偽書魔法少女じゅりあ×くりす☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI JURIA×KURISU MGICA   作:ジャックノルテ

16 / 19
今回はかなり長い上に分割は無理でした。
文章が長い事はご了承ください


第12話 綾羽鳴海で良い

 

(どうやら僕にも予想出来ない事態になって来たね。どの道、《ワルプルギスの夜》が見滝原に迫って来ている影響で各地の《魔女》の動きが活発になっている以上、不確定要素の強い《魔人》の事は早急に決着を付けた方が僕には都合が良いからね)

(ほおー。そう考えてんのか。けどよ、こうなっちまった以上、予想通りに事は進まないだろ?)

 キュウべえが思考したと同時にマーシュがテレパシーで声を掛けて来た。どうやらキュウべえをベースに作られたマーシュには、キュウべえの思考が読めるらしい。

(ふむ。君がそこまで饒舌だとは思わなかったよ。それならマーシュ。君の見解を聞かせてくれるかい?自分とは異なる同類と会話するチャンスは中々得られないからね)

(そうだな。今のままじゃアイツらはご主人に勝てないだろ。けどな、ワイもアイツらの持っている全ての手段を知らない。もしかしたら何か隠し玉を持ってるんじゃねえか?切り札もねえのに殴り込む訳ねえだろ)

(そうだね。僕にも教えてくれなかったけど何か作戦があるのは確かだろう。作戦無しでこの結界に突入はしていたけど、作戦を練る時間はあったからね)

(そうだろ。そうだろ。それに戦いってのは、何が起こるのか分からねえもんだろ?)

(それもそうだね。じゃあ見届けさせて貰うよ。《魔人》が生き延びるのかどうかをね)

 マーシュとキュウべえのテレパシーの会話が終わるのと同時に戦いは幕を開けた。

 

 

 

 

 背中から威圧的に蝶の羽を揺らめかす鳴海が中指を親指でこすって鳴らすと同時に玉座やテーブルは消滅するとその場には朱奈とマーシュの座る椅子、キュウべえの座る椅子だけが残り床は段差を無くして平らに変化した。

『戦いやすくしてあげたわ。さあ、誰から来るのかしら?』

『あたくしに決まっているでしょうぅ!』

 挑発する鳴海の言動を見て初めに先陣を切ったのはシーラだった。真っすぐに再度、鳴海に斬りかかろうと歩を踏み入れようとした時、鳴海の右手から生えたクラウドスネークが地面を割って足の踏み込みを妨害してバランスを崩しかけたシーラは、その場に止められてしまう。横目でそれを見ていた樹理亜はすかさず、二つの短刀を合体させた弓を引いて3本の矢を一度に放った。栗栖もならい、武器である箒の穂先を柄にある引き金を引く事で一発、一発丁寧に単発で撃っていた。

 慌てる事無く鳴海は左手のクラウドスネークを高速回転させると盾にすると、飛来する矢と穂先の攻撃を防いだ。

『マーシュ!モードチェンジよ』

 防御をしながら鳴海が叫んだ声を聴いたマーシュは突然、朱奈の膝の上から降りると後ろへ回ると

「相分かったよ。ご主人。嬢ちゃん。少し我慢しな」

「え?」

 困惑する朱奈が後ろを振り向こうとした時、大きな口を開けたマーシュが空気を一気に吸い込むと風船の様に膨らんだと同時に、その大きな口から伸びた舌で朱奈を拘束すると全身を丸飲みしてしまった。

「何!?」

「朱奈さん?」

 驚く樹理亜と状況を確認した栗栖の視線が逸れたのを見ても視線をそらさないシーラは、先程削られた地面から生じた破片を鳴海に向かって蹴飛ばした。無論、破片は鳴海の左手で回転させたクラウドスネークに阻まれる。だが阻む防御の動きが、一瞬の衝撃によって動きを鈍らす。そのスキを見逃さないシーラは一気に距離を詰めると鳴海の右腕から生えるクラウドスネークの伸びきった部分を切り飛ばした。

『やってくれるわね』

 そう言いながらも慣れない魔法を使い苦笑する鳴海から余裕は消えない。苛立ちながらもシーラは鳴海の右手から伸びていた残ったクラウドスネークに持っていた薙刀を突き刺し地面に固定した。これで鳴海は動けないと読んでシーラは直ぐに次の行動を移る。

『動けないだろぉ!?』

 叫び手に新たな薙刀を出現させたシーラは、鳴海の左手にある高速回転しているクラウドスネークに斬りかかろうと薙刀を力一杯に振り下ろすと見せかけ一瞬にして薙刀の切っ先をクラウドスネークが回転する方向に合わせて倍の速度で薙刀ごと回転させクラウドスネークを切り飛ばした。

『お終いぃだろぉ!』

 そのままの勢いで鳴海本人を斬りかかろうとしたシーラに対して苛立ちを隠せない鳴海はクラウドスネークの使用を解除すると怒りのままに素手でシーラの薙刀を掴んだ。左手から流血したが、構う事無くシーラの顔面に右の拳を叩き入れた!

『強度の低い武器に頼り過ぎよ』

 顔面を殴られ吹き飛ぶシーラ。殴った鳴海の背中には、威嚇する様に蝶の羽が出現し始めていた。この間、僅か1分にも満たない。

 その頃、朱奈を丸ごと飲み込んだマーシュだったが、暫く咀嚼すると口から朱奈の顔が現れたと同時に膨らんでいた体が縮むと人型へ変化した。

 その姿は、マーシュの着ぐるみを着た朱奈とも言える姿だった。

「えっ!?どうなっているの?」

「嬢ちゃん守る鎧にワイが変化したんだよ。この方が何かと都合が良いからな」

 そう言ってマーシュを着込んだ朱奈は手から爪を伸ばして構えた。

「やめてマーシュ!?」

「ちょっとは我慢しろって、言っただろ」

 どうやら体の主導権は、マーシュにあり朱奈は人質に取られたとも言えた。

 攻めあぐねる樹理亜の様子を見てマーシュは、鳴海の元へ歩を向けようとした時、躊躇う事無く栗栖はマーシュに箒を振り下ろすが、マーシュの爪に阻まれる。栗栖の魔力で強化された振り下ろした一撃を受け止めたマーシュの腕は固い。

「容赦ねえな。人質がどうなっても良いのかよ?」

「全身を包んでいるのなら、朱奈さんになるべくダメージは負わせない様にしているのでしょう?剥がせる位、攻撃して助ければ良い事です」

 栗栖が再度の攻撃を仕掛けようとした時、起き上がったシーラが一気に駆け出すと、栗栖を盾にマーシュの死角から近付き背後から首筋に薙刀を押し当てた。

『鳴海様ぁ。これならどうなのぉ?あたくしは、別にこいつがどうなったって構わないのよぉ。人質助けたかったら、分かってるわよねぇ?』

「チッ。まあシーラならそうするよな」

「うぅ・・・」

『黙れよぉ!マーシュゥゥゥ!』

 呆れたマーシュと恐怖に震えている朱奈。怒りと憎しみを鳴海に向けるシーラ。

 栗栖はそれを見て鳴海に向き直り、樹理亜はどうするか迷って首を左右させていた。

『それで出し抜いたつもりなの?』

 鳴海は心底呆れたと言う表情を見せていた。

『もう一度聞くわ。シーラ。そんなやり方でワタシが言う事を聞くと思っているの?』

 怒気を含んだ鳴海は言い終わると同時に左手に無数の魔力で構成された巨大な針、魔針を出現させるとシーラに向かって5本一気に投げ付けた!

 驚くシーラだったが慌てる事無くマーシュと朱奈を盾にして防ぐ体制に入った。

 マーシュも口を閉じて朱奈の顔を隠して防御の体制に入ると同時に魔針がぶつかり、余りの衝撃にシーラはマーシュから手を放してしまいその場に倒れた。マーシュにぶつかった魔針は、ぶつかった衝撃で周囲に向かって来たので栗栖と樹理亜は自らに向かった分だけを迎撃した。飛んで行った魔針の一つは、倒れたままでいる彩月の足元を掠めたが、当たる事は無かった。

「ご主人。痛いじゃねーか。ワイだって痛みを感じんだぞ。手加減しろよ」

『別に良いじゃない。中身の朱奈も無事だし何の問題も無いでしょ?』

「まあな」

 マーシュが口を開くと朱奈の顔が出て来たが目を瞑り泣いている様子だった。目を開いても鳴海からは、直ぐに目を反らした。

『ほら無事じゃない。だから何の問題も無いわ。流石、朱奈の為に作った鎧よ。シュナアーマータイプインキュベーター。だから貴方は、略してマーシュなのよ』

「成程。略称ってヤツか。まあジュウイチべえよりマシだな」

『そうでしょう。さて・・・』

 マーシュとの僅かな会話を終えて向き直った鳴海の手に再び魔針が出現する。

『もう良いかしら?あなた達に付き合うのは、終わりにさせて貰うわ』

 投擲の構えを見せた鳴海に、樹理亜も栗栖、シーラも迎撃が間に合わないと判断して防御の構えを取っていた。

 

 

 

『その様な些末な事で鳴海様の手を煩わせるには及びません』

 

 

 

 突然、響き渡る全員の聞き覚えのある声。

 栗栖が通って来たドアを開いて現れたのは、壊れたウサギの仮面を付けたままのボロボロな修道女を思わせる服装のネリー・ハーガだった。

『あらネリー。あなた、まだ戦えるのかしら?随分とダメージを負った様だけど』

『はい。確かに全身に無数の怪我を負いましたが、戦うのに支障はありません。先程、気を失った様ですが、もう大丈夫です。ネリーがこの場にいる3人の命を失わせて鳴海様に献上したいと存じます。それをもってネリーの偽りの無い忠誠を証明したいと存じます』

 頭を下げたままネリーは、器用に鳴海へと近付き、行動の許しを得ようとしていた。

 鳴海が武器を向けたままであった為に樹理亜達は、何の行動も起こせなかった。

『何が望みなのかしら?』

『鳴海様は先程、ワタシ以外の《魔人》は、全ていらないと申されました。ネリーは、死にたくありません。ネリー・ハーガのままでいたいのです。その為に必要な仕事は分かっています。ですからどうか《ネリーだけは》生かして下さい。ここにいる3人の侵入者と裏切り者シーラの生命活動を停止させて、証拠品である死体を献上する事でネリーだけは、助けてほしいのです。今回の出来事が解決したらネリーを、何時でも即死出来る様にして貰って構いません。どの様な形であれ、ネリーは生きていたいのです』

 長いネリーの言葉を聞いて鳴海は直ぐに返事しなかった。返事はしないが手にした武器の構えは解かなかった。

『ネリー。今の言葉は本気なの?ワタシに生殺与奪権を与えるから生かして欲しいって。それって今と変わらないじゃない?ワタシが断ったらどうするつもりなの?』

『ネリーは、その事を・・・。考えもしませんでした。その場合は諦めて行動を停止すると言う事で良いのでは無いでしょうか?』

 まるで他人事の様に自分の生殺与奪権について語るネリーに鳴海を含めた周囲の全員が引いていた。

(本当に信頼出来るのかしら?けどまあ、そこまで言うのなら戦って貰うのも悪く無いわね。どうせワタシの優位は崩れないのだし)

 そう思った鳴海は直ぐに言葉で思った事をそのまま表現した。

『良いわ。ネリー。貴女だけは生かしてあげるわ。その代わりそこにいる4人を殺しなさい。見事殺せたら貴女を生かしてあげるわ』

『分かりました。では戦いの前にネリーから一つだけ提案が』

『何かしら?』

『仮面を外してもよろしいですか?壊れて視界が少し見えにくいので』

『良いわ。外したら直ぐに4人を始末しなさい』

『ネリーは承りました』

 答えたネリーは、その場に跪くと付けていたウサギの仮面を外すと鳴海の足元に丁寧な動作で置き頭を下げた。一礼すると直ぐに立ち上がり右手にロッドを魔法で出現させ樹理亜達に向き直った。この時、初めて樹理亜はネリーの素顔を見たが、どこかで見た様な気がしていたが思い出せなかった。同じ事を栗栖も思っていたが、特に重要とも思わなかったので直ぐにその情報を頭の隅に追いやった

『さあ、ネリーの為に生殺与奪をさせて貰います』

 手にしたロッドから電撃を放ちながら樹理亜達3人に向き直ったネリーに3人も武器を構えていた。その様子を見ていた鳴海も意識を樹理亜達3人に向けていた。

(今や!)

 心の中でそう叫んだ彩月は、そっと目を開くと視線だけを動かしてシーラの外したカラスの仮面の位置を再度確認した。見つけるとそっとその方向へ起き上がると一気に走り出した。

「!?」

『!?』

虚を突いた彩月の行動に全員が驚いていた。鳴海を裏切ったシーラに落とされた時からずっとカラスの仮面の位置を確認していたからこそ直ぐにその位置は分かっていた。

「キュウべえ!いるんやろ!ウチに姿を見せい!筒地綾女と同じ条件で契約しいやぁ!」

 叫んだ彩月にいち早く反応したマーシュは、直ぐにキュウべえと彩月の間に割り込んで指から伸ばした鋭い爪で威嚇して動きを制した。

「おっとお。そうはさせねえぜ。紫の嬢ちゃんよ。まあと言っても契約なんて無理だろ?だってキュウべえの姿、見えてねえんだから」

「チッ。読まれてたんか」

 マーシュに制され足を止めた彩月は予想外と言う表情を見せていたが、朱奈には。完全に余裕を失った訳では無い笑みを見せている様に見えていた。

『それで?どうして見えないのにキュウべえの居場所が分かったのかしら?ああ。シーラの仮面。これが落ちた場所にキュウべえがいるって取り決めたのね』

「ばれたんじゃあしょうがないんやな。その通りやで」

 鳴海の洞察で狙いが見透かされた様子の彩月だったが、朱奈には彩月が物事を楽しんでいる時にだけ見せる笑みを薄くだが浮かべている様に見えていた。

「さっちゃん・・・?」

 朱奈が小さく誰にも聞こえない様にポツリと言葉を漏らしたその時、鳴海の注意が彩月とマーシュに向けられていた。樹理亜達3人に向き直っていたネリーは、その瞬間に鳴海へと向き直ると鳴海の胸にあるグリーフシードにロッドを当てたと同時に魔力から生じる電撃が周囲に迸った。

『なにを!?』

『ネリーの、璃阿の干渉はここが限界・・・』

 苦し気な表情を見せた鳴海にネリーを払いのけられ距離を取って樹理亜達と並び立つ形となった。

 その瞬間に鳴海の背中から生えていた蝶の羽が薄っすらと消えてしまった。

『どういうつもり!?ネリー!』

 本気の怒声を上げた鳴海は怒りに顔を歪ませていた。その表情は既に筒地綾女の様に振舞うと言う行動からは完全にかけ離れていたが、鳴海本人はその事に気が付く余裕すら既に無くなっていた。

『違う!ネリーは。ネリー・・・は。瑞光!瑞光璃阿!魔法少女隊グロリオーサを率いる指揮官!』

「!?」

『!?』

 不意を付いたネリーの反逆に全員が驚いていたが、樹理亜は瑞光璃阿の名前を聞いて思い出していた。

 魔法少女隊グロリオーサを率いる指揮官瑞光璃阿。

 かつて樹理亜は瑞光璃阿と出会っていた。しかし璃阿が死亡したと言う事もキュウべえや筒地綾女から聞いていた。

 栗栖は自分が使うソウルジェムが瑞光璃阿本人の物だと知っていたが特に何も感じなかった。しかし栗栖本人は覚えていないが彼女は瑞光璃阿と確かに出会っていた。

 その出会った縁が巡り合わせたのか、瑞光璃阿のソウルジェムを阿瀬比栗栖が受け取り半魔法少女として戦いに用いていた。栗栖はこのソウルジェムが瑞光璃阿の物だと知り筒地綾女から聞いた知識を元に使い戦い続けていたが、何も思う事は無く道具の一つとしか思わなかった。

『ネリー・・・。どうしてその名前を知っているの・・・?貴女にその名前を教えた覚えは無いのだけれど・・・?』

 苦し気な様子を見せ名ながら問い掛けをする鳴海に対してネリーは、否、理亜は脇にいる栗栖の方へ視線を移していた。

『彼女の持っでるソウルジェムがあ、璃阿のを足にあるソウルジェムに触れた時、全てを思い出しただあ。璃阿わあ、かって筒地綾女によって《ワルプルギスの夜》と、戦っだあ際に筒地綾女によっで長い眠りに付かされた様だす。そん後の経緯は分りませんがあ、どうやら眠っている間に、綾羽鳴海。貴女さんによってネリー・ハーガと言う偽りの人格を与えられてえ、洗脳されていた様だすなあ。そこにいる彼女は、恐らく筒地綾女の縁者でしゃろう。彼女のを魔法があ、何らかの作用を及ぼしたんじゃから、璃阿あは元に戻れたのでっしゃろう』

 璃阿の言葉遣いが急に変化した事に皆、驚いたが状況が切羽詰まっている為に誰も突っ込まなかった。

『ですから璃阿は、シーラ。貴女達の味方になる事を宣言します』

 璃阿は咳払いをして武器であるロッドを鳴海に向けて反逆の意思を明確にしていた。

 その様子を見て鳴海は大きなため息を付いた。

『ハア。ワタシの味方はマーシュ以外いないと言う事ね』

「ああ。その見たいだな。まあワイは、ご主人の味方でいるぜ。それ以外に生きる道が無いんだからな」

『マーシュはそうよね。さて、シーラ・Y・ルイン。ネリー・ハーガ。この場にはいないリセム・エベント。貴女達3人には、手っ取り早く自立した戦力になってもらう為とは言え、既存の魔法少女の精神構造を模倣したのが間違いだった訳ね』

『どういう事ぉ?』

 突然告げられた事実に、シーラが疑問を抱いたのに対して璃阿は何も反応しなかった。

『簡単な事よ。貴女達3人の《魔人》は、この結界で捕らえた3人の魔法少女を元に《魔人》へと作り替えた存在よ。でもその精神はどうなのかしら?《魔人》へと作り替える過程で肉体の変化は簡単に行えても、0から精神を作り出すなんて時間が掛かってしょうがないじゃない。だったらワタシが持っている精神データを元に精神をインストールすれば、簡単に自立した思考を植え付けられるじゃない。シーラ。貴女は、伊良草優里と言う狂人の魔法少女を元にしたわ。かつてのワタシ、筒地綾女に戦いを挑んで来て返り討ちにした狂人のね』

『何だとぉ。あたくしが狂人だとぉ・・・。それにぃ死人が元だとぉ・・・』

 驚きの余り行動を起こせないシーラを尻目に鳴海の話は続いた。

『貴女もよ。ネリー。貴女は瑞光璃阿の精神を元に作ったわ。どうやらそこにいる阿瀬比栗栖の持っているソウルジェムこそ瑞光璃阿のオリジナルのソウルジェムでしょう?だから貴女は、ネリーから瑞光璃阿に何らかの要因で精神を上書きされたのね』

『いいえ。璃阿は。璃阿です。璃阿は貴女に洗脳されていた。そんな虚言を言って懐柔されるとお思いですか?この足に付いているソウルジェムこそが、璃阿が璃阿である証です』

 鳴海の言葉に璃阿は揺らがない。最も璃阿の足に付いているのは実際にはグリーフシードである。どうやら璃阿は自分の足に付いているのがグリーフシードだと認識していない様子でもあった。ネリー・ハーガの意識が瑞光璃阿の意思に上書きされる等、鳴海も想定し得ない状況でもあった。だからこそどんな精神の不具合が出ても仕方ないとも言えた。

「なら戦う前に一つ聞かせろ?なんであのリセムとか言うガキが、あたしゃの友達の魔法を使えるんだ?流転認識。あれは、誰にだって使える魔法じゃ無いだろ?」

『ああ。その事?簡単よ。リセムは、雨津木スミレと言う魔法少女の能力だけを元に作り上げた《魔人》だからよ』

 それから綾羽鳴海が語った事は概ね樹理亜の予想通りだった。

 リセム・エベントは、この結界に侵入した魔法少女を元に綾羽鳴海が《魔人》として改良した存在だった。魔法に関しては、雨津木スミレの使う魔法、流転認識をダウングレードし使い易いモノにする事で《両手でしか使えない》、《鳴海の作った部屋でしか使えない》と言う2つの条件付きで与える事が出来ていた。

 精神面に関しては、マーシュを通してキュウベえからハッキングしたデータを使っても雨津木スミレの精神を、そのまま再現する事は、雨津木スミレを理解していると言えない綾羽鳴海には、とても再現する事が出来なかった。

『それに、そのままの雨津木スミレを再現した所でワタシに従うとも思えなかった。だから子供にしたのよ。精神が幼稚なら扱いやすいと思ったのに・・・。期待外れだったわね。魔法はあっても生かす知能が無かったわね。知能を与えなかったのは確かだけど、所詮はレベルの低い実験台に過ぎないと言う事ね』

「ふざけんな!」

 落胆しミスを認め蔑んだ鳴海の言葉に樹理亜は怒りを隠さず構えた短刀を合体させた弓から1本の矢を放った。反射手に手を翳した鳴海は魔力による防御壁を作ろうとした。しかし魔力による防御壁は形成されなかった。

『なっ!?』

 驚いた鳴海の身体を樹理亜の魔力がチャージされた矢が貫き、鳴海はようやく異常に気が付いた。魔力は確かに体に流れているが、体の外に魔力を出して使おうとすると魔力が固形化する事が出来ず、鳴海の周囲を浮き漂うだけになっていると言う事を。

分かりやすくするのなら、魔力を水と考えれば良い。

水を凍結して氷にする事が魔力を魔法や武器として形を与えて使う事ならば、今の鳴海は魔力を凍らせるつもりが、霧状にしてしまう事しか出来ないと言う事だった。

一瞬でそこまで思案した鳴海は原因が先程、ネリーこと璃阿がグリーフシードに触れた事だと直ぐに気が付いた。

『成程。ネリー。いいえ。璃阿。ワタシのグリーフシードに魔力を固定化出来ない様に干渉したのね』

 呼び方を改めたのは、鳴海の決断を表していた。敵を敵として見るという。

『そうだす。璃阿は先程、鳴海さんのグリーフシードに干渉じてその様にじましただ。短時間しか持たねえですだが、今なら勝機があるんじゃあ!』

 再び訛りが混じった言葉を言いながら璃阿はロッドを手に鳴海へと向かおうとする。

 鳴海も身体を貫いた矢を力任せに引き抜き、マーシュも爪を構えて戦う構えを見せた。

 ロッドから電流を飛ばしながら璃阿が鳴海に向かって先陣を走った。

『まあぁ、確かにぃチャンスよねぇ!』

「まあ、あたしゃも付き合ってやるか」

 それに続きシーラも樹理亜も鳴海へと向かった。

「おいおい。敵が多くねえか?ワイは何人相手にすれば良いんだよ?」

「自分が相手をして貴方を抑えます」

 彩月の目の前にいるマーシュが鳴海の方へ動こうとした時、迷う事無く向かって来た栗栖が箒を振り落としマーシュが鳴海の方へ向かえない様にけん制した。

「ちょっとは手加減しろよ。こっちには人質もいるんだぞ?」

「助ける為に多少傷が付くのは致し方ありません。それに中にいる朱奈さんには、影響が無いのでしょう?彩月さん。行って下さい」

「助かったで。じゃあウチは行かせて貰うで」

 栗栖に促され駆け出す彩月が向かう先は鳴海と璃阿、シーラ、樹理亜の3人が、今まさに戦っているその場所だった。危険極まりない場所へ歩む彩月の足は止まらない。

 その間にも鳴海に対してロッドから電撃を放つ璃阿。

 そして薙刀で斬りかかるシーラと二振りの短刀で接近戦へと切り替えた樹理亜。

 一度に二人の魔人と魔法少女を相手にする事になった鳴海だったが、慌てる事無く対処を行えた。まず自身の魔力を璃阿の電撃に放った。霧状の魔力だった璃阿の放った電撃の向かう方向をあらぬ方へ変化させた。

 どうやら皮肉にも璃阿が、鳴海に引き起こした干渉は魔力を固定化出来ない為に霧状となっていたが、璃阿の起こした電撃を防ぐ役回りを果たしていた。

『意外な効果』

『油断するのぉお!』

 苦笑し呟く鳴海へ叫びながらシーラが薙刀を振り下ろすが、慌てる事無く鳴海は徒手空拳での対処を選択していていた。身体の外へ出す魔力は固定出来ないが、体内の魔力を操作する事は十分に可能。それなら魔法少女にとっての基礎的な戦術。魔力による身体強化を行うだけだった。魔力を込めた拳でシーラの薙刀を殴り破壊する!

『壊したぁ!?ならぁあああ!!』

 振り下ろした薙刀が壊れ叫ぶシーラは直ぐに壊れた薙刀を捨てると掲げた右手から新たな薙刀を形成して再度振り下ろそうとするが、その隙を鳴海も樹理亜も見逃さない。

 シーラを殴ろうとする鳴海に樹理亜が斬りかかろうとした時、

『返すわよ』

「痛、だと!?」

 鳴海の呟きと同時に樹理亜の右肩に痛みを感じた。右肩を見ると先程、樹理亜が撃った矢が自分の右肩に刺さっていた。つまり鳴海が投げ返して来たのだった。本来なら自身の魔力で形成した矢なら魔力を解除する事でダメージを受ける事は回避出来た。しかし霧状に変化していた鳴海の魔力がこびり付いていた為にダメージを受ける羽目となった。

 樹理亜の事を確認する事無く鳴海はシーラに改めて拳を叩き込むと動きは止まった。

 殴られたシーラと矢で貫かれた樹理亜が動けないのを尻目に鳴海は足に力を込めて跳躍して一気に距離を詰めると璃阿を蹴り飛ばした。咄嗟にロッドで防御した璃阿だったが、ロッドは真っ二つに折れて蹴りは胸に強打して地面に叩き付けられた。

「なんやこれ・・・」

 余りに一方的な戦闘に彩月は驚いて足を止めてしまった。

『後は貴女かしら?』

 鳴海の殺意が彩月に向けられたと、本人が認識したと同時に鳴海の右手が彩月の喉を掴んでいた。

「う!?」

『動きが見えなかったでしょう?当然よ。ワタシは《魔人》よ。《魔法少女》でも無い普通の人間が勝てる訳無いでしょう』

 鳴海が彩月の喉を握り潰そうと力を強めようとした時、突如として鳴海の右手から予兆無く力が抜けてだらんと垂れてしまった。

『なっ!?』

 予期せぬ出来事に驚いた鳴海だったが、彩月への驚きを直ぐに対処すべき事態ととらえると動く左手で彩月を掴もうとした時、左手も彩月に触れようとしただけで動きが止まるとぶら下がってしまった。

『貴女、何をしたの!』

「生憎、ウチは何もしてないで」

 起こった出来事に鳴海も彩月も驚いていた。

 両者は知り得ない事だったが、鳴海に取り込まれた《魔女》から《魔人》へと、起こり得ない進化を引き起こした《虹色の鎖》。その効果は、取り込んだモノの因果を変化させる事。かみ砕いて語るなら因果を変化させると言う事は、歴史上において起こり得ない出来事や選択を引き起こして世界の分岐分裂、並行世界の増殖を行っていると言う事でもある。

別の世界で引き起こされた魔法少女同士による、ある戦いの果てに時空間を超えてばらまかれた《無数の因果の鎖》の一つであり最も強力な因果を持つ《虹色の鎖》の創生には、別の世界の魔法少女、アイリス・アザレアが関わっていた。彼女は戦いの果てに《因果の鎖》を大量に時空間へばらまくと言う暴挙を働いていた。

つまり結論として、この世界とは別の世界の菖蒲彩月の因果がアイリス・アザレアによって《虹色の鎖》が生成された際に、取り込まれていたが故に、綾羽鳴海に取り込まれた《虹色の鎖》は、菖蒲彩月に共鳴反応を起こしてしまったのだ。

「貰った!」

 その時、起き上がった樹理亜が短刀を突き出しながら鳴海へ突っ込んで来た。

 咄嗟の反応が遅れた鳴海だったが、上半身を仰け反る事で樹理亜の突撃を交わした。

「予想はしてみるもんだな」

 すれ違う瞬間に樹理亜の呟きを鳴海が認識したと同時に右手に強烈な痛みが走り反射的に痛覚遮断を行い右手の痛みが走った方向に視線を向けると、右手の肘から先が斬られていた。樹理亜はすれ違いざまに鳴海が避ける方向を予想した上で斬りかかっていた。

『・・・!?』

 自らより劣っていると思っていた樹理亜からの攻撃で腕を切り落とされた事に鳴海は怒りを抑えなかった。否。抑え切る事が出来なかった。

『よくもワタシの腕を!!』

 残った左腕で武器を構えた樹理亜を殴ろうと大振りな姿勢から攻撃に移ろうとした鳴海の足に何時の間にか這いつくばって来た璃阿が組み付く。

『璃阿!?何をする気!?』

『時間が無いので直接、璃阿の電撃を差し上げます。鳴海様』

 璃阿が答えたと同時に鳴海の全身に今まで感じた事の無い電撃が身体を走る。

 例え体の痛覚を遮断していても、魂その物を揺らす効果を持った電撃には、鳴海も苦しみを感じていた。

『無様ですねえぇ。鳴海様ぁあああ』

 叫び笑いシーラも駆けつけ薙刀を鳴海の左腕に突き刺した。

『シーラ・・・!!』

 怒りと悔しさ、憎しみを織り交ぜた鳴海の表情に笑みを浮かべるシーラを見て、彩月は今がその時だと感じ取った。

 駆け出す足は、確実に一歩を歩む。その歩は走っているにも関わらずスローに感じてしまうのは緊張の為だろうか?

 それでも彩月は歩を進め遂に鳴海の前に辿り着きポケットから取り出した《赤と青の種》の鋭利な先端を鳴海の胸に突き立てた。

 この結界に入る前に栗栖から彩月に託された2つの切り札の一つだった。

「これでどうや!?」

 その瞬間に《赤と青の種》に仕込まれた魔法が発動する。発動した魔法が発する魔力の尋常では無い波長に慌ててシーラ、璃阿は鳴海から離れ、それを見た彩月は放出された魔力が放った衝撃破で腕に怪我を負いながらも直ぐに後ろへ後ずさり距離を取った。

 

 

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああ』

 

 

 尋常では無いと誰しもが感じられる悲鳴に、戦っていたマーシュと栗栖も動きを止めていた。

「なんだ!?」

「どうやら上手く行った様ですね」

 驚くマーシュと対照的に栗栖は想定しているかの様な表情を見せていた。

 それもその筈だった。彩月が鳴海に突き立てた《赤と青の種》は、栗栖が持っていた《魔法の種》だったのだから。正確には、その《魔法の種》は、栗栖が作り出した物では無く、生前の筒地綾女が作り上げた物でもあった。実験体でもある栗栖への餞別として一度切りしか使えない切り札とも言える代物だった。

 

 

「その《魔法の種》は、貴重な材料を精製して作った物だから、貴女に渡せるのは一つだけ。効果は伝えた通りよ。だから使うなら良く考えて使いなさい。貴女の魔法では作る事は出来ないから」

 生前の筒地綾女は、栗栖にそう伝えていた。

 それほど貴重な《魔法の種》なのだ。

 

 

「あの《魔法の種》の効果は、刺された部分の半径2メートル以内の物を強制的に結界の外へ移動させる魔法。身体に直接、刺された以上、綾羽鳴海と言えども無事では済まないでしょう」

 誰かに聞かせるつもりでもなく事実の確認の為か効果を口走った栗栖の目の前で鳴海の身体に突き刺さった《赤と青の魔法の種》が効果を発揮して半径2メートル以内にある物を強制的に結界の外へ移動させようとしていた。

『ぬぅううう』

 苦しみながらも鳴海は、自身に刺された《赤と青の魔法の種》の効果に対して全ての魔力を集中して抵抗していた。《赤と青の魔法の種》と鳴海の魔力が周囲に迸り激しい気流を生み出し周囲にいる、魔法少女と魔人、少女の戦いを止めてしまっていた。

『こんな・・・。こんな・・・。ワタシの・・・。魔法に・・・。負けられるかぁ!!』

 鳴海の叫びと同時に周囲により大きな衝撃が周囲に放たれ少女も《魔人》も魔法少女も吹き飛び地面に叩き付けられた。

 全身に走る痛みに耐えて少女も《魔人》も魔法少女も状況を確認する為に衝撃が収まったのを確認すると周囲を見ていた。

 全員が直ぐに綾羽鳴海のいた位置を見ていたのは、仕方の無い必然的な行動と言えた。

 13の視線が注がれた先には、頭と右腕に繋がる部位以外、全ての肉体を失った綾羽鳴海の姿があった。

『やってくれたわね・・・。お陰でワタシの半身は吹き飛ばされたわ・・・』

 身体の半分を吹き飛ばされながらも鳴海は存在していた。その瞳から気概は失われる事は無く戦うと言う意思を未だ失っていなかった。

 だが鳴海の半身を吹き飛ばした事で鳴海と戦っていた面々に一筋の希望を抱かせていた。

『けど感謝すべきかかしら?お陰で魔力のコントロールは戻って来たわ』

 周囲の面々は鳴海の一言で希望への筋道は閉ざされた様に思わされ、それを証明するかの様に鳴海は、吹き飛ばされた半身を再生して見せた。

 けれど息の上がっている鳴海の発している言葉と裏腹に自身の魔力が消耗している事は誰の目にも明らかだった。

『ここまで追い込まれるのならもう良いわ。ここで全員殺してワタシは生き延びる!!』

 鳴海が叫び右手を上に向けたと同時に周囲の空間が歪み、捻じれ、砕け始めた。

『成程。結界を解体して魔力を回収してぶつける事で璃阿達を殺そうと』

『だったらぁ、その前にぃアイツを殺せばいいだろぉ!!』

 璃阿の言葉受けシーラが斬りかかろうとした時、鳴海が右手に魔力を集中させて、そのまま魔力の光線をシーラ達に向かって放った。

魔力を単純な光線として放つと言う事は、やはり魔力のコントロールが完全に再生した訳では無く、喪失した肉体を再生させたのは、弱みを見せない為の虚勢か。璃阿がそう思ったのは僅かな時だったが、実際の心理とはしては、長い時間に感じてしまう程に焦りを感じていたのかも知れない。

『チィッ!!』

 魔力を全開にしたシーラが鳴海の魔力を押し防いでいたが押されて行く。ぶつかり合った魔力は周囲を破壊して飛び散って行く。

「仕方ねえ!」

「やるしか無いですね」

『璃阿もやるしか無いですね』

 樹理亜が、栗栖が、璃阿も光線を抑えるシーラの抑え込みにそれぞれの武器に魔力を込めて加勢していた。鳴海の放った光線を《二人の魔人》と《二人の魔法少女》が正面から抑え込む事で拮抗する事が出来ていた。4人の背後にいる彩月とマーシュに包まれた朱奈は意図せず守られる形となっていた。

「どうすりゃええんや?」

 何も出来ない彩月が逡巡し身体の痛みに耐えて立ち尽くす中、朱奈はマーシュによって包まれた自分の身体が動く事に気が付いていた。

「わたし・・・。動ける」?

「嬢ちゃん!?身体動かせるのならワイの代わりに動いてこの場から逃げてくれ。ワイは防御するので精一杯だから動く事が出来ん!!」

 朱奈が前を向くと鳴海と《魔法少女、魔人》がぶつかり合い飛び散った光線が周囲を破壊していたが、朱奈の方へ来た光線はマーシュが自身の能力で防御している様子だった。

 周囲を破壊して行く光線に足がすくんでしまう朱奈だったが、その眼前で彩月は怪我した腕を抑えながら鳴海と光線を撃ち合うシーラ、璃阿、栗栖、樹理亜の元へ歩を進めていた。苦し気な表情を見せていた彩月だったが、まだその眼には諦めの感情は見えなかった。

 その時、鳴海の放った光線を防いでいた4人の内、樹理亜の表情が痛みに歪み、忌々し気に右肩を見ていた。先程、樹理亜が鳴海に放った矢が投げ返され右肩に痛みが走り上手く動かなくなって来ていたからだ。

(チッ。肩に力が・・・)

 声には出さなかったが樹理亜は焦りを覚えていた。魔力を使っても身体が上手く動かないと言う事は魔力が切れかかっていると言う事だと感じていた。

(このままじゃどうにもなんねえ・・・)

 樹理亜がそう思った時、右手から力が抜け、右手がだらりと垂れ下がろうとした時、何かが右手を支えていた。彩月がその身を挺して樹理亜の右手を支えていたのだ。

「何を!?」

「ウチにも、これ位は出来るやろ?」

「こんな真正面にただの人間が立ったら、無事じゃ済まねえぞ!?」

「でも、支えた方がええやろ!?」

 怒鳴る樹理亜に彩月も言い返す。的を付かれた発言に樹理亜は苦笑する。

「覚悟は良いのか?」

「ええで」

 その言葉を聞いた樹理亜は右手を支える為に使っていた魔力を解除して武器に魔力を回して武器の威力を上げていた。ここからは彩月の支えが無ければもう戦えない。

 鳴海の放つ魔力の光線と拮抗する璃阿、シーラ、栗栖、樹理亜と彩月。

 両者全員に既に余裕は無かった。ここから何かが起こっても状況は大きく変化する様子を見せていた。

 彩月の示した無謀とも言える勇気を見て朱奈の心にも変化が起きていた。

 ただ助かるのを待つのでは無く行動しなければ行けないと言う事を。

 朱奈も彩月に倣い歩を進める。その方角は

「嬢ちゃん!?何やってんだ?なんであいつ等のいる方向へ向かってんだ!?」

「行かなきゃいけないの。わたしは、わたしを助けようとしてくれる人達を、わたしが助けたい!!」

 心からの叫びをマーシュに告げて朱奈が走り向かったのはシーラ、璃阿、栗栖、樹理亜と彩月が、鳴海の放った光線と拮抗している、正にそのど真ん中だった。

「どわああああ。ご主人!!光線止めてくれ!?これじゃあワイにもどうにもならねえ!?」

 この事態を予想してなかったマーシュの叫びに鳴海も気が付いていた。だが

『関係無いわ。そこにいる4人を殺したら、マーシュは作り直してあげるわ。だってあなたは、材料さえあれば幾らでも作り直しが出来るんだから』

「朱奈もいるんだぞ!?」

『死んでも構わないわ!!寧ろ殺してしまった方がワタシに従順になるのかしらね』

 動揺する事を狙った鳴海の残酷な叫びは朱奈に悲しみの表情を起こしてしまったが、その強い拒絶が朱奈にも覚悟を決めさせてしまう一言になってしまった。

「鳴海さん・・・。貴女はやっぱり、綾女ちゃんじゃ無い。貴女なんかが決して綾女ちゃんである筈が無い!!わたしを想ってくれる綾女ちゃんである筈が無い!!」

『朱奈・・・。そう。そうね。そうなのかもね。だったら・・・』

 言葉を句切り一瞬だけ目を閉じて開いた鳴海の瞳には先程まで無かった明確な殺意が朱菜に向けられていた。

『ワタシは・・・。綾羽鳴海で良い』

 お互いに対する拒絶の最後通牒となる言葉を聞いて二人の思いは分かたれた。

 もう互いに相手を敵としか見ていなかった。

「マーシュ。ごめんね。わたし、マーシュの事を利用してしまう。マーシュが防げない事をしてしまうから」

「そうかい。まあワイは朱奈を優先的に守る様にプログラムされてるし、今は体の自由が利かないからな。朱奈の好きにしな。仕方ねえから攻撃から守ってはやるからな」

 感情を持たないインキュベーターから作られたにも関わらず、疑似的な感情を持たされたシュナアーマータイプインキュベーターは、諦めと言った表情を見せていた。

「けど一つ言っとくがワイは、ご主人を裏切った訳じゃないんだぜ。ご主人の施したプログラム通りに働いてるんだからな」

「うん・・・。だからわたしは行くよ」

 朱奈はマーシュの持つ防御力に期待してシーラ、璃阿、栗栖、樹理亜と彩月が鳴海の放つ光線とぶつかり合う場所へ踏み入った。期待通りに魔力と魔力のぶつかり合いによる拮抗は破れて鳴海が徐々に押される形となった。

 けれども鳴海の攻撃を一身に受け続けると言う事。マーシュでも防御し切れないダメージが朱奈の身体にも及んでいた。

(痛い・・・。でも、みんなはもっと痛いから・・・)

「朱奈さん・・・」

『やるじゃないのぉ』

『まさか璃阿が貴女に助けられるとは・・・』

「あーあ。これじゃどっちが助けに来たんだか分かんねえ」

「そうやな。だから勝たなきゃ行けないんやろ!?」

 状況を確認した栗栖。素直に褒めるシーラ。驚きを隠さない璃阿。呆れた樹理亜、気持ちを新たにする彩月。今、6人の心は同じ方向へ向いていた。

 鳴海と6人のぶつかり合いは、鳴海が僅かに押されていた。

 だからこそ鳴海は結界を段階的に解体してエネルギーに変換して攻撃していたが、返還の際に生じるロスの為に光線の威力を増す事が出来ずにいた。

 その為に決め手に欠けてしまい鳴海が押される結果となっていたのだ。

 だが時間が経過すれば経過する程、6人が不利になる事も確かだった。

 既に戦い傷付いた6人の体力や魔力が先に切れてしまうのは明白だった。

 けれど鳴海はそんな事を待つ程、悠長な性格でも無かった。

 勝負の決着はなるべく速く付ける方が良いと鳴海の心が告げていた。心が告げるままに鳴海は結界の解体を速めていた。解体する事で得られるエネルギーを自らの物として反撃して勝利する為に。だからこそ鳴海の意識が把握する視野は狭まっているとも言えた。

 その心の視野が狭まってしまう事こそが、思わぬ出来事に対処出来なくなる事だと言う事を鳴海と6人は忘れていた。

 

 

 不意に訪れたそれに誰も対処出来なかった。

 

 

 突如として何かが鳴海の傍に落ちる音がした。何が落ちたのか分からないし確認する間も無い。何かが落ちて来たと同時に鳴海の放った光線が本人の意思と関係無く突如として6人から逸れた。

 自らの狭まった視野と心理故に驚き硬直した鳴海は思考の停止を招いていた。

『なっ!?何が!?』

 狼狽し思わず声に出したその時、

「今」

 静かに単語を小さく呟く様に武器を突き出し栗栖が跳躍する!

「そうか!」

『だなぁああああ』

『璃阿も』

 樹理亜も、シーラも、璃阿も武器を突き出し、遅れて跳躍し続ける!

 彼女達が向かうその先には、綾羽鳴海のその身体!

 

 

 栗栖の箒から伸びる穂先が右腕を突き刺し

 樹理亜の両手に握った短刀が喉元と左腕を突き刺し

 シーラの薙刀の切っ先を左足に突き刺し

 璃阿のロッドの先端を強引に右足を貫く

 

 

 声と四肢の動きを封じられた鳴海は、悲鳴を叫ぶ事も出来なかった。

 ただ恨みがましい視線を送るだけだった。

「彩月さん」

 小さく呟く栗栖に合わせたのか、それとも既に動いていたのか、彩月は既にマーシュを身に纏った朱奈の眼前を駆け抜け、鳴海の眼前に辿り着いていた。

「悪いな。ウチも、アンタが筒地綾女や無いと思うで!!」

 叫んだ彩月がポケットから出して右手に付けた二つ目の切り札、パペットキュウべえを鳴海の胸に輝くグリーフシードに間髪入れずに近付けた。結界に入る前に栗栖は自分が持っていた《赤と青の魔法の種》とパペットキュウべえ、二つの道具を予め彩月に渡していたのだ。

 その行動が示す意図は栗栖自身が鳴海との戦いに生きて帰れないだろうと言う予感か不意を付く事で勝率を上げる為か。打てる様々な手を打ち、手を取り合い、道筋を紡ぐのが人間の持つ前進する力を体現していたのだ。

『!?』

 声にならない叫びが全員に聞こえた気がした。

 それでも彩月の手は止まらない。

 パペットキュウべえが、鳴海の胸にあるグリーフシードを浄化しようとするも、グリーフシードが放っている瘴気がそれを阻む。

「後、ちょっとなんやけどな!?」

 渾身の力を込める彩月でもこれ以上、進めない程にグリーフシードが放つ瘴気の圧力は凄まじいモノだった。グリーフシードから放たれた瘴気が放つ圧力は小さな刃と化して周囲にいる6人を傷付けて行く。

「さっちゃん!!」

「嬢ちゃん!やめとけ!!」

 先程の攻防によるダメージによって身体の操作が利かないマーシュの忠告を無視して朱奈も駆け出し彩月の右手を支えて押し込んだ。

「朱奈。ええんか?」

「うん。わたし・・・。受け入れなきゃ行けないのかも知れない。綾女ちゃんは、もういないって・・・。だから」

 彩月と朱奈の。二人の物理的な押す力でパペットキュウべえは、少しずつ鳴海のグリーフシードに近づいて行く。

 鳴海の目には一つの感情だけが浮かんでいた。自らに迫る死に対する拒絶、恐怖。

『やめて!?やめて!? ワタシは筒地綾女じゃない。ワタシは、もう貴女達に関心を抱かない。だからやめて!?ワタシは、死にたくない!?ワタシは生きていたい!?ワタシは、ワタシは』

 鳴海の死にたくないと言う思いは周囲に伝わっていたが、誰も答えなかった。

 その場にいる彩月、朱奈、樹理亜、栗栖、シーラ、璃阿は、誤魔化す事無く鳴海の死と終わりを願い、最早彼女達は、必然的な終わりに向かい流れていた。

 大河を流れる水は、何時か海に届くのだろうか?

 何時かはきっと海に届く。海に届き、また大河へと戻る。

 自然の循環が人の意思を超えて回り続ける事と同じ様に、人の意思が感知し得ない出来事の流れが綾羽鳴海の終わりを迎えさせていた。

 朱奈に押された彩月の右手に付けられたパペットキュウべえが綾羽鳴海の胸にあるグリーフシードを強引に浄化して消し去った。同時に瘴気の流れを強引に断ち切った影響か飛び散った瘴気が6人に少なくない傷を与えていた。彩月が付けていたパペットキュウべえも強引に瘴気を放つグリーフシードを浄化した影響か、形態を維持出来ずに彩月の手から崩れ落ちてしまった。瘴気による痛みで右腕を押さえて鳴海から離れる彩月。

 ハッとした表情を見せた鳴海。

 それは幻だったのかも知れない。直ぐに開かれた眼を閉じた鳴海は、グリーフシードの消滅に伴って瘴気によって構成維持を行っていた肉体は分解し意思を、心を構成した魂を解体され自らの存在を維持する事が出来ずに、その身体は消滅し始めていた。

『ワタシは・・・』

 鳴海は消滅する直前に小さく呟いたのかも知れないがそれ以上、それ以上何も告げる事が出来ないままに消滅し、連鎖作用によって結界は分解の末に崩壊した。結界の解体と同時に他所の結界から捕縛した使い魔は、結界が解体された事により結界の構成者である鳴海が死亡した事を悟って我先にと逃げ出していた。

 崩壊した結界から解放された栗栖、樹理亜、彩月、シーラ、璃阿、マーシュを身に纏ったままの朱奈は、リンドウ市の山林地帯に現れていた。

 結界から解放される直前、彩月は鳴海の身体から虹色の鎖が流れ落ちると地面の下に水が染み込む様に吸い込まれるのを見たが、その鎖が何なのか最後まで分からなかった。

 

 栗栖は戦いが終わったと言う事実を確認していた。

 樹理亜は戦いが終わった事の充足感を得ていた。

 彩月は朱奈を助けられた事に安心感を覚えていた。

 シーラは自由になれた事を喜んでいた。

 璃阿はこの後にするべき行動を導き出していた。

 朱奈は悲しみと安心感を得て憔悴してその場に座り込んでいた。

 マーシュは

 

 

 

「おっ。どうやらワイもここまでの様だな」

 そう言いながら朱奈から離れたマーシュの肉体は少しずつ分解されていた。

「マーシュ!?どうして!?」

「そりゃあそうだろ。ご主人が消えたんだぞ。ワイも消えるのが必然だろ」

 大袈裟に両手を上に向けてアピールするマーシュは皮肉な笑みの様な物を浮かべていた。

「マーシュ・・・。ありがとう・・・。わたしを守ってくれて・・・」

「そうかい。まあ、悪くは無かったな」

 告げると同時にマーシュの肉体は分解して後には肉塊だけが残された。

「マーシュ・・・」

(それじゃあその肉体は僕が処分しておくよ。彼のデータも回収したいからね)

 涙ぐむ朱奈には、見えないがそこに現れたキュウべえがマーシュの肉塊を即座に捕食して口の中で分解して吸収した。朱奈はマーシュの肉体が急に消えた事に驚いていたが、

「キュウべえ。何の用だよ?」

 樹理亜の反応を見てキュウべえの見えない彩月と朱奈はこの場にキュウべえが現れた事に気が付いた。

(綾羽鳴海が倒された事で《魔人》の増殖と言う最悪の事態は回避されたから、僕はその確認の為にこうして姿を見せたんだよ)

「ここにも《魔人》は残っていますが?」

 栗栖が向けた視線の先には、《二人の魔人》、シーラと魔法少女だと思い込む璃阿ことネリーが佇んでいた。

『安心しろぉ。あたくし達にはぁ、《魔人》を増殖する能力なんざ無いぃ。鳴海様はぁ自分が蹴落とされるのを警戒してそうした能力は与えなかったわぁ』

 栗栖の疑念に面倒そうにシーラは答えていた。

(成程。それなら警戒の必要は無いみたいだね。それで君達はこれからどうするんだい?)

 キュウべえの疑念に5人は既に答えを出していた。

「ウチと朱奈は決まってる。家に帰らなアカンやろ」

「うん。帰らないと・・・」

 そこまで言うと疲労の限界だった朱奈はその場に倒れてしまった。

「大丈夫やで。ウチが送ったる」

 そばに駆け寄った彩月がそう告げると朱奈は安心したかの様な表情を見せていた。

『さてぇ。あたくしはぁ、好きにさせてぇ貰うわぁ。もうこの場所には用が無いからぁ』

『そだ。璃阿もお、好きんどこに行かせて貰うんだあ』

 シーラはそう答えてこの場から跳躍し去った。

 璃阿は咳ばらいを一つすると

『では、璃阿もお暇させて貰います』

 と告げると林の中に歩を進めていた。

「二人は風見野まで自分が送りましょう」

「そうか。ならあたしゃも付き合うぜ。どうせ帰り道だ」

「それなら頼むで。ウチはもうクタクタや」

 栗栖の提案に樹理亜が合わせたのを聞いた彩月がふとスマホに目を合わせると朱奈が攫われてから3時間位しか経過してない事が分かった。最も、鳴海の作った結界では外よりも時間の経過が遅い為、3時間以上過ごしていたのは明白だったが・・・。

「全く・・・。こんなに長い一日は初めてや」

 ため息を付いた彩月を抱えた樹理亜と朱奈を抱えた栗栖も跳躍してその場を去った。

(さて・・・。これで僕たちは、これから見滝原に現れる《ワルプルギスの夜》の出現に影響を与えかねないイレギュラーを一つ排除出来た。この先に控える大きなチャンスの為にも他に出現しているイレギュラーを処分しておかないとね)

 これから見滝原市で起こる何かに対処する事を思案してキュウべえもその姿を消した。

 

 

 

 

 璃阿はたった一人で見つけた《魔女》の結界に入り込んでいた。

 戦い魔力を使い果たし、その身を傷付け、欠損してもなお、戦い散って行った。

 自身が《魔人》では無く《魔法少女》だと誤認していた振りをしていたのか?

 本当は気が付いていたからこそ戦って散ろうとしたのかは、誰にも分からない。

『璃阿は、璃阿が今、生きている事に違和感を覚えます。だから璃阿は最後まで』

 璃阿の最後は誰も知らない。

 

 時間は前後して鳴海と6人が戦っていたその時、解体される結界の階層の中に《一人の魔人》がいた。

 その《魔人》は瓦礫の下に埋もれて身動きが取れず動けない事に飽きて眠っていたが、結界が崩壊した事で身動きが取れる様になった瞬間に目を覚ました。

『うごけるー?でも、おちてるー?』

 声の主は自身が結界の底へ落下している事に気が付いたが恐怖は無かった。

 むしろ今の状況を楽しいと感じていた。

 付けていた猫の仮面が割れて正面が見えない為、躊躇無く仮面を捨てると目まぐるしい変化が視界に入って来た。目まぐるしい変化を楽しむ心を持っていた声の主は頭から底へ向かって落下していたが、慌てる事無く両の手を目の前に翳していた。

『どんがらがっしゃんしゃん。どんがらがっしゃんしゃん。おちてる。おちてるー。すごくたのしいー!!』

 自身が持つ魔法、流転認識を応用して、攻撃を反らす事の応用で結界が崩壊する流れに身を任せて流れの先へと向かおうとしていた。

『うーん?鳴海さまだー。なにしてるのかな?』

 その時、流れの先に鳴海と6人が戦っている様子が見えたが、その《魔人》には遊んでいる様にも見えた。

『リセムも入れてー!!』

 その《魔人》=リセムは思わず流れに乗る為に使っていた流転認識を流れから離してしまっていた。勢いが付いたまま落下したリセムは、大きな音を立てて鳴海の傍に勢い良く落下。痛みでそのまま気絶していた。ところが落下の衝撃でリセムの手は鳴海の方へ向けられていた。落下の衝撃で攻撃を反らす流転認識が発動したまま。

 鳴海の放つ魔力の光線は、リセムの流転認識が偶然発動した結果として戦いの中で急に逸れてしまった。リセムの存在を忘れて結界の分解を行った鳴海は、自分で自分の首を絞めたとも言えた。なお鳴海が刺された時には、リセムは無意識に手を握って流転認識を解除していた為に刺された時には既に解除されていた。

 結界の中に放置されていたリセムだったが、結界が完全崩壊した時、流転認識を持つ効果か離れた森の中に出現していた。

『あれー。ここどこ?おそとかなー。鳴海さまはー?』

 仕方なく周囲を歩いていた時、不意に上空で何かが移動したのを見て好奇心の赴くままに追いかけようと跳躍した。

『あ!シーラだ。ねーねー。なにしてるの?』

『何だぁ。リセムかぁ。生きてたのかぁ?』

『ねーねー。なにするの?鳴海さまや、ほかのみんなはどこ?』

『鳴海様ならぁ死んだよぉ。だからぁあたくし達は自由なのさぁ』

『ふーん。リセムはずっとじゆうだよー。じゃあシーラはどうするの?』

 理解が出来ているのかいないのか、楽しい事にしか関心の無い子供の様な心を見せるリセムにシーラは少し恐ろしさを感じていた。

『案外無関心なんだなぁ。まあ、あたくしは自由になったんだからぁ、この際だし世界を見て回るわぁ』

『じゃーリセムもついてくー』

『何でぇ?別に自由なのよぉ。好きな所に行けば良いでしょぉ?』

『シーラといたらたのしそうなきがするー。だからついてくねー』

 仮に引き離してもしつこく追って来そうな予感を覚えたシーラはため息を付いた。

『ハアァ。分かったぁ。じゃあ来なさいよぉ。ぐずぐずしてると置いてくわぁ』

『はーい』

 意外な凸凹コンビが結成され二人は未知の世界へと旅立って行った。

 

 風見野市内の公園に降り立った樹理亜と栗栖。

 栗栖は抱えていた朱奈をベンチに寝かせ、樹理亜は彩月を降ろした。

「これで自分は目的を果たしました。後は彩月さんに任せます」

「そーだな。あたしゃも目的を果たしたし行かせて貰うぜ。ああそうだ。もし朱奈にあたしゃの事を聞かれたら、スミレは去ったと伝えてくれ。それで伝わる筈だからな」

「分かったで。後はウチがすべき事やからな」

 彩月からの了承を聞いて朱奈の事を託すと樹理亜と栗栖は並んで足早に公園を出ていた。

 お互いにもう時間が無く限界を迎えていた為に栗栖と同じ方向に何故か歩く樹理亜に栗栖は興味を示さなかった。

「あんた大丈夫なのか?」

「何がですか?」

「その右腕だよ。見えない様にしてるけど魔力で強引にくっつけてるだけだろ?それに魔力が不安定だ。ジェムにダメージがあったんじゃ無いか?」

「それはお互いさまですね。貴女も自分と同じで魔力が不安定です。それにお互い肉体から発する生命力とでも言えば良いのですか?それも不安定です」

「ああ。お互い、もう長くは無いな」

「ですね。だから、帰りたい場所へ自分は帰ります」

「そうか。じゃあ、あたしゃも帰りたい場所へ行くか」

 分かれ道で栗栖と樹理亜は別々の道を選んだ。

「もう会う事もないだろうけど、ありがとな」

「自分も・・・。助けてくれてありがとうございます」

 お互いに傷付いた姿で言葉を交わして両者は分かれた。

 

 

 

 栗栖は痛覚遮断も行えなくなり痛みの強まった身体を引きずるようにして自宅への帰路を歩いていた。

 朱奈を助ける事が出来て、もう後には何も出来ない自分の状態を正確に把握していた。

 その時、《半魔法少女》として得ていた《魔法少女》としての感覚が喪失したのを感じ取った。手に目をやるとソウルジェムが変化した指輪が砕け散ったのが目に入った。

 戦いの最中にソウルジェムに破損が生じたのは知っていたが、栗栖はそれを無視して戦い魔力を行使し続けて遂にソウルジェムが耐え切れなくなり砕け散ったと言う事だった。

 通常なら《魔法少女》のソウルジェムが砕け散れば、《魔法少女》は死ぬ。

 けれど《半魔法少女》とも言える栗栖が付けていたソウルジェムは、《見知らぬ魔法少女》の物であり栗栖本人の魂では無い。

 だから栗栖本人がソウルジェムの破損で死ぬ事は無くても身体に蓄積された怪我が積み重なれば死ぬ事になる。綾羽鳴海との戦いでほぼ全て魔力を戦闘に費やした栗栖には、もう自分の身体を治すだけの魔力も無くなっていた。

 もう何もする事が出来ない。だからこそ栗栖は、習慣的に自宅に帰ろうとしていた。

 外でするべき事が無いのなら自宅へ帰るのが、習慣だったからだ。

 自分の命が残り少ないと言う事は関係が無い。

「栗栖?栗栖だよね!?」

 不意に声がした方に首を向けると唯一の友人でもある釣鐘常盤が手を振っていた。

 そう言えば最近常盤が受験に備えて学習塾に通いだしたと聞いていた。

「どうしたの?こんな時間に外にいるなんて珍しいって、栗栖!その怪我どうしたの?」

「これは・・・。階段から・・・落ちました。公園から川に下るあの階段で・・・」

「そんな訳、無いでしょ!?だって全身が血だらけじゃない!?すぐ病院に!救急車!?」

 慌てながらも常盤はスマホを取り出して119番通報をしようとしていた。

「常盤・・・。そんな事・・・。しなくて・・・」

 栗栖がそう答えたと同時に、その身体は地面に崩れ落ちた。身体から熱が失われて行く感覚が全身に回り意識が朦朧として身体がもう動かなかった。

 狼狽する常盤の姿が目に入り何か答えようとしたが、声が上手く出ない。

(自分は死ぬのですか・・・)

 死を初めて認識した栗栖だったが、その心に何も響かなかった。

 けど目の前で自分の事を心配して慌てて救急車を呼んでいる常盤を見て、せめて常盤を安心させた方が良いのかも知れないと心に想いがよぎった。

「常盤・・・」

「栗栖!?喋っちゃダメ!?今、救急車を呼んだから!?」

「自分はもう・・・」

「そんな事を言わないで!?栗栖はあたしの友達なんだから・・・。大丈夫だから・・・。救急車がもう直ぐ来るから!!」

「常盤には・・・。音切君がいます・・・。自分よりも・・・。彼を・・・」

「遺言みたいな事を言わないで!?栗栖も、薊も、あたしには大切だから!!」

「自分が・・・。大切・・・」

「栗栖!!」

 阿瀬比栗栖は最後まで、釣鐘常盤が栗栖を大切な友人だと思っていた事を理解し切れなかった。けれど常盤が、恋人でもある音切薊といて欲しいとは思っていた。

 きっとそれは、感情を上手く理解出来ない栗栖が、常盤の幸せを見る事で幸せの感情を疑似体験したかったからなのかも知れない。

 けれど、《他者のソウルジェム》とは言え、他人の魂と繋がり戦っていた栗栖には、僅かながらも感情を得ていた形跡があった。

 だから最後に栗栖が常盤の幸せを願ったのは、偽りの無い本心。

 

 

 

「あーあ。戻って来ちまったか」

 夜の式部学園の敷地内に入り込みながら樹理亜は警備員に見つからない様に放棄された飼育小屋へ行き、様子を見てみた。初めて見た時からずっと放棄されていた飼育小屋はより荒廃が進んでいる様な気がしたが、依然と大差ないとも樹理亜には感じられていた。

「相変わらずか・・・。そりゃそうか。簡単に変わる筈が無いもんな」

 飼育小屋の様子を、見終えると樹理亜は式部学園の校舎に背に座り込むと夜空に目を向けた。雲が少し合ったが、少しだけ星が見えていた。星を見ていると樹理亜の脳裏に初めての友達を思い出していた。

(わりいな・・・。あたしゃは、あすなろへ行く事は出来ねえ)

 ミチル、海香、カオル、サキ、みらい、ニコ、里美・・・。

 もう会う事が出来ない友への申し訳ない気持ちがあったのは事実だが、樹理亜には死ぬ前に一つだけ、するべき事があった。夜空に向かって手を伸ばすと自分が操作しているが、自分の物では無い手が目に入った。手だけでは無い。この身体は自分の物では無く友達に貰った身体なのだから。

「だってこの身体は、スミレの身体だもんな。せめてちゃんと、ここで死なないとスミレの家族にスミレが死んだってハッキリと分からせる事が出来ないからな・・・」

 樹理亜はスミレに家族の事を聞いた事があった。願い故にもう家族と出会えないと言う定めの中にいる事も。今、樹理亜がこのスミレの身体を使っている事で、スミレは式部学園から逃走しているとも言える状態にある筈だった。

 せめてこの場所で死ぬ事が出来ればスミレの家族にスミレの身体を返す事は出来ると樹理亜なりに考えて式部学園に戻って来たのだった。

「スミレ・・・。折角身体を貰ったが、もうあたしゃは、ここまでみたいだな。だから・・・。身体は返すぜ・・・。家族って奴は、あたしゃには良く分かんねえが、葬式って奴は人が死んだ事を知るべき人に伝えて、心に折り合いをつける為に必要な事なんだろ・・・」

 樹理亜の声に誰も答えない。身体から発せられる痛みが酷くて意識が朦朧としてきていた。樹理亜の心も体も終わりを迎えようとしていた。

 狭くなった視界に一筋の光が見えた。同時に人の声が耳に入る。

 警備員に見つかったのかと、薄れゆく樹理亜の意識にも分かった。

「もう・・・。良いか」

 樹理亜は最後の力を振り絞って右手にソウルジェムを卵に似た宝石状態で出現させた。

 今の樹理亜の状態を反映する様に無数の亀裂が表面に走っている。

「じゃあな」

 誰に言う事無く別れを告げると樹理亜は自分のソウルジェムを渾身の力を込めて地面に叩き付けた。ソウルジェムは砕け散り・・・。樹理亜の魂は死んだ。

 

 

 

 樹理亜の考えた通りにその身体は雨津木スミレの遺体として認識され家族に知らされた。

 警察は外傷が多かった為、事件性ありとして捜査したが何も手掛かりは無かった。

 同時期に無数の外傷を負って死亡した阿瀬比栗栖との関連性も疑われたが、警察は何も知る事なく捜査は難航した。

 二人の少女の葬儀は静かに行われ、残された人々に死と言う事実を認識させていた・・・。

 

「そろそろ起きなあかんで朱奈」

 彩月が優しく揺すると朱奈の瞳がゆっくりと開いた。

「さっちゃん・・・。わたし・・・。どうして・・・。ここで寝てたの・・・」

「朱奈。もしかして覚えてへんのか?最後に何を覚えてるんや?」

「えっと・・・。確か・・・。さっちゃんと学校を帰ろうと・・・」

 それを聞いて彩月には思い当たる節があった。

 彩月の中にある筒地綾女の記憶には、筒地綾女の使う魔法の中には記憶を操作する魔法もあった筈だった。筒地綾女の実験体である阿瀬比栗栖も記憶を操作する魔法を使える可能性があると言う事だった。

 ここまで朱奈を運んで来る間に栗栖が記憶を消した可能性はあった。

 記憶を消した理由は彩月にも分かる様な気がした。

 朱奈に、まがい物とは言え筒地綾女を殺す手伝いをさせた記憶は無い方が良いのかも知れなかった。

 記憶が無いのなら樹理亜の伝言を伝える事は無いのかも知れないと彩月は心に秘める事にした。

「朱奈とウチはなあ、帰り道に転んで怪我してベンチで休憩してたら眠ってしまったんや。余りに気持ち良さそうに寝てもうたから起こす気にもならへんっかったで」

「そう・・・。なのかな・・・。何だか長い夢を見てた気がする・・・」

「ああ。そうやで。だから帰らなあかんで。もう21時を回っとるで。みんな心配してるで。さあ帰らんと」

「うん。帰ろう。さっちゃん」

 身体の痛みから不自然に紫色の髪を揺らしながら彩月は起き上がる朱奈の手を優しく引いて公園を後にした。

 それは、非日常から日常への帰還。

 非日常に迷い込んだ少女を、一人のまがい物が閉じ込めようとしたのを、《六人の少女》が結果的に少女を日常へと返した。

 これは《ワルプルギスの夜》による見滝原市襲来の数日前に起きた小さな戦いの記録。

 




これで話は一区切り。
次回は、長すぎるエピローグを執筆します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。