偽書魔法少女じゅりあ×くりす☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI JURIA×KURISU MGICA 作:ジャックノルテ
なるべく早く次回を仕上げたいと思います。
『ではリセム。貴女は、この扉に。ネリーはこの扉に入ります。シーラはその扉に入る事を分かっていますね?』
『はーい。リセムは、こーのとびらー』
『分かってるよぉ。これに入れば良いんだろぉ?』
『鳴海様から預かったカギは、お持ちでしょうか?』
『持ってるよぉ』
『もってる。もってるー』
洋館の内部でネリー、リセム、シーラは、それぞれを象徴されると言われた花の意匠を彫られた扉の前に立つと鳴海から渡された特別なカギを使って扉を開いた。扉の先には、先程扉に入った、菖蒲彩月、沙我樹理亜、阿瀬比栗栖の3人が、それぞれバラバラに分かれて辿り着いた場所へ繋がる様にされていた。
これからネリー達3人が入ろうとする3つの扉は、菖蒲彩月達、何れかの誰かが待ち受ける空間へと繋がっていると綾羽鳴海から3人は聞いていた。
『では、ネリー達も参りましょうか』
ネリーの言葉を合図に、3人はそれぞれ自分達を象徴するとされる花の意匠が彫られた扉を同時に開いた。
「まったく。冗談にも程があるやろ」
『今度こそ手柄はなってもらうわぁ。あたくしの手柄にぃぃぃぃ』」
荒々しく白百合が壁に刻まれた部屋で 菖蒲彩月 対 シーラ・Y・ルイン
「自分の相手はあなたですか」
『ネリーは鳴海様の為にあなたに敗北してしまう事を望みます』
リナリアの彫られた壁紙に囲まれた部屋で 阿瀬比栗栖 対 ネリー・ハーガ
「あたしゃの相手はアンタか」
『たのしいたのしいゲームのはじまりだー』
壁一面にクレヨンの様な物でスミレの花が描かれた部屋で 沙我樹理亜 対 リセム・エベント
それぞれの戦いが始まった。
〇
マーシュに手を引っ張られながら朱奈は館の奥にある大広間に足を踏み入れた。
そこには既に鳴海が椅子に座り朱奈を見ると自分の隣にある椅子へ座る様に促した。
膝の上にはキュウべえが乗っていたが朱奈には見えていなかった。
促されるまま椅子に座った朱奈は、マーシュが座る為の椅子が無い事に気が付いた。
「マーシュ。ちょっと来て」
「なんだよ。嬢ちゃん」
近づいて来たマーシュを持ち上げると朱奈は膝の上にマーシュを乗せた。
「マーシュはここで良いでしょ?」
「なんだよ?ワイはぬいぐるみか?まあ仕方ないな」
ぶっきらぼうに答えながらマーシュは両手を頭の後ろで枕代わりにした。
「ご主人は、キュウべえを膝の上に乗せてるしな。これでお揃いだろ」
「えっ?キュウべえがいるの?」
『ええ。いるわよ。朱奈には見えないだろうけど。これから起こる事を見せてあげる為にワタシが連れて来たのよ』
鳴海が答えながら空中に向かって指を振ると三つの画面が現れた。
そこには、彩月とシーラ。
栗栖とネリー。
樹理亜とリセムが映っていた。
「さっちゃん!?それにスミレさんに、後・・・。あの人は誰なの?」
朱奈は未だに雨津木スミレの肉体を使用している沙我樹理亜を雨津木スミレと認識していた。
『あの3人は朱奈の事をワタシから助けに来ているつもりなのよ。そんな事、許す筈が無いのにね』
「さっちゃん達に何をさせるの!?」
驚いて狼狽した朱奈が鳴海の顔を見ると先程まで不機嫌そうだった表情に笑みが浮かんだ。けれどもその笑みは慈悲から来る笑みでは無く、嗜虐的な笑みを浮かべていた。
『ただのゲームよ。あの3人には、ワタシの部下である《魔人の3人》と戦って貰うわ』
「どうしてそんな事を!?」
『仕方ないじゃない。朱奈の事をワタシから離さない為には、あの3人を殺さなきゃいけないじゃない』
「やめて!さっちゃん達を殺さないで!」
腕を掴んで制止した朱奈を鳴海は振り払うと勢い余って朱奈が膝に乗せていたマーシュは朱奈の膝から落ちてしまった。
「ご主人。乱暴が過ぎるぜ」
マーシュが思わず文句を言うが、鳴海は面倒そうに
『そうね・・・。じゃあなるべく殺さない様に伝えるわ。それなら良いでしょう?死ななければ、生きていればまだワタシの為に役立つのかも知れないんだから』
答えながらも鳴海の視線は空中に現れた画面に向けられていた。
その鳴海の様子を見て、姿形は同じでも綾羽鳴海は、筒地綾女では無いと言う確信を抱かせ始めていた。
〇
「んで?ウチとアンタはどうやって勝負をするんや?」
壁に刻まれた白百合を一瞥して彩月は、目の前にいるカラスの仮面で表情が隠されたシーラに声をかけた。
『簡単な事よぉ。あたくしとあんたで、戦うのよぉ』
言いながらシーラは魔力で薙刀を両手に生成すると、右手で握っていた方を彩月の方に向かって投げて彩月の足下に落下させた。
『拾いなぁ。あんたの武器だぁ。安心しなさいよぉ。強度は同じよぉ』
素手での戦いで無いと分かった彩月は躊躇う事無く薙刀を拾い上げた。薙刀の重量は、教室の掃除で使う箒位の重さに感じられ、彩月にも使う事が出来そうだったが、彩月には武器を使った戦いの経験は無かった。
彩月の頭の中には、《筒地綾女の記憶》が存在していたが、結局の所、遠い日の思い出と大差なく《筒地綾女の戦いの記憶》があったとしても、彩月自身が経験した事では無い為に記憶から得た経験を生かすと言う事が不可能だった。
『鳴海様が言った様にあんたと戦う際に魔力は使わないぃ。と言うよりも使えないから安心しろぉ。鳴海様が調整した、この部屋では、あたくしとあんたの力は同等にされるぅ。だから条件は同じだぁ。それと追加の指示だぁ。なるべく殺すなぁ。つまり死なない程度にいたぶれって事だよねえぇ!』
叫びシーラは、薙刀を構えると切っ先を彩月に向けた。
「やるしかないって事やろ?」
見よう見まねで薙刀を構えた彩月にシーラは、躊躇無く薙刀を振り下ろした。
『どうだぁ!?』
「ちっ!!」
自らに向かって振り下ろされた薙刀を自分の持つ薙刀で受けたが余りの圧に膝を付いてしまった。刀で言う所の鍔迫り合いの様な姿勢のままで両者は硬直する。
「どうすりゃええんやろな・・・」
弱音が口から出てしまった事に彩月は、心の中で苦笑していた。
『どうすりゃ良いぃ?簡単だぁ!さっさと負けりゃ良いんだよぉ!』
弱音に反応したシーラが、答えながら振り下ろした薙刀に力を込めて行く。
好戦的な部分を隠さないシーラと焦る彩月の顔は、かなり近づきお互いの表情が、目一杯に写っていた。好都合だと思ったからこそ彩月は次の手を打つ事にした。
「なあ、アンタ。綾羽鳴海に従ったままでええんか?」
なるべく小さな声で彩月は問いかける。
『どういうつもりぃ?』
意図を察したのか、もしくは反射的に小さな声で答えたシーラの表情に困惑が現れる。
「従ったままでええんか?命令を無視するアンタみたいな自分勝手なヤツは、自由でいたくてしゃあないんやないか?」
喋る事がウチの武器。舌先三寸、口八丁で場の流れを掴んで少しは有利な流れに持ち込む。それが今、彩月に出来うる最善の策と言えた。
『何が言いたいんだぁ?』
「アンタ自由になりたいんやろ?だったらウチらと手を組まへんか?」
『お前ら何かと組んで、鳴海様を倒せると思っているのかぁ?』
「倒せるで。倒せる策が、無いのにこんな所に来ると思うてんのか?」
言葉には魔性がある。意味が理解出来るからこそ惑わす事が出来る。彩月の言葉が持つ魔性にシーラは、知らず知らずの内に取り込まれていた。
『どうすれば良いんだぁ』
小さな声で答える《カラスの仮面》から僅かに見えるシーラの表情に変化が見えた。
「そやなぁ。まずは」
彩月は、それまでよりも小さな声でシーラに耳打ちし、シーラはそれを了承の意味で小さく頷くと瞬間、武器から話した右手で彩月の顔面を殴った。殴られた彩月は、そのまま武器である薙刀を落として倒れ込んだ。
『たかが人間がぁ、あたくしに勝てる訳が無いだろぉ。それにぃあたくしが、お前らと手を組む筈が無いだろぉ』
吐き捨てる様に叫んだシーラに大して、倒れた彩月は何の反応も示さない。
『さあ、これであたくしの勝ちだぁ。鳴海様への手土産になってもらうわぁ』
倒れた彩月を片手で持ち上げると、シーラは彩月が入って来たドアとは、向かい側にあるドアを開いて鳴海の元へ向かった。
〇
部屋に入った瞬間にネリーの姿を認めた栗栖は、直ぐに走ってネリーから離れて距離を取ると手に出現させた箒の穂先をネリーへ向けると、柄にある引き金を引いて鋭く尖った穂先を魔力による爆発力によってネリーへと次々と発射した。
《ウサギの仮面》をしているネリーの表情は隠れていたが、体の動きに動揺が現れる事無くスムーズに手に出現させたロッドを天上に向かって掲げるとロッドの先から全身を包む様に魔力によってコントロールされた電流を流して防御壁とする事で撃たれた穂先を電気で焼き落とした。
栗栖が次の攻撃をする前に、ネリーがロッドの先端を地面に叩き付けると栗栖のいる方向に向かって電撃が向かってきた。栗栖の思考は瞬間的に回避する事よりも防御する事を選んで箒の先端に魔力を集中させ電撃を防いだ。電撃の勢いで栗栖は、少しだけ後方へ押されたが、何とか耐える事に成功していた。
それを見届けたシーラは、自身の前でロッドを軽く振ると雷撃が栗栖とネリーの間を分断した。
『ネリーが挨拶をする前に、攻撃をしてくるのは、礼儀に反する行いでは無いのですか?』
投げかけられた言葉を無視して栗栖は、ネリーに向かって真っ直ぐに跳躍したが、地面を分断する雷撃に阻まれ、とっさに地面を箒で突く事で自身に生じた勢いを押し殺して地面に降り立った。
『ネリーは、鳴海様に使える《魔人》の一人、ネリー・ハーガと申します。この度は、鳴海様の命令で、阿瀬比栗栖さんの事を、痛め付けさせて頂く為に、この部屋でお待ちしておりました。ですので、どうかネリーに痛め付けられて下さいませ。命を奪う事は、禁止されておりますので、生命維持に危機が及ばない範囲で痛め付けるので、どうか安心して痛め付けられて下さいませ。勿論、降参したいと言うのなら多少、身体の自由を損なう程度の拘束するだけに止めます。ですので、出来たら降参いたしてくれませんか?』
長い台詞を語ったネリーの表情は、《ウサギの仮面》に阻まれて見えづらいが、栗栖には口元に笑みが浮かんでいる事から今の台詞は、本気で語っている事だと思えていた。
「自分は、あなたの提案を受け入れるつもりはありません。出口は、あなたの背後にあるドアですね?だから、ネリー・ハーガ。あなたを倒して押し通ります」
『せめて名乗って頂けませんか?最低限の礼儀と言うモノです』
「自分は阿瀬比栗栖と言います。これで良いのでしょう?」
言うと同時に栗栖は動いた。一気に距離を詰める為に跳躍し全身を魔力による防御壁で包むと同時にネリーの放った雷撃の壁を強引に突破すると、手にした箒で突こうとした。
慌てる事無く、手にしたロッドを振ると突いて来た箒の方向を変えてそのまま栗栖にロッドを向けた。想定していた相手の動きに驚く事無く栗栖は左手に持っていた《硫酸の種》(スルホンシード)をネリーへと向け投げた。
異物が投げられた事に気付くと同時にネリーは、全身から魔力を電撃に変換するとそのまま周囲に流した。ネリーの全身から電撃が放たれ《硫酸の種》は、硫酸を流したと同時に電撃によって焼かれて床を少し溶かしただけに止めたと同時に防御する隙を与えずに、栗栖の全身に電撃が走った。
まともに電撃を浴びて全身に痛みを感じて、手にしていた箒を落として倒れ込んだ栗栖の身体に対してネリーは手にしたロッドを躊躇無く振り下ろした。栗栖の肉体に衝撃が走り、痛みを感じた刹那、再度の衝撃と新たな痛みが、身体に走った。何度も何度もネリーは、栗栖の身体をロッドで叩き続けた。一応、生命活動に支障が出ない様にしていたが、端から見れば完全な拷問とも言えた。栗栖の身体には痣が幾つも現れていた。
『降参いたしてくれますか?もう戦う事は出来ませんよね?』
「自分は」
栗栖が答える前に再度、ネリーはロッドで栗栖の顔を殴った。血反吐が飛びネリーの服にも血がこびり付いたが、気にする事無くネリーは、再度問いかけを続けた。
『降参いたしてくれますか?もう戦う事は出来ませんよね?』
栗栖の右手にあるソウルジェムが付けられたグローブが光った瞬間、ネリーは再度栗栖をロッドで殴打した。
『降参いたしてくれますか?もう戦う事は出来ませんよね?』
再度、同じ問いかけをするネリーに対して栗栖が力無い動きで見つめ返したと同時に突然、栗栖の右手が動いた。殴打しようとしたネリーだったが、栗栖の右手が動いたと同時に栗栖が身体ごと浮かび上がるとネリーに向かって勢いよくぶつかって来た。
驚くネリーの視界に栗栖の右手が棒の様な物を掴んでいる事で事態を悟った。
恐らく栗栖は、魔法で棒の様な物を生成すると右手の中に出現させ一気に伸ばす事で自分ごとネリーを吹き飛ばしたのだ。勢い良く二人は壁に激突してしばらく動けなかった。
『ネリーの攻撃から逃れるには、最善の判断でした。それでは、続きを始めましょうか』
いち早く回復したネリーが立ち上がろうとした時、ネリーの左足の太ももに装着されていたグリーフシードに栗栖の右手に装着されていたソウルジェムが触れ合ったと同時に栗栖の使っているソウルジェムから穢れがネリーのグリーフシードへ吸収された
『なっ!?』
突如として頭の中を走った衝撃にネリー驚いてそのまま膝を崩した。
痛みから来る衝撃では無かった。突如として頭の中に流れた情報の奔流によって意思を保つのが困難だった。ネリーは、その場に崩れ落ちて両手で頭を抱えて小刻みに震えていた。そんな相手の様子をお構いなく立ち上がった栗栖は離れた場所に落ちた箒に手を向けると、魔力によって磁石が鉄にくっ付く様に箒を引き寄せると、蹲り小刻みに震えているネリーを箒の穂先で突いた。ネリーは震えるだけで悲鳴を上げ無い。
「綾羽鳴海の弱点は?」
ストレートな栗栖の質問にネリーは震えてうめき声を出すだけで何も答えない。数回、栗栖が無感情に必要な手段と冷静に判断して箒でネリーの身体の急所では無い部分を突いたが、ネリーは何も答える事が出来なかった。ウサギの仮面越しに頭を殴ったが、何の答えを語らない以上、時間を消費出来ないと判断した栗栖は、来た時とは向かい側にあったドアを開いて先に進む事を選んだ。
『ネリー、ネリーは・・・』
ネリーの頭に無数のイメージが流れている。
バラバラなイメージの意味は分からない。
けれどもこのイメージとネリーに深い関わりがある事を無意識に感じ取ったからこそネリーは、イメージから離れる事が出来なかった。
○
「おい。ちびっ子。痛い目に遭いたくなきゃ、さっさとあたしゃに降参してくんねえか?」
『やだー』
《猫の仮面》から除く純真な瞳でリセムは樹里亜に答えた。流石にここまで純真な瞳を向けられた事の無い樹理亜は、少し戸惑っていた。
「何でだよ?降参してくれたら話は速いんだけどな」
『せっかくあそんでもらえるから、あそばなきゃいやです』
リセムにとって樹理亜と遊ぶ事は、既に決定事項の様に振舞っていた。
「面倒だな。どうしろってんだ?」
『リセムと、じゃなくてわたくしめと、あなたはあそんでもらいます』
腕を後ろに組んで大人びたと言う一生懸命のアピールをリセムは行っているつもりだったが、樹理亜には通じておらず呆れていた。
「分かった。倒しゃ先に進めるんだろ!」
同時に樹理亜は片手に握った短刀をリセムに振り下ろした。相手が幼児の姿をしていたから多少の躊躇いが出ていたが、無理やりその感情を抑え込んで強引に振り下ろした。
キョトンとしたリセムは右手を上げると樹理亜の振り下ろした短刀が右手に流れ落ちるとリセムは短刀を掴んで止めてしまった。驚いた樹理亜だったが、直ぐに左手の短刀も振りかざしたが、それもリセムの右手に流れて収まってしまった。
「なっ!?」
『つぎは、なにをするのー?』
両手の武器が流れ落ちる様に動いたのを見て驚愕した樹理亜は、一度武器化の魔力を解いて武器を消すとリセムから距離を取った。冷や汗が出たのを感じ取りながらも、自身が今、感じ取った嫌な予想を振り払った。
(あんな魔法を使えるヤツは、一人しかいない。しかしそんな筈が無い)
一瞬の思案を終え何時でも武器を出現させる構えを取って
「お前・・・。何者なんだ?」
問い掛けてみた。
『もー。リセムと、じゃなくてわたくしめとあそんでくれなきゃいや!』
そう言うと顔を真っ赤にしたリセムは背中に背負っていたハープを胸の前に突き出すと弦に指を引っ掛けた。
『どんがらがっしゃんしゃん。どんがらがっしゃんしゃん』
下手を通り越して破壊的なハープの音が周囲に響き渡り樹理亜も耳を抑えて動く事が出来なかった。癇癪を起こしたリセムは暫くハープを弾いていたが、途中で飽きたのかハープを脇へ投げてしまった。
『つーまんない。ねえあそんでよ』
警戒心の欠片も見せずに、ねだる様にリセムは樹理亜に近づいて来た。
先程から抱いた疑念を確かめる為に樹理亜は地面を再度出現させた短刀で削ると破片をリセムに向かって飛ばした。リセムが右手を前に突き出すと破片は全て流れる様にリセムの右手に収まった。
『おもしろいからもっとやって』
「はぁ!?何言ってんだよ・・・」
脱力しつつも樹理亜は、時間を稼ぐ為に再度、短刀で地面を削って作った破片を削り飛ばした。次々とリセムの右手や左手に収まって行き、溜まると脇に捨てて行った。
『ねえ、もっとおもしろいことしてー』
「もう飽きたのかよ。分かった。少し考える時間をくれ。それ位良いだろ?」
『しょーがないから、わかったよー』
答えながらリセムは、自身の脇に溜まった地面の破片を山にして遊び始めていた。
その様子を見て樹理亜は、先程リセムが見せた能力の正体に思考を集中させていた。
(あれは、どう見ても流転認識と同じ魔法。流転認識は自身に向けられた攻撃を反らす魔法でもあるけど、反らす方向を制御する事が出来ればさっきみたいに飛ばされて来た物体の動きを誘導して掴み取る事が出来る。あの魔法を使える魔法少女は、雨津木スミレしかいない。スミレは死んでいる。じゃあこいつは何なんだ?)
《猫の仮面》に阻まれて素顔を見る事が出来なかったが、背丈からして年齢は8歳ぐらいに樹理亜には思えた。髪型と言いスミレに似ている様に見えてもいた。
「なあ、リセムだったか。お前は雨津木スミレって名前を聞いた事があるか?」
『うつきすみれー?』
樹理亜に言われた言葉を少しだけ考え込む様子を見せたリセムだったが、直ぐに破片いじりを再開しながら答えた。
『わーかんない』
「じゃあ、その魔法、流転認識はどうしたんだ?どうしてその魔法を使えるんだ?」
『んーとね、鳴海さまがくれたよ。リセムには、るてんにんしきがいいていってくれたよ』
リセムの言葉を、そのままの意味で信じるのならリセムに流転認識と言う魔法を与えたのは、綾羽鳴海だと樹理亜にも推測出来た。と言う事は、綾羽鳴海は、死者を生き返らせられるのだろうか?けれど朱奈を助けると決めているし、どうにも死者が生き返ると言うよりも死者が使っていた魔法を再現したと言う様に樹理亜には思えた。現に綾羽鳴海の元となった魔法少女、筒地綾女は
(なんたってあたしゃを、一時的に雨津木スミレにした位だからな)
『ねえー。あそんでー』
樹理亜がリセムの言葉に視線を戻すとリセムの脇には、地面の破片で出来た山が出来ていた。
「しょうがねえな。じゃあ行くぞ」
投げやりに答えた樹理亜は、即興で地面を両手の短刀で削って破片をリセムに飛ばすと時間差をつけて、両手の短刀を合体させると弓の状態にすると魔力を一転集中させた矢を天井に向かって放った。
『うわー。すごい。すごい。すごい。たのしい!!』
天真爛漫な笑顔を浮かべて両手に飛んで来た破片を誘導させたリセムだったが、天井から落ちてくる巨大で無数の破片に気が付いて両手を天井に向けて破片を誘導すると全ての破片を両の手の平に誘導したのだが、
『うわーすごいー』
「確かにすごい量だな」
『そうだよー。すごいよー』
とリセムが答えたと同時にリセムの手から魔力が消えてしまった。
『ふえ!?』
驚くリセムが、両の手の平に集まっていた、巨大な破片を含んだ破片の山が降り注いだ。
あっという間にリセムは、破片の山に飲まれてその姿は見えなくなった。
その様子を冷めた目で見ていた樹理亜だったが、リセムが可哀想にも思えた。
「あーあ。流転認識なんて誰にでも使える訳が無いだろ」
(こんな手に引っかかるか?)
そう思いつつ樹理亜は先へ進む為のドアを開いた。
「恨むなら綾羽鳴海を恨めよ」
自嘲気味に呟いて歩みを進める樹理亜の心は既に先の事へ向けられていた。
『ぱちーん!』
破片の山に埋もれていたリセムだったが、暫くすると直ぐ擬音を口にしながら目を覚ました。自身が岩の破片に埋もれて体が動けない事に直ぐ気が付いた。
リセムは両手に魔力を集中しようとしたが、魔力が枯渇している為に自分の上に乗っている破片を動かす事が出来なかった。
『うーん。うごかないー。もうつかれてねむいー』
大きな欠伸をしたリセムは、直ぐにその場で眠りについてしまった。
疲れて瞼が重くて動く事も億劫になったリセムは、直ぐにその場で眠る事を選んだ。
子供の心でいるリセムは、自分の欲求に忠実に従うのだった。
〇
リセムと樹理亜の戦いの顛末を見届けた綾羽鳴海は天を仰いでいた。
『全く上手くいかないわね』
鳴海が呟くと同時に、その部屋へ繋がる三つのドアの内、一つが開いて樹理亜が入って来た。
「よう。来たぜ」
樹理亜の目の前には、玉座とも言える高い位置の椅子に座る綾羽鳴海。
その右脇の椅子に座る俯いた朱奈とマーシュ。
左脇の椅子には、キュウべえが座っていた。
『ハア。やっぱりワタシが直接、戦わなきゃ行けないみたいね』
そう言うと面倒と言わんばかりの態度で綾羽鳴海は、椅子から立ち上がった。
『あなたの事は、キュウたんから聞いたわ。筒地綾女が行った実験の産物。亡くなった雨津木スミレの身体へ別の魔法少女のソウルジェムを固定した、言わば《魔法少女魂移植体》とでも言えば良いのかしら?沙我樹理亜』
「それが、どうしたんだ?キュウベえがいるのなら、どうせ知ってると思ったよ」
事実は、知っている者にとっては、ただの情報に過ぎない。鳴海にも樹理亜にも、心を動じさせる事実では無かった。ただの事実確認。
けれど事実は、知らない者には、その心に大きな衝撃を与える事もある。
(スミレさんじゃない・・・)
朱奈は、その時初めて目の前にいる沙我樹理亜が、雨津木スミレでは無い事を知ってしまった。だからこそ沈黙していた。何かを告げる事が恐ろしくて言葉を発しなかった。
そして見下しの感情を隠さない鳴海に樹理亜は嫌悪をしか感じなかった。前の筒地綾女ですら、そんな感情を見せなかった。樹理亜が雨津木スミレになりたいと言った時、出来るのか分からないが、協力をしてくれた筒地綾女は、そんな感情を見せないし同情や共感を見せていた。だから筒地綾女を樹理亜は信じる事が出来た。
「あんたは、やっぱり筒地綾女じゃねえな。あたしゃが見ても外見は、似ていても中身が違う。筒地綾女は、もっと人間だった。人間らしい魂を見せてたぜ」
『それが何?』
「その胸に付いてるグリーフシードが、全て表してるじゃねえか。あんたは所詮、《魔女》に過ぎねえよ。《魔人》だか何だか知らねえが、あたしゃには、あんたは決して筒地綾女じゃない敵だって言い切れるぜ」
言い切った樹理亜が両手の短刀を構えると鳴海も手から《白い雲の様な蛇》=クラウドスネークを出現させると鞭の様に構えた。
その時、新たな扉を蹴飛ばし開く音がしてカラスの仮面を付けた着物の様なドレスを着たシーラが入って来た。その肩には、動かない彩月が抱えられていた。それを見ても朱奈は小さく悲鳴を上げていた。椅子を立とうとするとマーシュが、「今はやめとけ」と言って朱奈を止めた。
『なあにいぃ。もう始まってるのぉ?あたくしも混ぜなさいよぉ』
そう言うとシーラは、持って来た彩月をその場に乱暴に落とすと顔に付けていた《カラスの仮面》を外して投げ付けた。投げた仮面はキュウべえのいる席の近くに落ちた。
『どういうつもりシーラ。あなたの様子はリセムが間抜けな行動を取ったせいで良く観察する事が出来なかったけど、その仮面を許可なく外すと言う事がワタシの命令に反している事に気付いているの?』
『知ってるさぁ。仮面を外したって事はぁ、アンタに反逆するって事さぁ!』
叫ぶと同時にシーラは、鳴海に向かって跳躍と同時に、手に薙刀を出現させると同時に切り付けたが、鳴海は慌てる事無く右手から出現させたクラウドスネーク《蛇の様な雲》で薙刀を弾くと、シーラは後方に回転しながら下がると地面に降り立った。
『今なら許してあげない事も無いわよ。本気でワタシに勝てると思っているの?』
怒りと殺意を本気でシーラに向けた鳴海の様子に偽りは無かった。
『許すと言ってぇ、許す様な奴じゃあないでしょうぅ!』
本気の殺意を向ける鳴海に対してシーラは臆する事無く叫んだ。
『シーラ・ユー・ルインがぁ、白百合のごとき清らかなあ殺意を持ってぇ、あんたを殺してぇ、自由にならせて貰うぅ!』
啖呵を切ったシーラに鳴海は、少し呆れた表情を見せていた。
「成程。裏切って内部崩壊してくれると言う事なら都合が良いですね。綾羽鳴海を倒そうとしている自分としては」
言いながら扉を開いて現れたのは、全身傷だらけで制服もボロボロで武器である箒を構えた栗栖だった。
「シーラさん。自分達と手を組んでくれるなら綾羽鳴海への止めは、なるべく譲るし、朱奈さんさえ助けられれば、後の事はどうだって構いません」
先程行われたシーラの宣言を踏まえたとも取れる栗栖の発言にシーラは、口元を大きく上に歪ませ大笑いした。
『ハハハハッハハハハッハァ。良いだろ。手を組んでやるよぉ。勝つ確率はぁ高い方が良いからなぁ!』
「まあ、あたしゃも乗らせて貰うか」
シーラの宣言を聞いて樹理亜も短刀を合体させて弓を撃つ姿勢を取った。
けれども樹理亜も栗栖も一つ気が付いた事が会った。
ハッキリとは思い出せないが、シーラ・ユー・ルインとは、どこかで会った事がある気がすると素顔を見た二人は感じていた。
『そう。これでハッキリしたわね。ワタシ以外に《魔人》はいらない。あなた達は、全員生かしてここから返さないわ』
本気の殺意を見せた鳴海は、両手からクラウドスネークを繰り出し威圧する様に立ち上がった。
朱奈はその様子を見て恐怖から知らず知らずの内に涙が流れていた。
「おい嬢ちゃん。泣いたって何も変わんねえんだ。だから見届けろよ。見て覚えている事だって弔いにはなるだろ」
マーシュは朱奈にそう語ると朱奈の顔を鳴海達の方へ向けた。
抵抗出来ない朱奈だったが、涙に視界が見えづらくても鳴海とシーラ、栗栖、樹理亜が対峙している事だけは見えていた。
「どうして戦うの・・・」
その時、朱奈の視界に入った倒れている筈の彩月の口元に笑みが浮かんだ様に見えた。
「さっちゃん・・・?」
彩月が浮かべた笑みに朱奈は何か意味を感じ取ったが、自分でもそれが何なのか分からなかった。
その頃、頭を抱えたまま視線も右往左往していた、ひび割れたウサギの仮面に隠されたネリーの視線が落ち着きを取り戻して一つの方向に定まった。つまり先程まで正気を失っていたネリーの意思が戻った証とも言えた。
『ネリーは、いいえ。そう。敵は、分かっている。だから、こそ、行かなければ』
起き上がったネリーは、迷う事無く鳴海達のいる場所へのドアへ向かう。
関わりを持つ全ての人物が一つの場所へ集結する。これは、一つの共時性、シンクロニシティと言える。
起こった出来事を終わりへと帰結する為の流れは、もう何であれ止める事は出来ない。