阿礼狂いに生まれた少年のお話   作:右に倣え

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共存の答え

 結局のところ、萃香は信綱という人間を何一つ理解していなかった。それに尽きるのだろう。

 

 確かに彼は幻想郷において屈指の実力を持つ。幻想郷の中で彼と比肩する人間を探すなら、幻想郷の調停者としての能力を持つ博麗の巫女の歴史を紐解かねばならないほどに。

 八雲紫の境界を操る程度の能力や、伊吹萃香の疎と密を操る程度の能力といったものもない。正真正銘、彼はただの人間でありながら、幻想郷の実力者として名を連ねている。

 

 古来より人妖の関係というのは、妖怪が人を襲い、人が妖怪を討ち倒すという流れによって形作られていた。

 だが、その法則は人間が常に前に進み続け、妖怪はその場に停滞し続けるという条件の元に成り立っている。人の進歩が八雲紫によって操られている今、人間に妖怪を討ち倒す力はない。

 

 人が妖怪に抗えず、妖怪も人を蹂躙できない。そんな時代の中、火継信綱という名の英雄は生まれ落ちた。

 吸血鬼異変を境に頭角を現した彼は烏天狗を討伐し、西洋の鬼とも言える吸血鬼を打倒し、巻き込まれた天狗の騒乱を大天狗の討伐で終結。そして天魔との対話から人妖の共存を区画を区切ってとはいえ成し遂げる。

 彼が幻想郷の表舞台に姿を表してからの道のりは、余人が見れば華々しいものであるという印象を与える。

 

 それは一面で間違っていないだろう。彼は巻き込まれる騒動の中において目覚ましい力を発揮し、華々しい活躍をした。

 長らく自分たちと戦える相手を求めていた妖怪が、その結果に目を取られて彼の人間性に目を向けなかったことの、何が責められようか。

 彼の内面を正しく理解しているのは、恐らく人妖含めて十人も満たないだろう。ほんの少し、彼以外の周辺から情報を得ようと思えば容易に調べられる内容であるが、だからこそ盲点となっていた。

 

 彼ほど外聞と内面が乖離している人物も珍しい。外聞は確かに英雄で、彼もある程度意識してそのように振舞っている。

 だが、彼を一言で表すのならそれは英雄ではなく――阿礼狂い以外にあり得ない。

 

「――死ね」

「っとぉ!!」

 

 怜悧な無表情のまま、しかし振るわれる斬撃の鋭さは勇儀に見せたものの比ではない。

 鬼の萃香が受けることも避けることもせず、ただ後ろに下がることを選択してしまうほど、彼女は信綱に呑まれつつあった。

 

(気圧された? この私が? 大江山に名を馳せた伊吹萃香様が、かよ!)

 

 しかし彼女もさるもの。自身が威圧されていることに対し、凄まじい怒りを覚える。その腸が煮えくり返る心地に自らを置くことにより、萃香はいつも通りの自分を取り戻す。

 自身への怒りによって冷静さを取り戻すという曲芸を行って、萃香は改めて迫り来る信綱を見据える。

 

 仏頂面、しかめっ面、渋面、などといった苦虫を噛み潰した顔ではない。勇儀と戦っていた時には予想外のことに目を見開いたり、苦悶の表情を浮かべたりといった人間らしい行動をしていたが、今はそれすら見られない。

 ただただ何もない。顔に何の感情も出さず、瞳に何の感情も浮かべず、されど振るわれる双刃の冴えは増しに増していく。今ならば八雲紫のスキマですら斬り裂いてしまいそうなほどだ。

 

 それらの情報を頭のなかでまとめ――萃香は笑う。

 

「ハン、面白え。元々やることに変わりはねえんだ。これもまた新しい趣向の一つと受け入れてやるよ!!」

「――」

 

 地を踏みしめ、突っ込んでくる信綱を睨みつける。

 そもそも鬼に後退の二文字はない。信綱がどんな精神状態にあって、どんな苛烈な攻撃をしてこようとも、それを正面から受け止め叩き潰してこその鬼。

 信綱がここまで変貌することは予想外だったが、それ以外はほとんどが萃香の思い通りになっているのだ。焦る必要などどこにもない。

 

 双刃を振りかぶる信綱に合わせ、萃香も拳を振るう。但し、その拳には周囲から萃めた熱を纏わせて直撃せずとも熱と火傷で動きを鈍らせる効果がある。

 

「――」

「チィっ!!」

 

 舌打ちは萃香から。信綱は萃香が何かを萃める気配を出した瞬間、その場から離脱していたのだ。

 そして拳を振り抜いた時にはすでに後ろに回り込まれている。

 

「こんの……っ!!」

 

 地脈を萃め、隆起した土塊が槍のように信綱に迫り――左の刀で斬り落とされている。おぞましさすら覚える対応速度。まるで萃香の技を全て知っているかのようだ。

 しかし左の刀を使ったことに変わりはない。萃香が片手をかざすと、その刀に密の力が加わり、彼女の方へ引き寄せられる。

 いかに信綱が凄まじい武芸を誇ろうと武器がなければどうにもならない。一刀だけでも奪い、武器を破壊してしまえば間違いなく趨勢は萃香に傾く。

 

 このまま刀を持ち続ければ腕が引き千切れる。武器を離せば空いた拳で殴り壊してしまえば良い。仮に向かってきたとしても、迎撃の心構えはできている。

 

「――!」

 

 信綱が取った行動はどれでもなかった。左の刀が引っ張られていることに気づくと、地面にそれを突き刺す。

 それだけでどうにかなるのか、と萃香が嘲ったのも一瞬。

 突き刺した刀を軸に吸い寄せられる力に僅かに踏ん張り、そして逆に引きずられる力を利用して、速度を上げた斬撃を放ってきたのだ。しかもご丁寧に地面に刺した刀は萃香の顔面目掛けて投げられている。

 地面に刺したのは一瞬だけでも萃香の計算を狂わせるため。そして時間差を付けて投げることにより、事実上の二連撃として機能する。

 

 道のない二者択一を迫ろうとしたら、逆に利用されてこちらが選ばされる側になっていた。その事実に苛立ちつつも、萃香は己の身体を疎にして斬撃を避けようとして――失策に気づく。

 

「やばっ――」

「――」

 

 投げた刀の先に萃香の姿がなくなったことに気づくと、信綱は霊力による身体強化で増加した脚力を存分に活かし、投げた刀に追いついて回収するという離れ業をやってのける。

 すでに萃香の気配は周辺に散っている。この薄く広く、特定の人物の気配がするという奇妙な感覚は萃香以外にあり得ない。

 

 ――もう、彼女の斬り方は理解している。

 

「――死ね」

「ぐぁっ!!」

 

 何もない空間に刃を振るう。だが、それだけで空気中に散っている萃香から苦悶の声が漏れる。

 そしてそのまま追撃の刃が空間に振るわれる。今度は声を上げないが、信綱は刀に伝わる感触で萃香を斬っていることに確信があった。

 振るわれる刃には霊力が込められている。霊力のこもった攻撃ならば通常より治りが遅くなり、殺しやすくなる。その優位性を理解していたからこそ、進退窮まる時まで使わないつもりだったが、そこは勇儀の強さを称えるしかない。

 

 対して萃香の体たらくは何なのだろう。確かに自分は勇儀の戦いを経て、鬼の中でもなお隔絶した強さを持つ鬼相手の戦い方をある程度理解した。

 だが、それにしても小細工に過ぎる。ひたすら正面から攻め続ける信綱と、それに対し様々な技工を凝らす萃香。どちらが鬼なのかわからない。

 

 信綱にとって彼女は排除すべき敵以外の何ものでもない。故に彼女の対し余計な感情は持っていないが――彼女の脅威を忘れたわけでもない。

 疎と密を操る程度の能力の汎用性は、間違いなく八雲紫の境界を操る程度の能力に比肩する。

 現に先ほどの攻防にしたって熱を萃めて炎を作り上げ、地脈を萃めて大地の隆起を行うなどやりたい放題だった。

 

 ――そんなことしなくても信綱は人間だ。一撃殴れば死ぬことに変わりはない。

 

 今でこそ霊力による身体強化があるが、それにしたって鬼の一撃を十全に受け止められるようなデタラメな代物ではない。

 勇儀の双腕を防ぎ切ったのは不完全な形で放たれたことと、信綱がどこからどのような軌跡で攻撃が来るか、全てを完璧に読み切ったからこそ得られた成果である。あれと同じことをもう一度やれと言われても――不可能というわけではないが、気軽にできるものではない。

 

 萃香に対する感情はもはや何もない。憎しみや怒りなどとうに過ぎ越している。

 これから殺すことが確定している相手に対し、何かを思う必要なんてない。もう信綱の中で伊吹萃香という存在は終わったことになっていた。

 

 だからこそ腑に落ちない。信綱が見た伊吹萃香は正面からの勝負を好む鬼らしい鬼であると同時、自身の目的のためなら嘘にならない程度のごまかしも是とする狡猾な一面を持つ妖怪だ。

 今、彼女は自身の失策によって薄めた身体を斬り刻まれている。苦悶の声こそ聞こえなくなっているが、振るわれる刃に触れる空気以外の何かが、信綱にとって萃香を斬っていることの確信につながっている。

 本体を直接斬れればそれに越したことはない。だが、薄くなっていてもそこに伊吹萃香がいるのは同じ。斬撃の通りこそ悪くなるが、斬れなくはない。

 

 故にこのまま斬っていれば決着は遠からず着く。――本当に?

 

「…………」

 

 双刃を振るう手を緩めないまま、信綱は言い表せない何かが胸に溜まっていくのを自覚するのであった。

 

 

 

 

 

 その場に萃まった者たちは、信綱に縁のあるものたちが自然と集合していた。

 博麗の巫女に始まり、信綱より阿弥を任された橙と椛。紅魔館の側からはレミリアと文が。さすがに勘助たちはこの場におらず、御阿礼の子と彼女に連なる環境を守ろうと動いた信綱以外の阿礼狂いの人間たちによって保護されている。

 

「やっほー、阿弥。久しぶりね」

「レミリアさん、お久しぶりです。皆さん、どうしてこちらに?」

「おじさまの勇姿を見物したいってのもあるけど、約束はもちろん守るわ。さっきまでウチの方でも鬼が来て面倒だったのよ」

 

 当然、レミリアが全て喰らい尽くしたのだが。妖怪は死ぬと骨も残さず散るため、後始末の必要がないのが楽で良い。

 白昼の襲撃だったためレミリアもある程度消耗しているようで、見る人が見れば彼女の服が微妙にほつれているのがわかる。しかしそんな姿勢を表に出すことなく、レミリアは紅魔館の主としての体裁を保つ。

 

「いざ来てみればこの有様。スキマは鬼をほとんどどこかにやっちゃうし、おまけにおじさまは……いえ」

「信綱さんがどうかしたんですか?」

 

 吸血鬼異変の折に見せた阿礼狂いとしての姿に舞い戻っている、と阿弥に言うのははばかられた。彼とて阿弥にあの姿を見られるのは本意ではなかろう。

 御阿礼の子に狂っている姿が本性であることに違いはないのに、火継の一族はそれを御阿礼の子に見せることを頑なに嫌う。

 全ては彼女が笑って何の心配も抱くことなく過ごせる未来のため。他人のために自らの本性をひた隠しに隠し、そのまま死ぬことを是とする一族。

 

 レミリアから見ても狂っていると言えた。だが、その狂気がレミリアの目には何ものよりも美しく見える。

 彼らの献身が他と大きく逸脱していることは異端であるが、醜悪さに繋がるものではない。

 麗しき主従愛、と呼ぶには奉仕が過ぎる。されど一方的な妄執とは一線を画す。

 彼らを最初に阿礼狂いと呼び始めた人間に喝采を送りたい気分だった。実に適切、実に無骨。彼らをこの上なく表現した言葉ではないか。

 レミリアは忙しなく動きまわり人里に献身――しているように見せて、その実阿弥のためにしか動いていない他の阿礼狂いをうっとりとした顔で見つめていた。

 

「ううん、おじさま以外の連中もなかなか……。彼らの血を吸ったら何かわかるのかしら」

「……それをしたら、私があんたを退治するからね。ま、必要ないとは思うけど」

 

 レミリアの独り言に反応した博麗の巫女が剣呑な顔でレミリアを睨みつける。

 とはいえ、身内に被害が出たら信綱が動くだろう。多分。

 ……つい先程、迷わず部下を一人捨て駒にしたことを知っているため、確信が持てない巫女だった。

 

「こうして来てみたらあいつはもう鬼の大将を一人ぶっ倒しているし、もう一人も時間の問題みたいね」

「当たり前よ。私のおじさまがあんな小鬼程度に負けるはずがないわ」

「誰があんたのよ。それにしても……」

 

 阿弥の周りに集まる妖怪を見て、思わず苦笑してしまう。彼はどれだけの妖怪から信用を得ているのか。

 と、巫女がそんなことを考えて少しばかり気を抜いた。そんな時だった。

 

「……なんか、変な感じがする」

 

 信綱の頼みを聞いて阿弥の側から片時も離れていない橙が猫耳と鼻の辺りをむず痒そうにして、首を傾げる。

 阿弥はそのことに不思議そうな顔をして――椛にいきなり抱きすくめられる。

 

「も、椛姉さん!?」

「伏せてください! 何かいます!」

「……へぇ、気づいたか」

 

 阿弥のいた場所に現れたのは伊吹萃香その人だ。

 信綱が現在戦っている彼女が現れたことに阿弥の周囲に集まった人妖も警戒の姿勢になる。百鬼夜行を起こしただけあって一筋縄では行かないらしい。

 全員が萃香の挙動に警戒して動けない中、レミリアが紅色の槍を携えて傲岸不遜に前へ進む。

 

「……おじさまはどうしたのかしら。あなたが勝てるとは思えないのだけれど」

「へっ、今頃は私の大半を注いだ分身相手に戦ってるんじゃない?」

「ごまかさないで。今さらおじさまがあなた程度のチャチな小細工、気づかないわけないでしょう」

「言っただろう? 大半を注いだって。こっちもイチかバチかの賭けに出てるのさ」

「へぇ?」

 

 そういう萃香の表情に余裕はなく、どこか憔悴しているような気配すら漂わせていた。

 彼女の言葉は事実なのだろう。いかに疎と密を操ったところで彼女の肉体は有限だ。分身を作ればその分本体の力は下がり、本体が苦境に置かれているのならそれを加速させる結果になりかねない。

 数の力は確かに脅威である。だがそれは自身と同等の力量の存在を生み出せるならば、という注釈が付く。特に信綱のように一騎当千を体現した実力者ならなおのこと。

 つまり、今の行動に萃香が有利になれる要素は何一つとして存在しない。阿弥を人質に取ることができればわからないが、そんな人間がするような真似は彼女の矜持が許さなかった。

 ……実行したらしたで信綱が何をしでかすか全く読めないというのもあるが。

 

「……私は人間なんて信用できない。今でこそ良い顔をしているかもしれないけど、あいつらは笑顔の下に刃を隠せるんだ。笑いながら私たちを騙せるんだ。お前さんらはそれがわかってるのかい!」

「……ふぅん、意外と義憤に燃える性質なのね、あなた」

 

 萃香の口から出てきた言葉に対し、レミリアは面白そうな顔をする。

 何を考えているのか読めないと思っていたが、何のことはない。彼女も彼女なりに妖怪のことを考えていたのだ。但しそれは人間への不信が前提に来ているが。

 

「お前だってそうだろう舶来の鬼! 人間の醜さなんていくらでも見てきたはずだ!」

「もちろん。我が身可愛さに娘を差し出す親も見てきたし、私への供物に紛れて来た暗殺者も多く見てきたわ。そのくせ、私が少しいじめるとすぐ命乞いをし出すのだけれど」

 

 レミリアの口から語られるのは、彼女が紛れもない悪逆の存在としての証明。

 そして彼女は人間が醜い存在であることを否定したことは一度もなかった。

 

「私もあなたの意見には概ね同意するわ。人間は醜く愚かで度し難い。今は良いかもしれないけど、おじさまたちがいなくなって百年もすれば私たちを厭う声も出るでしょう」

「だったらわかるだろう? 私らは人間を襲い、人間は妖怪を討つ。そこに好意も何もいらない。それが一番――」

「だからこそ」

 

 萃香の言葉を遮り、レミリアは笑う。宝石に憧れる乙女のように。眩しいものに手を伸ばす子供のように。

 

「美しい人間は一際輝くのよ。私を打ち倒したおじさまは言うまでもなく、阿弥だって私と正面から向かってきた。人間の店主は過去を水に流して私を受け入れた。……彼らはいつかいなくなるけれど、それで彼らの行いの尊さが変わるわけではない」

 

 ここに来て心底良かったと思えることだ。信綱に始まり、人間も捨てたものではないと。ただの血袋以上の価値を示せる者たちもいるのだと思えるようになった。

 

「私は強いものを尊び、弱いものを蔑む。……それはお前も例外ではないぞ、異国の鬼」

「私が弱い? へっ、この体でもお前さんを食い荒らすぐらいなら余裕だってんだ。何なら試して――」

「――期待している」

「あん?」

 

 レミリアの言葉に彼女を挑発していた萃香の口が止まる。

 それを見て自身の憶測が間違っていないことを確信し、レミリアは言葉を続けていく。

 

「こんな異変を起こした時点で丸わかりよ。人間が信用できない。人間が嫌いだ、なんて嘯いて。――本当は、あなたの不信を覆せる誰かを求めていたのでしょう?」

「…………」

「おじさまとの戦いを大勢に見せようとしたのもそう。自分が勝つのならそれで良し。でももし負けたら、それで人間を信じようとしたはずよ」

 

 結果はあのザマだが、そこは同情しない。萃香の調査不足である。

 

「でなきゃあの人間が大好きそうな鬼と付き合いなんてしないわ。大嫌いと言いながらも、あなたは自分の嫌いを否定してくれる人間を……いえ、人妖の誰かを求めている」

 

 途中で言葉を変えたのは、萃香の視線がある妖怪を指し示していたからだ。

 人と妖怪の共存なんて無理だと思いながらも、心のどこかでそれが成立して欲しいと願っている。

 なにせ萃香の思い出にはかつて人間たちに裏切られる前の、愛すべき隣人として過ごした時間もあるのだ。

 彼らは確かに裏切ったかもしれないが、それ以前の時間の価値を見出したのは他ならぬ萃香自身になる。

 人間を相手に心を閉ざすことは彼らとの時間すらも無為にしてしまう。

 

 無論、レミリアはそこまで萃香の事情に詳しいわけではない。そんな事情があることなど慮外である。

 だが、かつて人間に対して絶大な権威を誇った妖怪であるという一点は同じだ。それ故、迎える結末などもある程度想像ができた。

 

「だから私の出番はここでおしまい。今のボロボロのあなたを倒すのはわけないけど、ふさわしい結末はそうじゃないわ」

 

 そう言ってレミリアは魔力で生成した紅色の槍を消し、萃香に道を譲る。

 

「……ハッ、今だけは感謝してやるよ。そうさ、私が求めているのは――お前だ。そこの白狼天狗!」

「…………」

 

 鬼の頂点に立つとも言える萃香に指名され、しかし椛の心には波一つ立たず、穏やかなままだった。

 心配そうな目で見てくる阿弥をそっと後ろに下げて、椛は前に出る。

 

「お前は人間と一緒に戦っていた。知っているんだろう、あの男のことも」

「ええ。どういう人間なのかわかって、その上で彼と友人であり続けています」

「なぜだ? あれは信じた分だけ報いてくれるような優しいものではないぞ」

 

 まだそう思っているのなら、今のうちに手を引くのが賢明だ。

 そんな意味もあるであろう萃香の問いかけに、椛は答えない。

 

「――私が最初です」

「あん?」

「私が最初に、人妖の共存を願いました」

 

 信綱と椿のように殺し合わなくても良い世界を。互いにここに住むことが変わらないのなら、せめて話し合うことを。

 

「顔を合わせなければレミリアさんが来た時みたいに大慌て。顔を合わせても昔のままでは互いに殺し合うだけ。

 ――だから共存を。同じ世界で、同じ場所で、同じものを見たいと、私が一番最初に彼に語りました」

「……それで今があると? 一介の白狼天狗が幻想郷を変えたって言うのかい?」

 

 自惚れも大概にしろ、という目で睨まれてしまい椛は困ったように笑うしかない。

 自分でもそう思うのだ。ただ、信綱と同じ時間を長く過ごしていた。それだけで彼に今に至る影響を与えられるようになるなんて想像すらしていなかった。

 でも、確かに共存を最初に願ったのも自分であることに変わりはなく――

 

「ええ、まあ。自分でも驚いてますけどそうみたいなんですよ。だから――それを壊そうとするあなたは許せません」

 

 大太刀を構える。すでに萃香が何を言いたいのか、椛にはわかっていた。

 証明を。この百鬼夜行を乗り越え、人と妖怪は共存できることを萃香に見せる必要がある。

 鬼に一人で喧嘩を売ることになるなんて思いもしなかった、と椛は信綱と知り合ったばかりの頃を思い出して苦笑する。

 しかしこの一件に関してはずいぶんと彼におんぶにだっこだった。自分は彼を見守り、要請に応じて手を貸すだけで自分から何かをしたことはあまりない。

 

 こうすることで彼と肩を並べられるなんて思いもしないが、彼に対して胸を張るためにここは避けて通れない戦いだ。

 

「――言ったな、白狼天狗」

「言いましたよ、小さな百鬼夜行」

 

 もはや言葉は不要。椛は自分の願いのために。萃香もまた彼らを試す者として。

 双方の間で圧力が高まり、いつ戦いが始まってもおかしくない状況。

 そんな中、椛は後顧の憂いをなくすべく自分の後ろにいる橙と阿弥を見て口を開く。

 

「……橙ちゃん、阿弥ちゃんを連れて下がっててください。そして最悪の場合は彼女だけでも逃がして」

「わ、わかった。けど、大丈夫なの?」

「大丈夫に見えます?」

 

 彼女らに逃げるよう告げる椛の足は震え、顔にはすでに冷や汗が浮かんでいる。

 自分たち天狗を部下に置いていた鬼の一番上に位置する存在に、天狗の中で下っ端の自分が喧嘩を売るのだ。

 子供と大人どころの差ではない。乳飲み子が大の大人に正面から打ち勝つようなものだ。

 橙がふるふると首を振るのを見て、正直な猫だと笑ってしまう。こういうところが信綱も気に入っているのかもしれない。

 

「まあ、私の願いだっていうのに今までが少し楽し過ぎたんですよ。ここは私がやらなきゃいけないんです」

「……うん、頑張って」

「阿弥ちゃんもですよ。あなたに何かあったらエラいことになりますからね」

 

 もうすでになっている気がするが、多分気のせいである。千里眼で入ってくる光景など見ない気にしない。

 阿弥は何かを堪えるように胸に手を当て、様々な感情のあふれる瞳で椛を見る。

 

「……椛姉さん、負けないで。信綱さんが頑張ってここまで持ってきたのを壊させないで」

「ええ。任せて下さい」

 

 もっと多くの感情が渦巻いていることを椛は見抜いていた。見抜いた上で、その激情を抑え込んで純粋に心配をしてくれる阿弥の優しさに小さな笑みがこぼれる。

 そうしていると後ろの方にレミリアや文、博麗の巫女まで集まり、阿弥を守護するように立つ。

 

「主役はおじさまとあなたよ。せいぜい見応えのあるものにしなさいな。ああ、私これでもハッピーエンド主義者なのよ。バッドエンドも嫌いじゃないけど、あんなポッと湧き出た鬼に壊されてバッドエンドでは三流もいいところよ」

「多分、ありがとうございますって言えば良いんですよね?」

 

 レミリアの言葉によくわからない部分があったので、とりあえず笑っておく。満足したように下がったから間違ってはいないだろう。

 

「……正直、博麗の巫女だってことが枷になる日が来るとは思わなかったわ。あいつと一緒に幻想郷を変えるって願い、私個人は応援したいと思ってる。……頑張って」

「私もここまで大事になるとは思ってませんでした。あなたがあなたの役割を果たしたから、私たちも動けたんだと思います。ですからおあいこですよ」

 

 調停者だからこそ人妖双方に対して平等。そんな彼女だからこそ果たせる役目もあるはずだ。

 妖怪にも人間にも両方に好かれる、そんな巫女がいても良いだろう。

 

「私が適当に声をかけた白狼天狗がまさかここまで出世するとはこの射命丸文、一生の不覚でしたよ」

「あ、偶然だったんですか? 天魔様から目をつけられたのだと思ってビクビクしてたんですけど」

「その辺りも含めてお見事でしたよ。……お見事ついでにあの生意気な鬼をぎゃふんと言わせちゃいなさい。そうしたら私があなたのことを広めてあげます」

「そ、それは遠慮しておきます……」

 

 文なりの激励なのだろうが、顔が引きつってしまう。今だって普通に過ごしていたら一生縁のないような大妖怪に絡まれているのだ。それがさらに増えてしまうのは本意ではない。

 

 そうして一通りの人妖に声をかけられ、椛は腹の底に力が溜まるのを感じる。

 信綱はあまりこういったことに価値を見出さず、阿弥の言葉さえあれば十分だと真顔で言い切るだろうが、椛にとってこれは十分な力を生む。

 

「……本当に、あなたが最初なのね。期待しているわ、天狗さん」

「え?」

 

 ふと耳慣れない声が後ろからしたので思わず振り返るが、そこには何もいない。

 ただ、椛の千里眼が何やら目玉の蠢く不思議な空間を見ていたが、まさかあんな恐ろしい場所に入る存在はいないだろうと首を振って萃香と相対する。

 

「別れの挨拶は済ませたかい?」

「ええ、あなたに勝ちたいと思いました」

「良い度胸だ。始めよう――と言いたいが、一撃で終わらせてやるよ」

「……こちらも望むところです」

 

 拳を握り、身体をねじった一撃に傾注した構え。その姿勢が意味するところは一撃必殺と――時間がない。

 恐らく信綱の方に回した力が限界に近いのだろう。こちらに分身を送るために行った霧になることが、彼女にとっての致命的な失敗だった。

 一度握った主導権を信綱は決して放さない。一瞬の失敗があれば彼が喉元を食い破るには十分なのだ。

 まして今の彼は阿礼狂い。あの状態の彼ならばいかなる無理もやってのけるだろう。

 

 椛の推測になるが、この萃香は本来の力の十分の一も出せないはずだ。それほどに彼女は信綱に力を割いている。

 それでもなお、椛と萃香の間には大きな力の隔たりがあるが――万に一つの可能性ぐらいはあるということも事実。

 ならばそれを掴めば良い。難しいことではなく、信綱がすでに何度もやっていること。今さら自分にできない道理などない。

 椛もまた大太刀を腰の後ろに構え、静かに萃香を見据える。

 

「良い奴だなお前。こんな形じゃなきゃ気も合っただろうに」

「まさか。こんな形じゃなきゃあなたは私に目もくれませんでしたよ」

「違いないや」

 

 互いに微かに笑みを交わし合い――空気が変わる。

 

「じゃあ、行くぞ」

「――ええ」

 

 踏み込みは同時。そして一瞬のうちに互いの間合いに入った両者がそれぞれの武器を構えて――交錯した。

 

 

 

 

 

「――」

 

 信綱は双刃で切り払うと、その場を離れる。

 これまでずっと霧だった萃香を斬っていたが、このままでは苦しみは与えられても致命打は与えられないと理解したのだ。

 苦しみだけ与えていればいずれ心が折れるだろうと思って続けていたが、存外にこの鬼はしぶとかった。

 

 どうやら外側にいくらか力も流れているようだし、早くに決着を付けてしまいたい。

 向こうにはレミリアや椛らもいるから心配はしていないが、阿弥のことは心配だ。

 早く片付けて阿弥に会いたい。百鬼夜行を食い止めたことで褒めてもらえればもう望外の喜びだ。死んでもいい。

 

 わざわざ萃香に肉体を再構成させる時間を与え、信綱は無表情でボロボロの萃香を見る。

 霊力を込めた斬撃を振るい続けたのが功を奏したのか、再生も遅いようだ。

 

「ここまで一方的にやられるなんていつ以来だろうね。だけど、勝つのは私――!?」

 

 言葉は最後まで続かない。信綱が萃香に与えたのは肉体を作りなおす時間だけであって、彼女に無駄口を話す権利は与えていない。

 今の彼女に信綱が許すのは、このまま一方的に斬られ続けて消滅を迎えることだけである。

 反応すら許さない斬撃が両腕を斬り落とし、足を斬り飛ばし、その首に刃を奔らせる。

 

「こ、の……っ!」

 

 首を飛ばされながらも意地で片腕のみをすぐに再生した萃香が反撃せんと拳を握り込み、それさえも信綱は無慈悲に斬り捨てる。

 

「阿弥様を害した怨敵だろうが早く死ね疾く死ねすぐに死ね」

「へ、へへ……これならどうだ!!」

 

 萃香が腕に力を萃め、一部だけ異常な肥大化を見せる。これで殴れば人間の体は簡単に潰れるだろうし、大木のように太ましくなった腕を斬り落とすのはいささか面倒だ。

 

「頭でもどこでも斬るが良いさ! でも、この腕だけは斬らせない!」

「――」

 

 信綱の取った行動は単純明快。萃香の身体に長刀を下から奔らせて縦に両断。

 腕ばかりが太った歪な造形のそれが力を失い倒れ――ない。

 もはや意地を通り越した何か。執念ですらなく妄念と呼んでも良い意思で萃香の肉体は動き、腕を振りかぶる。

 

「――」

 

 しかし萃香にとっての乾坤一擲は、信綱にとってただの悪あがきにしかならない。

 振り下ろされる直前の腕に飛び移り、二つの腕を壁のように見立てて空高くへと跳躍する。

 そして腕を完全に飛び越えた後、重力に従って落ちる際に信綱の双刃が霊力の煌めきを宿す。

 

 切れ味を増した双刀が振るわれる度、萃香の巨大化した腕が大根か何かのように薄く輪切りにされる。霊力を扱い切れ味を増やすだけでなく、僅かに刃先自体も伸ばしているのだ。

 そうして信綱が着地をする頃には、完全に無力化され微塵に斬り尽くされた萃香の肉体が残り――

 

「ちく、しょう……」

 

 どこからか漏れ聞こえるその声を聞き流し、信綱は心臓にその刃を突き立てる。

 

「――終わりだ」

 

 あくまで表情は変わらない。敵を倒す快楽も鬼退治を成し遂げる名誉もそこにはなく、鶏の首を絞めるように、あるいは夏の羽虫を落とすような無味乾燥な顔。

 お前の全てを否定し、全てを踏みにじる。そんな顔で見られ、それでもなお萃香は敵愾心を露わにした顔で信綱を睨みつける。

 

「やってみろ。首だけでもお前を噛み殺してやる」

「――」

 

 無表情のまま信綱は刀を振りかぶり――

 

 

 

「そこまでにしておきなさいな」

 

 

 

 横合いから伸ばされる手にそっと肩口を押さえられる。

 一瞬だけ横目でそれを見て、白い手袋に覆われた紫の手であると確認した。

 とりあえず無視して刀を振り下ろそうとすると、人の話を聞かない信綱の目の前にスキマが開かれる。

 

 そこにはもう一人の萃香と椛が相対している光景が映し出され、その後ろには阿弥の姿もあった。

 ――阿弥。信綱にとって何よりも優先すべき人の姿を見つけ、信綱は実にあっさりと萃香を殺す手を止める。すでに興味は阿弥と椛に移行していた。

 

「何が起こっている」

「あなたが信頼している白狼天狗とそこの鬼が戦うのよ。人と妖怪の共存を実現するために」

「いつの間にそんな大層なものになったんだ?」

 

 はて。勇儀と戦っているときは真っ当に考えていたが、今は阿弥の敵を排除することしか考えていなかった。

 なんだ、この鬼も一丁前に人妖の関係について考えていたのだろうか。興味ないのでどうでも良いが。

 真顔でそんなことを言い切る信綱に紫は頭痛を堪えるような顔になる。彼の人妖の共存はあくまで阿弥のためであり、椛のために動いたことだ。彼自身にさほどの思い入れはない。

 あくまで信綱の願いは阿弥の平和な時間ただ一つ。幻想郷の平和や人妖の共存もそれに繋がりはするが、優先順位として阿弥以上になることは決してない。

 

「はあ……もう良いですわ。それより良く見ていなさい。あなたの願いの始まりを与えた天狗が、幻想郷の歴史を動かす瞬間を」

「こいつを殺してからでいいか」

「私が責任持って抑えますから殺さないでくれない!? 後々の怨恨とかが面倒なのよ!」

「お前が抑えられなかったから今の状況ができたわけであってだな。後々の怨恨以前にこいつは阿弥様を危険な場所に連れ出したという理由があるからよし殺す」

 

 確かに紫が他の鬼をどこかに放ってくれたおかげで安全ではある。だがそれは結果的にそうなっただけであって、萃香が鬼のいる場所に阿弥を連れ出そうとした事実に変わりはない。

 その時点で信綱に彼女を生かす理由など欠片もなくなる。阿弥の敵は滅ぼす。そうでないなら状況次第で手を伸ばす。萃香は前者になったというだけの話。

 

 今の彼女は十二分に弱っている。霊力を込めた刃で心臓を貫き、首も落とせば確実に殺し切ることができる。

 過去の悪行をどうのこうの言うつもりはないが、それでも彼女は人間にとっての敵性種。人里を守るものとしても、阿弥の側仕えとしても彼女を生かす道理は見当たらない。

 

「それより見なさい! ほら、あなたの椛ちゃんが戦うわよ!」

 

 などと考えていると業を煮やした紫に強引に首を捕まれ、視線をスキマの方に合わされる。

 スキマの向こうではお互いに一撃必殺の構えを取り、一回の攻撃で全てを決しようとしていることが伺えた。

 それらを一瞥し、信綱はさしたる興味も示すことなく視線をそらす。

 

「あ、あら? 見ないの?」

 

 椛には結構気にかけていたと思っていた紫は肩透かしを受けるが、信綱は気にせず萃香に声をかける。

 

「……なんだよ」

「お前、あれがしたかったのか?」

「へっ、悪いかい。あいつが負けたら、戻ってきた力でお前のこともくびり殺してやる」

「……なんだ、勝つ気がなかったんだな。お前」

 

 信綱の顔が無表情なそれから、呆れるようなものになっていく。

 その言葉を聞いた萃香は信綱に生殺与奪権を掌握されながらも、彼を睨みつけた。

 

「どういう意味だよ」

「相手が負けたら、なんて言葉が出る時点で向こうの勝利を願っていると自白しているようなものだ」

「っ!」

「そもそも――あいつがお前ごときに負けるはずないだろう」

 

 

 

 

 交錯は一瞬。振るわれる拳と刃も一撃のみ。

 お互いにそれぞれが最も頼みにする武器を振り抜いて――膝をついたのは椛の方。

 

「う、ぐ……っ!」

 

 苦悶に喘ぐ彼女の左腕は存在せず、不格好に引きちぎられていた。

 だが、言い換えればそれだけが目立つ傷であり、体だけは人間の信綱ならともかく白狼天狗である椛なら大事には至らない。

 対する萃香の方は――

 

「……勝っちまいやがったよ、本当に」

 

 袈裟懸けに斬られた傷から血が噴き出し、薄まっているとはいえ鬼の肉体を両断されていた。

 徐々に身体が傾いでいく中、しかし萃香は鬼の意地で立ち続けて笑う。そこには一介の天狗が自分に勝ったことへの驚愕と敬意が込められていた。

 

「ああ、うん。ここまでやられちゃぐうの音も出ない。見事だよ、妖怪。あの時、どうやった?」

「……不本意ながら、手足が吹っ飛ばされることには慣れているんですよ。あとは――周りをよく見るようになったってことだけです」

 

 信綱に数え切れないほど手足を切り飛ばされたため、嫌でも慣れてしまっていた。あの男は時々首まで狙ってくるから怖い。

 そして徹底的に出足をくじこうとしてくる彼に対抗するために、椛は自分の強みを徹底的に磨くしかなかった。

 そうして極めて見てわかったことが、生物の動きには全て予兆が存在するということ。拳を振るうならまず肩が動くように。足を動かすなら腿が動くように。

 千里眼を持っているため、そうやって観察するのは得意だった。そしてそれを戦闘に活かせるようになれば、信綱ほどの精度はなくても近接戦闘ではかなりの強みとなる。

 

 先ほどの攻防で椛は萃香の拳の軌道を先読みし、早々に避けることと受けることは諦めた。

 その上で左腕をわざと犠牲にして勢いを減衰させ、返す刀で萃香を斬る。言葉にしてしまえばそれだけのこと。

 だが、萃香とてその程度の小細工で止まるような拳は放っていない。

 結局のところ、椛自身がこれまで身につけた実力こそが彼女に勝利をもたらしたのだ。

 

「ふぅ……全く、それだけで勝てるほど生易しいつもりはないんだけどねえ」

「言葉にすれば簡単なだけです。こうなってもまだあの人には勝てませんし」

 

 椛がブルリと身体を震わせるのに萃香は笑う。鬼に勝ったというのに、気負ったところのない自然体のまま。

 そろそろ限界か、と萃香は自身の九割以上を構成している側すら信綱に一方的に倒されているのを感じ取り、満足気な息を吐く。

 

「まあ、これも一つの結末かね。あの人間と勝負した気はしないけど、お前さんとは実に良い勝負だった。最後に名前を聞いても良いかい?」

「……いいえ、覚えるならあの人の方を覚えてください。私は何かの偶然でここにいるだけな下っ端の白狼天狗。それで十分です」

「ちぇ、残念だ」

 

 背中から倒れ、空を見上げて萃香はその言葉を放つ。

 

 

 

「――参った。私の負けだ」

 

 

 




Q.萃香がノッブに人妖への関係について問答を投げかけたらどうなります?
A.どうでも良い死ね



椛、一体君はいつから主人公になったんだい?(不思議そうな顔)

ノッブが主人公らしからぬ行動をやらかした結果として、主人公がやるようなイベントは大体椛に集中した模様。おかしいな、お前初期のプロットでは登場してないはずだぞ?
ノッブが暴走した理由? あそこでキレない理由がないよねってプロット立ててから書いてる時に気づいたんだよ(自爆)

おかげで椛が相棒ポジから主人公までかっさらう結果に。王道イベントやるならこの子の方が正直動かしやす(ry

そして萃香に始まり、大体どいつもこいつも人と妖怪の関係について面倒くさいものばかり持っている幻想郷。ノッブはこれでも巻き込まれ主人公な方です。最終的には振り回しますけど。

ともあれ、これにて百鬼夜行は終焉となります。後はまあ徐々に原作に近づいていく風になって物語も佳境から終わりに向かっていきます。

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