偽書魔法少女じゅりあ×くりす☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI JURIA×KURISU MGICA   作:ジャックノルテ

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第2話 どうやらあなたは運が良い見たいね後編

 学校帰りの栗栖が昨日と同じ時間に公園へ入ると既にベンチに昨日と同じスーツ姿で女性は座っていた。

 栗栖に気付くと笑みを浮かべ隣に座る様に促して来た。

 何故かそうした他者の感情を読み取れた事に栗栖は違和感を覚えながらも従う事にした。

「本当に来たのね・・・。決意は変わらないのね?」

 確認をして来た女性に栗栖は頷いた。

「分かったわ。あなたに戦う為の力をあげる。その前に・・・。私は筒地綾女よ。あなたの名前は?」

「阿瀬比栗栖と言います」

 女性が名乗った事に合わせて栗栖も自分の名前を告げた。

「変わった名前ね。じゃあこれを」

 そう言って綾女はポケットから卵形で装飾を施された宝石を栗栖に手渡した。

 白とオレンジに光り輝く宝石は栗栖がこれまで見た事の無い輝きを見せていた。

「少しショックがあるわよ」

 綾女がそう告げると同時に栗栖の全身に痛みが走った。

 それはこれまで感じた事の無い痛みだった。

 全身が焼かれる様な熱さが身体を駆け巡る様な。

 どれ位の時間が経ったのか・・・。

 痛みは急速に治まっていった。

「おめでとう。どうやら上手く行ったわね。あなたは・・・。私と同じ魔法を使う存在だけれども《魔法少女》じゃない。《半魔法少女》と言うべきかしら?」

《魔法少女》では無い《半魔法少女》。

 それが自分を表す定義だと栗栖は理解し新たな疑問が浮上した。

「《魔法少女》とはなんでしょう?」

「そうね。まずはそこから説明が必要みたいね」

 そう言って綾女は語り始めた。

 宇宙延命の為に希望と絶望の総転移から生じる感情エネルギーを集める生命体、インキュベーターことキュウべえの事を。

 ソウルジェムとグリーフシードの因果関係等、全てを栗栖に話した。

「でも自分は願いを叶えていません。このソウルジェムは一体?」

 自分が握り締めるソウルジェムを示しながら栗栖は綾女に質問をした。

「それは私のじゃないわ。そのソウルジェムは、私が倒した《魔法少女》から取り上げた物よ」

「ではこれは他人の魂と言う所ですか?」

《魔法少女》に関する知識を得ていた栗栖には、そう思えた。

「あなた、本当に鋭いのね。そうよ。これは他人の魂。けれどあなたが戦う力を得る為には、これを使うしか無いのよ?」

「そうです。その事に自分は異論ありません」

 瞬時に答えた栗栖に綾女は少しだけ驚いていた。

「切り替えが速くて助けるわ。それじゃあ戦い方に関してだけど」

「時間です」

 夕方を告げるチャイムが鳴り響くのを聞くと同時に栗栖は立ち上がった。

「まだ話は終わっていないわよ?」

「綾女さん。続きは明日にして下さい。自分はもう家に帰らないと行けません」

 呆れる綾女を残して栗栖は自宅への帰路に着こうとした。

「随分と自分勝手だけどまあ良いわ。続きは夜にでもテレパシーで話して上げるわ。夢の中で会いましょう」

 栗栖にそう告げると綾女も公園から去って行った。

 それを見届ける事無く栗栖も帰宅する為に歩き始めた。

 

 

 

 

 その夜・・・。

 自分の部屋で何時もと同じ様に21時半に就寝の準備を終えた栗栖は布団に入って瞼を閉じて眠ろうとしていた。

(さあ。お勉強の時間よ)

 綾女の声が頭に響いてきたが栗栖は驚かなかった。

 同時に栗栖の視界に写るのは、上下左右も定かでは無い真っ白い空間となっていた。

 そこにいるのは、栗栖自身と綾女だけだった。

 昼間と異なり綾女は《魔法少女》としての姿でこの場に現れている。

 ふと栗栖が自分の服装を見て見ると寝巻きのままだった。

「綾女さん。ここは何処なのですか?」

「ここはね・・・。あなたと私の頭の中と言った所かしら?」

「?」

 意味が分からず首を傾げた栗栖に対して綾女は説明を続けた。

「正確に言うと私と・・・。あなたじゃなくて、栗栖さんの意識を魔力によって直結した状態なのよ。と言ってもお互いの思考や記憶が混ざり合わない様にきちんと調整はしているわ。この・・・。《思考空間》とでも言えば良いのかしら?ここでなら魔法の練習を行った所で現実には何の影響も無いわ。それにここでの時間経過はちょっと特殊で、人の意識には一時間を長いと感じる時もあるし短いと感じる時もあるでしょう?ここで一日修行した所で現実世界では二時間と言った所ね」

 綾女の長い説明を栗栖は表情を変化させる事無く聞いていた。

 そこに綾女は多少のとっつき難さを感じてはいたが話を続ける事にする。

「さて。まずはあなたの衣装から考えましょうか」

「衣装?」

「戦う時に纏う衣装よ。必要でしょ?」

 綾女の言葉に栗栖は一瞬だけ考える表情を見せてから答えた。

「いいえ。衣装は必要ありません。服装はその時、着用している物で問題ありません」

 真顔で答える栗栖には綾女は本気だと言う事を直ぐに感じ取れた。

「そうなの?大抵の女の子は理想の姿を持っている筈なんだけど・・・。まあ良いわ。その分、魔力の節約にもなるし。それじゃあ栗栖さんに渡したソウルジェムには、その時に着ていた衣服が修復される機能と肉体の欠損部位を修復させる機能が必要と言う事ね。テレパシーで調整はしておくわ」

 綾女は一瞬、目を閉じると直ぐに開いた。

「終わったわ。それじゃあ魔法の使い方を教えてあげるわ。と言っても私は人に魔法を教えた事なんて無いから上手く行くかは分からないわよ」

「構いません。足りない部分は自分で補います」

「良い心掛けね。じゃあまずは魔法の練習から始めましょうか」

 そう言って綾女は栗栖に魔法を教え始めた。

 まずは基礎的な魔力の使い方。

 次いで綾女が基本としている魔力を一度、《魔法の種》(マジカルシード)として凝縮して一気に発動させる方法。

 どれもが綾女の考える《魔法少女》として必要とされる基本的な能力だった。

 それらが一通り終わると綾女は時間が来たと告げた。

「外では二時間が経過したから今日はこれまで。それと明日、栗栖さんに渡したい物があるから必ず公園に顔を出して頂戴」

「分かりました。

「それじゃあ栗栖さん。お休みなさい」

 綾女がそう告げると同時に白い空間は消え去った。

 そのまま栗栖の意識も眠りの中に落ちて行く。

 

 

 

 

 栗栖が目覚まし時計の音で起床すると何時もと同じ様に目覚し時計のスイッチを切り時間を見る。

何時もと同じ朝の7時だった。

綾女と行った訓練から来る精神的な疲れは、殆ど感じなかった。

普段となんら変わる事無く着替えを済ませ食事を済ますと学校へ行こうとした。

その時、ポケットにソウルジェムを入れていた事を思い出し取り出すと右手に乗せた。

魔力を使い指輪型に変化する様に念じ見る。

栗栖の思う通りに白とオレンジに輝くソウルジェムは指輪型へと変化し栗栖の人差し指に装着されていた。

「栗栖。もう学校へ行く時間でしょう?」

 そこへ母親が栗栖に通学を促して来た。

 栗栖は試しにこれ見よがしに右手を胸の位置に当ててソウルジェムの指輪が良く見える様にして母親に向き直った。

「はい。自分は、もう出ます」

「行ってらっしゃい。気を付けてね」

 何時もと変わらない笑顔で母親はそう語ると栗栖を送り出した。

 母親の反応を見て栗栖は魔法の効果を改めて確信した。

 ソウルジェムを宝石から指輪へと変化させる事で魔力の扱いには確信が持てていた。

 けれどソウルジェムを変化させた指輪が普通の人には認識出来ないと言う効果は他人を使う事でしか確認する事が出来なかったからだ。

(効果は確かな様ですね)

 そう思うと栗栖は通学路を歩き始めた。

 何時もと同じ通学路だったが何かが足りない気がしていた。

 常盤がいない事が原因なんだと栗栖も分かってはいた。

 けれどその寂しさを埋める物が無いと言う事もまた事実を表していた。

 

 

 放課後になると栗栖は真っ直ぐに綾女と待ち合わせている公園に向かった。

 昨日と同じ様に綾女はスーツ姿で公園のベンチに座っていた。

「待たせましたか?」

 自身が出来る範囲での神妙とも言える反応を栗栖は綾女に見せてみた。

「いいえ。そうでも無いわ」

 待ちくたびれた様子を見せる事無く綾女は答えた。

 昨日と同じ様に栗栖は黙って綾女の隣に座った。

「自分に渡したい物があると言っていましたね」

「ええ。これよ」

 そう言って綾女が脇に抱えていたビニール袋を栗栖に渡した。

 栗栖も知っている駅前の家電量販店の物だと識別し直ぐに中身を取り出して見た。

 それは白くてとても耳の長く目の赤い猫の様な生き物のパペットと言われる手を入れて動かすぬいぐるみの様だった。

 試しに手を入れて動かしてみても変わった様子は見られなかった。

「これは何でしょう?」

 右手に白いぬいぐるみを付けながら栗栖は綾女に尋ねた。

「見ての通りパペットよ。でもただのパペットじゃあ無いわ。それはキュウたんことキュウべえを解体して作ったパペットなのよ」

 キュウべえの事を栗栖は知っていたが未だ姿を見た事は無かった。

《半魔法少女》である自分は見る必要が無いとも栗栖は思っていたが。

「そうなのですか?」

 キュウべえはこんな姿をしているのかと栗栖がパペットを見ていると

(やあ。栗栖。始めまして)

 突如として栗栖の頭に声が響いた。

 テレパシーの方向から自分が手に付けているパペットからテレパシーが来た事に気付いた栗栖は驚いて目を大きく見開いた。

(知っていると思うけど僕はキュウべえだよ。綾女の作ったパペットを通して君と会話しているよ)

「でもテレパシーなら自分に直接、送れば良いのでは無いですか?」

 一通りの《魔法少女》に関する知識を持っていた栗栖はパペットキュウべえに指摘して見る。

(確かにその通りだね。でもこのパペットは栗栖が僕を認識出来ないと言う問題点を解決する為に綾女が作ったんだ。穢れを溜め込んだグリーフシードの処理には僕が必要だろう?けれど栗栖には僕が見えないから代用品としてこのパペットを作ったと綾女は言っているよ)

「魔力を高めれば栗栖さんにもキュウべえが見える様にもなるわ。でもねそんな事に魔力を使うなんて勿体無いじゃない?だからキュウたんパペットを作ったのよ。このパペットにはキュウたんとの連絡の他に使用済みグリーフシードを浄化する役割を持っているわ。まあ言うなれば役割を限定的に調整したキュウべえの一部分と言った所ね」

 キュウべえの行った説明を綾女が引き継ぎ栗栖はこのキュウべえパペットの用途を知る事が出来た。

「さて。必要なモノは渡したしそろそろ行くわよ」

 そう告げると綾女はベンチから立ち上がった。

「何処へ行くのですか?」

 キュウたんパペットを鞄に入れながら栗栖は尋ねた。

「魔女探しのパトロールよ。《魔法少女》なら当然の事でしょう?」

 語りながら綾女は栗栖と並んで歩き始める。

「家族が心配するので自分は17時までしか行動出来ませんが?」

「構わないわ。でも《魔女》や《使い魔》は、深夜にも活動する事があるわ。その時はどうするの?」

 綾女から疑問をぶつけられて

「・・・。どうしたら良いのでしょう?」

 栗栖は綾女の方を見てみた。

 何となくだが栗栖は綾女が既に答えを導き出していると言う事を感じ取っていた。

 一方で綾女も確かに回答を導き出していた。

 ただ綾女としては栗栖に独力で答えに辿り着いて欲しかったが・・・。

 この様子からどうやら栗栖はそうした創造性が低いと綾女は感じていた。

「まあ私と栗栖さんは《魔法少女》なんだから魔法を使って家族に知られない様にするのが一番だと思うけど?」

 助け舟とも取れる発言を綾女は返して来た。

「その発想はありませんでした。魔法と言うのは戦う為だけでは無いのですね」

「そうね・・・。まあ後の応用に関しては今夜にでも教えてあげるわ。・・・ッ!」

 瞬間、綾女の表情が引き締められた。

「近いわね。この反応は《使い魔の群》と言った所ね」

 綾女の左手に付けられているソウルジェムの指輪が赤と青の光を放っているのが栗栖にも見えた。

 見れば栗栖の付けている白とオレンジのソウルジェムも光を輝かせていた。

「経験を積むには持って来いと言った所ね。さあ行くわよ!」

 栗栖を促すと綾女は結界の存在する方向に向かって走り出した。

 直ぐに行き止まりの場所に結界は見つかり綾女は《魔法少女》としての姿に変身し栗栖は武器である箒を構えた。

「今日は見本を見せてあげるから無理に戦わなくても良いわよ。勿論、自分の身位は守って貰う事になるけど」

 そう言い捨てると綾女は箒を左手に具現化させると《使い魔の群》に対して向かって行く。

 一方的な狩りの始まりだった。

 綾女の強さはこの結界内に存在する《使い魔の群》を凌駕していた。

 一つ一つ、自分の魔法を栗栖に見せ付ける様に殲滅して行く様子は確かに栗栖の見本となったが、栗栖は戦いの中でそんな事をする事への疑問を抱いていた。

 やがて群の大半が綾女に退治された時、最後に残った一匹が栗栖に向かって来る。

 綾女は直ぐに攻撃に移ろうと飛び放つ箒の穂先を栗栖の方に向けたが直ぐに撃っては来なかった。

 栗栖はその意図を直ぐに察すと箒に魔力を込めた。

 目の前に《使い魔》が到着すると同時に栗栖は一切の躊躇をせずに魔力を込めた箒で一文字に切り裂く。

《使い魔》は成す術も無く栗栖の前で霧散して行った。

「お見事。もし意図が掴めない様だったら一応は助けるつもりだったけど、杞憂だった見たいね。後は実戦あるのみよ」

 結界が崩壊した行き止まりの場所で綾女は栗栖にそう告げた。

「はい。自分はもっと実戦を積んで強くなりたいと思います」

 栗栖は自分で良く考えた末の決断を話した。

「良いわね。じゃあ夜にはまた魔法のお勉強をしましょうか」

「はい」

 言葉を交わし栗栖と綾女は行き止まりの路地を去って行った。

 

 

 それから数日間、栗栖と綾女は行動を共にしていた。

 午後16時から17時まで一時間だけのパトロールを共にした後は夜、眠る前に《思考空間》における魔法の勉強会。

 その間に何度か《使い魔》と戦闘になったが綾女と栗栖の前では敵では無かった。

 やがて・・・。栗栖と綾女がパトロールをしている時、《魔女の口付け》を施された人物を発見した。

「あれが《魔女の口付け》を施された人ですか?」

「そうね。この魔力のパターンから間違いは無いわ」

 綾女の示した方向には、1人で歩いている人がいた。

 その制服は栗栖の見知った山茶花中学校の制服を着た音切薊だった。

 驚きは無かった。

 以前、綾女から強い不安を抱いている人間は《魔女の口付け》の影響を受け易いと聞いた事がある。

 常盤はまだ目覚めない。

 その事で薊が強い不安やストレスを感じていたとしても不思議では無かった。

「着いて行けば《魔女》のいる場所まで連れてってくれそうね」

 嬉しそうに綾女は語る。

 その表情から栗栖は綾女の感情を少しは楽が出来て喜んでいると分析した。

「《魔女の口付け》を受けた人はどうするのですか?」

「そうね。そのまま見殺しにしても良いし囮として使うも良いし助けても良いわね。まあ夢見が悪いのなら助けるのをお勧めするわ」

 どの様な選択をしようとも構わないと言う部分を隠す事無く綾女は答えた。

 答えを聞いて栗栖はまず常盤の事を考えた。

 薊が傷付いたと知れば常盤は悲しむだろうと思う。

 常盤を悲しませるのは栗栖が思う所の友達が行う行動とは思えなかった。

「助けた方が良いと思います。友達の・・・。友達なので」

「そう。それならそうすれば良いと思うわ」

 綾女の声には栗栖を非難する色は無くただ淡々と出来事を述べているに過ぎなかった。

 薊が結界の入り口のある線路の高架下の通路に辿り着いたと同時に栗栖は《魔法の種》を発動させた。

 綾女から魔法を習った栗栖は同じタイプの魔法を使う事が出来る。

 《魔法の種》の種類はスリープ(眠り)!

 栗栖の放った《魔法の種》が突き刺さると同時に薊は倒れてその場で眠りに落ちた。

 念の為に栗栖は薊の様子を見てみた。

 確かに薊は眠っている。

「魔法の扱いも上手くなったわね」

 そう言いながら綾女の目は結界の入り口に怪訝な表情を浮かべていた。

「それに・・・。どうやらこの結界を作っている《魔女》は、栗栖さんが探している《魔女》ね」

《異形のナニカ》=小梅孔雀が融合した《魔女》の作った結界。

 そう言えばホームルームで小梅孔雀が行方不明になった事を担任が語っていたが栗栖は興味が無かったので聞き流していた。

 どうせもう小梅孔雀が助かる事は無い。

 栗栖の心にふと余り感じた事の無い感情が湧いたが、心で押さえ込んだ。

 冷静にあの《魔女》を確実に殺す。

 栗栖の抱く殺意は研ぎ澄まされる。

「綾女さん。この《魔女》は、自分に殺させて下さい」

 栗栖の言葉を聞いて綾女は直ぐに答えを返した。

「良いわよ。じゃあ《使い魔》は私が倒すわ。ただし私の命が脅かされると判断すれば勝手に動くからそのつもりで。状況によっては栗栖さんを見捨てて行く事になるわね」

 そう告げる綾女の表情に不自然な点が見られない事から栗栖にも本気でそう思っている事が伝わった。

「それで構いません。今度こそ抱いた罪を償わせます」

 表情は変わらないが研ぎ澄まされた刃物の様な雰囲気を醸し出した栗栖と冷静な視線で観察する綾女は《魔法少女》としての武装を整えると結界へと突入した。

 結界の内部を進むのは簡単だった。

 ベテランである筒地綾女、その指導を受けた阿瀬比栗栖の前には《使い魔》如きでは傷害物にもなり得なかった。

 直ぐに最深部へと辿り着くとそこには《異形のナニカ》=小梅孔雀が融合した《魔女》が鎮座していた。

 色取り取りの羽を見せびらかす《羽の魔女》の前に栗栖は迷わず進んで行く。

 離れた場所から観察する綾女の眼前で《羽の魔女》が伸縮する羽を栗栖に叩き付けようとしたが、栗栖は難なく交わすと右手に生成した《魔法の種》を《羽の魔女》にぶつけた。

《魔法の種》がぶつかった瞬間に《羽の魔女》の身体を構成する羽が溶け出した。

「なるほど。《硫酸の種》(スルホンシード)を使った訳ね」

 悲鳴を上げる《羽の魔女》を見ながら綾女は呟いた。

《羽の魔女》は怒りのままに栗栖に突進して行く。

 それを見ると栗栖は駆け出した。

 駆け出しながらも新たな《硫酸の種》を次々と《羽の魔女》へとぶつけて行く。

 しかし綾女の見た所では、栗栖の放つ《硫酸の種》の威力では精々、《羽の魔女》の羽を溶かすだけで致命的となる様な威力を持ち得なかった。

 けれど栗栖の動きには迷いが無く何かをしようとしている事だけは察する事が出来た。

(栗栖は何かをしようとしている?)

 そう綾女が結論付けた時、《羽の魔女》が栗栖によって次々と放たれる《硫酸の種》から自分の身体を守る為に無数の羽を犠牲にする事によって耐え切って栗栖の真正面まで近付いて来た。

「ッィ!」

 思わず綾女は左手に手にしている箒を構えた。

 けれど慌てる事無く栗栖はまた《硫酸の種》を《羽の魔女》へと投げた。

《羽の魔女》は意に解する事無く栗栖に体全体でぶつかろうとする。

 必然的に《羽の魔女》の身体に《硫酸の種》がぶつかった。

 同時に《硫酸の種》がぶつかった箇所から《羽の魔女》の体全体が甲高い音を立てて解け始めた。

《硫酸の種》から発せられる硫酸は魔力によって調整されており《魔女》にだけ降りかかる様にされている。

 全身が解けて既に行動する事すら出来ない《羽の魔女》に対して栗栖の行動は躊躇が無かった。

 手にした箒の穂先を倒れた《羽の魔女》へと向けて全身を突き刺して行く。

《羽の魔女》が苦悶の声を上げても無視して刺し続けた。

「初めの攻撃は威力を押さえていたのね・・・。威力の弱い攻撃を繰り返す事で相手に自分の攻撃は対した事が無いと思い込ませる。それにしても・・・」

 綾女は痛覚遮断しているにも関わらず異臭を感じる様な気がした。

 それほど栗栖の戦い方を綾女はえげつなく思えたが、否定する気にもならなかった。

 動けなくなり虫の息となった《羽の魔女》に対して栗栖は右の掌に乗せられるだけの《硫酸の種》を精製すると足蹴にした《羽の魔女》の全身へと少しずつ落として行った。

 じわじわと僅かずつ全身が解かされても《羽の魔女》は苦悶の声を上げる事すら無かった。いや。出来なかったのかも知れない。

 そうした行動を取る栗栖の表情は普段と同じ無表情の筈なのだが・・・。

 綾女には暗い笑みを浮かべている様にも見えた。

「ぎゃぁあああああああ」

 不意に悲鳴が響くと同時に結界は崩壊し、その場所は元の線路の高架下にある通路に戻った。

 驚いた綾女が視線を向けると栗栖の足元には栗栖と同じ位の少女、小梅孔雀が栗栖によって足蹴にされていた。

 どうやら《羽の魔女》が倒された事で孔雀は解放されたらしかった。

「ひぃいいいいいい。くっ栗栖さん。あなたは何をしたの!?わたくしは一体!?そうだ!わたくしは、あなたに!?暴力を振るわれた!そう。それで・・・。先程はわたくしの身体を溶かされた!でもどうして身体が無事なの!?まだ足りないと言うの!?あれだけ暴力を振るっておいてまだ足りないからまたわたくしを襲うつもりなの!?嫌!・やめて!?来ないで!?うぁああああああ!?」

 大きな悲鳴と支離滅裂な事を叫びながら孔雀は栗栖を足からもがいて離れると薊が倒れている方向とは真逆の方向に走って行った。

 栗栖には最早、追おうと言う気持ちが生じなかった。

 正直、もうどうでも良かった。

(栗栖。足元に落ちているグリーフシードを拾わないと)

 と栗栖が肩に引っ掛けていた鞄にしまっているパペットキュウべえから指摘を受けて素直にグリーフシードを拾い上げた。

「上出来ね。もう私の指導は必要無いわね」

 近付きながら綾女はそう語った。

「そうなのですか?」

 自身ではそうした判断を取る事が出来ない栗栖はキョトンとした表情を見せた。

「そうよ。一応、栗栖さんが単独で《魔女》を撃退する事が出来る様になったなら卒業と言う形にするつもりでいたのよ。だから私とは今日でお別れよ」

 そう言いながら綾女は自分の声に少しだけ寂しげな声色が混じった事に驚きを感じていた。

(もう私は朱奈以外に関心が無い筈なのに・・・)

 と思いながらも目の前にいる栗栖がそうした考えを読み取る事が出来ない存在だと思い出し安堵した。

「分かりました。自分は感謝しています。綾女さん」

「そう。ありがとう。栗栖さん。それじゃ」

 そう告げると綾女は孔雀が逃げ出した方向へと歩き出すと直ぐに立ち止まると栗栖に告げた。

「そうそう。ちゃんと友達の友達を助けないと駄目よ」

 綾女の指摘を受けると栗栖は直ぐに倒れたままにしている薊に駆け寄った。

 幸い魔力で自分が探った限りでは外傷は無い様だった。

 軽く身体を揺すってみると薊は直ぐに目を覚ました。

「音切君。大丈夫ですか?」

「阿瀬比さん?俺は・・・。どうしてこんな所で?」

 薊の表情には困惑の色が深く表れていた。

「自分が見つけた時には倒れていました」

 栗栖がそう告げると薊は栗栖が形容出来ない表情を見せた。

「疲れたのかな・・・。恨みを抱く事に・・・。阿瀬比さん。もう大丈夫だよ。ありがとう・・・」

 そう言って立ち上がると薊はしっかりとした足取りで立ち去って行った。

 少なくとも心配は無いと栗栖にも思えたので栗栖も帰路へと付く事にした。

 帰り道を歩いていると前方を走っている車から突然、ドンと言う大きな音がした。

 栗栖は関心を抱く事無く横を通り過ぎて横断歩道を渡った。

 その時、栗栖の視界には嫌が負うにも車に跳ねられ横断歩道の近くに突き飛ばされた小梅孔雀だった遺体が目に写った。

(・・・・)

 特に思う事は無く騒ぎを他所に栗栖はそのまま帰路へと付いた。

 

 

 次の日・・・。

 朝のホームルームにおいて担任が行方不明となっていた小梅孔雀が昨夜、交通事故にあって死亡した事を述べた。

 クラスの中で仲の良かった女子達がすすり泣いていたが栗栖は何も感じなかった。

 栗栖の視界に前の座席を座る薊の何とも言えない表情が視界に入った。

 それは栗栖には察する事が出来ない感情の様でもあった。

 放課後になると栗栖は1人で近所の巡回を行っていたが《魔女》や《使い魔》の気配を感じる事も出来なかった。

 夕方と言う時間を告げる市内のチャイムが鳴り響く。

(帰りますか)

 何時も通りにそう思うと栗栖は自宅への帰路に着いた時、視界に思いがけない人物が目に入った。

 黒いスーツ姿の綾女さんが前方を歩いていた。

 隣には自分の知らない自分よりも年下と思われる少女と手を繋いで自分の見た事が無い表情を見せながら綾女さんが歩いていた。

(あれが朱奈さん・・・)

 以前、綾女は栗栖に対して「朱奈って言う子と一緒に旅をしている」と自分の事を僅かながらに語っていた。

 綾女と朱奈の様子を見ながら栗栖は、2人の雰囲気が常盤と薊の醸し出していた雰囲気と共通する事に気が付いた。

(邪魔をしてはいけない)

 栗栖は思い浮かんだ感情に従って普段と違う道を通って綾女と朱奈から遠ざかった。

 そしてこれが栗栖と綾女の別れともなった。

 

 

 

 

 数ヵ月後・・・。

 パトロールで見つけた《使い魔》を倒した栗栖にパペットキュウべえがテレパシーを送って来た。

(栗栖。綾女が・・・。《魔女》になったよ)

 ソウルジェムとグリーフシードの因果関係を知っている栗栖からすれば当たり前の事とも言えた。

「そうなのですか。自分は残念だと思います」

 感情を伴わない声で栗栖はそう答えた。

「朱奈さんはどうなったのですか?」

 何故、自分がそうした質問をしたのか?

 言葉を発しながら栗栖は驚いていた。

(朱奈はね・・・。綾女に関する記憶を封印されて彷徨っているよ。最も僕の本業には係わり合いが無い存在だけど観察だけはしているよ)

「そうなのですか」

(どうして朱奈の事を質問したんだい?)

 パペットキュウべえからのテレパシーを受けて栗栖は考えたが理由は自分でも分からなかった。

「自分でも分かりません」

(ふーん。そうなんだ。人間ってやっぱり不思議だね)

 パペットキュウべえとの語らいの中で自分が朱奈に関心を抱いた理由を測りかねながら栗栖は夜空を見上げた。曇り空で星は見えない。

 

 

 

 

 栗栖が就寝しようとした時、大きな魔力の波動を感じ取った。

 それも小さな《使い魔》の魔力を《魔法少女》の大きな魔力が押し潰している事が栗栖にもハッキリと感じられた。

 そうした情報から栗栖は直ぐに推測をしてみる。

 まず栗栖が感知出来るか出来ないか微妙なレベルでの魔力しか持ち得ない《使い魔》を大抵の《魔法少女》ならば否が応でも感知してしまう程の大きな魔力を用いて《使い魔》を退治したと言う事が導き出せる。

 けれどここからが問題でもあった。

 大きな魔力を使ってしまえば自分の存在が判明してしまう。

 つまり相手は自分の存在を隠すつもりが無いと言う事も分かる。

 そこから考えられるのは、《相手の魔法少女》は自らの存在を目立たせ《魔法少女》を誘き寄せたいと考えられると栗栖は推測出来た。

 そう思いながら栗栖は制服に着替えると布団の中にクッションや鞄を入れて自分の替え玉を仕立てると窓から外へ飛び出した。

 魔力を用いて跳躍しながら武器である箒を取り出し魔力を感知した方向へと向かった。

(また誰かが秩序を乱したのでしょうか?)

 栗栖は《半魔法少女》となってから《他の魔法少女》との諍いを幾度か経験したが、その度に相手を退けて来た。

《半端な魔法少女》である栗栖が、奇跡によって力を得た《完全な魔法少女》を退けられたのは綾女のお陰でもあった。

 栗栖に魔法を教えていた時、綾女は栗栖に《魔女》との戦闘を想定した訓練以外にも

《対魔法少女》を想定した訓練を施していた。

 綾女の施した訓練と知識によって栗栖は《半端な魔法少女》でありながら《完全な魔法少女》に匹敵する強さを持ち合わせていたのだ。

 魔力を感知した夜の神社に《その魔法少女》はいた。

オレンジ色の髪をポニーテールに纏めて短刀を握りこちらに向かって来る栗栖の事を見据えていた。

「その魔法・・・。どうやら当たりみたいだな!」

 叫びながら《短刀の魔法少女》は跳躍中の栗栖に向かって跳躍し突進して来た。

 突然、相手が突進して来た事に栗栖は冷静に対処をした。

 そのまま相手に向けて箒の穂先を向ける。

 この箒の穂先は鋭く尖っており魔力によって二段階に分けて銃弾の様に発射が可能だった。

 栗栖が穂先を撃とうと柄にある引き金を引こうとした瞬間に《短刀の魔法少女》は急激にスピードを上げて栗栖との間にあった距離を一気にゼロまで詰めた。

「!」

 驚いた栗栖の瞳に全身から血を流しながら栗栖の事を見据える《短刀の魔法少女》の姿が写った。

 身体に衝撃が走る感覚で栗栖はようやく自分が地面に叩き落された事を認識していた。

 既に息の上がった《短刀の魔法少女》は栗栖に武器を突き付けていた。

「うおい。テメー。その魔法の使い方・・・。テメーは筒地綾女の作った実験台の1人だろ!あたしゃの質問に答えりゃテメーの事なんかどうでも良い。質問に答えろ!」

 栗栖の目にも必死に写る表情で《短刀の魔法少女》は暴力的に告げて来た。

「名前を名乗らない相手に答える事はありません」

 栗栖の返事に《短刀の魔法少女》は逆上した様子を見せて来た。

「テメー。それは・・・」

 けれど急に何かに気付いた様な様子を見せると言葉を切ると呼吸を整えると告げた。

「あたしゃ《沙我樹理亜》(しゃがじゅりあ)って《魔法少女》だ。これで良いだろ?」

「自分は阿瀬比栗栖です。質問をどうぞ」

「筒地綾女の居所を知っているか?」

 複雑な表情を見せた樹理亜は栗栖にそう言って来た。

「いいえ。知りません」

「なら朱奈って言う少女の行方は知ってるか?」

「いいえ。どちらも自分は知りません」

「そうか・・・。じゃあもう用は無いな」

 樹理亜は栗栖から武器を放し立ち去ろうとする。

「綾女さんや朱奈さんを見つけてどうするつもりですか?」

「そんな事、テメーには関係ないだろ?」

 呆れた表情で樹理亜は栗栖を見つめていた。

「危害を加えるつもりなら見過ごす訳には行きません」

「確かに危害を加えるかも知れないな。状況によっては」

 そう言いながら皮肉から来る笑みを浮かべた樹理亜は武器である短刀を構え直していた。

 既に栗栖も武器である箒を構え直している。

 今度は栗栖が箒の先端を樹理亜へと向けたまま突進したのを見ると樹理亜は短刀を両手に構え栗栖へと向かって行く。

 直線で結ばれ、ぶつかり合おうとする栗栖と樹理亜。

 栗栖は箒を向けて来たのを見て樹理亜はこれから来る栗栖の攻撃を予想していた。

 このまま箒の穂先で突くか穂先を全弾発射して来るかのどれかだと予想できる。

 穂先を発射して来るなら魔力を一点集中しての瞬発力で横へ飛ぶと同時に一気に栗栖との距離を詰めて戦闘不能にすれば良い。

 樹理亜がそう考えていると栗栖は箒の穂先を発射して来た。

(予想通り!)

 想定した通りに穂先が飛んで来ない横へ飛ぶと同時に前へと跳躍した樹理亜にとって予想外の事が起こった。

 なんと栗栖の発射した穂先は真っ直ぐに飛ぶ訳では無く栗栖本人のいる地点を除いた全方位へと拡散したのだ。

 予想外の攻撃に樹理亜は防戦一方となるのを見た栗栖は真っ直ぐに駆け出して箒の柄を樹理亜へと向けて、そのまま胸部を突いた。

「ガッ!?」

 胸を突かれた樹理亜は神社の外へと飛ばされて行く方向を見定めた栗栖は直ぐに駆け出した。

 戦いにおいて相手が完全に戦闘不能となるまで油断をしては行けない。

 筒地綾女の教えに忠実にしたがって栗栖は樹理亜が落花した場所へ駆け出した。

 ところが落花した場所には既に樹理亜はいなかった。

 魔力を感知する事が出来ずどうやら逃げられたらしいと栗栖は判断した。

 そのまま自宅へと帰還した栗栖の脳裏にテレパシーが響いた。

(栗栖。ちょっと良いかい?)

 パペットキュウべえを解してのキュウべえのテレパシーだった。

(どうしたんですか?)

(君が戦った沙我樹理亜と言う《魔法少女》について君は知りたいと思うかい?)

(そうですね。自分は知って置きたいと思います。朱奈さんに危害を加えるかも知れないとも言っていました。彼女は何を目的に動いているのですか?)

(朱奈を狙うと言う事は朱奈の持っている《右目の呪い》が目当てだとは思うんだけど・・・。けど樹理亜は僕にも目的を話そうとしない。何をしようとしているのか僕にも分からないんだ)

(それは自分に沙我樹理亜を止めて欲しいと言う事ですか?)

(そうだね。栗栖がそうしたいと言うのなら情報の提供は惜しまないよ)

 そう言われて栗栖は少し考えてみた。

 何故、会話をした事の無い朱奈さんの事が気になるのだろう?

 綾女さんと朱奈さんの様子から見て2人が互いを大事にしているのが分かる。

 それは常盤と音切君も同じ事。

 互いの思いを分かち合っている2人に対してちょっかいを出すのが認められないからだろうか?

 違う。そうだ。沙我樹理亜の行動は小梅孔雀と同じだ。

 望む結果を得られないから暴力で物事を収めようとする。

 それは秩序を乱す行動。

 筋道が定まると栗栖はパペットキュウべえにテレパシーを返した。

(沙我樹理亜が朱奈さんを襲おうとするのを自分は認められません。キュウべえ。出来るだけの情報を提供して下さい。自分が沙我樹理亜を止めます)

(分かった。栗栖がそう望むなら僕は情報の提供を惜しまないよ。彼女の行動は僕にとっても不可解だからね) 

 

 気が付くと彩月の視界に写る風景は元の公園に戻っていた。

 思わず腕時計を見ると30分しか経過していなかった。

 けれど彩月にとっては記憶の持ち主である栗栖と同じ位の体感時間を感じていた。

 たったの30分とは、彩月には信じがたかった。

「どうですか?これで菖蒲さんにも自分が朱何さんを守ろうとしている理由が分かったと思います」

 ソウルジェムを指輪に戻しながら栗栖は彩月の顔を覗き込みながらそう告げて来た。

「そうやな・・・。阿瀬比さんが朱奈の味方なんは分かった。それと・・・。ウチと朱奈を襲った《魔法少女》が・・・。沙我樹理亜と言う名前と言う事も分こうた。ところで阿瀬比さん。これからも朱奈の事を守るんかい?」

 栗栖が先輩である事を感じ取った彩月は目上の人間に対する丁寧な言葉使いで栗栖に確認の意味を込めて話し掛けた。

「はい。自分は可能な限り朱奈さんを守りたいと思います」

「今度はいつ沙我樹理亜が現れるんやろか?」

「それは自分には分かりません。けれど襲撃しようとするなら自分は必ず駆け付けます。朱奈さんの救出を最優先しますが、朱奈さんの友人である菖蒲さんも出来る限り助けたいと思います」

 聞きながら自分の顔色が変化するのを彩月は押さえられなかった。

 栗栖の言葉には暗に朱奈を助ける為に必要なら彩月を見捨てると言う部分に感付いたからだ。

(まあ当然の事やろうな。気付いてない様やけど、阿瀬比さんは綾女さんと朱奈の関係を自分の友人2人の関係に近いと思うてる。だからその関係性=阿瀬比さんに取っての理想とも言える秩序を守る為に行動しとる事に気が付いて無いんやね・・・)

 抱いている感情に気が付かないのか、見て見ぬ振りをしているのか彩月には分からなかったが収穫は得られた。

 今の所、阿瀬比栗栖は信用する事が出来ると。

「もしウチと朱奈が一緒にいる時に沙我樹理亜が現れたら頭で阿瀬比さんを呼べば得えんか?」

「はい。知らせてくれるなら知らせてくれるに越した事はありません。どの道、朱奈さんにはキュウべえが張り付いて観察をしていますから」

「今も観察しているんか?」

「自分には分かりません。《半魔法少女》である自分は常時、キュウべえと連絡を取り合っている訳ではありませんので。キュウべえ。どうなのですか?」

 会話の途中で栗栖は鞄からパペットキュウべえを取り出すと右手にはめ込んだ。

(うん。今の所、朱奈の周囲に沙我樹理亜は現れていないよ)

「朱奈さんに異常は無い様です」

 栗栖はキュウべえからのテレパシーの内容をそのまま彩月へと伝えた。

「なら阿瀬比さん。用は済んだし今日は帰らして貰うで」

 そう言って彩月はベンチから立ち上がった。

「分かりました。菖蒲さん。出来たら朱奈さんには自分の事を伝えないで下さい」

「何でや?」

「伝える事は無いと思います。世の中には知らなくても良い事がある。違いますか?」

 栗栖の言葉に含まれた意味を感じ取るのに少しだけ時間が掛かったが彩月は裏の意味に気が付いた。

《半魔法少女、阿瀬比栗栖》の事を伝えるとすれば朱奈に綾女の事を思い出させてしまう。

 それに《魔法少女》と関わると言う事は、《魔女》や《使い魔》と関わると言う意味でもある。

 散々、《右目の呪い》に苦しめられた朱奈にこれ以上、辛い思いをさせる必要は無いと彩月も思った。

「得えで。ウチは阿瀬比さんの事を朱奈には話さへん。最後に1つ聞きたい事があるんやけど?」

「何でしょう?」

「栗栖さんのソウルジェムを宝石にして見せてくれへん?」

「分かりました」

 答えながら栗栖は右手に付けていたソウルジェムを再び宝石状態にして見せた。

 卵形のソウルジェムは周囲を白く装飾しオレンジ色の宝石が光り輝いている。

「なるほど。やっぱり阿瀬比さんが持っていたソウルジェムはウチの持っている記憶通りなんやね」

「?」

 ベンチに座ったままの栗栖は怪訝に首を傾げた。

「気にする事無いで。これはウチの持っている記憶の確認に過ぎないんやから」

 そう告げると彩月は栗栖に背を向けて公園を出て行った。

 去り際に後ろを振り向くと栗栖も荷物を持って公園から出て行くのが見えた。

「契約が出来ない以上、ウチも朱奈も阿瀬比さんを頼る他、ないんやな」

 悔しさを抱き口に出す事で思いを整理した彩月は今度こそ帰路に着いた。

 空の色は夕方を示す曖昧な色を見せている。

 それは計る事が出来ない未来を表している用に彩月は感じていた。

 

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