偽書魔法少女じゅりあ×くりす☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI JURIA×KURISU MGICA 作:ジャックノルテ
次回はもっと文章量を多くしたいと思います。
彩月と会話した後、栗栖はいつも通りに市内のパトロールを17時まで行うと直ぐに帰宅した。
母親とはそれなりの会話を行い自室に戻ると宿題を行った。
宿題を終えた栗栖がふと机の脇に目を向けると写真立てが目に入った。
そこには両親と幼い頃の栗栖が写った写真と常盤と栗栖が写った二枚の写真が飾られていた。
(どうしたんだい?栗栖)
写真に見入っているとキュウべえがテレパシーを送って来た。
(何でもありません。ただ過去を思い出していただけです)
(過去か。人間はそうやって過去を思い出す事で何かを得るみたいだけど栗栖は何を得たんだい?)
キュウべえのテレパシーを受けて栗栖は考えて見た。
(常盤の写真を見て安堵を覚えました)
答えながら栗栖は追憶をした。
○
常盤が倒れてから数日後、栗栖は街中を走っていた。
休日である今日、自宅へ意識不明だった常盤の意識が戻ったと言う連絡が入ったからだ。
母親から知らされると同時に栗栖は直ぐに家を飛び出した。
(直ぐにでも常盤に会いたい。理由は分からないけど、とにかく会いに行きたい)
そうした衝動とも言うべき感情を理解出来ないままに栗栖は街を走る。
病院へ入ると流石に走るのを止めて普通に院内を歩いた。
栗栖にもそう言った良識は存在している。
常盤の病室を見つけて入ろうとした時、2つの声が響いて来た。
それは常盤と薊の声だった。
楽しげに会話するその様子に栗栖の中で戸惑いを抱いた。
果たしてこの場に入って良いのだろうか?
2人の楽しげな様子は栗栖にも感じ取る事が出来た。
(自分と言う異物が入る事でそうした雰囲気が乱れるのでは無いか?)
秩序を乱す事を嫌う栗栖らしい発想とも言えた。
栗栖の頭の中には綾女と朱奈の様子も思い出された。
(これは2人だけがいるべき領域。自分がいるべきでは無い)
そう結論付け病室に背を向けて去ろうとした時、病室のドアが開く音がして驚いた栗栖が振り向くとそこには薊が立っていた。
「阿瀬比さん。常盤が待ってる。さあ来て」
薊に促されて栗栖は病室に入った。
頭に包帯を巻いた常盤は嬉しそうな笑顔を栗栖に向けた。
「栗栖。久しぶり。あたしに何も言わないで帰ろうとするなんて酷いよ」
「すみません。自分がいては、不都合、と思いました」
「そんな事無いよ。あたし、薊君だけじゃなくて栗栖にも会いたかったから」
「それでしたら良いのです」
暫くの間、常盤と栗栖、それに薊の3人で他愛の無い話をしていた。
話が一段落すると常盤は不意に神妙な表情を見せて喋り出した。
「あたしね・・・。落ちた前後の事を良く覚えてないんだ。でもこうやって薊君や栗栖と話してて自分は大切な事を忘れてないって確信が抱けたんだ。だから・・・。あたし、2人には本当に感謝してるよ」
嬉しげな表情で涙を流しながら常盤はそう語っていた。
常盤は検査を終え次第、退院して再び同じ学校に通う事が分かり栗栖は良かったと思っていた。
どうして良かったと思ったのか栗栖は自己分析をすると日常と習慣が戻る事を安堵していると結論付けた。
暫くすると栗栖と薊は見舞いを終えて病室を出た。
2人で並んで歩いていると薊が誰に言う事無く喋り出した。
「俺は・・・。常盤が誰かに落とされたんだと思った。違う。思いたかったんだと思う。単なる事故だったのに心に抱いた憤りを押さえ切れなくていもしない敵を作って憎んでた・・・。俺ってバカだよな・・・」
「自分はそうは思いません」
薊の言葉を聞いた栗栖は反射的に返事をしていた。
「自分の様な態度よりも音切君の様に喜びや怒りを、押さえながらも見せられる方が人間らしいと思います」
栗栖の返答に薊は複雑な表情を見せた。
「でも俺は自分が怖いよ。だから・・・。心を鍛えないといけないのかも知れないな」
「生きていれば心は経験し考え鍛えられると聞いた事があります」
「そうだね。俺達は・・・。心を鍛え続けなきゃいけないんだな・・・」
並んで歩く栗栖から見れば薊は強い人間と思えた。
けれど薊本人は未だ自分の心の強さを測りかねている様でもあった。
栗栖も自分の事を考えてみるが結論は出なかった。
(心の強さ・・・・。自分にもあるのでしょうか?)
疑問を心にメモして栗栖と薊はそれぞれの帰路に付いて行った。
○
常盤が退院してから栗栖は意図的になるべく常盤との関わりを減らそうとしていた。
《半魔法少女》である自分と接してしまえば何時か常盤を傷付けてしまうかも知れないと考えたからだった。
けれど常盤との関わりが減る事は無かった。
常盤は薊と付き合いながらも栗栖との付き合いを絶やす事は無かった。
疑問に思いながらも栗栖はその疑問を常盤に話す事は無かった。
話す事は間違っていると感じていたからだ。
(何故なのでしょう?人間と言うのは異性の相手を優先して行動する筈では無いのでしょうか?)
(それは僕にも分からない。人間は感情の動物だからね。けどそれが人間らしいと言う事に繋がっていると僕達は計測しているよ)
誰に言う事無く思った栗栖の思考にキュウべえは返事のテレパシーを返した。
(自分はインキュベーターに近い人間かも知れない)
思いながら栗栖は机の上にあった写真立てを手に取り眺めた。
両親と幼い栗栖が写る写真を見て栗栖は自分の過去を思い出して見る事にした。
○
栗栖が覚えている記憶で最も古い物は、大きな手が自分を撫でている風景だ。
大きな手の主は栗栖の父親。
血を流し手は真っ赤に染まっている。
真っ赤に染まった手で自分を撫でている。
後から父親の死因は車が追突した事による交通事故だったと聞いた。
単なる交通事故で父親は栗栖を庇って死んだ。
4歳の栗栖も頭を打ってケガをしたがそんなに大きなケガでは無かった。
けど髪の毛には白髪が多く混じる様になり視力も落ちて眼鏡を掛ける様になった。
栗栖の母親は、何とも言えない我慢するかの様な表情で栗栖の髪を毛染めで黒く染めた。
「どうしてくろくするの?」
普段と異なる母親の行動に栗栖は質問をしてみる事にした。
「栗栖の年でこんなに白髪があるんじゃ恥ずかしいでしょう?」
母親にそう言われても栗栖には言葉の意味を理解する事が出来なかった。
「はずかしくない」
「でも・・・。お願いだから染めさせて頂戴」
「はい」
栗栖にはどうして母親が、そう言い出したのかは、分からなかったけれど、髪の毛を染める事を了承した。
それから母親が暫くして家に友人を招いてお喋りをしていた。
栗栖はたまたま客間の前を通ろうとした時に母親が友人に話しているのを聞いてしまった。
「栗栖の事なんだけど・・・。他の子供の様子と比べてみると・・・。比べてしまうのは良くない事何だけど・・・。どうも笑わないのよ。喜怒哀楽を殆ど示さなくって・・・。まるで何にも関心が無いみたいなの。この間も誕生日だから欲しい物はあるの?って聞いたら何もいらないって。別に家の家計が苦しいとかそんな事も無いのにそんな事を言うなんて・・・。信じられる?あの子、まだ小学1年生なのに・・・」
そんな会話を聞いたけどやっぱり栗栖は何も感じなかった。
感情を理解したいとも思わなかった。
ただ母親が何故、そんな事で悩むのか理解が出来なかったのが分からなかった。
でもこの事を何故か栗栖はずっと覚えていた。
それから暫くして栗栖は母親の友人であるクリスティーナと言う人の所に母親に付き添われ月一で通う様になった。
ただお話をするだけだったけどやがて栗栖はクリスティーナさんが、カウンセラーだと知った。
母親は栗栖の様子を心配してクリスティーナさんに相談してカウンセリングを受けさせている様だった。
最も当時の栗栖にはその意味を考える事が出来なかったが。
栗栖の話を聞きながらクリスティーナさんも母親との事を話してくれた。
クリスティーナさんは母親が昔、ホームステイ先で出会った親友との事だった。
母さんは親友であるクリスティーナに肖り自分に栗栖と名付けたと言っていた。
クリスティーナさんは今、日本に進出している某海外企業専属のカウンセラーをしているとの事だった。
「母さんは自分に笑って欲しいと思っているのですか?」
栗栖はクリスティーナさんにそんな質問をぶつけた事がある。
「ソウネ。キット笑ッテ欲シイト願ッテイルノカモ知レナイワ。デモネ。タダ笑ウ事ト心カラ笑ウ事ハ、全ク別の事ナノヨ。ダカラネ。栗栖ガ心カラ笑エルノヲ待ツ事ガ大切ダト思ウノヨ」
クリスティーナさんは栗栖の質問に答えてくれたが、栗栖にはまだ理解が出来なかった。
小学校を卒業した日にクリスティーナさんは、栗栖に小さな銀の髪留めをくれた。
「コレハ、ファザーガ、オ守リトシテ作ッテクレタ髪留メデス。シルバーニハ邪ヲ打チ払ウ事ガ出来ト言ワレテイルワ。コレカラ栗栖ヲ守ッテクレル筈ヨ」
「理解する様にします・・・」
それが栗栖に出来る精一杯の返事だった。
銀の髪留めには小さくChristina(クリスティーナ)と彫られていた。
折角貰った物なので毎日付ける様にした。
「栗栖。その髪留め、似合ってるよ」
「そうですか。ありがとうございます」
小学校からずっとクラスメートである釣鐘常盤は栗栖にそう言ってくれた。
常盤は栗栖を友達だと言ってくれる唯一の同級生だった。
交友関係の広い常盤と違い栗栖は、周囲から疎まれていた。
栗栖は秩序と調和を重視している。
それは小学生の時から変わらなかった。
だからこそ栗栖は小学一年生の時に事件を起こしてしまった。
学校は教員から授業を学び知識を高める為の場と自分は考えていたが、授業妨害を行なう生徒にとっては大声で喚く場所でしかなかった。
うるさく騒ぐ生徒の所為で授業がストップした時に栗栖は躊躇する事無く相手を殴った。
相手は栗栖よりも少し身体の大きい男子だったけれど拳で殴った。
栗栖は自分の力が弱いと言う事を知っていたから殴り返されながらも何度も相手を殴打し相手が泣き喚くまで殴り続けた。
途中で教員が止めるまで殴り続けた。
どうして殴ったのかと教員に聞かれた時、栗栖はこう答えた。
「授業が聞こえなかったから殴って黙らせようと思いました」
その後、殴った相手の家に栗栖は母さんと謝りに行った。
けれど相手の男子も普段からそうした問題行動を起こしていたので大きな問題にはならなかった。
それから授業中、クラスはとても静かになった。
みんな栗栖を恐れている様だった。
栗栖に話し掛けて来るクラスメートは常盤を除いていなくなった。
それでも栗栖は不自由しなかったが。
学年が上がる度にクラス替えがあり栗栖の事を知らない生徒が初日の授業で騒ぎ出すと必ず栗栖が殴った。
学年が上がるに連れて腕力の差が大きくなると栗栖は回りにある机や椅子、鉛筆等を武器として使う事で秩序を乱す生徒を黙らせる様になった。
ある時、うるさい生徒を殴ろうとした時、相手は栗栖のスカートに手を掛けてずり下ろした。
下着が丸見えとなってしまったが、栗栖は気にせず相手を泣き喚き許しを請うまで殴り続けた。
こうなると誰も栗栖を止められなかった。
スカートは破れてしまったので、その日は体操着とセットになっているハーフパンツを履いて帰った。
「ねえ栗栖。スカートを捲られて恥ずかしくないの?」
帰り道に普段より顔を赤くした常盤は栗栖にそう聞いて来た。
「自分は何とも思いません」
「でも周囲の人が困ってるよ」
「どうしてなのでしょう?」
栗栖がそう答えると常盤は困った様な表情を見せていたが暫くすると手をポンと叩いた。
それは常盤が何かを閃いた時の行動だと栗栖は知る事になる。
「ねえ栗栖。今度のお休みの日にあたしと服を買いに行かない?」
「13時から17時までなら良いですよ」
「じゃあ約束だよ」
「はい」
そして休みの日になると栗栖は常盤と2人でスポーツ用品店に赴いた。
「ここで服を買うのですか?」
「うん。ここには栗栖に必要な物があるから」
そう言って常盤が栗栖に示したのはスポーツウェアのコーナーにあるスパッツだった。
「今度からこれをスカートの下に履けば、もしスカートが捲られても誰も困らないよ」
「そうなのですか?では自分は、履くことにします」
栗栖はそう答えながら黒のスパッツを選んで3枚購入した。
「スパッツを履いていれば風邪の強い日にスカートを履いていても捲れるのを気にしなくて良いから便利なんだよ」
「言われてみればそうかも知れません」
「スカートを穿くなら捲れ上がったりするのを気にしなきゃ駄目だよ」
「分かりました。次からは気を付ける事にします」
公園のベンチで栗栖と常盤はそんな会話を行なっていた。
会話の殆どは常盤が振り栗栖が答える。
栗栖は常盤に話を振る事は無い。
しかし栗栖の答えの殆どは曖昧なモノで殆どの人間がつまらないと言えるモノだったが常盤は気にする事無く会話を続けていた。
その時、1時間おきに鳴り響く栗栖の腕時計が鳴り響いた。
時間を確認すると栗栖は常盤にいつもと同じ様に告げた。
「帰る時間です。自分は帰ります」
「うん。栗栖。また明日ね」
「はい。学校で会いましょう」
機械的とも取れるいつもと同じ返答を返して栗栖は帰路に着いた。
笑顔で見送る常盤の耳に17時と言う時間を告げる街のチャイムが鳴り響いた。
「せめてチャイムが鳴り終わるまでは付き合ってくれても良いのに・・・」
名残惜しそうにチャイムを聞いていた常盤もチャイムが鳴り終わるのを聞くと自宅への帰路を歩き始めた。
チャイムが鳴り響く前に栗栖が帰る事を常盤は気にしない。
大抵の子供ならチャイムが鳴り響いてから帰宅して行く。
けれど栗栖は自分の腕時計の時間を優先して帰宅する。
栗栖の事を知らない同年代の子供は栗栖の事を《付き合いの悪い子》と思いやすい。
けれど唯一の友人である常盤は気にする事は無かった。
中学生となると栗栖もある程度の自意識を持つ様になって来た。
それまで言いなりにしていた行動を自らの意思で行う様になった。
その1つとして栗栖は白髪を黒く染める事を母親に対して拒否した。
「自分は髪の毛の色を気にしません。だから染める事はありません。面倒な事は減らすべきです」
「でも栗栖。その髪の色は・・・」
「自分は気にしません。これが自分なのです」
そう言って栗栖は母親に髪の毛を黒く染めて貰う事を拒否した。
一ヶ月で栗栖の髪は半分を黒と白と言う本来の色をさらけ出す様になった。
教員からは注意を受けたが交通事故の後遺症と説明する事で納得させる事が出来た。
極端な色合いからか栗栖の髪と同時に存在その物も目立つ様になった。
幾つかの諍いやトラブルもあったが栗栖は、気にする事も無かった。
「ねえ。栗栖は、髪の毛をその色で良いと思っているの?」
「はい。これが元の色である以上、色を変える必要性があると思いません」
「そうなんだ。でもそれが栗栖らしいんじゃないかな?」
常盤はそう言って栗栖を励ましたが、栗栖はそれを完全に理解は出来なかった。
励ましと言う感情自体を栗栖は、未だ理解し切れなかった。
○
過去への追憶を終えた栗栖が時計を見ると時刻は23時を回っていた。
こんなに過去の出来事を思い返したのは久しぶりだった。
きっと菖蒲彩月との語らいで刺激を受けたからかも知れないと栗栖は思った。
(ではキュウべえ。自分は寝る事にします。沙我樹理亜に動きは無いのですね?)
念を押す様に栗栖はキュウべえにテレパシーで質問した。
(そうだね。今日、沙我樹理亜の動きは見られないから安心して良いと思うよ)
(分かりました。では寝る事にします。お休みなさい)
(お休み栗栖)
就寝の挨拶を終えると栗栖は眠りに付いた。
いつもと同じ様に直ぐに意識は眠りに付く事が出来た。
○
その頃、サザンカ市内にあるマンションの屋根に沙我樹理亜は横たわっていた。
樹理亜もどうしても眠る事が出来ず星を眺めていた。
けれど思い出してしまった事を樹理亜は心から締め出す事が出来ないでいた。
あの時、朱奈の呟いた一言が原因となって・・・。
「どうしてなんだ?どうしてあたしゃ思い出しちまったんだ?」
同時刻、グループホームで朱奈は、布団の中で中々寝付けないでいた。
彩月が結局、学校に来なかったと言う小さな変化に朱奈は戸惑っているのかも知れなかった。
それに昨晩から朱奈はある人物の事を思い出して仕方が無かった。
今まで思い出す事が無かったにも関わらず。
「どうしてなのかな?どうして急に思い出したりしたんだろう?」
「どうして、あたしゃスミレの事を思い出しちまったんだ?」
「どうしてわたしはスミレさんの事を思い出したんだろう?」
○
樹理亜にとって始めて自分から作った友人が 雨津木スミレ だった。
サザンカ市内にある人通りの少ない通りで二人は出会った。
時刻はその数十分前に遡る。
その日の樹理亜は非常に腹を空かしていた。
正直な所、食事をどうしようか悩んですらいた。
彷徨っているうちに樹理亜は自分でも気が付かない内に結界に迷い込んでいた。
既に50分位は結界内で戦い続けていた。
「あー。腹減った!」
単調な動きで愚痴りながらも自分に襲い掛かって来た《使い魔》を、両手に握り締めた短刀で難なく切り刻んで倒していた。
けれど《使い魔》を幾ら倒した所でキリが無く結界の奥に潜む《魔女》は再度、新たな《使い魔》を出現させていた。
(キリがねえ!!)
疲弊し切った樹理亜の真横から新手の《使い魔》の牙が迫る!
《使い魔》の牙を認識した時、樹理亜は直感的に自分がやられる事を意識していた。
防御の為の動きを取ろうにも間に合わないと無意識に感じてしまい動きは更に鈍くなってしまう。
樹理亜が自分の死を想像したその時、突如として樹理亜に迫っていた《使い魔》が、まるで流れる様に樹理亜の真横を通過してしまった。
突然の出来事に驚いた樹理亜は動く事が出来ないでいた。
けれど《使い魔》も《魔女》も樹理亜を襲おうとはしなかった。
「墜茵落溷(ついいんらくこん)の中で私めと出会うなんて運が良いのですね」
自分に向けられたと思しき声に樹理亜が声の方向に首を向けると、結界の外から1人の少女が入って来た時だった。
オレンジ色の髪をポニーテールに纏めて清楚な外見をした少女だった。
一般良識で言う所のコスプレ的な服装をしている事から《魔法少女》である事は一目瞭然だった。
「良運流転(りょううんるてん)なこの世界であなたは私めに救われた。とても良い流れの中にいると思います」
「ハァ!?」
樹理亜には後から現れた少女の言っている事が1つも理解出来なかった。
先んじて感じたのは戦闘中なのに何を言っているんだと言う困惑だったが・・・。
それ以上に樹理亜を驚かせたのは少女が発する魔力だった。
樹理亜が《魔法少女》となってから初めて感じる異質な魔力を発していた。
どんな《魔法少女》であれ自身の抱く感情が魔力に投影されているにも関わらず目の前の少女からは何の感情も感じ取る事すら出来なかった。
数匹の《使い魔》が新たに現れた少女へと向かって行く。
「万物の全ては根源同一にして正邪一体」
少女がそう呟くのと同時に《使い魔》は少女の脇を勢い良く横切ろうとした。
その動きは流れる様な物で美しいカーブを描いていたとも言えるが樹理亜には違和感があった。
「この世の全ては流れに沿った動きに過ぎません。流転認識をしてしまえば、どんな攻撃の流れすら合わせて流れ動く事が可能です」
樹理亜に向かって言っているのかは分からないが少女はそう言いながら脇を横切ろうとした《使い魔》に向かって手を伸ばした。
手が魔力によって輝くと同時に《使い魔》は四散した。
その光景に樹理亜は驚きを隠せないでいた。
何故なら魔力で生成した武器を使わずにただ魔力を流し込むだけで《使い魔》を倒す《魔法少女》を初めて目の辺りにしたからだ。
同時に少女は一歩ずつ《魔女》に向かって歩を進めた。
《魔女》は次々と《使い魔》を繰り出すも少女の真横に流れる様に移動したと同時に《使い魔》は四散して行く。
次に《魔女》は自らの腕を少女に叩き付けたが、ぶつかる寸前に少女の真横へと腕は流される様に地面を抉った。
少女は怯む事無く《魔女》に向かって進み続ける。
《魔女》は次々と攻撃を繰り出すが全てが徒労に終わっていた。
ギリギリまで《魔女》に近付いたその時に少女は、一気に足を踏み出すと《魔女》の身体に向かって両腕を伸ばして触れた。
「根源掌握(こんげんしょうあく)」
ポツリと少女が呟くと同時に《魔女》の身体は少女の両手が触れた箇所から粉々に砕け散り結界は崩壊した。
まるでドラマの主人公を引き立てる役周りをさせられていると樹理亜は感じていたが疲労の限界に達してそのまま倒れ込んでしまった。
墜茵落溷(ついいんらくこん)は本当に存在する四字熟語ですが後は殆んど造語なので現実で使っては行けません(笑)