『あー、此方は実力派エリート。
衛宮っち、聞こえるかい?』
「ああ、聞こえている」
弓形トリガー《赤原猟犬》を構えながら士朗はインカムから聞こえてくる声に答える。
数分前、玉狛支部の自室にいたところを彼に呼び出されたのだ。
迅が玉狛に引き入れようと考えていたネイバーの少年がボーダー隊員と戦闘を行うらしく、少しばかり手を貸してほしいとのことだ。
「それで、俺は何をすればいい?」
『スナイパーを二人無力化してくれるかい?
残りは彼自身で何とかできるだろうから~』
『了解』
士朗は短く答えると意識を集中し始めた。
弓手町駅。
近界民警戒区域近くにあるこの廃駅で三輪隊隊長である三輪秀次と隊員、米屋陽介は遭遇した近界民の少年と戦闘を繰り広げていた。
自らを近界民と名乗った少年に向けて放ったアステロイドが少年が展開した盾のようなトリガーで防がれたのである。
『どういうつもりだ、裏切り者の玉狛!』
初撃を防がれたことに加え少年と一緒にいたC級隊員の三雲修の口からでた迅の名が三輪を更に苛つかせていた。
『いや、今は目の前の敵に集中だ』
だが、その苛立ちを直ぐ様落ち着かせるとトリオン体に変換された少年と向き会う。
「うひょー、強そうじゃん!
なぁ秀次こいつオレに一対一でやらせてくれよ!」
「ふざけるな遊びじゃない。
こいつは二人掛かりで確実に始末する」
受かれたようすの米屋に冷静な様子で釘を指す。
「『二人掛かり』……?」
そんな三輪の言葉に少年がスッと目を細めて口を開く。
「おまえおもしろいウソつくね」
その言葉に一瞬だけ三輪の体に緊張が走る。
少年の言葉の通り、この駅舎から少し離れた場所で狙撃主の古寺章平と奈良坂透が狙撃用トリガー・イーグレットを構えてはいるが恐らくはハッタリだろう。
「へぇ、やっぱただもんじゃないな
ここはひとつ全員でじっくりかかるか」
米屋が言いながら凄まじいスピードで槍状の弧月を突き出す。
弧月はスコーピオンと違い、自由な変形や出し入れが出来ず重さもそこそこにあるがバランスの取れた攻撃力と耐久力を誇るトリガーである。
米屋の振るう槍状の弧月は刃よりも持ち手の部分が長いためトリオンの消費を抑えるというものである。
だが、米屋が不意打ちに近い形で繰り出した一撃を少年は容易く回避する。
「不意打ちがミエミエだよ」
唇をと尖らながら宣う少年。
「…と思うじゃん?」
米屋がそう言葉にした次の瞬間、少年の首筋が裂け、鮮血のように大量のトリオンを吹き出した。
「浅いな~。
いきなり首は欲張りすぎたか~。
やっぱり狙うなら足からかな?」
陽介が笑みを浮かべながら言う。
少年は米屋の攻撃を完全に回避したはずである。
にも係わらず傷を負った理由は弧月専用のオプショントリガーである幻踊にある。
この幻踊は弧月にスコーピオンのような形状変化能力を付与するものである。
その後も三輪隊の一方的な攻撃は続く。
少年に反撃を許さぬように絶えず死角を作り込むように動いていた。
だが、その戦況が動いたのはこの状態状況から脱するために跳躍した時である。
ホームから跳躍し空中に踊り出した少年の左腕を透の狙撃が吹き飛ばしたのだ。
続けざまに頭部に目掛けて放たれた弾丸を少年は空中で体を捻って回避する。
無論、ここまでは秀次も想定していた範囲内である。
問題が起こったのが次の瞬間である。
上空を二つの線が横切たかと思うと同時――。
『どわっ!!』
『ぐっ!!!』
インカム越しに古寺と奈良坂の声が耳に入る。
「二人ともどうした?」
『狙撃だ、俺と章平。
二人ともイーグレットを破壊された』
「おいおい、マジかよ」
インカムから聞こえてくる報告に米屋が顔を引き吊らせる。
三輪隊のオペレーターである月見蓮曰く、周囲数百メートル圏内にトリガーを展開した様子はないとの事である。
即ち、相手はその範囲外からイーグレットのみを狙い撃ち破壊したことになる。
「まさか木虎の報告にあった《ファントム》が玉狛と繋がっていたとわな」
その情報から一人、ごちりながら唇を強く噛み締める三輪。
《ファントム》…一週間前にボーダー本部へ向けて特攻を仕掛けてきたトリオン兵を超長距離狙撃で撃破した謎の狙撃主の仮の呼び名である。
『だが、こいつは殺す』
狙撃主が無力化させられたのは手痛いが未だ目の前の少年を殺す方法はあると三輪は考え、米屋と目配せする。
同時にジャケットのトリガーホルダーからトリガーを引き抜き拳銃型トリガーに装填する。
そして、 陽介の突きを回避する少年に向けて発砲する。
少年はシールドを展開してこれを防御しようとするが貫通、命中する。
そして次の瞬間に少年の体から杭のようなものが数本現れる。
鉛弾〈レッドバレット〉ートリオンを重しに変えて相手を拘束する凡庸の射撃オプショントリガーである。
直接的な破壊力が無い代わりにシールと干渉しないというものだ。
「これで終わりだ近界民!!」
膝を着いた少年に向けて飛びかかる三輪と米屋。
だが、次の瞬間ー。
「『錨』印+『射』印四重」
少年のそんな言葉と共に 射出されたのは三輪が先程少年に向けて放った弾丸と同種のもの。
線路脇に転がる三輪とホームへと転がる米屋。
その体から生えるのは少年の体から生えたものと同じ杭のようなものだ。
少年のトリガーか鉛弾をコピーし、更に何倍もの威力で打ち返してきたのである。
「さて、じゃあ話し合いをしようか」
倒れた二人に向けて少年はそう言った。
お久しぶりです、灰音です。
前回の投稿から随分と遅くなってしまいましたが第5話の投稿となります。
出来れば次回から隔月ぐらいでup出来ればと思いますー。