「ところで迅さん、さっきの話に出ていた《ファントム》…士郎って人は今何処に?」
「ああ、今は玉狛に戻ってるはずだがなー」
ボーダー本部で事情を説明し終え、迅に隣を歩く修が尋ねる。
現在は遊真と修の幼なじみである雨取千佳と合流すべく街の中を歩いているところである。
「気になるの?」
「一応、さっきの戦闘に手を貸してくれた人ですし少しは気にしますよ」
「まっ、焦らなくてもすぐに逢えるさ」
修の言葉に答える迅。
「おーい」
迅が答えると共に自転車を押す遊真が千佳商店街の向かい側からやってくる。
「オサム偉い人にしかられた?」
「いや……まあ、叱られたけど処分はひとまず保留になった」
「おー、そりゃ良かった
ひと安心だな」
答えた修に遊真がほっとしたように漏らす。
「まだ安心じゃない
ボーダーがお前のトリガーを狙ってくる可能性があるんだ」
「ほう」
「………これからどうすればいいですか?
迅さん」
「うーんそうだな」
尋ねる修に顎に手をやりながら迅は答える。
「いろんな考えたけどこういう場合はやっぱシンプルなやり方が一番だな」
「シンプルな…」
「やり方……?」
迅の言葉に首を捻る修と遊真。
「うん遊真おまえ………ボーダーに入んない?」
「おれが…!?」
「空閑をボーダーに入れる!?」
迅の提案に遊真と修が驚愕した表情を浮かべる。
「別に本部に連れていくわけじゃないぞ。
ウチの支部に来ないかって話だよ。
ウチの隊員は近界民の世界に行ったことがあるやつが多いからお前が向こう出身でも騒いだりはしないぞ。
とりあえずおためしで来てみたらどうだ?」
「ふむ………オサムとチカも一緒ならいいよ」
「よし、決まりだ。」
迅の言葉に遊真が答え三人は玉狛支部へと向かったのである。
川の上に作られた支部先ず最初に三人を迎えたのは巨大なカピバラに跨がった少年-林藤陽太郎である。
「あれっ?
もしかしてお客さん!?」
そして陽太郎に次いで三人を出迎えたのは眼鏡をかけた少女だ。
「やばい!お菓子ないかも!
待って待って!ちょっと待って!」
彼女は三人の姿を見るやバタバタと慌ただしく奥へと姿を消していく。
一分後、来客用のソファーに座る三人の前にお茶と共に出されたのは楕円形の菓子‐所謂どら焼きである。
「どら焼しかなかったけど……
でもこのどら焼いいやつだから食べて食べて。
あたし宇佐美栞宜しく」
「これはこれは立派なものを」
どら焼を勧めながら自己紹介する栞に遊真は頭を下げる。
とー、そこで遊真のどら焼に陽太郎がそっと手を伸ばす。
「あっ、陽太郎!
あんたはもう自分の食べたじゃん!」
「あまいなしおりちゃん。
ひとつでまんぞくするおれではない」
注意する栞にどや顔で反論する陽太郎。
そんな陽太郎の頭に遊真がチョップを降り下ろす。
「悪いなちびすけ。
おれはこのどら焼というやつに興味がある」
頭を押さえる陽太郎に遊真がどら焼を手にいい放つ。
「ふぐぐ……おれのどらやき……」
悲しげな表情の陽太郎に千佳が自分のどら焼を渡す。
「よかったら……わたしのあげるよ」
千佳の言葉に陽太郎が笑顔を浮かべつつどら焼を受けとる。
「……きみかわいいね。
けっこんしてあげてもいいよ」
「えっ!?結婚……!?」
陽太郎から出た言葉に千佳が戸惑ったような声をあげる。
「おれとけっこんすればらいじん丸のおなかさわりほうだいだよ
けっこうきもちいい」
言いながら部屋の隅で踞るカピバラを指差してその体を押しながら話を続ける。
「こうゴロンってやって……」
雷神丸の体を押すが、その体は一向に動かない。
「………けっこうしたらさわりほうだいだよ」
その後も何度か雷神丸の体を押すがやがて陽太郎は諦め、涙目になりながらそう言った。
そんなユルい雰囲気に修はどこか怪訝な表情を浮かべて口を開く。
「なんていうかここは本部とは全然違いますよね……」
「まあウチはスタッフ全員で10人しかいないちっちゃい基地だからねー
でもはっきり言って強いよ」
修の言葉に眼鏡を動かしながら栞が答える。
「ウチの防衛隊員は迅さん以外に三人しかいないけどみんなA級レベルのできる人だよ
玉狛支部は少数精鋭の実力派集団なのだ!」
栞の全員A級という言葉に修が息を呑む。
「あの……」
そんな栞の言葉に千佳が手を上げて質問する。
「さっきあの迅さんが言ってたんですけど、宇佐美さんもむこうの世界に行ったことあるんですか?」
「うんあるよ。
一回だけだけど」
「じゃあ、その。
むこうの世界に行く人間ってどんなふうに決めてるんですか?」
「それはねー
A級隊員の中から選抜試験で選ぶんだよね。
大体は部隊単位で選ばれるから私もくっついて行けたんだけど」
「A級隊員………。
ってやっぱりすごいんですよね………」
栞の言葉に千佳が俯き気味に言葉を漏らす。
「400人のC級。
100人のB級の更に上だからね
そりゃツワモノ揃いだよ」
お茶を啜りながら千佳の問いにお茶を啜りながら答える栞。
そんな千佳になにか思うことがあるのか修は思慮深げな表情を浮かべる。
「よう三人とも」
だがそこで迅が部屋へと入って来たことで修は思考を中断してそちらの方を見る。
「親御さんに連絡して今日は玉狛に泊まっていけ。
ここなら本部の連中も追ってかないし空き部屋もたくさんある。
宇佐美、面倒見てやって」
「了解」
迅の言葉に敬礼で返す栞。
「遊真、メガネくん。
来てくれ、ウチの支部長が会いたいって」
迅の言葉に従って二人は別の部屋へと移動した―。
「失礼します。
二人を連れてきました」
迅に連れられて玉狛支部の支部長である林藤匠の部屋へと訪れた遊真と修。
そこにいたのは椅子に座りながら煙草を燻らせる男性と気お付けの姿勢で立つ、修と同じぐらいの年齢の少年である。
「おまえが空閑さんの息子か。
おまえのことは迅と三雲くんから聞いてる。
玉狛はお前を捕まえる気はないよ。
ただひとつだけ教えてくれ。
お前の親父さんの知り合いに会いに来たんだろ?
その相手の名前はわかるか?」
「モガミソウイチ。
親父が言ってた知り合いの名前は………モガミソウイチだよ」
匠の問いに答えた遊真。
その言葉に匠と迅はどこか納得したような表情を浮かべた。
「最上宗一はボーダー創設メンバーの一人でお前の親父さんの競争相手だった。
そして迅の師匠だった」
匠の言葉に迅が手に持った短刀のようなトリガーを匠の机の上に置いた。
「この迅の黒トリガーが最上さんだ」
「じゃあその人は………」
「最上さんは五年前に黒トリガーを残して死んだ」
「………そうか……このトリガーが……」
匠の言葉に遊真はどこか悲しげにブラックトリガーに触れる。
「最上さんが生きていたらきっと本部からお前のことを庇っただろう。
俺は新人の頃空閑さんに世話になった恩もある。
その恩を返したい。
おまえが玉狛に入れば俺も大っぴらにお前を庇える。
本部とも正面切ってやりあえる。
どうだ?
玉狛支部に入んないか?」
結局のところ遊真は匠の誘いを断ることを選んだのであった。
それから数分後―玉狛支部の屋上―。
「悪いね迅さん、せっかく誘ってくれたのに」
「別にいいさ。
決めるのは本人だ。
お前が後悔しないようにやればいい」
謝る遊真に迅はホットミルクを手渡しながら続ける。
「……それよりもお前の話を聞かせてくれよ。
今までのお前と親父さんの話―」
前作の投稿から半年ぶり投稿になりましたがお久しぶりです。
原作の連載再開&ジャンプSQへの転載も決まったことですしこちらもぼちぼちと執筆を再開していこうかと思います。