偽書魔法少女じゅりあ×くりす☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI JURIA×KURISU MGICA 作:ジャックノルテ
次の章は速く書き上げたいと思います。
眼前に立つ彼女を見て朱奈は信じられない思いを抱いていた。記憶を取り戻して悟っていた事でもあった。起こり得ない、あり得ない事が現実に起きていて直ぐに反応が出来なかった。驚きの余り左目の視線を外す事も出来ない。
頭脳は否定している。でも感情が・・・。否定し切れない・・・。
それに、もし彼女が本人なら朱奈を置いて何処かへ行ってしまう筈が無かった。
ここまで大きな葛藤とも言える感情を朱奈は初めて体験していた。
「あっ綾女ちゃん・・・。なの・・・」
言葉を一言、搾り出すだけで手一杯だった。
『ふふ。やっぱり驚いているみたいね。まあ無理も無いわね』
人間の声帯から発するとは思えない、異質な音声を多分に含めた声を出した彼女は、言いながら近づいて朱奈の頭を撫でた。驚きの余り固まった朱奈だったが、声を聞いて直ぐに違和感を覚えた。姿も、その表情も、筒地綾女その人だったが、朱奈の心はハッキリと告げていた。筒地綾女とは同じ姿だけど声の違う別人だと。
「あなたは・・・。誰・・・。何ですか?」
警戒心を隠さない朱奈の言葉に彼女は、少し驚いた表情を見せていた。
「あなたは、綾女ちゃんじゃ無い。でも、綾女ちゃんと同じ姿をしてる・・・。それでも・・・。どうしてか分からないけれど、わたしには、あなたが、綾女ちゃんじゃないって感じるの・・・」
朱菜が紡ぎだした言葉を聞いて彼女は、ほんの僅かな瞬間少しだけ険しい表情を見せたが直ぐに朱奈にも分かる作り笑いを浮かべた表情に戻すと肩を少しだけ揺らした様に感じられた。
「ご主人。バレてんだからもう良いだろ。さっさと名乗っちまえよ」
朱奈の隣に佇むマーシュは呆れた様子で答えを急かしていた。
『そう。やっぱり朱奈には、分かってしまうのね・・・』
朱奈から視線を外すと彼女は、両の手を左右に大きく広げ語った。
『いかにもワタシは、筒地綾女じゃ無いわ。でも無関係な存在でも無いわ。ワタシは、綾羽鳴海。筒地綾女の記憶と感情を引き継いだ存在よ』
彼女=鳴海が指をパチンと鳴らすと周囲の薄暗さは解消され部屋に明かりが灯り鳴海の姿が朱奈の目にハッキリと映ると鳴海は再びテーブルの上座に位置して周囲を見下ろせる玉座に座った。
「綾女ちゃんの記憶を・・・。引き・・継いだ?どう言う事なの?」
上座の方向を見上げながら朱奈は、玉座に座る鳴海に臆する事無く質問をぶつけていた。
玉座から見下ろしながら鳴海はその言葉に対し
『ええ。朱奈。あなたは知らないかも知れないけれど筒地綾女は、そうした実験を繰り返していたのよ。ある目的の為に。全てあなたの為なのよ』
「わたしの・・・為?」
マーシュに促されてテーブルの横にある椅子に座らされた朱奈に鳴海は、ゆっくりと言葉を足していった。
理解を促す為に。
『そう。筒地綾女は、ずっと実験を行っていたわ。朱奈。あなたの為に。《魔法少女》である筒地綾女は、あなたとずっと一緒にいる事は出来ない。だから自分のコピーを作ろうとしたのよ。《他の魔法少女の肉体》を元にして。もし自分に何かあっても替わりであるコピーが作れれば朱奈を守る事が出来る。そう考えていたわ。でも上手く行かなかった。結局筒地綾女は、自分のコピーを作りだす実験を諦めて実験体を処分しようとしたわ。作られた実験体には、自己崩壊の魔法を掛けられて消滅する筈だった。でもワタシは、消滅せずにいたわ。どうしてワタシが存在しているのかは、ワタシにも分からないわ。でもワタシは、ここに存在しているわ。《魔法少女》を超えた、《魔人》として』
「マジン?」
「漢字位分かるだろ?魔法の魔に、人間の人。それで《魔人》だ。分かりやすいだろ?」
唐突に鳴海に告げられた聞き慣れない単語に困惑する朱奈に対してマーシュが説明を行ったが、朱奈の理解が深まったとは言い難かった。けれども漢字をイメージした事で、朱奈にも分かる事があった。《魔女》と《魔法少女》。魔と言う漢字だけが共通で人の漢字を当てはめられた存在。
『難しく考える事は無いわ。《魔法少女》よりも強い存在だと思えば良いのよ。ねえ朱奈。あなたは《魔法少女》のソウルジェムがなんなのか知っている?』
元となった筒地綾女が朱奈に見せない様にしていた意地の悪い笑みを浮かべながら鳴海は朱奈に促した。
「えっと。確か《魔法少女》の魔力を供給する源であり《魔法少女の証》だって・・・」
『ちょっと違うわね。ソウルジェムは、《魔法少女》の魂そのモノよ』
右手を振りながら否定した鳴海の告げた重大な言葉に朱奈は直ぐに何も言えなかった。
『例外無く全ての、《魔法少女》の魂は、キュウべえとの契約時に願いと引き替えに魂はソウルジェムとなる。ソウルジェムは、《魔女》の持つグリーフシードが無ければ穢れを落として浄化する事も出来ない。魔力を供給するソウルジェムが破壊されれば、《魔法少女》は死ぬわ。だってそうでしょう?魂が無くなるんだから』
「そんな・・・」
今まで知らなかった事実に驚き呆然とする朱奈の様子を見てこれ以上、先の事を話して理解が進むのか、と言う疑念を覚えた鳴海だったが話は続ける事にした。
(朱奈が絶望したとしても、慰めれば良いだけ。筒地綾女と同じ顔しているワタシなら代用品にはなるでしょう。最低限、ワタシと言う存在を理解させれば良いのだから。どのみち朱奈は、ワタシの様な庇護者がいなければ生きていられない可哀想な存在)
思案しながら鳴海は、決定的事実を見せる事に決めて魔力を使って空中に映像を映し出した。映像は朱奈にこれからの事を理解させる為に鳴海が既に用意していた。流し出される映像は、《魔法少女の真実》。
『まだ信じられないのならこの映像を見れば分かるわ。この数ヶ月の間にキュウべえが観察した《魔法少女の真実》に関する映像よ』
言いながら鳴海が朱奈の様子を見ると呆然とした様子で映像に視線が向いていなかった。
鳴海がマーシュを見つめるとマーシュは直ぐに視線に気がついて朱奈の服の袖を引っ張って面倒そうに告げた。
「おい。ご主人が映した映像を見ろよ。どのみち《魔法少女》に関わるんならいずれ知る事なら速い方が良いだろ?」
納得し難い表情をした朱奈だったが、マーシュに促された事もあって鳴海の映し出した映像に視線を向けた。映像に映し出された場所が《魔女の結界》だと独特な異質な雰囲気から直ぐに分かった朱奈の目に続けて見えたのは、お菓子がちりばめられた結界の中を走り、結界の主と思しき《魔女》に向かって走り出した《魔法少女、巴マミ》の姿だった。
「マミさん!?」
『あら?あなた、朱奈も巴マミを知っているの?筒地綾女の記憶には無いわね』
この先の事を知っている鳴海だったが映像を止める事は無かった。
食い入る様に映像を見つめる朱奈の瞳に映された巴マミは、必殺のマギア《ティロ・フィナーレ》を《お菓子の魔女》に発射して《お菓子の魔女》を倒したと確信していた。だが突如として倒したと思った《お菓子の魔女》の口から伸びてきた大蛇とも言える体を伸ばしてピエロの様な顔から生えた牙が、巴マミの首に噛み付いた。《お菓子の魔女》の口元からぶら下がる巴マミの体が落ちた時、映像が突如として拡大され《お菓子の魔女》の口の中で巴マミのソウルジェムが砕ける様子が映し出された。
「マミ・・・さん。そんな・・・」
絶句する朱奈の様子を鳴海は(まあ計算の範囲内よね)と思考しながら言葉をかけた。
『ソウルジェムが砕ければ《魔法少女》は死ぬのよ。まあこの場合、体も千切られたから二重の意味で死んだとも言えるわね。それにまだ終わりじゃ無いわ。次の映像は朱奈が眠っている間に起こったついさっきの出来事よ』
下を向きかける朱奈に更なる絶望的な状況を見せる為に鳴海は映像を先に進めた。
次に映し出されたのは、暗い駅のホームだった。ホームのベンチには《青い髪の少女》が一人で座り込んでいた。そこへ《赤い髪の少女》が青い髪の少女に近づいて隣に座った。
何故かこの映像には、先程の映像と違って音声が無かった。
《赤い髪の少女》と《青い髪の少女》は何かを話している様子だったが何を話しているのは、音声が無ければ朱奈には分からなかった。ただ深刻な様子なのは朱奈にも分かったが、それよりも朱奈には《赤い髪の少女》に見覚えを抱いたが何処で会ったのか思い出せなかった。
その時、薄い笑みを浮かべて涙を流した《青い髪の少女》が《赤い髪の少女》に何かを告げた時、《青い髪の少女》の手のひらに乗せられていた元は宝石の部分が青かったで、あろう黒ずんだソウルジェムに涙が触れたと同時にソウルジェムに亀裂が走ったと思う間もなく砕け散り、中から穢れをまとわせたグリーフシードが現れ周囲にあった瘴気を吸い込んで見る間に結界の形成と同時に実体化を果たした。首元に赤いリボンを巻いて片手に剣を持ち魚の下半身を生やした《人魚の魔女》の誕生だった。
その状況に驚いていた《赤い髪の少女》だったが結界の中を落下して行く《青い髪の少女》の体に気が付くと《魔法少女姿》に変身して受け止めた。映像に映る《青い髪の少女》のは、映像と言うフィルターを通してみても死者である事に疑いようが無かった。
何度も何度も《魔女》に殺される人や死体を見ている筒地綾女の記憶を持った鳴海にも共に経験していた朱奈にも映像に映る《青い髪の少女》が死体だと分かってしまった。
『これが《魔法少女の真実》よ。《魔法少女》は《魔女》になる。《魔法少女》の魂は、グリーフシードによる浄化を怠って穢れを溜め込み過ぎるとソウルジェムは砕けてグリーフシードに変貌して《魔女》を生み出すわ』
「《魔法少女》が《魔女》に・・・」
余りの出来事に絶句してしまう朱奈を見て鳴海は少し伝え過ぎたかと思ったが、どのみち知る事になるのだから問題は無いだろうと思う事にした。
『鳴海様・・・』
玉座の背後から声をかけられても鳴海は、正面を向きながら背後に現れた相手に意識を向けた。
『どうしたの?ネリー。貴女達3人は、まだお勉強中でしょう?』
何が起こったのかは、察していた鳴海だったが、確認の為にも問いかけてみた。予想外の事が起こると言う事を多少は想定しておくべきと言う筒地綾女の考え方を真似たからだ。
『シーラが先走りました。侵入者を殺して鳴海様へ恩を売るとネリーに言って飛び出しました』
玉座の背後を見つめると修道服に身を包んだネリーが頭を下げながら伝えて来た。
仮面に隠され表情は見えづらいが一応、声色からは、ネリーが鳴海に義務感から報告に及んだのは分かるが、鳴海はネリーの事を、まだ信じ切ってはいなかった。まだまだ人格が安定しているとは言えないと感じていた。更に言うならばネリーの人格を作ったのは、鳴海だが、人格の形成に使用したデータからして本当の意味で信用に足る存在になるのかは、未だ試用期間と言った所だった。
けれども、もし個人の人格を自在に組み立てる事が出来るのなら強力な戦力を自在に作れる事を意味していた。だからこそまだ、続ける事にする。
『まあ、あの性格なら、そうするわね・・・。リセムはどうしているの?』
『リセムなら勉強を中断して竪琴で遊んでいます』
『しょうがないわね。リセムと二人でシーラを連れ戻しなさい。まだ戦うには、時期尚早よ。侵入者を殺すなんて絶対にさせてはダメよ。それと侵入者にあなた達の自己紹介位は、してあげなさい』
『かしこまりました』
そう答えると、表情を見せる事無くネリーは玉座の背後から去って行った。と言ってもネリーの表情は、鳴海が付けさせた仮面によって見えづらいのだが・・・。
『面倒な事が続くわね』
「誰に言ってんだよ?ご主人?」
『誰でも無いわ。マーシュ。ひとまず、朱奈を部屋へ連れて行きなさい。その様子じゃこれ以上の話は聞けないだろうから』
「しょうがねえな。ほら行くぞ」
マーシュに引っ張られて退席していく朱奈を見る事無く、鳴海は手の平に魔方陣を出現させると映して出していた魔方陣の映像を侵入者達に切り替えていた。
『さて、シーラはどうしたのかしら?』
○
「一体、どれ位歩いたんや?」
誰が聞いても疲労を感じさせる声で彩月は、誰にとも無く言った。
「さあな。あたしゃもかなり歩いた気がするんだが」
《魔法少女》であり常人以上の体力を持つ樹理亜にも声色に疲れが感じられていた。
先程から奥へ進んで行くにつれて結界の中には《使い魔》の姿が消えていた。これは異様な事でもあった。もし《普通の魔女の結界》であるのなら《無数の使い魔》がいる筈だからだ。けれどもここは《魔人の結界》。何か理由があるのかも知れなかった。
その時、先頭を歩いていた栗栖が足を止めて武器である箒を構えた。
「上から何かが来ます」
栗栖が告げると同時に樹理亜は、彩月を引っ張って脇へ飛んだ。同時に樹理亜の肩に乗るキュウべえが落下した。
そこへ真上から何かが栗栖に向かって落ちて来た。《魔法少女》では無い彩月にも落下して来たのが、人型の何かだと分かった。
栗栖が自身の前に真一文字に構えた箒に向かって薙刀を振り落とす着物を着た少女の姿がハッキリと見えて来た。少女と言ったが妙な仮面を付けており恐らく体つきから少女と思わざるを得ない状態だった。少女の付けている仮面は、鳥のくちばしを思わせる部分が鼻の方へ伸びていて仮面の黒さからカラスを連想させていた。
『お前らが、侵入者だろぉ!?お前ら殺せば、あたくしの手柄になるぅ!!』
口調からして好戦的な《カラスの仮面少女》は、薙刀を箒から離したと同時に側面に跳躍すると着地の瞬間に地面を蹴ったと同時に樹理亜と彩月に向かって来た。
驚きながらも樹理亜が、短刀を両手に出現させると合体させて弓にすると咄嗟に魔力で形成された矢を放った。《カラスの仮面少女》は意に会することなく薙刀を振ったと、彩月が思ったと同時に魔力の矢を破壊して樹理亜を突き飛ばすと彩月の喉を片手で掴んで持ち上げてしまった。
「うっ・・・」
思わず苦し気な声を上げる彩月だったが、何もする事は出来なかった。
『なんだぁ。アンタ、《魔法少女》じゃねえのかぁ?』
彩月を訝しげに見ながら《カラスの仮面少女》は、疑問形で告げたが、彩月は返答する事が出来なかった。
『こいつも殺したらぁ、手柄になるのかなぁ?』
疑問形の声色とは、裏腹に喉を絞める力が強まり彩月は、苦し紛れに目を開けて《カラスの仮面の少女》の様子を見ていた。
そこへ栗栖が魔力で形成され先端が刃の様に鋭い箒を構えて《カラス仮面の少女》を突いた。否。突こうと飛び出した。同時に《カラス仮面の少女》は、彩月の事を栗栖が突き出した箒の射線上に投げ飛ばすと同時に栗栖の攻撃が届かない安全圏へと跳躍した。
迷いの無い栗栖の攻撃が、彩月を貫きそうになった時、突き飛ばされて壁に叩き付けられていた樹理亜は、宙に投げ出された彩月が刺されると思い走り出そうとしたが、頭では、「間に合わない」と言う思考を思わずしてしまい、その思考を打ち消そうとした結果として足が鈍ってしまい、とても間に合わせられなかった。
『どんがらがっしゃんしゃん』
不意に幼さを含んだ子供の声が響いたと思うと、彩月の眼前へ一人の仮面を付けた少女が走り込んで来た。ネコの様な仮面を付けた少女は、その幼い体から小学校の低学年にも見えた。迷わない栗栖は、無表情に箒を突き出し飛び出していたが、《ネコの仮面少女》は、栗栖の箒を無造作に両手で握り締めて動きを止めてしまった。止められたと分かった栗栖は、箒を動かそうとしたが動かなった。と同時に栗栖は箒ごと脇へ投げられたが、動じる事無く着地して周囲を見渡すと《カラス仮面の少女》の脇にウサギの様な仮面を付けた修道服を着た少女が出現していた。
『何の用だいぃ?あたくしの手柄を横取りする気かいぃ?』
不機嫌そうに《カラスの仮面の少女》は、吐き捨てた。
『いいえ。ネリーは、鳴海様の指示に従っただけですよ。シーラ』
動じる事の無い《ウサギの仮面少女》=ネリーは、《カラスの仮面少女》=シーラに答えていた。答えながらも武器であるロッドをシーラに向けており、気付いたシーラも武器である薙刀を向き返していた。
『ねー。ネリー。これでいいの?どんがらがっしゃんしゃん』
『ええ。リセム。上出来です。鳴海様に褒めて貰えますよ』
『そうなのー?おやつがもらえるならいいー』
言いながら《猫の仮面少女》=リセムはネリーに駆け寄るとネリーは頭を撫でた。
「あんたら、何者や?見たとこ《魔法少女》の様だけど、この場に現れたんやから違うんやろ?」
彩月は魔力を持っておらず感じ取る事も出来なかった。けれど目の前に現れた3人が発する人間とは、到底思えない強烈な違和感を覚えていた。
「あたしゃにも人間じゃねえのは・・・。分かる。《魔法少女》っつーよりも綾羽鳴海に似た魔力を感じるぜ。それに、声色も変な感じがするしな」
彩月の隣に移動して来た樹理亜が言いながら武器を構えていた。
「何であろうと敵なら倒すだけです」
呟いたと同時に栗栖が武器を構えて駆け出そうとするのを見るとネリーは、リセムにそっと耳打ちした。
『わかったー。いっくよー』
無邪気な声で答えたリセムが背中に背負っていた竪琴を取り出すと無造作に指を弦に絡ませ動かした。同時に誰しもが不快に思う音がリセムの竪琴から拡散して周囲にいる全員が動きを止めて思わず耳を塞いでいた。耳を塞ぐのはシーラもネリーも例外では無かった。
『どんがらがっしゃんしゃん。どんがらがっしゃんしゃん』
無邪気に暫く竪琴を引いていたリセムだったが、途中でネリーがそっと優しく竪琴を取り上げた。幼児の身長しか無いリセムには、ネリーが竪琴を上にあげてしまえば手が届かなかった。
『なんでとるの?もっとひきたいよ』
仮面越しでも不満そうなリセムの様子にシーラは、心底嫌そうな様子を仮面越しに見せていた。
『十分ですよ。鳴海様から預かったお菓子をあげましょう』
そう言ってネリーがクッキーを差し出すとリセムはその場で直ぐにクッキーを食べ出し竪琴を取られた事への関心を失っていた。
『さて・・・。紹介が遅れました。ネリーは、ネリー・ハーガと申します。綾羽鳴海様にお仕えする《魔人》の一人にございます』
ウサギの仮面で表情は見え難いが、ネリーはその場で一礼をした。
『そして先程、最初にあなた達を襲撃したのは、シーラ。シーラ・』
その時、黙って成り行きを見ていたシーラが急に握り締めていた薙刀をネリーの身体に押し当てた。
『ネリー。それ以上、あたくしの名前を勝手に告げるのはぁ、許さねえぇ』
『ネリーは、鳴海様に先走った貴女を止める事と我々、3人の自己紹介をする様に言いつけられました。勝手と言うならシーラが自分で名乗ればよろしいのでは?それ位は出来るのでしょう?』
シーラがネリーを睨む視線の鋭さが増したが、ネリーは意に会する事無く言葉を続けた。
『鳴海様への命令違反になりますよ』
『・・・。シーラ。シーラ・Y・ルイン。これで良いんだろぉ』
『良く出来ました。そしてここでクッキーを食べている聞き分けの良い子が、リセム。リセム・エベントにございます』
睨み付けるシーラと対照的にリセムは、クッキーを食べる事に夢中の様子だったが手を振って来た。。
『我々のご紹介は、これでよろしいですか?キュウべえさん』
ネリーの言葉を聞いても離れた場所で様子を窺っていたキュウべえは表情を変える事は無かった。
(君たちが綾羽鳴海と同じ《魔人》だと言う事は理解したよ。だからこそ、その仮面を付けているんだろう?)
『ええ。鳴海様は、この仮面を、キュウべえへの反逆の証と言っていましたから』
(成程。確かにその仮面が、僕に対する反逆の証と言うのは、認めるよ。その仮面は、僕と敵対した《魔法少女達》が、付けていた仮面なんだからね)
ウサギの仮面で表情が、見えないネリーと表情を変える事の無いキュウべえの会話は、淡々としたものだったが、感情が無い分お互いの探り合いが表面に現れていた。
『では、挨拶が済みましたので、我々は戻らせて貰います。鳴海様の元へ戻りますよ。シーラ。リセム』
『はーい』
『チッ。まあ良いぃ。次に会う時にはぁ、テメーラの命は貰うぅ!』
元気良く手を挙げたリセムと対照的にシーラは、薙刀を彩月、樹理亜、栗栖へとそれぞれ向けるとそのままネリーが生成した魔法陣を通って行こうとしていた。
「そのまま帰す訳には行きません」
栗栖が小さな声で呟くと同時に箒を片手に魔法陣へと突っ込んだが、魔法陣はネリー達3人が通ったと同時に消滅してしまい栗栖の攻撃は届かなかった。
「逃げられちまったな」
「そやな。それに敵が増えとるやな。それでどうするんや?」
両手の短刀を合体させた弓を構えていた樹理亜と周囲を見渡す栗栖に対して彩月は問い掛けた。答えが決まっていると思っていたが。
「進みましょう。敵が増えるのは予想出来た事です。自分の目的に変化はありません」
答えた栗栖が歩き出したのを見て彩月と樹理亜も後に続いた。
キュウべえも駆け出すと3人の先頭に立って先導する形を取った。
(最深部がこちらなのは間違いない。それと3人に伝えたい事がある)
その時、キュウべえの声が栗栖と樹理亜の脳裏にテレパシーとして響いた。
「なら彩月さんには、自分が通訳しましょう」
言いながら栗栖はパペットのキュウべえを取り出すと右手にはめた。
(この結界の内部と、外の世界では時間の流れが異なっている。外の世界で5分が、ここでは5時間位経過していると思うよ。そして最深部へ行けば行く程、外の世界と時間の流れが異なっていく。奥へ行けば行く程、外よりも時間の流れが遅れていく。なるべく速く最深部へ行かなければ、綾羽鳴海に力を付けさせてしまう)
キュウベえからの言葉を栗栖は、パペットキュウべえを使い身振り手振りで彩月にも分かる様に説明した。
「まあ話は分かったんやけど、その変な身振り手振りをしなきゃ伝えられないんか?」
「そーだな。あたしゃも変だと思うぞ」
彩月と樹理亜の二人から見ても栗栖の身振り手振りは、変な動きにしか見えなかった。
「そんなに変ですか?テレビで見た面白いと言うパペットの動きを真似たのですが」
パペットキュウべえの方を会話する様に見ながら栗栖は答えた。
「その動き今、やる必要無いやろ」
「ああ。あたしゃも同感だ」
否定的な彩月と樹理亜の声を聴いても栗栖は顔色一つ変えなかった。
「伝える事は、伝えました」
答えた栗栖はパペットキュウべえをしまうと足元にいたキュウべえと共に歩きだした。
お互いに呆れた表情を見せた彩月と樹理亜だったが栗栖の後に続いた。
〇
『それでシーラ。勝手な行動を取ってどういう言い訳を聞かせてくれるのかしら?』
玉座に座りシーラの事を見下ろす鳴海の目には、誰の目にも分かる相手を見下す視線が混じっていた。玉座の脇に待機しているネリーは、ウサギの仮面で表情を伺い知る事は出来ないが素知らぬ振りをしており、猫の仮面を付けたリセムはネリーにもたれかかって眠りかけていた。
『確かにぃ、あたくしは、鳴海様の命令を無視したのはぁ、認めますぅ。でもぉ結界に入って来た敵を倒すのはぁ、当然の事でしょぉ?』
悪びれずに答えたシーラの表情には、カラスの仮面を付けていても隠せない侮りとも言える表情が見えていた。両目を閉じてシーラの言葉を聞いていた鳴海は、目を開くと同時に玉座立ち上がるとシーラの方へ向かって降りて行った。
『確かにあなたは、ワタシにとって《使い魔》の様なモノだけど、ワタシはまだ戦って良いとは、言っていないわ』
『手柄を立てようとぉ、するのはぁ当然の事でしょうぅ?』
シーラがそう答えたのを聞いた瞬間に鳴海はシーラの頬を殴った。
衝動的な行動であり手加減はしていなかった。
殴られたシーラは吹っ飛んで顎が砕けて血反吐を吐いたが、《魔人》である以上、死なない事を確信していた鳴海は当然の事と言う表情を見せていた。
『今後はワタシの指示を無視した行動は許さないわ。分かったわね?』
怒気を含んだ鳴海の言葉にシーラは憎しみを抱いたが、勝てない事を悟ると頷くしか出来なかった。幸いその表情はカラスの仮面で旨く隠れているらしかった。
『ネリー。シーラの手当てを。手当てが終わり次第、3人共勉強の続きよ。残り2か月分はこなして貰うわ』
『かしこまりました』
ネリーがシーラの手当てを始めようとしたのを見ると鳴海は手に魔法陣を通して侵入者達の様子を見ていた。
『ワタシ達にとっては2か月だけど、侵入して来たあなた達には、1時間と言った所かしらね』
そう言って鳴海は部屋を出ようとした。
『ねー。鳴海さま。べんきょうをおえたら、あのしんにゅうしゃであそんでいいの?』
いつの間にか鳴海の足元に来ていたリセムが質問をぶつけて来た時、鳴海は苛立ちを覚えたが、シーラを殴った事で少しは気は晴れている為、リセムには手を上げるつもりは無かった。
『そうね。勉強を終えたら、みんなで侵入者と遊びましょうか。だから勉強だけは終えましょうね』
『はーい。リセムはべんきょうするー』
手を上げて答えたリセムの返事を聞くと鳴海は部屋を出て廊下を歩いた。
『こういう時、筒地綾女は、どうしたのかしら?朱奈に苛立ちをぶつける?いいえ。違うわね。そんな事はしないわね。じゃあどうするのかしら?とりあえず様子を見れば良いのかしら?』
自分に言い聞かせる為に声を出しながら歩いていた鳴海は、朱奈の為に用意した部屋へと辿り着いた。
ドアをそっと開いてベッドを見ると朱奈は涙を流しながら眠っていた。
『どうして泣いてるのかしら?』
「そりゃあんなに辛い事を一度に告げたからじゃねえのか?」
鳴海の独り言に答えながらマーシュはベッドの脇から姿を見せた。
「朱奈から話は聞いたし、ワイの中にあるキュウべえのデータからも照らし合わせると、あの巴マミと言う《魔法少女》は、朱奈の事を助けてくれたんだそうだ。死んでいるなんて朱奈は、想像だにしなかったんだろ。だから《魔女化》の件も含めてショックを受けたんだろ」
『一度に伝え過ぎたのかしら?』
「そうとも言えねえぜ。どうせ一緒にいるのなら伝わっちまう事なんだ。だったら速い方が良いんじゃ無いか?」
『そう思う事にするわ』
「これから何をするんだい?」
そう告げて部屋を出ようとした鳴海にマーシュは声をかけた。
『お勉強よ。シーラは自分勝手だし、リセムは飽きっぽい。ネリーは忠誠心がある様に見えるけどただ物事を静観している様にしか見えない。せめてもう少しワタシに対する忠誠心が欲しいわね』
「それを言ったらワイだって忠誠心が無いも同然じゃ無いのか?」
『貴方は良いのよ。朱奈を守ってくれれば。その事が重要なんだから』
言い終えたと同時に鳴海は朱奈の眠る寝室を後にした。
「果たしてご主人の思惑通りに進むのか?まあワイは見させてもらうだけだけどな」
〇
「なあ。これ入ってええんかな?」
目の前に突然、出現した扉を前に彩月は、呆れた表情を見せた彩月は扉に手を当てて呟いた。
「まあ扉だし入って良いんじゃないか?扉は開くもんだろ。まあ急に現れて怪しいと言えば怪しいしな」
両手に持った短刀で扉を叩いていた樹理亜も呆れながら言葉を返した。
「自分も同意見です。一時間も歩きましたが最深部に辿り着かないのは、綾羽鳴海が結界を操作していると思えます。目の前に急に扉が表れたのなら、その扉に入れと促されているのかも知れないとキュウべえは言っています」
他者から見れば妙な手の動きで表現しながら栗栖も賛成の意を示していた。彩月の目には見えないが、栗栖の肩にはキュウべえが乗っていた。
「それはそうかも知れへんけど、その妙な動きはいるんか?」
「ボディランゲージをした方が伝わりやすいと思いました」
「ほっとけよ。好きでやってんだろ」
感情を見せようとしない栗栖に最早、樹理亜も彩月も慣れた様子で呆れていた。
「じゃあ行くで」
結論が出たと判断した彩月が扉に付けられていたレバーを押し込んで扉を開いた。
扉の先に広がるのは、暗い闇の中を点々とぼんやりとした明かりが灯されたレンガ造りの道が伸びていた。3人の少女と一匹は、それぞれの歩調で歩いて行く。歩きながら自然と無言となった3人は、流石にこの瘴気の中では、喋ると言う行動を起こそうとも思わなかった。
3人がどれぐらい歩いたのか、距離を気にする事が無くなった時、道の先に輝きが重なった建物が見えて来た。目標が見えても3人と一匹は黙りこくって進み続けた。洋館と形容出来る建物の前に門があったが門は開かれており自然と3人と一匹はそこから中に入ると洋館へと続く道の先に中庭があった。中庭に生えるツツジとアヤメには、3人と一匹にも分かる程に禍々しさが溢れていた。
「生えてんのは、ツツジにアヤメの花か。下手な皮肉やなあ」
吐き捨てる様に彩月が呟いた。
「それしか作れねえからじゃねえのか?」
答えた樹理亜の軽口には感情が籠っていなかった。
洋館の前に辿り着いた3人は、そこでおかしな事に気が付いた。洋館の正面にある壁には、三つの扉が壁に付けられていた。もし普通の洋館ならば正面に扉が三つも壁に付けられる筈が無かった。ご丁寧に取って付けた様に1~3まで数字が書かれている。
「どうみても罠やろ」
「答えるまでも無いだろ」
「裏口から行きますか。窓から入り込みますか。それとも壁を壊しますか?」
『それは困るわ。折角、あなた達が来たからワタシが歓迎する準備をしたと言うのに』
3人と一匹が扉の存在を無視して進もうとしたその時、声扉の真上にあるベランダに人影が姿を見せた。一人、二人、三人、四人。
綾羽鳴海
ウサギの仮面で表情が見えないネリー・ハーガ
鋭い眼光をカラスの仮面で隠さないシーラ・Y・ルイン
好奇心旺盛な事を隠さない猫の仮面のリセム・エベント
《四人の魔人》が、ベランダに並んでいた。先頭に立つ鳴海。の脇にシーラーとリセムがおり、その背後にネリーが控えていた。その並び順からも彼女たちの力関係を表している様でもあった。
頂点に立つ鳴海。上昇志向の表れか、同じ視点に立とうとするシーラ。とにかく景色が見たいだけと言う好奇心旺盛なリセム。一歩引いた位置から周囲を冷静に見つめるネリー。
見下し、蔑み、興味、注意。《四人の魔人》は、それぞれの感情を込めて3人と一匹を見下ろしていた。最もシーラ達3人の表情は仮面で見えなかったが。
菖蒲彩月は、興味深そうに見上げ
沙我樹理亜は、面倒そうに
阿瀬比栗栖は確認の為に
キュウべえは記録の為に見上げた。
それぞれの視線が交差し始まりを告げる為に鳴海が口を開いた。
『ねえ。あなた達は朱奈を助けに来たんでしょう?ならワタシとゲームをしない?』
「ゲーム?何をさせよってんだ?」
敵意を隠さない樹理亜は、彩月が制しなければそのまま飛び出そうとしていた。
『朱奈の事を賭けたゲームよ。ルールは簡単。あなた達3人には、この下にあるそれぞれ別のドアをこれから開いてもらうわ。ドアの先には、シーラ、ネリー、リセムの3人がそれぞれ待ち受けているわ。どのドアに待ち受けているのかは、入ってからのお楽しみよ。そこで戦って勝った勝者だけがワタシと朱奈のいる場所へ辿り着く事が出来るわ。簡単でしょう?』
「簡単ですね。つまり全員倒せば良いんですね?」
肯定の意を見せた栗栖も武器を構えていた。
『簡単に言うとそう言う事ね』
「ちょっと待てえや。ウチはどうすんや?生憎、《魔法少女》や無いで?勝ち目が無いんやないか?それじゃゲームにならへんやろ?」
慌てて彩月は質問していた。と言っても慌てていたのは演技だったが。
『安心なさい。普通の人間であるあなたがシーラ達3人のどれかと戦ったとしてもシーラ達には菖蒲彩月と戦う時には、魔力を使わせないわ。最もワタシの元へ来たらそれは出来ない相談だけどね』
「まあそうやろな。ウチでもそうするで」
こうなる事を予想していた彩月は特に驚いた様子を見せなかったが、鳴海もそれを予想していたのか、笑みが浮かんでいた。
(ちっ。予想通りか)と彩月が内心毒づく一方で、
『化かし合い』
「化かし合い」
ボソッとネリーも彩月と同じ事を小さく呟いたが、誰の耳にも入らなかった。
『さてルールの説明も終えたしあなた達はどの扉へ入るのかそろそろ決めたらどうかしら?それとキュウたんには、こっちへ来てもらうわ』
(どうしてだい?)
『あなたには特等席でこの戦いを見届けて欲しいのよ。それはあなただって同じでしょう?この戦いを見届けたいと言う思考は』
(そうだね。君の言う通りだよ。鳴海。じゃあ僕はそうする事にするよ)
栗栖の肩に乗っていたキュウべえは、それと同時に鳴海の魔力に包まれて浮かび上がると鳴海の足元に移動させられた。
「さて、お二人さん。どのドアを選ぶんや?」
「あたしゃは、1のドアを選ぶ」
「では自分は2のドアを」
「じゃあウチは、残った3と言う事やな」
3人の少女は、それぞれ選んだドアのドアノブを握り締めた。」
「綾羽鳴海の元で会いましょう」
「会えるとええな」
「あたしゃは会える気がする」
お互いの答えを確認すると3人の少女はそれぞれの扉の向こうへ向かって行った。
『さて・・・。あなた達も出番よ。用意した部屋に向かって貰うわよ。事前に説明した様に分かっているわね?』
言葉に威圧を込めながら鳴海は、腰にぶら下げていた鍵束を眼前に掲げて見せた。
『チッ。分かってるよぉ』
『わーい。わーい。ゲームのはじまりー』
鳴海の言葉にシーラは、仕方なく答え対照的にリセムは楽し気にはしゃいでいた。
黙って頷きネリーは、はしゃいで何処へ向かうか分かっていないリセムの手を習慣的に引いてシーラを促すと共に洋館の中へ去って行った。
『さてキュウたん。ワタシ達も特等席へ行きましょうか』
(君に全て任せるよ。どんな形であれ、この戦いを、最後まで見届けられるのならね)
足元にいるキュウべえを拾い上げた鳴海もまた館の中に足を進めた。
〇
「うん?成程。そろそろか。おい嬢ちゃん。行くぞ」
「えっ?何処へ行くの?」
「決まってるだろ。これから面白い事が始まるんだ。ワイ達も行くんだよ。ほら速く」
「分かったから引っ張らないで」
朱奈はマーシュに袖を引っ張られるのを手と手を握り返して部屋を出ると洋館の奥へ向かう事になった。
言葉に出さなかったが、朱奈には、これが何か良くない事の始まりだと感じていた。
『今度こそ手柄はなってもらうわぁ。あたくしの手柄にぃぃぃぃ』
『ネリーは鳴海様の為にあなたに敗北してしまう事を望みます』
『たのしいたのしいゲームのはじまりだー』
「自分の相手はあなたですか」
「まったく。冗談にも程があるやろ」
「あたしゃの相手はアンタか」