東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗 作:星の屑鉄
それでは、本日の投稿分を投稿いたします。
それと、間違えて2016年にしてしまっていたため、投稿が遅れたことをここに記しておきます。本当に申し訳ありませんでした。あまりに区切りが悪い時間だったため、勝手ながら14:00に投稿を変えさせていただきました。
それでは、本編をどうぞ。
「あ~、アユム。まだ切るのか?」
「いや、もうこれで十分だろう。さぁ、木材を持って帰るぞ」
「運ぶのは誰だと思ってるんだ……」
93回食物を摂取し、太陽がおよそ50回は昇った日の夜。目標はその半分の日数だったのだが、如何せん、アユムが足を引っ張り過ぎた。具体的には、食事を必要とするとは思わなかった上に、獣道を構わず進み続けるといつの間にか足から大量の血を流していた。つまり、持久力も機動性にも乏しいただのブレインとなったアユムは、行動するにおいてとんでもない足枷となっていた。
つまるところ、アユムの誤算は自身の身体能力の低さにあった。ハクロウだけであれば、目標通りの日数で作業を済ませることは出来たことは間違いない。
「俺は身体能力が異常なまでに低い。サポート役の俺は、ただ後ろで見守るのが仕事。前衛の貴様の仕事は戦闘と力仕事だ。地図を作ったおかげで、どれだけ森の中を闊歩しやすくなったか……」
「それには感謝しているが、どうにかならないのか?」
「家を作るのは基本だ。縄張りを主張しなければ、此処を侵略されても文句は言えぬ」
「……こんなところ、攻め込むもの好きがいるかねぇ……」
知るものか、とアユムは冷たく返す。そして、ハクロウが木材を持ち終わったところで、いくぞ、と手でジェスチャーしてさっさと歩き始める。ハクロウは待ちやがれ! と木々を持つことを苦にした様子もなく、アユムへとついていくのだった。
――半月後。
「ハクロウ、面白いものを見つけたぞ」
「なんだ? こっちはお前の書いた設計図に四苦八苦しながら家を建てているっていうのに、お前は遊びにでも行っていたのか?」
森……いや、この周辺の地形を調べたところ、どうやら頂上が標高1200mほどの山だということが判明した。アユムとハクロウは、その山の頂上に家を建てる計画を立て、現在はその骨組みが完成した状態だ。
ハクロウは話しながらも、せっせと(狼の姿で二足歩行という実に滑稽な恰好で)汗水たらして木材を運び、削り、後に伝統工法と呼ばれる技術を用いて、木を組み合わせていく。骨組みの中央には12メートルほどの高い柱が立っており、それは地面深くに刺さっているため、実際の長さは40メートルを突破する。
「いや、これは貴様にもいい話だ。……酒が見つかった」
「――何?」
ピタリ、とハクロウの動きが止まる。そして振り向くと、そこには粗く削って作られた木製の、縦30センチ、横15センチほどの大きな瓢箪を持っているアユムが居る。
「飲んでもいいか?」
「試作品だが」
「構わない」
相変わらずの即答ぶり。アユムはやれやれと肩をすくめてみせて、ハクロウに瓢箪を差し出した。ハクロウはそれを受け取ると、瓢箪の飲み口から一気に酒を煽る――!
「ッ!? げほっ、げほっ!」
そしてすぐさまむせ返る。ハクロウは喉が焼けるような痛みを感じながら、とにかく辛く苦く砂糖水のように甘く混沌とした、妙なとろみと強いエグみが更に凄惨たる不協和音を奏でる酒、それの入った瓢箪をアユムに突き返す。
「なんっ、つぅものを! 何度だ? というか、驚くほど不味い!」
「体感ではおおよそ93度。不味いのは知らん。試作品だと言っただろう?」
「あぁ、もう! こんなくそ不味い酒は初めてだ!」
アユムに瓢箪を持たせた後、ハクロウはどかどかと大地を踏み鳴らしながら再び作業へと戻る。口の中の惨状を汗で流そうとしているのだろう。やはり、あの不味さはハクロウでも耐えられないかと、アユムは苦笑する。
「まぁ、そうカリカリするな。これから徐々に、徐々に味を調整しながら、もっと美味い酒を製造するつもりだ」
「期待しないで待っておく。あんな酒を二度も飲めるか!」
「そう言うな。何せ、虫から製造する酒なのだ。どうやら、虫ごとに製造できる味が違うらしいのでな。今のこれは、現在発見しているすべての虫を突っ込み製造した、いわば不味いことを覚悟で作った失敗作だ」
「そんなものを紹介したのか?」
「聞かない貴様が悪い」
はぁ、と溜息が吐かれる。そして顔を顰めるハクロウ。アユムが今回作った酒は、味だけでなく臭いもとことん酷い。なまじ狼なだけに、それを敏感に感じ取ったのだろう。不憫なことだと、アユムはあくどい笑みを浮かべる。
「それで、酒の完成は何時だ?」
「酒を完成させるとなれば、何十年単位が必要だろうが……美味い酒であれば、あと半月もあれば出来るだろうな」
「何だ、美味い酒はそんなにすぐに作れるのか?」
「大方の配分の検討は、今の失敗作でついている。あとは、その配合を数十種確かめ、味見するだけだ」
「なるほど。試行回数の差か」
ハクロウは正確に意味を理解し、その後は黙々と建築作業を行った。アユムも、これから娯楽として酒の研究をしなければならないと、虫の生息地、並びに水源地を闊歩するのだった――
――1ヶ月後。
「完成だぁぁぁ!」
ハクロウが完成した家の屋根の上で咆哮する。縦8メートル、横6メートルの、高さ12メートル、階層は3つと、非常に広い作りになっている。新築のためか、使った木々の匂いが香る。また、屋根には削った不格好な石を敷き詰めて屋根の強度を高めている。
「苦労を掛けたな、ハクロウ」
「応とも。苦労したぜ、まったく」
アユムが声をかけると、ハクロウは元気よく爽快な笑みを浮かべて返してくる。設計はともかく、それ以外の力仕事全てを一人でやり切った達成感は、やはり大きなものなのだろう。
「ならば、内装を点検させてもらうぞ」
「ケラケラケラ。出来栄えが良すぎて、腰抜かすなよぉ」
「……久しぶりに聞いたな、その笑い声」
まず、アユムは家の全体像を見る。黒と白の斑な屋根は使った石の色を統一しなかったせいだろう。少々奇天烈な配色だが、これはこれで味があると評価する。あとは大方、設計図通り。染料などある筈もないから、他が味気ない綺麗な木の色なのは仕方がないだろう。
次は玄関。まずは、横開きの戸の立て付けのよしあしを、実際に開けてみて確かめることにする。
シャア、と軽快な音と共に滑るように戸が開く。しかし、アユムはそんなことよりも、視界に広がる内装に驚いた。
まず、床の材質が所々違う。木や石だけでなく、一部に畳まで使われている部屋まである。部屋を区切るための戸に障子が採用されており、また紙もしっかりと使われている。木の色は外見のように味気ないというものではなく、それぞれの木材の味のある色が現れている。炙ったのか、それとも樹液を掛けたのか、染料を生成したのかは知らないが、木の色ということに変わりはないのに、見事に色鮮やかな世界を作り出している。
「……驚いた」
「そりゃあ、渾身の出来だからな! 竹藪を見つけたから、鹿威しなるものも作ったし、ついでに客間にはそれをふんだんに使ってみた! 庭には岩と白い砂利、少しの植林をすることでちょっと風流を醸し出してみもしたぜ!」
自信満々に解説するハクロウ。なるほど、確かに自慢するだけはある。これほどの出来栄えとは、まさかアユムもそうは思っていなかった。しかし、自分が持ってきたこの七つの瓢箪の中身も負けてはいない。アユムは、大胆不敵に笑みを浮かべた。
その後、部屋をすべて回り、説明を一通り受けたアユムは、新築祝いと称して1階の大広間にて持ってきた瓢箪を並べる。
「どうだ。これぞ、新築祝い、そしてハクロウの苦労を労うために用意した、至高の七種の酒だ! 杯は漆を塗った、この木の器を使おう」
掌サイズの杯をハクロウに渡し、一つの酒の瓢箪を手に取るとアユムはその中身をハクロウの杯に注ぐ。
「これは『色めぐり』という。匂いを楽しみ、風味を楽しむことを薦めよう」
「製造主の言葉だ。素直に従うさ」
ハクロウは匂いを確かめる。スンスン、と動く鼻がやはりどうにもおかしい。そんなことを知らないハクロウは目を瞑り、もう一度匂いを確かめる。
「……花の香か」
「ご明察。俺なりに、花をどのように組み合わせれば良いか、酒と相性がいいか、四苦八苦しながら完成させた逸品だ」
ハクロウは穏やかな顔で、くいっと杯を少し傾ける。少量を含み、口の中で転がす。
「……飲みやすい。気分の良い、さっぱりとした味わいだ」
「そうだろう、そうだろう」
ちびちびと、少しずつ二人は『色めぐり』を飲む。肴は無いが、しかしそれはわざと。最初の一回くらいは、肴を交えずに、酒そのものの味を楽しみたいという心づもりだ。酒の肴は、他愛の無いこれからの話、近況の話で補った。
「しかし、この付近に最近、まったく妖怪が出なくなったと思わないか?」
「あぁ、そういえばそうだ。妖怪どころか、人っ子一人見やしない。さてさて、どうしてなのか」
「それと、最近は妙に川の水の質が良くてな。この酒も、その川の水を使用しているのだ」
「そうか。川の水の質が上がれば、お前の酒の味も上がる。川に住む魚も喜ぶ。良い関係じゃあないか」
「あとは、森の美化、どうやら上手く進んでいるようだ。微力ではあるが、俺の能力によって恩恵を少しずつ土地に与えていくと、つい一ヶ月ほど前からようやく、その成果が出始めたのだ」
「なんだ、そういうことか。最近、妙に木の色や質が良いと思ったら、お前の仕業か。まったく、アユム。程々にしておけよ? 一説には、力を持ち過ぎた土地は神聖化して、聖地となって並大抵の者は立ち入り出来ないようになるみたいだからな」
「それはおそらく、『神聖結界』のことだろうな。俺が土地に宿るだけで、どうやら発生するらしいぞ」
「あ? 妖怪や人っ子一人居ないの、もしかしてお前の仕業か?」
「何を言っている。全盛期の話だ。こんな脆弱な者に、一体何が出来るというのか……」
「いや、能動的に恩恵を与えたんだ。無意識と同じくらいの効果、もしかしたらあるかもしれないぞ」
「…………まさか、この土地はある意味目立ってはおるまいな?」
「そりゃあ、バリバリ注目の的だろうよ。主に森の活性化について、神々達から。大和の神とかは、時機に攻めてくると思うけどねぇ」
「待て、不吉極まりないことを言うな。現実になりそうで怖い」
「ははっ、その時はとんずらさせてもらうけどね」
「勘弁しろよ、ハクロウ……」
談笑は続く。酒の飲みあいは加速していく。徐々にお互いに顔が赤くなっていき、談笑に熱も入る。瓢箪はどんどん空になっていき、2時間経過した時には、既に最後の酒となってしまった。
「くくくっ、ついにこの時が来た。最後の酒、これは『鬼潰し』と命名した。あまりの度数、辛さ、口の中で弾けるような味わい。まるで爆弾のように激しい酒、そして並の者であれば一口飲めばたちまち酔い伏せる。その勢いはまさに鬼を飲みつぶす勢い。故に、この名称がつけられた」
「ちなみに、懐に隠している瓢箪は?」
「それは『煉獄』だ。あまりに混沌とした味わい、半ゲル状という異常な食感、常軌を逸した風味、臭い……酒の極致を啓いたとんでもない代物であることに間違いはない」
あぁ……と、その意味が分かったのか、ハクロウは微妙な顔をしてその懐を見つめた。そして、さっと目を逸らすと、すぐにアユムに向けて杯を突き出す。
「む、まさか『煉獄』を所望か?」
「冗談はその酒だけにしろ。『鬼潰し』だ」
「承った」
そして締めの酒、『鬼潰し』を杯に注ぎ、お互いの杯をコツン、と軽く当てる。俗にいう乾杯だ。そして、その酒をお互いに一気に煽る――!
「ッ!」
二度目になるアユムは驚かない。しかし、初めて飲むハクロウは驚愕する。口の中で広がる灼熱。度数の高さと極限の辛さ、その二つが同時に舌を襲う。口に含めた瞬間に爆発のような衝撃が舌を奔る。顔が急激に紅潮していき、体が火照る。飲み下すと、喉がピリピリと心地の良く刺激される。胃の中心から広がるように温まっていく。
「カァー! こりゃあ良い酒じゃあないか!」
ぷはぁ! と芳醇な香り漂う息が雑に放出される。今まではほろ酔いだったが、どうやら『鬼潰し』によって完全に酔いが回ったようだ。ハクロウもそうだが、アユムも顔がほのかに赤い。あと数杯飲めば、完全に出来上がることは想像に難くない。
「当たり前だ。これらは俺の渾身の逸品。その締めを飾る酒だ。美味いのは道理というものだ」
「それにしたって、この酒は最高だよ! いやぁ、最初はあんなゲテモノを飲まされた身としては、今世でこんなにも美味い酒に逢うなんて思ってもみなかった!」
「くくっ。そうだろう、そうだろう。良かったな、ハクロウ。貴様は現時点で、世界で二番目に不味い酒と、最も美味い酒を飲んだわけだ。これほどの経験、滅多に出来るものでもない」
「世界で最も不味い酒とやらには、出遭いたくないものだねぇ」
「ははっ、何を云うハクロウ。貴様も冗談が上手い」
「いやいや、冗談はお前の酒だけにしろっての」
軽口を叩き合い、瓢箪を傾け、杯を煽り、そしてまた軽口の応酬が繰り返される。新築祝いは、そうして二人が酔い潰れたところで、幕を閉じるのだった――
さて、アユムの作った酒、飲んでみたいですか? 私はまっぴらごめんです。
今回は不手際により投稿時間ミス、まことに申し訳ありませんでした。
まずは家を建てる。衣食住を揃える。これは鉄則ですね。ただ、トラブルメーカーのアユムがそんな平穏な日々を長く保てるかと言われれば、微妙ですけど。
さて、それでは次回の分は今回の失敗を踏まえて、2015年11月15日の15:00に投稿したいと思います。予約投稿したあと、寝て起きたタイミングが14:00前だったんですよね……。
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