【完結】 気が付くと学園都市で銀行強盗していた   作:hige2902

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雑な原作の流れ説明。
黒子達がシャッターの閉まった銀行を発見。シャッターが吹き飛ばされ、三人組の強盗が出てくる。三人組をジャッジメントですの! する。アンチスキル到着。一件落着。


第一話 死線 <Dead>

 ビジネスホテルの一室でようやく一息ついた。シャワーを浴びて時計を確認する。ざっと三時間の残業だ。最後に自宅へ帰ったのはいつだったか。

 明日はゆっくり休める事を祈って ――希望に似て儚い―― 冷蔵庫からビールを引き抜く。小さなパネルに課金額が表示された。

 一杯やって酔いと疲れからかうつらうつら。不意の電子音で漕いでいた船から落とされる。携帯の着信を認めてスピーカーから内容をぼうっと聞くに、仕事に関してだった。雑に聞き流す。

 

 切羽詰まったクライアントが半泣きで支離滅裂な注文を押し付ける。()()かよ。

 

 うんざりする。割に合わない。嫌になってベッドに倒れ込む。何度この仕事を辞めようと思った事か。同情心でやっているようなものだ。いっそのことラノベかアニメの世界にでも逃げてしまいたい。

 それがおれの、覚えている直近の記憶だ。

 

 

 

 xxxxxxxxxxxxxx

 

 

 

 気が付くとおれは――

 

 

 ――窓口に立ち、目立たないようにカウンターの上で銃を行員に向けていた。ダークグリーンの大きなダッフルバッグも置いてある。映画で見たフィルソンのラージサイズだ。

 おれののんびりとした思考とは反対に、ひきつった顔の女 ――パートだか契約社員、どっちでもいい―― が固唾を飲んでいる。

 耳鳴りのような静寂が次第に薄れると人人の会話が聞こえてきた。ゆっくりと思考は、滲むように取り戻される。銃口は行員に向けたまま横に寝かせる。銃身の側面には【CZ 91S SCORPION】と刻印されてある。スコーピオン、映画でよく見るが、おれの握っている物はワイヤーストックどころかサイトすらオミットされている。というかこんな小さかったか? 拳銃より少し大きい程度。そういうバリエーションなのだろうか。

 左手に書類袋を持っていた事に気づき、さっと握ったままの銃に被せた。

 

 唐突の事過ぎてそれ以外に身体が動かない。行員の右腕がカウンターの下でもそりと動くのを眺め、反射的に銃を意識させるように右腕を少し突き出す。かさりと書類袋が擦れた。もう非常ボタンは押されてしまっただろうか。

 

 というか何故おれは強盗をやっているのだ? なんだこれは?

 

 カウンターの上に置かれていたダッフルバッグを行員が手に取る。ゆっくりと席を立ち、支配人と思わしき人物のデスクへと、おれから視線を逸らすことなく向かい、耳打ちしている。支配人のぎょっとした目がおれを向き、行員からダッフルバッグを受け取ると覚束ない足取りを金庫へと向かわせた。

 

 そういえば、ここは信金だろうか銀行だろうか。まあ、この店の規模から考えて支店であることは間違いなさそうだ。ぐるりと視線を巡らせる。周りの人間はおれの行動に気をやっている様子もなく引き出しやらの用事を済ませている。客は四人。行員も四人、少ないな。壁掛け時計で夕方を確認。そのすぐ隣に貼り付けてあるプレートにギョッとする。

 

【いそべ銀行 学園都市支店】

 

 天井の隅に備え付けられたテレビを見やる。『――という事で、今年も指定校のシステムスキャンが終わった訳ですが――』と、ニュースキャスターが語る。『――気になるレベル5到達者の――』

 

 ウィスキーの事でもMtGのジャッジの事でもないよな。

 念の為、自分の頬をつねると今さらに世界が現実味を帯びてくる。心臓がこの瞬間まで止まっていたかのように息吹をしている。身体が熱い。

 おれはじっとりと嫌な汗が額を這うのを自覚した。

 

 やはりここは、いそべ銀行学園都市支店だ。行員は少ないが、学園都市の科学水準による効率化された結果、人員削減が達成されているのだ。いや何をのん気におれは……おれはついさっきまで仕事終わりの一杯をやってうつらうつらしていたはずなのに!

 せめて一休みしてからにしてほしいよ、と所帯じみた文句を即席の神に垂れる。

 

「――ごめんなさい」

 

 金の袋詰めを待っていると、背後から女が小声で話しかけてきた。ちらと肩越しに視線をやるがツバの広い帽子をかぶっていて顔は伺えない。

 

「ごめんなさい、付いて来てしまって、でもやっぱりあなた一人に罪を着せるのは、その……」 

 と申し訳なさそうに。勿論おれにとってこの女の声に覚えはない。

 

 混乱する頭は短時間で様様な疑念が渦巻いた。

 

 まずそもそも覆面すらしてないってどういう事だ? いや、していたら周りの客に気付かれるからか。というかこの後おれはどうすればいいんだ。学園都市で強盗なんてやって、アンチスキルやジャッジメントなどから逃げられっこない。もっとまともな手口はなかったのか!? おれ。

 今更だが獄中生活ってどんなんだ? やっぱ獄の風呂場で石鹸を落としたら掘られるのか? なんかの被験体にされたりするんじゃないか? 捕まった事がないからわからん。

 まずい、この状況はやば過ぎる。何とかしなくては。

 

 沈黙するおれを不審に思ったのか、女が恐る恐ると見上げてくる。妙齢の、疲れた顔をしており幸薄そうな雰囲気の。安っぽいブラウスとロングスカートに薄手のカーディガンを羽織った出で立ちだ。

 

「お、お待たせいたしました」

 カウンターから震える声と腕でダッフルバッグを差し出され、反射的に受け取る。

 重い。十キロはある。だいたい一億前後くらいか、支店にしてはかなりの額。やはり学園都市は一味違う。

 銀行は損害保険によって保険会社から補填されるので抵抗はされないと映画で見たが、どうやら本当のようだ。()()()()()()()()()()()()()気がするが。

 

 本心を言えばこの女の事などどうでもいい。二つの考えが瞬間的に脳裏をよぎる。さながら善と悪。おれだって人間だ。右肩に食い込むダッフルバッグのベルトは悪魔の鉤爪のようで、軽い左肩では天使が浮いている。そのまま両耳元で囁かれる。

 

 今ならまだ間に合うかもしれない。情状酌量の余地を得る為、おれは今すぐダッフルバッグを銀行に返すしかない! まずは女が銃器を持っている可能性を考慮して、ハンズアップさせてから腹這いにさせて拘束、武装解除、その後、金を銀行に返す。どうせもうアンチスキルは呼ばれているだろう。

 やるしかない。はっきり言って理不尽極まりない逮捕だがそれ以外に方法がない…………それとも、それとも本当に逃げ切れるのだろうか?

 

 このまま離脱するという誘惑を覚えながら、羽織っていたミリタリージャケットのポケットの中、自制心を掌握するように汗ばんだ手で銃把を握りしめる。易き道へと向かいそうになって。

 どうせこの女は強盗するような悪党だ、男に破滅をもたらすおれの運命の女、ファムファタルに違いない。ちょっとくらい手足を撃ってもバチは当たらんだろう。

 やるか?

 

「ありがとう」

 出口に向かう途中で先を行く女が呟くように言った。

「うん?」

「これで娘の病気を治せる。悪いお金だけれどそれでも」 薄らと涙さえ浮かべて振り返り、おれを見やって続ける。 「ごめんなさい、本当に。無関係のあなたにこんな事をさせてしまって」

 

 やりにくいな!

 

 おれは何とも言えない表情で半開きの口から、気にするなよと適当に捻り出し、自分の左手の薬指を親指の腹で探る。女と婚姻関係にあるわけではないことを再確認。

 推察するに女の娘さんは難病で、医療費を確保する為に銀行強盗に踏み出した訳か? で、おれがそれを手伝ってると。

 いっそ遊ぶ金欲しさのどうしようもないプー太郎ならこっちも気兼ねなく銀行に金を返せるというのに。世の中そうそう上手くはいかないようだ。

 女が嘘をついている可能性もゼロではないが、なんというか、身体から発せられる物憂げな感じが真実味を裏打ちしてくる。化粧っ気も香水の匂いもないし、爪も弄ってない。服の生地は量販店の安物ちっくだ。

 なんというかもう、やりにくいな!

 

 本当にいいのか? このまま銀行を後にして。()()()()()がどれだけお人好しなんだよ。おれの主観では女と何の面識もないんだぞ。言ってしまえば赤の他人の為に罪を犯しているようなものだ。せめてこの女と寝たとか、そういう記憶があれば多少は納得できるが、ない。直近の記憶は疲れとビールだけだ。あんまりな気がする。

 

 聞いてみようか知らん。おれ、あんたと寝た? 銀行強盗なんて大犯罪の途中で何とも下世話な事を考える。三大欲求はやはりというか、危機感より上位に位置するようだ。女の小振りな腰を見やる。上下で千円以下の下着だろう、娘の医療費の為に倹約しているのなら。

 くだらない事を思考しながら、ふと全面ガラスから外を見やる。白い三角巾でマスクしたあからさまに怪しい三人組が、もう自動ドアのすぐ近く。半端なロンゲ、短髪、ドレッドヘアの太っちょ。三人ともお揃いっぽい黒のレザージャケットに身を包んでいる。

 

「抵抗するなよ」

 

 おれはとっさに女へ口走る。そのシリアスな口調からか、それほど二人の信頼関係が固いのかはわからないが、女は小さく頷いた。おれはそっと出入り口から最も遠い場所に後ずさる。

 

『てめえら全員腹這いになれ! 消し炭にされたくなきゃあな!』

 

 三人組のいかにもな銀行強盗の出で立ちに客と行員の視線が注がれる中、これ見よがしと短髪が掌に火球を生み出して周囲を威嚇する。

 まず短髪が支配人にシャッターを降ろすように命令する。次にロンゲがバッグから目隠しの布と手錠を取り出して次次に客を拘束。ドレッドヘアがカウンターを飛び越え、行員にも同じ処理をしている。支配人だけは例外で、金庫の鍵を明けさせ、金をバッグに入れるのを手伝わせている。

 

 重たいダッフルバッグを床に降ろし、不自然でない程度に時間を掛けて腹這いになりながら行内を観察してわかったのはこれくらいだ。ひんやりとした床にうつ伏せになって絶望する。

 ああこれ不味いやつ。これこの後すぐ絶対にジャッジメントとアンチスキル来る。もう駄目かも。こいつらに教えてやりたい。ジャッジメントには、校外でも活動し、捕まえたが最後、心も体も切り刻んで再起不能にする、最悪の腹黒テレポーターがいるんだぞ。おれは再起不能になりたくない。

 

 しかしこいつら結構統制が取れている。ドレッドヘアはカウンターの向こう、ロンゲは待合が持ち場。短髪のパイロキネシストが出入り口で全体を見渡して睨みを利かせている。

 ご丁寧に全員を拘束しているこの様子だと、銀行の金ばかりか貸金庫の中身まで掻っ攫おうという腹なのだろう。少しでも通報までの時間を稼ぎたいからわざわざ手錠なんかを用意しているのかも。しかし恐らく、おれが金を持ってカウンターを離れた瞬間に受付は非常ボタンを押しているはずだ。

 

 憐れに思っているとロンゲが役得とばかりに、女を拘束するついでに胸元に手を突っ込んで乳房をまさぐっていた。見えない所でもしっかりと、わかりやすい噛ませ犬フラグを立てている。

 女は恥辱を堪えようとするも、閉じた口から小さな悲鳴を滲ませていた。訴えるようにおれを見やるが目隠しで終わる。ロンゲは満足したのか、最後の客 ――とやつらは思っている―― おれを拘束しようと近づいてきた。これ見よがしに手錠を人差し指で回しながら。

 

「ふざけんな! こんな少ないわけないだろうが!」

 とドレッドヘアの怒声。何事かとロンゲがカウンターの向こうを見やる。

「あの、その、残りは……」

「有価証券はいらねえんだよ」

「あの、あの人が」

 

 許しを請うような声。その直前、おれは三人の注意が支配人の言動へ注がれている間に飛び起き、ジャケットから抜き出した銃をロンゲの胸元に突きつける。本当はかっこよく額か下顎にといきたい所だが、急に動かれたりしたら外れそうなので妥協した。

 

 てめえ、と唸るように小さくロンゲ。 「てめえが持ってん、のか? この銀行の残りの金を」

 

 ジャッジメントとアンチスキルが現れるまで残り時間は少ないだろう。急がなければ。こいつらは既に非常ボタンが押されているであろう事を知らない。

 おれは朗朗と言う。静まり返った行内に響いた。そうとも、こいつらは知らないのだ――

 

「おまえらが誰の金を奪おうが勝手だが、おれの金は別だ。失せろ」

 

 ――おれも強盗だという事を。

 

 未曾有の危機的状況に脳内麻薬様物質が弾け出て止まらない。ニューロンのダムが決壊してドーパミンを濁流のように吐き出しているようだ。気分はムービースター。おれはクライド、ボニーが頼りないのがキまらないが。

 

 その高鳴りと反比例するように精神は安定している。極めて冷静に、この局面を客観視できている。

 だからかだろうか、今さらながらに気付く。おれの握っている銃はこれたぶんモデルガンだこれたぶん。恐らく学園都市で入手しただけあって見た目はまんま実銃の外見みたいだけど、だって軽いんだもん。本物を持ったことがないから正確に比較できている訳じゃないが。

 モデルガンだこれたぶん。

 

『――また、学園都市の犯罪率は昨年と比べて減少傾向に向かっており――』

 

 テレビの中でニュースキャスターが他人事を言っている。拘束されている客の一人が額に青筋を立てている。おれも丁度そんな気分。

 




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