【完結】 気が付くと学園都市で銀行強盗していた   作:hige2902

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第三話 正銘隠匿 <Authentic cover>

 間違い電話をトリガーに、たぶんだが夢遊病が発症する。その結果としておれはクライアントの依頼対象を、物質非物質、生体物体を問わず離脱させる。

 楽な仕事であることが多かった。盗まれた血統種の猟犬や、不当な評価により得られなかった大学の単位。

 なぜかは知らんがお膳立てされた状況 ――おれが再現可能な範囲―― で覚醒し、その都度状況に合わせて依頼をこなした。事が終わると、やっぱりなぜかは知らんが百万円か相当の品を手にする。それに本業である給与人の合間にやれる副業だ。だった。

 なぜかは知らん。空が青い事と大差ないだろう。だから深くは考えた事がない。なかった。

 だが学園都市の仕事は別だ。こっちにきてから割に合わない。銃や怪しい薬を借りパクされたとかマジにやめてくれ。

 

 

 

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 気が付くとおれは――

 

 

 

 ――気が付くとおれは二人の女子学生に疑惑の視線を向けられていた。一人はショートカット、もう一人はツインテール。辺りを見回すと夕暮れ間近。寮などの学生向け施設が集まる第七学区のようだ。下校している学生が多数。

 おれの服装は昨日と変わらず、この季節にマウンテンパーカーはかなり暑い。左手にはコンビニ袋、剥かれたおにぎりの包みが大量に入っている。

 

「それで、何の用ですか?」

 

 とショートカット。おれはこんな子供を呼び止めて何をやっているんだ。

 

「いやあその」 と口をまごつかせて子供を見やる。制服の所為もあってか、前の仕事の少女とクリソツだ。 「姉妹とか、いる?」

「どういう意味?」

 ショートカットは眉をひそめて訝しんだ。

 

「あー、そのなんだ。以前にきみに凄くよく似た子に命を助けられたので探していたんだ。その時、ちょうど制服を着ていたからすぐに学校はわかった。お礼をしたい」

 

 制服の校章は後で公共の看板地図などで確認するとして、履いていたジーンズのポケット探ると丸められた札束の感触。厚さからして百万円からほとんど減っていない、昨日今日か。

 

「いつですか?」

「いつだったかな、時間が経ってるから正確には。確か三ヶ月くらい前だった気がする。人違いかな?」

 

 うーん、と記憶を探っているらしいショートカット。マジかよそんなに人助けしている覚えがあるのか。ちらと隣のツインテールを見やると神妙にこちらの顔を伺っている。嫌な予感。帽子の座りをなおす。

 

「そっくりさんかな?」

「たぶん」

「そうか、わざわざ呼び止めてしまって申し訳ない。悪いんだが奇妙な事を頼んでもいいかな? きみによく似た人を見かけたら連絡してほしいんだ」 

 おれは学校帰りらしいショートカットから紙とペンを借りて偽名と昨日の少女の携帯の番号を書き記す。

「一日経ったら忘れてくれ、出張で学園都市を去らなきゃならないから。探しているんだ、ずっと。ただ一言お礼が言いたくて。えーと……」

 

「御坂美琴。いいですよ」

「見かけたらでいい、ついでくらいの気持ちで頼むよ」

 

名前はわかった。この律儀な様子なら一日後に見つからなかったという報告の電話を掛けてくれるかもしれない。あわよくば電話番号も把握できるかも。

 他人の空似にしては奇妙なほど容姿は相似している。しかし決定的な違いは昨日の戦闘による傷が額と腕に無い事。また、本人の証言から別人と判断する。

 となると昨日の少女は何だ? 本人はクローンと言っていたが、御坂美琴のクローンとみて問題ないのか。

 

 埒が明かない。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の使用許可を統括理事会からクライアントに離脱させなければ。しかし天気予測システムを搭載した人工衛星を、何に使うつもりなんだろうか。クライアントの口ぶりでは、予測演算の汎用性は高そうだが。

 そういえばと札束とは反対のポケットにある携帯端末を手に取る。着信履歴は昨日の間違い電話ともう一つ。バッテリーは外されている。

 

 おれは適当な大型ショッピングセンターに入り、関係者以外立ち入り禁止の札を無視して従業員用の出入り口からバックルームに侵入した。すれ違う各店子のスタッフに、お疲れ様ですと適当に挨拶してうろつく。出勤前や退勤後の人間は当然私服なので不審がられる事はなかった。お目当ての掃除用具入れからトイレ清掃中の立札を失敬し、マウンテンパーカーに包んでバックルームを出る。

 今度は客用トイレに人が居なくなるのを待ってから立札を置き、個室の奥で携帯の外されていたバッテリーを取り付ける。これだけ人が居る場所ならば、GPSの類での特定は難しいだろう。難しいだけかもしれないが、公園で掛けるよりはマシだ。非通知でコールする。

 

『携帯を拾われた方ですか?』 と男性の声。

「どうしてこの携帯から掛けた人間が持ち主でないとわかった」

『持ち主から携帯を失くしたと連絡があったので』

「嘘を付くな、あの世のホットラインで? 生きているのか、昨日のクローンは」

 

『あなたは?』

「死んだんだな。おれが何者かを、おまえ如きが知る必要はない。誰なら納得するというのだ、望む名前を言ってやる。責任者を出せ」

『なんのことでしょうか?』

「くだらん芝居はやめろ、時間が惜しい。御坂美琴に関する重要な弊害案件だ。責任者を出せ」

『わたしが責任者だが』

 

 御坂美琴の一言でがらりと口調が変わった。

 

「信じられるか。おまえは持ち主から連絡があったと一つ嘘を付いた。おまえがこの通信のインターセプターなのか、本当に関係者か確認する。クローン利用に関する概要を言ってみろ」

『機密規定に抵触する。そちらが本当に計画の関係者かを確認できなければ言えない。前述の論戦話法は、単に携帯を拾っただけの一般人に対するマニュアルに沿った物だ。御坂美琴に関する弊害を言え』

「機密規定に抵触する。おまえが本当に計画の関係者かを確認できなければ言えない。マニュアル通りにしか動けない者が、関係者であることが甚だ疑問だと言っている」

『……絶対能力進化計画』

 

「コンビニでも売っている、計画名なんぞは」

『替えの利かないレベル5である御坂美琴の代わりに、その劣化クローンを学年第一位に二万体殺させることで経験を積ませ、レベル6へ至らせる。弊害は?』

 

 なんとも物騒な計画だ。一日十体でも二千日、約六年もクローンを殺してたら気が違ってしまうんじゃなかろうか。どうすれば電話相手が計画に疑念を持つかを思考する。

 

「今になって必要クローン数が天文学的な数になる事が懸念された。頓挫する可能性がある。タイムスケールが人間のそれに収まらない。学園第一位を不死にすれば別だが」

『どういう事だ? 御坂美琴と何の関係がある。計画は樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)によって保障されているんだぞ』

 

 クライアントの言っていた通り、本当に樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)はただの天気予測機ではないらしい。

 

「クローン元の御坂美琴はレベル5でない可能性が出てきた。常盤台が御坂美琴の入学を見越し、自学校のプロパガンダ目的でシステムスキャンの結果を偽った……かも。レベル5の御坂美琴のクローンの場合と、レベル4以下の御坂美琴のクローンの場合とでは事象が異なる。計画成功の核がレベル5かつ御坂美琴である事が必須条件なのか、レベルを問わず御坂美琴である事が必須条件なのかを調べなければならない」

『信じられないな』

「おまえの信仰心はどうでもいい、適当な神にでもくれてやれ。端的に命令する。わたしの指定した人物に樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の使用許可を出すよう手配しろ」

『なぜ秘密裏に行う? なぜ公的に話を通さない。それも、その……そちらの指定した人員でなければならない理由は? 許可の偽装は危険だ』

 

「事が水面下なのは、弊害案件による再演算が表沙汰になるとデータ周りの管理責任が露呈するからだ、少なくともレベル4の可能性を見落としたのは事実だ。汚点は残すべきではない。何もなければ計画続行で済む。指定人員は、表向きは樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の使用適性を満たしていない事になっているが、裏ではその道のプロだ。一見して絶対……絶対、進化計画とは関係の無い事象を樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)に演算させながら秘密裏に……あー、計画の再演算を行わせる」

『上と掛け合ってからだ、常盤台に対しての追及もある』

「常盤台はこちらのデータ精査管理がずさんな点を指摘するだけだ、非を認めるものか。進んで責任を取りたがるやつが上にいるのか? 計画進行中に役職任期を満了すれば、われ関せずがオチだ、現場の人間ならともかく。事が発覚してから上に進んだ誰か、あるいはおまえがそのケツを拭くことになる。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の使用理由は適当にでっち上げろ。これはおまえの為でもある。指定人物の番号を教える、近日中にコンタクトを取れ、その際に無駄口を叩くな。くれぐれも周りに勘付かれるな」

 

『その弊害案件の出所は? 時間を』

「おまえは知らんだろうが各学び舎に対して、内部調査機関が存在する。レベル偽装に関してはこっちが探る、下手に首を突っ込むな、消されるぞ。おれを疑っても構わんが、再演算すること自体に問題はないだろう。保険と考えろ。一刻を争うと言ったはずだ」

『……わかった』

 

 クライアントの番号を伝えて一方的に通信を切った。そのままクライアントにリダイヤルする。

 

樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の使用許可を()()()

『……誰だ』 と電話越しからでも低血圧で気の無さそうな女の声。

「おれが誰かなんてどうでも……なんで百万円がないんだ? まーどうでも――」

 

 とおれはここで一つの疑念に茫然とした。昨日はクローンと偶発的に接触して逃がしたが、あれが最初の一体だとしたら、最低でも二万回近くコールされる可能性があるのではないか。

 その度に学園第一位から逃げ回るなど正気の沙汰ではない。心身が持たん。

 体内の血液が二割ほど蒸発する感覚。青ざめて声を荒げた。

 

「――どうでも、よく! ない!」

『その通りだが』

「そうじゃない、おまえは誰だ!」

『なんなんだおまえは、悪戯なら他を当たれ』

「待って待ってあんたが何者か知らんが樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)使う時のついででいいから絶対なんたら計画のクローン必要数か元の」

 

 ぶつりと通話が切れた。掛けなおすが着信拒否される。一旦諦めてショッピングセンターを後にする。

 常盤台、侵入するか? 幸いにもシステムスキャンは昨日だ。まだデータは精査途中で学内に保存されているだろう、偽るべきか? 御坂美琴は実はレベル5ではなかったと。

 しかしおれにクラッキングの技術はない。学園都市ともなると電子的に強固なセキュリティなはず。パスワードがpasswordだとかaaaなわきゃない。

 流石に精査や提出用書式入力に即日はないだろう、数日と見ていい。常盤台に向かいながら考える。実際に侵入するかどうかは、ひとまず間取りを観察してから。

 

「少々お時間をいただいてもよろしくて」

 それともクライアントにもう一度掛けなおすべきか考えていると、目の前に先ほど御坂美琴と一緒に居たツインテール。瞬きの間に出現した。ジャッジメントの腕章を見せつけている。

 

「先日の銀行強盗事件はご存知で?」

「知ってる。ニュースで見た。捕まったんだってね、一件落着」

「ところが、受付の証言では消えた最初の強盗が居たそうですわ。監視カメラの映像を解析するにあなたにそっくりな」

「それは……」 と言いどもる。こいつが、例のジャッジメントか、再起不能にされたくない。

 

「失礼とお思いでしょうが、いくつかお聞きしたいことがあります」

「いや、おれは、違うんだ信じてはもらえないだろうが」

 

 逃げる? 物理的には無理。なんかよくわからんが瞬間移動する能力者だろう。拘束されれば指紋か銀行に落ちているかもしれない髪の毛で、本人であると証明される。どんなに違うと言っても物的証拠を突きつけられれば無駄だ、まだ双子の兄弟の仕業と言い訳した方が有効そうだ。いや、そうか。DNAレベルで相似でも問題ない事例をつい今しがた聞いた。

 

「おれは……おれを探している」

「はあ?」

 

 何を素っ頓狂なといった表情を向けられる。

 

「おれはクローンなんだ。恐らくだが銀行強盗を行ったのは、その内の一体だ。おれはそいつを探している」

「正気、ですの?」

「おれはクローン、しかも正常」

「いえ、あーその、えーと」

 

 ツインテールはなんと反応すべきか迷っている。やはりダメか? 荒唐無稽過ぎるか。

 

「うーん、あっそうだ」 と取って付けたように前後の脈絡を無視してツインテール。 「そもそも、どうしてお姉さまに接触したんですの?」

「それは、あれだ、おれはオリジナルと他のクローンに命を狙われている。ところを助けられた。別人だったが」

 

 ツインテールはうむむと顎に手をやり思案しているようだ。

 

「クローニングは国際法に違反する、とはいえここは学園都市……ありえなくは……」

「そうだ、こんな事は学園都市外に居る理解力と発想力と知的さに欠ける連中には信じてもらえないだろうが、とってもとっても優秀で品行方正で優雅で気品のあるジャッジメントにしか白状できないが、とにかくそういう事だ」

「その証拠は当然ない、と」

「最初に銀行強盗を行ったクローンと指紋血液DNAその他諸諸が相似だ、許せん……許せんぞクローン」

 

 おれは深い憎しみを握りしめた拳に籠めて怨嗟を口から滲ませた。

 

「しかしオリジナルが動いていなくてよかった。冷酷無比なオリジナルが事を起こせばいったい何人が犠牲になったか……おのれの無力さが恨めしい。くそったれー」

「ということはあなたもオリジナル同様に冷酷無比ですの?」

「いや、なーんというか、こう、最初はね、おれも冷たい所があったけど、あったけどね。ひょんな事から知り合った少女に人間の暖かさを教えて貰った、みたいな、的な? 気づいたら涙、出ちゃってた」

 

 渾身の言い訳にも拘らず懐疑的な視線を受けていると、手に持った携帯が鳴った。出ても? と視線を送ると渋渋頷かれたので着信を認める。

 

『おまえ、おまえは本当に何者なんだ。どうやって樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の使用許可を……』

 

 興奮しているらしく、僅かに声を震わせて。

 想像以上に計画責任者の動きは速かったようだ。これを想定してバッテリーはつけたままで本当に良かった。

 

「そんなことは、おれが誰かなんてマジにどうでもいい。あんたがそれなりの地位にある人間と見込んで頼む。おれを庇ってくれ。それで依頼料はチャラにする……百万円が出てこないのはこういう事か」

『説明不足過ぎる』

「やばいやばいと噂されているジャッジメントに、一昨日のいそべ銀行を襲った最初の強盗の容疑者として拘束されそう。おれはクローンで、真犯人は別の個体だと言っても信じてもらえそうにない。言うまでもなく冤罪、正真正銘の無実、色は勿論白、だが現在進行形、猶予なし。助けてくれ。再起不能にされたくない」

 

 問題は山積みだ。二万体の危機的状況なんて聞いてない。二体くらいにしてほしい。

 

『わかった。そいつに電話を代われ。奇妙なやつだな、おまえは』

「すぐに会えるか? この携帯は諸事情あって可能な限りバッテリーを外しておきたい。ついでにプリペイド式携帯を買ってくれ、マネーカードもくれ、着替えと食料もくれ、あと当面の住むところも用意してくれ」

「ヒモ?」

 

 というツインテールの言葉は無視する。電話の向こうでクライアントが雑な要求に少し笑った。

 

『いいだろう。わたしは木山春生、AIM拡散力場を専攻している。そこそこに名はある。アンチスキルは呼ばせるな』

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