第二次スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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第二次スーパーロボッコ大戦 EP07

 上空へと舞い上がった芳佳に向かって、敵が一斉に攻撃を開始する。

 

「このお!」

 

 芳佳は前方にシールドを発生、放たれた攻撃全てを受け止める。

 

「防御は私が受け持ちます! 部隊の再編を!」

「ソニックダイバー隊、フォーメーションD!」

「グラディウス学園ユニット、集結!」

「トリガーハート各機、敵空中母艦周辺に展開!」

 

 芳佳を中心に、空中戦を繰り広げていた者達が素早く再編作業へと取り掛かっていく。

 

「なんだあれは!? クラインフィールド並の防御力だぞ!」

「なるほど、皆頼りにするわけだ」

 

 上空を見上げるキリシマが、芳佳の驚異的なシールドに思わず声を上げ、大神は納得して僅かに微笑む。

 

「帝国華撃団! 敵地上機の掃討に入る! 敵の注意が上空に集中してる間に片付けるぞ!」

『了解!』

「母艦からの降下が止んでいる。戦力を出し尽くしたか、彼女を警戒しているのか」

「タカオは何をしている! あれを超重力砲でさっさと撃ち落とせ!」

「私達は構いませんけど、現地の方々はどう思うかしら?」

 

 掃討戦に入る華撃団をメンタルモデル達が勝手な事を言いながらも助勢する。

 

「ある程度片付けたら、こちらは上に上がらせてもらいますわ」

「頼む、光武じゃ空には上がれない!」

 

 同じく掃討戦をしていたエリカが大神に提言し、大神は彼女達が使っている飛行可能なユニットを見ながら叫んだ。

 

「大神さん!」

「マスター、今戻った!」

「地上機はこちらに集中してきてる」

 

 そこへさくら機、プロキシマ、イオナが押し寄せてくる敵に応戦しながら合流してくる。

 

「好都合だ、ここで迎え撃つ!」

「上空からの援護は望めないようだ」

 

 奮起する華撃団だったが、イオナが上空で繰り広げられる激戦を見ながらぼそりと呟く。

 

「だからこっちは飛べないんですって!」

「群像が戦局は複合的要因で構成されると前に話していた。部隊を二分して戦場が別れるのは効率がよくない」

「君、話聞いてる?」

「だったら戦場を上に移せばいい」

 

 淡々と話すイオナにプロキシマは微妙な視線を向けるが、続いた言葉に周囲の者達は一斉に首を傾げる。

 

「上って………」

「ハルナ、キリシマ、ヒュウガ、力を貸して」

 

 そう言いながらイオナはある提案を他のメンタルモデルに転送、同時に演算処理用のグラフサークルを展開させる。

 

「なるほど、こういう手があったか」

「正気か401!」

「イオナ姉様、艦長に似てきてません?」

 

 納得、驚愕、疑惑などのそれぞれの反応を見せながらも他のメンタルモデル達もグラフサークルを展開。

 そして、自分達の周囲から上空へと伸びる階段上のフィールドを形成していく。

 

「これは………」

「ここを登りながら戦えば、上の戦力と敵を挟撃出来る」

「強度は大丈夫なんですの?」

「そちらの自重その他は計算済み。ただしあまり広範囲には無理」

「よし、帝国華撃団は各機、敵を引き寄せつつ、上へと登って挟撃する! 殲滅完了次第、敵母艦への攻撃を…」

『大神~~!!』

 

 そこへ、拡声器越しに加山の声が響き、一台の大型蒸気トラックがこちらへと向かってきていた。

 

「加山!? こっちは危ないぞ!」

「こっちの切り札を持ってきた! 使え!」

 

 巧みに敵地上機の間をすり抜け、大神機の前でドリフトして止まった大型蒸気トラックの荷台が展開していき、そこに光武二式より更に大型の霊子甲冑が姿を表す。

 

「そうか、調整が終わったのか………恩に着る加山!」

「オレとお前の仲でそれはないぜ、大神~」

「さくら君!」

「大神さん!」

 

 大神とさくら、二人が同時に自分の機体から飛び降り、大型霊子甲冑へと乗り込む。

 

『双武、起動!』

 

 二人の声が同時に響き、蒸気と霊子の噴煙を上げて帝国華撃団決戦用二人乗り霊子甲冑《双武》が帝都の激戦に決着を付けるべく、動き出す。

 

「行くぞみんな!」

「おお~!」

 

 

 

「各部隊、上空の敵母艦周辺に展開完了、攻撃開始しました!」

『帝国華撃団、敵地上機の掃討戦に移行します!』

『こちらイー401、超重力砲はいつでも発射可能です。ただ、やはり射線の問題が………』

 

 次々と報告が飛び込んでくる中、臨時指揮所で門脇、嶋、冬后の三人は険しい顔で戦況モニターを睨んでいた。

 

「やはり、問題はあの母艦だな」

「ええ、巨大過ぎます。確実に破壊できない限り、市街地上空での破壊攻撃は避けた方が無難かと」

「しかし、放置もしておけないでしょう。どうにか市街地上空から誘導する方法は無い物か………」

『それにもう一つ。こちらの超重力砲は本来は大戦艦用の鹵獲品を強引に装備した物だ。一発撃てば再整備が必要になる。実質、一回しか使えないと思ってほしい』

 

 群像からの説明に、更に三人は表情を険しくする。

 

『こちらには他に侵食弾頭という兵器が有る。そちらの空中戦力で敵小型機を迎撃、射線を確保して侵食弾頭で敵空中母艦を削れるだけ削り、最終的に超重力砲を撃ち込んで撃破するというプランはどうでしょうか』

「向こうの耐久力が分からない。現状を見る限り、かなりの耐久力を持っているようだが、中途半端な攻撃で空中分解なぞされたら、直下の市街地は壊滅する」

『確かに………だが………』

「相手が何者で、どのような特性を持っているのか、それすら我々にはまだ分からないのだ」

『分かってんのは一つだけ。倒さなきゃならねえ敵だって事だけだ』

 

 群像の提案を門脇が否定、嶋と通信を聞いていた米田も問題点を指摘し、群像も思わず口ごもる。

 

「ワーム大戦の愚を再度犯すわけにはいかない。だが、覚悟はしておいた方がいいかもしれん」

『おい待て、帝都を虫食い煎餅にするようなこたぁ許可するわけにはいかねえな』

『オレも反対です。何か、何か手があるはず………』

 

 帝都上空に鎮座する、あまりに巨大過ぎる空中母艦にそれぞれの指揮官達の意見が対立する。

 

「せめて、弱点みたいな物が分かればいいんだが………」

「敵母艦のジャミングは遥かに強力で、内部構造は全く分かりません………カルナダインが攻撃をしながらサーチしてみたようですが、結果は同じみたいです」

『こっちも同じね。動力炉の場所が分かれば、そこに超重力砲撃ちこめば一発かもしれないけど』

 

 冬后の呟きに七恵が外装データ以外全く不明の空中母艦のデータを表示させ、タカオも同じく内部が全く不明のデータを転送させてくる。

 

「突入探索を命じてみては?」

「それこそ危険だ。前回は内部構造が分かっていたから出来たが、全く不明の巨大飛行艦への突入は無謀過ぎる」

『あのジャミング、あれさえどうにか出来れば!』

 

 

 

「そこだ」

 

 わざと細い路地に入り、追ってきた陸戦型をまとめて重力球で押し潰したハルナだったが、ふとそばで教養のエミリーが幾つもの観測機器を抱えているのに気付く。

 

「そこで何をしている?」

「なんとか、敵の解析をしようと思ったんですが………どんな小型機でもきっちりジャミングしてて。鹵獲か、直接接触出来ないかと思ったんですけど」

「メンタルモデルを持ってしても内部解析は出来ないぞ、ましてや鹵獲と言ってもだな」

 

 ハルナの肩にすがっていたキリシマが呆れた声を上げるが、ふとハルナは何かを考えこむ。

 

「キリシマ、私は今上空母艦へとの通路となるフィールドの形成に演算の半分近くを使用している」

「私もだ、それがどうした?」

「だから頼む」

「何を…」

 

 首を傾げるキリシマを、ハルナは無造作に抱き上げると、そのまま全力でこちらに向かってくる陸戦型へとぶん投げる。

 

「うわあああぁぁ!?」

 

 突然飛んできたクマのぬいぐるみにさすがに向こうも判断に困ったのか、運良く攻撃もされずに陸戦型の装甲へと直撃する。

 

「覚えてろハルナ!」

 

 怒声を上げながらもキリシマは装甲に鉤爪(※なけなしのナノマテリアル製)でしがみつき、残った演算力をフル使用して解析に取り掛かる。

 

「クソ、接触しててこれか!? だがなんとか…」

 

 高度なジャミングをかいくぐり、キリシマはなんとか敵機の内部構造を解析していく。

 

「これは、ほとんどがナノマシンか? だがこの配置、まるで生物を思わせるような…」

 

 キリシマが解析を進めていく中、ふと響いた金属音に顔を上げる。

 そこには、極至近距離からこちらに向けられている、銃口が有った。

 

「しまっ…」

 

 銃口が火を噴く瞬間、キリシマの体が何かに引っ張られて弾丸は僅かに体表をかすめて地面に弾痕を穿つ。

 

「大丈夫ですか!?」

「すまん、助かった!」

 

 キリシマを耳を引っ張り上げる形で危機を救ったアーンヴァルに、キリシマが礼を言いながらも不完全だが解析結果をまとめ、一斉送信する。

 

「これで突破口になればいいが………」

「ナノマシン………ひょっとしたら………」

 

 送信されてきたデータを受け取ったアーンヴァルが、ある可能性を考える。

 対ナノマシンの切り札の可能性を。

 

 

 

「キリシマから敵機の解析データ来ました!」

「なんだこりゃ!? 機械か生物か、どうにも分からねえぞ?」

 

 静の報告に、杏平の素っ頓狂な声が重なる。

 

『確かに妙な構造ね。あえて言うなら、霧の艦隊構造に似てなくもないけど』

「あの空中母艦も似たような構造、と考えられるか。内部構造を予測できるか?」

『サイズ差がありすぎよ。あの大きさじゃ同じ手も使えないだろうし』

「一体キリシマはどうやって解析したんです?」

『…後で教えるわ』

 

 タカオと群像が解析結果から空中母艦への突破口を模索するが、僧の疑問にはあえて答えないでおく。

 

『こちらアーンヴァル! 解析データは見ました! クアドラロックシステムの転用は出来ませんか!?』

「クアドラロック?」

『ソニックダイバーの切り札です。ただあれに効くかどうかは………』

『クアドラシステムのデータ送ります』

 

 アーンヴァルの提案に群像が首を傾げた所で、タクミと七恵が説明する。

 

『ナノマシンへのホメロス効果を利用した自壊システム? あんた達も結構物騒なの使ってるのね』

『しかし、ナノマシン特性の違いを加味したプログラムの変更が必要になるのでは? 最悪システムその物を組み直す必要が…』

『まって! これなら私わかる!』

 

 タカオと僧が送られてきたデータを流し見しながら否定しようとするが、そこで予想外の声が上がる。

 

「今のは?」

「子供?」

『これをこっちの組成崩壊に書き換えればいんだよね?』

 

 通信ウィンドゥに顔を出してきた蒔絵に、皆絶句するが自信満々の様子に思わず顔を見合わせる。

 

「失礼だが、本当に出来るのかね? 事は緊急を要するのだが………」

『分子の振動破壊固有周波数よりも、ずっと仕組みは簡単。それにヨタロウが構成密度の概要を送ってきてくれてるから、あの大きいのの体積と質量にそれを当てはめてやれば、組成崩壊とはいかなくても、機能不全にまでなら出来るかも!』

 

 嶋が聞き返すと、蒔絵の口から幼い外見からは想像もつかない専門用語が次々と出てき、聞いていた者達は再度絶句する。

 

「………ソニックダイバー隊のナノスキン残時間は?」

「あと、10分切ってます!」

「プログラムの変更にどれくらい必要かな?」

『えと、6、いや5分で!』

「至急頼む」

 

 門脇の問いかけに七恵と蒔絵が返答し、即座に作業に入る。

 

「一時的にでも、あの空中母艦のシステムを停止させられれば、内部解析が出来るかもしれん」

『そして動力炉の位置を特定し、超重力砲を撃ち込む』

『その前に、あれを撃っても大丈夫な場所に誘導しねえとな』

 

 門脇、群像、米田の三人が意見の一致を見、同時に頷く。

 

「ソニックダイバー隊に連絡、クアドラロックの準備に入れ」

「了解、ソニックダイバー各機、クアドラロックの準備に!」

『タカオ! 超重力砲がもっとも都市部に被害が少ないポイントをシミュレート、総員に伝達!』

『展開中の全部隊に空中母艦直下から緊急退避させろ! 万が一だ!』

 

 三人の司令官から矢継ぎ早に指示が飛び交い、それぞれの部隊が行動を開始する。

 激戦の決着の時が、近付いてきていた。

 

 

 

「空中母艦にクアドラロック!? 本気ですか!?」

『前もやったろ。あのジャミングが停止出来れば、弱点が分かるかもしれん!』

「しかし、サイズ差が………」

「フォーメーションを変更してみます!」

 

 冬后から届いた作戦に、瑛花が思わず声を荒げるが、可憐は作戦の意図を組み、即座にフォーメーションの変更を試みる。

 

「…分かりました。音羽、エリーゼ、聞いてたわね!」

「聞いてた! クアドラロックね!」

「サポートするよオーニャー!」

「ちょ~っとサイズ大きめだけど、なんとかやってみよう!」

「こちらで援護します! 変更したフォーメーションを送ってください!」

「私が前に出ます! 音羽ちゃんは後ろから来て!」

 

 音羽、ヴァローナ、エリーゼが力強く答え、ジオールと芳佳も協力を申し出る。

 

「RV各機、ソニックダイバー隊を援護! クアドラロックに備えて!」

「周辺の小型機はこちらで受け持ちます! そちらの準備を!」

「右翼側の敵はこちらで!」「エリカ7、行きますわよ!」

 

 ジオールの指示でRVが集結する中、クルエルティアを先頭にトリガーハート達とポリリーナとエリカを先頭に光の戦士達が周辺の掃討に取り掛かる。

 

「問題は、やはりあのサイズです。現状のソニックダイバーの出力では、ホメロス効果を完全に発揮出来ない可能性が………」

「つまり、削らなきゃダメって事ね」

「あれの質量を削るのはかなり困難なミッションだぞ、マイスター」

 

 フェインティアとムルメルティアが残った火力でどうするか思案する中、地上の敵機をほぼ殲滅した帝国華撃団とメンタルモデルが上がってくる。

 

「こちらも手伝おう! 帝国華撃団、敵空中母艦に攻撃開始!」

「大丈夫、侵蝕魚雷を使えば充分削れる。タカオに座標を送る」

「あまり激しく動きまくるな。フィールドの演算が間に合わなくなる」

 

 攻撃を開始しようとした所で、空中母艦の各所の銃座が一斉に攻撃を開始、動きの遅い霊子甲冑とメンタルモデルに銃撃が集中する。

 

「自己防衛モードに入ったようだ! 注意しろ!」

「マリア、紅蘭、織姫君は機銃を攻撃! アイリス、カンナ、レニはそれぞれ援護に! オレとさくら君は直接攻撃してみる! ハルナ君、あの開口部までの足場を!」

「了解した」

 

 即座に対応指示を出しつつ、双武が白刃を手に空中母艦へと突撃する。

 

「大神さん!」

「内部から攻撃出来れば、あるいは!」

 

 双武が空中母艦の複層構造になっている下部カタパルトに突入しようとしたが、そこでカタパルトのみならず、開放している部分全てにレーザーバリケードが出現する。

 

「くっ! やはりそう簡単にはいかないか!」

「中には入れなくてても!」

 

 急制動をかけつつ、双武の手にした両刀が空中母艦の構造材を斬り割く。

 膨大な霊力の込められた斬撃は、予想以上に大きな威力となって空中母艦の構造材を破壊したが、それでもその巨体の前には微々たる物だった。

 

「大神さん!」

「こちらの攻撃が効かないわけじゃない! 分担して、翼端を破壊する!」

「要所だけ破壊してくれれば、後はこちらで侵蝕魚雷を撃ち込む。そちらの攻撃はなぜかこちらの演算以上のダメージを与えられてるから、ちょうどいい」

「マスター達の生体エネルギーに対する耐性が無いんだな」

「なるほど」

 

 イオナの提言にプロキシマが補足し、イオナは小さく頷く。

 

「じゃあ一気に行くぞさくら君!」

「はい大神さん!」

『狼虎滅却・桜花絢爛!!』

 

 膨大な霊力を伴った大斬撃が、空中母艦の翼を大きく抉っていく。

 

「確かに、すさまじい破壊力だ」

「原理が理解出来ない」

「プロキシマ!」

 

 そこへ、ムルメルティアが複数のボトルを吊り下げて運んできた。

 

「先程転送されてきた生体エネルギーの回復剤だ。あれだけの攻撃、消耗は激しいはず。ウィッチに効いたから、そちらにも効くはずだとマイスターから言われて運んできた」

「ありがとう、マスター達に渡しておく」

「急いだ方がいい。他の人達も決着をつけに来ている」

「ここが勝負どころか!」

 

 イオナがそこかしこで帝国華撃団が必殺技を繰り出し始めたのを確認、プロキシマが慌てて回復ドリンクを持っていく。

 

「敵空中母艦被害状況を確認、破損状況から侵食魚雷の攻撃ポイントを策定、タカオに送信」

 

 周辺では華撃団、上空では天使が中心となって空中母艦に攻撃を加える状況を解析したイオナが、次の手を打つべく攻撃ポイントを送信していく。

 

「………追伸、確認出来る全戦闘ユニットの戦闘力の低下を認識。長期戦による疲労と判断。これ以上の長期戦は困難」

 

 はためには気づきにくいが、誰もが激戦を繰り広げ、動きが鈍くなりつつあるのを確認したイオナは、少しでも決着を早めるべく、空中母艦への攻撃を開始した。

 

 

 

「イオナからの攻撃ポイント、来ました!」

「1番から8番、全てに侵蝕魚雷装填!」

「大判振るまいだな! だが魚雷であってミサイルじゃねえぞ!」

「分かっている! 敵空中機の掃討率は!」

「75、80%を突破! 母艦のは出尽くしたようです!」

「蒔絵、プログラムはどこまで進んでる!」

「あと90秒待ってて! このプログラム振動弾頭の時あったらな~」

 

 蒔絵の幼い手が想像できない速度でコンソールを叩く中、群像は激しい空中戦の様子を凝視していた。

 

「タカオ、敵防空網を掻い潜り、侵蝕魚雷を全弾当てられるか?」

『あれがこれ以上何も隠してなければね。ああもう! このジャミングが無かったら兵装も何もスキャン出来るのに!』

「プログラム変更終わったよ! 送信お願い!」

「これが一体どこまで効果が有るかが勝負の分かれ目だな………」

 

 資料に目を通しただけのソニックダイバーの切り札、しかも急場の変更をしたプログラムで果たしてどれほどのダメージが与えられるのか、あまりに賭けの要素が多過ぎる状況に、群像もさすがに焦りを感じる。

 

「周辺の避難状況は?」

「市民の避難は完了、展開していた救助部隊も現在撤退中だそうです」

「………敵空中母艦が本艦破壊レベルの攻撃を行う可能性が出たら、独断で超重力砲を発射する」

「おい、いいのか?」

 

 杏平が思わず群像の方を見るが、群像の決意は固いのが見て取れた。

 

「向こうが何らかの大規模破壊兵器を使用しようとした場合も同様だ。被害が抑えられないなら、少ない方を選ぶ」

「後で問題になるのでは?」

「どうせオレ達は異邦者だ。遅かれ早かれ問題にはなるだろう」

「そんな人達には見えませんでしたけど………」

 

 淡々と告げる群像に静は思わず首を傾げるが、群像はただ冷静に戦況を見つめていた。

 

「対空ミサイル、状況に応じて発射! 敵空中母艦を攻撃して侵食魚雷発射の隙を作れ!」

「あいよ、周りの子達に当たんねえだろうな?」

「警告は必要だろうが、そんなぬるい連中でもなさそうだ」

 

 杏平の疑問に、群像は映しだされる空中母艦と交戦している者達、誰もが見事な動きと的確な攻撃をしている事に余計な心配は不要と判断していた。

 

『クアドラロック変換プログラム、確かに受け取りました! ソニックダイバー隊に転送します!』

『空中母艦損傷率、10%未満! このままだとクアドラロックは不可能です!』

『下の部隊の撤退までもう少しかかりそうだ! つうか本当にあれ破壊できんだろうな!?』

 

 次々と飛び込んでくる通信に、群像の表情が更に険しくなる。

 

「前方味方機に警告後、対空ミサイル1番から5番まで発射、続けて侵食魚雷発射!」

「了解!」

「こちらイー401、これより敵空中母艦への援護攻撃に入ります! 周辺機は退避してください!」

 

 最早猶予も無いと判断した群像が一斉攻撃を指示、警告の後にイー401から次々とミサイルが発射されていく。

 

「ミサイル着弾まで4、3、2…着弾確認!」

「侵食弾頭発射!」

 

 続けて、霧の艦隊の最も恐れられる兵装である、侵食魚雷が一斉発射、未だ爆炎の立ち込める空中母艦へと水中から飛び出し、突き進んでいった。

 

 

 

「!? この反応、タナトニウム!」

「まさか侵食反応兵器!? 冗談でしょ!」

「皆さんさらに退避してください!」

 

 飛来する侵蝕魚雷に、まっさきに気付いたトリガーハート達が一斉に声を上げる。

 

『確かにタナトニウム反応です! 一体どこから………』

「カルナ、予想被害範囲を算出! かかってる人はいないかをすぐに…」

 

 カルナも慌てる中、クルエルティアが危険域に誰かいないかを確認させようとするが、そこで空中母艦に動きが生じる。

 今まで無かった場所に銃座がせり上がり、向かってくる侵食弾頭へとビームを発射。

 直撃した侵食弾頭が二本、空中で爆発した。

 

「迎撃した!? 敵もタナトニウムを知っている!?」

「誰か、落ちた破片を完全に破壊して!」

「このままじゃ他のも! ディアフェンド!」

 

 先ほどのミサイル攻撃は食らったのに、侵蝕魚雷は迎撃した事にトリガーハート達はある可能性を考えていたが、それよりも残った侵食魚雷へと向けてアンカーを放つ。

 

「カルノバーン・ヴィス!」「ガルクアード!」

 

 3つのアンカーが同時に飛び、侵食魚雷をキャプチャーすると強引に軌道を変更、空中母艦のビーム攻撃を回避させ、そのままリリースして命中させる。

 侵食魚雷が命中した箇所は、爆発の代わりに黒い球体のような物が出現、そしてその球体が消失すると、その部分がごっそりとえぐられていた。

 

「な、何あれ!?」

「見た事も無い兵器ね」

 

 撃ち落とされた侵蝕魚雷を撃破した亜乃亜とエリューが、見た事もない破壊をもたらした兵器に唖然とする。

 

「離れてなさい! あんたらのシールドでも持たないかもしれないわ!」

「また来た!」

「ここまでストレートに削れる兵装があるなんて」

 

 フェインティアの警告に、亜乃亜とエリューが慌てて距離を取り、再度飛来した侵食魚雷を迎撃される前にトリガーハート達がアンカーで軌道を変えて空中母艦へと叩きつけていく。

 

「すごい事になってるな~」

「なるのはこれからよ」

「クアドラロックの準備に入るわ! ソニックダイバーの援護に!」

 

 文字通り削られていく空中母艦に亜乃亜は思わずノンキな声を上げるが、エリューがたしなめようとした所でジオールの指示が飛んだ。

 

「可憐から変更プログラム送られてきた! 配置位置を転送するよ!」

「亜乃亜は零神、エリューは雷神、マドカは風神、ティタはバッハの援護に! 私はウィッチ達とクアドラロック発動まで目標の攻撃を続けるわ!」

『了解!』

 

 即座にRVが散開し、配置に付こうとするソニックダイバーの元へと向かう。

 

「おそらくこれが、最初で最後のチャンス………」

 

 この巨大な敵を破壊する、僅かな可能性を確かにするために、ジオールはRVを加速させた。

 

 

 

「クアドラロック可能質量まで、75、85…」

「各機、座標固定位置に移動! ソニックダイバーの出力だと、ロックに持ち込める限界ギリギリなのを忘れないで!」

「ナノスキン再塗布してる暇無いわよ! 音羽、一発で決めなさい!」

「もちろん!」

 

 目標が巨大過ぎるため、あらかじめ固定位置に移動しながら、各ソニックダイバーが準備へと入っていく。

 

「行くよゼロ、私達に全てがかかってるんだから」

「あたしもいるよ~」

「大丈夫、こっちも援護するから」

「防御は任せて下さい!」

 

 MVソードを構える零神に音羽が呟きかけていた所に、ヴァローナの定位置の音羽の頭に降り、亜乃亜と芳佳がサポートのために左右へと着く。

 

「目標質量に到達!」

「零神、行きます!」

 

 侵食魚雷と各所の攻撃であちこち破砕している空中母艦へと向けて、音羽は零神を一気に加速させる。

 

「芳佳ちゃん!」

「分かってる亜乃亜ちゃん!」

 

 その両脇、亜乃亜が残った敵が向かってくるのを次々撃ち落とし、芳佳が何者も近づけまいとシールドを張って零神を守る。

 

「行っけええぇ!」

 

 空中母艦のちょうど中心点、その一点に向かい、音羽はMVソードを深々と突き刺す。

 

「座標、固定OKっ!!」

「4!」「3!」「2!」「1!」

『クアドラロック!』

 

 四機のソニックダイバーがリンクして人工重力場を発生、空中母艦をロックしようとするが、さすがに質量差が有り過ぎて完全にはロック出来ない。

 

「ゼロ、頑張って!」

「あたしも! プログラム、強制インストール!」

 

 音羽は零神の出力をフルにまで高め、ヴァローナも己の電子戦能力を最大に発揮し、空中母艦に変更プログラムを強引に書き込んでいく。

 

「そっちお願い!」

「分かった!」

 

 動けない零神に向かって、残った敵と空中母艦の機銃が一斉に攻撃を開始するが、亜乃亜と芳佳が必死になって迎撃、飛来してくる銃火を自らのシールドで受け止める。

 

「亜乃亜ちゃん! 芳佳ちゃん!」

「こっちは大丈夫!」

「そちらに集中して!」

 

 背後から聞こえる銃撃と弾着の音に音羽は振り向こうとするが、二人の声に歯を噛み締めながらもロックに集中する。

 

「オーニャー、もう少しで………!」

「ゼロ、お願い………」

 

 ロックが効くかどうかのギリギリの所だったが、そこで突然重力場の発生ラインに沿うように、次々と重力球が打ち込まれていく。

 

「手伝う。この重力場に固定すればいいの?」

「お願い!」

「分かった」

 

 フィールドで足場を作りながら登ってきたイオナが、芳佳のお願いに頷くと空中母艦の周囲に重力球を次々と打ち込んでいく。

 

「これなら!」

『固定、確認!』

 

 イオナの援護で完全にロックが発動、ホメロス効果を強制発動させる。

 次の瞬間、空中母艦の不気味な鳴動が、停止した。

 

「ヴァローナ!」

「任せて!」

「マドカ!」

「OK!」

「カルナダイン、全センサー発動!」

『了解、アナライズ開始!』

「タカオ!」

『もうやってるって!』

 

 その隙を逃さず、それぞれが一斉に空中母艦の解析に入る。

 

「停止してこのプロテクト、すごい高度なシステム積んでる!」

「基礎フレーム、なんて密度…」

『兵装システムが幾つかまだ残ってる! 注意してください!』

『下部中央部、高エネルギー反応! 動力炉見つけた!』

 

 幾つものデータが飛び交う中、もっとも探していたデータをタカオが見つけだす。

 

「エネルギー総量から超重力砲攻撃時の破壊係数を概算! 地表落下までに破壊可能かをシミュレートしろ!」

『ちょっと待って艦長! ………この高度なら、ギリギリ行けそう!』

「静、空中母艦直下の状況は!」

「避難民は避難終了、救助部隊は今最後の部隊が撤退しました!」

「いおり! 動力炉の状態は!」

『冷却完了! 超重力砲いつでもいけるよ!』

「よし、敵空中母艦動力炉に照準! 超重力砲、発射体勢!!」

 

 群像の号令と共に、イー401の艦首が空中母艦に向けられると、突然その船体に光るラインが走ったかと思うと、艦体その物が中央部を残して左右下の三方向に展開、内部に大小5つのコイル状で構成された超重力砲を露わにする。

 

「………どういう仕組みだ」

「さあ………」

 

 隣で見ていた美緒とすみれが思わず呟く中、イー401はアンカービームを発射、軌道上の水面が割れ、その先にある空中母艦を完全に捉える。

 

「軌道上の全味方機に退避勧告!」

「了解!」

「やっぱこのままだとちょっぴり街えぐっちまうぞ!」

「やむをえまい! 今しかない!」

『しかたねえ! 壊れたら直すから、撃っち…』

 

 これを唯一の好機と見た群像と、同じくそう見た米田が発射許可を出そうとした時だった。

 突然、空中母艦がその質量と出力に任せ、急降下を開始する。

 

「うおい!? 下がる、いや落ちてくぞ!」

「まさか、これは………」

「特攻!?」

『艦長! すでに地表までの母艦崩壊推定高度を割り込んでる!』

「何!」

「野郎、最悪な手段で超重力砲を封じやがった!」

「撃つな! 今撃ったら、味方機諸共、市街地をかなり巻き込む!」

 

 予想外の相手の反撃に、群像が発射を停止。

 だが、空中母艦は更に高度を下げていく。

 

「アンカービーム出力最大! なんとしても止めろ!」

『無茶言わないで!』

「やべえ、やべえぞこりゃ!」

「ただ落ちただけでも、市街地が壊滅しますね」

「で、でもどうしたら!」

 

 イー401のブリッジ内もパニックになる中、群像はある事に気付いた。

 落下していく空中母艦の真下へと向かう、芳佳の姿に。

 

 

 

「止まれええぇ!!」

 

 頭上を完全に覆い尽くす空中母艦の真下、そこに回りこんだ芳佳はシールドを全開で張る。

 

「芳佳! 幾らなんでも無茶よ!」

「分かってます! でも、少しでも止めないと!」

 

 そばにいたポリリーナが仰天して止めようとするが、芳佳は止めようとせずに、シールドに大質量が激突する。

 

「く、ううう………」

 

 シールドもストライカーユニットも魔力を全開で送り込むが、落下速度がほとんど変わらないのを芳佳は理解していたが、それでも止めようとはしない。

 

「もっと、もっと私に力があったら………!」

 

 止まりそうにもない落下に、芳佳が思わず苦悶を漏らす。

 だがそこで、隣で同じように落下を止めようとする手が有った。

 

「ゼロ、フルバーニア!」

 

 芳佳の隣で、音羽が零神のバーニアを全開で吹かす。

 

「音羽ちゃん!」

『音羽何してるの! 退避命令が出てるのよ!』

「ここで止められなかったら、下の街が無くなっちゃう!」

 

 瑛花が予想外の行動に戻るように促すが、音羽は離れようとしない。

 

「私もお手伝いします!」

「ええ、もうやけくそだ~!」

 

 更に芳佳のそばに、回復ドリンクの空ボトルを投げ捨てながら、静夏も己のシールドで空中母艦を受け止め、音羽の隣にエリーゼも並んでバッハシュテルツェで空中母艦を受け止める。

 気付くと、ウィッチ達が次々と己のシールドを発生させ、芳佳に並んで空中母艦を受け止めようとする。

 

「あなた達は撤退しなさい!」

「いや、お手伝いします!」

「プラトニックエナジー全開! シールドに集中、ビックバイパー最大出力!」

「フィールド全開、空中母艦下部に収束」

 

 更に瑛花を先頭にしたソニックダイバーレスキュー隊や亜乃亜を先頭にRVやイオナ達メンタルモデル達も加わり、なんとか落下を押し止めようとする。

 

「エリカ7!」

『はい、エリカ様!』

「ちょっとでも、遅く出来るなら!」

「ズンズン行く」

「お姉さまがやるなら、私も!」

 

 最早空中戦を行っていた全ての機体が、落下を止めるべく、全力で空中母艦を受け止めていた。

 

『何をしてる! 早く撤退しろ!』

『イオナ!』

 

 指揮官達は必死に撤退を促すが、誰も聞こうとはしない。

 

「ディアフェンド、出力最大!」

「カルナ!」

『もう出力限界です!』

 

 上部では、トリガーハート達とカルナダインがアンカーを空中母艦に打ち込み、全開で引っ張り上げようとしていた。

 皆の努力の成果か、僅かに落下速度が緩んでいく。

 

「もう少し! みんな!」

 

 芳佳が残った魔力すら使い果たさんばかりに注ぎ込もうとした時だった。

 突然、空中母艦の真下の装甲が開き、そこに巨大なビーム砲の砲口が現れる。

 

「うそ!?」

「今コレを撃たれたら!」

 

 音羽と亜乃亜も絶句する中、ビーム砲にエネルギーがチャージされる燐光が灯り始める。

 

「まずい!」

「そんな…」

 

 一瞬、皆の心に絶望が訪れた。

 しかし、それは全く予想外の結果となった。

 

『! 上空から高速飛来物! ミサイルだと思われます!』

「上空!?」

 

 カルナの報告通り、複数のミサイルが超高速で飛来したかと思うとそのまま散開、空中母艦の側部へと次々と命中、爆発していく。

 

「援護攻撃!」

「でも誰が!?」

 

 トリガーハート達がおもわず上空を見るが、そこにはもう一つ何かが高速で迫ってきていた。

 

「爆撃!?」

「いや、マイスター。何か見覚えが………」

 

 巨大な爆弾のような物が飛来してくるかに見えたフェインティアが思わず声を上げるが、突然爆弾が動きを変えて空中母艦の周囲を旋回しつつ四方が開き、ムルメルティアがある事に気付いた。

 

「ガス散布確認!」

「いかん、離れろ!」

 

 クルエルティアが爆弾からガスが噴出している事に気付き、ムルメルティアも叫ぶ。

 トリガーハート全機が一斉に離れた瞬間、噴出したガスに着火、すさまじい爆発が空中母艦を直撃した。

 

燃料気化爆弾(サーモバリック)!?」

「誰よこんな破壊兵器使うの!」

 

 広範囲殲滅兵器の使用にエグゼリカは驚き、フェインティアは思わず声を荒げながら、上空へとセンサーを向ける。

 

「高度20000、何か、いや誰かいる!」

「後よ! 今は!」

『いや、間に合った!』

 

 今まで気付かなかった、高高度に反応がある事にフェインティアが叫ぶが、クルエルティアは先程の援護に敵ではないと判断する。

 そして大神の声と共に、空中母艦の真下へと向かう翔鯨丸とその甲板上に居並ぶ帝国華撃団の姿が有った。

 予想外の援護攻撃に空中母艦のビーム攻撃が止まった隙を逃さず、翔鯨丸が空中母艦の真下に停止する。

 

「みんな、準備はいいな!」

『はい!』

「この回復ドリンクで外傷や生体エネルギーはある程度回復出来ますが、疲労までは回復できません! 無理はしないでください!」

「この状況でそれは無理じゃないかな」

 

 転送されてきた回復ドリンクを華撃団全員に配布したエミリーが注意点を告げるが、プロキシマは笑って首を左右に降る。

 

「帝都は、オレ達が護る!! 行くぞ!!」

『はい!!』

「はああぁぁぁ!」

「やああぁぁぁ!」

 

 双武に乗った大神とさくらが気勢を上げると、双武の機体から霊力の燐光が輝き始める。

 

「私達も!」「おうよ!」「アイリスだって!」「行くで!」「フィナーレで~す!」「これで終わらせる!」

 

 それに呼応するように、他の華撃団も鼓舞の声を上げ、それぞれの機体から同色の霊力の燐光が輝いていく。

 

「す、すごい………!」

「上空の連中は退避だ! マスター達の切り札が行くぞ!」

 

 すさまじい霊力の放出に、エミリーは絶句し、プロキシマは慌てて退避勧告を出す。

 

「行くぞみんな!」

『帝・国・華・撃・弾!!!』

 

 霊子甲冑から立ち上る霊力の燐光が、融合して巨大なエネルギー弾となって天空を駆け上がり、空中母艦へと直撃する。

 圧倒的な質量を破砕しながら、霊力の砲弾は落下していた空中母艦を押し留め、そして一気に押し上げていく。

 

「はああああぁぁぁ!!」

 

 帝国華撃団全員が霊力全てを振り絞り、霊力の砲弾へと力を込める。

 空中母艦の巨体が更に押し上げられ、当初の高度よりも更に上空へと打ち上げられていった。

 

 

 

「射線確保!」

「全味方機の退避確認!」

「超重力砲、発射!!」

 

 皆が作ってくれたチャンスを逃さず、群像は超重力砲の発射を命令。

 イー401に内包された超重力砲から、漆黒の高密度重力子が発射され、狙い違わず空中母艦の動力炉を撃ち抜く。

 帝国華撃弾と超重力砲、二つの高エネルギー攻撃が直撃した空中母艦は内部から爆風が吹き出し、各所が次々と誘爆したかと思うと、大爆発を起こし、文字通り木っ端微塵となって吹き飛んでいった。

 

「や、やった………」

「目標完全消失確認だよ、オーニャー」

 

 爆煙が風に吹き流され、後には砕け散った光の粒子しか残ってない事を確認した音羽が、思わず呟き、ヴァローナも頷く。

 

『空中母艦、完全に消失しました!』

『残存敵機、撤退していきます!』

 

 僅かに残った敵機が、発生した小規模な霧の竜巻の中に飛び込んで消えていくのを見た者達は、ようやく自分達の勝利を確信した。

 

「勝った、私達勝ったんだ!」

「やった~~!!」

「いやっほ~!」

 

 誰も彼もが勝利を喜び、手近にいた者達に抱きつく。

 

「くっ!」

「大神さん!」

 

 霊力の過多使用で、機体、搭乗者共に限界を迎えた双武が翔鯨丸の上で擱座し、開いたハッチから大神が崩れるように出てきて慌ててさくらが支える。

 

「大丈夫だ………みんなは?」

「全員無事です、司令」

「今回復ドリンク追加で転送してもらいます!」

「無理はするなマスター」

 

 他の機体からも隊員達が降りてくる。

 誰もが疲弊していたが、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「みんな、お疲れ様」

「私達だけの力じゃありませんよ」

「そやな」

「その通りだ!」

 

 突然背後から響いた声に皆が振り向くと、足場にしていたフィールドを解除したキリシマとハルナ、それに続けてヒュウガとイオナも翔鯨丸へと降りてきた。

 

「協力ありがとう、君達と君達の母艦が無ければ、勝つ事は出来なかった」

「礼なら群像に言って。私達はただ群像の命令に従っただけ」

「自己防衛も兼ねてたけどね」

「私が危険を犯して相手の内部構成をスキャンしたんだぞ!」

「ちょっとそこどいてどいて!」

 

 メンタルモデルが各々の反応をする中、上空から声が響いたかと思うと、半ば落下のような勢いでソニックダイバーが強引に着陸してくる。

 

「うわ!」

「何だ何だ!?」

「すいません、ナノスキンの時間限界が来ちゃって、帰投できなくなりまして………」

「大神司令、すいませんが少しの間乗船許可を貰いたいのですが………」

「それは構わないが、そうか君達の機体も限界状態か………」

「光武二式も大掛かりな整備が必要やで。ちょ~っと無茶しすぎや」

 

 頭を上げる可憐と瑛花に大神は快く許可を出すが、そこで各所から煙を上げている霊子甲冑に紅蘭が渋い顔をする。

 

「あ、そういえばアレ、まだしてませんでしたね」

「おっとそう言えばそうだな」

「アレって?」

「実はですね…」

 

 さくらが唐突に言った事に、音羽が首を傾げるが、〈アレ〉について耳打ちする。

 それを聞いた音羽の顔が一気に明るくなった。

 

「ちょっと待って、芳佳ちゃん! 亜乃亜ちゃん! エグゼリカちゃんもポリリーナさんもこっちこっち!」

 

 声を張り上げ、帰投しようとしていた者達を音羽が呼び寄せる。

 

「どうかしたの?」「何々?」「なにかあったんですか?」「まだ何か…」

「あのね、今華撃団の人達から聞いたんだけど…」

 

 今聞いたばかりの事を音羽が教え、少し考えてから皆が頷く。

 

「やるのオーニャー?」

「ほらヴァローナも」

「みんなもこっちに!」

「それじゃあ………」

 

 機体から降りたり、戦闘態勢を解いた者達が集まり、全員が頷く。

 

「せ~の!」

『勝利のポーズ! キメッ♪』

 

 帝国華撃団のお約束とも言えるキメポーズに、集まった者達が一斉参加した。

 

「み、宮藤さん! 何してるんですか!」

「あ、静夏ちゃん入ってなかった?」

「音羽! あなた!」

「ああ、瑛花さんも! もう一回、もう一回全員で!」

「やりません!」「やらないわよ!」

「あははは………」

 

 誰からともなく笑いがもれ、それは広がっていく。

 激戦の終わりを告げる、楽しげな笑い声が響いていった。

 

 

 

「いた!」

「あれか」

 

 戦闘終了と同時に、フェインティアはムルメルティアを連れて上空を目指していた。

 上空から援護攻撃をした謎の存在を確認するべく、現状出せる最高速度で上昇するフェインティアだったが、急接近してくるこちらに気付いたのか、向こうも突如として身を翻す。

 

「そこのアンタ! ちょっと待った…」

 

 フェインティアが全周波数で呼びかけるが、相手は答えず、急加速して離れたかと思うと、転移して姿を消した。

 

「逃げられたな、マイスター」

「なんて逃げ足の早い奴………でも」

 

 フェインティアは相手が姿を消す直前、望遠状態だが取れた画像を表示し、解析に入る。

 

「サイズはトリガーハートとほぼ同じ、状況から見て生身って事は無いわね」

「私も同意見だ。だが、目的は何だ?」

「そして、いつから居たかよ。ひょっとしたら、最初っから?」

 

 トリガーハートを持ってしても断片的にしか分からなかった謎の存在に、フェインティアは首を捻る。

 

「ぬ、マイスター。ここを拡大」

「これは………」

 

 ムルメルティアが画像の一点を指差し、フェインティアが拡大。

 人型程度しか分からない画像の一点、黒い武装のような物の腰の部分に白地の漢字が書かれており、予想解析も加えてフェインティアはそれに該当する文字を割り出した。

 

「《雪風》、それがあいつの名前?」

「部隊名かもしれない。以降、雪風と呼称してはどうだ?」

「そうね。カルナに送信しとくわ。戻りましょ、疲れたわ」

「私もだ」

 

 ため息をつきつつ、フェインティアとムルメルティアは地表へと向かって、降下を開始した。

 

 

 

「敵の完全撤退を確認しました。ソニックダイバーはナノスキン限界を迎えたため、翔鯨丸に緊急着陸したそうです」

「ソニックダイバーレスキュー隊は順次帰投しています」

「なんとかなりましたな」

「ああ」

 

 半数はかつて激戦を共にした戦友、だがもう半分は互いの事すらよく知らない者達との連携、出せる物は全て出し尽くした作戦、そしてかろうじて得られた勝利に、臨時指揮所内に安堵の吐息が漏れる。

 

「千早艦長、協力感謝する」

『いえ、こちらも自衛行動を行っただけです』

『謙遜すんな。正直、あんたらがいなかったら手に負えなかったかもしれねえし』

 

 米田が笑いながらも両者を称える。

 だが、その後二人の老将の口から出た言葉に、全員が硬直した。

 

「今回は、なんとか勝てたが………」

『…あんたもそう思うかい』

「今回、は?」

 

 門脇の言葉に、米田も一転して険しい表情になり、思わず冬后が聞き返す。

 

「どう考えても、敵の動きはおかしかった」

『あんだけの戦力、一気に出せばそれでカタがついてた。だが、あいつらはやたらと小刻みに戦力を出し、それでいて周到にこちらを狙っていた。鹵獲目的にしても、おかし過ぎる』

「考えられるとしたら………」

『………威力偵察』

 

 二人の老将の言わんとする事を、群像が代弁する。

 

「威力偵察、ですと!? あの大戦力で?」

「そう考えれば、つじつまは合う」

 

 嶋の声も思わず裏返りそうになる中、門脇は俯きながら肯定する。

 

『考えられんし、考えたくはねえ………だが、そうとしか考えられねえ。そして、もしこの仮説が当たってたとしたら、もっとイヤな可能性がありやがる』

『あの、米田中将、それは………』

 

 かえでも呆然として聞き返す中、その可能性を口にするべきかを二人の老将は悩む。

 

『確かに、これが威力偵察ならば、最悪のシナリオが在り得る』

『あの、先ほどから皆さん何を………』

 

 群像もそれに気付いたのか、表情を険しくする。

 静が聞き返すが、群像も黙ってしまった。

 そんな中で口を開いたのは、門脇だった。

 

「つまり、これが威力偵察で、しかも母艦まで繰り出して撤退しないというのは、向こうに取って今回の戦力は完全消費しても構わない、と捉える事が出来る」

『要は、捨て駒って奴だ。帝都壊滅させるに充分な戦力がな』

「捨て…」

「駒って………」

「………だとしたら、今回の敵はこれ程の戦力すら使い捨てられる程の戦力を保有している、と」

 

 誰もが絶句する中、嶋のみが固唾をのみながら、端的にその可能性を口にし、二人の老将と若い艦長は同時に頷く。

 

『ま、あくまで可能性だ。深く悩まねえ方はいいだろうよ』

「だが、考慮はしておくべきだろう。確かユナ君は来ていなかったな?」

「あ、はい。ポリリーナさんとエリカさんは来てましたが………」

「二人に連絡を、エルナー君を呼んでほしい、と。最早我々の頭脳では状況の把握すら不可能だ」

「分かりました」

 

 門脇の指示をタクミはすぐに伝えるべく、回線を開く。

 

「次は勝てるのか? オレ達、いやあいつらは………」

 

 待ち受ける最悪の可能性に、冬后はただ自分の部下達を信じるしか出来なかった………

 

 

 

「戦闘行動終結を確認」

「複数の転移戦力を確認、詳細は帰投後に」

「緊急避難により、自衛による戦闘行動を報告」

「FRX―00、帰投する」

「………間違いは無い。あれは…JAMだ」

 


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