偽書魔法少女じゅりあ×くりす☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI JURIA×KURISU MGICA   作:ジャックノルテ

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第6話 あなたが消滅するべきだと自分は思います

 

 かつて《プレイアデス星団》と言われる《魔法少女チーム》が存在していた。

彼女達に関して詳細は、ここでは語らない。

重要なのは、彼女達が行っていた、否。かつて行っていた実験の方だ。

結成メンバー7人の中で1人の《魔法少女》が《魔女化》した末に死亡した。

 残されたメンバーは、死亡した《魔法少女》を蘇らせる事を画策し再形成の魔法の使い手が肉体をクローニングして6人のメンバーによる合体魔法と《魔女の心臓 コル・マレフィクス》が持つ驚異的な生命力を生命維持に活用。

 更に記憶に関しては死亡した魔法少女が《魔女化》して倒した際に残したグリーフシードから引き出し、記憶操作魔法で移植すると言う方法を用いた。

 そうして誕生した《合成魔法少女》だったが、問題点が1つだけ存在していた。

《魔女》や《使い魔》との戦いで闘争本能が刺激されると容易に暴走状態となってしまい心を失ってしまっていた。

 筒地綾女はこの実験をキュウべえとの情報交換で知ると、自分でも《合成魔法少女》の製造を試みていた。

 自分のクローンを魔法で作り出す事が出来なかった為に肉体に関しては、キュウべえからの依頼で殺害した《特別な魔法少女》の肉体を作り返る事で対処した。

《0から物を作る事》と《作り変える事》で扱う魔法は似て非なる魔法だったからだ。

 後者の魔法こそが筒地綾女の得意な魔法だったからに他ならないが。

幾度かの実験の末に自分のコピーとも言える《合成魔法少女》を1人作り出したが未だ不安定な部分が残っていた。

そこでより完成度を高めるべく《プレイアデス星団》の縄張りである、あすなろ市で騒動を引き起こし《プレイアデス星団》から《合成魔法少女》に関するデータの強奪に成功していた。

 筒地綾女の目的は、ただ1つ。

 愛する朱奈を一人にしない為にやがて《魔女化》する自分の代わりとして《もう1人の自分》を作り出す事でもあった。

 けれどもプレイアデス星団からのデータを用いてもいずれ暴走状態を経て《魔女化》する事が分かってしまった以上、最早何の価値も無かった。

「残念ね。あなたは失敗作よ」

 雑木林の中に腐りかけた木の幹の中に眠るもう1人の自分に対して綾女はそう呟くと時限式に身体が崩壊すると言う魔法を仕掛けていた。

 仮に筒地綾女が《魔女》となって封印から解き放たれたとしても数日で死ぬ存在。

 筒地綾女はそう考えていた。

 だが現実は違っていた。

「彼女は《合成魔法少女の筒地綾女》、つまり綾女のクローン。言うなれば《綾女モドキ》とでも言えば良いのかな?とにかく綾女とは異なる存在だよ」

 キュウべえの説明に樹理亜も栗栖も黙って聞いていた。

「じゃああたしゃが見た綾女さんは・・・」

「この《綾女モドキ》だったと言う所だね。魔力を感じてみると今は確かに綾女と同じ魔力を持っているよ。僕があの時、気が付かなかったのは、《魔女の結界》が崩壊した余波に紛れて魔力が散ってしまったからだね。それに・・・。ほら魔力が《魔女》のモノとなった。この《綾女モドキ》は《合成魔法少女》と《魔女》の間を行ったり来たりしている。だからこそ僕も存在に気が付く事が出来なかったんだ。本当に貴重な存在だよ」

 その言葉が樹理亜に対して残酷な宣告になる事をキュウべえは意識していなかった。

 現実が示す事実は変える事が出来ない。

「こいつに人と対話する事は出来ないのか!?出来るなら」

「それは無理だよ。《綾女モドキ》は、《植物の魔女》に取り込まれていた。あの《魔女》は他の《魔女》や《使い魔》を、言わば接木して接続する事で強くなる《魔女》だった。《植物の魔女》に取り込まれた時点で意識は殆ど《魔女の本能》に取り込まれている。でもどうやら朱奈への執着心だけは残っているみたいだね」

 再度の死刑宣告とも取れる発言に樹理亜の表情は絶望に支配されて行った。

 キュウべえは、あえて口にしなかったが《綾女モドキ》が持つ朱奈への執着心は、まるで綾女の残した呪いの様だと思っていた。

「どうやら綾女の予想に反して生存していたのは身体を取り替えていたからみたいだね。恐らくは綾女の仕掛けた時限式の魔法に対処する為に自らの意思で他の人間の身体を奪って行ったんだと思うよ。人間の体を奪っても元の、綾女の姿を再現していたのは愛着とかアイデンティティと言った所かな?」

「シュ・・ナ・・・」

呟き《綾女モドキ》が朱奈へ近付こうとするのを、朱奈を抱えていた彩月は朱奈を強く抱き締めた。彩月にはキュウべえの声は届かない。でも目の前にいる《綾女モドキ》が筒地綾女では無い事を痛い程、分かっていた。

「あれは筒地綾女じゃない・・・。何故かウチには分かる・・・」

 記憶転写実験の被験者でもあった彩月だからこそおぞましい違和感を感じ取り無意識の内に朱奈を守ろうと強く抱き締めていた。

 ゆっくりとしか近づけない《綾女モドキ》だったが、その胸を箒の柄が貫いた。

 躊躇う事無く栗栖は箒の柄を《綾女モドキ》から引き抜きながら朱奈と彩月から離れた場所へ追いやった。

「安心して下さい。たとえ綾女さんと同じ姿をしていても自分には敵でしかありません。秩序を乱すなら排除するまでです」

 栗栖は躊躇無く箒の穂先を発射した。

 鋭い針の様な穂先は次々と《綾女モドキ》の身体を刺し貫き崩れ落ちたその体からは人間と同じ赤い血が周囲に飛び散った。

 無表情な栗栖の顔や身体に血飛沫が飛び散り身体を血に染めたが、栗栖は気にする事も無かった。

 その姿は敬虔で信仰の深い人間から見れば悪魔の様に見えたかも知れない。

「あたしゃは・・・。何の為に戦ってたんだ・・・。あたしゃは・・・。何の為に・・・」

 ゆらりと絶望の表情をした樹理亜が立ち上がる。

 その雰囲気に彩月は恐怖を覚えていた。

 目の前にまるでいつ爆発するのか分からない爆弾が設置された様に思えたからだ。

「樹理亜にとっては無駄だったのかも知れないけど僕達にとっては有益だったよ。《綾女モドキ》と言う貴重な存在に気が付けたし。お手柄だよ。じゅり」

 言い終わらない内にキュウべえの身体は両断されていた。

 キュウべえの身体を両断した短刀はブーメランの様に回転して樹理亜の手元へ戻った。

 無論、彩月には見えていないが、押しては行けないスイッチが押されてしまった様に感じ取っていた。

「何が手柄だ!あたしゃは、あたしゃは、ただ」

「いい加減にして下さい」

 叫ぶ樹理亜を栗栖は制した。

「自分は事情を知りません。でもあなたが無駄な争いを起こしていたのは確かです。その結果として今までの行動が無駄だったとしてもそれは因果応報(いんがおうほう)だと思います。それにあなたがこれ以上、こちらに危害を加えるなら排除します」

 栗栖の表情は変わらない。

 ただ変わらないからこそ口にした事を実行に移しかねないと言った雰囲気はあった。

「何だと!?ッダァアアアアア!」

 怒りを込めた視線で栗栖を睨む樹理亜は一気に栗栖との距離を詰めると両手の短刀で切り掛かっていた。

 予想外のスピードを発揮した樹理亜に肩を切り付けられた栗栖だったが直ぐに箒の穂先、発射する穂先の無い柄の先で地面を付くとそこから魔力の篭った衝撃波が発生して樹理亜を吹き飛ばした。

 足に魔力を集中させると空中を蹴った樹理亜が突っ込んで来ると予想した栗栖は、箒の発射可能な穂先を新たに《魔法の種》を経由して生成すると樹理亜へと向けた。

 すると樹理亜は、それを予想していたかの様に両手に握った短刀を栗栖に向かって投げ付けて来た。

 樹理亜の短刀は、漫画やアニメで書かれるブーメランの様に魔力で敵まで誘導され、切り裂き手元に戻る事が出来る。

 そうした事を知らない栗栖だったが、事前に綾女から得ていた《対魔法少女戦》に関する知識からこうして飛ばして来る武器は大抵の場合、誘導性能があると知っていた栗栖は瞬時に《魔法の種》の一種である《爆発の種》を2つ生成すると左手の親指を用いて起用に二方向から迫る短刀へと投げ付けていた。

 爆発音が響く中で短刀は《爆発の種》とぶつかり消滅した。

 だがそれを見越していた樹理亜は再度、武器を再生性して栗栖へと突っ込んで来た。

 栗栖は《爆発の種》を投げ付けたばかりで直ぐに反撃出来なかった。

 瞬時に再び距離が詰まり樹理亜の手にした二振りの短刀が栗栖の両肩を切り裂いた。

 両肩を切られて箒を落とした栗栖は直ぐに反撃が出来ない事は彩月にも分かった。

「あたしゃの痛みが分かんのかあ!」

 切り裂きながら樹理亜は叫ぶ。

「分かるつもりは、ありません」

 答えながら栗栖の右手は何も持たないにも関わらず何かを動かす操作をしていた。

 その瞬間、樹理亜は痛みを感じていた。

 見ると栗栖の身体を貫いた無数の針が自分の身体を貫いていたのだ。

 声にならない悲鳴を上げる樹理亜だったが、無意識に暴発させた魔力で無数の針から逃れる事は出来た。

 栗栖の身体を貫いた針の正体は、栗栖の落とした箒の鋭い穂先だった。

 筒地綾女と同じく一本一本が鋭く発射が可能な弾丸の様な穂先。

 落とした箒を栗栖は魔力を用いる事で遠隔操作し発射を悟られない様にする為に自身の身体を痛覚遮断し盾とした事で樹理亜に警戒されない様に穂先を発射していたのだった。

「クッウァアアアアアアア!」

 願いが叶わない。最早、何の望みも存在し無い。

 そう結論付けた樹理亜は、ありったけの魔力を放出させていた。

 目の前にいる阿瀬比栗栖を倒す為に。

(こちらも相手に合わせなければいけませんか)

 傷を治しながら栗栖は樹理亜からの攻撃に対し、まず周囲を見渡した。

 背後にいる彩月と気を失ったままの朱奈の事を、第一に考えて行動を組み立てる。

 相手である樹理亜は、魔力を限界まで酷使している。

 このまま魔力を使い続ければ《魔女化》は避けられないだろう。

 だったらまずはここで殺してしまうのが良いと判断した。

 結界がまだ解けない事からも、あの《綾女モドキ》もまだ生存している事は明白だった。

 それと結界の事を魔力で観察すると綻びを感じ取る事が出来た。

 瞬時にその事を考えた栗栖の行動は速かった。

 直ぐに《魔法の種》を1つ、生成すると彩月と朱奈の足元へと投げ付けた。

「なんや!?」

 直ぐに彩月と朱奈は魔法陣によって包まれると上昇し始めていた。

(その魔法陣は、菖蒲さんと朱奈さんを外へ連れ出す事が出来ます。外へ出たら出来るだけ遠くに離れて下さい。自分が沙我樹理亜と《綾女モドキ》を倒そうと思いますが成功率は低いと言わざるを得ません)

 栗栖は事の次第をテレパシーで一方的に狼狽する彩月に伝えると直ぐに樹理亜に向き直った。

「テメー!何の真似だ!?」

「もう、あの2人には、関係が無いと思います。ここから始まるのは、自分とあなたの殺し合いなんですから」

 既に栗栖も限界まで魔力を放出する準備を整えていた。

「ハッ。確かにそうだな・・・。もうあたしゃは何もかもがどうでも良いからな。ここに残っていたら殺しちゃうかもな」

「尚の事、秩序を乱す、あなたが消滅するべきだと自分は思います」

 2人は結論付けていた。

 お互いが相容れない存在であり最早、どちらかの死、もしくは両者が死亡する事だけが解決策だと言う事を。

 樹理亜も栗栖もその事を悟ったのかお互いの武器を構え直した。

 そして・・・。

 両者は真正面からぶつかって行った。

 

「帰って来れたんか・・・」

《植物の魔女の結界》から栗栖の魔法で抜け出した彩月は、直ぐに意識を失った朱奈をおぶるとその場から出来るだけ速足で離れた。

 直後、何かを彩月は感じた。

 それは台風等で起こる強風が背後から当たった時に感じる様な感覚に似ていたが、風は吹いていなかった。

(嫌な予感がするんや・・・)

 自分に言い聞かせる様にして彩月は出来るだけ速くその場を離れようとしていた。

 

 

 

 

 その頃、崩壊する結界の中に樹理亜と栗栖は、海に浮かぶクラゲの様に漂っていた。

 あの後、お互いに最大まで魔力を高めた一撃を真正面からぶつけた代償は大きかった。

 両者は既に魔力と生命力を極端に消耗し尽くし崩壊する結界に飲み込まれていた。

 通常であれば崩壊する結界の中で生きていた人間や《魔法少女》は、結界が崩壊する過程で元の空間へと帰還する事が出来る。

 けれど極端に生命力を失いあまつさえ《植物の魔女》と《綾女モドキ》の存在していた最も強固に作られた結界の一室からは、そう簡単に脱出が出来るモノでも無かった。

 もしかすると・・・。消滅しようとする《植物の魔女》と《綾女モドキ》が、自身に致命傷を与えた樹理亜と栗栖に対する憎しみからそうした行動に走ったのかも知れない・・・。

 意識を失った樹理亜と栗栖が崩壊する結界から脱出する事は、不可能だった。

 結界の崩壊に巻き込まれ2人の、否。《1人の魔法少女》と《1人の半魔法少女》は、その生涯を終えようとしていた。

 そう。それは、決して覆らない。未来へ進む事しか出来ない時が過去へ戻る事は、ありはしない。

 でも・・・。未来に向かう道筋は、幾重にも存在する。

 もしとかIFでは無く、未来に向かう過程で物事が大きく変化する事はあり得るのだ。

 

 

「そう。この記録を見る限り、沙我樹理亜と阿瀬比栗栖の引き起こした戦いは、ここで終わってしまう筈だった」

 円環の理の内部で声の主は、周囲で聞き入っている《魔法少女達》に語った。

「ここには、かつて《魔女の存在した世界と時間》、全ての記録が存在しているわ。だからこそ分かってしまう」

 大袈裟に両手を挙げてアピールしながら声の主は話を続けた。

「この物語は、沙我樹理亜と阿瀬比栗栖が死に彩月と朱奈は、日常に帰る。そして数日後には《ワルプルギスの夜》が見滝原市に現れる予兆としてスーパーセルが発生する。そして朱奈は、見滝原市にいる、自分を助けてくれた魔法少女に会いに行こうとする。そして《円環の理》が成立した所で、世界は書き換えられる。そうなる筈だったわ」

《魔法少女達》は、誰一人として声を発しない。

 1人芝居の様な物だが声の主は満更でも無く話を続けた。

「でもそうはならなかった。むしろこの物語は、まだ終わらない。戦いもこれからだったのよ。運命は変化するわ。たった一人の魔法少女が、時空間で死んでしまった事で・・・」

 声の主は更に新たな記録を開いた。

「かつてアイリス・アザレアと言う《他者の因果律や魔法を奪いたい》と言う願いで契約した魔法少女がいたわ。彼女は、死ぬ間際に自身の体内に存在していた因果を鎖状に加工して時空間にばら撒いたわ。その結果として意図せずに存在し無い筈の時間軸を作り出したりしていたわ。アイリスのばら撒いた因果は、たった一つの作用を持っているわ。それは起こり得ない選択や変化を引き起こす事。例えば交通事故に会う筈だった人が、以前の時間軸とは異なる行動を取り交通事故には合わない。契約をする筈だった少女が《魔法少女》としての契約を結ばないとかね」

 神妙な顔をして周囲を見渡すと周囲が聞き入っている事に満足して声の主は話を続けた。

「運命を変える鎖は、この世界にも落ちて来た。沙我樹理亜と阿瀬比栗栖が相撃ちとなり死に瀕したこの時に。それは決して作為的なモノでは無く神懸り的な偶然としか言い様が無いわ」

 声の主は再び記録に目を向けた。

 

 

 その時、朱奈を背負い速足でその場を離れようとしていた彩月の目に写るモノがあった。

 日は落ちて周囲は暗くなり始めたが彩月の目には、ハッキリと写っていた。

「なんや?あの・・・。鎖?」

 虹色に輝く鎖状の物が、風に乗った紙飛行機の様に流れて行くのが彩月には見えていた。

 途端に彩月は何かを感じていた。

 けどそれが何か分からずに困惑していた。

 それはもしかしたら鎖の作り主であるアイリス・アザレアと菖蒲彩月の関わりに起因する感覚だったのかも知れないが、実証のしようは無かった。

 反射的に目で鎖の流れを追って行くと、鎖は彩月と朱奈が結界から戻った場所へと流れて行った。

 とても嫌な予感を彩月は感じていた。

 朱奈を背負い再び速足で離れようとしていた。

 手遅れ、では無くもう既に始まっていた事に彩月は気付けない。

 避けられない出来事が既に始まっていた。

 結界の中に流れ落ちた鎖は、まるで引き寄せられるかの様に《綾女モドキ》の体内へと滑り込んで行った。

 その時、魔力が爆発した。

 爆発と言っても言い位に魔力が増幅したのだ。

 それは、彩月にも嫌な雰囲気として伝わり離れた場所から様子を窺っていたインキュベーターことキュウべえすら感知する程だった。

「なんだい?この魔力は?僕達が知らない魔力だ!?」

 キュウべえは直ぐに現場へと向かう。

 その時、更に無理をして速足をしようとした彩月は、足を踏み出した瞬間に奈落へと落ちた。奈落と言う比喩が当てはまる様な深い闇が足元へと出現して彩月と背負っていた朱奈を落としたのだ。

 悲鳴を上げる事すら出来ずに彩月と背負われた朱奈は、闇の中へと消えて行った。

 その闇にキュウべえもまた自らの知的好奇心を満たすべく、飛び込んで行った。

 

 

 

 

 意識を取り戻した栗栖は何故か自分の身体に痛みが無い事に違和感を覚えた。

 起き上がり身体の状態を観察すると何故か傷は治り消耗した筈の魔力が戻っていた。

 周囲の様子からここがまだ結界の中なのは分かったが、ここが何処なのかは、分からなかった。

「気が付いたのか」

 離れた場所から樹理亜の声がして栗栖が振り向くとそこにいた樹理亜も自身が無事な理由に違和感を覚えている様子だった。

 既に両者は武器を構えず困惑し切っている様子を隠していなかった。

「どうなってるんだ?あたしゃは・・・。てっきり死んだとばかり思ったんだが・・・」

「それは自分も同感です」

「傷が治って魔力も戻ってる。アンタが何かしたって訳じゃ無いんだろ?」

 探る様に語る樹理亜に栗栖は頷いた。

「そうだよな。てっ事は、やっぱり原因はアレか」

 樹理亜が促した方向に何かがあった。

 それは栗栖にも分かる程におぞましい何かだと分かった。

 まるで幼虫が成虫になる為に作り出す繭か蛹の様に見えた。

「一時休戦しないか?どう見てもアレがあたしゃとアンタに何かをしたとしか思えない」

「奇遇ですね。自分も同じ結論に達しました」

 樹理亜と栗栖は武器を構えて繭の様子を窺おうとした時だった。

『そうよ。ワタシが、結果的にはあなた達を助けた』

 突如として繭から響いて来た声に樹理亜と栗栖は嫌な感覚を覚えた。

 聞き覚えのある声ではあるが、人間には決して出せない様な音を含んでいた。

『感謝しなくちゃいけないわね。お陰でワタシは、大きな力を手にする事が出来た』

 声には、歓喜が含まれていたが、それとは裏腹に樹理亜と栗栖は、これから良くない事が起こる事を予感せずには居られなかった。

 

 

 

「現れるわね。《魔女》でも《魔獣》でも無い。ましてや《悪魔》でも《ウワサ》でも《合成魔法少女》でも無い存在が。一度だけ世界に姿を現した、起こり得ない進化を引き起こした存在が」

 円環の理で記録を睨み付け声の主は、そう語っていた。

 

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