第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP34

 

異なる世界 螺旋皇国 東方帝都 四番街

 

 そこは螺旋皇国の中にあって、異様な雰囲気をまとった場所であった。あちこちに破壊の痕跡が残る建物が並び、ときおり遠くから戦闘の物と思われる音が響いてくる。

 一般市街から完全に隔絶され、帝都の治安を司る帝都機動警察からも半ば見放された帝都一の危険地帯『東方帝都 四番街』その奥、その地区の住人すら滅多に近寄らなくなった建物の奥に四つの影が有った。

 その場にいる四人の視線の先には、一台のテレビがあり、先日から繰り返し報道されている、東方帝都学園の建物と一部生徒の消失不明事件が映し出されていた。

 

「状況に変化は?」

「いえ、ありません」

「帝機を始めとして公的、私的、裏社会、皇国諜報部ですら未だ現状を把握出来ておりません」

 

 影の中央、漆黒の装束に鋭い目つきをした20代半ばと思われる女性に、同じように黒い装束を纏った黒人のスキンヘッドの偉丈夫と、腰に刀をさした長髪痩身の男が報告する。

 

「やっぱ、全滅って噂ホントじゃない?」

 

 少し離れた所に佇んでいた、ローティーンにも見える美少年が茶化すように言うが、他の三人の表情は変わらない。

 

「そうは思わない」

「一部では次元兵器の類いの使用の噂は出ているが、あまりに不自然過ぎる」

「でもさ~」

 

 スキンヘッドと長髪の二人に即座に反論され、美少年は口を尖らせるが、そこでリーダー格と思われる女性がそれを制す。

 

「パンツァーとその関係者だけ狙える兵器などという物があるならば、当の昔に表でも裏でも奪い合いになるだろう」

「確かに」

「では、これは一体………」

「分からん。だが、何かが起きている。東方帝都学園のパンツァーがまとめて行方不明になるような、何かが………」

 

 女性は少し考え込むが、結論を出そうにもあまりに情報が枯渇していた。

 

「引き続き調査を続行せよ」

「「「はっ!」」」

 

 復唱と共に、三人の姿がその場から消え、女性のみが残る。

 一人残った女性は、口元に小さな笑みを浮かべていた。

 

「まあそう簡単にはやられはしないだろう、どりあ、どりす………」

 

 四番街でも最強を噂される四人組、影虎、影鷹、影狼の《隠密警護団(シャドー・ガード)》とそれを従えるマスター“D”こと、螺旋皇国元第一皇女、瑠璃堂 どりなは、謎の大量失踪者に含まれる己の妹達を微塵も心配していなかった………

 

 

 

太正十八年 帝都東京 大帝国劇場

 

 帝国劇場の地下作戦室に、つい先程学園から帰還してきたばかりの者達と、各組織の指揮官クラスが集結し、緊急会議が行われていた。

 

「通常の兵器が全く効かない敵、しかも海上か………」

「さすがに海の上までは想定してねえな」

 

 大神の呟きに、米田も顔をしかめて唸る。

 

「攻撃が全く効かないわけではない。だが、それは霧の艦隊クラスの火力が必要となる」

「前回のあの黒い砲撃すらやべえのに、それでようやく効くってんだから、洒落になんねえな………」

 

 嶋の報告に、米田は益々顔をしかめる。

 

「ウィッチの攻撃も有効では有るが、有る程度の実力を持った者となると、防御力が高くなり、ウィッチの攻撃も決定打にはならない。もっとも破壊力に優れたウィッチなら別かもしれないが………」

「エイラさんとサーニャさんは、感知型のウィッチですからね。もうちょっと攻撃特化のウィッチがいればまた違ったかもしれませんが」

 

 美緒の報告に、エルナーは自分の補足を付け加える。

 

「ともあれ、霧の艦隊のコンゴウと艦娘のお嬢さん達、Gの天使達やウィッチの子達もいるから、当座は凌げるんじゃないかな?」

 

 加山の仮定に、誰もが少し顔をしかめながら納得するしかなかった。

 

「今の急務は、次どこで襲撃が起きても、即時対応出来る体勢を整える事です。学園の転移装置の設置状況は?」

「最大急ピッチで進んでます。今、破損した部品の予備及び追加人員がカルナダインに搭載している最中です」

「小型の転移装置も48時間以内に用意出来そうよ。霊子甲冑がギリギリ入れるかどうかが限度だけれど」

 

 エルナーの問いにアーンヴァルが答え、香坂 エリカもそれに続く。

 

「小型の方はパリとニューヨークに設置しましょう。部隊全員を送れなくても、一人ずつでも大分違うはずです」

「やはり、母艦となりうる移動拠点が必要では」

「翔鯨丸や紐育のエイハブは移動可能な母艦だが、速度に問題が………」

「あまり目立つ物を持ち込むのも問題は無いのだろうか?」

「さすがに母艦クラスとなると、ごまかすのにも限度が…」

 

 喧々諤々の議論が起こるが、そこでコール音と共に通信が入る。

 大神が操作すると、作戦室の大型画面に琴音が映し出された。

 

『一郎ちゃん、カルナダインとやらに荷物の積み込み終了したら、すぐに行っちゃったわ。とんぼ返りってあの事ね。乗員の子達、体が機械って聞いたけど、あまり無理しないように一郎ちゃんからも言っておいて』

「分かりました。そちらも積み込みご苦労様」

『これくらいならお安い御用よ』

 

 通信が切れた所で、大神が大きく息を吐く。

 

「やはり、カルナダインの負担が大き過ぎる。何か他の運搬手段が必要だ」

「しかし、現状で後長距離移動が可能なのはイー401だけだ」

「潜水艦では速度も出ないしな」

「自衛戦闘能力を持っている事も必須です。条件が厳しすぎますね………」

 

 戦力と拠点が分散している状況で、大量輸送や移動の目処がつかない状態に誰もが考え込む。

 

「そもそも、現状で使用できる設備は、香坂財団がパラレルワールド探索用に準備していた物ですが、このような状態は完全に予想外で、用意していた設備はどれも開発中の物ばかりです」

「香坂女史が頻繁にあちらとこちらを行き来しているのはそれが原因か………」

「そりゃ、こんな事態に対処なんて無理だろうし………」

 

 エルナーの説明に、門脇と大神が更に考え込む。

 

「事態の変化が大きすぎて、私でないと判断決済が出来ない事が増えてますの」

 

 溜息をつく香坂 エリカの懐から、基地内だけなら通信可能となっていた携帯電話が鳴った。

 

「話をすれば、ですわね。失礼、どうやらまた戻らねばならないようですので」

 

 言うが早いが身を翻して香坂 エリカは、その場を離れていく。

 

「本来、各世界間を移動するための母艦を建造しているとも聞いたが、完成の目処すら立っていないとも聞いたな」

「どんなの作ってるかも気になりますね」

 

 美緒が少し前に聞いた事を思い出すが、アーンヴァルはそこはかとなく不安を覚える。

 

「問題は、やはり一筋縄でいかない敵が多すぎるという事。対処出来る装備を持っている者達はいるが、それをそこに送るのが難しいという事」

「正直、そういう連中が帝都を含めた都市部に来なかったのは御の字だな。来てたら、どんだけ被害が出てたか分からねえ」

 

 大神と米田のまとめた問題点に、誰もが頷く。

 

「やはり、一度関係者全員が集まる必要が有るでしょう。用意された小型転移装置及び、学園の大型転移装置が起動した後、大規模会議の開催を提案します」

「私は賛同する」

「同じく、足並みを揃える必要が有る」

 

 エルナーの出した大規模会議の開催案を門脇は即座に賛成し、嶋もそれに続く。

 

「確かに、各華撃団の意見統一も必要だ」

「こちらも上に掛け合ってくる。さてどこまで引っ張り出せるか」

 

 大神と美緒もそれぞれ賛同する中、緊急会議は一応解散となる。

 そして、その場に大神、米田、そして加山の三人が残った。

 

「加山、聞きそびれたけど、学園とやらの視察結果はどうだった」

 

 参考として聞いた大神だったが、加山はそこで表情を引き締め、大神に直立不動で向かうと敬礼する。

 

「月組隊長、加山 雄一から帝国華撃団、大神司令に報告します。ニイタカヤマノボレ、以上」

 

 加山からの報告に、隣で聞いていた米田が首を傾げる。

 

「聞いた事無い暗号だな、なんて意味だ…」

 

 大神に聞こうとした米田だったが、そこで大神の顔が凄まじく険しい物になっている事に気付く。

 

「………なんて意味だ」

 

 再度聞いた米田に、大神はゆっくりと口を開く。

 

「少し前に、別の世界での戦いに巻き込まれた件、聞いてますか?」

「あれだろ、お前の正気が疑われたあの報告書。オレっちも読んだが…」

「その時、違う世界の人達に教えられたんです。二度目の世界大戦が起きた時、日本帝国が参戦時に送られた暗号が、ニイタカヤマノボレだったと」

「………つまり、意味は」

「世界大戦、勃発です………」

 

 前に二人で飲みに言った時、加山にだけ酒席の冗談として言った言葉が、正式に報告として加山の口から発せられた事に、大神は両手の拳を思わず強く握り締める。

 

「大神、少し通信室借りるぞ。世界中の月組隊員に指示を送るんでな」

「頼む」

 

 これから更に忙しくなる事を感じながら、大神はどうするべきかを深く思案した………

 

 

 

「音羽はまだ戻ってこれないらしいわ」

「零神の修理にまだ掛かりそうだとかで」

「音羽自身は軽症でよかったけど………」

 

 追浜基地の自室で瑛花、可憐、エリーゼが忙しく出発していったトリガーハート達から聞いた近況に、不安と安堵が入り混じった、微妙な表情をする。

 

「門脇艦長、あ、今は元中将か。と嶋少将が華撃団の所で臨時会議してるようだけれど………」

「正直、音羽さんよく無事でしたよね………」

「これ見てよ。どんだけ斬ってもすぐに再生してる」

 

 トリガーハート達から手土産にもらった、深海棲艦との戦闘詳細データを携帯端末で再生しながら、三人は考え込む。

 

「私達で、ここまで対処出来たと思う?」

「分かりません………攻撃が全く効かない敵となんて戦った事ありませんし………」

「音羽に出来たなら、私にもなんとかなるでしょ。問題は他にも妙な敵がいるって事よ」

「根幹的に、戦い方を考え直すべきかもしれないわね………」

「あ、いた。一条教官、そろそろ講義の時間ですけど」

「あっと、もうそんな時間」

 

 そこへ、ソニックダイバーレスキュー隊候補生が顔を見せ、瑛花が腕時計を見て席を立つ。

 

「ちょうどいいわ、二人も手伝って。編隊飛行についての講義だけど、元から組み直さないとダメかもしれないから」

「それは構いませんが」

「ここまで性能入り乱れてると、どれを基準にしたらいいのやら」

 

 可憐とエリーゼはため息を漏らしつつ、瑛花の講義を手伝うべく講義室へと向かった。

 

 

 

「ぶ~………」

「はいはいユナ、行きたかったのは分かるけど、向こうも忙しいんだから」

「でもポリリーナ様~」

 

 カルナダインを見送ったユナがむくれているのを、ポリリーナがなんとかなだめようとする。

 

「ユーリィも行きたかったですぅ!」

「あんたは一番行っちゃダメなメンバーでしょ。向こうの食料空にするつもり?」

 

 ユナとユーリィも大量の荷物(※過半数が遊び道具)を手にしているのを呆れ果てるポリリーナだったが、ミサキ達への見舞いだけはちゃんとカルナダインに積んでいた。

 

「狂花も亜弥乎も転移装置設置の応援に行ったんだから、邪魔したらダメでしょう」

「それはそうだけど、ミサキちゃんや音羽ちゃんの事も心配だし………」

「シスターエリカも行ってるそうだし、向こうの設備は私達の時代程じゃなくても、結構優秀だそうだから、大丈夫よ」

「ユーリィ力仕事なら手伝えますぅ!」

「燃費が最悪でしょ………」

 

 二人をたしなめながら、ポリリーナは思わずため息を漏らす。

 

(規模が前回以上だけれど、機動力が追いついてないわね………最悪、永遠のプリンセス号をこちらに呼ぶ事を本気で考えるべきかしら………)

「そう言えば、Gから新しい人が来るって言ってなかったっけ?」

「確かお昼頃こちらに来るみたいですぅ」

「本当はカルナダインに乗せてきたかったみたいだけど、急いでたみたいだからね」

「どんな人が来るのかな~?」

「オカルトの専門家って話だけど………」

 

 前回の戦闘でのミサキの苦戦を見る限り、自分達の手に余る敵がこれから更に増える可能性を考慮しつつ、ポリリーナは今後の事を考える。

 

「一番足りていないのは、情報ね………」

「情報?」

「どこから来たのか分からない、どんな特性を持っているのかも不明の敵が増えてきてるわ。深海棲艦だって、艦娘の人達がいなかったら対処できたかどうか………」

「それは大変ですぅ」

「誰か知ってる人他にいないかな~」

「いるとしたら………」

 

 

 

「情報が足りません」

 

 学園に残り、前回の経験からアドバイザーをしていた周王の言葉に、東方帝都、IS両学園の教師達は困惑の表情を浮かべる。

 

「前回、確かに私達は複数の世界の敵と戦いましたが、それぞれに対処できる世界の者達がいたため、なんとか対処が出来ました。先程の深海棲艦の襲撃の際、この学園のパンツァー、IS双方共に対処が困難だったのは見ての通りです。そして同様、もしくはそれ以上に対処困難な敵の存在も確認されています」

「それは例えばどのような?」

「すげえデカくて固い奴とからしイ」

 

 真耶の質問に、参加していたエイラが変わって応える。

 

「それと戦ったの私の姉ちゃん含めたウィッチ達らしいが、一人除いて全員エースクラス、それで取り逃がしたってんだかラ、半端じゃナイ奴なのは確かダ」

「失礼ですが、お姉さん達の対処が間違えていたとかいう事は?」

 

 どりあの質問に、エイラは少し考える。

 

「詳しい話はまだ聞いてないガ、深海棲艦と違って、攻撃は効いてたらしイ。でもすげえ固かったとかどうとか。姉ちゃんだったらそんなの関係ないハズ」

「どう関係ないのだ?」

 

 続けての千冬の質問に、エイラは思わず頬をかきつつ応える。

 

「姉ちゃんの得意技は、スコップで相手の装甲を掘り抜いて、コアに直接対戦車地雷叩き込むンダ。前はそれでどう攻撃しても壊せなかったデカいシャコ貝ぶち壊して、その場にいた全員にドン引きされた」

「変わった戦い方ですわね」

「一度見てみたい物だ」

「まあ、他に出来る方はいないみたいですが」

 

 エイラの説明に、どりあと千冬、周王を除く全員がドン引く。

 

「だとしたら、相手はコアの類いを持たないか、それ以上に強固な装甲を持っている事になります」

「戦力、というよりも特性の問題だな」

「他にも色々な敵が出てきているそうですし」

「あの、それってこちらで対応出来るんでしょうか?」

 

 周王の解説に千冬とどりあは我流に解析するが、そこで真耶の一言に皆が押し黙る。

 

「もし再度の襲撃が有った場合は、霧のコンゴウを主軸とした、防衛戦を展開する事になるかと」

「けど、普通の攻撃が効かない敵もいるとも聞いてます」

「一体、どこから来たのやら………」

 

 千冬の呟きは、現状の一番の問題を的確に突いていた。

 

 

 

「お~し、そっち固定確認してくれ」

「大丈夫、固定した。で、交代人員っていつ来んだ?」

 

 学園の整備ブースで応急処置が終わった零神を僚平と杏平がハンガーコンテナへと移動しつつ、今後の予定を確認する。

 

「夕方には来るらしいぜ。来たらオレらも零神と一緒に帝都に帰還と」

「オカルトの専門家らしいな、どんなの来んだろ?」

「さあ? どっちにしろ、メカの事以外はオレの専門外だ」

「違いねえ」

 

 僚平の返答に、杏平は思わず笑い出す。

 

「僚平、そっちは大丈夫?」

「おう、あとは帰り足でゆっくり直すさ」

 

 様子を見に来た音羽に、僚平は応急処置の済んだ零神を指差す。

 

「音羽こそ、大丈夫か?」

「うん、怪我も大した事無かったし」

「墜落したの見た時はこっちの肝が冷えたぜ………」

 

 ガッツポーズを取ってみせる音羽に、杏平がその時を事を思い出して顔をしかめる。

 

「潜水艦の方はいいんですか?」

「大丈夫、って言うかこれ以上はここで直しようがないからな~。護衛付けてもらっても、修理出来るまで基本逃げしかできねえ」

「攻龍でも持ってきてもらうしかないかもな~。あ、でも戦後解体されたって話だったか」

「え、そうなの?」

「オレも詳しくは知らねえ、どちらにしろ、無いものねだりしてもな」

「戦力が有っても、足が無けりゃ無意味だからな。転移装置とかいうの、いつ完成すんだ?」

「明日中にはって聞いてるけど。もっとも起動実験とか必要らしいし、さっきカルナダイン到着して、追加物資と追加人員来たみたい」

「もう戻ってきたのか。忙しいよな」

「ホント、転移装置ってのが動いたら少しは大丈夫かな?」

「さあな………」

 

 帰還の準備が進む中、別の場所では違う意味で修羅場と化していた。

 

「そこの回線はまだです! 導通確認を!」

「導通が不安定ね、ちょっと破損状況確認を」

 

 エミリーとヒュウガが中心となり、整備科の生徒達が手伝いながら転移装置の設置が勧められるが、何せ未来の未知の技術だけに、理解しているのは設計者のエミリーだけという状況で手探りで設置が勧められていた。

 

「予定より12%工程が遅れてますね………」

「それは仕方ないとして、問題は貴方の方じゃない?」

 

 工程確認していたエミリーが、何本目か分からないドリンク剤(自家製ノーラベル)を飲んでいるのを見たヒュウガが、流石に苦言を呈する。

 

「人間は定期的に休息を入れないとダメなのでしょう? 昨日から全く休んでないように見えるのだけれど」

「分かってますけど、現状ではこの転移装置を一刻も早い完成が大事ですから」

「身体負荷、すごい事になってるわよ、特に脳。さっきから何を摂取してるかも気になるけど」

「大丈夫、合法な物しか入ってません」

 

 明らかにオーバーワークのエミリーにヒュウガがそこはかとなく注意するが、エミリーは空になったドリンク瓶を何故か工業処理用ゴミ箱に入れる。

 

「無理は禁物ですわよ」

「後は任せて」

 

 そこに到着したばかりの狂花と亜弥乎が姿を見せる。

 

「お久しぶりです。狂花さんに亜弥乎さん」

「お久しぶり。今度はまた無茶な事なってるわね」

「あ、頼んでいた物は?」

「破損部品の交換分と超々高圧ケーブル、ちゃんと持ってきましたわ」

「じゃあケーブルをコンゴウの所まで伸ばして、コネクタ規格を送信して向こうの動力からバイパスを…」

「やっておきますから、まず貴女は休んでおきなさい」

「目の下、すごいよ………」

「あれ、たかだか一晩の徹夜くらいで…」

「昨日のタイムスケジュール考えなさいよ、生身だとさすがに限界でしょう。私も彼女達も多少は無茶出来るから」

 

 渋るエミリーを、メンタルモデルと機械人とで強引に休養を勧めて追い出す。

 

「予想以上に大変な事になってますわね」

「まあね。で、貴方達が追加人員ね」

「機械化帝国、妖機三姉妹の次女狂花、そちらは妹の亜弥乎よ」

「霧の大戦艦ヒュウガのメンタルモデルよ。互いに生身じゃない分、仕事には専念できそうね」

「急かされてますからね」

 

 互いに苦笑しつつ、狂花とヒュウガは作業を開始する。

 

「亜弥乎、ケーブルを設置場所に配置して」

「はい狂花お姉さま」

 

 亜弥乎が持ってきたコンテナに手をつくと、そこからケーブルが生き物のように飛び出し、勝手に伸びていく。

 

「きゃっ!」

「何だこれ!?」

 

 周囲で作業していた生徒達が驚く中、ケーブルは自ら設置位置へと配置されていく。

 

「へえ、そういう特性なのね」

「これが私と亜弥乎が派遣された理由ですわ。それでは手際よく行きましょう」

 

 ヒュウガが感心する中、狂花は転移装置の設計図と現在の進行状況を照らし合わせ、遅延箇所を洗い出していく。

 

「最初からアンタ達くればよかったんじゃない?」

「本当は先行部隊兼本国からの超長距離転移の準備に東京に派遣されてたのを、無理に来たのですわ」

「技術者も不足してるわね」

 

 互いに愚痴りつつ、メンタルモデルと機械人の手によって作業は加速度的に進んでいった。

 

 

 

「それでは、夕刻に交代人員が到着次第、我々は帝都に帰還します」

「弾薬が無くては、自衛も難しいだろうからな」

「帰り道お気をつけて」

 

 帰還準備に目処が付いた群像は、イオナを伴って職員室にいた千冬とどりあに挨拶に来ていた。

 

「しばらくはコンゴウに任せる。頼りにはなる」

「できればもう少し加減を覚えてほしい所だがな」

「ええ、全く」

「大丈夫、その内覚えると思う」

「その内、か………」

 

 そこはかとなく不安を覚えるイオナの言葉に、千冬とどりあのみならず、群像も思わず苦い顔をする。

 

「………これはこちらからの提案なのですが、そちらからも誰か視察人員を送るのはどうでしょうか? あまり大人数は無理ですが、互いの状況を理解出来る人員がいた方が今後いいかと」

「なるほど、一理有るな」

「でも、だとしたら誰を…」

「は~い、私行くよ~」

 

 群像の意外な提案に、千冬とどりあが頷いた時、立候補する声が上がる。

 思わずそちらを皆が振り向き、いつからかそこにいた意外な立候補者に驚く。

 

「何を考えている、束」

「う~ん? 行くなら技術者が行った方がいいでしょ? それなら私が適任だし」

「確かにそうでは有るのですけど………」

 

 思いっきり訝しげな顔の千冬に束は平然と答え、どりあも少し困った顔をする。

 

「こちらは構いませんが………」

「今の状況で、あいつを私の目の届かない所には送りたくない。だが、現状を一番正確に把握出来そうな人員に他に心当たりが無いのも確かだ」

 

 群像が了承する中、千冬は更に表情を曇らせるが、一番妥当という点では確かに最適な人物でも有った。

 

「………向こうで妙な事するなよ?」

「ちーちゃんやだな~、東京見学に行ってくるだけだよ?」

「微塵も信用出来ない」

「あらあら。じゃあ他にも誰か付けたら?」

 

 冷めきった視線を束に向ける千冬だったが、どりあの一言に該当人物を思い当たる。

 

「一年一組、篠ノ之 箒、至急職員室に来るように」

 

 職員室備え付けの放送機での呼び出しに、程なくして箒が職員室に現れる。

 

「篠ノ之 箒、入ります」

「済まないな、急に呼び出して」

「構いませんが、御用は………」

 

 職員室にいる面子に、箒はそこはかとなく嫌な予感を感じつつ、一応聞く。

 

「実はこちらからも東京に視察人員を送る事になり、そこに立候補者がいる」

「は~い」

 

 千冬の説明に元気よく手を挙げる束に、箒の嫌な予感はMAXになる。

 

「で、あれを一人だけ送るのは危険過ぎるので、箒、お前も同行しろ」

「え?」

「お前なら分かるはずだ。出来ればアレの首に手綱を付けておきたいが、付けられる手綱が無い。だとしたら、鈴だけでも付けておく必要が有る」

「鈴、ですか………」

「それに、束が少しでも言う事を聞くのはお前だけだ。色々思う所が有るだろうが、重ね重ね頼む」

「………分かりました」

「ではすぐに戻って準備しろ、夕方までには出発するそうだ」

「今日中ですか!?」

「わ~い、姉妹旅行だね」

 

 驚く箒に、無邪気に喜ぶ束の声が重なる。

 

「さて、ではこちらからは誰を送りましょうか………あ、あの子にしましょう」

 

 その様子を見ながら、どりあはある人物を思い浮かべて手を叩いた。

 

 

「あの、何でオレに?」

「しばらくはセットフォーム許可が降りないでしょう? 担任の先生にはこちらから話を通しておくから」

 

 突然呼び出されたねじるが、どりあからの帝都行きの話に首を傾げる。

 

「だから何でオレに………? もっとランク上位のとかいっそどりすとか」

「自衛力が落ちてる現状で、ランク上位者を動かす訳にはいかないし、どりすちゃんは目離したらすぐサボるからダメよ」

「で、オレにお鉢が回ってきたって事ですか………」

「あなたなら、一時ランクから外れてたとはいえ、実力も確かだし、客観的に見てこれると思って。あ、何ならバイト扱いにしてもいいわよ? バイト代は私が出すわ」

「いや、そこまでしてもらわなくても………」

「それじゃ、受けてもらえるかしら?」

「どりあさんがそこまで言うなら………」

「じゃあ夕方には出発だそうだから、すぐに準備してきて」

「今日出発!? 今準備します!」

 

 あまりにいきなりの話にねじるは仰天するが、一応了承した以上、慌てて準備のために職員室を出ていく。

 

「人の事は言えないが、随分と強引な話だな」

 

 そばで見ていた千冬が苦笑するが、それにどりあは微笑で返す。

 

「腕は確かだし、根は真面目な子だから適任よ。それにランク上位の子はプライド高いから、客観的に見れない可能性があるわ」

「確かにな。下手に実力があるとランク争いで生き馬の目を抜く状況になりかねん」

「さて、自由に行き来出来るようになったらなったでどうなるのかしらね」

 

 一つの問題が解決しそうになったら、また別の問題が起こりかねない状況に、二人は嘆息するしかなかった。

 

 

 

「え? 箒さんが?」「東京に?」

「なんか急に行く事になったって。束さんの付き添い、というか監視役って今連絡が」

「監視がいる人なんだ………」

 

 一夏が携帯を手に先程来た箒からの話をクラスメート達に話す。

 一夏の肩で携帯を見たツガルは半ば呆れていた。

 

「先程の呼び出し、その件でしたのね」

「でもいきなりすぎない?」

 

 セシリアとシャルロットが驚くが、一夏は少しだけ考える。

 

「多分、行くっていったのは束さんの方が先だろ。で、あの人一人行かせるのは危険って事で千冬姉が箒も付けたんだと思う」

「確かに、篠ノ之博士って基本人の話聞かない人みたいだし」

「私がISを見て欲しいと頼んだ時は、怒鳴られましたわ」

「前は完全無視だったから、それでもマシになったんだよな~。基本、箒、オレ、千冬姉以外とは会話しようとしないし」

「そりゃ、心配になるよ………東京には歴戦のベテランが大勢いるって聞いてるし」

「その方々と揉めたら事ですし」

「なんか、私達の事はたまに変な目で見てるけど」

 

 ほとんど接触した事の無いシャルロットとセシリアですら束の奔放さに思わず唸る中、実例を知っている一夏は更に深く唸り、ツガルの訴えがそれに拍車をかける。

 そこに当の箒が教室に飛び込むように入ってくると、大急ぎで荷物をまとめ始める。

 

「ああ一夏、皆も少し留守にする事になった」

「束さんに同行するんだろ? 大丈夫か? 、束さんは箒と一緒なら少しは大丈夫かもしれないが………」

「自信は無いな」

「箒はいるか」

 

 バッグに荷物を押し込みながら複雑な顔をする箒だったが、そこで部下達と復旧作業に従事してたはずのラウラが教室に入ってくる。

 

「どうしたラウ…ぶふう!?」

「おい、それは………」

 

 そちらを見た一夏が思わず吹き出し、箒も絶句する。

 

「何だ二人共………」

「何かおかしい?」

「はて?」

 

 だが当のラウラ含め、シャルロットとセシリアは怪訝な顔をしていた。

 

「いやだってその頭の………」

「見えないのか?」

 

 一夏と箒は同時にラウラの頭上を指差す。

 だが首を傾げる三人のみならず、周囲のクラスメートですら不思議そうな顔をしていた。

 

「何がだ? ここに来るまでに帝都学園の生徒達も笑っていたのだが………」

「何もおかしい所無いよ?」

「確かに………」

「「え?」」

 

 ラウラも首を傾げるが、その拍子に彼女の頭上にいた者、艦娘達の妖精が転げ落ちそうになってラウラの髪にしがみつく。

 

「そっか、それが妖精という奴か」

「見える人と見えない人がいるとかって、アレ?」

 

 ラウラの頭上の妖精が、自分を指差し、見えているらしい事を確認すると、両手で丸を作る。

 

「え~と、何か言いたいんだろうか?」

「さあ?」

「あの、本当にいるの?」

「何も見えませんわよ?」

 

 一夏と箒が妖精の行動に困る中、セシリアとシャルロットは目を細めてラウラの頭上を凝視するが、やはり二人は何も見えない。

 そこでラウラは何か納得したのか手を一つ叩く。

 

「ああ、そういう事か。箒に見えたら連れてきてくれとは言われていたが」

「誰に?」

「艦娘の加賀という人から、準備が出来たので連れてきてほしいと」

「何のだ? こちらは忙しいんだが………」

「大丈夫、すぐに済む」

「だから何を…」

 

 

 

「………あれ?」

 

 巫女装束で大幣(たいへい)を手にした箒が、目の前に用意されている祭壇を前に、首を傾げる。

 

「そういう事だから、よろしく」

 

 大幣を渡してきた加賀は、一言そう言うと祭壇へと箒を促す。

 忙しい中急に連れてこれらた先には、黒ウサギ隊が中心となって急遽建立(こんりゅう)された神社が建っており、その最後の勧請(かんじょう)を任された箒がようやく我に帰る。

 

「あの、私は正式な巫女というわけでは………」

「他に適任者がいないの。本来なら艦娘の砲撃によって禊とするのだけど、今回は数が多かったから、瘴気が堪らないように、浄化の拠点が必要だったの」

「それにしても………」

 

 説明する加賀だったが、箒はちらりと隣の方、こちらも急ごしらえの教会で礼拝を行っているシスターエリカの方を見る。

 複数の生徒達の前で祈りを捧げているシスターエリカだったが、その頭の上に何故か白いローブに翼、輪っかまで付けた天使コス(提供 簪)のアルトアイネスまでもそれに習って祈っていた。

 

「和洋折衷過ぎじゃ………」

「ここは海外の子も多いんでしょう? 多分必要になるから」

「それに、私はこの後東京に…」

「聞いてるわ。勧請(かんじょう)さえしてもらえれば、体裁は整うから」

「後は任せてください!」

 

 有無を言わせぬ加賀に、背後にいた建造責任者のクラリッサ(何故か巫女装束)が胸を張る。

 その後ろに控える黒ウサギ隊員達は半数がシスター服、もう半分が巫女装束だった。

 

「お二人が帰られても、私達が運営するので!」

「………店番とは違うと」

「とりあえずお願い。祝詞(のりと)読める?」

「い、一応………」

 

 加賀に完全に押し切られ、箒は半ばうろ覚えで祝詞の奏上(そうじょう)を始める。

 

(向こうから戻ってくる頃には、ここはどうなっているんだろう?)

 

 そこはかとない不安を感じつつ、箒は一応勧請を行った。

 

 

 

「そういう事だから、ヒュウガはここに残って」

「どうしてですかイオナ姉様~!」

 

 むせび泣きながらすがりつくヒュウガを、イオナは淡々と引き剥がそうとする。

 

「これの設置が終わるまで、人手、いえ機械手かしら? は必要ですし」

「そういう事」

「せっかくご一緒出来てたのに~」

 

 脇でその様子を見ていた狂花の説明にイオナは頷くがヒュウガの様子は変わらない。

 

「蒔絵達も残るから、一人じゃない」

「そんなのはどうでもいいですわ~」

「アレ、大丈夫?」

「仕事は出来るようですから、放っておきましょう」

 

 イオナにしがみついて離れようとしないヒュウガを亜弥乎が不思議そうな顔で見るが、狂花は無視して設置作業を続ける。

 

「もう直、Gからの追加人員が到着するから、そうしたら私達は出発する。向こうでの作業が一段落したら、蒔絵やハルナ達も手伝うって言ってた」

「こちらは任せてくださいですわ」

「ユナもここに来てみたいと言ってたから、急いでやるよ」

「お姉さま~………」

 

 ヒュウガをなんとか引き剥がしながら、後を頼むイオナに狂花と亜弥乎は頷く。

 

「さて、今日中に仮起動までは持っていきますわよ」

「うう、コンゴウに今動力の調整プログラム送る………」

「出力注意してね」

 

 半泣きのヒュウガを叱咤しつつ、転移装置の設置作業は着々と進んでいた。

 

 

 

「はい、着替えとか一式用意したけど、サイズ大丈夫?」

「問題ない、本部のデータと一切変わっていない」

 

 亜乃亜は学園の在庫からあれこれ用意してきた物資を渡すが、エスメラルダは無愛想にそれを受け取る。

 

「エスメは間食とか全然しないしね~」

「悪いわね、急に来たのにまた別の任務なんて」

「任務なら当たり前、気にしないでほしい」

 

 着替え以外(※主にどこかからかき集めたお菓子類)を大量に持ったポイニーが笑って説明し、ジオールが申し訳なさそうに声を掛けるが、エスメラルダは無愛想なままだった。

 

「私も行ければいいんだけど………」

「まだロードブリティッシュは修理中だろう、仕方ない」

 

 エリューが心配そうに声を掛けるが、エスメラルダの態度は変わらない。

 

(なんか、エスメラルダさんってクールですね、やたら………)

(元からだけど、私達相手だと一際よ。トロンさんは元は彼女のチームだったんだけど、こちらの配属になったのをあまり快く思ってないらしいの)

 

 小声で呟く亜乃亜に、ジオールは少し困った顔で説明する。

 

「潜水艦に乗るのなんて初めて~」

「交代人員の到着は?」

「今ティタが迎えに行ってるから、そろそろのはず………」

 

 臨時飛行場にしているトラックで、ジオールが上空を見ると、こちらに向かってくる三機の影に気付く。

 程なく、三機のRVが彼女達の前に着地した。

 

「連れてきた」

「ご苦労さま」

 

 ティタに続いて、二人の天使がその場に降り立つ。

 

「ほう、これが丸ごとな………某は月士 華風魔、この間大天使に昇格した者じゃ」

 

 赤いRVから降りた、赤毛を結い上げて二つに分け、胸にはサラシ、腰には刀と腰鎧を装着し、どこか古風な話し方をする少女、華風魔が周囲を見回しつつ、挨拶する。

 

「同じく大天使、ココロ・ベルモントです。G本部からの依頼で、転移施設の警備に配属されました。以後、ジオール・トゥイーさんんの指揮下に入ります」

 

 赤茶色のRVから降りた、栗色の髪を短く切りそろえ、腰にムチを帯びた幼い外見の割に落ち付いた口調で話す少女、ココロが着任の挨拶をする。

 

「二人共よく来てくれたわ。状況がだいぶ混乱してて、人手が足りなくて困っていたの」

「聞いておる。物騒な船幽霊が出たとな。ちゃんと準備はしておる」

 

 そう言いながら、華風魔は腰の鎧部分をまさぐり、そこから底の抜けた杓子を取り出す。

 

「それではダメです。ちゃんと水から引きずり出し、トドメを刺さないと」

 

 今度はココロがそう言いながら、腰のムチを一振るいし、どこかからヤケにごついロザリオを構える。

 

「………え~と」

「本当に大丈夫?」

 

 リアクションに困る亜乃亜だったが、エスメラルダが確信をぶち抜く。

 

「腕は本部の保証済みよ。それに、相手いかんによっては彼女達の技術が必要になるわ」

「杓子が?」

 

 ジオールがフォローするが、そこでティタが更なる確信をぶち抜く。

 

「それでは、私達はイー401警護に着きます」

「後よろしくね~」

「こちらは任せてもらおう」

「邪悪は殲滅します」

 

 出発予定時刻が迫っていたため、エスメラルダとポイニーはイー401へと向かい、華風魔とココロを含めた皆がそれを送り出す。

 

「帝都への帰路で何も無いといいんだけど………」

「あくまで彼女達を乗せたのは用心のためよ。基本は何か有っても逃げる事になってるし。学園からも生徒が二名、研修って事で乗るそうだから」

 

 Gでも有数の天使である二人が乗るといっても、前回の襲撃の事を思い出したエリューが心配そうに呟くが、ジオールが安心させるためにあれこれ告げる。

 

「出発までまだ時間ありますよね? 私この二人に学園案内してきます!」

「お願いね。RVはこちらで格納しておくから」

「それはすまぬな」

「お願いいたします」

 

 亜乃亜が華風魔とココロを案内していくが、そこでティタがじっと上空を見つめているのにジオールは気付いた。

 

「どうかした?」

「見てる」

 

 そう言われて、ジオールは思わず自分も上空を見る。

 

「敵!?」

「敵違う、ただじっと見てる。逃げた」

 

 慌てて学園に知らせようかと思ったジオールだったが、ティタの言葉にとりあえず保留する。

 

「敵じゃない、としたら彼女達ね」

「たまに見てる、遠くから」

「そういう事は早めに教えてね………」

 

 ティタに少し呆れつつ、ジオールは格納作業を始めた。

 

 

 

「………どうやら、この距離でも気づかれていたようですね」

 

 高度20000m、宇宙と地球の間にいた淡い緑のウェーブのかかった髪をした戦闘妖精が、じっとこちらを見ていたティタに少し驚く。

 

「私達の存在にもすぐ気付くような人達が何人もいる。しかし敵対の意思は無い。お人好しの集合体、と彼女は言っていたけれど、同時に油断できない相手だった、とも」

 

 呟きながら、その戦闘妖精は身を翻してその場から離脱する。

 

「メイヴちゃんの言う通り、私達は最早観察者ではいられないのかもしれない………FFR―31MR/D、帰投します」

 

 

 

「ずる~い」

「はいはい、分かったから」

 

 むくれるどりすを、つばさがなだめる。

 イー401の出港を見送るため、多くの者達が艀へと来ていたが、そこで初めてねじるの東京行きを聞いたどりすはへそを曲げていた。

 

「私も行ってみたい~!」

「ま、そら皆行ってみたいやろけど」

「あくまで研修です。レポートの提出義務も有るとか」

「つうかこっちもいきなりで驚いてるよ。土産買ってきてやるから」

 

 のぞみとサイコもどりすをなだめる中、当のねじるもどこか困惑気味だった。

 

「お姉ちゃん」

「ねじり、留守の間は先生達の言う事聞いてな。何か有ったらどりすに押し付けろ」

「分かった。気をつけてね」

 

 心配そうに見送る妹の肩をたたきながら、ねじるは笑みを浮かべて見せる。

 

「もう直出港しますから、忘れ物が無いようにしてくださいね~」

「は~い」

 

 乗降用タラップから声をかけてくる静に、何故か大荷物の束が元気よく答える。

 

「姉さん、何をそんなに………」

「ん~? 色々ね~、箒ちゃんと旅行なんて小さい時以来だし」

「まあ、そうだけど………」

 

 やけに乗り気な姉に、箒は言葉を濁す。

 

『そういう事だから、クーちゃんお留守番お願いね♪』

『分かりました、束様』

 

 専用回線で密かにクロエへと連絡を送りつつ束はイー401へと乗り込んでいった。

 

「それじゃ、色々迷惑かけたわね」

「いえ、色々助けられたし」

 

 挨拶するミサキに、楯無はにこやかに手を差し出し、二人はそれを握り締める。

 

「多分、またすぐ来る事になると思うわ」

「こちらから行く事になるかもしれないしね」

 

 互いに再開はすぐであろう事を察し、苦笑。

 だがそこで、手を握りしめたまま楯無の指が他者から分からないように一定の法則で動く。

 

(フィンガーサイン? シノノハカセニチュウイシテ、メヲハナサナイヨウニ)

 

 それが信号だと気付いたミサキの指が素早く返答を送る。

 

(リョウカイ、カヤマタイチョウカラモイワレテル、ね)

 

 手を離した二人が、一見にこやかに別れていくが、その裏ではすでに次の情報戦が始まっていた。

 

「それじゃまたね~」

「おい、ハッチ締めるぞ!」

 

 見送りの者達に元気よく手を降っていた音羽を僚平が引っ込め、ハッチが締められる。

 

「総員敬礼!」

 

 ラウラの号令と共に、整列していた黒ウサギ隊(なんでか巫女装束orシスター服のまま)が一斉に敬礼し、それを合図とするようにイー401が出港していく。

 

「ようやく一段落、と言った所かしら」

「一段落、だがな」

 

 遠ざかっていく艦影を見送りつつ、どりあと千冬はぽつりと呟く。

 

「転移装置はまだ設置途中のようだし、二回の襲撃で弾薬や整備部品の不安も出てきている」

「こちらはブリッドがもう学園中探しても数個しか出てこないわ。次がすぐに起きない事を祈るだけね」

「その時は任せてもらおう」

 

 いつからいたのか、二人の背後にいたコンゴウが声をかけてくる。

 

「失礼だが、信用していいのか?」

「貴方は前に蒼き鋼と敵対していたそうですけど………」

「401には借り、という物がある。大きな借りだ。だから彼女から頼まれた以上、ここを護るのはやぶさかではない」

「意外と義理堅いんだな」

「周王に、私はまだ子供だと言われた。そういう言葉は最近覚えたばかりだ」

「何なら、貴方も授業を受けてみたら?」

「考えておこう」

 

 コンゴウの冗談かどうかも分からない返答を聞きつつ、二人は思わずため息を漏らすしかなかった。

 

 

 

異なる世界 呉鎮守府

 

「敵機確認、撃てぇ!」

 

 褐色の肌にサラシ姿という、かなり大胆な格好をした大和型二番艦・武蔵の号令と同時に、居並ぶ艦娘達が一斉に砲撃を開始する。

 

「こいつらか、横須賀を襲撃した正体不明の敵と言うのは!」

「いや、報告とはどこか違うわ。深海棲艦じゃないって事は一緒だけど」

 

 先日届いたばかりの情報を思い出す武蔵だったが、その隣で軍帽を被り、ドイツ風の軍服をまとったBISMARCK級 1番艦・ビスマルクが砲撃が直撃しても向かってくるそれを凝視する。

 

「武蔵殿、ビスマルク殿! あの敵らしき物、先程の砲撃の破損で中に赤い玉のような物を自分の観測機が見かけたそうです! 弱点では!?」

 

 二人のそばに来た、陸軍風の軍服をまとった特種船丙型 揚陸艦・あきつ丸が観測機の妖精からの報告を上げてくる。

 

「だが、塞がっていくぞ」

「なら、また露出させればいいだけよ」

 

 相手の破損がみるみる修復されていく事を確認した艦娘達だったが、その中でも最大級の火力を誇る武蔵とビスマルクは不敵な笑みを浮かべる。

 

「戦艦、重巡は砲撃で装甲を破壊! 軽巡以下は内部の玉とやらを狙え!」

「来るわよ!」

 

 そこで、その謎の敵、大型の航空機にも見え、黒光りする表面に赤い光がたまに光るとそこから閃光が放たれる。

 

「光線兵器だと!?」

「我が国でも開発してないわよ!?」

 

 放たれた閃光を僅かに食らいながら、武蔵とビスマルクは驚愕する。

 

「駆逐以下の装甲の薄い奴は重巡以上の背後につけ! かなりの威力だ!」

「どこから来たのよ、こいつ………」

 

 奇怪過ぎる敵に、武蔵は素早く陣形を組み換え、ビスマルクは次弾装填を急がせながら呟く。

 

「まるで、この世の物とは思えませんな………」

 

 あきつ丸の呟きが、当たっている事を知る者はその場には誰一人いなかった。

 それが、ネウロイと呼ばれる異世界の敵であるという事を………

 


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