ワールドトリガー‐無限の剣製者‐   作:灰音穂乃香

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第2話【木虎藍】

四年前にこの三門市に門が開き、そこから近界民と後に呼ばれる侵略者が現れ、門付近の街を蹂躙した。

これを撃退したのが界境防衛機関…通称、ボーダーである。

それから僅かな期間で巨大な基地を作り上げ、襲い来る近界民への防衛体制を整えたのである。

 

『緊急警報。

緊急警報。

門が市街地に発生します。

市民の皆様は直ちに避難してください。

 

繰り返しますー。

市民の皆様は直ちに非難して下さい』

 

鳴り響く警報音と共に空中に穴が開き、そこから魚のような鰭を持った巨体な近界民が現れる。

 

「何!?この近界民……!

こんなの見たこと無いわ……!」

 

ボーダー隊員・木虎藍は始めて見る敵に声を上げる。

 

規則違反を起こしたC級隊員・三雲修とその友人・空閑遊真と共に、ボーダー本部へと向かう途中に警報が響き近界民が姿を現したのである。

 

これまでは基地にある誘導装置が近界民の出現する場所を基地付近へて限定しているために住宅街への被害が押さえられていたのだ、最近はその誘導装置が効かないイレギュラーな門が開き始めているのである。

 

報告されているだけでその回数は七回、いずれも非番の隊員が近くにいたために犠牲者が出ずに済んでいる状態である。

 

『こいつは私が片づけないとね!!』

 

 

トリガーを起動させた木虎は自分を鼓舞するように心の中で叫ぶと、修と遊真をその場に残して近界民へと向かっていった。

 

ボーダー隊員は訓練生C級、主力のB級、精鋭のA級のランクに分かれており、藍はその中でもA級に属するエリートである。

 

彼女の持つトリオン量こそ常人のそれと変わらないが研鑽を重ね、今の地位を得たのだ。

それをC級隊員である修が脅かそうとしていることに木虎は危機感を抱いていた。

 

前回イレギュラーな門が開いた時、近界民を倒したのは修であった。

C級隊員に与えられるトリガーはA級、B級のそれとは違い強度、出力共に劣るものだ。

にも関わらずほとんど一撃で近界民を倒したのである。

自尊心の強い木虎が危機感を持つのには十分すぎる理由であった。

 

 

『いけない…いけない…今は任務に集中しないと…』

 

頭を振ると上空にいる近界民に意識を集中する。

空中を泳ぎながら爆撃を行う巨体は木虎のトリオン量では撃ち墜するのは難しいだろう。

 

『あの装甲じゃ弾丸は効かないわね…。

何よりも街にあの巨体を墜とすわけにはいかない………!』

 

橋の欄干から街を爆撃するマンタのような巨大ネイバーを観察し藍は戦略を立てる。

 

『やつは周回軌道で爆撃してる。

移動ルートを先読みして川の上に落とす……!』

 

幸いにも、近界民の周回ルートには藍がいる橋の上を通るようで、現在、こちらに向かってきている。

 

藍は欄干を蹴ると拳銃型トリガーに取り付けられた射出器からワイヤー状トリガー《スパイダー》を撃ち込み、近界民の上に飛び乗る。

 

「空飛んでるだけあって上はがら空き…っなんて事はないみたいね」

 

藍が近界民の背に飛び乗って程なくして、装甲の隙間から触覚のようなものが現れ爆発が起こる。

 

「この程度?」

 

だが、爆発が藍を飲み込むよりも早く、防御用のオプショントリガー《シールド》を用いてこれを防いでいた。

この《シールド》は防御範囲が小さければ小さい程に強度を増すものである。

着地し、しゃがみ込んだ体勢で《シールド》展開したために無傷で済んでいるがそうでなかったらと考えればぞっとする。

 

口では軽い調子で言ってはいるが、実際はかなり危ないところだったと言える。

 

『でも…これで!!』

 

ナイフ型トリガー《スコーピオン》で近界民の装甲を切り裂くと拳銃型トリガーから《アステロイド》を放つ。

この《アステロイド》は特別な効果が無い変わりに威力が高めの弾丸である。

 

数発ほど撃ち終えた所で煙を上げる、近界民。

 

機能停止したかのように見えたそのとき、異変が起こる。

 

近界民の背中の装甲が弾け飛んだかと思うと、そこから杭状の物体が姿を現したのだ。

 

「なんなの!?これ……」

 

狼狽する木虎だが、近界民の巨体が傾ぎ、高度が下がっていくのがわかると声を上げる。

 

「まさかこいつ!!このまま街に墜ちるつもり!?」

 

『木虎さん、拙いことになりました』

 

叫ぶ木虎の耳に彼女が所属する嵐山隊のオペレーターである綾辻遙の声が響く。

 

『現在、その近界民の体内でトリオンが凄まじい勢いで収束しています』

 

「何ですって!!」

 

 

声を上げる木虎、恐らくはこの近界民は人工密集地へと墜ちて自爆するつもりだろう…。

もし、そうなれば甚大な被害が出ることは明白だ。

 

「止まれ!!!止まりなさい!!止まって!!!」

 

声を上げて《アステロイド》を放つが、近界民は一向に止まる様子が無い。

 

『駄目…止められない!!!』

 

木虎が絶望しかけたそのとき、近界民の体が一時静止したかと思うと次の瞬間、彼女の身体は宙を舞っていた。

 

「えっ?」

 

一瞬、何が起こったのかわからず、目を丸くするが直ぐに状況を把握する。

 

近界民が何かに引っ張られ、その反動で木虎の身体が投げ出されたのである。

 

そのまま何かに引きずり込まれるようにして川へと落ちる近界民と木虎。

次の瞬間、凄まじい爆風が川の水をかき回す。

近界民内部で収束していたトリオンが臨界を迎えたのだ。

 

「ぷはっ…」

 

それから程なくして、木虎は顔を水面から出す。

 

『一体…何が…』

 

水に浮かびながら思考する。

市街地へ墜ちていく近界民はトリオンを自身の装甲の強化にも使っていたらしく、木虎の攻撃が全く通じてはいなかった。

何者かに助けられたのは先ず間違いは無いだろう。

 

だが、そこで木虎の思考は中断されることとなる。

 

再び警報が鳴り響き、門が開いたからだ。

 

だが、今度はボーダー本部の近くに開いたのが確認できる。

ホッとする藍。

恐らく、他の隊員が現れた近界民を対処してくれるだろうと考えたのである。

 

だが、その考えが甘いことを直ぐに悟る。

なぜならば、門から現れたのは先ほど彼女が相対した近界民と同じような個体であり、既に自爆の体勢に入っていたからである。

 

ボーダー本部壊滅、そんな恐ろしい考えが木虎の脳裏に浮かぶ。

 

「いや…駄目…」

 

落下する近界民を為すすべもなく見つめる木虎。

 

いくらボーダー本部の守りが強固であったとしてもあの爆発を受ければ無事ではすまされないだろう。

これから起こり事態に木虎が目を背けようとしたまさにその時。

 

何かが空を走り近界民を貫く。

それと同時に《シールド》がその巨体を覆い、次の瞬間には大爆発が起こったのだ。

 

「一体…何が起こったの…?」

 

『狙撃…のようですが…』

 

一瞬、あまりにも一瞬の出来事に呆然として呟いた木虎に綾辻が答える。

 

「いったい誰が…」

 

『少し待ってください、今から狙撃地点の割り出しに…。

 

うそ…そんなことが…』

 

 

木虎の呟きに狙撃ポイントを探していた綾辻の驚いた声がが響く。

 

「綾辻さん?どうかしたの?」

 

『いえ…狙撃ポイントなんですが…』

 

「?」

 

どこか歯切れの悪い綾辻の言い方に木虎は首を傾げる。

 

『三門駅ビル…801の屋上からなんですよ…』

 

「何ですって?」

 

綾辻の言葉に木虎は思わず尋ね返す。

 

三門駅ビル801…大型ショッピングモールを兼ね備えた、三門市民憩いの場である。

 

木虎も何度か利用しているのだが801からボーダー本部まで、直線距離で5kmはあるはずである。

無論、使用するトリガーと狙撃手のトリオン量によっては届かない距離ではない。

それでも相手に当てるとなれば話は別である。

また弾丸が近界民に当たると同時に《シールド》が展開していた。弾丸にシールドのようなオプショントリガーを用いることも出来ないわけでは無い。

だが偶然、その場にいた隊員が機転で行ったというのも考えにくい。

予め、近界民が現れることを知っているとしか考えられないのである。

 

『おかしいですね…』

「今度はどうしたの?」

 

先ほどの一撃を放った隊員を調べていた綾辻が不思議そうな声を上げる。

 

『いえ、その付近にはボーダーの隊員は誰もいないはずなんですよ』

 

「いったい…どうなっているの…?」

 

 

木虎の言葉に頭に疑問符を浮かべる木虎。

 

考えるも答えは出なかったー。

 

 

 

三門駅ビル…801、屋上。

 

「ふぅ…」

 

士郎は弓型トリガー《赤原猟犬‐フルンディンク‐》を下ろしながら息をつく。

赤原猟犬はアルバザッドでは非常にポピュラーな狙撃用トリガーである。

連射能力こそ無いが弾丸だけでなく、シールド等のオプショントリガーを直接発射出来るという利便性の高いものである。

 

先ほど街に爆撃を行っていたトリオン兵‐イルガーは基本、狙撃や砲撃などで撃墜すると内蔵トリオンを展開して装甲の強度を上げ、人口密集地に墜落して自爆するよう作られている。

 

だが、少し調整をいじれば狙撃などを受けなくとも自爆可能な状態へと移行する事が可能である。

これは敵の拠点を攻撃するために良く用いられる方法で内部のトリオンを未使用の状態で投入するために通常の自爆状態よりも威力は高くなる。

 

これを防ぐ方法はその巨体の50%以上を消し飛ばすか、全域を分厚いシールド系のトリガーで覆うほか無い。

 

今回、士郎が取った方法は後者。

使用したトリガーは《牢獄‐プリズン‐》、大型トリオン兵鹵獲用に作られたトリガーである。

 

「はー、この距離から当てるとは大したもんだ」

 

「つっ!」

 

声に振り向くとそこにいたのはサングラス首から下げ、ボーダーの制服を着た青年だ。

 

「何者だ?」

 

「俺は迅悠一、実力派エリートだ」

 

尋ねる士郎に青年は答える。

 

「迅……悠一…」

 

青年の名前を士郎は呟く。

切嗣に何か困った事があれば頼るようにと言われた名だ。

 

「何故、俺がここにいるとわかった?」

 

「俺のサイドエフェクトがそう言ってる。

 

君も同じようなものを持ってるんだろう?」

士郎の問いに淀みなく答える迅。

 

サイドエフェクトは高いトリオン能力を持つ人間が稀に発揮する特殊能力のことであり、士郎の場合は一瞬だけ未来のビジョンが脳内に流れ込んでくるというものである。

イルガーを迎撃できたのもそのビジョンが見えたからだ。

 

「それで…俺に何の用だ?」

 

 

「君、玉狛に入るつもりは無い?」

 

尋ねた士郎に対して迅はそう答えたのであったー。

 

 

 







灰音です、前回から一ヶ月ほど経過してようやく二話目を上げる運びとなりました。
遅くなりまして大変申し訳無いです。

今回は原作7話から10話位の内容になるかと思います。

次の話もやや時間がかかるかもしれませんがゆっくりお待ちいただければと思います。
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