東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗 作:星の屑鉄
今回は思いつきから、11万字ほど書き溜めたこの東方二次小説を投稿しようとして、それを実行した次第です。
文章練習、プロット作成の練習なども兼ねての投稿になります。目指すは完結です。
所々に臭い字面、台詞、もしかしたら中二病が発症しているかもしれませんが、そのあたりは温かい目で見守ってくださればと思います。
そういうものを受け付けない方でも、もしよろしければ御目通しを願えればと思います。
それでは、本文の方をどうぞ!
プロローグ 最古の物語
――眠い。
気が付けば、『それ』は意思を持っていた。今の今まで、ただ何も分からないまま、ふよふよと漂っていたそれは、ふとそんなことを思った。
それは欲望のままに惰眠を貪った。
――熱い。
ふと、惰眠から目覚めるとそれには触覚が芽生えていた。しかし、発汗はしない。ただ何となく、熱いと思うだけだ。
痛覚はまだ、芽生えていなかった。
――寒い。
ある時期を境に、それが感じる熱量は激変していた。しかし、それはただいつも通り漂うだけで、何かをやろうという色を見せない。
目的はまだ、持つことが出来なかった。
――邪魔だ。
ふと、行く手を阻む何かにぶつかった。その先に漂おうとしても、何かがそれの進行を阻む。それはその時、初めて力を入れるという行為に走った。しかし、行く手を阻む何かは動かない。それもまったく進めない。それは仕方ないと思い、進行形路を変更してただ上を目指した。
それは初めて、陸地というものに這い上がった。
――疲れた。
今まで漂うことしか知らなかったそれは、陸地に上がって初めて這うということを覚えた。続いて、両手というものを使って前進することを覚えた。最後には、足というものを使って歩くことを覚えた。ただ漂うことしか知らなかったそれにとって、歩くことで覚える疲労は新しい発見であった。
それは初めて、陸地というものの上に立ち上がり、そして歩き出した。
――何だ、あれは?
それはふと疑問を抱いた。あまりに無知なそれは、空に浮かぶ丸い物体に目を惹かれた。そして、それが何なのか気になった。
手を伸ばす。しかし、届きそうなのに届かない。今度は跳んで手で掴みとろうとする。それでも届かない。触れることすら叶わない。何度も、何度も、何度跳んで触れようとしても決して触れることができない。
その時、それには目的が生まれた。
――いつか必ず、あの空にあるものを手に入れてみせる、と。
「……どうしよう」
それは、気づけば言葉を手に入れた。知恵を手に入れた。目的を見つけたことで意志も得た。それらを手に入れたそれは、ふと思ったのだ。これから何をすればいいのかわからない、と。
目的のために何かをしたいという意思はある。しかし、目的を達成するために何をすればいいのか分からない。何かをしたくても、何をしていいのかわからないからこそ、それは困っていた。
「……腹減った」
ふと、腹の虫が鳴る。まるでタイミングを図ったかのようだ。それは先のことよりも、目の前のことを優先して解決に持っていく性質だ。ちょうどいいとばかりに、それは森の中へと入っていく。
それは適当に木の実を採集すると、迷うことなく口へと運び噛み砕く。飲み込む。多種多様なものを長い間食べ続けた結果、それには味覚というものが備わった。識別というものが出来るようになった。しかし、それでも食べられるものであれば何でも口に入れ、腹が一杯になると、木の天辺まで登り、空を見上げて考える。あの届かないものに、とうやって触れようかと。
それは冷静に分析する。
「まず、自分の力ではどうやっても届かない」
それに気づくまでに随分長い時間を用いたが、発見出来ただけまだマトモだ。もしそれに学習能力が備わっていなければ、永遠に自力でどうにかしようとしていたに違いない。
「……あの白いのは、どうしてあれほど空高く飛んでいる?」
自分でも到達できない高みにいる白くふわふわしたものを見て、それは考える。次いで、どうして自分は大地に足をつけているのだろうと考え始める。
「そもそも、大地に足をつけていること自体がおかしい。何か、大地に足をつけることを強要されているみたいだ。何か力が働いているのか?」
そんなことを考えていると、ふと水滴がそれの顔に落ちてきた。
「……水? 水は落ちるのに、あの白いのは飛んでいる……。白いのは落ちてこない……。あれ、だったらどうして水の中では落ちることがない?」
何粒も落ちてくる雫を眺めながら、それは考える。時を忘れて、長い、長い間、それは考え続けた――。
――なるほど。
それはある出来事をきっかけに納得した。森の中にある川。ふとそこに、石ころが落ちる瞬間を目撃した。川の水は、石ころが落ちると同時に跳ね上がる。しかし、また元の状態に戻るように川へと落ちて一体化してしまった。
「……水は跳ねたのに、その後に落ちた? つまり、石が水と衝突することによって水が上へと跳ねた……そして、まるで当たり前のように水は落ちた」
言葉を何度も反芻させて、それは自分に言い聞かせる。そして、もう一度その事象を起こそうと、手頃な石ころを拾うと、それを迷うことなく川の中に落とした。
――ぽちゃん。
当然のように、川の水は上へと跳ね、また元に戻る。
「……川の水が、上へと跳ねる?」
それは石ころを拾い集め、何度も、何度も川に投じた。力を加えることなく、すべて同じ事象を繰り返すために自然落下させる。
――ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん……。
何千、何万回と飽くことなく試し続け、ふとそれはあることに気がついた。
「……石ころの大きさによって……いや、重さによって水の跳ね方が違う?」
試しに、砂のように小さな石を川に自然落下させると、ただ小さな波紋を残すだけに終わった。しかし、身の丈よりも大きな石を自然落下させると、水はそれの膝下にまで跳ね上がる。
「この石ころが、直接的原因ではない。力の強さ……持ち上げるために必要な力の強さだけ、水が跳ねる量が違う。必要な力が強ければ強いほど、水は大きく跳ね上がる……。逆に、力が必要なくなればなくなるほど、水の跳ね方は小さくなる……」
それは何度も、何度も、何度も同じことを繰り返した。自分の目で見て、その事象を読み解こうと必死に観察をし続けた。
そしてある日を境に、それは気がついた。
「あぁ、なるほど。石ころが水と衝突することによって、別方向に力が逃げているのか」
実際には抗力によって反動が加わる、水嵩(体積)の変化などによるものなのだが、そういった概念の無いそれは、そう結論づけて空を見る。
「……あの白い物も、つまり別の力によって飛んでいる……動いているわけか」
そして、それは動き始める。空を飛ぶための新たな力を求めて、流浪のように世界を彷徨い始めるのだった――
――これは使える。
ある日、雷によって起こった山火事を見てそれは確信した。メラメラと燃える赤い炎。木々を焼き焦がし、排出された煙は天に昇る。
炎というものは不定形だった。風になびき、大気に揺らめく。旋風は炎舞となって宙で踊り狂う。
「――風だ」
風に揺らめく炎を見て、それは即座に答えを出した。空に舞うためには、風の力が不可欠であると考えたのだ。それは正しくも、しかし不正解でもあった。風の力で確かに宙は舞えるが、炎の力なくしては空を突破することは不可能だ。
「……強い風を待つ。機を見て、出陣だ」
それは出来るだけ高い場所に旅立った。ただそこで、風を利用してあの丸いものを触れるために。手に入れるために。それは歩き続けるのだった――。
――遂に来た。
陸で最も高い場所。後に山と呼ばれる場所で、それは遂に大嵐と遭遇した。風の力を受けやすいよう、逃さないように木材を限界まで薄く切ったものを両手に持つ。力を捕まえて、手中に収めることでより高く昇り詰める。
機を見る。いつ、風の力が最大になるかを自らの肌で感じ取り、目を細める。
「…………今だッ!」
山の天辺から身を擲つ。直後、両手に持った薄い木の膜がふわりと広がり、上へ、上へとそれを引っ張っていく。
「――成功だ」
ニヤリ、とそれは笑う。もっと高く、もっと高く、更なる高みへと風が運ぶ。しかし、あの丸には未だ届かない。今までにないほど高く飛んだにも関わらず、丸に届くことは決してない。
しかし、丸は若干だが大きく見えた。それはほんの少しでも近づけた証拠だ。それはくくっ、と声を上げて笑う。声は風に攫われ、それは大きく天に昇る。
「――?」
ふわっ。急に、上への力が消失した。あの丸はまだ届くはずのない高みにいる。
不意の静止。ふと力を受け止めていた木の膜を見ると、それは力に耐えかねたのか、大きな穴が開いていた。それはさながら、何者かによって食い破られたかのような状態だった。
そして直後、落下が始まる。天に昇る風によって勢いは抑制されているが、相当な高度まで上がったそれの自然落下速度はそうした作用があっても速い。
身動きはそうそう出来ない。精々、体の向きを変えることくらいだ。せめて足から落ちるために、体の向きを大地と垂直になるように変える。
「――ふんっ!」
――大地に衝突。
直後、大地が共鳴するかのように震え始める。俗に言う、地震という現象だが、この時まだ、それがこの現象を知る由はない。
肝心のそれは……無傷であった。
「はぁ……風の力だけでは、流石に無理か?」
木の膜の強度以前に、あれでは一体どれだけの時間を所要すればいいのかわからない。そして何より、最高高度が足りないだろうとそれは予感していた。
故に、それはまた別の方法を考えながら、宛もなく陸を彷徨い続けるのだった――。
――地上の全てが死んでいく。
大地が割れる。大地が砕ける。大地から溶岩が溢れ出て、海水が吹き出る。今まで一つだった大地が分断されていく。
天変地異なんて可愛いものだ。これは、世界が終焉を迎えようとしている。
「……何故だ」
まるで世界の終わりだ。地上の生物は死滅する。海の生物たちも息絶える。森は無残に破壊され、地層は剥き出しになる。
割れる。壊れる。流される。空高くに黒雲が舞い踊る。
それはただ、その瞳に涙を溜めて天に吠える。
「何故ッ! どうしてこの世界が滅びねばならない!?」
大地から抜け出し、天空へと旅立とうとする大岩。まるでこの大地が空に逃げようとしているかのような大きさだ。
「許さない。許さないぞ、この世界を見捨てた下郎ッ!」
地震。雷。火事。そして大嵐。
その光景はまるで、世界そのものが終焉を迎えることを望んでいるかのようだった。天災全てが共存するなど、それにはとても許せることではなかった。
それは少なからず、長い間共に過ごした世界に愛着を持っていた。いや、世界そのものを愛してやまなかった。丸にたどり着こうと……月にたどり着こうとしたのは、単なる好奇心だ。実際には、この世界の全てを愛していた。
道理を理解出来ない、もしくは道理を多少しか理解していないそれは、目の前にある大岩に向けて拳を構えて咆哮する。
「この地を見捨てて、旅立とうとするんじゃねぇッ!!」
拳が大岩に突き刺さる。いや、それは比喩であり正しくはない。精確には、大岩を3分の1ほど、ごっそりと削り、砕け散らせてしまった。
その大岩はもともと、大地の一部であった。今回の天変地異は、この大岩が抜けてしまったことで発生したものだと、それは考えていた。
故に、それはその大岩を元の大地に戻そうと殴り、削り取った。本来ならば、全てを砕け散らせ、元の大地へと押し込めようとしたのだが、どうやら大岩は相当に硬いようだった。
バラバラと大岩の3分の1がポッカリと開いた大穴へと落ちていく。しかし、残り3分の2の大岩は、まるで自分の動きを戒める鎖を失ったかのように、突如急上昇を開始した。
「ッ、待て!」
それは大岩を追撃する。しかし如何せん、それの跳躍速度が足りない。
「風、風ッ! 我が体を舞い上げろ!」
一人で届かないことを悟り、すぐにそれは自然現象である風へと力を求めた。本来、そんなことをしても無駄だというのに、それには絶対に力を貸してくれるという確信があった。
ぶわぁっ、と風が唸る。まるで、それの体を押し上げるかのような強力な上昇気流が発生し、それを大岩のもとまで運ぼうとその激しさを増す。
「ぐっ……届かない、か!?」
しかし、大岩とそれの速度は拮抗していた。風の力を受けたとしても、大岩には届かない。付かず離れず、距離を維持するだけだ。
その時、それは背に大きな衝撃を受けた。思わずそれが体制を崩してしまうほどの衝撃だ。
その現象の名前は、爆発。大規模な爆発が、それの背を押すように何度も、何度も、何度も空中で巻き起こる。人為的な爆発ではない。完全な、自然発火による爆発だ。
まるでそれに、星そのものが力を貸しているかのような光景だ。大気がそれに合わせて舞い上がり、爆発がそれの背中付近で連鎖的に巻き起こる。豪雨は大岩に染み付き減速させ、雷が大岩を削り取る。
宙を一直線に加速するそれと大岩。自然の力により加速したそれと、減速する大岩。敵と味方ははっきりとしていた。
自然の力に背中を押されたそれは、拳を引く。狙うは、大岩の中央。その全てを粉々にし、この世界の大地に返還する。
「くらい――」
それの右腕に雷が落ちる。次いで右腕が雷と炎に包まれる。しかし、それは何事も無いように拳に力を入れる。
「――やがれぇぇぇええええええッ!!」
咆哮。
大声音が世界を揺るがす。紫電と炎(ほむら)を右腕に纏い、風と炎の翼で大岩に肉薄する。
眼光は神さえも射殺さんばかりに鋭い。口は一杯に開かれ、残った生物全てがその声を聞いて希望を抱いた。これならば、破滅は回避できるかもしれない、と。
――世界が終焉の色に包まれる中、一筋の希望の光が世界を照らす。
――その者は風の翼で飛翔する。自らの身を顧慮することなく、背中に爆風を浴びて加速する。天上より落ちし神の雷はその右腕に宿り、同時に神の炎が右腕を覆い尽くす。
――咆哮は世界を震撼させる。それは神をも凌駕する星の咆哮だ。
――咆哮は止む。刹那の時、世界から音が消える。
――直後、星の誕生を思わせる爆音が世界を、星を包み込む。敵なる大岩は抉り取られ、一部は天上へと逃げ去った。
――その者は破壊した大岩を大地に返還する。足りない隙間は天より落ち、火の山にて精錬された星の鉱物によって埋められる。
――こうして世界は、大地は安寧を取り戻す。散り散りとなった大地の欠片は海を出て、新たな国として復興していく。
「……荒れたな」
それは呟いた。痛々しい、悲惨な大地の姿を見たそれは、瞳に悲哀を込める。
「この世界はきっと、荒れた大地を望まない」
それは荒れた大地を少しずつ治していくことにした。
まずは大地を不自然でない程度におうとつ部分を整えた。続いて、土地を整備し草花の種を蒔いた。最後に、死んだ森に命を吹き返すために植林を積極的に行った。
――数百、何千、何万……数え切れない回数、星が巡った。ようやく大地は、世界はもとの形を取り戻した。忌々しくは、天上に浮かぶ大岩だが、それは既に関与しようと考えてはいなかった。
「……これでよし、と」
植物の手入れを終えたそれは、「ふう」とため息を吐いて空を見上げる。日はすっかり沈み、気づけば夜だ。月の光が満ちる庭園の中、それは決意する。
「もう、俺が居なくても問題ないだろう。あの黄金色の星……確か月といったか。我は招待されているのでな。しばらくの時、遠い場所からこの世界を見守ることにしよう」
夜風が吹く。草花が揺れ動く。森がざわめく。大地が軋むような音を立てる。
全てを聞いたそれは、その顔に苦笑を浮かべる。
「大丈夫。どうやら、優秀な俺と同種の存在が文明を築いている様だ。他の生物たちも、理には逆らわないさ」
ふと、空で謎の爆発が巻き起こる。それを聞いたそれは、今度は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「それは俺も一緒だ。この世界を、星を、愛している。しかし、永遠の別れというわけではないだろう? 俺はただ、観測者として月に居座るだけだ」
ふと、月を遮らない形で黒雲が立ち込める。黒雲は雨粒を振り下ろす。それを濡らす雨粒を、しかしそれは気にしない。
むしろ、先ほどよりも笑みを深めて、瞳を潤ませる。
「そうだな。その名、授かろう。俺……いや、我の名前は『人星(ヒトホシ)』だ」
それは……人星は雨粒の中、別の潤いを大地に零す。誰がどう見ても、それは嬉しさの表れだった。
「……また、この地で会おう。――月よ、その招待を今こそ受けよう」
ふわっ、と人星の体が宙に浮かぶ。そして人星はまるで月に吸い寄せられるように、ゆっくり、ゆっくりと地上から離れていく。
「この恩恵がある限り、我らの繋がりは消えないとも。……ありがとう」
そして人星は地球という星を去り、月へと旅立った。
――これは本当に大昔。神話よりも昔の、伝説として語り継がれる最古の物語である。
そしてこの先のひと握りの人類は、思い知ることになる。
最古の物語は現実のものであったと。
そして……。
人星という、世界に、星に愛された者の新たな物語を、その目に刻み込むことになるだろう。
――その日は、近い。
書き溜めた第一章は1日1話を投稿してきます。
感想、評価、コメント、ご指摘、批判などなど、もしよろしければ、私の成長のためにも、よろしくお願いいたします。
それでは、また明日、今度は13時にお会いしましょう!
追記:時系列は永琳が生まれるよりももっと前の話です。また、調べればすぐに出てくる事象が描かれていることをお伝えします。