『…なるほどな』
玉狛の屋上へと通じる扉越しに遊真と迅の話を聞いて、一人納得する。
屋上へと向かう遊真と迅の姿を見つけてこっそりと後をつけていたのだ。
遊真も士郎と同じように父親と共に近界民間の戦争に参加つつ旅をしていたのだがとある国での戦争の最中致命傷を負ったのである。
だが、彼の父・有吾がその身をブラックトリガーにすることで遊真はその命を繋ぎ止めることができたのだ。
それからおよそ三年の間遊真は父親の代わりに戦い続けた。
粘り強い抵抗により敵国は侵攻を断念し、後に講和によって戦争は終結したのだ。
その後、有吾の故郷である三門市へとやってきたのだ。
しかし、近界民である遊真は三門市には居場所はないと感じていたのだ。
「おれは、むこうの世界に帰るよ
おれがこっちに来た理由はもうなくなった。
これ以上いてもゴタゴタするだけだからな。
……けど、この何日かは面白かったな
久々に楽しかった」
「……そうか、これからもきっと楽しいことはたくさんあるさ。
おまえの人生には」
そう言った迅の言葉は気のせいか余り残念そうには聞こえなかった。
「ボーダーに入りたい……!?
…お前が!?」
「……うん」
屋上前から一足早く退散した士郎は食堂前で修の驚いたような声と千佳の肯定す言葉がが聞こえたのだ。
士郎は悪いとは思いながらもその会話にそっと聞き耳を立てる。
「防衛隊員になるってことか!?
危険だぞ!」
「うん……」
「いや~
ごめんね」
二人の会話にそう割って入ったのは栞だ。
彼女は千佳をフォローするように会話を続ける。
「てっきり千佳ちゃんも迅さんがスカウトしたのかと思って。
あれこれしゃべってたら千佳ちゃん食いついちゃった。
アタシ的には大歓迎なんだけど
一応修くんにも報告しとこうと思って」
「さっきも聞いただろ?
近界民の世界にいくにはA級隊員にならなきゃいけないんだぞ?
A級ってことはさっき空閑と戦っていた人たちやテレビでよく見る嵐山さんたちと並ぶってことだ。
それがどれだけ難しいことかわかってるのか?」
「それにね、もし遠征メンバーに選ばれても行く先を選べる訳じゃないんだよ。
お兄さんたちをさらった国には行けないかも」
諭すような修と栞に千佳は決意は揺るがないと言うように食い下がる。
「わかってます……
わたしなんかが何をやったって全部意味ないかもしれないって。
でも……じっとしてられないんです。
ちょっとでも可能性があるなら……」
「そっかー。
じゃあどうするのがいいかなあ。
さっきも言ったけどうちの隊は実力派集団だから新人が入る隙がないんだよねー
だからほんとにA級目指すなら本部に入ってチーム組んだほうがいいのかなぁ
アタシは千佳ちゃんにはうちに来てほしいけどさ」
千佳の真剣な言葉に栞が答える。
「本部……ですか……。
……少し考えがあるんですけどいいですか?」
栞の言葉に何か思うところがあったのか修は部屋を出る。
そこで壁にもたれる士郎を発見する。
「……聞いていたんですか?」
「すまんな、部屋の前を通ったらお前さんの声が聞こえたもんでな」
怪訝な表情を向ける修に士郎は首を竦めて答える。
「で、空閑と部隊を組むつもりか?」
「ええ」
士郎の問いに修は頷く。
「よかったら、俺も同行させてくれないか?」
士郎の申し出に修は少し思考するような仕草をした後、首肯した。
「空閑」
屋上へに出ると修は、屋上の縁に腰かけて夜空に浮かぶ満月を見上げる遊真に呼び掛ける。
「おー、オサムにシロー。
どうした?」
「俺は修についてきただけだ」
尋ねる遊真に士郎はそう答え、修に言葉を促す。
「………
千佳が、ボーダーに入るって言ってる」
「ほう?」
「近界民にさらわれた兄さんと友達を探しに行きたいんだそうだ」
「あー、なるほど。
オサムはどうすんの?」
遊真に背を向るように屋上の縁に腰掛け、修は遊真の問いに答える。
「止めようかと思ったけど、止めてもききそうになかったから手伝うことにした
僕は千佳と隊を組んで、玉狛支部からA級を目指す」
「おー、面白そうだな」
「お前も一緒にやんないか?」
修の提案に一瞬だけ目を円くする遊真。
「お前に嘘をついても仕方ないから言うけど、レプリカに親父さんの話を聞いたんだ。
お前がこっちに来た目的も………」
「うん……残念ながら無駄足だったけどね。
おれはもうこっちでやることはなくなった」
「…だったら
僕にお前の力を貸してくれ。
千佳が兄さんたちを探しに行けるように。
正直、今の僕と千佳だけじゃA級まで上がるのは難しい。
それは僕も千佳もわかってる。
実力あるリーダーが必要なんだ」
「ふむ……。
オサムは相変わらず面倒見の鬼だな。
相手がチカだからとはいえ……」
「なっ……」
「いや、オサムは誰が相手でもそうか。
そしてまた死にかける」
「ぐっ……」
散々な言われようであるが事実をつかれて修が言い淀む。
「……親父が俺を助けて死んだとき。
親父はなぜか笑っていた。
その理由がおれにはわかんなかった。
俺が死にかけたのは親父の忠告を聞かなかったからで、親父が代わりに死ぬ必要なんて全然なかったのになんであのとき笑ってたのか。
それを親父に聞いてみたかった。」
「……」
無言の修に遊真は続ける。
「……けどそのへんちょっとオサムに似てる気がするんだよな。
自分が損しても他人の世話を焼くところとか。
なぁ、オサムはなんで死にかけてまでも人を助けるんだ?
困ってる人は見過ごせない性格なのか?」
「……別にそんないいもんじゃないよ。
僕はただ自分が『そうするべき』と思ったことから一度でも逃げたら、きっと本当に戦わなきゃいけないときにも逃げるようになる。
自分がそういう人間だって知ってるんだ。
だから人の為にやってるわけじゃない。
自分のためにやってるんだ」
「なるほど、オサムっぽいな。
けどやばいときは逃げないとそのうち死ぬぞ。
逃げるのも戦いのうちだ」
「う……」
遊真の問いへどこか理屈っぽい答えを絞り出す修。
だが、あっさりと正論で返されてしまい再び言い淀む。
「……さて、ほっとくとオサムとチカがすぐ死にそうだから俺も手伝うか。
あと隊を組むのが楽しそうでもある」
座る向きを変えながら言う遊真。
「できればでいいんだが、俺もお前らの隊に入れてもらえないか?
確か、一つの隊に隊員は6人までは大丈夫だったはずだよな?」
「良いのか?」
士郎の言葉に修が尋ねる。
「まっ、話を立ち聞きした詫びもってのもあるが面白そうっとのもあるしな」
「二人とも……!」
無事に遊真の勧誘もできたことと、士郎な加入は想定外だったのか修は顔を輝かせた。
「修くん、遊真くん、衛宮くん」
屋内へと戻ってきた修と遊真に踊場で待っていた千佳が迎える。
「修に誘われたからいっしょにやるよ。
ヒマだし。
チカにはまだ自転車の乗る方教えてもらわなきゃいけないしな」
「ありがとう……!」
階段を降りながら言う遊真に千佳が礼を述べる。
「……ただし。
リーダーはオサムだ。
そうじゃなきゃチームは組まん」
「な……!?
何言ってんだ!
リーダーはお前だろ!
お前のほうが実力も知識も経験もずっと上だ!
僕が勝てるところなんかひとつもない!
なんで僕がリーダーになるんだ!?」
唐突に切り出された遊真の提案に反乱する修。
「俺がそうするべきだと思ってるからだ」
「……!」
そんな修の目を真っ直ぐ見て答える遊真。
「わたしも、リーダーは修くんがいいと思う」
そんな遊真に同意を示す千佳。
最後に、フォローを求めるように士郎に視線をやるが、士郎は小さな肩をすくめるだけだった。
「決まりだな。
じゃあさっそく林藤さんのとこ行くか。
さっき断ったばっかだからなんかはずかしいな」
諦めろとばかりに修の肩を叩く遊真。
そのまま四人は匠の部屋へと向かった。
「おう、遅かったな」
そう言って士郎達を出迎えたのは椅子に座った林藤とその傍らに立った迅だ。
林藤のシステムデスクの上には書類が四枚広げられていた。
「四人分の入隊・転属用の書類だ」
「……!?」
まるで仕組まれたとでも思うような手際のよさに四人は驚愕する。
「迅さん……。
この未来が見えてたの?」
「言っただろ?
『楽しいことはたくさんある』って」
尋ねた遊真に迅は少し笑みを浮かべて答える。
「………よし。
正確な入隊は保護者の書類が揃ってからだが、支部長としてボーダー玉狛支部への参加を歓迎する。
たった今からお前たちはチームだ。
このチームでA級昇格。
そして遠征部隊選抜を目指す!」
必要事項への記入を終えた書類を揃えながら林藤が宣言する。
玉狛第二部隊、結成の瞬間であった―。
前回から2年近く間を開けての投稿となります。
今回は会話が多くてすいません。
アニメの方もセカンドシーズンが始まりますし、月一ぐらいのペースで投稿出来ればなと思います。