東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗   作:星の屑鉄

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 まず一言。定刻に遅れて申し訳ございませんでした。単純な寝坊です。

 そして、感想新たに1件、お気に入り登録11件到達、UA数700突破など、本当にありがとうございます!

 ただでさえ定刻に遅れているので、前書きはこれくらいにして本編をどうぞ!


二章 第六話 育むもの、育まれたもの

 ――チルノが誕生して、既に一ケ月が過ぎようとしている。

 

 あの日、チルノが誕生して目いっぱい話して、遊んだあと、人星は自身の能力により、チルノの能力を実力に比例して扱えるように、封印術を施した。その後、眠ってしまったチルノを抱えながら、人星は全身に纏わりつく氷を自身の力で破壊した。更には、能力によって治癒能力を高めることにより、凍傷による傷をあっという間に治してしまった。

 

 よってあの日、ひどい重症に見えた人星は特に外傷もなく、まだ生まれたばかりのチルノを抱えて神社に帰った。そして翌日、博麗に事の全てを話すと、快くチルノの同居が認められた。

 

 チルノに触れると凍ってしまう力、それは能力を封印した今でも残り続けている。そのため、世話を担当する博麗には『温度変化による損傷を無効化する恩恵』を与えることで、育児に差支えが無いようにした。

 

 しかし、そんな便利な力がある筈なのに、人星はそれを自身に与えることをしない。曰く、子どもとは壁を隔てて触れ合いたくない、とのことらしい。そんな本人の意思もあり、チルノは今も、遠慮なしに人星と触れ合っている。その度に人星は一部が凍る(最初は博麗がチルノに注意して、人星がそれを止めに入るなどということもあった)のだが、それも今では愛嬌として片付けられている。

 

「お父様~!」

 

 朝一番、チルノの日課は寝ている人星を起こすことから始まる。近頃、私用によって能力を使いすぎていることによる睡眠時間の増加という弊害が起こっていた。そのため、朝も一人では起きられないため、こうしてチルノのボディプレスと共に目を覚まさなければならない。

 

「んぐ!? ……あぁ、チルノ。おはよう」

「おはよう! お父様! もう、あたいがいないと、いつまでも寝てるんだから!」

 

 ふふん、と誇らしげな顔で人星に抱き着くチルノ。そんな様子が微笑ましくて、人星は思わず笑みをこぼす。ただし、現段階においても、人星はチルノに触れられている腹部や背中が凍りついていく。そして、その体が凍りつく感覚が、人星の意識を覚醒へと導いていく。

 

「ははっ、チルノは朝から元気だなぁっ、と!」

 

 人星は急に立ち上がり、チルノを抱き上げた後に抱擁を交わす。チルノはそれに対して「きゃぁ」と嬉しそうに声を上げる。あまりに強制的に始まる朝だが、しかし、人星はこれを最高の至福だと感じている。平穏な一日、親子としての日常、新しい刺激ほど面白いものはないが、しかし、団欒を営む平穏ほど心温まるものもない。今の人星であれば、迷うことなく後者を選び取る。

 

「やっぱり、お父様は温かいね」

「当たり前だ。父親が娘に温かくなくてどうする」

 

 当然だと言わんばかりに返し、人星はチルノの頭を撫でる。これももはや、朝の定例行事の一環になっている。嬉しそうに歯をみせて笑うチルノと、はにかむ人星。二人は程なくして抱擁を終えると、「あっ」とチルノが思い出したかのように声を上げる。

 

「どうした?」

「お母様が朝ごはん出来たからお父様を呼んできてって、頼まれていたのよ! ほら、早く行かないと!」

「っと、わかったから、そんなに引っ張らなくても――」

「早く!」

 

 問答無用で半ば引きずられるように連れていかれる人星。こうして、人の話を聞かずに居間まで運ばれることも、今では日常茶飯事の出来事だ。

 

 そして居間に到着すると、チルノは「ほら、お父様はここに座って!」とこれも半ば強制的に着席させられ、その後、チルノはいつも人星の膝の上を占拠しようと座るのだが――

 

「こら、チルノ。ダメよ、お食事の時はちゃんと自分の席で食べなさい」

 

 必ず、こうして博麗に注意される。

 

「えぇ~」

 

 ぷくっ、と頬を膨らませて抗議の姿勢に入るチルノだが、「ダメなものはダメ」ときっぱり言われると、「はぁーい」と残念そうにしながら自らの席に着く。

 

 この一連の流れが、今の人星の日常の、決まりきった一コマである。毎日毎日、飽きはしないのかといわれるかもしれないが、父親という立場である人星にとっては、むしろこの遣り取りが無いこと自体が考えられない。

 

「毎度毎度、苦労を掛けるな。博麗」

「これくらいは良いのよ。それよりも、早く食べましょう、人星」

「……それもそうだな」

「いただきまーす!」

 

 博麗、人星よりも早く、チルノが元気よく箸を持って朝食を食べ始める。それが微笑ましくて、二人はクスリ、と同時に笑う。

 

「……? どうしたの?」

「いや、何でもない。さて、俺も食おうか。いただきます」

「私も、いただきます」

 

 時折、チルノの箸の使い方を二人で指摘したり教えたりしながら、他愛の無い話で食卓を彩る。

 

 しかし、人星は知っている。博麗は勘付いている。チルノは残酷にも知らない。

 

 こんな平穏な日々は、もうすぐ終焉を迎えるのだと。廻り続ける歯車はもうすぐ、一部が砕け散り、一部が動きを止める。

 

 だから、人星はいつも通りに振る舞う。少しでも長い間、自身の子どもに大切な日常を、思い出を授けたいから。彼はただ、いつも通りに振る舞い続ける。

 

 同時に、彼はプレゼントを用意している。いつかまた、親子再会に必要なものだと信じて。親として、生命と名前以外で、初めてのプレゼントを。彼は陰に隠れて周到に、用意を進めるのだった――

 

 

 

 ――夜。月が厚い雲に隠れ、暗闇が広がる世界。

 

 彼は珍しく、鳥居の上に独り居座っていた。何をするわけでもなく、何処を見るわけでもなく、ただ静かな世界に身を委ねる。

 

「月の光が消えたか」

 

 光届かぬ漆黒の帳の中、しかし彼の双眸だけは爛々と輝きを帯びている。

 

「次はおそらく……」

 

 彼はそこで言葉を止める。既に憶測ではなく確信へと変わっている自分の中の予想を、いちいち口に出す必要はないと考えたからだ。

 

「嗚呼、嘆かわしい。小細工を弄したところで、勝てる道理など無いということが分からぬか」

 

 不快そうに、彼はふん、と鼻を鳴らす。そして、もはや此処には用事は無いと、いつも通り森へと足を運ぼうとした時だった。

 

「人星。ちょっと、いい?」

「……博麗、か」

 

 ちょうど鳥居から降りた時だった。もとから居たのか、それとも偶然か。ただ、声を掛ける前に彼――人星――を掴んだことから、最初から逃がすつもりはないのだろう。

 

「どうした? まさか、貴様が夜一人で眠れない、などという相談をするわけでもあるまい」

「……その通りよ」

「――は?」

 

 一瞬、人星は自身の耳を疑った。冗談で言ったつもりだったために、まさか肯定の返事が来るとは思っていなかった。呆けたような顔をして数秒、人星は博麗に引っ張られることにより意識を取り戻す。

 

「部屋で、話しましょう」

「……わかった」

 

 断れない雰囲気。不穏な予感を覚えながら、人星は渋々、その提案を了承する。すると、博麗は人星を、とても女性とは思えない力で半ば強制的に部屋の中へと引きこんだ。

 

 ――ピシャ。

 障子が閉められる。部屋の隅では、チルノが気持ちよさそうにスヤスヤと眠っている。部屋の中は相変わらず、暗闇が支配している。

 

「正直に、話して。人星」

「……何を?」

 

 博麗は部屋に入ってからも、人星を放そうとしない。人星は妙な圧迫感を覚える。

 

「貴方、あと何ヶ月、私たちの傍に居られるの?」

 

 ギラリ、と博麗の双眸が怪しく光る。そして真っ直ぐ、人星の瞳を射抜く。その双眸は、嘘は許さない、と叫んでいる。

 

「さて、何時までだろうな」

 

 ――ゴン!

 人星は畳に背を向けて、勢いよくなぎ倒された。いや、押し倒されたというべきか。やった犯人は、先ほどから人星を放さない博麗だ。彼女は人星の腕を拘束しながらも、倒れた彼の上に覆いかぶさる。

 

「私をなめないで。少なくとも、私は貴方より近接戦闘技術は上よ」

 

 声は淡泊。しかし、冷たさは感じさせない。

 

「もう一度訊くわ。貴方はあとどれくらい、私たちの傍に居られるの?」

「……星堕つる夜、その前夜まで」

 

 博麗は人星に顔を近づける。鼻と鼻が触れ合う距離。ほぼゼロ距離。彼女は人星の双眸を正確に、自らの双眸で捉える。

 

「質問の意味をずらさないで。具体的に、それはあと何日後の話なの?」

 

 一歩も退く気は無く、むしろ踏み込んでくる博麗に、人星は分の悪さを感じた。ここは一度、仕切り直しをしよう、と人星は自身の能力を発動する。

 

「貴方は逃げられないわ」

 

 博麗は宣言する。人星は驚愕に目を見開く。能力が発動しない、と。

 

「貴方は、逃げられない」

 

 博麗の双眸。そこには、人星が目をそらし続けてきた色が宿っている。今まで、時間が解決してくれると放置していたことが、彼女のその色を悪化させ、更に強いものへとしてしまった。

 

人星の双眸が、初めて揺らいだ。

 

「ふふ、やっと、その顔が見れた」

 

 とろん、と濁った瞳が蕩けた。そこには確かに温かい感情が込められている。しかし、あまりに強すぎる感情が、それを蒸発させてしまった。今、博麗の瞳に込められている色は、「欲望」と、「狂気」と、「決意」だ。

 特に、この中でも「狂気」が不味い。それこそが、他の二つの感情の良い所を蒸発させてしまった原因。あまりに強い、劇薬にも似た感情。

 

「……言って、くれないの?」

「――大切なものを守るためには、時に壁を隔てねばならないこともある」

「そんなの、自分勝手よ」

「今更、そのことに気づいたのか?」

「いいえ、前から知っていたわ」

 

 博麗の瞳の濁りが薄まる。しかし、人星は彼女の瞳を直視できないほど、追いつめられていた。

 

「ねぇ、人星様」

「……何だ?」

「巫女が、神様と結ばれたいと思うのは、罪かしら?」

 

 ――とうとう、タブーに接触してきたか。

 もはやこの先の運命は、どうやっても避けられない。博麗の瞳からは、既に濁りが消えている。あまりに一直線だ。

 

「それを、神が知る筈もない」

「――そう。でも、どちらにしても、関係ないの」

 

 ――やはり、こうなるのか。

 人星は覚悟を固め、博麗の双眸を真っ直ぐ見つめる。

 

「だって、私はこう見えて、我儘なの」

 

 博麗は人星の瞳から、目を離さない。

 人星は博麗の瞳から、目を離せない。

 

「だから、目の前にご馳走があるとね――」

 

 博麗はその愛らしい唇を人星の耳元までもっていき、彼だけに確かに聞こえる声音で、静かに言った。

 

 ――我慢、出来ないの――

 

 育まれたものは、光届かぬ闇の中、静かに、滑らかに、そして確かに、破裂した。

 

 

 




 次で第二章が最終回を迎えます。一体、最後はどんな終わり方をするのか、それについてこうご期待あれ!

 そして人星さん見事にやっちゃいました。はい。

 感想、コメント、評価、ご指摘、批判、お気に入り登録、などは常時募集しておりますので、もしよろしければお願いいたします!

 それでは、次回は11月6日、21時にて。
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