第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP53

 

異なる世界 ガルデローベ学園

 

「高エネルギー転移?」

「はい。最低でも惑星外、下手したら次元外の」

 

 学園長のナツキが、訪ねてきたミユからの報告に眉根を寄せる。

 

「つまり、あの謎の敵がこの星の物ではないと言うのか?」

「それは間違い有りません。アスワドの村で交戦しましたが、私のデータにあれに該当する物はこの星の歴史上、存在しないのは確かです」

「貴方が今幾つかはこの際問わないとして、それが本当だとしたら厄介だな………国家元首達にどう説明すればいいのか」

「しばらくは伏せた方がいいでしょう。事態は極めて複雑です。そして恐らく、誘拐されたニナ・ウォンもこの惑星上にはいないでしょう」

「アリカにはとても聞かせられんな………まああいつでも、星の外にまでは探しにいかんだろう、と思いたいが」

「幾ら蒼天の青玉でも、惑星外行動は不可能です。そちらも伏せておきましょう」

「最大の問題は、その謎の敵に紡ぎ手が落ちた事か………」

「状況によっては、プラスかもしれません。ニナの紡ぎ手の能力なら、あれに対抗出来る可能性も」

「あくまで可能性だ。マシロ陛下には誘拐の件は知らせてあるが、まさかこの惑星上にいないとは言えんぞ」

「それこそ信じてもらえないでしょう。私は引き続き、あれの調査に戻ります」

「こちらでも調査は続けているが、何をどう調べればいいのか………」

「しばらくは調査よりも防御に力を入れるべきです。場合によっては、五柱を全てここに集めておく必要も有りえます」

「それこそ何事だと思われるぞ………まあマイもいるから、多少の事は大丈夫だろうが」

「向こうの戦力も不明です。多少、では済まない可能性も」

 

 そこまで聞いた所で、ナツキは大きなため息を吐き出す。

 

「ヴィント事変の後処理がやっと終わったかと思えばこれか。何で私が学園長の代にここまで問題が起きまくる………」

「問題とは往々にして起きる物です。善処を期待します」

 

 それだけ言うと、ミユは学園長室を後にする。

 残ったナツキはしばらく天井を見つめていたが、やがて意を決して卓上の電話を取る。

 

「私だ、マイとミコトに大至急学園長室に来てほしいと連絡を。詳細はこちらに来てから話す」

 

 短く要件を話して受話器を置いたナツキは、窓から遠くを見つめていた。

 

「あれだけ苦労したんだ、ニナが無事でいてくれればいいが………」

 

 

 

AD1929 オペレーション・ラプンツェル最終段階

 

「捕虜の救出に成功! 搬送を!」

「調査班の降下準備!」

「残敵の可能性も有る! 油断はするな!」

 

 目的の一つを達成した後も、臨時前線基地に幾つもの指示が飛び交う。

 

「じゃあそちらの二名は攻龍に。こっちの彼女はカルナダインに」

「じゃあまた後で」

「ええ」

「お大事に」

 

 救出後の搬送を請け負ったソニックダイバーレスキュー隊が、慎重にセットしたストレッチャーを持ち上げ、救出された三人は短く言葉をかわすと、静かに搬送されていく。

 

「いや~、皆さん無事で良かったですね」

「ホントそうですね」

 

 万が一に備えて救護班として待っていたシスター・エリカと芳佳が、外傷の類は無かった事に胸を撫で下ろす。

 

「少し聞いたけど、食事とかもちゃんと出てたらしいわ」

「軍用レーションばかりだったみたいだけど。クリシュナムさんはあまり食べられなかったようだけど………」

 

 捕虜救護の任務を終えた琴音とクラリッサが、僅かに聞いた情報を確認する。

 

「聞いてるわよ。あの褐色の娘、昏睡状態から目覚めてすぐさらわれたって話。デリカシーの欠片すら無いようね」

「一応治療もされてたらしいわ。真似事かもしれないけど」

「ともあれ、これで音羽ちゃん達には面目が立ったわ。それじゃあ斧彦、菊之丞!」

「はいよ!」

「こちらに!」

 

 琴音の号令に応じ、斧彦と菊之丞がマジックにでも使われるようなカーテンで覆われた台を持ってくる。

 薔薇組三人がその中に入り、しばらく蠢いていたかと思うと、カーテンが降りてそこから冒険家風のサファリルック(※ただし装飾華美)の姿となって現れる。

 

「内部調査の補助、行くわよ!」「準備万端よ~!」「さあ行きましょう!」

「黒ウサギ隊、再突入の準備は済んでるか! トラップの類も十分考えられるわ!」

 

 続けてクラリッサも指示を飛ばし、双方は時間を置かずに再度地下へと突入していった。

 

 

 

 攻龍の通路内を慌ただしい足音が通り過ぎていく。

 その足音に通りすがった者達が何事かと振り向くが、都合四人が目指す方向を見て納得したように見送る。

 四人の足音は目的の場所、攻龍の医務室へと文字通り飛び込む。

 

「アイーシャ!!」

「みんな、久しぶり」

 

 先頭だった音羽に名前を呼ばれ、ストレッチャーからベッドに移されたアイーシャが返答する。

 

「ごめんね、ごめんね、もっと早く助けに行きたかったんだけど、場所が分からなくって………」

「まさか同じ世界にいるって知ってたら、すぐに助けに行ったのに!」

 

 音羽がアイーシャの手を握りしめて謝り、エリーゼが拳を握りしめる。

 

「大丈夫、向こうの扱いはそんな悪い物じゃなかった」

「そうなんですか?」

「あいつらにそんな甲斐性が有るとは思えないけど………」

 

 多少記憶より痩せた感は有るが、衰弱してるようには見えないアイーシャに可憐と瑛花は首を傾げる。

 

「彼女達が、話してた仲間?」

 

 そこで隣のベッドから響いてきた声に、ソニックダイバー隊四人はようやく他にも運ばれてきた人がいた事に気付く。

 

「えと、こちらは?」

「ニナ・ウォン。私と一緒にあいつらに捕えられていた」

「大丈夫だった!? 変な事されなかった!?」

 

 アイーシャの説明に、音羽は思わずニナに詰め寄る。

 

「えと、大丈夫。私とアイーシャ、Fツヴァイで何かされそうになったら抵抗してたから」

「抵抗?」

「はいはい、それくらいで。無事とはいえ、ちゃんと治療しないと」

 

 それまで黙って見ていた船医の夕子に半ば追い出されるように四人は室外に追いやられる。

 

「じゃあ後で!」

「分かった」

 

 ドアが閉まる前に手を降る音羽に、アイーシャは頷く。

 

「いい仲間がいるのね」

「少し騒がしいけど」

 

 ニナが思わず苦笑するのに、アイーシャは答える。

 

「それだけ喋れるなら、緊急の問題は無さそうね。容態も安定してるようだし」

「私は特に問題は無いのですけど………」

 

 一応ベッドに横にはなっているが、取り立てて問題の無いニナだったが、そこでドアがノックされる。

 

「どなた?」

「周王です」

「ああ、どうぞ」

 

 ドアが開いて姿を見せた周王に、アイーシャの表情が和らぐ。

 

「周王」

「アイーシャ、無事でよかったわ。どんな目に遭ってるかと心配してたのよ」

「何とかなった。周王は?」

「しばらく無人島でサバイバルしてた以外は大丈夫。野生児にはなれないって事がはっきりしたわ。それと…」

 

 そこで周王の視線が隣のニナへと移る。

 

「初めまして、私は周王 紀里子。ソニックダイバーの開発責任者で、アイーシャの保護者みたいな者よ」

「あ、ニナ・ウォンです」

 

 差し出された手をニナが握り返す。

 

「安岐先生、彼女に幾つか質問したいのですけど、大丈夫ですか?」

「ええ、外傷も無いようだし、衰弱や記憶混乱もなさそうだから、少しなら」

「それでは早速なのだけど、ニナさん、あなたナノマシン処置を受けてるって本当かしら?」

「はい、乙HiME候補生は、皆受けています」

「そう、今ここでナノマシンの専門家は私だけでね、少し詳細を確認したいの。それとナノマシンのサンプルを頂ける?」

「構いません。ただこちらからも聞きたい事が…」

「何かしら?」

「アイーシャは、紡ぎ手なんですか?」

 

 ニナの質問に、周王だけでなく当のアイーシャも首を傾げる。

 

「何の事かはわからないけど、これだけは言えるわ。アイーシャは貴方の大先輩だって事」

「大先輩?」

「アイーシャは人体へのナノマシン投与被検体第一号なの。そしてナノマシンとの融合被検体でも有るわ。彼女の力はそれによる物よ」

「第一号………つまり、ここは過去という事ですか………」

 

 それらしい話をアイーシャからは聞いていたが、改めて言われたニナが少しうつむく。

 

「大丈夫、貴方の来た場所も空間座標がわかれば帰れるわ。それまでゆっくりしていればいいから。出来ればあれこれ協力してくれると助かるのだけれど」

「その、マイスターGEMもマスターもいない私に出来る事はあまり………」

「まずはその情報からね。先程から聞いた事の無い単語ばかり出てくるの。詳しく聞いてもいいかしら?」

「はい、話せる限りは」

 

 少なくても、ここにいる人達は信用してもいいらしい、と判断したニナは少しずつ自分の知る事を話し始めた。

 

 

 

捕虜救出から半日後 学園・地下大講義室

 

「現状で当該施設での残存敵性体は発見されておりません。また、戦闘終了後に発見された中枢と見られる元FAFシステムコンピューターと動力炉は発見時にはすでに停止しており、動力は予備バッテリーで動いていた模様です。複数のサーチでも他のエネルギー反応の類は発見されておりません。

以上の点から、JAMはこの前線基地を放棄したと見て間違いないでしょう」

 

 エルナーの報告を、各組織の指揮官達(※一部通信参加)は神妙な顔で聞いていた。

 

「捕虜は無事奪還、死者重傷者は無し、取り敢えずは作戦成功って事か」

 

 米田が作戦結果に目を通しながら笑う。

 

『こちらの被害は少なかったのはラッキーだったね』

「何度か冷や汗は出たがな」

 

 サニーサイド(通信参加)が何度も頷き、千冬は苦笑する。

 

『ええ、オペレーション・ラプンツェルは大成功と言えます。戦術的には』

 

 大神(通信参加)はそれを肯定しつつも、重要な言葉を口にする。

 それを合図に、その場にいた者達全員の表情が引き締まる。

 

『え、と………確かに何か変な気がします。なんと言ったらいいのか…』

『不自然、かな』

 

 吹雪(通信参加)が戦術的の意味を考え、ランサメントが補足する。

 

「未来の戦の事まではよく分からねえが、基本は変わらねえ。拠点を放棄して撤退したってんなら、考えられる事は二つ。ケツに火がついて慌てて逃げ出したか、それともハナから逃げる気だったか」

 

 問題となる事を、米田が端的に語り、皆が納得の表情をする。

 

「中枢の火まできっちり落としてたって事は、慌ててって感じじゃないね」

「けれど、捕虜の奪還を強固に抵抗した痕跡も無いと聞いてるわ」

 

 グランマが分かっている事をつぶさに思案するが、どりあがその反対要素を呟く。

 

「戦闘自体はかなりの激戦だった。こちらは手持ちの戦力のほぼ全てを投入したからな」

『捕虜奪還後の抵抗が無い、という事は向こうもこの世界での保有戦力のほとんどを消費したと見ていいのでは』

 

 ガランドが戦闘データを見直しつつ呟き、ポリリーナ(通信参加、ユナは爆睡中)はそれに追加意見を述べる。

 

「どっちにしろ、妙だ。撤退戦ってぇのは、どんだけこっちの被害を抑えて、相手に嫌がらせするかってのに掛かってる。最悪、基地ごと自爆の可能性だって有ったはずだ」

 

 米田の意見に、誰もが頷く。

 

『救出された捕虜の詳細診断結果ですが、Fツヴァイには幾つかギアスがつけられていましたが、他に改造その他は現状発見出来ません。当人の要望により、精密検査は続行していますが………』

『こちらに搬送された二名も容態は安定している。アイーシャ・クリシュナムに至っては逆に治療されていたらしい』

「JAMも捕虜の扱い方を覚えたのかしらね」

 

 クルエルティア(通信参加)と門脇(通信参加)の報告に、クーリィは皮肉げに呟く。

 

「もしくは、丁重に扱うほど貴重な存在だったか、ですが」

「だったら、持って逃げるくれえするだろ。どうにも一貫しねえ………」

 

 エルナーの指摘に、米田が更に首を傾げる。

 

「もし、もしその貴重な存在よりも貴重な物が入手出来ていたとしたら?」

「そいつは?」

「かつてJAMは、人と機械との垣根を超えた絶対的な信頼関係を持っていた深井中尉と雪風をこちらとの戦争の結果として総力を上げて奪取しようとした。それに当てはめて考えられるとしたら…」

「NORNの現状全戦力の戦闘データ」

「ちょ、待て待て。つまり、あんたらはJAMがこちらの戦力知るために、あれだけの戦力と基地一つ使い捨てたってえのか!?」

 

 クーリィとエルナーの導き出した仮設に、

米田は思わず反論する。

 

「仮説にしても大胆過ぎではないか? いくらJAMがあちこちの世界から戦力をかき集めてくるにしても、あれだけの戦力を整えるのは容易とは思えん」

「確かに。それにデータを見る限り、ちゃんとコントロールされてるとも言い切れませんし」

 

 米田に続き、千冬とどりあも仮説に反論する。

 だがそこでクーリィは静かに首を左右に降る。

 

「確かに、正気の沙汰では無いでしょう。ただし、正気とはこちらの枠に当てはめられるならばの話。そしてそんな物をJAMに求めては行けない。なぜなら、JAMはこれほどの異なる世界から見ても異質としか言いようの無い存在なのだから」

 

 長い間JAMと戦ってきたクーリィの言葉に、誰もが沈黙する。

 そしてしばしの沈黙の後に、クーリィが再び口を開く。

 

「NORNの統合計画を次の段階に進める事を進言します。今私達に必要なのは、さらなる特異な戦力とそして何よりも情報」

「………その通りですね。半ば無作為に出てくる色々な世界の敵に対抗するには、その世界から情報と協力が不可欠です」

 

 エルナーが肯定した事に、出席していた者達は隣席の者とあれこれと話し始める。

 

「結局、今回の作戦は勝ったんか負けたんか、どっちだい?」

「それは向こうに勝敗の概念が有って初めて成立するでしょう」

 

 米田の質問へのクーリィの答えは、JAMへの対処の困難さを如実に語っていた。

 その後、今後の方針についての討議は長時間に及んだ。

 

 

 

「う、セルゲイ…」

 

 朧気な夢を見ていたニナは、夢から覚めた所で見慣れない場所にいる事を思いつく。

 清潔なベッドに各種医療器具が並ぶ病室で目を覚ましたニナは、ベッドから降りて窓際まで歩き、カーテンを開ける。

 窓の外には、どこか不可思議な形をした建物と、その向こうに広がる海原が広がっていた。

 

「ここが地球………」

 

 昨夜遅くに、乗っていた軍船ごとここに連れてこられたニナは、この病室に移され休むように言われた事、そしてそれまでの間に受けた現状の簡単な説明を思い出す。

 

「人類発祥の地、母なる惑星、遠き青の星…」

 

 授業や勉強で覚えた地球のデータを思い出しながら呟いていた時、ドアがノックされる。

 

「どうぞ」

「おはよ~ございます~」

「おはよう、気分はどう?」

 

 入ってきたのは何かやたら間延びした喋り方をする看護婦と救助された時に見かけたレールガンを持っていた少女、詩織とミサキだった。

 

「おかげさまで、良好です」

「とりあえず~チェックですね~」

 

 詩織が取り出してきた簡易検査機を手の甲に当てるのを黙って見ていたニナが、ある事を思い出す。

 

「アイーシャとツヴァイは?」

「アイーシャはすぐ隣の病室にいるわ。しばらくはここで治療を受ける事になるわね。Fツヴァイはまだカルナダインでチェック中、今の所問題は見つかってないけど、当人の要望でね」

「はい~、ライフデータに~問題ありません~今~朝食を~」

「朝食を今持ってくるわ。それが終わったら、話を聞きたいのだけど、いいかしら?」

「はい、分かりました」

 

 無駄に長い詩織の言葉を遮り、ミサキが代弁する。

 素直に頷くニナに、ミサキは歩み寄るとその肩に手を置いた。

 

「心配しないで、今JAMの使っていた超空間通路の精査をしてるわ。きっと貴方のいた世界も見つかる。そうしたら帰れるから」

「はい、色々とすいません」

「そこは気にしなくていいわ。NORN参加のどの組織も、お人好しばかりだから。私達のリーダーはその代表格ね」

「はあ………」

 

 救助後、やたら親切な者達ばかりのNORNに、ニナは内心僅かに罪悪感を覚える。

 

(私には、優しくしてもらえる資格なんてないかもしれないのに………)

 

 朝食後、ミサキに案内されつつニナは用意されていた部屋へと向かう。

 室内へと入ったニナはそこで待っていた人物達と対峙する。

 一人は白衣を着た短めの金髪の女性だった。

 

「初めまして、私はエディス・フォス。FAF所属の軍医よ。航空心理学を専攻にしてるわ」

「どうも、ニナ・ウォンです」

「私は英知のエルナー、NORNの特別顧問、まあ参謀のような者です」

 

 エディスの隣に浮いていた小さな影が喋った事に、てっきりマスコット的な物かと思っていたニナが思わず驚く。

 

「ど、どうも」

「驚いたって事は、そういうのに馴染みがないって事ね」

 

 一緒に室内に入ってきて後ろにいたミサキが、ニナの反応を見て微笑する。

 

「まあそういう反応する方は多いですからね」

「これから私達でカウンセリングも兼ねて幾つか質問するけど、いいかしら」

「はい、答えられる事なら………」

「そうね、まずは…」

 

 

 

「ニナ・ウォン。惑星エアル出身、ガルデロローベ学園在籍からアルタイ公国大公、ナギ・ダイ・アルタイのマイスター乙HiMEに就任」

「ナギ大公失脚に伴い、その任を失い、半ば隠遁生活ね………」

 

 生徒達や作戦の後処理のために来ている者達でごった返している学園の食堂で、送られてきたばかりのデータに目を通しながら、千冬とどりあは顔をしかめていた。

 

「聞いた事の無い単語ばかり並んでいるな」

「そうね、まだ未確認の世界の住人という事は確かみたいだけど」

「問題は、その世界がこちらに協力してくれるかどうかだ」

「放課後、当人からその事についての説明をしてくれるそうよ。戦闘班のリーダーも聞かせておいた方いいわね」

「さて、今度はどんなのが飛び出す事やら………」

「あちらみたいに?」

 

 思わずため息を漏らす千冬に、どりあが向こうのテーブルを指差す。

 そこでは艦娘達が一つのテーブルを囲んでいたが、大量の料理を補給している金剛や加賀に混じって、一人だけ小さな艦娘がいた。

 

「え~と、如月ちゃん………お水いる?」

「ありがとう」

 

 戦艦や空母に匹敵する量を摂取している如月に、吹雪は唖然としつつも給水器から持ってきた水を差し出す。

 

「如月さんって、こんなに食べたっけ?」

「いいえ」

「加賀さんとほぼ同量なんだけど………」

「どうなってるです?」

 

 暁四姉妹も呆然とする中、如月は思わず赤面する。

 

「その、この体になってから動くとすごいお腹空いちゃって………」

「消費カロリーが跳ね上がってるようね。生身は減ってるそうだけど」

 

 超特盛カレーを食べ終えた加賀が、スプーンを置きながら如月を見、そして視線を向かいにいる者へと向ける。

 

「それで、そろそろ説明がほしいのだけど」

「私もそうしたいけど、出来ないのよね………」

 

 向かいの席でコーヒーを飲んでいたシルフィードがカップを置いて顔をしかめる。

 

「喋れないって事?」

 

 加賀の確認に、シルフィードは頷く。

 

「またプロテクトか、随分固いな」

「ダー、かなりの機密が重なっている」

「上がうるさいのよ、惑星フェアリィで相当痛い目見たみたい」

 

 食器をまとめていたランサメントとエスパディアがシルフィードを見るが、当のシルフィードもうなだれつつ肯定する。

 

「じゃあこちらから話そう」

「隊長」

 

 そこへピザセットを手にしたブッカーが顔を出し、開いていた席へと座る。

 

「そもそもその娘、如月を救出出来たのは偶然だった。たまたまこちらで遭遇したJAMが何かを搬送していたのに気付き、交戦の後に確保したのが彼女だ。もっともその時は瀕死寸前だった」

「確かに、爆撃を食らって沈没したと聞いてましたが………」

 

 吹雪が如月が行方不明になった時の事を思い出す中、ブッカーが続ける。

 

「大至急でこちらの医療班が治療に当たろうとしたが、そこで奇妙な事が起きた。重傷の彼女の体が、どんどんと変化していった」

『!!』

 

 ブッカーの説明に、艦娘達全員が硬直する。

 

「………艦娘と深海棲艦は表裏一体の存在らしいわ。艦娘が沈められれば、深海棲艦へと堕ちる事も有るらしいし、その逆も」

「らしいな、如月から聞いている。だが、その変化を彼女の艤装がかろうじて止めている事を気付いた人がいた」

「それで?」

「その人物が、彼女の艤装を強化改造し、変化していた部位を機械化して更に艤装とのシンクロ率を高め、変化を完全に抑え込んだ。結果、そんな体になっちまったが」

「興味深い話だな」

「ええ、確かに」

 

 そこへ、空になった食器を手にしていた千冬とどりあが首を突っ込んでくる。

 

「何者だ、その改造した人物とは」

「戦闘妖精の方々を見る限り、艦娘の人達に使われている技術とは全く違う物に見えるのだけど」

「だろうな。聡い奴は気付いてるんだろ?」

 

 ピザを1ピース口に放り込みながら、ブッカーが含みを持たせる。

 

「どういう事?」

「さあ?」

「え~と…」

 

 駆逐艦達は首を傾げるが、何人かはブッカーの言わんとする事に気付いた。

 

「FAFにいる、別世界の者はFツヴァイと如月、そしてもう一人いるのだな?」

「しかも、かなりの知識と技術を持った技術者の方が」

「正解だ」

 

 千冬とどりあの指摘に、ブッカーは頷きつつもコーラをすする。

 

「それ程の技術を持つ者が、なぜこちらに来ない?」

「来れない理由でもあるのかしら?」

「有る。しかもどうやっても無理な理由が」

「どういう事?」

「………教授は、救出された時にかなりの重傷を負っており、しかも元から病で体を悪くされていたんです。そんな中、私の改造手術を強行した事で、最早ベッドの上から全く動けないんです」

 

 千冬とどりあが問い詰める中、ブッカーの返答に加賀が首を傾げるが、代わりに如月が答えた。

 

「そんな事が………せめてお礼を言いたかったのに」

「悪いが面会謝絶だ。とても協力を頼める状態じゃあないし、礼を言うのも難しいだろう」

 

 吹雪がその如月を改造して助けてくれた人物の現状に愕然とするが、ブッカーは首を振りながら呟く。

 

「一体何者だ? 現状でそれ程の技術者の失踪報告は上がっていない」

「恐らく、まだ接触していない世界の方なのでしょう。艦娘の方達に近い技術を持った」

「確か、聖遺物の研究家だと言ってたな」

 

 千冬とどりあが驚異的な技術を持ったその人物に興味を持つが、ブッカーの説明に思わず顔を見合わせた。

 

 

 

同時刻 JAM前線基地上空 カルナダイン艦内

 

「まだやってるの?」

『はい、今都合三回目のフルスキャンを終えた所です』

 

 メンテナンスルームに顔を出したあおが、そこでFツヴァイがまだチェック中なのに気付き、ブレータの説明に顔をしかめる。

 

「なんでそんな何回も………」

『当人からの要請です。何か仕込まれてないか念入りにと。必要によっては多少分解しても構わないと』

「またこの子は………ブッカー隊長に怒られるって」

「悪かったわね」

 

 てっきりスリープ状態だと思ってたFツヴァイからの返事に、あおは少し驚く。

 

「あ、起きてたの」

「一応ね。セルフスキャンも走らせたけど、動けない間に何かされてないかと思って」

「だったら一人で暴走しない。お陰でメイヴまで言う事聞かなくなってきちゃったし」

「メイヴは元からでしょ」

 

 Fツヴァイをたしなめるあおに、胸ポケットにいたイノセンティアは呆れたように呟く。

 

『慎重になるのは彼女の経験による物と推察出来ます』

「経験?」

「彼女は当初ヴァーミスの尖兵として、後にデア・エクス・マキナにコントロールされて切り込み役させられてたからね」

「苦労したっけ………」

 

 そこへフェインティアとエグゼリカが室内に入ってきながら説明する。

 

「そう言えばそんな話だったっけ」

「あお、忘れてたの?」

「いや~、私が入隊してからの事しか考えてなかった」

 

 イノセンティアが更に呆れる中、あおは照れ隠しに頬を掻く。

 

「光の戦士のリーダー並のお気楽ね」

「これくらいでないと、やっていけないのだろう。それと細部のソナースキャンも異常無しだ」

 

 フェインティアも呆れ、肩にいたムルメルティアも頷きながらも検査結果を告げる。

 

『総合的に判断して、もう異常は有りません。セットされていたギアスも解除、劣化していたパーツの交換も行いました』

「そう、ありがとう」

「無理したらダメだよ? 疲れてたらもうちょっと休んでた方が………」

「しばらく動けなかったから、少し動かしたい。飛行動作システムの確認もしたいし」

「途中でエンストなんてされたら困るしね。私がエスコートするわ。ブレータ、準備を」

『了解です』

 

 メンテナンス用カプセルから身を起こしたFツヴァイに、フェインティアが随伴を申し出る。

 

「結局、また迷惑かけたわね」

「いえ、あおさんから聞いてます。アイーシャさんを助けに行こうとしたんでしょう?」

 

 手を持ち上げて具合いを確かめながら謝罪するFツヴァイに、エグゼリカは首を降ってやんわり否定する。

 

「誰かまでは分からなかったけど、JAMが前の戦いに関係した世界を対象にしてるのは確かだったから。でも、どうやら私も向こうの捕縛対象だったみたい」

「つまり、飛び出してったら待ち構えられてた訳ね」

『こちらにも前例が』

「うるさい!」

 

 Fツヴァイの説明にフェインティアが半ば嫌味を言うと、予想外のブレータのツッコミにフェインティアは思わず怒鳴り返す。

 

「こっちでも大変だったんだよ? ブッカー隊長は必死に捜索させるし、クーリィ准将は最悪撃墜しろって言い出すし」

「過激な指揮官ですね………」

「目的のためなら手段を選ばないってああいう人の事ね。だからこそ、どこから流れ着いてきたか分からない私みたいなのを使ってたんでしょうけど」

「ともあれ、無事でよかったですね」

 

 そう言って微笑むエグゼリカに、Fツヴァイは次元の間から救い出してくれた人物の事を重なる。

 

「そうね………ありがとう」

「はい?」

 

 突然お礼を言われた事にエグゼリカは首を傾げるが、理由も言わずにFツヴァイはエグゼリカの前を通り過ぎる。

 

「さて、生憎と随伴艦の予備は無いわ」

「構わない。FAFでは無しでやっていた」

 

 外見は瓜二つの二人が並んでメンテナンスルームから出ていくのを見送ったあおとエグゼリカが、小首を傾げる。

 

「傍から見たら、双子の姉妹にしか見えないね」

『正確にはオリジナルとコピーです』

「性格は大分違うみたいだけど」

 

 あおのつぶやきにブレータとイノセンティアが思わず突っ込む。

 

「説明面倒だし、知らない人には双子って事でいいんじゃない?」

「そんな適当な………」

「私とクルエルティア姉さんも姉妹だから、いいんじゃないですか?」

『外見上はそう認識される可能性は高いかと』

「ま、取り敢えず大丈夫そうで一安心。他の二人はどうなってるかな?」

 

 

 

同時刻 帝都 追浜基地

 

「じゃあいい?」

「いつでも」

「はい」

「それじゃあ…」

「じゃんけん、ぽい!」

 

「………何してるんだろ」

 

 ソニックダイバー隊の四人が何か真剣な顔でじゃんけんしてるのを、通りかかったソニックダイバーレスキュー隊の面々が見かける。

 

「アイーシャさんのお見舞いの順番決めだって。作戦は終わっても準待機シフトだから、行くなら誰か一人代表で行けって冬后大佐に言われたらしい」

「まあ、半年昏睡で目覚めた直後さらわれて、やっと救出出来たんだから心配なのは分かるけど…」

 

 覗き見している後輩達の視線の先で、勝ったらしい音羽が飛び跳ねながらお見舞いの準備に走り去っていく。

 

「………私達もお見舞い行った方いいかな?」

「もうちょっと落ち着いてからでいいんじゃない?」

「私達から見れば大先輩だし、挨拶は必要かも」

「一条教官がソニックダイバー隊入ったのも、アイーシャさんにドッグファイトで負けたからだって噂だし………」

 

 ソニックダイバー隊幻の五人目を噂混じりで話すソニックダイバーレスキュー隊だったが、ソニックダイバーのリンク数値がぶち抜けている、ワームをナノマシン干渉で止めた、ナノマシンによる強化改造を受けて本当は三十代等のどうにも信じられない話にだんだん話が脱線していく。

 

「そこ、みんなで何してるの」

「あ」「いやちょっと」

 

 何かたむろっているのに気付いた瑛花に声をかけられ、レスキュー隊の面々はようやく話を中断させる。

 

「いえ、私達もアイーシャさんのお見舞いに行った方いいかどうかと………」

「もう少し容態が安定してからにしなさい。それと代表一人くらいで。あんまり騒がしいのを好む子じゃないから」

「はあ…」

「それとあまり尾ひれつけないように。広まってく内に信じちゃう人出るだろうし」

「どこまで尾ひれなんでしょうか………」

 

 瑛花の警告も虚しく、後日アイーシャの実年齢問い合わせが何件もソニックダイバー隊に届く事になった。

 

 

 

放課後 学園

 

「………あの」

「何?」

「マイスター乙HiMEの説明をすればいいんですよね?」

 

 ニナは内心焦りながら、準備を手伝ってくれたミサキに問いかける。

 

「そうよ、こちらは今何よりも情報が欲しいから」

「じゃあ、あれは…」

 

 用意された講義室の隅で、突貫でまとめた資料を手にしたニナだったが、かなりの人数、しかも明らかにかなり高位の階級章をつけた軍人や只者ではないオーラをまとった者達が半ばを占める聴衆にたじろがざるを得なかった。

 

「ああ、あちらのは帝国華撃団顧問の米田中将、そちらはFAFのクーリィ准将、こちらがISトップランカーの織斑教師に、そちらが螺旋公国第二王女の」

「い、いいです。後で聞きます」

 

 今までの人生で一番緊張しながら、ニナは覚悟を決めて教壇に向かう。

 

「どうも、ニナ・ウォンと言います。これから、マイスター乙HiMEについての説明をさせてもらいます」

 

 一礼したニナは、説明を始める。

 

「私の生まれた星、惑星エアルでは乙HiMEと呼ばれる存在がいます。正式名称は「乙Type Highly-advanced Materialising Equipment」(乙式高次物質化能力)と言い、マスターとなる王侯貴族や要人との契約により、その側近としての要職を担い、またその驚異的な戦闘力から主要軍事兵力としての一面も持ちます」

「こちらのISのような物か」

 

 最初の説明を聞いた千冬が、ISとの類似点を感じるが、ニナの説明は更に続いた。

 

「マイスター乙HiMEは極めて希少な存在であり、その就任は幾つもの段階を踏む事になります。まず一に惑星エアルで唯一の乙HiME養成機関、ガルデローベ学園にて専用のナノマシン処置を受ける事。二に乙HiMEの力の発動体であるマイスターGEMを持って、マスターとの契約をする事。

三に乙HiMEとしての力の発動にはマスターからの承認が必要であり、更には発動時のダメージはマスターにフィードバックします」

「また随分と複雑だな」

「前言撤回だな」

 

 あまりに複雑な乙HiMEのシステムに米田が思わず愚痴り、千冬も頷く。

 

「また、もしマイスター乙HiMEが能力発動中に死亡した場合、マスターもまた死亡します」

「え?」

「つまり、マスターとマイスター乙HiMEは主従でありながら一蓮托生という事?」

「はい」

 

 ある意味マイスター乙HiMEの最大の問題点に、ユナが思わず間抜けな声を上げ、ポリリーナの確認にニナはうなずく。

 

「待ってくれ、確かマスターは王侯貴族や要人がなると言ってたはずだが…」

「その通りです。そのため、マイスター乙HiMEが戦場の主力となるような大規模な戦争が勃発した場合、マイスター乙HiMEの戦死と同時に、王や継承者を失う国も有ります。

最近では、カルデア帝国がアスワドの民との諍いにより、大規模な戦闘が勃発、その結果マイスター乙HiMEの全滅により、王位継承者のほとんどを失ったというケースも有ります」

「能力に差が有る時は有効だけれど、拮抗してる時は諸刃の剣となり得るわけね」

「いっそISもそうした方がいいかもしれんな」

 

 ある意味大きすぎるデメリットに、どりあが僅かに顔をしかめ、千冬はむしろ納得していた。

 

「ちなみに、そのカルデアとかいう国はその後どうなった?」

「それが、王位継承者の一人がトリアス、ガルデローベ学園の主席だった人物と駆け落ちしてまして、難を逃れたそうです。なぜかそのまま、その二人は王とそのマイスター乙HiMEになりましたが」

 

 ガランドの何気ない質問に、ニナは少し照れた顔で補足する。

 

「それと、もう1つの問題点としてこの乙HiME用のナノマシンはXX染色体にしか効果が無く、またXY染色体との接触に極めて弱いという特徴が有ります」

「え~と、どういう意味かな?」

「つまり、男性と関係を持った時点で力を失うという事ね」

「はい」

 

 意味が分からず聞いてきた大神に、どりあが代わりに説明すると大神とニナが思わず赤面する。

 

「随分と俗な代物だな」

「複雑なシステムといい、恐らくは全てセーフティなのでしょう。つまりマイスター乙HiMEはそこまでの戦闘力を持っている、と考えていいのでしょうか?」

「はい」

 

 嶋が思わず呆れる中、エルナーの解釈にニナが頷く。

 

「貴方も元はそのマイスター乙HiMEだった、との報告が来ているけれど」

「はい、アルタイ公国のナギ大公のマイスター乙HiMEでした。生憎とGEMの無い今は何も出来ませんが」

 

 クーリィの質問にニナは詳しい説明をつける。

 ニナの説明に、それを聞いていた者達はあれこれ論議を始める。

 

「現状、彼女がまだ未接触の世界の住人である事は間違い有りません。なぜなら、惑星エアルはこちらの世界でも存在しますが、住人は存在しないからです」

 

 半ば唐突にミサキが説明を始め、その内容に当のニナが一番怪訝な顔をする。

 

「住人が、いない?」

「こちらの世界の外惑星入植中期、ある程度の生活・経済基盤が整った惑星で内乱が相次いだ時期が有りました」

 

 ミサキが幾つかの資料を講義室のディスプレイに表示させていく。

 

「惑星エアルも、内乱が起きた惑星の一つです。ただ、こちらではその内乱が最悪の結果を招きました」

 

 ディスプレイに、緑が多い惑星と赤茶けた惑星の二つが表示される。

 

「内乱前の惑星エアルはテラフォーミングが順調に進み、豊かな惑星でしたが内乱末期に各諸侯を相手にしていた入植政府が研究途中の時空振動兵器を使用、その破壊力は恐るべき物で惑星エアルの環境は崩壊、住民にも膨大な死者を出し、やがて人類の生存困難とされた惑星エアルは放棄され、今や生命体すらほとんど存在しない死の星となっています」

「あまりに危険過ぎるその威力から、後の時空振動兵器禁止条約、通称エアル条約制定の原因ともなった事件でもあるわ」

「え~と、聞いた事有るような無いような」

「ユナ! この間の期末テストで出てきたでしょう!」

 

 ミサキの説明にポリリーナが補足し、ユナが首を傾げるのをエルナーがたしなめる。

 

「壊滅したはずの星の、いないはずの住人か。確かにそれは同じ世界では有り得ないな」

「ええ、あくまでこちらの世界の話ですが………」

「いえ、心当たりが有ります」

 

 ガランドが半ば茶化し、ミサキが言葉を濁すが、ニナは逆にそれを肯定した。

 

「多分それは、こちらでは十二王戦争と呼ばれている戦いでしょう。惑星エアルの各王が持てるだけの武力で争い、エアルは壊滅寸前にまで行ったと言われてます。しかし、そこに現れたのがマイスター乙HiMEの真祖となるフミ・ヒメノ。彼女はその圧倒的な力で戦いを平定し、今の惑星エアルと乙HiMEの基礎を作ったとされています」

「つまり、真祖が現れた世界と現れなかった世界という事か」

「逆説的に考えれば、惑星の壊滅を止める程の力を持っていた、と考えていいのかしら?」

「その認識で差し支えないかと………」

 

 千冬とどりあがうなずく中、ニナもそれを肯定する。

 その場にいた者達は、歴史の類似点と相違点を改めて認識していた。

 それぞれが議論する中、エルナーが口火を切る。

 

「それでニナ、貴方はそこからJAMに誘拐され、あそこにずっと幽閉されていたわけですね」

「はい、アイーシャとツヴァイから説明は受けましたが、恐らく私が元マイスター乙HiMEだったために拉致された物だと………」

「特別な適正を必要とする機動兵器とその使用者、条件は完全に一致しますね」

「そちらで他にJAM関連とおぼしき襲撃は?」

「その、私は田舎で生活してたので、そういう情報は………」

 

 続けてのクーリィの言葉に、ニナは口を濁す。

 

『他にもマイスター乙HiMEと呼ばれる存在がいるのなら、狙われないわけは無いだろう』

 

 群像(※401はまだJAM前線基地警戒及び調査中のためリモート)の言葉に、誰もが納得せざるを得なかった。

 

「確認したいのですが、恐らくもっとも乙HiMEが多いと思われるガルデローベ学園の防衛態勢は大丈夫なのですか?」

「JAMが乙HiMEのシステムを完全に把握していれば難しいかもしれませんが、そうでなければそう簡単には落ちないはずです。ガルデローベ学園には乙HiMEを統べる五柱と呼ばれる存在が常時数名おりますし、元五柱候補生や、何よりも彼女がいる」

「彼女?」

「アリカ・ユメミヤ。ナギ大公の起こしたヴィント事変の際、ヴィントブルーム女王 マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームのマイスター乙HiMEとして事態の解決に尽力した、私のライバルだった人物です」

「戦力は万全という事か」

「最悪、その学園もこちらに来たりするかもしれませんわね。私達のように」

 

 千冬とどりあの意見に、半数近くが怪訝な顔をするが、一番微妙な表情をしたのは、当のニナ自身だった。

 

「その、ヴィント事変の際に私はナギ大公のマイスター乙HiMEだったので、ガルデローベ学園とは敵対関係でして………」

「体裁が悪いという訳か」

「体裁で済むんでしょうか?」

「最悪、命の危険性も」

「そ、それは有りません。私の隠遁はアリカを中心として、五柱の方々が手を回してくれました。ただ、他の生徒達には秘密で…」

 

 色々な憶測をニナが慌てて否定する。

 その場にいる者達がそれを皮切りに、JAMのこれまでの行動や、そこから発っした今までの問題を話し合い始める。

 

「これでJAMが他にも複数の世界に同様の事をしている事が決定的となりました。ただ、どこも誘拐に関して激しく抵抗しているのか、戦闘力を喪失している者か、もしくは敵中に自ら飛び込んでいった者しか捉えられてはいないようです」

「こちらの被害は構わずの攻撃をしておきながら、捕縛に関しては慎重という訳か? 訳が分からない………」

 

 エルナーの導き出した推論に、大神が首を傾げる。

 

「理解はしない事をお勧めするわ。JAMはそもそも私達程度の理解の範疇を逸脱している存在なのだから」

「違いねえ。生き物ですらねえ連中に、生物としての本能はねえだろうし、人ですらねえ連中に人の道義は通じねえ」

 

 もっともJAMの事を知るクーリィの警告に、米田が軍人と華撃団司令の双方の経験すら当てはまらない敵に顔をしかめる。

 

「幾らJAMが時空間通路を構築する技術を持っていても、万能とは思えません。前線基地を叩いた以上、しばらく動きは鈍るはずです。その間にこちらの態勢を整えなくてはなりません」

「さしあたって、こちらで発見している世界への干渉と交渉、現状戦力の相互応用と強化と行った所ね」

 

 エルナーの提言にクーリィが詳細を上げ、各司令官がオペレーション・ラプンツェルから問題点を色々炙り出し始める。

 

「それではニナ、ご苦労さまでした。今後の方針と対策を協議するので、後はいいですよ」

「じゃあ、次の仕事ね」

「次?」

 

 エルナーに促され、ミサキがニナを次の場所へと連れて行った。

 

 

 

「あの、これは………」

「前線基地で発見された資料室と思しき所から運び出された物よ」

 

 学園の複数ある体育館の一室に、膨大な本や部品、その他何か分からない物までが山と積まれている状態にニナは絶句していた。

 

「あちこちからかき集めてきたらしいけど、全然整理されてなくて、詳細不明のが多いのよ。貴方に分かるのを選別手伝ってもらえる?」

「はあ………」

 

 見るだけ気が遠くなりそうな光景だったが、その資料の間を何人もの人間が忙しく動き回っていた。

 

「ウチの愛読書有ったで」

「こっちに私が書いたの有った~」

 

 紅蘭が蒸気工学論と書かれた本を手にし、束が宇宙開発機工の可能性と書かれた本を発掘していた。

 

「お、あんたか救出されたってのは」

「はい、ニナ・ウォンです」

「ウチは李・紅蘭。帝国華撃団所属や」

「私は篠ノ之 束、ISのコア作ったりしてる」

「よろしくお願いします」

「早速聞きたいんだけど、これ貴方?」

 

 束がそう言いながら、一冊の雑誌を広げる。

 そこには、今と違って少し伸ばした髪を二つに束ねて、ガルデローベ標準水着姿のニナのピンナップが載っていた。

 

「キャアアアアア!! 何でそれがここに!?」

 

 先程までのイメージが吹っ飛ぶような悲鳴を上げながら、ニナがその雑誌、乙HiME情報誌乙HiME・GRAPHを奪う。

 

「間違いなく当人のようやな」

「芸能活動でもしてたの?」

「これはそのお姉さまが、コネ使うのの交換条件として………」

「お姉さま?」

「あ、ガルデローベ学園は下級生のコーラルと上級生のパールが有りまして、コーラルの生徒はパールの方のお部屋係としてお世話する代わりに、色々指導を受けられるのですが、私がお世話をしていた方は、実力は確かなのですが、その色々と………」

「こういうのに後輩売るようなら、ロクな奴じゃないようやな」

「水着で済むなら安いんじゃない?」

「………ポスターやフィギュアにならなければですが…」

 

 ニナが視線を反らし、どこか遠い目をするのに紅蘭と束はそれ以上突っ込まない事にする。

 

「ともあれ、他に見覚えあるのないか手伝ってや。情報班も技術班も半分くらい占拠した基地に行ってて、手が足らんのや」

「まずはポスターとフィギュア探そう」

「探さないでください!」

 

 茶化す束にニナが思わず怒鳴るが、彼女の狙いが別に有る事にはまだ気付いてなかった。

 

「なんかこっちにもアイドル雑誌みたいのがあるよ? え~と、風鳴・イブコンビ世界ツアー開催?」

「他の世界でも華撃団みたいな事やっとるんやろか? こっちには新聞や。アローン、再びブルーアイランド襲撃?」

「技術系の本が多いですね。そっち系は私には…」

「違う世界のが入り混じっとるさかい、分類に偉いかかりそうやで」

「何かの部品みたいのも結構………」

「あれ、これISの部品だ。いつの間に?」

「こっちにはかなり旧式の蒸気甲冑のもあるで。錆びきっとるけど………」

「本当に雑多みたいですね………でも大事な物じゃないんでしょうか?」

「そこが問題やさかい。こんだけ集めるの大変やったろうに、回収もせんで放棄しとったんや」

「もう調べ終わったのかな?」

「さあ………」

 

 疑問が次々と出てくる中、ニナはふと一冊の青い表紙の本のような物を見つける。

 何気なしにそれを開いた瞬間、その目が大きく見開かれた。

 

(どうして、これが………!)

「危なそうなんは無い思うけど、注意はしてや~」

 

 驚愕の声を必死に押し留めている時、紅蘭に声をかけられ、ニナは思わずそれを懐に仕舞う。

 自分でもなぜそうしたかは分からないが、それを見せては行けない気がして、ニナは心中の動揺を必死になだめる。

 

(ふうん………)

 

 資料の影からその一部始終を見ていた束が、含みを持ちつつも、それを見逃す。

 そこへ姿を見せた者が有った。

 

「進んでる?」

「お、周王博士。そっちは一段落ついたんか?」

「まだ色々途中だけどね。ニナさんはもう大丈夫なの?」

「はい、あまりお世話になるのばかりもあれですから………」

「何か妙な物見かけたら教えてね。妙な物ばかりとしか言えないけど………」

 

 タブレットPCを手に資料の山を見て思わずため息をもらす周王だったが、分からない者が見れば本とガラクタの山としか言えない状態なのは確かだった。

 

「そういや、こんなんも有ったで。何かの部品やと思うんやけど…」

「さて、どんな、の………」

 

 紅蘭が持ってきた何かのヘッドパーツらしき物を見た周王が絶句し、その手からタブレットPCが落ちる。

 

「どうして、それがここに………」

「知ってるんか?」

「それは、アイーシャのソニックダイバー、シューニアカスタムのヘッドパーツよ! ネストでの決戦の時、破壊されて消失したはず………」

 

 震える手でヘッドパーツを受け取った周王は、それをつぶさに観察する。

 

「アイーシャの………間違い無いんですか?」

「私自身が作った物よ、間違えようは無いわ。けど、ネストでのワームとの最終決戦の後、詳しい調査が入る前にネストは崩壊して、一緒に海に沈んだはず………」

「なぜ、それがここに?」

 

 その場にいた者達全てが、深刻な表情で破損したヘッドパーツを見つめる。

 JAMの魔手が、自分達の予想以上に伸びている事を、その壊れた部品が証明していた………

 

 

 

「仮設前線基地、対象連合体に完全掌握」

「対象連合体との戦闘予測、当初予想の0.65修正」

「対象連合体の合併戦闘力、0.74修正」

「観察目標、次の段階に以降」

「交換観察対象、選別を開始………」

 


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