第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP05

 

「来る………!」

 

 美緒は気力を奮い立たせ、霧の竜巻から出てくる物を凝視する。

 

「な………何ですのあれは………」

 

 隣に立つ光武二式の中で、同時にそれを見たすみれは、ただ絶句するしかなかった。

 それは、あえて言えば海洋生物のマンタを上下に重ねたような双翼を持った存在だった。

 距離感が狂いそうな巨体を持ったそれは、他の敵同様に全体を明滅させながら振動させ、その異様さを更に際立たせていた。

 

「全長約600m、全幅約1200m! 敵の空中母艦と思われます!」

「何かいっぱい出てきてる! 間違いなくあれがボス!」

 

 即座に出現した巨大な敵のデータを解析したエグゼリカと亜乃亜が、予想以上のスケールに愕然とする。

 

「ふふ、ミカサより小さいですわね………」

「ミカサ、戦艦三笠の事か?」

「正確には超弩級空中戦艦ミカサ、帝国華撃団の切り札、だった船ですわ」

「だった、か」

「ええ、前回の戦いで暴走、損傷し、完全封印されましたの」

「じゃあ意味無いじゃん!」

「それ以前に、この時代の船では歯が立たんだろう」

 

 僅かに声が震えているすみれの説明に、亜乃亜が思わず声を上げるが、美緒は冷静に状況を分析していた。

 

「………永遠のプリンセス号をここに転移させる事は可能かな?」

 

 険しい顔つきをした宮藤博士の問いに、エグゼリカと亜乃亜は顔を見合わせる。

 

「永遠のプリンセス号の修復は完了していますが、あのクラスの次元間転移ともなると、かなり準備が必要かと………」

「そもそも、ミラージュに連絡してたっけ?」

「いえ。彼女に伝えたら、間違いなくユナさんに筒抜けなので………」

「つまり、間に合いそうにないという事か」

 

 唯一対抗出来そうな存在の参戦が難しい事を悟った宮藤博士は思わず生唾を飲み込む。

 

(あれに対抗できる戦力が必要だ、だが、今ここには存在しない。永遠のプリンセス号到着まで、持ち堪えるだけの戦力も………)

 

「何あれ!」

「まさか、空中母艦………」

「デカ過ぎ!」

 

 再出撃のためにナノスキンの再塗布を準備していたソニックダイバー隊が、出現した敵母艦に気付き、口々に声を上げる。

 

「せめて、反応兵器でもあれば………!」

「オペレッタに救援要請! 他のチームの天使達も増援に…」

「待ってください! 次元歪曲、重力子反応がまだ収まってません! 他にも何か転移してきます!」

「何だと!?」

「反応は………すぐそばです!」

 

 瑛花と亜乃亜が何か手は無いかと試行錯誤していた時、エグゼリカが更なる転移反応に気付き、誰もが驚愕する。

 

「反応は空中母艦よりも小さいですが、かなり巨大です! しかもこれ、水中!?」

「水中って、沈没でもしてるんですの!?」

「あれ見て!」

 

 亜乃亜が指さした先、そこに彼女達が使った転移ホールのような物が現れ、海面が激しく荒れ狂う。

 

「今度は何!?」

「何か来た!」

「あれは、潜水艦?」

 

 海中に何か影のような物を見た者達が、口々に叫ぶ。

 やがて体勢を立て直すためか、転移してきたそれは艦首を大きく持ち上げ、そのまま艦体を安定させるように海面に浮上する。

 それは目の覚めるような蒼い艦体をした、一隻の潜水艦だった。

 その艦橋部分に、部隊章なのか、鳥を模したロゴと艦船名がある事に何人かが気付く。

 

「BLUE STEEL、蒼き鋼?」

「イー401、だと?」

 

 

 

イー401 ブリッジ内

 

「船体、安定しました!」

「被害報告!」

「兵装関係、問題ねえ!」

「センサー系及び通信機器、正常稼働中!」

『動力炉、急速冷却中! 何がどうなったの!?』

 

 ブリッジ内で矢継ぎ早に報告が告げられる。

 だがその報告を上げている者も聞いている者も、誰もがまだ10代と思わしき若者ばかりだった。

 

「イオナ」

「原因不明。私に分かるのは重力エンジンが突然暴走した事、そして空間の異常湾曲に飲み込まれた事だけ」

 

 報告を聞いていた、ダークスーツを着て負傷しているのか、右腕を固定している少年と青年の中間期の年齢と思わしき男に、その隣にいる座席にも座らずブリッジの一部に座り込んだ、長い銀髪の青いセーラー服の10代半ばくらいの少女が答える。

 

「待ってください! 戦闘音確認! 大規模な戦闘がそばで発生しています!」

 

 ソナー席に着いていた、メガネに長い黒髪の少女が予想外の事に驚きながら報告する。

 

「霧か!?」

「いえ、違うようですが………」

「待ってください。先程までいた場所とは水深が浅すぎます。それに、すぐそばに陸地があるようです」

「な!? ハワイにつくのは明日のはずだぜ!」

 

 艦長と思わしきダークスーツの男の質問にソナー手の少女は首を傾げるが、そこへ副長席に座った頭部を完全に機械仕掛けのマスクで覆っている風変わり過ぎる男が周辺の探索結果を報告、火器管制席に座っている褐色の肌をしてゴーグルを掛けた男が思わず声を上げる。

 

「映像出せるか」

『任せて艦長』

 

 ブリッジ内の大型モニターに写っていた青い長髪を結い上げた女性が喜々として外部の状況を観測し始める。

 

『………何よコレ』

「どうしたタカオ」

『いや、その………取り敢えず映すわね』

 

 眉根を寄せたタカオと呼ばれた女性が、困惑しながらも外の映像を映し出す。

 そこには、炎上する町並みと、それを守って戦っている見た事も無い装備を使っている者達、そして始終その機体を明滅、振動させる奇怪な敵の姿だった。

 

「何だぁ!?」

「こ、これは何と言えば………」

「えと、本当にこれ外で起きてる事なんですか?」

「タカオ」

『映像補正以外の加工は一切してないわ。紛れも無く、事実よ』

「こちらでも確認した。ここはどこかの都市の近海、そして戦闘中」

 

 ブリッジクルーが驚愕する中、銀髪の少女・イオナもそれを肯定する。

 

「あ、外部から通信です! すぐそば、って隣?」

「確かに、何か施設があるようですが」

「繋げてくれ」

 

 混乱しているブリッジ内で、艦長は少しでも情報を得るべく、通信を受諾する。

 

『あ、繋がりました! こちら人類統合軍、ソニックダイバー隊! そちらの潜水艦の方々、所属をお願いします!』

「人類統合軍? 統制軍ではないのか?」

『あ、そっちだとそういう組織なんですね』

「そっち?」

 

 通信をしてきた若い通信手の言葉に、ブリッジクルー達は全員首を傾げる。

 

「こちら蒼き鋼、旗艦イー401。オレは艦長の千早 群像だ」

『蒼き鋼、それがそちらの組織名と取っていいいんですね。長官、転移してきた潜水艦と繋がりました』

『初めまして蒼き鋼の諸君、私は人類統合軍極東方面軍、門脇 曹一朗中将だ。恐らく事情を理解していないだろうが、聞いておく事がある。現在、我々は所属不明の敵群と戦闘中だ。貴艦はそれと交戦可能な戦闘力を持っているか』

「それは…」

 

 艦長の群像が、中将を名乗る老将の問いに答えようとした時だった。

 

「艦長、どうやら部外者ではいられないようだ。攻撃している敵の一部が、こちらに向かってきている」

 

 長い金髪をツインテールにし、体が見えない程大きなコートを着た女性が敵襲を告げてくる。

 

「問題無い、対空迎撃用意!」

「了解!」

『こっちはまだ冷めるのにかかるわよ! しばらくマトモに動けないと思って!』

「それ以前に水深が浅すぎます。潜行は難しいでしょう」

 

 機関手らしき、短い金髪ツインテールの少女の報告に、マスクの副長の報告が重なる。

 

「接近中の物体から発射音確認! ミサイルのようです!」

「警告も無しに攻撃かよ!」

「撃ち落とせ!」

「あいよ!」

「市街地上空に大型反応! 空中空母と思われます!」

「一体何が起きてんのよ………」

 

 ブリッジ内がにわかに慌ただしくなり、矢継ぎ早に指示と報告が入り乱れる。

 

「門脇中将、どうやら我々も同じ敵に狙われているようだ。現在、自衛のための戦闘を開始した」

『こちらでも確認できている。どうやら君達は高い技術と戦闘力を所持しているようだな。なら理解出来ているだろう。我々と、この町は圧倒的脅威にさらされている。不可解な状況で無理な話とは思うが我々への協力を要請したい』

「…少しだけ精査と考える時間をいただきたい』

『了解した』

 

 通信を一時的に打ち切った群像は、クルーたちが次々と報告してくる周辺状況を脳内で熟考する。

 

「空中空母の映像出ます!」

「でけぇ! 合体したコンゴウ並じゃねえのか!?」

「問題はそこじゃないわね、ジャミングのせいか、中身の構造が分からないわ」

 

 皆が驚く中、白衣姿にモノクルをかけた女性が己の周囲にグラフサークルのような物を発生させ、空中空母を解析していく。

 

「ヒュウガ、なんとか解析出来ないか?」

「やってはみてるけど、とんでもなく固いわね。私ら以上の演算力持ってるわよ」

「周辺の小型機も同様だ。こちらは解析出来ないわけではないが、精査できない」

「一体何だこれは! ここはどこで何が起きてるんだ!」

 

 コートの女性も己の周囲にグラフサークルを発生させ、小型機の解析を試みる。

 その隣りにいた、大きなクマのぬいぐるみがなぜか怒鳴りながら地団駄を踏んだ。

 

「群像、すぐそばに私達に似た存在がいる」

「何?」

「接触してみる」

 

 そう言いながら、イオナは意識をその存在に飛ばしてみた。

 

 

 

「え!? これは、まさか概念伝達!? そんな、トリガーハートでも仮設しかされなかったのに………」

 

 エグゼリカは突然視界が変わり、自分が庭園のような場所にいる事、そしてそれが高度な電子空間である事に同時に気付いた。

 そしてその中、白いテーブルとそこに座る長い銀髪の少女が居る事にも。

 

「私は霧のイオナ。イー401のメンタルモデル。あなたは?」

「私はTH60 EXELICAです」

 

 イオナと名乗った少女に、エグゼリカは自分も名乗り返す。

 

「メンタルモデル………そっか、貴女はイー401のAIですね?」

「そう考えてもらっていい。エグゼリカ、私達は突然ここに来た。何が起きてるか教えてほしい」

「えと、私達もさっき来た所で………今データを回してもらいます。あ、これを」

 

 エグゼリカは各所からのデータと、前回の戦闘の詳細をまとめたデータをキューブ上のデータブロックにしてイオナに手渡す。

 

「すいません、今忙しいのでこれで!」

「一つだけ教えて。貴女は、何故戦ってるの?」

 

 概念伝達を切ろうとしたエグゼリカに、イオナは問いかける。

 その問に、エグゼリカはチルダにいた時は考えもしなかった言葉を告げた。

 

「友達を、助けるために」

 

 それだけ言って、エグゼリカは概念伝達を切る。

 

「………タカオ、ハルナ、キリシマ、ヒュウガ」

 

 イオナの呼びかけに応じるように、青い長髪の女性・タカオ、コートの女性・ハルナ、くまのぬいぐるみ・キリシマ、白衣の女性・ヒュウガがその場に現れる。

 

「何か分かったの?」

「これを」

 

 タカオの問いに、イオナは渡されたデータブロックをコピー、全員に渡す。

 受け取った四人はそれを解析、全員が一斉に首を傾げる。

 

「おい、これは何の冗談だ」

「多分冗談じゃない」

「幾らイオナ姉様でも、これはちょっと」

 

 キリシマとヒュウガが流石にあまりにも理解不能なデータに懐疑的になるが、イオナは素直にその内容を受け止める。

 

「で、これ艦長にどう伝えるの?」

「そのまま言う。群像は少しでも情報を欲しがっている」

「信じてくれればいいがな」

 

 タカオとハルナも困惑するが、イオナは事実として受け止めていた。

 そして、五人の意識がリアルへと移行する。

 

 

「データをもらってきた。ここは太正十八年 帝都東京近海」

「何っ!?」

「おいおいイオナちゃん、担がれたんじゃねえか?」

 

 唐突なイオナの発言に、群像は思わず声を上げ、火器管制手の橿原 杏平は呆れた顔をする。

 

「太正十八年、大正なら十五年までのはずですが。もし本当なら、130年前という事になりますね」

 

 マスクの副長・織部 僧が冷静に年号を計算し、導き出された年数に群像の顔が険しくなる。

 

「実は先程から気になってたのですが、通信電波にすごい古い型のアナログ波が多いんです。もしこれがここで軍用に使われてるとなると、ひょっとしたら本当に過去なのかと………」

 

 おずおずとソナー手の八月一日(ほづみ) 静が手を挙げる。

 

「マジかよ………」

「正確には、130年前に相当する異世界。エグゼリカはそう教えてくれた」

「異世界? パラレルワールドだとでも言うのか?」

『あの、イオナちゃん? 杏平に何か変なアニメ見せられなかった?』

 

 機関手の四月一日(わたぬき) いおりが恐る恐るイオナに聞くが、イオナは首を左右に振る。

 

「ねえハルハル、これ見て」

 

 ブリッジ内で一番若い、というか小学生にしか見えない少女が自分の席の前の画面を指差す。

 そこには、体の各所から蒸気を吹き出しつつ奮戦する、彼女の知識にも無いパワードスーツの姿が有った。

 

「これって、ひょっとして蒸気機関? 何か他のエネルギー源も並列使用してるっぽいけど」

「蒸気機関? 蒸気の圧力を使うという最古の外燃機関の事か?」

「マジかよ………蒸気機関の実物なんぞ見た事ねえぞ………」

「周りのもどうやって動いてるかよく分からないのばっか………あ、この変形するのはなんとか分かる」

「蒔絵に分からないとなると、確かにこちらには存在しない兵器群と考えられるな」

 

 幼い少女・刑部 蒔絵の説明に、隣にいたハルナがある結論に辿り着く。

 

「つまり、ここは太正十八年が存在するパラレルワールド、という事ですか」

「エグゼリカはもっと違う世界から来たらしい。バラバラな装備を使っているのは全て違う異世界から来たせい」

「信じたくはないが、信じるしかなさそうだな………」

 

 群像は謎の敵と戦う者達、蒸気機関のパワードスーツ、可変型飛行骨格、獣耳を生やして脚部に飛行ユニットを装着した者達、生身とは思えない高速機動ユニットを装着した者達、大火力の騎乗型ユニット、個性的なバトルスーツをまとった者達、そして手の平サイズとは思えない攻撃力を誇る人形、どれもが見た事も聞いた事もない装備に、改めて認識を変える事にした。

 

「これより蒼き鋼は、謎の敵との全面攻勢に入る。各所に通達! 現在の戦況を送信してもらえ!」

「了解しました。こちら蒼き鋼、これよりそちらに助勢します! 戦況を送ってください!」

『こちらソニックダイバー隊、了解しました! すぐに送ります!』

 

 送られてきた戦況図に、群像の表情が険しくなる。

 

「空と陸、両方に敵群。上空には大型母艦か………」

「目的は戦闘中の部隊の鹵獲? これだけの戦力を展開して鹵獲とは、妙な話ですね」

「じゃあなんでこっちにも攻撃してくんだよ! 明らかに目付けられてるぜ!」

「こちらも鹵獲対象として目を付けられた、という事だろう」

「勘弁してくれよ、霧だけで手一杯だってのに………」

 

 向かってくる飛行型に、イー401の滅多に使わない対空兵装で迎撃している杏平が思わず愚痴る。

 

「現在の状況を打開しない事には、どうにもならない。いおり! 動力炉の冷却状況を!」

『まだまだかかるわよ! なんでここまで負荷かかったんだか! まともに動かせるまででもあと10分はかかるわ!』

「水深が浅くて潜る事も無理ですね、ここで釘付けという事ですか」

「むしろ好都合だ。イオナ、市街戦の方、援護出来るか?」

「難しい。複数勢力が乱戦状態の上、敵は始終ジャミングを掛けてる。しかも家屋の半数が木造、私の兵装だと延焼を招く可能性がある」

「木造って、こんな都市部で………」

「誘導兵器の類は誤射の可能性ありか………」

「どうする、艦長」

 

 ハルナに言われた群像は、そこでふとメンタルモデル達を順に見ていく。

 

「この手しかないか」

「あれか、大丈夫かよ?」

「あの中に混じっても、違和感無いと思いますが」

「それはそうかもしれませんけど………」

 

 

 

「弾薬届いたぞ!」

「すぐに給弾しろ! 急げ!」

「イー401が護衛してくれている! 安心して補給作業を!」

「それにしてもすごい船です事」

 

 ようやく転送されてきたソニックダイバー用の弾薬が大急ぎで分配される中、美緒とすみれは警戒を続けつつも、イー401の圧倒的な戦力に目を見張っていた。

 

「うひゃあ、すごい重装備。潜水艦ってあんなに色々付いてるんですね~」

「おかしいです、水中専用の戦闘艦に光学兵器なんて………水上戦も想定してるんでしょか?」

 

 亜乃亜も驚く中、エグゼリカは違和感を感じていた。

 

『こちらオペレッタ、カルナダインの転送準備が整いました。転送座標を送信してください』

「カルナダインが! 現状で転送出来る安全圏は…」

 

 オペレッタからの通信に、エグゼリカは慌てて周辺をサーチする。

 

「イオナさん! 私達の旗艦が転移してきます! そちらの後方に座標指定しますけど、いいですか!?」

『問題無い。今ちょうどいい囮が出る』

「囮?」

 

 エグゼリカがイオナからの返信に首を傾げた所で、イー401のミサイル発射管が開き、そこから大型の巡航ミサイルが発射される。

 

「ちょっと!?」

「何を発射した!」

「帝都に向けてなんて物を!」

 

 亜乃亜、美緒、すみれが全員驚くが、すぐに通信が入る。

 

『大丈夫です、中身は抜いてあります。代わりの物が入ってますが』

「代わりって………」

「あの、なにかおかしな動きをしてますけれど?」

 

 静の説明に、亜乃亜が疑問を浮かべるが、すみれは発射されたミサイルが敵の飛行型の攻撃を巧みに避け、時たまフィールドを張っている事に気付く。

 

「誰か入っているのか、あの中に?」

「え? ミサイルですけど………」

 

 美緒の指摘が間違ってない事を知るのは、そのすぐ後の事だった。

 

 

 

「司令! 上空に飛来物体!」

「巡航ミサイル!? 私達ごと吹っ飛ばす気!?」

 

 奮戦していた陸戦部隊の中、マリアとエリカが同時に飛来する大型ミサイルに気付く。

 

「大丈夫だマスター、推進剤以外の危険物は入っていないようだ」

「つまり、空って事かい?」

「いや、別の物が入っているらしい」

 

 サーチしたプロキシマの助言と、上空にいる空戦部隊が何故か攻撃しない事に大神は飛んで来るミサイルは危険ではないと判断、直後にちょうど真上でミサイルの弾頭が分離、分解してそこから何かが落下してくる。

 

「おい、高過ぎる!」

「パラシュートも無しに!?」

 

 エリカ7の闘魂のマミとストライカー・ルイがそれが人影らしい事と、生身で落下するには高度がありすぎる事に驚くが、更に予想外の事に、人影は落下速度を緩める事もパラシュートすら無しに、地面へと自由落下。

 真下にいた敵の陸戦型を巻き込み、粉砕しながら着地する。

 

「え………」

「無事か!?」

 

 ポリリーナも絶句し、大神が慌てて駆け寄ろうとするが、平然と人影は立ち上がった。

 

「き、君達は一体?」

「私達は霧の艦隊のメンタルモデル。私はイオナ」

「ハルナだ」「キリシマだ!」

「ヒュウガよ」

 

 生身なら死傷確実の所業を平然と行った青いセーラー服の少女、分厚いコートを来てクマのぬいぐるみを連れた女性、卵型のポッドから出てきた白衣姿の女性に、全員が唖然とする。

 

「そうか、君達はアンドロイドとかいう存在か」

「少し違うが、そう思っても構わない」

「アンドロイドを知ってるの!?」

「前に共に戦った者達の中に、何人か人間そっくりの機械っていう人達がいたんだ。彼女達もかなり先の未来から来たんだろう」

 

 大神がメンタルモデルを人でない存在とあっさり認識した事にポリリーナが思わず聞き返す。

 

「興味深い話だ。だが、聞くのは後回しのようだ」

「来るぞ!」

 

 ハルナもその話に興味を持つが、敵がメンタルモデル達を敵と認識したらしく、即座に包囲を狭めてくる。

 

「随分と奇妙な連中です事。生体反応はありませんが、無駄に有機的な動きですわ」

「無人なら遠慮しなくていいと群像が言っていた」

「分かりましたイオナ姉様~♪」

 

 ヒュウガが喜々としてイオナに猫なで声で答えると、片手を持ち上げてそこから伸びるレーザーストリングが、乗ってきた卵型ポッドを操作、ポッドの一部がレーザー砲へと変形して迫る陸戦型へと発射される。

 

「変形、いや完全に変化した?」

 

 ポリリーナがあまりに唐突なヒュウガの攻撃に違和感を覚えるが、それだけに留まらなかった。

 

「じゃあ行く」

 

 右手にドリルを思わせる小規模フィールドを発生させたイオナが陸戦型に突撃、小柄な体躯と細い腕から繰り出された一撃が、不釣り合いなまでの異常な破壊力で陸戦型の一体を貫いた。

 

「な………」

「とんでもない破壊力だな………」

 

 さすがに大神も絶句し、プロキシマも自分の事を棚に上げて驚くが、驚愕は更に続く。

 

「数だけは無駄に多いな」

「問題無い。潰れろ」

 

 キリシマが周辺の敵機をカウントし、ハルナがそれに照準、直後にそれぞれの敵に黒い光球が出現し、それに引き込まれるように陸戦型はひしゃげ、押し潰されていく。

 

「重力子攻撃!? こんな小規模な!?」

 

 観測装置片手の教養のエミリーが、観測結果から出た光球の正体に愕然とする。

 メンタルモデル達の圧倒的な戦闘力は目を見張る物が有ったが、程なくして何人かがもう一つの違和感に気付いた。

 

「姉様危ない!」

「おっと」

 

 ヒュウガが狙っていた陸戦型にイオナが攻撃を仕掛け、慌ててヒュウガは狙いを逸らす。

 

「向こうからも来たぞ!」

「分かっている!」

 

 キリシマが包囲を固めようとする敵群を指摘すると、ハルナが次々と重力球を発生させて圧壊させていく。

 だが見る者が見れば、その攻撃は場当たり的で、無駄が多い物だった。

 怪訝に思った大神が、思わず声を掛けた。

 

「ちょっとハルナ君だったか」

「何か用か」

「その攻撃、どれくらいの威力が出るかな?」

「演算処理をフルに使えば、こんな物ではない」

「なるほど、ならもっと使い方を考えた方がいい。マリア、織姫君とカンナ君と右翼から敵を押し込んでくれ!」

「了解!」

「さくら君と紅蘭、レニとアイリスは左翼!」

「はい!」

「セリカ、ミドリ、後方に回りなさい! ルイ、マミ、ミキは敵を分断! アコ、マコ、包囲に押し込みなさい!」

「はい、エリカ様!」

 

 大神の意図を察したエリカもエリカ7に命じ、帝国華撃団とエリカ7が素早く展開、攻撃を開始する。

 

「織姫! カンナ!」

「分かってマ~ス」

「セイヤァ!」

 

 マリア機の銃撃と織姫機のビームで敵の動きが止まった所で、カンナ機の格闘攻撃が敵をまとめて吹き飛ばす。

 

「行きます!」

「援護するで!」

「突撃する」

「行くよ~♪」

 

 さくら機が突撃するのに紅蘭機がロケット弾で相手の動きを止め、続いたレニ機のランスが的確に相手の脚を貫き、アイリス機が念動力で相手を押しこんでいく。

 

「遅い!」

「確かに」

 

 スピードに長けたハイスピード・セリカと氷のミドリが敵群の包囲をすり抜け、背後からバックファイアーとオーロラ・ファンネルで動きを止める。

 

「ガード突破は得意だぜ!」

「守備が甘い!」

「出過ぎないようにね!」

 

 ストライカー・ルイと闘魂のマミが包囲を立てなおそうとする陸戦型を的確に見抜き、ハリケーンシュートと大リーグシューターでそれを阻止、ミキは包囲の崩れた箇所にスポットライトビームでダメ押しを叩き込んでいく。

 

「行くよマコちゃん!」「分かったよアコちゃん!」

『サイクロンカット!』

 

 双子の閃光のアコと疾風のマコが、仲間達が崩した包囲に向って、スピンで巻き起こした竜巻でまとめてこちらの包囲へと叩きこむ。

 

「今だ!」

「なるほど」

 

 敵がまとまった所に、ハルナが大型の重力球を発生、敵はなす術も無く重力に飲み込まれ、押し潰されていく。

 

「そうか、まとめてからやればいいのか」

「確かに効率的だ」

「………貴女達、戦闘経験はどれくらい?」

「霧の艦隊としては無数にあるが、メンタルモデル個体での戦闘は二度目だ」

「私も」

「硫黄島のを数に数えるなら私もそうですわね」

 

 大神の指揮に感心していたメンタルモデル達にポリリーナがある疑問を問いかけるが、返ってきたのは半分予想通り、半分予想以上に危ない返事だった。

 

「………大神司令」

「彼女達、まさか素人なのか? これだけの戦闘力を持ちながら?」

「戦術プログラムがインストールされてないのかもしれない。考えにくい事だが」

 

 ポリリーナが僅かに頬を引き攣らせ、大神も驚く中、プロキシマがある可能性を口にする。

 

「つまり、彼女達は戦い方は知っているが、戦術を知らない?」

「そうとしか考えられない。我々武装神姫にすら、初期段階から簡易的な戦術プログラムはインストールされてるんだが………」

「小さい割には、鋭い事言いますわね」

 

 プロキシマを興味深そうに見たヒュウガが更に驚きの言葉を口にする。

 

「確かに私達には戦術がありませんの。霧の艦隊が人間の使う戦術を理解するために創りだした、人間的思考をするための擬人的思考システム、それがメンタルモデルなのよ」

「………オレには理解しきれないけど、一時的にこちらの指揮下に入ってもらいたい所だが」

「私は群像の船、群像が認めない限り、他の人間の指揮下に入る事は有り得ない」

『イオナ、他のメンタルモデルも、臨時的にそちらの指揮下に入ってくれ。こっちは航空戦力の迎撃と空中母艦の撃破に向かう!』

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 大神の提案をイオナが断ろうとするが、群像からの通信が大神の提案を認証する。

 だが、続いた言葉にポリリーナが思わず口を挟んだ。

 

「撃破って、あれを撃破可能な兵装があるって言うの!?」

『有る』

「まさか、反応兵器の類じゃないでしょうね?」

『いや………超重力砲だ』

『待ちなさい! 超重力砲って、重力子兵器を大気圏下で使うつもり!? 正気!?』

 

 群像の告げた兵器名に、通信を聞いていたフェインティアがいの一番に反応する。

 

「重力子兵器? それは一体どういう物かな?」

『制御に失敗すれば、この都市どころか周辺平野まとめて消滅するわよ! チルダでも惑星影響下じゃ使用禁止だったのに!』

「待て、そんな物を帝都で使うつもりか!」

「大丈夫、制御は完璧。タカオがやってくれる」

「そうは言ってもね!」

 

 あまりに危険過ぎる兵器の使用発言に、皆がこぞって反対するが、敵襲が再度激しくなり、迎撃に専念せざるをえなくなる。

 

「確かに、あの空中母艦を破壊しない限り、勝機は無い………ミカサは封印された以上、こちらにあれを破壊する手段は無い」

「こちらも、あれだけの大型艦を破壊出来るだけの攻撃力は無いわ」

『だが………』

 

 大神とポリリーナは、自分達に空中母艦を破壊出来ない事を認識してはいたが、それを破壊可能な兵器を使用させる事にためらいを感じずにはいられなかった………

 

 

 

「タカオ、超重力砲使用時の周辺被害をシミュレート! 杏平、射角計算! 静は射線上にいる者達に退避勧告! いおり、超重力砲発射までに必要な冷却時間を!」

「待ってください。ここで超重力砲を使うのは得策とは言えません」

 

 群像が矢継ぎ早に指示を出すが、そこへ僧が異論を挟む。

 

「オレもそう思うぜ。今計算してるが、どうやっても建築物巻き込んじまう。角度如何じゃ、東京湾から帝都のど真ん中まで水路出来ちまうぞ!」

「分かっている! タカオ、シミュレート結果は?」

『今やってるけど、厳しいわね。被害出さないようにすると当てるのは難しいし、その前にあれ、落としていいの?』

「戦闘記録を見たか? あれが他の小型と同じ構成なら、一定程度のダメージを与えれば、崩壊するはず」

「しかし、それが与えられず、不完全な破壊状態で墜落させれば、被害は甚大な物になります」

「分かってる。周辺への被害を最小限に抑えつつ、一撃であの空中母艦を破壊しなくてはならない」

『ちょっと待って! だとしたら、超重力砲をフルで撃つって事!? 今の状態だと機関と砲自体が持つか分かんないわよ!?』

「待ってください! 本艦上空に次元湾曲反応!」

「敵か! 迎撃用…」

『待ってください! 来るのは私達の旗艦です!』

 

 群像が上空の反応を敵襲かと思ったが、エグゼリカの慌てた通信が入る。

 

「艦長、味方であるならば先程通信のあった艦と思われます」

「転移ってまじでいきなり現れるのかよ」

『そっち方面は霧よりも上の技術を持っているわね』

 

 程なくして、イー401の上空に、白い空中艦が出現する。

 

『遅れました! トリガーハート支援艦《カルナダイン》到着しました!』

『カルナ、ブレータ、今から送信する通信プロトコルにリンクして! タカオさん、データリンクを!』

『分かりました!』『了解です』『OK、やっとマトモなデータリンクが出来そうね』

 

 カルナダインの登載AIのカルナとサポートAIのブレータが、タカオを通じてイー401とデータリンク、即座に双方の情報を送受信する。

 

『重力子発射砲!? こんな所で使うんですか!?』

『危険と判断します。オペレッタからの送信データによれば、現状は都市防衛戦、都市その物を破壊する兵器の使用は作戦目標に抵触する可能性が』

『それならアンタ達も手伝いなさい! そっちに何か代わりの付いてないの!』

『カルナダインはトリガーハート支援艦で、自衛以上の兵装はありません!』

『目標との相対体積から、対艦クラスもしくは要塞破壊クラスの兵装を必要と判断出来ます』

『そんなの言われなくても分かってるわよ!』

 

 カルナとブレータからの返信に、タカオは思わず怒鳴り反す。

 

『破壊は出来なくても、注意を引く事は出来るわ。カルナ、自衛モード最大、敵空中母艦をターゲッティングしつつ、周囲を旋回して目標を海上まで誘導!』

『やってみます!』

 

 クルエルティアからの指示に、カルナダインは空中母艦と距離を詰めていく。

 

「囮になるというのか?」

『なんとしても、あれを都市部から離さないと、撃てないでしょう!』

「確かに。タカオ、クラインフィールド準備。杏平、音響魚雷一番二番に装填、敵空中母艦への効果範囲ギリギリで炸裂するようにセットして発射」

「空中の敵に向って撃つのかよ!? 効果あるかどうか分からないぜ?」

「こちらとカルナダインに注意を向かせる! ミサイル発射管開け、侵蝕魚雷三番四番に装填! 目標体積を削れるだけ削る!」

「空中大型機と正面戦闘する潜水艦は本艦が初かもしれませんね」

「次があるかは知らないがな」

 

 僧の呟きに群像も呟きつつ、群像は小型機を定期的に放出し続ける空中母艦を睨みつけていた。

 

 

 

「敵空中母艦、更に戦力を投下! 戦況は拮抗しています!」

「ソニックダイバー隊、再出撃しました!」

「イー401及びカルナダイン、敵空中母艦に攻撃開始しました!」

 

 風組三人娘の報告が次々と届く中、米田は険しい顔で戦況図を睨みつけていた。

 

(味方が増えてくれたのはありがてぇ。相変わらずなんなのか分からねぇ連中だが。それでも戦況は五分、撃破できうる兵器はあるようだが、それまでにあの空中母艦がどんだけの戦力を保有してるのかが分からね………撃破可能だとしても、帝都に落ちたらとんでもない事になる。だがあのデカブツ、どうやって動かす?)

「あれ、なんだろこれ?」

 

 レーダー反応を確認していた椿が、ふと妙な事に気付いた。

 

「どうした?」

「いえ、それが妙な霊力反応が有るんです。しかも、この上で」

「上って、帝国劇場でか?」

「今詳細を………でも、ここって」

「私の部屋?」

 

 花組も出払っているはずの帝国劇場、その内部のしかもかえでの部屋から検知された反応に、かえでは少し悩んでからある事を思い出す。

 

「確認してきます」

「おう早めにな」

 

 かえでは慌てて司令室を飛び出し、エレベーターに乗って自室へと向かう。

 部屋のドアを開けた時、室内に何か淡い光が満ちている事に気付いた。

 

「これは………」

 

 かえではその光源、室内に飾ってあった一振りの剣へと歩み寄っていく。

 

「神剣・白羽鳥が、何かに、いえ誰かに反応している?」

 

 姉から受け継いだ、退魔の力を秘めた剣が見た事もないような反応をしている事に、かえだは思わず唾を飲み込む。

 

「でも、一体何に………」

 

 かえでは白羽鳥に手を伸ばそうとして、止める。

 徐々に、だが確実に白羽鳥から漏れる光は輝きを増していた。

 

「姉さん、何が起ころうとしてるの………」

 

 


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