偽書魔法少女じゅりあ×くりす☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI JURIA×KURISU MGICA 作:ジャックノルテ
ペースが遅くてスミマセン。
後編をアップする時にタイトルは、追加します。
平成29年5月9日(火)後編アップに合わせてページ数の調整を行いました。
『こうかしら?それともこうよね。耳の位置がこうでもっと尖らせて・・・。それと手は・・・。ワタシの手を参考にしてと・・・。色も前のままじゃ区別が付きそうも無いから別の色にしないとね・・・。やっぱり役割から言うならオレンジ色が良いわよね。目の色もそれに合わせて綺麗な緑色に変えないと』
鳴海は作業に熱中する余りに独り言を口ずさんでいた。
けれど気にする事無く作業に没頭していた。
傍目から見れば、屋敷の庭で机と椅子に座り、普通の作業、粘土を弄っている様に見えるかも知れないが、実際には鳴海が弄繰り回している物は、先程自分が機能停止させたインキュベーターの端末の1つだった。
内部の骨格から弄り内蔵を繋ぎ合わせている、その姿は死体を弄って遊ぶ狂気の姿にしか見えなかった。
最もインキュベーターは、地球上の生物では無く端末に過ぎない訳だが・・・。
鳴海が好む姿に作り変え、次に端末に対して行う作業は知能の改良だった。
インキュベーターの端末としての意識は、これから鳴海の端末として使うには不適格だった。まずは自分への忠誠心を中心に心理を構成する。
最もこうした意識の形成に関する技術は鳴海が独自に作り出した物では無く、鳴海の魂に存在する筒地綾女の記憶から、あすなろ市を訪れた際に《プレイアデス星団》と遭遇した時に得たデータ及びその時にインキュベーターから提供された
従属するインキュベーター(incubator verdependent)ジュウべえの製造データを元に精製されていた。
直ぐに鳴海の思う通りの意識が僅かな時間で形成されて行く。
『さて、目覚めなさい』
自分への忠誠心を植え付けられた、白ではなくオレンジ色の端末が、鳴海の両目が光ると同時に両の手から魔力が机の上に乗せられた端末へと注がれる。
注がれた魔力に呼応する様に端末が振動し始め・・・。やがて、閉じられていた瞼が開き緑色の瞳に光が帯び始める。
『気分はどうかしら?』
鳴海の問い掛けに端末は、胡座を掻いて指先で掻くと大きく欠伸をした。
「悪かぁねえなぁ。んでワイは、何をすれば良いんだ?ご主人?」
インキュベーターとは似ても似つかない、だらけ切った口調で話す端末に鳴海は、悪くない仕上がりだと感じていた。
テレパシーでは無く口で会話をすると言う点は鳴海の趣味が反映されていると言えた。
『そうねえ。あなたにはきちんと役割があるわ。その前にあなたに名前を付けてあげわ。インキュベーターは、かつての時代、天使ともキューブと呼ばれていた。今はキュウべえと呼ばれているわ。最近まで存在していた《従属するインキュベーター》は、ジュウべえと呼ばれた。順当に名付けるなら言葉遊びを含めて9と10の次は11。だからジュイチべえと名付けるべきかしら?』
「そんなダサい名前は、御免被るぜ。もっといい名前じゃないとワイは仕事しないぞ」
顎を腕で支えながら全身全霊で不服と言う態度を表している端末に対して鳴海はいい反応だなと思いながら既に用意していた名前を告げる事にした。
『確かに考えが足りなかったわね。じゃあマーシュと名付けてあげるわ』
「マーシュか。まあさっきよりはマシだな。それじゃあマーシュと名乗ることにするぜ」
大袈裟に手を竦めて端末=マーシュは了承したと言う態度を見せた。
『ええ。これからよろしくね。マーシュ。その名前には、とても大切な意味が、込められているのだから』
「ふーん。その意味はなんだい?」
『いずれ分かるわ。意味だけではなく出来事をも含んでいるんだから』
鳴海は意味ありげな笑みをマーシュに向けたが、マーシュはその意味を問い掛けようとはしなかった。
『さて、マーシュ。それじゃあまず1つ、仕事をしましょうか?』
「そうだな。んで何をすれば良いんだ?」
『まずはワタシと地下室に行きましょう。そこで1つ、作業を行って貰うわ。あなたにしか出来ない作業をね』
「ふーん。まあ協力してやるぜ。ご主人」
立ち上がった鳴海に続いてマーシュも後から二足歩行で続いた。
どうやら四足歩行を基本としていたキュウべえと異なりマーシュは二足歩行を行う様に調整されている様だった。
『これから必ず起こる戦いの為に・・・。やれる事はやって置きましょう』
館の扉を開き鳴海とマーシュは、館の中に消えて行った。
○
「ウチも連れてって来れへんか?」
鳴海によって朱奈が連れ攫われ追おうとする栗栖に対して背後にいた彩月は、話し掛けて来た。
パペットキュウべえをポケットに入れた栗栖は少し考えて彩月に回答を答えた。
「良いですよ。ただし自分は朱奈さんを助けたいだけです。付いて来た彩月さんには、朱奈さんを助ける為の囮として使う事になると思いますがそれでよろしいですか?」
栗栖は真っ直ぐに彩月の事を見て言っている。
栗栖の本気を感じ取った彩月は頷いた。
「それでもええ。ウチは、朱奈をほっとく事は、出来ないんや」
「分かりました。では行きましょう。急いで行くので彩月さんを抱えさせて貰います」
「え?抱える?」
言葉の意味を計りかねた彩月を無視して栗栖は彩月を両手で抱えるとキュウべえから示された方角に向かって跳躍して行った。
そうした彩月と栗栖の様子を樹理亜は、離れた場所から聞いていた。
《魔法少女》としての強化された聴力や感覚で無意識に栗栖と彩月の会話を聞いていた。
それにキュウべえと栗栖のテレパシーも聞いていた。
(あいつらの行く場所が危険なら聞いておくに越した事は無い・・・)
自分に言い訳していると言う事を自覚しながら樹理亜は、栗栖と彩月の向かった方向に視線を向けていた。
「あたしゃあどうすりゃ良いんだよ・・・」
ぽつりと言語化して樹理亜は、心に生じた迷いを自覚させる効果もあった。
「あなたは、沙我の様な人ね。沙我の花言葉は反抗よ」
もう随分と会ってない友達の言葉が心に蘇った。
(分かっているさ。あたしゃの苗字はその言葉から作ったんだから。あたしゃのそうした部分を否定しない為に、苗字に残したんだ)
1人思い出せば、また1人、別の友達が自分に向けた言葉を思い出す。
「そんなに反抗する事、ないんじゃ無いか?」
(反抗する事が間違っている訳じゃ無いだろ)
その言葉は、現在の自分の行動について語っているのかも知れなかった。
「辛い過去を背負うのは、1人だけじゃない。私たちだって辛い過去を背負っている」
(ああ。あたしゃよりも辛い過去をみんなは背負っている)
「ボクは、今の友達に会って救われた。だからみんなが、キミを助けたいと思うのならボクはキミを助ける」
(そうだ。あたしゃもみんなに助けられた)
「たとえ何度、拒絶されようと私は、あなたを助けるわ」
(その言葉通りにあたしゃが拒絶したのに助けに来た)
「罪を背負う事をやめちゃ行けないぞと」
(今でもあたしゃは自分の犯した罪を忘れない。忘れる事はきっと出来ない)
「私たちは、同じ魔法少女。あなたが罪に押し潰されそうなら、いっしょに背負うから」
「ミチル・・・。あたしゃは・・・」
もう一度会う事も叶わない、この世界にはいない友達との出会いを樹理亜は思い出していた。
○
あの頃、あたしゃはまだ、沙我樹理亜と名乗ってなかった。
あたしゃの家は資産家だったらしい。
けどあたしゃの本当の両親は、あたしゃが小学生の時に事故で無くなった。
その後、資産を管理する為だとか、何だとか言ってあたしゃの家に叔父夫婦が住み着いて来た。
叔父夫婦は、あたしゃの最低限の世話はしてくれたが、教育や躾と言った部分においては何も干渉して来る事も無かった。叔父夫婦が嫌いだったあたしゃは、それでも良いと思っていた。
広い屋敷の中で鬱陶しい奴と会話する必要も無いし飯は用意されたから。
好ましく無い奴と暮らす生活は、あたしゃの事を荒れさせた。
家でも学校でもあたしゃに居場所は無かった。
気に食わない奴を殴って学校がつまらなくなると学校には行かずに好き勝手に過ごした。
金だけは、あったからな。
警察に補導されようと叔父夫婦は煙たがったが金の力の解決していた。
煙たがっているあたしゃを何故、世話をするのか、あたしゃは分からないままでいた。
あの時までは・・・。
あたしゃが中学生になったあくる日に叔父夫婦は、ずっとそわそわしている様子だった。
それが三日位続いたあくる日の夜・・・。
叔父夫婦のやっている事を無視してあたしゃは、いつも通りに用意されていた夕食を食べていた。気が付くとあたしゃは、暗い地下室に閉じ込められていた。
地下室は、本当の父親が書斎として使っていたが、あたしゃが閉じ込められた時には何も無くなっていた。
「出せ!ここから出しやがれ!ジジイ!ババア!」
非力なあたしゃの力で地下室から出る事は出来なかった。
それどころか監視カメラで、あたしゃの様子を見張っている様でもあった。
それでも朝と夜だけは食事が入れられたが食事を食べるたびにあたしゃは書斎内部のトイレに食事を戻していた。
頭の悪いあたしゃでも食事に何かを入れられていると気付いた。
やがてあたしゃは衰弱して倒れたまま起き上がる事もままならなくなった。
このまま死ぬのかとあたしゃでも思い始めていた時、頭に声が響いた。
(こんな所に才能のある君が閉じ込められているなんておかしな事だね)
(誰だよ。あたしゃに才能?今更、そんな物があった所でどうにもならねえだろ・・・)
(僕は君の傍にいるよ。君には才能がある。願いを叶える才能がね・・・)
頭に響く声の聞こえた方角に向かって頭を向けて霞んだ目を向けると、あたしゃ以外、いない筈の地下室に変な白い生物が、赤い眼であたしゃを見つめていた。
(願いって何だよ?あたしゃにゃあ叶えたい願いなんて無いぞ・・・)
(君がここから出たいと言うのなら僕にはそれを叶える事が出来るよ)
少し考えてみたが特に出たいともあたしゃは思わなかった。
(出たいと思う理由がねえな。他を当たれよ)
(君は、どうしてここに閉じ込められたのか理由を知りたくは無いのかい?)
その言葉にあたしゃの中に残っていた好奇心が疼いた。
(僕が聞かせて上げるよ)
白い生物の赤い双眼が、光り輝いたかと思うと声があたしゃの頭に響いた。
(あの子、まだ生きているみたいよ)
(もっと薬の量を増やそう。速く死んでくれないと困るのだから)
(そうよ。会社を守る為には、あの子が死んで遺産が入らなければならないんだから)
(こんな時の為に葬儀会社と火葬場を経営しておいて良かったな)
(ええ。でもこれが終わったら直ぐに足を洗いますからね)
(分かってる。警察にも手を回しているから心配は無いだろう)
叔父夫婦の心の声だとあたしゃは、瞬時に悟る事が出来た。
憎しみの怒りがあたしゃの心に渦巻いた。
あたしゃの心の中にこんな怒りを生み出す力が残っているとは、あたしゃに取っても意外だった。
(僕なら君の怒りを晴らす願いを叶える事が出来るよ)
白い生物は、再びあたしゃに問い掛けて来た。
魅力的な問い掛けだったが、直ぐには返答せずにあたしゃは、消耗した頭で暫く考えていた。始めは殺意が湧いたが、正直、ただ殺してしまうだけでは、あたしゃの気が晴れるとは思えなかった。だから必死に残された知力を尽くして叔父夫婦に致命的なダメージを与える方法を考え続けた。
ふと人は誰かと会話して存在を認知される事が生きていると言う証だと言う話を学校で聞いたのを思い出した。
一番のいじめは、存在を無視する事だと昔、小学校における全校集会で聞いた事があった。
(そうだな・・・。じゃあ、こう言うのは出来るか?叔父夫婦達を『生きている限り誰からも認識されない、何物にも触れられない存在』にしてしまってくれ)
あたしゃの言葉に白い生物は、顔色を変える事も無かったが、(本当に顔色があるのか分からないが)首を傾げた。
(それは可能だよ。本当に君はその願いを叶えたいんだね?)
(ああ。速く叶えてくれ。本当に叶うんならこんなに嬉しい事はねえよ)
(契約は成立だ。さあ君の力を受け取って)
白い生物の赤い眼が光輝いたと思った瞬間に、あたしゃの心臓では無く、心に衝撃が走った。後から思い出せば、あれこそが魂に響く衝撃だったのかも知れなかった。
仰向けに寝返ったあたしゃの目の前に光る何かがあった。
何故か分からないが、あたしゃは自然とその光に手を伸ばして光を掴み取った。
同時にあたしゃの身体を光が包むと同時にあたしゃの中に、今まで存在しなかった力が満ちてくるのを感じ取れた。
弱っていた筈の身体には、活力が戻りあたしゃは立ち上がっていた。
不調だった体調も戻ったと言うよりも高まった事をあたしゃは感じていた。
今ならこの細い腕でもドアを破れる気がした。躊躇わずにあたしゃは、閉じ込められていた地下室のドアを殴った。
今までの自分では決して出せない様な物凄い音がしてドアが破壊されたのを見るとあたしゃは、直ぐに外へ出てみた。
屋敷の中を隈なく探して見たが叔父夫婦の姿は、何処にも無かった。
(何処へ行ったんだ?もしかして願いが叶ったからあたしゃには、見えなくなっちまったのか?)
そう思いながらもあたしゃの中には、猜疑心がありリビングのソファーに座り込んだ。
(どうやらその通りだよ)
背後から飛ばされたテレパシーに反射的に振り返るとそこには白い生物がいた。
(改めて自己紹介をするよ。僕の名前はキュウべえ。君の願いは叶えられた。君の叔父夫婦は、『生きている限り誰からも認識されない存在』になったよ)
改めて考えてみると、かなり恐ろしい発言をしている事に、この時のあたしゃは気が付かなかった。
「それじゃあ願いを叶えたって言う証明材料にはならないんじゃ無いか?隠れているだけかも知れないんじゃねえのか?」
(いいや。願いは、叶えられているよ。君の願いは『生きている限り誰からも認識されない』と言う項目が設けられていた。君の言う『誰からも』と言う部分には人間だけが適応されている)
「どう言う事だよ?」
(人間では無い僕は、願いの項目である『誰からも』と言う部分に該当しないと言う事さ。だから僕には見えるよ。君の叔父夫婦は、この部屋にいる)
周囲を見渡したがあたしゃには見えなかった。
(見たいのなら見せる事も出来るよ)
最初は、見たいとも思わなかったが、願いが叶ったのかどうかと言う証拠を知っておきたいと言う好奇心を、あたしゃは否定出来なかった。
「じゃあ見せてみろよ」
(良いよ。これが今の叔父夫婦の様子だよ)
キュウべえの赤い目が光ったと思うとあたしゃの視界が一瞬、暗転したかと思うとリビングの様子が別の角度から見え始めた。そこには、叔父夫婦が、突っ立っているあたしゃを殴ろうとしているのが見えた。
「なっ!?」
咄嗟に動こうとしたあたしゃだったが、それよりも速く叔父夫婦の両腕は、あたしゃの頭に振り下ろされたが、叔父夫婦の両腕は、あたしゃの頭をすり抜けて行った。
驚きの余り声を出せない、あたしゃの前で叔父夫婦は、何度もあたしゃを殴ろうとしたがあたしゃに触れる事は出来ない様子だった。
(どうだい?君の願いは、叶えられただろう?)
キュウべえの声と同時にあたしゃの視界は戻った。
あたしゃの目からは、叔父夫婦の姿が見える事は無かったが、まだ触れられないのに、あたしゃを殴り続けていると考えると物凄く愉快でもあった。
「あははははは。あたしゃをさっさと殺さないからこんな事に、なっちまうんだよ。ざまあ見やがれ!」
愉快な気分であたしゃはソファーで高笑いをしていた。
(さて。僕は君の願いを叶えたよ。君にはこれから《魔法少女》としての使命がある。順序が多少、前後したかも知れないけど説明させて貰うよ)
そんなあたしゃに対してキュウべえは、願いを叶えた事に対する対価を説明し始めた。
願いが叶ってしまった以上、キュウべえの話には真実味がある。それは確かだった。
ただあたしゃはそうした使命だとか何だとかに正直、関心が無かったのは確かだった。
だからこそあたしゃは《魔法少女》としての使命である《魔女狩り》をグリーフシードが必要だと思った時にしか行動しなかった。
《使い魔》なんか放置したし《同じ街に存在する他の魔法少女》とのトラブルも幾度か起こした。隙を見てグリーフシードを掠め取った事も一度や二度では無かった。
たった一週間の間にあたしゃは、そうして相変わらず好き勝手な事をして過ごしていた。
けれど転機は、直ぐに訪れた。
ある日、あたしゃが帰宅しようとすると家の前にパトカーが何台も止まっており警察が周囲を窺っていた。
何があったのか分からなかったが、間抜けな事にあたしゃは警察の前に堂々と出て行っちまっていた。自宅に入ろうとするのに文句があるのかってな。
あたしゃの姿を見た警察は、有無を言わずに直ぐあたしゃを捕まえようとして来た。
咄嗟にあたしゃは、魔法少女としての力を使って警官達を撃退してしまっていた。
どうして警官達があたしゃを捕まえようとするのか困惑するあたしゃだったが、鼻腔に嗅ぎ覚えのある臭いが付いたので家に入ってみた。
リビングに入って直ぐに臭いの正体は、分かった。
これが原因で無い筈の無い物があったからだ。
昨日までは無かった。今日、家を出るまでも無かったが来るべき時が来たのかも知れなかった。それは、叔父夫婦の死体だった。
嗅ぎ慣れている臭いの筈だった。あたしゃは両親の死体からも同じ臭いを嗅いでいたから覚えていて当然だったんだ。
直ぐにあたしゃもこれが通報の原因だと察する事が出来た。
叔父夫婦が死んで誰からも見える様になってしまったから、誰かが通報したんだと。
「どうですか?こちらの報復の味は」
突然、声を掛けられて驚いたあたしゃが正面を見るとそこには一人の少女がいた。
見覚えのある杖を持ちソウルジェムを輝かせ手にした本に視線を落としている魔法少女。
敵対していた魔法少女の1人だったと、思い至った。
名前は知る必要を感じなかったから覚えてもいない。
「あなたにグリーフシードを取られてこちらは、散々でしたよ。ですからあなたの事を監視すると同時に調べさせて貰いました。直ぐに分かりましたよ。あなたの叔父夫婦が行方不明になった事が。ですから叔父夫婦の死体が現れて直ぐに通報させて貰いました。これであなたは社会的に抹殺されたでしょう?他の魔法少女を敵に回して、社会までも敵に回して。そちらは、もうこの街では詰んでいるのですよ」
「テメエ!」
あたしゃが動こうとする前に杖を持った魔法少女は、魔法を使って消えてしまった。
(そうそう。警察が直ぐにまた来ますよ。この街から出て行く事をこちらは、お勧めします。素直に出て行くならこれ以上の攻撃は致しません)
一方的なテレパシーをあたしゃの頭に送って逃げて行った相手にあたしゃは怒りを覚えたが外から車のブレーキ音が、したかと思うと直ぐに家から飛び出した。
それからは何処をどう進んだかは分からないが、着の身着のまま各地を放浪していた。
最初の内はあたしゃを嵌めた杖を持った魔法少女への復讐を考えていたが、直ぐにその熱は冷めてしまった。
別にあたしゃは、自分が住んでいたあの街になんの思い入れも無かった。
「どうしてなんだろうな・・・」
思えばあたしゃは、旅に憧れていたのに何故かずっとそれをしなかった。
あの家を失うのが怖かったからだろうか?
家族のいない家だったが、あたしゃは両親との思い出にすがっていたのかも知れなかった。でも失って見ると少しの間は怒りがあったけど直ぐに冷めてしまった。
それに気が付いたあたしゃは、だから決めたんだった。
色々な物を見る為に旅に出ようと。
それから様々な街を巡ってあたしゃにとって転機ともなる、あの街を訪れる事になった。
明日、なりたい自分になろうと思えるあの街へ・・・。
○
魔人である綾羽鳴海の結界を見張る為にインキュベーターの端末は、高い木の樹上から監視を行っていた。
キュウべえは、やがてここに現れる栗栖への情報提供の為に結界を見張っていたのだが、突如としてキュウべえの肉体は、停止した。
生体端末でもあるキュウべえが、停止する事は基本的にはあり得なかった。
事故や故意に危害を加えられれば話は別だが。
けれどもキュウべえの肉体は停止していた。その証拠として綾羽鳴海の結界を見張るキュウべえは、樹上より落花して地面に叩き付けられていた。
肉体は停止していてもインキュベーターとして意識は、動き続けていた。
(何故だ?どうして僕の肉体が停止したんだ?)
インキュベーターの意識は、肉体が強制的に停止してしまった事への原因を探っていた。
まず判明したのは、綾羽鳴海の結界を中心として半径50キロにおいて全てのキュウべえの肉体は停止している事。それ以外の地域ではキュウべえの肉体は正常に活動している事が、直ぐに判明した。
(やはり・・・。魔人、綾羽鳴海なのか・・・)
インキュベーターとしての意識は直ぐに停止した直接の原因を突き止めていた。
綾羽鳴海の結界からインキュベーターの端末ネットワーックに対してハッキングが、行われていた。方法も直ぐに判明した。
綾羽鳴海は、捕獲したインキュベーターの端末の1つを改造して自らの手駒とする事でインキュベーターの端末ネットワークからハッキングによって情報を引き出そうとしていたのだ。
(彼女は、何を狙っているんだ?)
インキュベーターの意識は、情報の漏洩を防ぐ為にネットワークの一時的な切り離し等を目論みながらも綾羽鳴海が何を狙っているのかを推測しようとしていた。
膨大な情報量の中で様々な情報方向に行われているハッキングの中で特に集中的に情報を収集しようとしているのは、過去に関する情報だった。
それもインキュベーターの過去では、無く地球の過去の歴史に関する記録。
西暦1425年のフランス、ロレーヌ地方から始まり1431年5月30日、ルーアン市内までの記録。
(まさか、彼女の狙いは!?)
狼狽と言う感情を持たないインキュベーターをして綾羽鳴海の狙いを推測出来た際には、危機感を抱かずにはいられなかった。
その記録は、インキュベーターが人類と遭遇して魔法少女システムを作り出してから、起こった最も大きな事件に関する記録だった。
―乙女 ジャンヌ― に関する全ての詳細記録。
直ぐにインキュベーターは、付近の端末を強制的に永久停止する事を決断した。
端末のネットワークは瞬時に新たな固有周波によって再構成されると同時に新たに現れた端末が永久停止した端末を捕食する事でこれ以上の情報朗詠を防ごうとした。
その反作用として僅かな時間だが、インキュベーターのネットワークに穴が生じてしまい監視や経過観察に遅れが生じてしまったが・・・。
(どうやら魔人、綾羽鳴海は、ジャンヌ・ダルク=タルトのデータを得ようとしていたみたいだ。筒地綾女もタルトの事を僕から聞いていた。だからこそ僕からタルトのデータを得れば今以上に厄介な存在になる事は確実だろう。それにタルトと戦った相手、Eシステムのデータをも取り込めば更に魔法の幅は広がる。でも・・・。今のままでも綾羽鳴海は、奇跡以外で倒す事が困難な存在なのは確かだ。なのに・・・。どうしてタルトのデータを得ようとしたんだ?)
タルトに関するデータの一部は、ハッキングされ、奪われたがそれはインキュベーターが行動を記録した、言わば良く出来たビデオに過ぎなかった。
その他にもここ2・3年の魔法少女に関する調査と詳細な記録が奪われたがとても鳴海の強化に役立つとは思えない情報でもあった。
以上の事からインキュベーターは、綾羽鳴海と改造された端末のハッキングは失敗したと考えて再び綾羽鳴海の結界を監視し始めていた。
その時間は体感時間においては、僅か2・3分に過ぎなかったが、大きな変化を引き起こしていた。
『どうだったかしら?マーシュ』
「ああ。お望みのデータは入手出来たぜ。ご主人」
マーシュの返答に鳴海は笑みを浮かべていた。
『ありがとう。ふふ。キュウたんったらきっとワタシが、ジャンヌ・ダルクやその敵対者のデータを使って彼女、もしくは、キュウたんの様な存在になろうとしていたんだと錯覚したんじゃ無いかしら?』
「そうかもな。見事に囮に引っ掛かってくれたぜ。お陰でご主人の欲しがっていたデータは易々と手に入ったんだからな」
『残念だったわね。キュウたん。ワタシの目的は、自身の強化じゃあ無いわ。既にワタシは、強大な力を持って成長し続けている。ワタシが狙っていたのは、あなたが観察した魔法少女に関する記録なのよ』
嬉しげにその場でくるりと身体を回すと鳴海は、隅にある三つの物体に視線を向けていた。ここは館の中にある物置の様な部屋であり三つの物体は蚕の作る繭の様に糸の様な物で包まれ中で何かが蠢いているのが明らかだった。
「んで次の仕事は、なんだい?ご主人」
『じゃあ、マーシュ。朱奈が起きたらワタシの元に連れて来て頂戴』
「はいよ。じゃあワイは朱奈のいる部屋に行くぜ」
そう言うとマーシュは鳴海に手を振って部屋を出て行こうとしたが出口にあるドアノブに手が届かなかった。
「ご主人。代わりに開くか別の手段を用意してくれよ。これじゃあワイだけ出れねえよ」
『それもそうね。じゃあこうしましょうか』
そう答えながら鳴海の双眼が輝くと同時にドアの下部にペットドアが形成されていった。
「便利な魔法だけどよ、ワイは猫じゃ無いんだぜ?」
大袈裟に手を振りながらもマーシュはペットドアから出て行った。
『・・・。人格形成を誤ったかしら・・・。まあ良いわ。次に生かせれば良いのだから』
そう呟くと鳴海は繭の方に向き直った。