偽書魔法少女じゅりあ×くりす☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI JURIA×KURISU MGICA   作:ジャックノルテ

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2017/01/04 加筆修正版に変更しました。


第8話 もう手遅れよ

 彩月や栗栖、樹理亜、キュウべえ達の眼前で朱奈を抱えて飛び去った綾羽鳴海。

 鳴海の飛び方には、迷いが無い。

 つまり行こうとしている方向を既に定めているのが、見て取れる。

 やがて鳴海は目的の場所に辿り着くと林の中へと降り立った。

 そこは、かつて筒地綾女が、過去の自分と決別し朱奈を生み出したリンドウ市にある山林地帯だった。

『ここよ。こここそがワタシと朱奈の再出発に相応しい場所だわ』

 綾羽鳴海は魔力を高め結界を作り出した。

《魔法少女》と言うよりも《魔女》に近い《魔人》だから出来る事。

 この結界もただ結界を作り出すだけでは無く幾重にも階層を重ねた深い結界を作り出す。

 短時間でこれだけの結界を作り出す為の秘策を鳴海は既に計算し編み出していた。

 それは《魔女》や《使い魔》が作り出し破壊や破棄、自壊させられた結界の破片。

《魔人》である鳴海は、この場所へと辿り着くまでに、誰も気に留める事の無い結界の破片が存在する事に気が付いていた。

 そして自身ならばこの結界の破片を繋ぎ合わせて活用する事が出来ると言う事も確信していた。

 鳴海の魔力に引き寄せられた結界の破片と鳴海の魔力によって作られた結界が溶けて合わさって行き鳴海の満足する深い結界が作り出された。最深部には、自らが住むに相応しいと考える館を想像した。

 自らの想像力と記憶を頼りに出来うる限り快適に過ごせる館を作り出していた。

 正直な所、クオリティに関しては、いまいちだったが、自分の想像力の成した事であり鳴海は、仮住まいとしては十分だろうと満足していた。

 朱奈を抱えた鳴海が門に向かうと同時に門はゆっくりと勝手に開くと同時に鳴海が通った後は自動で閉まった。同じく自動で開いた正門から入り鳴海が想像していた通りに作られた廊下を抜けて以前、朱奈と筒地綾女が泊まったホテルの部屋を再現した部屋に入った。

 朱奈を横にすると布団をかけた。

『待っていて。朱奈。あなたとワタシが幸せに生きられる世界を作る為に・・・。ワタシ達が真の意味で愛し合える様に・・・。ワタシが世界を・・・。変えて支配するわ』

 狂気の中に存在する自らが抱いている愛を感じながら鳴海は朱奈の眠る部屋から出た。

 そのまま館の正門へ向かうと結界の天井を仰いだ。

『魔力が必要なのよ。もっと魔力が』

 鳴海が呟くと同時に両目が輝いた。

 その輝きはかつて朱奈の持っていた《呪いの右目》に酷似した輝きだった。

 鳴海の作り出した結界が一瞬、輝いたのは何かの前触れと感じさせるに十分な物だった。

 

 

 

 

 その異変にキュウべえは直ぐに気が付いていた。

 このままでは自分達の既得権益が侵される事も直ぐに感じ取れ、これこそが、綾羽鳴海の存在を容認する事が出来ないと決定付ける結論となった。

 インキュベーターのネットワークを使い直ぐに綾羽鳴海を討伐出来る《魔法少女》を選び出す。選び出した後は、《魔法少女》と接触をして交渉し綾羽鳴海との戦いに誘導すれば良い。

 インキュベーターが今まで《都合の悪い魔法少女》を始末する為に既に何度も行って来た行動を繰り返せば良いだけでもあった。

(エリーゼ。こまち、クレア、ひより。君達に至急依頼したい懸案があるんだけど)

 結界を出て来た直後でもある《4人の魔法少女》にキュウべえは、直ぐに本題を告げた。

「キュウべえ。私達は、《魔女》を、たった今、倒したばかりなんですよ。タイミングが悪くありませんか?」

 道化師の様な服装をしたエリーゼは、静かな瞳でキュウべえを見つめていた。

「そうだよ。別にあたし達じゃ無くなって良いだろ。最近はただでさえ《魔女》の動きが活発なんだから」

 薙刀を持ち和服の様な服装をしている、こまちもエリーゼに同調していた。

「でもわたし達に至急依頼したいと言う事は、余程大変な事でも起こったと言う事ですか?」

 修道女の様な服装に杖を持つクレアが質問を続けた。

(そうだね。とても厄介な事態が起きたんだ。《新種の魔女》が出現したんだ)

「《新種の魔女》?」

 エリーゼは訝しげな視線をキュウべえに向けていた。

(僕の予想だにしなかった存在だ。このまま放って置くと大変な事になる。《魔女》の動きもいつも以上に活発だからね。今の内に退治してしまった方が良い)

「《魔女》や《使い魔》の動きが活発な原因も分からないのに?」

(確かに僕にもこの《魔女》や《使い魔》の動きの原因は、ハッキリとは分からない。けれど《新種の魔女》の様に厄介な存在が《魔女》や《使い魔》の動きを誘発しているのかも知れない)

 エリーゼの質問に答えたキュウべえの言葉に一同は黙っていた。

 最もキュウべえは、《魔女》の動きが活発になっている原因が見滝原市に迫りつつある《ワルプルギスの夜》に呼応しての事だと知ってはいたがエリーゼ達にその事を告げる必要性を今の所、感じなかった。

「でもー。それって奏者達に倒せる様な相手なのかな?」

 沈黙を破ってハート型のハープを大事そうに抱えながらひよりはそう答えた。

(それは僕にも分からない。《魔女》との戦いに絶対は存在しないからね。けど勝率が高い内に戦うのは妥当な戦術だろう?)

 キュウべえの言葉を聞いてエリーゼは、考えを定めた表情を見せていた。

「確かに異論はありませんね。じゃあみんな、もう一仕事と行きましょう」

 エリーゼは結論を出し皆に告げる。

「しょうがないな。エリーゼが言うならあたしも従うよ」

「わたしも賛成します」

「エリーゼさん達が賛成するなら奏者も」

 こまち、クレア、ひよりの3人もエリーゼに追従していた。

(ありがとう。君達がそう決断してくれて僕も助かるよ。場所は・・・)

 キュウべえからの説明を受けるとエリーゼはキュウべえを抱き抱えると足に魔力を集中して跳躍した。

 こまち達3人もそれに習い4人の魔法少女は、街中を静かに駆け抜けて行く。

 数分で4人と1匹は、リンドウ市にある山林地帯へと足を踏み入れていた。

(ここがその結界だよ)

 地面に降り立ったキュウべえが促した先には、《魔法少女》にとって馴染み深いとも言える結界が存在していた。

「これは・・・。とても異質な魔力を感じるわ」

「エリーゼも気付いた?わたしも同じ意見よ」

 このチームで感知能力が高いエリーゼとクレアは、瞬時にこの結界が持つ異質な魔力に気が付いていた。

「じゃあどうすんの?ここまで来て何もしないなんて事は無いでしょ?」

 こまちは薙刀を結界に向けながらそう言っていた。

「確かに何もしないなんて事は、ここまで来てあり得ませんね。3人とも準備は、よろしいですか?」

 エリーゼは仲間である《3人の魔法少女》を見た。

 3人が頷くのを見たエリーゼは結界に向けて迷い無く歩み出した。

(今ならまだ、間に合う筈。彼女達の実力なら倒せはしなくても致命傷を与える事位は、出来るだろう・・・)

 心理に秘めた思いを悟らせる事無くキュウべえもエリーゼ達4人に続いて結界へと入り込んだ。

 

 

 

 

 結界に入り込んで来た《4人の魔法少女》とキュウべえに鳴海は直ぐに気が付いていた。

『あらあら。キュウたんったらそんなにワタシが気に食わないのかしら?』

 そう言いながら鳴海は魔力によって両目を輝かせていた。

『良いわ。だったら返り討ちにするまでよ』

 手の中にあるグリーフシードを握り締めながら鳴海はそう呟いていた。

 足元にはグリーフシードを孕んでいたと思しき《魔女》が、その骸を晒していたが鳴海は気にする事も無かった。

 この《魔女》は鳴海によってこの結界に引き寄せられた《魔女》だった。

 そう。鳴海は朱奈が持っていた《右目の呪い》を魔力によって再現し行使する事で《魔女》を1体、引き寄せた末に殺していた。

 まだ生きている《魔女》の体から無理やり引きずり出した新鮮なグリーフシードの穢れを吸収する事でより魔力を高めていたのだ。

『まずは小手調べよ。それと・・・。少し時間を稼いで新しい実験の準備もね・・・』

 思案する顔を見せる鳴海は、狂気を体言する表情を見せていた。

 

 

 

 結界内を進んで行くエリーゼ、クレア、こまち、ひより、キュウべえの前には次々と《使い魔》が、通路や階層の隙間から次々と出現して来た。

 その様子は普段の《魔女》や《使い魔》が構成する結界とは、異質な物を4人と1匹は感じ取っていた。

「この《使い魔》は・・・。先程、倒した《魔女》が使役していた物と同じ物ですね」

「ええ。こっちに出現した《使い魔》は、先月倒した《使い魔の群》から取りこぼした物かも知れません」

 エリーゼとクレアの的確な分析は真実に近付きつつあった。

「どう言う事なんだよ?」

 薙刀を振るい最前線で《使い魔》を切り刻むこまちが疑念を口にした。

「どうやら《新種の魔女》は、《他の魔女》が使役する《使い魔》を、種類に関係なく強制的に使役出来る様ですね」

 エリーゼの召喚する白い蛇の様な影が次々と《使い魔》を噛み砕いて行く。

「それってかなりまずいんじゃ?」

 答えながらもひよりはハープを奏でるのを止めない。

 奏でられる音楽は音符の形を取って次々と《使い魔》にぶつかって行く。

「ええ。時間を置くと厄介な事になるのは、間違い無いわ」

 更に《使い魔》が出現したのを見たクレアがロッドを掲げた。

 するとクレアの握るロッドの先から放電現象が、起こり周囲の《使い魔》を次々と焦して行った。

「急ぎましょう。このまま放って置くとキュウべえの言う様に厄介な事態になるかも知れないわ」

 リーダーでもあるエリーゼの言う事に3人は頷いていた。

 

 

 

 

 侵入して来た《4人の魔法少女》によって次々と《使い魔》が倒され結界が突破されつつある事を最深部において鳴海は既に感じ取っていた。

 次々と《使い魔》を倒すスピードからも相手の魔法少女がベテランだと言う事も察する事が出来た。

『やっぱり《使い魔》じゃあ時間稼ぎにもならないわね。じゃあこれはどうかしら?』

 鳴海の視線が自身の真横へと注がれた。

 そこには、横たわる人影が、存在していた。

 鳴海が目を輝かせると周囲の壁から《使い魔》が3匹、出現した。

 その内の一匹を鳴海は、無造作に掴み上げるとそのまま人影の1つへと押し込めた。

 同様の事を2度繰り返すと変化が生じた。

 なんとそれまで動かなかった人影が突如として動き出したのだ。

『もう少しだけ時間を稼いで貰うわよ。ワタシがもっと強くなる為に』

《使い魔》が取り付いた人影が命令通りに立ち去ったのを見た鳴海が再び両目を魔力で輝かせると鳴海の眼前に新たな《魔女》が2体現れていた。

『さあ』

 同時に鳴海の両手に生える爪がナイフの様に鋭くなる。

『ワタシの糧になりなさい』

 当たり前の行動を行う様に鳴海は《魔女》へと飛び上がって行った。

 

 

 

 

 出現する《使い魔》の数は多い。

 けれどエリーゼ達4人のチームワークを持ってすれば数の多さは、問題にならなかった。

 抜群のコンビネーションは、最小限の魔力だけで次々と《使い魔》を倒して行く。

 順調に結界を進みながらもエリーゼ達は奇妙な違和感を感じ取っていた。

「キュウべえ。何か・・・。奇妙な感覚を感じます。今まで感じた事の無い感覚が。あなたも感じますか?」

(僕も感じてるよ。エリーゼ。恐らくだけど・・・。この結界と外では時間の流れが異なっている)

「それはどう言う事?」

 眉を潜めるクレアに対してキュウべえは、改まって言葉を続けた。

(恐らくだけどこの結界自体が、《新種の魔女》が巨大な魔力を用いて強引に作り出した。その反作用によって意図的か偶然かは、分からないけれど、この結界の中だけ外より時間の経過が遅い)

「つまりどう言う事だよ?」

(例えばここで丸1日戦ったとしても外では1時間しか経過していないと言う事さ)

 キュウべえがこまちの質問に答えるとひよりは不安そうな表情を見せた。

「それじゃあ奏者達にとってまずいんじゃ?」

(いいや。寧ろ君達には有効だと思うよ。《魔法少女》としての務めを果たすと、どうしても家族にアリバイを作らないと行けないだろう?それを考えれば有効な現象だと思うよ。それに《新種の魔女》自身も結局は結界の中では、魔力で速度の上げ下げを行わない限りは、君達と同じ物理的なスピードで動くしかない。だからそれ程、脅威では無いよ)

 キュウべえの答えにエリーゼ達は安堵の表情を見せていた。

 一行が商店街を模した様な階層に辿り着いた時、突如として音が響いたと同時にエリーゼ達の周囲に何かが飛んで来た。

 音から判断すればそれは銃や遠距離攻撃を得意とする《魔法少女》が得意とする攻撃特有の音を発していた。

 咄嗟にこまちが展開した星型の魔法陣による防御障壁が功を奏し4人とキュウべえはダメージを受けなかった。

「たく。何なんだ」

 こまちが文句を言うと同時に周囲に存在する建物の影から次々と魔力を帯びた銃撃が撃たれていた。

「銃撃からして2、3人と言った所かしら?」

 周囲を窺いながらエリーゼはクレアにも聞いた。

 これには感知能力に優れるエリーゼとクレア、2人の情報をこまちとひよりに伝えると言う意味合いもある。

「それで間違いないと思いますが・・・。この銃撃、明らかに《魔法少女》の物・・・。キュウべえ。わたし達の他にも《魔法少女》を呼んだんですか?」

(いいや。僕は呼んでいないよ。それどころか、君達以外にこの結界に入り込んだ《魔法少女》は存在しない)

「でも今の攻撃は明らかに・・・」

 その時、突如として全員の視線や感覚が全て正面へと集中した。

 自らの意思に寄る行動では無く何かに無理やり引っ張られる様な感覚だった。

「これは?まさか!?」

 驚きの声を上げるエリーゼに呼応する様に周囲にある建物から2人の影が姿を現した。

 その姿はエリーゼ達からは見えない。否。見れない。

 エリーゼ達4人の視線の先は道を塞ぐ様に現れた1人の人影に固定されていた。

 金色の長髪に黄土色のラインが入った白い帽子を被り白い淵が特徴的な青い宝石を付けている。視線は虚ろだが胸元にある筈の黄色いソウルジェムは見当たらないが、特徴的な二刀流の刀の形は変わらなかった。

「何故、あなたがここに?奏ハルカ!?」

 クレアの叫びに奏ハルカは答えない。と言うよりも意思が存在しないかの様に虚ろな視線を向けるだけだった。

 エリーゼ達4人と奏ハルカのチームは、かつて《魔女の大量発生》と言う異常現象においてホオズキ市で共闘した事があった。

 それ以降、共闘する事は無かったが、敵対する様な関係では無かった筈だった。

 周囲から更に銃撃が加えられるが、今のエリーゼ達は目の前にいる奏ハルカの《魅了の魔法》によって奏ハルカにだけ意識と注意を強制的に向けられていた。

 周囲から撃たれ続ける銃撃に関しては、こまちの防御障壁で耐えていたがそれも時間の問題とも言えた。

 幾ら《魔法少女》と言えども無限に魔力を持っている訳では無いのだ。

「ひより。あなたは出来るだけ広い範囲に音符を飛ばして周囲を破壊して!こまちはそのまま防御魔法を維持してクレアは準備を!」

 エリーゼの一言だけで彼女達には十分な指示が行き届いた。

 返事の代わりにひよりは全力でハート型のハープを奏でた。

 奏でる音楽を構成する音は音符となって撒き散らされると同時に周囲の建物を次々と物理的に破壊して行く。

 同時にクレアが握り締めていた杖を掲げると雷が周囲へと放電した。

 音と雷の複合魔法。魔法の音が生み出す音符で大きく破壊を起こし更にそこへ雷を落とす事で、単純に破壊作業を二度行うと言う初歩的な連携魔法。初歩的と言う意味には基本的と言う意味もある。

 この初歩的な行動を遵守し続けているからこそエリーゼ達4人は、未知の状況に至っても強さを失う事は無かった。

「今!」

 エリーゼが手を向けた瞬間に白い蛇の様な影が瞬時に目の前にいる奏ハルカの傍に移動すると同時に奏長い体を生かして奏ハルカを締め上げた。

「良し。ひとまず動きを封じたわ。後は魔法を」

 エリーゼが仲間達に続けようとした言葉はそこで止まった。

 それは縛り上げた奏ハルカの口から《使い魔》が飛び出して来たからだ。

「なっ!?」

 驚きの声を上げるエリーゼだったが、咄嗟に動かされた白い蛇の様な影は奏ハルカの口から飛び出した《使い魔》を見逃す事無く噛み付き噛み潰した。

 同時に奏ハルカの方向に強制的に誘導されていた魔法が解けてエリーゼ達4人は周囲全てを認識出来る様になった。

 改めて周囲を見渡すとエリーゼ達4人が立っている道を中心に無数の建物が立ち並び、その屋根の上に《2人の魔法少女》と思しき相手が1人ずつ離れて立っているのが見えた。

 1人は黄色の髪を縦ロールにし羽の付いた帽子を被り長い銃身の銃を2丁構え大人びた雰囲気を持っていた。

 もう1人は金髪のツインテールに妙な露出の仕方をした赤紫色の服装に両手に拳銃の様な武器を構えているのが見えた。

 共通しているのは先程、現れた奏ハルカと同じ様に虚ろな瞳をしている事だった。

「あれも《魔法少女》だよね?」

 不安げにこまちが仲間に問うも他の仲間は何も答えない。

 それもその筈。全員が先程、起こった奇妙な現象を見ているのだ。

「さっき・・・。ハルカさんの口から《使い魔》が飛び出したって事は、あの2人も・・・」

「《使い魔》に身体を乗っ取られていると見るのが自然かも知れませんね」

 不安を表すひよりに対してクレアは現実を告げる事で落ち着きを取り戻させようとしていた。

(いいや。そうじゃないのかも知れない)

 突如としてキュウべえは告げた。

「ええ。私もキュウべえと同意見です。あの《使い魔》は、身体を乗っ取ったんじゃありません。恐らく・・・。死体に取り付いて動かしていたんでしょう」

 既に奏ハルカの身体に触れていたエリーゼは事態を把握し始めていた。

 この《使い魔》は、経緯は分からないが《魔法少女》の死体に憑依して操っていた。

 白い蛇の様な影が持つ《もう1つの目線》から見た奏ハルカの肉体には、所々繋ぎ合わせた箇所が見えて今し方現れた《2人の魔法少女》も同じ様な繋ぎ合わせた後が存在していた。

「死体って!?じゃあアレは・・・」

(間違いないよ。彼女達は、全員ここ数ヶ月にこの近辺で起こった戦いで戦死した《魔法少女達》だ。僕は彼女達の死を見取っている。生きている筈が無いよ)

 キュウべえの言葉は真実を告げた。ただそれだけだが、こまちは自分が冷や汗を掻いている事を感じ取っていた。

 そこへ縦ロールの少女とツインテールの少女から銃撃が加えられる。

「この!何時までも、やられっぱなしだと思うなぁ!」

 こまちは星型の防御壁を盾にして縦ロールの少女がいる建物の屋根へと飛び上がった。

 縦ロールの少女は慌てる事無く持っていた銃身の長い銃を、こまちへと向けると銃は紐の結び目が解かれる様にリボンへと変化した。

 その時、縦ロールの少女を足元から現れた白い蛇の様な影が拘束して自由を奪った。

 エリーゼの意図を理解したこまちは、握り締めた薙刀で白い蛇の様な影ごと縦ロールの少女を盾一文字に切り離した。普通の人間と同じ形をしている事で嫌悪感を覚えたのは確かだったが、既に《魔女》に操られた死体との経験を積んでいたこまちは一瞬でその思いを心の隅へとねじ伏せ迷う事無く攻撃を続ける事が出来た。

 一方でひよりはハート型をハープから次々と音符を出してツインテールの少女に攻撃をする機会を与えなかった。

「これなら。クレアさん!」

 ツインテールの少女は拳銃で音符を銃撃する事に手を取られてしまっている。

「今ね」

 チャンスと見たクレアは跳躍するとひよりの放った音符を足場に一気にツインテールの少女との距離を詰めると胸元にロッドを押し当てた。

「止めよ」

 クレアの握り締めるロッドの先端から膨大な電気が、ただ一点へと流れ込む。

 ツインテールの少女は、内部に入っている《使い魔》ごとその身体を焦していた。

「サンキュー。エリーゼ。助かったよ」

「タイミングは丁度でしたね。こまち。さあ先を急ぎましょう」

 こまちの礼を聞くとエリーゼは先へ進む事を促した。

 その時、キュウべえは一行から離れると倒したツインテールの少女と縦ロールの少女の死体を観察していた。

(やはり杏里あいりと巴マミ。僕が彼女達の最後を見たのは間違いが無い。でも・・・。鳴海は何の為に死体を・・・?)

 エリーゼ達の元へ戻りながらキュウべえは考察を試みたが理由は分からなかった。

 けどそれは分からないと言うよりも理解が出来ないと言うのが本当の所なのかも知れなかった。

 4人の魔法少女とキュウべえは最深部へと足を向けていた。

 

 

 

 

『頑張るわね。入って来た4人。それにキュウたんも。でも・・・』

 そこで言葉を切った鳴海は神と対話するシャーマンの様に結界の天井を仰いだ。

 既に戦う準備は整っている。戦う為の姿も取り準備は整った。

 心中では覚悟も定まっている。

『もう手遅れよ』

 鳴海が左手の親指と中指をこすって音を出したと同時に鳴海の眼前にエリーゼ達、4人の魔法少女とキュウべえが、強制的に最深部へと移動させた。

「これは?」

「何だ!?」

 落ち着くエリーゼと対照的にこまちは驚きを隠さなかった。

 まるで枯葉が落ちる様に落ちて行く感覚を覚えながら一行は見知らぬ場所へと移動していた。周囲を見渡すと直ぐに目の前にある館に気が付いた。

「どうやら強制的に移動させられたみたいですね」

「あれって・・・」

 状況を読むクレアに対してこまちが思わず視線を向けた方角に残る3人が同じ方向を向いた時、館の前に存在する門を背もたれの様にして立っている人物が目に入った。

「まさか・・・」

 しゃがみ込んで地面に触れていたエリーゼが驚きの声を出していた。

『ああ。やっぱりあなた達だったの?ワタシを殺しに来た《魔法少女》は』

「どうしてあなたが・・・。筒地綾女!?」

 エリーゼの驚きは全員の驚きを表していた。

それもその筈。目の前にいる綾羽鳴海と筒地綾女の姿は禍々しさを覗けば同じ姿。

 見間違えるのも無理は無かった。

 更にかつてエリーゼ達4人と筒地綾女は、キュウべえに取って都合の悪い《魔法少女チーム》を倒す為に共闘した過去もあり互いを、ある程度は知っていた。

 過去に関して今は語らない。語る一時が無い位に事態は切迫していた。

「確かあなたは死んだとキュウべえから聞いていますが」

 クレアの発言に全員の視線がキュウべえに集まった。

(そうだよ。確かに綾女は死んで《魔女化》した。それは僕が見たのだから間違いない。だから目の前にいる彼女こそ《新種の魔女》だよ)

 ある程度の省略はした物のキュウべえに事態を説明され4人は少し落ち着きを取り戻していた。

「じゃあアイツを倒せば良いんでしょう?」

 こまちは既に薙刀の切っ先を鳴海へと向けていた。

「確かに姿は綾女さんと同じだけど・・・。あれは綾女さんじゃ無いよ・・・。あれは・・・。絶対に人間じゃあ無いよ」

 怯えてクレアの後ろに隠れながらもひよりはハープを奏でる準備をしていた。

 ここで倒さなければ自分達が殺される。そんな風な予感をひよりは感じ取っていた。

「そうですね。人間その物の姿をした《魔女》は、初めてだけど《魔女》である以上、私達の敵である事は間違い無いわ」

 エリーゼも鳴海を見ながら戦闘体勢を取っていた。

 ここまではキュウべえの狙い通りに進んでいた。

 綾羽鳴海とエリーゼ達4人を戦わせ出来れば鳴海を倒すと言う・・・。

(でも・・・。どう言う事だ?これだけ近くにいるのに鳴海の魔力がハッキリと感じ取れない・・・)

 不確実性を感じながらもキュウべえは戦いを止めようとは思わなかった。

 エリーゼ達4人が負けたのなら他の魔法少女をぶつければ良いと結論付けていたからだ。

「正体が何であれ筒地綾女。あなたを倒すわ」

『違うわ。ワタシは筒地綾女じゃあ無い』

 エリーゼに返事したと同時に鳴海は突然、左足を高く上げると同時に結界の床を蹴った。床が大きく砕けたと同時にエリーゼは、攻撃の失敗を悟ると白い蛇の様な影を手元に戻した。

 結界の床下から奇襲を試みたが、鳴海は既に予想していた。

『綾羽鳴海(あやばねなるみ)。それが今のワタシの名前よ。そして今の行動からもう検討は付いているんでしょう?』

「ええ。どうやら私達の魔法に関する記憶はあるんですね」

 鳴海の予想通りにエリーゼは落ち着き払って答えていた。

『その通りよ。あなた達と出会った時の記憶は保持しているわ』

 余裕とも取れる鳴海の表情にクレアもまた笑みを浮かべた。

「それならわたし達が、出会った時よりも成長している事も分かっているのでしょう?」

『ええ。今のは手加減をしていたでしょう?』

 鳴海も既に気が付いていた。

「ここからがあたし達の本気だ!」

 叫びながら飛び出したこまちは薙刀の切っ先で鳴海を突こうとしたが、寸前で脇へ飛ぶと同時に星型の魔法陣で鳴海を包んだ。

 その魔法陣は鳴海の保持する記憶の時よりも硬度があり直ぐに破壊は出来なかった。

『考えたわね』

 内側からは簡単に破壊出来ない魔法陣と言う事を鳴海は直ぐに気が付いていた。

 同時に前に出会った頃のこまちならば、この様なフェイントとも言える攻撃を卑怯だと言って殆ど行う事が無かったにも関わらず躊躇する事無くこうした行動を取ったと言う事は、精神的にも成長を遂げていると鳴海は考えていた。

「今だ!」

 こまちの叫びにひよりとクレアが目配せし頷く。

「行きますよ」

「クレアさん。大丈夫です!」

 ひよりの持つハープから音楽が奏でられるとクレアはロッドをハープへと向けた。

 

 

「「合体魔法!」」

 

 

 鳴海を閉じ込めた星型の魔法陣の内部に雷のエネルギーを浴びた音符が次から次へと流れ込み鳴海の身体を傷付ける。

 過去に記憶していた攻撃よりも高い威力を持つ事に鳴海は、心の中で称賛を送っていた。

 筒地綾女が出会った時よりも彼女達4人は実力を高めている。

 キュウべえからの依頼が重なったから共闘しただけの関係だったが、知人が成長したと言うのは、やはり面白さを感じていた。

『この程度じゃワタシは倒せないわ』

「ええ。だからこうするのよ」

 答えたエリーゼは、白い蛇の様な影を再召喚すると星型の魔法陣内部に送り込んだ。

 召喚された白い蛇の様な影は、先程とは違いサイズが小さかったがそれも無数に召喚され続けていた。

『これが何だって言うの?』

 笑みを浮かべながら鳴海は確認の意味を込めて挑発してみる事にした。

「直ぐに分かるわ」

 エリーゼの言葉通り直ぐに効果は現れた。

 音符が物理的に鳴海の身体を傷付け、雷が身体を焦す。その際に鳴海の体から放出される魔力を食べて白い蛇の様な影は、一定の大きさに膨らむと魔力爆発を起こした。

 続け様に起こった爆発に鳴海は片膝を付いていた。

『考えたわね。相手の魔力をエネルギー源とした爆弾なんて。しかも魔法陣に閉じ込め雷と音符の魔法で傷付いたワタシの体から放出される魔力を用いた爆弾。一切の反撃する機会を奪うなんて・・・』

「《新種の魔女》と言っても結局は魔力をエネルギー源にしているんでしょう?魔力をエネルギー源にしている以上、この魔法からは逃れられないわ」

「どうだ!あたし達に勝てると思ったのか?」

「あなたがあの筒地綾女と同じなら勝てる道理は存在しません。我々も対魔法少女戦を意識した戦術を作るに決まっています」

「これなら・・・。大丈夫だよね・・・」

 強敵との戦いに今まで培った戦いの経験を生かした勝利の方程式を組んだエリーゼ、こまち、クレア、ひよりは勝利を確信していた。

 今までどんな強敵であろうともこの複合魔法による攻撃を受けて倒せなかった相手は存在しなかったのだから。

 現に鳴海は片膝を付いて魔力を消耗しているのが目に見えている。

 その証拠に結界が崩れ始めていた。

 このまま魔法を放ち続ければ勝てると思わせるのに十分な成果が見え、キュウべえの視覚情報にもエリーゼ達4人が鳴海に勝利する様に見えていた。

『でも不十分ね』

 爆発に飲まれながら鳴海がそう呟いたと同時に魔法陣の中、音符と雷、爆発する白い蛇がいるのにも構わず立ち上がると余裕の笑みを崩さなかった。

『ねえキュウたん。教えてあげないの?どうしてワタシの魔力を感知出来ないのか?』

「それは・・・」

 血を流した鳴海に問われてキュウべえは言葉を濁した。

 キュウべえが言葉を濁した事からエリーゼは、何か予想外の事態が起こっている事を感じ取った。でもそれが何かは分からない。それでもエリーゼ達は周囲を警戒しながら鳴海に対して攻撃を続行する事を選んでいた。

『答えを教えてあげるわ』

 告げると同時に鳴海は、狂気の表情を浮かべ、エリーゼ達4人は、その雰囲気に呑まれそうになるも寸前で踏み止まった。

 既に幾多の《魔女》や《使い魔》、《魔法少女》との戦闘を経験している4人だから成し得た精神的な強さでもあった。

「何を言って・・・」

 エリーゼの呟きに答える様に床が振動したと思うと、大きな揺れが起こりエリーゼの真横に地面から生じた亀裂の中から《赤と青の光を持った何か》が見えた。

「!!」

 咄嗟にエリーゼが魔力による障壁で《赤と青の光を持った何か》を押さえ込むと、事態を察したこまち、クレア、ひよりも余分に残していた魔力を使って《赤と青の光を持った何か》を押さえ込んだ。

「やはり《魔力体》ですか」

『気付いていたのね』

 エリーゼ達の魔力によって生成された障壁に閉じ込められながらも《魔力体の鳴海》は、意外そうに驚いていた。

「ええ。あの時だってお互いに信じていなかったでしょう?共闘はしたけれどお互いに手の内を隠していた。お互い様ですよね?」

『未完成だと言ってみたけど信じてはいなかったのね』

 笑みを崩さずに答えた鳴海にエリーゼも笑みを向けていた。

 かつて共闘した際に筒地綾女は《魔力体》と言う魔法をエリーゼ達に見せていた。

 しかしその時は、魔力を使ってもう1つの腕を作って不意を付くと言う奇襲用に作り出した魔法であると筒地綾女は説明していた。

 けれどエリーゼは、その説明を殆ど信じていなかった。

 いずれ敵対する可能性がある以上、相手の魔法が更に発展する可能性をクレアと共に考察していた。

 その結果として表面的に見える筒地綾女の魔力量から《魔力体》が更に発展する可能性を逆算して実体と同じ攻撃力を持つもう1つの肉体生成が目的では無いかと2人は結論付けていた。

 最も《魔力体の鳴海》の行った奇襲に対処が出来たのは、曲がりなりにも彼女達が《ベテランの魔法少女》である為でもあった。

 鳴海の本体を閉じ込めて攻撃を続ける中で周囲に対して無防備な状態を続けてしまえば本末転倒であり攻撃を続けながら周囲への警戒を怠らないこそ、今日まで生き延びて来た。

「どうやらここまでの様ですね。筒地綾女。いいえ。今は綾羽鳴海でしたね」

《魔力体の鳴海》に死刑宣告を告げながらもエリーゼは周囲への警戒心を崩さない。

 それを習ってクレア達3人も周囲への警戒を怠らずに《本体の鳴海》に攻撃をし続けていた。

 エリーゼ達4人が把握している今の状態ならば勝利は揺るがないだろう。

 けれど鳴海の笑みは崩れない。

 エリーゼ達4人もキュウべえにもその理由は判別しなかった。

『名前を覚えてくれて感謝するけど・・・。残念だったわね。遊びはここまでよ』

《魔力体》の鳴海がそう告げると同時に結界は崩れ始めた。

《魔女》が生存しているのに結界が崩れる。それは《魔女》の魔力が極端に弱まった時に起こる貴重な現象でもあったがエリーゼ達やキュウべえも既に何度か見ていた。

 でも結界の壁が崩れ落ちて露わになったのは、同じ様な結界の壁だった。

 現実の景色では無い。結界は崩壊していない。2重に結界が張られて内側にあった結界が崩れただけなのだ。つまりまだどこかに結界を作り出した別の存在がいる!

(エリーゼ!!これは)

『御免なさい。ワタシは偵察役なの』

 キュウべえがエリーゼに注意を促そうとしたが鳴海の行動の方が速かった。

《魔力体の鳴海》が突如として消滅したと同時に地面から更に4人もの《鳴海の魔力体》が飛び上がって来た。

 それぞれエリーゼやクレア、こまち、ひよりの真横から現れると同時に攻撃していた。

 同時に二つの魔力を行使していた4人に0距離からの攻撃を防ぐ手立ては無かった。

 4人の《魔力体の鳴海》が手の先全体から放った無数の巨大な針がエリーゼ達の身体に次々と突き刺さった。

エリーゼが驚きの余り魔法の行使を中断して両手を交差して防御の姿勢を取った事を誰も責める事は出来ないしこまちやクレア、ひよりは驚きの余り思考は膠着し直ぐに行動へと移る事が出来なかった。

 ただそれだけの事。それだけの事で命運が分かれた。

「くっ」

 咄嗟に両手を交差させて防御したエリーゼは、両腕に針を刺さりながらも地面に叩き付けられ転がりながらも倒れ込んだだけで済んでいた。

「やってくれたな」

「こんなに痛みを感じるのは久しぶりですね」

「痛い。けど我慢しなきゃ・・・。苦しいのは奏者だけじゃ無いから・・・・」

 残るこまち、クレア、ひよりは、身体に無数の針が刺さりながらも手にした武器を支えに何とか立ち上がる事が出来る様子だった。

 針の刺さった影響で彼女達は旨く動く事が、ままならず迎撃の構えを取る事しか出来ない様子でもあった。

『残念だったわね。魔力体が未完成であったのは事実だけど完成系はあなた達が想像する様な形じゃあ無いわ』

 哀れみとも取れる感情を込めた4人の《魔力体の鳴海》の言葉と同時に魔法陣に閉じ込められた本体と思しき鳴海は魔法陣内で爆発によって肉塊と化していた。

 その様子からエリーゼは、本体と思しき鳴海が本体だったと悟る事が出来た。

 4人の《魔力体の鳴海》が本体を捨てた事でエリーゼの脳裏に認めたく無い考えが浮かんでいた。

「肉体があるから本体と言う訳じゃ無かった。ではあなた達の中に本体がいるのですか?《魔女》の様に魔力で肉体を生成していると言う訳ですか?」

『正解よ』

 エリーゼの質問に《4人の魔力体の鳴海》が答えた。

『正解者にはご褒美が必要よね』

 エリーゼの方へ向けて一番近くにいた《魔力体の鳴海》が近付こうとした。

「まだ!」

 エリーゼの右手から無数の白い蛇の様な影が《魔力体の鳴海》へと放たれた。

 それを見た《魔力体の鳴海》は深い笑みを浮かべるとエリーゼに向かって駆け出した。

「エリーゼ!」

 こまちが援護しようと動こうとし、クレアとひよりも続こうとするが、残る3人の《魔力体の鳴海》に阻まれる。

 無数の白い蛇の様な影の背後にいるエリーゼを目掛けて走り出した《魔力体の鳴海》に対して白い蛇の様な影は、次々と鳴海に噛み付こうとした。

 ところが白い蛇の様な影が噛み付こうした瞬間に鳴海は魔力体の使用をキャンセルした。

 グリーフシードだけとなった鳴海は走り出した勢いに乗って白い蛇の様な影が反応する事無くエリーゼの間近に迫る。

 同時に再びグリーフシードから鳴海の腕が防御する間もなくエリーゼの首を的確に貫いた。血が飛び散り鮮血に染まった鳴海の手にはエリーゼのソウルジェムが握られていた。

「エリーゼ!」

「エリーゼさん!?」

「そんな・・・」

 こまちは、ひよりは、クレアは目の前にある光景を信じられなかった。

 エリーゼが倒された。

 3人はその事実を受け入れられないでいた。

『ここからがご褒美の始まりなのよ』

 残った3人の《魔力体の鳴海》の言葉を裏付ける様に本体である鳴海のグリーフシードはそのままエリーゼの身体に飛んで行くと左胸へと飛び付いた。

 そこから鳴海の魔力が放出されたかと思うとエリーゼの肉体が変化して行った。

 おぞましく形が変わって行く。骨の形が、長さが、皮膚の色が、瞳や髪の色、何もかもが変わって行く。直ぐにその姿は、エリーゼでは無く綾羽鳴海へと姿を変えていた。

 その右手にはエリーゼのソウルジェムが何時の間にか握られている。

『これでこの身体はワタシの物と言う事よ。これこそが《魔力体》の完成系よ。ソウルジェムだけとなっても戦闘継続は可能と言うのは第一段階。第二段階は分身体の作成。第三段階は他者の体を強制的に乗っ取ると言うのがこの魔法の真骨頂よ。これこそが生前の筒地綾女が到達する事の敵わなかった《魔力体》の最終進化よ!』

 自慢げに語る鳴海だったが、その言葉は、こまち達、残された3人は聞いていなかった。

『あなた達にももう分かったでしょう?ワタシの真の実力が』

 既にこまち達3人も気が付いていた。鳴海が隠していた圧倒的な魔力の量を。

 それは最早、こまち達3人では対処出来ないと感じさせるのに十分な物だった。

 鳴海が天を仰ぎ両手を広げた瞬間に鳴海の背から羽が生じた。アゲハチョウの様に色彩豊かな羽が生じた事に鳴海は満足げな笑みを浮かべる。

『エリーゼさんのソウルジェムが生じさせた穢れを吸い込む事でワタシはより強くなった。最早、あなた達はワタシには勝てないし、逃げられない。だからワタシの役に立って貰うわよ』

 鳴海の言葉にこまち達3人は、恐怖から来る反応を見せていた。

「誰がアンタなんかに!」

「いけない。こまち!」

「こまちさん!?」

 事態を打開する為か、怒りで冷静さを失ったのか、エリーゼの身体を乗っ取った鳴海に向かって駆け出そうとしたこまちをクレアとひよりは制し様としたが間に合わなかった。

 こまちが駆け出したのを合図にして残っていた3体の内、一体の《魔力体の鳴海》がこまちに向かって走り出すと同時に魔力によって構成された格子状の物へ変化すると、そのまま、こまちを包み込んだ。

 悲鳴を上げる間もなくこまちの魔力の反応が微弱な物になった事をクレアとひよりも感じ取った時には残る2体の《魔力体の鳴海》が格子状の物へ変化すると同時にクレアとひよりをも包み込んでいた。

 それまでの流れを見ていたキュウべえはここでおかしな事に気が付いていた。

 微弱ではあるが、まだこまち、クレア、ひよりのソウルジェムの魔力を感じ取る事が出来る事から、まだ3人のソウルジェムが砕かれていない事が分かった。

 それどころか肉体も無事なまま。

 つまりソウルジェムと肉体の機能を停止されただけなのでもあった。

『さて・・・。残りの3人には、まだ役立って貰うわ。それと・・・。キュウたん。あなたにも役立って貰うわよ』

 鳴海の視線は先程から逃げようとはせずに事態を静観しているキュウべえへと向けられていた。事態を静観していたキュウべえだったが、鳴海がエリーゼ達4人を余裕で倒す程に成長しているのは誤算だと思っていた。

(どうかな?《魔法少女》ではない鳴海に対して僕は役には立てないよ。寧ろ敵となるだろうね。君が《魔法少女システム》を妨害する限り)

 キュウべえは既に自身のネットワークに鳴海に対する警戒を送っていた。

『あら。良いのよ。ワタシが役立つと思っているのは、あなたの体だけだから』

 回避する間もなくキュウべえの眉間を鳴海の指先から閃いた魔力の光線が貫いた。

『さあ、始めるわよ。ワタシと朱奈が幸せになる為に』

 鳴海の両目が妖しく輝き背に生えたアゲハチョウの様な羽も妖しい輝きを見せていた。

 

 

 

 

 エリーゼ達と行動を共にしていたキュウべえの発した情報は既に世界各地のキュウべえに共用されていた。

 それは、鳴海が飛び去った後、裏路地で無力感に襲われた彩月、それを見つめる栗栖。

 黙って立ち去った樹理亜を見ていたキュウべえにも共有されていた。朱奈が連れ去られて僅か20分で事態は急変していた。

(栗栖。どうやら綾羽鳴海は、僕の予想以上の力を見せている。戦うのは余り得策では無いよ)

(構いません。自分は人の意思を無視した秩序を乱す相手を野放しには出来ません)

 手に取り付けたパペットキュウべえの簡易型テレパシーを介して答えた栗栖は鳴海のいる方向へ歩を進めようとした。

「朱奈を助けに行くんか?」

 背後から彩月の声がして栗栖は振り返った。

 黙って頷いた栗栖の視界には彩月の目、表情には栗栖には理解し難いが強いて言うのならば強い思いがあった。

「ウチも連れてって来れへんか?」

 栗栖は思考し回答を選び答えようとした。

 

 




今回の話に登場したエリーゼ、クレア、こまち、ひよりの4人は魔法少女まどか☆マギカモバゲー版に登場したキャラクターでありオリジナルキャラクターではありません。
前々から登場機会を伺っていたのですが、ようやく登場させる事が出来ました。
なお筆者はモバゲー版はプレイした事が無いのでネットの情報を元に性格を構成して登場させたので多少、性格が違うかも知れません。
二次創作ですからご了承下さい。

では次回を待て!
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