楽天家な忍者 作:茶釜
ナルトは襲ってきた忍達を自身の影分身に任せ、何事も無かったかのように歩きだした。
彼にとって先程の襲撃に危機感を感じず、その辺でゴロツキに絡まれた程度に考えていた。
対する紅は尋問をする前にナルトの影分身が火影の元へ忍達を連れて行ったために、その意図を掴めずにいた。
普通であればCランクの任務で他里の忍と接敵するわけもない。戦闘があっても精々が山賊程度であろう。
ただ、通りかかったために襲ってきたのだとすればそれまでなのだが、何か目的を持って襲ってきたのであれば、考えられる事は二つ。
「(依頼人のタズナさんか人柱力のナルトか……)」
人柱力を相手取るには些か役者不足であると考えられる。つまりは前者が目的であることの可能性が高い。
タズナ本人が気まずそうに顔を歪めていることを考えても間違いはないだろう。
だが、ここで任務を辞めるべきか、微妙な所である。任務とは不測な事態がつきものである。第8班にとっても初めてのCランク任務だとしてもそれに対応してこそ忍というもの。
そして、何よりも……
「(最悪はナルトに飛雷神の術で里まで撤退させれば大丈夫であるということ)」
部下をあてにすることは間違いかもしれないが、それでも目の前の金髪の少年の力は信ずるに値するものである。
だからこそ、他の部下たちに力を持たさなければならない。ナルトに依存する形ではいけないのだ。それではスリーマンセルの意味がなくなってしまう。
紅はため息を一つ吐いた後にタズナへと告げた。
「私は何も聞きません。任務は続行させていただきます」
紅の瞳に気圧されながらタズナは顔を伏せて一言、「恩にきる」と呟いたのであった。
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ナルト一行は波の国へと向かうボートからおり、徒歩でその路程を進む。
当然紅やシノ、依頼人のタズナでさえも周囲を警戒し、ヒナタは必死に震える手を抑えながらナルトの後をついて行った。
――空気がピシリと凍りつく錯覚を覚えた。
突然ナルトは振り向き、後方の茂みへと視線を向けた。
たしかに今、何かが自分達を見ていた。ただ、静かな。どこまでも静かな空気がこちらをみていた。
「どうした?ナルト」
後方を確認し、特に変わった所がない故にシノがナルトへと質問した。
その様子にヒナタはどうすればいいのかわからず、視線をシノからナルトへと行ったり来たりさせ、不安の表情を浮かべる。
「…………」
ナルトはその二人に目もくれずにただ、周囲の気配を探る。
ここには何かがいる。自分達の首を狙う何者かが……
――風を断ち切る音が聞こえた。
「っ!!」
先頭を歩き、後方へと視線を向けていたナルトの背後から凶刃は迫っていた。
それを察したナルトはとっさに振り向きざまに凶刃へと手を伸ばしていた。
鉄と鉄を打ち付け合う音が鳴り響いた。
ナルトの持つチャクラ刀が口元を隠した男の持つ巨大な刀を止めている光景が目に写り、ヒナタとシノはようやく自分達が襲われているのだと理解した。
それと同時に紅が声を上げる。
「伏せなさい!!」
背後より紅へと飛来する針が到達するよりも速く、紅はタズナを押し倒しその攻撃を躱す。シノとヒナタも一瞬遅れたが、問題なく躱した。
そうなれば必然その針はナルトへと飛来するが、針が刺さる直前にナルトの姿がぶれ、紅たちの傍へと退避していた。
「ふん!」
巨大な刀を男が振るい、迫る針を叩き落とした。
そのまま刀を地面へと突き刺し、ナルトたちへと視線を向けた。
「存外にやりやがる。俺の不意打ちだけでなく、背後からの攻撃すらも凌ぐなんざ。鬼兄弟がやられるわけだ」
だが、と男は続けて言った。
「悪いが、じじいを渡してもらおうか」
その男の瞳は語っていた。これは通告などではない。提案などではない。タズナ以外を皆殺しにするという宣言であると。
ナルトが影分身の変身した手裏剣を握りつぶすと同時に紅がその口を開く。
「その刀、その風貌、桃地再不斬ね」
クナイを構えた紅の言葉に否定も肯定もせずに再不斬は刀を引き抜いた。
「三人共!卍の陣よ!周囲を警戒しつつタズナさんを守りなさい!」
「ククク、そんなチンケな守りで果たして守れるのか、見ものだな」
印を結んだ再不斬の姿が霞んでいく。霧隠れの忍の得意忍術である霧隠れの術。とくに鬼人再不斬はそれを用いた暗殺を得意としている。
「どんどん霧が深くなっていくな……」
シノは虫を周囲に撒き、警戒しながら呟いた。
視界を塞ぐための霧。どこから来るかも解らない現状に少しずつ精神をすり減らしていく。
「8箇所」
声が響く。既に視界は自分達しか見えない。
否……
ヒナタだけはその瞳が再不斬をしっかりと捉えている。
「咽頭、脊柱、肺、肝臓、頸静脈に鎖骨下動脈、腎臓、心臓」
ゆっくりと背後から歩いてくる姿が見える。チャクラの塊がこちらへと迫ってくる。
ヒナタはそれをナルト達へ伝えようと口を開くが、ガタガタと唇が震え、上手く言葉を発せない。
「さて、どの急所がいい?くく……」
すさまじい殺気にヒナタは気がどうにかなってしまいそうになる。気付いているからこその恐怖。このままここにいてはおかしくなってしまいそうな本気の殺意。
そんなヒナタを安心させるように、ナルトはヒナタに向かって笑顔を向けた。
「大丈夫。お前達は俺が守るってばよ」
「それはどうかな」
再不斬が背後に現れる。ああ、失敗したとヒナタは思う。自分が勇気を振り絞り声を発していればこんな自体には……
「くっ!」
紅はとっさに再不斬へとクナイを突き立てる。
それに対し、再不斬は全員を叩き切るかのように巨大な刀を振り抜いていた。
しかし、その刃が誰かに届くことは無かった。丁度刃の先にナルトが回り込み、手に持ったチャクラ刀を用いて地面へといなした。
そのまま紅のクナイが再不斬に突き刺さり、血しぶきをあげた………かのように思えた。
「水分身!?」
「ナルト君!」
ナルトの背後に現れる再不斬にヒナタは叫んだ。丁度その凶刃はナルトへと向かう。
「まずは一人!」
「させん!」
だが、再不斬の顔面へと虫が殺到し、その攻撃を鈍らせる。
「クソガキがぁ!」
一瞬気を取られたすきにナルトは攻撃を躱し、再不斬を蹴り飛ばし、その距離を開ける。
まさに気を少しでも抜けば殺される状況。タズナは立ち竦み、震えながら見守るしか無い。
またもや姿を消した再不斬を尻目にナルトは術を行使した。
戦いが始まった瞬間に用意をさせたもの。その準備が整ったからである。
既に先行して波の国へと入っている影分身が作成したマーキングをターゲットにし、自分を含め、全員を飛雷神の術を用いて離脱したのであった。