、楯無が思わず吹き出す。

 

「時代格差もそれぞれだ。確かに彼女の世界の技術は進んでいるが、時代が古いからといって役に立たないとは限らない」

「はっはっは、たしかにこちらの世界が今の所一番過去みたいですからね~」

 

 嶋の忠告に、加山が笑って付け加える。

 

「確かに一理あるな」

「トリガーハートやGの天使の方々もかなり独特の技術持ってますし」

「今後、技術交流も鍵となるだろうな」

 

 誰もがそれぞれの意見を持つ中、楯無がそっとIS用プライベート回線を千冬へと繋ぐ。

 

(織斑先生、気付いてますか?)

(ああ、彼女の事だろう?)

(限りなく目立たないようにしてますが、恐らく)

(彼女も情報部の人間だろうな。瑠璃堂も多分気付いてる)

 

 極端に気配を薄くして秘書のように着いてきているミサキだったが、その実各所のセキュリティその他を抜け目なくチェックしている事を案内している三人とも気付いていた。

 

(確かにこれは視察というよりは査察だな)

(物資提供とかはうれしいのですけれど)

 

 千冬とどりあが似たような事を考えている中、楯無の携帯が鳴る。

 

「失礼。もしもし? ええ、こちらは第三闘技場そば………え? 本当? 分かったわ、先生方にはこちらから………お願い」

「どうした?」

「それが、別口で視察していた坂本少佐が、剣道場にいた剣道部その他全員を、一人でノしたそうです………」

 

 何か微妙な顔をしている盾無に、千冬が問うと盾無が苦い顔をしながら報告する。

 

「あら、やるわね」

「はっはっは、確かに」

「実際に腕を確かめてみないと納得しないか」

 

 どりあと加山が笑い、嶋は頷く。

 

「鍛え方が足りなかったか、それとも」

「箒さんはいなかったそうですけど、いても相手になったかどうかのレベルだそうです………」

「なるほどな。いっそ指導教官でもやってもらうか?」

「そういう手もあるな。今後の予定いかんだが」

「美緒ったら………」

 

 千冬がむしろ関心し、嶋も考える中、ミサキがため息を漏らす。

 

「あら、坂本少佐とは親しいの?」

「親しいというか、前回こちらに転移してきた彼女を救助したのが私だったの。雪原惑星に倒れてたのを発見した時は流石に焦ったけれど」

「………私達って結構運が良かったのかも」

 

 ミサキがさらりと漏らした事に、楯無の頬が僅かに引きつる。

 

「運が良いかどうかは、今後にかかってくるだろう」

「孤立無援の状況で支援を受けられるのは運が良い、と考えるべきでしょうかね?」

「それは今設置している転移装置とやらが無事起動してから判断した方がいい。現状で安全に物資搬送出来るのは、イー401だけなのだからな」

「大規模輸送力の有る艦船は今香坂財団で準備中だそうですが、目処が何時になるかは不明だそうです」

「技術が進んでいても、魔法みたいになんでも出来るって訳にはいかないのね………」

「魔法でも何でも出来るって訳じゃないわ」

「え?」

 

 今後についての話題が出る中、盾無の漏らした言葉にミサキが意外な言葉を返し、楯無が思わず聞き返す。

 

「坂本少佐は引退したが、元ウィッチ、すなわち魔法使いだそうだ。もっともそちらの予想している物とは違うかもしれんが」

「そう言えば、増援に来てくれた子達もそんな話してたわね~」

 

 嶋が替わって説明する中、どりあが思い出したかのように呟く。

 

「技術格差以前に、常識の格差が開いているな、これは………」

「はっはっは、こちらから見ればそちらの方が非常識ですからね~」

 

 千冬のぼやきに、加山が笑って返す。

 

「その辺のすりあわせも必要か………」

「そのようですね」

「さてどこから併せるべきか………」

 

 嶋、千冬、加山が悩む中、どりあがいきなり手を叩く。

 

「一度、どこかでお茶でもしながら話してみましょう。詳しい話し合いは後回しにするにしても、雑談程度に議題は決める必要あるでしょうし」

「それもそうですな」

「更識、準備を」

「分かりました」

 

 どりあの提案に皆が賛同し、談話室へと移動する中、ミサキは一度だけ振り向いて再度セキュリティを確認する。

 

(セキュリティがあまりに厳しすぎる………ここは本当に学校?)

 

 

 

「あ、それはそっちだな」

「OK~」

「そっち何入ってます?」

「缶詰がいっぱい~」

「賞味期限が四世紀程開いてるんだけど………」

「こっちなんか何か分からんで?」

 

 杏平と静の指示を受けながら、艦内の見学と引き換えに物資の仕分けを手伝っていたどりす達だったが、送られてきた年代差の有りすぎる物資に四苦八苦していた。

 

『ちょっと、あんまりバタバタ置いて床に派手な傷とかつけないでよ!』

 

 突如、目の前の空間に現われたパネルとそこに映し出されたタカオからの文句に手伝いに来ていたどりす達は一様に驚愕する。

 

「うわ、ごめんなさい!」

「貴方もこの潜水艦のクルーの一人なんか?」

『私はタカオ。今はこの船体の制御をしているメンタルモデルよ』

「あのさっき艦長と一緒にいた女の子と一緒かー」

『い、今はちょっとだけ体が無いだけなんだからね』

 

 どりす達の反応に、タカオはちょっとだけ頬を引きつらせる。

 

「なー、タカオよ。この物資の内容物の記録ないか?」

 

 そんなタカオの反応を受け流した杏平が目の前の箱の山を見ながら問いかける。

 

『分別タグも記録も付けずに、どんどん積んでたじゃないの。箱ごとの区別なんかついてないわよ』

「かなり慌てて持ってきたからな~。すぐ食うなら問題ないか?」

「どうでしょう? 未来と過去の物資が混じってますし」

「こら整理せんとあかんで?」

「危険物とか混じってないといいんだけど………」

 

 のぞみとつばさが似たような物を並べてみるが、あまりの時代の開きに呆れるしかなかった。

 

「ねえねえ、こっちに何かすごいの有る!」

「何が?」

『ちょっと! 整理し終わってからにしなさいよ』

「まあまあ、多少ならいいじゃないですか」

 

 どりすが格納室の奥にある物を発見して声を上げる。手伝いに来てた皆がそちらへと向かうのを、文句を言うタカオだが静がそれをなだめていた。

 

「これは………」

「ソニックダイバーという機体なのだ。正式名称A2K0 飛行外骨格「零神」、操縦者は桜野 音羽」

 

 マオチャオが登録されていたデータを参照する中、どりす達は興味深げに零神を見つめる。

 

「お、何だ見学か?」

「手伝いがてらのな」

 

 そこに僚平が姿を表し、ハンガーにセットされている零神の周囲の人影に気付くと杏平が苦笑しながら教える。

 

「変わった形状の機体ですね」

「はは、ソニックダイバーはそれまでの飛行機とは概念が全く違うからな」

「これ、飛ぶんだ………」

「ここに持ってきたいう事は、これ戦闘用なんか?」

「ああ、なんでか坂本少佐がこれ持って着いてこいって言われてな。音羽の奴がいないから今は動かせないけど」

 

 つばさ、どりす、のぞみがそれぞれ意見を述べる中、僚平が色々説明する。

 

「持ってきた? 何のために?」

「試合に出るためじゃない?」

「試合? あんのか?」

「それが、先生方がどう決めたか知らへんけど、交流と技術向上の一環として定期的に開く事になったんや。で、二回目が明日って訳や」

「へ~、そりゃ知らなかった。見に行っていいのか?」

「大丈夫だと思いますけど」

「オレも行く。結構面白そうだったし」

「天野の奴が出るいう話やからな」

「今度こそあいつと決着付けたかったのに、お姉さまが連戦はダメって………」

「規約上もそうなってるでしょ」

 

 試合の話に僚平だけでなく杏平も興味を示す。

 前回の試合結果に不満などりすの呟きに、つばさがたしなめる。

 

「………まさか、また試合中に敵が乱入って事ありませんよね?」

「まさか~」

「そうですよね」

 

 静のぽつりと呟いた不安に、全員が一斉に否定。

 

『さ、見学終わったら整理続けてよね。早く片付いてもらわないと困るんだから』

「はーい」

「へいへい」

 

 タカオの言葉に皆がまた荷物の仕分けへと戻っていく。

 静もさすがに二度はないと思って仕分け作業を再開する。

 その微かな不安が現実の物となるなど、誰も思ってはいなかった。

 

 

 

「うひゃ~、近くで見るとはっきりとデカいな」

「ん? ああここに一人だけいる男子生徒ってあんたか」

 

 艀でイー401を眺めていた一夏に気付いた群像が、作業の手を休めて近寄る。

 

「確か、艦長さんだっけ」

「艦長の千早 群像だ」

「織斑 一夏、よろしく」

「サンタ型MMSのツガルだよ!」

「イオナ、401のメンタルモデル」

 

 自己紹介しつつ、互いに握手を交わすのを、ツガルとイオナも真似して握手(サイズ差があるが)する。

 

「その歳で艦長ってすごいな」

「色々あってな。そちらもそうらしいが」

「まあな。正直、なんでここにいるかもちょっと分からないけど」

「前回の試合、衛星画像だが見させてもらった。荒削りだが、なかなかやるじゃないか」

「マスター頑張ったからね」

「あの大型を倒せるとは思わなかった」

「ははっ、そう言ってもらえるとうれしいな。それはそうと、ちょっと相談なんだが」

「何だ、藪から棒に」

「坂本少佐って人、止められる人誰かいない? さっき剣道部全員のしたって話だったけど、今度はライフル射撃部で最高得点叩き出して部員達が自信喪失したって話が………」

「さすが元エースだな、訓練生とは格が違うようだ」

「動いてない的に当たらないようでは話にならないって言ってたって簪が………」

「生憎だが、彼女は視察団の軍事顧問だ。嶋少将も全幅の信頼をしているらしいし、他にに止められそうな人もいないしな」

 

 困った顔をする一夏に、群像も渋い顔をして説明する。

 

「それに、そう簡単に自信喪失されても困る。オレも一部見ただけだが、この世界には他にもエース級がゴロゴロしてるらしい」

「東京での戦い、とんでもない激戦だった。そこを戦い抜いた人達が大勢いる」

「そう言えばそうだったっけ」

「………マジ? じゃあなんでここに来たんだ?」

「次に何が起きるか、誰にも分からないからだ。正直な事を言えば、ここの生徒達が戦力として使い物になるかどうか、その判断がこの視察にかかっている」

「………弱くはないつもりだけどな」

「弱くないだけでは困る」

「他の部隊の指揮官達は、再度の敵襲を予見している。事実、他の世界ではどの部隊も接触していない、未知の敵との交戦報告が来ている」

「ああ、ツガルから聞いた」

「とんでもない大型だったり、普通の攻撃をすり抜けたりする、奇妙な敵」

「こっち来ないといいな~」

 

 群像の辛辣な意見に、一夏は少しびびるが、イオナとツガルの率直な言葉に少し考え込む。

 

「ここだけの話だが、嶋少将はこの学園の生徒達を部隊化させるために来た」

「部隊? オレ達を軍隊みたいにするって事か?」

「軍隊とは限らない。事実、私達も軍隊じゃない」

「軍属が多いのは確かなんだけどね。今分かってるのでも、半分くらい軍人じゃないかな?」

「かくいうオレも元士官候補生だったけどな」

「う~ん………でも何でその話をオレに?」

「簡単だ。女の中に男が一人、しかもそれなりに人望があるって事は、それ相応の責務が生じる可能性が高い」

「責務?」

「覚悟はしておけ。お互い、巻き込まれた以上は逃げ出す事も出来ん。敵が何者かも分からないしな」

「その点は霧と変わらない」

「そうなの?」

「まだ対話の可能性がある分、霧の方がマシだがな」

「攻めてきたJAMとかいうの、話すも何も全部無人機だったんだけど………」

「本当に無人機?」

「は?」

 

 イオナの予想外の問いに、一夏は思わず間抜けな声を出す。

 

「それってどういう…」

「お~い、艦長そっちは…お、あんたか、ここのハーレム王」

「聞いてるぜ、男が一人しかいないって」

「何か根幹的な誤解が………」

 

 問い返す前に、作業を一段落させた杏平と僚平が一夏の姿を発見して声を掛けてくる。

 

「でも、マスターの部屋に女の子がしょっちゅう来てるよね」

「ツガル、この状況でそれは…」

「当たってるじゃねえか」

「ホントホント」

 

 ツガルの余計な突っ込みに杏平と僚平が頷く中、群像は半ば呆れて自分の作業を再開させる。

 

「前途は多難そうだな」

「私達もそうだった」

「今も、だがな」

 


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