『くそ!』
鉛弾を撃ち込まれ、身動きできない状態で秀次は歯噛みする。
少年のトリガーは相手の攻撃を学習、それ以上の威力で打ち出せるものらしい。
『こんな反則みたいなトリガーが…あって…いや。
まさか!?』
思考すること数秒、その可能性に思い至り、目を見開く。
「よう、派手にやられたな秀次に陽介。
あれ?遊真もけっこうやられてんじゃんか?」
そんな秀次の思考を飄々とした声が遮る。
迅である。
彼の後ろには奈良坂と古寺、三輪隊のスナイパー二名と小型のトリオン兵もいた。
「わざわざ俺たちをバカにしに来たのか」
「違うよ」
睨めつける三輪の言葉を即座に否定し続ける。
「おまえらがやられるのも無理はない、なにしろ遊真のトリガーは黒トリガーたからな」
「マジで!?」
『……やっぱりか』
迅の言葉に目を見開いて驚愕する米屋、一方の三輪は迅の口から語られた言葉と先ほど思い至った事が一致したためさほど驚きはなかった。
「このところ普通の近界民相手でもごたごたしているのに、黒トリガーを二人、敵に回したらヤバイことになるぞ。
こいつを追い回しても何の得もない。
お前らは帰って城戸さんにそう伝えろ」
「………その黒トリガーが街を襲う近界民の仲間じゃないって保証は?
それともう一人の黒トリガーは例の《ファントム》か?」
「おれが保証するよ、クビでも全財産でも賭けてやるよ。
もう一つの問いにはとりあえずノーコメントで」
三輪の言葉に迅が答える。
その言葉が三輪の逆鱗に触れる。
「何の得もない……?
損か特かなど関係ない……!
近界民はすべて敵だ……!!
緊急脱出!!」
怒りを露に叫んだ三輪、同時にそのトリオン体が砕け光の帯がボーダー本部へと飛んでいく。
緊急脱出。
ボーダーの正隊員のトリガーに搭載された機構でトリオン体が破壊されると自動的に基地へと送還し、隊員の生命を守るというものだ。
「あー、負けた負けたー!
しかも手加減されてたとかもー!
さあ、好きにしろ!
殺そうとしたんだ殺されても文句は言えねー」
それを見届けた米屋はトリオン体を解除、ホームへと寝転がる。
「べつにいいよ
あんたじゃたぶんおれは殺せないし」
近界民の少年‐空閑遊真がそんな陽介にそう返す。
「マジか!
それはそれでショック!
じゃあ今度は仕事関係なしで勝負しようぜ!
一対一で!」
「ふむ、あんたは近界民嫌いじゃないの?」
体を起こしながら言う米屋の言葉に遊真が尋ねる。
「おれは近界民の被害受けてねーもん
正直別に恨みとかはないね。
けど」
言いながらホームで迅と話す古寺と奈良坂の方を一瞥する。
「あっちの二人は近界民に家を壊されてるからそこそこ恨みはあるだろうし、今飛んでった秀次なんかは姉さんを近界民に殺されてるから一生近界民を許さねーだろーな」
「………なるほどね」
「陽介!引き上げるぞ」
「おーう」
奈良坂の言葉に米屋立ち上がり二人と共に本部へと歩いていった。
「さてと、三輪隊だけじゃ報告が偏るだろうから。
俺も基地に行かなきゃ。
メガネくんはどうする?
どっちにしろ呼び出しはかかると思うけど」
「……じゃあぼくも行きます」
頭を掻きながら尋ねる迅に修が答え、二人もまた本部へと歩いていった。
「なるほど、報告御苦労」
ボーダー本部にある会議室。
報告を終えた修と迅にボーダー本部司令城戸正宗が労いの言葉をかける。
「しかし黒トリガーとは……。
そんな重要なことをなぜ今まで隠してたのかね。
ボーダーの信用に関わることだよ」
額の汗を拭いながらメディア対策室長の根付栄蔵が城戸の言葉に続く。
「それは迅や三雲くんなりの考えがあってのことだろう。
話によれば結果的に三雲くんは現在まで黒トリガーを抑えている。
もう一人の方もこちらと敵対する意思は無いということだしな」
そんな根付の言葉に反論したのはボーダー本部長の忍田真史である。
「そうだとしても我々に報告する義務がある!
一隊員の手に負えることじゃなかろう」
そんな忍田に対して恰幅の良い男性が苦言を呈する。
開発室長の鬼怒田本吉である。
「そのとおり、なにせ相手は黒トリガーですからねぇ」
鬼怒田の言葉に根付が同乗する。
「まあまあ、考え方を変えましょう」
そんな中、迅が片手を上げて意見を述べる。
「その黒トリガーが味方になるとしたらどうです?
メガネくんはその近界民のうちの一人の信頼を得てます。
彼を通じてその近界民を味方につければ争わずして大きな全力を手に入れられますよ」
「それはそうだが…。
そううまくいくものかねぇ?」
「……たしかに黒トリガーは戦力になる。
……よしわかった。
その近界民を始末して黒トリガーを回収しろ」
「!?
なっ……」
城戸の言葉に修が絶句する。
「ふむ…それなら何も問題はありませんねぇ
貴重な黒トリガーだ。逃がす手はない」
「間が悪いことにA級の一位から三位までの隊は遠征中だが残った正隊員を全て使えばやれんことはなかろう」
「馬鹿な……それでは強盗と同じだ!
それにその間の防衛任務はどうする気だ!?」
黒トリガーを強奪する方向へと話を進める城戸達に忍田が机を叩いて反論する。
「部隊を動かす必要はない。
黒トリガーには黒トリガーをぶつければいいだろう。
迅、お前に黒トリガーの捕獲を命じる。
会議は終わりだ。
速やかに任務を遂行せよ」
「それはできません」
城戸からの命令に迅が拒否の言葉を返す。
「どういうことかね?
迅くん
最高司令官の命令に従えないと?」
そんな迅の言葉に根付が苦言を呈する。
「おれは玉狛支部の人間です。
城戸司令に直接の指揮権はありません。
俺を使いたいなら林藤支部長を通して下さい。
それにもう一人の黒トリガーの使い手はかなり手強いのでもし戦うことになっても俺でも勝てるかどうかわかりませんよ」
根付の言葉に迅が首を竦めて返す。
ボーダーの指揮系統は命令の重複を避けるために直属の上巻のみが部下に命令できるようになっているのである。
「………林藤支部長、命令したまえ」
「やれやれ……支部長命令だ迅、黒トリガーを捕まえてこい」
城戸の言葉に林藤は煙草をくわえながら迅に命令に一言つけ加える。
「ただし、やり方はおまえに任せる」
林藤の言葉に迅が笑みを浮かべて敬礼する。
「了解、支部長。
実力派エリート迅。
支部長命令により任務を遂行します!」
「………林藤……!」
目を細めて林藤を睨む城戸。
「ご心配なく城戸さん。
ご存じの通りウチの隊員は優秀だから」
だが、城戸の怒りを林藤はそう言って受け流す。
「やはり玉狛なんぞに任せてはおけん!
忍田くん本部からも部隊を出せ!」
「城戸司令が決めたことだ。
迅に任せればいいだろう」
「それはそうだが……」
匠の言葉に部屋を去ろうとする迅と修。
そんな二人を尻目に鬼怒田と根付、忍田が言い合いを始める。
「迅くん、三雲くん、ちょっといいかな」
そんな中、迅と修に声をかけた人物がいた。
「はい」
「なんですか?唐沢さん?」
外務・営業部長の唐沢克己である。
「君の友人の近界民がこっちに来た目的はなんなのか、君は聞いてないのか?
迅、例の近界民《ファントム》についての報告を聞きたいのだが…とりあえずは三雲くんから話を聞くとしよう」
「目的……ですか?」
唐沢の問いに修が問い返す。
「そうだ、相手が何を求めているか、それがわかれば交渉が可能だ。
たとえ別世界の住人でも」
「交渉……!?
近界民相手に何を悠長な……」
「排除するよりも利用できないかと考えてしまうんですよ。
根が欲張りなもので」
「目的……そういえば」
唐沢の言葉に修は何かを思い出したかのように言葉を続ける。
「『父親の知り合いがボーダーにいる。
その知り合いに会いに来た』
……たしかそう言ってました」
「ボーダーに知り合い……!?
だれのことだ?」
「いや名前は聞いてないんですが………」
「その「父親」の名前は?
……いやきみの友人本人の名前でもいい」
「父親の名前はわかりませんが本人の名前は空閑遊真です」
克己の言葉に修が答える。
その言葉に反応した人物が三人いた。
林藤匠、忍田真史、そして城戸正宗の三人であった。
「空閑……空閑有吾か!?」
「クガ…何者ですかな?
そのクガとやらは?
我々にもご説明願いたいですねぇ」
忍田の言葉に尋ねる鬼怒田と根付。
「空閑有吾………有吾さんは……4年前半前にボーダーの存在が公になる以前から活動していた。
言わば旧ボーダーの創設に関わった人間。
ボーダー最初期メンバーの一人だ。
私と私と林藤にっては先輩にあたり城戸さんにとっては同輩にあたる。
それで、有吾さんは……その子の親は今どこに?
君は聞いていないか?」
「空閑の親父さんは……亡くなったと聞いています」
問うた忍田に修は答える。
「………そうか…………しかし、そういうことならこれ以上部隊を繰り出す必要などないな。
有吾さんの子と争う理由などない」
「……まだ空閑の子と確認できたわけ訳ではない。
名を騙っている可能性もある」
「それはあとで調べればわかることだ。
迅、三雲くん。
つなぎを宜しく頼むぞ」
「……はい!」
「そのつもりです忍田さん」
忍田の言葉に頷く、遊真と迅。
「さて、迅。
もう一人の黒トリガーについても話してくれるかな?」
「っというか、林藤さんから聞いてないんすか?」
問うた城戸に問いで返す迅。
迅の言葉に城戸が林藤の方を見る。
「あー、すまん。
報告するのをすっかり忘れてたわー」
頭をかきながら言う林藤。
城戸は溜め息をつくと林藤に先を促す。
「ああ、もう一人の黒トリガー使い手の名は衛宮士朗。
察しの通り、切嗣さんの息子さ」
肩を竦めて答える林藤。
その言葉に驚愕に目を見開く城戸と忍田。
「なるほど、迅でも勝つのが難しいと言った理由がよく解った」
城戸が再び、ため息と共にそう言葉を紡いだ。
「その、衛宮切嗣っというのも旧ボーダー創設期のメンバーですか?」
「ああ…」
根付の問いに城戸は頷き、続ける。
「奴のブラックトリガーはとにかく規格外と言ってもいい代物だった。
……なにしろブラックトリガーを含めたあらゆるトリガーを瞬時に複製して使いこなせるという代物だからな……」
「……!!」
城戸の言葉に根付は驚愕する。
「なるほど、確かにそんな馬鹿げた性能の黒トリガーであるならば、敵に回すよりも味方に引き込んだ方がいいかもしれませんね」
絶句する根付に変わり、唐沢が苦笑しながら答える。
「………では、解散とする。
進展があれば報告するように」
城戸の言葉と共に修達は会議室を退出した。
「空閑の親父さんが上層部の人たちと知り合いなら、空閑ももう大丈夫ですよね?」
会議室を後にしたところで修が迅に尋ねる。
「うーん、どうかな」
「いや、だってさっき忍田本部長が…」
だが、帰ってきた迅の解答はどこか曖昧なものであった。
尚も食い下がろうとした修を手で制して迅は続ける。
「メガネくんもなんとなく気づいてると思うけど、今ボーダーは大きく分けて3つの派閥に割れてんだよね」
「派閥……?」
「そう。
近界民に恨みのある人間が多く集まった『近界民は絶対許さないぞ主義』の城戸さん派。
近界民に恨みはないけど街を守るために戦う。
『街の平和が第一だよね主義』の忍田さん派。
そして、『近界民にもいいヤツいるから仲良くしようぜ主義』の我らが玉狛支部。
で…まあ玉狛と城戸さんとこは考え方が正反対だからあんまり仲がよろしくない」
「なるほど…」
先の戦闘で迅の名が出た際に三輪が苛立ち見せことを思いだし修は頷く。
「まあ、城戸さん派は一番でかい派閥だから玉狛が何かやっても王者の余裕で見逃して貰えたけれど、もし士郎……あっ《ファントム》のことね。
で、士郎と遊真が玉狛と手を組んだらた分そのパワーバランスがひっくり返る」
「……!?
たった二人にそこまで!?」
驚愕する修に迅は続ける。
「黒トリガーってのはそういうもんなの。
城戸さん派的にはそれは避けたいだろうから、どうにかして黒トリガーを横取りしようとするだろうな……。
まあ詳しい話は士郎や遊真と合流してからだな……」
言いながら二人はボーダー本部を後にしたー。
皆さん、お久し振りです灰音です、戦闘シーンがないのにそこそこの文章量でお送りします。
次は遊真の過去話を送りする予定ですー