「悪の組織っていうものには裏切り者が必須なんですよ」
ギルドメンバーの中で誰よりも『悪』に対して拘っている男、ウルベルトはかつてそう語った。
「……いや、すいませんウルベルトさん。何言ってるかよく解らないんですけど…………」
VRMMO『ユグドラシル』におけるトップギルドの一つ、『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド長、モモンガは困惑気味にそう返した。
「ええ?解らないですかほら、百年位前にシリーズ化されて人気だった、バッタの怪人が主役の特撮アニメとか知りませんか?邪悪な企みを持つ集団の中には、それに相反する正しき心(笑)とやらを持つ存在が居てこそより悪の魅力が際立つんですよ」
「……あの特撮はそんな悪役贔屓な考えから作られたものでは無いと思いますが……」
熱心に言葉を紡ぐウルベルトに苦言を入れた形になるのは純白の聖騎士が如き出で立ちのメンバー、たっち・みーだ。
「……はあ、相変わらず解ってませんねえたっちさんは……」
「製作者の意図を歪める形で自分本位な語りをするのは如何なものか、と言っているだけですよウルベルトさん」
「はいはい、そこまでにしましょ二人共。……っていうかナザリック防衛目的の為のNPC作成会議で態々そんな語りを入れたウルベルトさんの意図を私は聞きたいんだけど?」
互いに険悪な様子で言葉を投げ合うウルベルトとたっち・みーの間に割り込み話を進めるのは、粘液質な不定形生命体の形を持った数少ない女性メンバー、ぶくぶく茶釜である。
「いや、ですから遊び心ですよ、言うなれば。組織運営なんて余りに磐石過ぎてもつまらないじゃないですか。1人位は主人や組織に二心抱いている、みたいな存在が居ても面白いと思いませんか?」
ウルベルトの熱弁に、メンバーの大半は渋い反応を示していたが、一部のメンバー達はその語りに対して熱烈な反応を見せた。
「確かに、余り忠誠心の高い奴ばかり居るのもリアリティーが無いですよね。いいんじゃないですか良いギャップですよ。例えばギルドが滅ぼした一族の生き残りを捕虜として連れて来たのが頭角を現して…とかですかね?」
「いやアレだ、どうせなら元ネタに最大限あやかって憎っくき人間種共を攫って来てヤッバイ人体実験の末に大半が死んじまったけど唯一完成した強化人間とかいいんじゃね?実験の主導者はギルマスって事でもちモモンガだな」
「ちょっ!?巻き込まないで下さいよ私を‼︎」
「んー、でも実際
「丁度100Lvで機工系居なかったし強化人間設定いいな。ギルド内のメンテ枠も兼ねて……」
「あー外様だから地位は高くても雑用枠的な?」
「だったら女の子にしようぜ女の子‼︎改造過程でのくっ殺要素とツナギタンクトップガテン系女子的な要素入るから新しい萌えが広がって……!」
「弟、黙れ」
「えーそこはガッシリした軍人系でしょ生き残り設定つけるなら!こう元は愛想良さそうだったり真面目そうな顔付きしてたのが長年の実験生活によって荒んだ薮睨みの凶悪面になったって過程が楽しい感じで…」
「所詮設定だからギルド防衛的には問題無いけど、実際はそんなヘイトMAXな奴守護者には置かないでしょ。
「だからそれはほら、あれですよ。半ばへし折れた負け犬として無気力な忠誠を誓っているけど、最後に残った人としてのプライドとかつての仲間達への愛情がその身を支えている、みたいな……一見リアリストな皮肉屋だけど中身は存外熱いものを持って……」
「ふむ、俺も好きだぞそういうキャラ……」
「……だから」
「…………あ〜…………」
「……うわぁ………………」
元々凝り性な人間が多い故か、完全に火が付いてしまったらしい『裏切り者系キャラ』製作に向けて熱弁をそこかしこで交わすギルドメンバー一同に、置いていかれた感の凄まじいモモンガは思わず乾いた呻きを洩らす。
「と、いう訳でモモンガさんヘイト矛先の筆頭ね」
「まあギルマスだから当然だわな」
「いやだから何で………………いや、まあいいですよじゃあ私が主導したって設定で。どうせゲーム上で何かペナルティ付く訳でもありませんから…………」
ゲーム内に表情をリンクさせる設定があれば確実にニヤニヤとした愉し気な笑みを浮かべているであろうウルベルトとるし★ふぁーの鬼振りに再び抗議し掛けて、モモンガは色々面倒な気分になり半ば投げやりに同意した。
基本的に悪ノリしたら手のつけられないメンバー筆頭が二人である。どう反対した所で却って面白がりゴリ押しを始めるのは目に見えているのだ。ならば抗議するだけ労力の無駄だろうと、モモンガは諦めの境地に達したのである。
「流石ですモモンガさん、その漢気。ギルマスの鑑ですね」
「かっくい〜一皮剥けやがって惚れちゃいそうだぜモモセラレーター!」
「元ネタ解らないから振らないで下さいよ……」
画して一部の悪ノリによってアインズ・ウール・ゴウンの言わば獅子身中の虫、第4階層『地底湖』の階層守護者にしてガルガンチュアの管理責任者は誕生した。
「……じゃあ設定はこんな感じで。じゃあモモンガさん、折角ヘイト筆頭になって貰いましたから名付け親の権利は譲りますよ。お好きにどうぞ」
「それ好意じゃ無くて半ば嫌がらせでしょ私にネーミングセンスあんまり無いのを知ってて!?…………じゃあ、アレですよ。名は体を現すって事で…リベリオン、なんて……」
「お〜モモンガにしてはいい感じ?」
「いいですね!じゃあそれで」
その名は、
後に、モモンガは心の底からこの時安易に同意した事を後悔する。
皆で作ったキャラなのだから愛着はある、消えて欲しい訳では無い。しかし何故自分を
(……そうだよ、何で忘れていた!?居るじゃないか、裏切り云々で考えたら例え設定そのままだったとしてもぶっちぎりでヤバいキャラが…………‼︎‼︎)
「いやはやど〜も、遅れて申し訳ありません皆様。私の様な末席の味噌っ滓が遅参など、モモンガ様に大変なご無礼をば。ええ決してメンテ中に急に呼んでんじゃねぇよ出汁ガラ野郎なんぞとは欠片も思ってはおりません、ハイ!」
「第4階層守護者、リベリオン。…ブフッ!……御身の前に」
「……正直今直ぐに貴方を縊り殺してやりたくて堪らないわこのクソ人間……‼︎」
「
「シーズちゃんちゃんと自己メンテやってる?ンな渋い空気撒き散らすなら自分でやりゃいいっしょ俺に任せずに〜」
「…………貴方の事は嫌いですけど、腕前は認めている。それだけです」
「……何故、貴様がそこまでやろうとする…………」
「ん?ああ嫌がらせですよ。ほらムォムォングァ様の想定が甘かったからこんな事態になっているのに立場上自らシャルティアちゃんを止めに行くことも出来ない〜的な苦悩を背負って頂きたいんですよねぇ」
「……変わらんな、貴様は」
「そりゃそうでしょう。私はブレませんよ、忘れてたまるかあの屈辱を、理不尽を。それでも貴方様は無視出来なぁい。貴方様が斃れられたら全てが終わりだから。デミちゃんを抱き込んでますんで強行突破も不可能でございまぁす!……俺が行くなら文句は出ませんぜ、何しろナザリック一の嫌われ者ですもので。……まぁ付け加えるなら。……まぁ付け加えるなら嫌いじゃ無いんですよ、
「あははははははははははっ‼︎薄汚ったねぇ裏切り者の人間風情が、私に勝とうってか身の程を知れやぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」
「裏切り者云々は現在進行形で盛大なブーメランだろが貧乳吸血鬼。……目ぇ覚まさしてやんよ、風穴開けてな。俺様専用
これは孤独な
「よぉ王国最強(笑)と貧乳の指一本に負けたお侍様。……ちょっと人のまま人間止めてみねぇ?強くなりたいなら、護る者があんだったら、さ…………」
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名前 リベリオン
通称 反逆者、ナザリック最低最悪の◯れ◯◯な◯◯◯野郎〜〜(アルベド命名。以下聞くに堪えない罵詈雑言が続く為省略。)
性別 男
種族 人間(強化人間)
所属 ナザリック地下大墳墓
役職 第4階層守護者
ナザリック内機工最高責任者
年齢 人間時享年27 (以後数十年)
住居 第4階層『地底湖』の工房&研究所
クラス チューンド
マシンマスター
ファイター
コマンダー etc……
誕生日 中風月14日(人間時)
趣味 機械弄り 、シズ弄り、モモンガへの嫌味を考える事、反逆計画の考案
概要 ナザリック地下大墳墓唯一の人間種。とはいえその身体は殆どが骨格や筋肉を合金製、人造強化筋肉への置換が行われ、更には脳内にまで神経伝達経路や脳内物質への薬物投与により手が加えられている為身体能力的なスペックでは亜人、獣人種をも凌ぐ殆ど別の生き物と化している。
人間時代はとある国の軍団にて若くして一個中隊を率いる程のエリート士官だった(クラスのコマンダー等はその頃の名残)がアインズ・ウール・ゴウンと戦争になった際にその圧倒的な戦力差から部隊を潰滅させられ、他数名の部下と共に捕虜となる。忠誠心溢れる軍人であった彼は祖国に対する交渉材料として扱われる事を断固拒否、軍人としての死を望んだが、アインズ・ウール・ゴウンに逆らった愚か者達に対する見せしめとして悪辣な人体実験の材料とされる。
実験内容は脆弱な人間種のスペックを何処まで上昇出来るかという、メンバーの全てが異業種で構成、率いる部下にも人間種が存在し得ない彼らからしてみれば遊びの様なものであり、被験者の命の安全を一切考慮しない苛烈な実験によって彼と部下数名の心身はズタズタにされた。
数年にも及ぶ拷問の様な実験の結果、部下達は全員苦痛の果てに死に絶えたが、幸か不幸か人間種としては最高峰に近いスペックを持っていた彼だけは生き延びた。やがて考え付く限りの全ての実験を終えたアインズ・ウール・ゴウンの面々は、数々の実験を経て尚生き延びた彼に興味を示し、彼を自分達の配下として迎え入れ、彼に生き延びる道を示唆した。度重なる苦痛に精神が半ば壊れ掛かっていた彼は、それでも己が身体を弄んだ、愛する部下を玩具の様に弄り回した挙句ゴミの様に廃棄したアインズ・ウール・ゴウンへの憎悪を手放さず、その申し出を拒否した。
『貴様等外道の狗になど俺は成り下がらん。殺すのならば殺せ、このまま俺を生かしておけば必ずいつか力を蓄え、貴様等を滅するべく牙を剥く。』
そう言い放った彼に対してアインズ・ウール・ゴウンの長、モモンガは邪悪な笑みと共に言い放った。
『いいだろう、我等に対する貴様のその憎悪を、憤怒を、瞋恚の心全てを許そう。貴様には機会をやる。我等に刃向かうその機会をな。故に貴様はその憎しみを抱いたままに、我等の飼い狗となるがいい。貴様がここで死ねば貴様と貴様の部下のこの数年は全てが無駄だ。つまり貴様等の存在そのものは初めから無意味だったということだ。そのまま何をも成さない文字通りの犬死を果たしたいのならば好きにするが良い。我等は退屈を何よりも厭う、貴様の様な危険な狗を飼うのもまた一興だ。身体を休め、牙を砥ぎ、我が首元を喰い千切らんと足掻いて見せよ』
『我がアインズ・ウール・ゴウン唯一の異物にして獅子身中の蟲よ、今日より貴様の名はーーリベリオンだ』
彼ーーリベリオンは屈辱に身を震わせ、涙を溢しながらもその申し出を受け入れた。自分と今は亡き部下達の怨みをいつか晴らす為に、彼は自らの心を手折った。以来彼はその強化された力を憎きアインズ・ウール・ゴウンの為に振るい山と功績を築き上げ、遂には守護者の一角として君臨するに至った。
全てはアインズ・ウール・ゴウンへの復讐を果たす為に。
人物 かつては規律に厳格ながらも下の者達への気遣いを忘れない、誠実さと愛国心に満ち溢れた軍人の鑑の様な性格であったが、長きに渡る実験生活と部下を救えなかった絶望から精神を半ば病み、捻じ曲がった性根を持つに至った。現在は皮肉屋にして毒舌家、常に他人を小馬鹿にする様な薄ら笑いを浮かべて他人の精神を逆撫でする様な言動を好む。特に至高の存在、特に実験の主導者であるモモンガに対しては慇懃無礼を絵に描いた様な態度を貫き、忠誠心に満ちたナザリックの面々を怒らせている。
復讐心は常に心の中で燻ってはいるものの、アインズ・ウール・ゴウンの余りの強大さに、自らがこのまま幾ら力を蓄えた所で未来永劫及ばないであろう事を半ば悟っている為、心が半ばへし折れている。周囲のヘイトを稼ぐ事に一切頓着しない言動は半ば死にたい気持ちの表れでもある。復讐と死への渇望の間で揺れ動きながらも諦め切れないリベリオンは、半ば惰性に身を任せながら日々牙を砥ぎ過ごす。
そんなリベリオンだが、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーを怨みながらもその配下である守護者達を始めとした配下達には怨みを向けてはいない。軍人としてのかつての根幹が、命令に従っただけである彼らへ怒りを向けることを良しとしなかった為である。至高の存在を神と崇め、畏れ多くも親の如く慕う彼らの存在を寧ろリベリオンは好ましく思っている。(当然部下を直接殺した存在や自分を改造した存在等、一部例外はあるが)
取り分け気に入っているのは身体的に近い構造を持つが故に関わることの多いシズ・デルタ。ナザリックの面々の中では至極真っ当な感性を持ち、何処か小動物を思わせる雰囲気を持つ彼女の事。マスコットの様な感覚で猫可愛がりしている。最も嫌われている(とリベリオンは考えている)事を承知でからかう様な言動をする辺り、異性云々といった感覚からちょっかいを出している訳では無い模様。
閲覧ありがとうございます、星の海です。
執筆中の小説が余りに捗らないのと仕事の忙しさと酒のテンションが相まって衝動的に仕上げた一発ネタです。……前にも似たようなことをやらかしていますね、進歩の無い作者で申し訳ありません。頭に浮かんだネタを形にするのが楽しくてついやらかしてしまいました。こちらは完全に一発ネタですので元の執筆に戻ります、他の作品を楽しみにお待ち頂いている皆様もう暫くお待ち下さい。
構成の荒い駄文ではありますが、一時の暇潰しにでもして頂けたならば幸いです。お読み頂きありがとうございました。