東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗 作:星の屑鉄
他の方々のSSと比べると細々としているかもしれませんが、こうしてゆっくり、まったり、細々とご愛読者様たちに読まれる環境も、悪くは無いと思いながら、この話を投稿させていただきます。
それでは、本編どうぞ!
神社の裏山。普段、この場所に人が侵入することは禁止されている。何故なら、そこは邪なる存在である妖怪を拒絶する、『神聖なる結界』の外だからだ。一度この結界の外に出てしまえば、もはやそこは妖怪の跋扈する魑魅魍魎たちの世界。力なき者は喰われ、力ある者が喰う、弱肉強食の世界が広がっている。
今宵、その場所には数万の人ならざる者が集まっている。当然、自由奔放、無秩序なる者たちが一か所に集まるなんてことは、普通であれば有り得ない。しかし、そこに頭となる存在が居るのであれば、話は別だ。
怪異の軍勢を率いる者は薄く笑う。しかし、それが見えたのは刹那の時。すぐに扇子を開いて口元を隠してしまったため、誰もがそれに気づくことは無い。
軍勢の目の前にあるのは、小さな集落だ。人口500人程度の小さな村。しかし、そこは自然に恵まれ、環境に恵まれ、加えて運命というものに恵まれていた。
まず、その内部にある、ありとあらゆる自然のものが神聖なる気を放っている。加えて、その土地は無尽蔵に豊穣の力を放出することで、作物を育たせる。周囲が山に囲まれているため、極めて激しい暴風雨に見舞われることは少ない。難点を挙げるのであれば天気が変わりやすいことだが、それは全て大地への恵みとなっている。
加えて、この集落にある自然が放つ神聖なる気が謎の噛み合いを起こし、大妖怪といわれる者からの侵入でさえ憚る、『神聖結界』なるものが自然発生している。
これほど恵まれた土地は、この地球上何処を探しても他に無い。外敵からの侵略を恐れることなく、食料に困ることもなく、水に困ることもなく、自然に困ることもなく生活出来る土地。それは正しく、人間にとっての理想郷。
それ故に、軍勢を率いる頭は好奇心に襲われた。その土地を支配してみたい、と。頭は当然ながら、この星でも屈指の実力を持つ大妖怪だ。その特徴的な能力から、神にさえ匹敵するといわれるほどである。
しかし、その神に匹敵する者でさえも下準備なしにその場所へと入ることは不可能だった。
準備に費やした時間は、およそ150年。土地神が目覚めかけていることから、この機会を逃せば二度と侵入する準備すらも許されないだろう。だからこそ、その者は迅速に行動を起こすため、結界に手をかざし――
「待て。物の怪共」
――ジリ。
神経にささくれを起こし、焦がすような緊迫感が周囲を支配する。頭の者も、誰かに話しかけられることを想定していなかったのか、作業の手を止めてしまい、必然と声の発生源に向いてしまう。
そこには、あまりに場違いな男が居た。黒髪、紺碧の双眸、上半身を曝け出し、下半身をキトンによって隠す美男子。その肉体美は思わず溜息を吐きたくなるほど美しく、その双眸の力強さには心が惹かれる。
少なくとも、妖怪ではない。しかし、人間でもない。一瞬、土地神である可能性を考えるが、神であるとしても、これほど信仰心を感じさせない者は流石に不自然だ。最下級の木っ端神でさえ、これほど信仰心を感じさせないことはない。
故に、頭の者の第一印象は――
(……気味の悪い存在ね)
――当然ながら、良くは無い。ただし、それは本質の正体不明さからきた問題であって、外見だけで判断するならば間違いなく好印象だ。
「我が領域へ侵入する目的は何だ?」
「……それよりも、まずは名乗り出てくださらない?」
扇子で口元を隠すその仕草は胡散臭い。まるで、表情を読ませないために、敢えて自然を装ってそうしているようだ。
男はその動作に眉を顰める。それを見た軍勢の頭は扇子の裏で薄く口端を吊り上げる。まるで、計画通り、と言わんばかりに。
「まさか、これほど胡散臭い化生が出るとは。自らを詐欺師と名乗る変人に出合った気分とでも言うべきか」
しかし、今度は軍勢の頭が眉を顰めることになる。自ら進んで胡散臭いように演出しているとはいえ、変人という評価はあまりに酷い。それも、こちらの思惑にまるで気づいているかのような、的確な第一印象も不味い。
その者は、男に対しての警戒レベルを一段階上げる。
「……それで、お名前は?」
悪い流れは自然に断ち切る。それが相手に悟られないように。脱線した話をもとに戻すために吐いたようにみえる言葉。しかし、本音はその話題から相手を遠ざけたい、というものだ。
「ふむ、名前か。……人星だ」
何故、そこで言い淀むのか理解は出来ない。しかし、特別な思惑あってのことでもないだろうと、軍勢の頭はそれについて捨て置いた。
「それで、キサマの名前は?」
「――八雲紫よ」
「なるほど。よくわかった」
一体、何がよくわかったというのか。軍勢の頭――八雲紫――は懐疑的に目を細め男――人星――を見る。
「では、重ねてもう1つ問おう。穏やかではないが、此処に何用だ?」
「この『神聖結界』を破壊して、この奇跡の村を支配することよ。何か問題でもあるかしら?」
「嗚呼、愚かな。我が育み、大地が護り抜くこの土地を支配するというのか」
「愚かって、失礼ね。私はこの日のために、150年の間、用意をしてきたのよ。万を超える妖怪の軍、たかが一人で屠りきると云うのかしら?」
嗚呼、と美声が宵闇を通り抜ける。その声はまるで、哀しんでいるような、もしくは嘆いているような、そんな感情が見え隠れする。
「退き返せ、大妖怪、八雲紫よ。貴様は此処で倒れるような器ではない。我は今、力を覚えぬ。事を起こせば、この山ごと貴様を殺してしまうだろう。火種を持ち帰るのだ。さすれば、お互い、平穏が約束されるだろう」
「っ! 言ってくれるわね……」
八雲紫は、自身の力に絶対的な自信を持っている。彼女の力は、誇張でもなく、全ての事象を根底から覆す能力であり、また論理的創造と破壊の能力でもある。その力に敵う者など、居る筈がない。少なくとも、これほど力というものを感じさせない相手……人星に対して、能力が破られる筈もない。
「邪魔をするなら、貴方から殺すわよ?」
「二度目だ。退け。貴様がどれほど強大であろうとも、それは我を相手にすれば仮初と化す。そして、我は貴様を失いたくない。故に、頼もう。殺させてくれるな、八雲紫よ」
双眸は依然鋭いまま、八雲紫を真っ直ぐ見つめて逸らさない。それをみると、人星がどれだけその言葉を本気で放っているのかがわかる。あれは間違いなく、真だ。
「……押し通らせてもらうわ。私を護りなさい」
八雲紫は、人星から目を逸らす。そして再び、『神聖結界』に手をかざし、自身の能力を行使しようとする。それと同時に、他の妖怪に自分の盾になるように発破する。
「愚かな……」
ふぅ、と1つの溜息。隠しきれない落胆と悲哀の色、二つが混じり合ったそれは、妙に八雲紫の神経を揺さぶる。集中力が、掻き乱される。
「加減はしよう。しかし、慈悲は与えぬ。この運命、全て貴様に委ねられた」
スゥ、と神経が透き通るような感覚を、八雲紫は抱く。そして無意識に――八雲紫に備わった第六感による危険信号が発せられて――人星の方を見る。
「プルートよ」
人星の頭上の空間が歪む。一瞬、何かの能力かと身構えると、歪みから出てきたのは……不気味な、漆黒の大鎌。まるで死神の持つような、死、そのものを感じさせる異常の塊。
「っ!」
八雲紫は自身の能力、『境界を操る程度の能力』を使い、瞬時に世界と自分との境界を隔絶した。他の妖怪などに構っている暇は無い。
「死の災厄を撒き散らせ」
頭上から現れ出た大鎌を握り、そして一閃。非常に軽い、穏やかな川の流れの様な優しい一振り。見る者が違えば、それは試しに素振りしただけのようにさえ、見えるだろう。
しかし、八雲紫にはとても優しいものには見えない。むしろ、これ以上にないほど無慈悲なる一撃が、災厄が、この山にもたらされた。
大鎌が振るわれ、数秒。それまでの間、誰一人として動かない。いや、実際には動けなかった。人星を除いて、誰もが動くことが許されなかった。
人星は大鎌をもとの歪みに収めた。妖怪の唸り声が聞こえない。虫の鳴く声は何処にもない。木々がざわめくことさえない。風は訪れようともしない。山は答えない。隔絶された世界に居る八雲紫だけでなく、人星にさえ何も聞こえてこない。
「痛みは無い。安らかに眠れ、哀れな物の怪共よ。
そして済まない。罪無き山の者たちよ。今宵は命日。そうなる運命だったと、諦めよ」
あまりに理不尽。それを目の当たりにして、それを起こした張本人は双眸に哀れみを込めている。しかし、そこに罪悪感といったものは欠片も含まれておらず、あるのはただ、優しく見えて残酷な哀しみだけだ。
「風よ、この者たちを供養せよ」
人星の声に応えるように、風がそっと撫でるように吹く。それと同時に粉が舞い上がり、満月の光に照らされて輝く。
撫でるような風。それが舞い上げているのは、灰のような何かだ。その発生源は、山の全て。木々は保っていた形をとうとう崩し、粉となってサラサラと風にさらわれる。雑草も、虫も、そして物の怪共も、すべてが粉となって消えていく。
それはまるで、この山の居た全ての存在の時間が、一億年、二億年……永久のような時の流れを瞬時に経過し、時の力によって風化してしまったことで、粉となって崩れ去っていくような、そんなおぞましい光景だ。
八雲紫は目を見張る。山ごと全てを殺す、死の災厄を撒き散らす大鎌。あまりに規格外な力を目前にして、彼女は開いた口が塞がらない思いだった。彼女の150年の努力は、たった一人、その者の能力の一振りという、あまりに短い時間で、無へと還る。
風が山をさらい尽くすのに要した時間は、1分に満たない。何事もない、たった一振りでこれだけの力。それも、人星はこれで手加減をしているのだという。底知れない、計り知れないとはまさにこのこと。八雲紫でさえ、能力の使用が遅れていれば、山と同じ運命を辿っていただろう。
たった1分。これが、万単位の妖怪の軍勢を一人残して全滅させ、禿山にするのに要した時間である。命は儚い、と人間が何度も言っていたが、その意味がようやく分かった気がした。
何せこれほど簡単に、呆気なく散っていくものなのだ。命という花弁は。人間と妖怪の命に、大差など感じさせない。むしろこの上なく、平等にさえ感じられる。あの力の前には、どう足掻こうと命は等価値なのだと、思い知らされる。
「不憫なものよ。たかが世界を隔絶する程度で、死の災厄から逃れられる筈もない」
ふと、八雲紫は違和感を覚える。自身と世界とを隔絶した筈なのに、どうして音が聞こえてくるのかしら、と。
「死の災厄は、事象の命さえも削り落とす」
人星のその言葉に、八雲紫は理解する。隔絶するための境界が、死の災厄によって消されたのだと。あれは、『あらゆるものに死を撒き散らす災厄』なのだと。
正しく理解して、ようやく八雲紫は現状を把握する。死は遅れてやってくると。だからこそ、彼女は一矢報いるためにも、もう一度自身の能力を発動する。
「――境界によって限界を決められた中で、余生を楽しむことね……!」
論理的能力創造と付与。八雲紫は、人星の魂を境界によって包み込む。その境界は、『本来の能力の1%未満の力しか発揮出来ない境界』である。その境界に人星の魂を包み込み、そして逃げ出せないように全力で更に他の妨害用の境界を引いてく。
これは即ち、人星に『力の1%しか出せなくなる程度の能力』が付与されたのと同義である。それも、他の境界によって、能力付与している境界が更に疎遠な箇所に隔離されている状態。それを繰り返すうちに、更に性質の悪いことに、境界同士が混ざり合い、もはや意味の分からない混沌とした境界が出来上がってしまった。
最後の力で出鱈目に境界を暗号化したために、能力を発動した八雲紫本人ですら、解除することは難しい……というより、不可能である。
イタチの最後っ屁。窮余の一策。窮鼠猫を噛む。そのような言葉が相応しい、蹂躙劇の最後。
八雲紫は100を超える境界を以て人星の実力を封じたところで、パタリとその場に倒れる。
一方、人星は溜息を吐いて、八雲紫を見る。
「最後まで命乞いをせず、その矜持を見せつけるとは……」
もう一度、人星は溜息を吐く。
「本当に死んでいるのであれば、その死に様に賞賛を送ろうものだが……。早とちりにて、解けない呪いを残されては、我も微妙な気持ちにならざるを得ない」
衰弱はしているが、息はしている八雲紫。境界によって死の災厄の威力が弱まった、そして八雲紫の実力を考えるのであれば、これはある意味、当然の結果であった。
この結果から見てみると、彼女は少々、うっかりしているのかもしれない。これは失策だったな、と人星は反省する。せめて、相手の性格を正確に掴んでおければ、このような失敗はしなかっただろう。
「まぁ、良い。我が特権を以て、村へ入ることを認めよう。貴様を失うことは、世界の損失である。せいぜい、村で大人しく療養することだ」
人星は八雲紫を(俗にいうお姫様抱っこで)抱え、自身の力を使って八雲紫を保護して、『神聖結界』の領域内に戻るのだった――
さてさて、人星の能力のバグっぷりがまたしても暴露された瞬間でした。
そしてついに、八雲紫の登場ですね~。時代はつまり、そのあたりを連想していただければと思います。即ち、かなり曖昧な時系列です。
既にこの章の仕組みにお気づきの方がいらっしゃるかもしれませんが、それは推測だけに留めておいていただけると助かります。
それでは、次回の話は11月2日、21:00に投稿させていただきます。話のストックが日に日に無くなっている焦燥感と書き上げるスピード。このチキンレースを楽しみながら、またご愛読者様のお声を糧にしながら、書き上げようと思います。
それでは、感想、評価、コメント、お気に入り登録、批判、ご指摘等々、常時募集してることを記載しつつ、今回はこれにて。