東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗 作:星の屑鉄
さてさて、今回はついに、あの御方が登場します。
それでは、本編をどうぞ!
――此処は、とある国の境内、神がおわします場所。
十数人の影がそこにはあり、最奥には注連縄を背負う者が堂々と、座りながら右足の膝だけ立てている。上座、間違いなくその者がこの場においてのトップだ。
「それで、あの強力な『神聖結界』が出現した件、それはまことか?」
「本当です! つい三ヶ月ほど前から、あの山に出現しました! この私でも、突破どころか、ほころびを与えることも出来ませんでした。そして山の景色も、去年のこの時期は雑なものでしたが、今年は土地が整理され、モミジが美しく色めいております」
「そうか……ご苦労」
最奥の者は考える。先ほど答えたのは、武力だけならばこの中でも一二を争う、武神の御魂だ。それが破れないとなれば、その結界は伝承にも記されている、アレである可能性が非常に高くなる。侵略はしたいが、もしも本当にアレであれば、敗北は必至。おとなしく、和平を持ちかけるか、もしくは不干渉を貫く方が選択としては賢い。
しかしだからといって、あれほど力を蓄え、急激に成長した山を放置するのもまた惜しい。侵略して勝利すれば、土地の特性を理解して急成長の原因を解明することで、他の山にもそれを活用できる。そうすれば、土地の力が増していき、神々が行使できる力の振れ幅も増えていく。即ち、神々全員の強化に繋がるのだ。この機会を、みすみす見逃すことは出来ない。
「あ、だったら視察に行ってくるよ~。人星様が居た時は、まぁ、何とかなるよ」
そんな発言をしたのは、上座のすぐ近くに座っている、頭に蛙の目の様なものが付いた帽子を被っているところが特徴的な女の子だ。
「そもそも、入れるのか?」
「んー、何とかなると思うよ。土着神だし」
なるほど、検問にそもそも引っかからないわけか。その場の誰しもが納得し、満場一致でその意見が是とされる。むしろ、彼女以外にあの場所に侵入出来る者はいないからこそ、この形に収まった。
「なら、行ってくるよ~。お土産にモミジでも採ってくるね~」
そんなお気軽な調子で、彼女はその場から出て行った。力は十分にある本物の神なのだが、緊張感に欠けるところは玉に瑕だ。頭が痛そうに、はぁ、と最奥の者は溜息を吐く。
「下手をしないでね、諏訪子」
神々は各々の持ち場に戻る。最奥の者はその場に残り、彼女の帰りを待つのだった――
◆
「っ!」
声発さず。気迫だけを全面に押し出し、目の前の相手に向かって金色の槍を突き出す。腰の入った一撃は、黄金の軌跡を描いて相手の心臓に向かって吸い込まれる。
「ふん!」
キン、と高い音が1つ鳴る。心臓を狙った突きはしかし、その半ばで相手の爪によって軌道を逸らされ、今度は相手の貫手が槍の持主の心臓を抉ろうと迫る。圧倒的力と速度のそれを、しかし槍の持主は焦ることなく、冷静に、弾かれた槍を器用に勢いよく回転させ、その柄で相手の手を弾く。
同時に、お互いは距離をとる。そして溜息を吐く。この瞬間、緊張感は霧散する。
「あぁ、死ぬかと思った! 容赦なくエグイ武器で心臓貫こうとしてんじゃねぇぞアユム!」
「貴様も同罪だ。返しの貫手は対処できなければ確実に死んでいた」
「お前なぁ、こっちは対処できるギリギリを見極めてやってるんだ。力加減を間違える筈もない」
「見誤ったとき、俺は死ぬということか?」
「そんな老いぼれになっているころには、その前にお前に殺されているよ」
そして軽口を叩き合うのは、アユムとハクロウだ。
――家が完成して2ヶ月ほどが経過した。
当時、目標は山の再生と美化、家の建築、衣食住の確保、酒の製造、等と多岐に渡っていたのだが、家が完成し、山も非常に活性化し、その上で衣食住もある程度確保され、酒の製造も順調なった今では、やることは精々、日課の恩恵の付与と散歩、食糧確保程度しかない。
即ち、時間が経過するにつれて暇な時間が増えた。特に、ハクロウはそれが顕著だった。ほぼ一日、やることが無かったときなどは、暇もほどほどでなければ体に毒だと思い知らされたほどだ。このままでは、体はなまり、感覚は錆びつき、堕落する未来は目に見えている。
そこでふと、ハクロウは思いついた。アユムはあまりに体力面、戦力面においての対応力が乏しい。ならば、少しでも鍛え上げてやればいい。幸い、お互いに時間は腐るほどある。加えて、訓練であればハクロウも堕落せずに済む。一石二鳥……いや、お互いの暇つぶしも加えれば、一石三鳥だ。そんな美味しい手を、二人が逃す筈もない。
そうした経緯があって行われている訓練だが、ハクロウはアユムのセンスと実力に違和感を覚えた。
(――センスはある。それも、天賦の才の部類が。動体視力だけならピカイチだ。だが、いざ行動するとなると、圧倒的に体力と能力が足りない。アユムの潜在能力に、体がついていっていない。まるで、何かに抑制されているようだ)
――非常に惜しい。それが、ハクロウのアユムに対する感想だ。
しかし、だからと言って成長性が無いわけでもない。やたらと根性がある分、足りない身体能力を少しばかり補うことも可能だ。初めて出会った時も、足が擦り傷だらけになっても、下級妖怪から逃げ続け、更にはハクロウの一撃を直感だけで避けたほどだ。余談だが、二人が出会って一ヶ月経過した時には、既にアユムの足の傷は完治していた。
「しかし、どうにも分からぬ。『創造する程度の能力』の限界……世界も空間も、星に関するものも創れないくせして、どうして力のある武器や果実は創れるのか……」
汗を流すため、水辺に向かっていた途中。アユムは自分の持っている金色の槍に目を向けながら、頭を悩ませていた。
「いや、その中ではどう考えても序列的に世界や空間や星の方が上だろ」
的確な指摘が入る。しかし、それでも思うところがあるのか、アユムは猶も頭を悩ませ続ける。
「それは理解している。問題は、俺の能力の定義が、全盛期に比べてどこまで落ちぶれたのか、よく分からぬことだ。世界や星を創ることは出来ない。しかし、神に匹敵する力を生み出すことは出来る。だがそれも何かを媒介にしなければならず、直接自分に付与することは不可能。逆に、力の無い……取るに足らない、食糧などを生み出すことは出来ない。ならば、この能力は『神に匹敵するものを創造する程度の能力』に弱体化したのかと思えば、重力を生み出すことは出来るときた」
聞いてみれば、確かにおかしな話である。生み出せるものは、神に匹敵する力を持った媒介と重力。生み出せないものは、世界、空間、星、力を持たないもの。特に、この中では重力を生み出せることが特に、この問題の解決を妨げている。
「重力ねぇ……そっちは、『災厄と恩恵を操る程度の能力』の方の力じゃないのか?」
「それは有り得ぬ。大地に恩恵を与えようとして、最初は弾かれるほど脆弱だったのだぞ? 災厄も精々、単体で暴風が限度。重力によって災厄を起こすなど、とてもではないが出来ぬ」
「難しいものだねぇ」
「まったくだ」
アユムの力の話は、ここで一度打ち切りとなる。それからは、他愛の無い雑談を交えながら歩き、そして気が付けば川辺へと到着していた。
「では、このキトンの方を頼むぞ、ハクロウ」
「はいはい。……それにしても、見れば見るだけ不思議な服だねぇ」
アユムはハクロウに身に着けていたキトンを渡すと、その川の中央へと向かって歩き、身を沈めていく。肩まで水に浸かると、アユムは水を掬って顔を洗う。それを終えると、今度は川の中へと潜り、水中の様子を窺う。
十秒、二十秒、三十秒……四十秒に達しそうなところで、アユムは自ら顔を出し、ぷはぁ、と息を継ぐ。
「やはり、この川にはもう少し汚れを残さなければならないか。綺麗すぎれば、そこには神魚……いや、下手をすれば龍に進化する可能性も考えられるが、失敗すれば生態系は崩壊する。それほどのリスクを背負って、進化を促すこともなかろう」
アユムはゆっくり、陸の方へと歩いていく。川から上がり、周囲を見回すと、ふと岩に引っ掛けられているキトンを発見する。近くにハクロウの姿は無い。汚れが落ちているところから、洗い終わったのだろう。
「……水浴びか? まぁ、よい」
特に気にした風もなく、アユムはそのキトンを拾い上げたとき。
「やっほー、遊びに来たって言ったら歓迎してくれる?」
アユムの後ろから声が聞こえてきた。声音からして、女の子のものだ。しかし、その声に込められた威厳は、決してそのようなか弱い存在が出せるものではない。
「あぁ、歓迎するとも。しかし、生憎出せるものは酒と摘みの桃程度しかなくてな。神を満足させるような宴は出来ぬ」
「あれ、そうなの? この土地って途方もない力を蓄えているみたいだから、てっきり食べきれないほど食べ物が余っているのかと思ったよ」
「残念ながら、畑作はしていないのでな」
「あ、そういうことね。供給するばかりで、消費はほとんどしなかったんだ」
お互いにお気軽な雰囲気で会話が展開されていく。お互いに、意識したわけでもなく溢れる緊張感。お互いに、それに囚われないほどに胆力が強い。
「あ、ところで名前は?」
「今はアユムと名乗っている」
「そうなんだ。あ、私は洩矢諏訪子。これでも一応、神様なんだよ」
そうなのか、そうなんだよ、とお互いにお気楽に受け答え。緊張感云々の前に、未だ全裸にも関わらず、その状態で無防備な背を向けて話を続けている。同じ神でさえ、同じ状況であればここまで堂々としてはいられないだろう。
「あ、そうだ。アユムは人星様って知ってる?」
「ん? 洩矢諏訪子、貴様は伝記を持っておらぬのか?」
「伝記? あれ、伝承じゃないの? それに、あんなに古い時代の神様の伝記なんて、そもそもあるわけないよ」
「いや、あるぞ。月の民が地球にばら撒いた伝記が。果たして、今の言語で読めるかは不明だが」
「えぇ~……」
微妙な声音。きっと、その顔にはさぞかし期待外れ、とでも言いたげな表情を浮かべていることだろう。
「まぁ、それはいいよ。うん。それでアユムは知ってる? 人星様って、キトンっていう……何だっけ。ぎりしあ? とかいう国の服を着ているらしいよ。ほら、ちょうどそんな風に白い服」
「あぁ、これは確かにキトンだ。昔、友人より授かったもので、今でも愛用している」
「うん。珍しいね、この国にそんなものがあるなんて。まぁ、それもいいよ。知ってる? 人星様って、実は輪廻しているらしいよ。それで最近、どこかの隠れ里では、とんでもない神様が祀られているみたいだよ。何でも、星を堕としたとか、惑星を召喚しちゃうとか、大地を異常なほど活性化させるとか、ね」
「……そんな話があるのか?」
「うん。でも、あくまで風のうわさで聞いただけなんだけどね~」
まるで世間話のように展開されていく、傍から聞けばとても穏やかな会話。しかし、当人たちの覇気は徐々に、徐々に、空気を軋ませる。
「で、ここからが本題。どうして、今まで荒れていた山が、こんなにも急激に整地されて、その上でこんなに力を蓄えているの?」
「くくっ、おかしなことを聞く。それは俺が地道に努力したからに決まっているだろう」
「いや、常人じゃこんなこと出来ないし。豊穣の神様だって、こんなに短い期間でこれは難しいと思うけどなぁ~」
お互いに、お互いの顔が見えない故に、相手が一体何を考えているのか、それを読み取ることはかなわない。代わりに、お互いの声音を威圧感によって、相手のことを察しなければならない。
「ならば、俺が特別なのだろうよ。全盛期には程遠い身とはいえども、努力を怠った覚えはない」
「うへぇ、なんで努力なんてするのかなぁ。上座でのんきに居眠りしていればいいのに」
「阿呆。流石の俺でも、下級妖怪ごときに遅れをとるような状態で、まさか上座に居座ろうとするなど、おこがましいにもほどがある。有り得ぬぞ」
「えっ、それ本当?」
「嘘を吐いてどうする。今の俺があるのは、努力と訓練の賜物。それでも、神には勝てぬ上に、頑張っても退治できるのは中級妖怪までだろう」
「……これだけ神様を威圧しておいて、言うに事欠いてそれ?」
「さて、何の話か。お互いに、別に威圧などしていないだろう?」
ミシリ、空気が間違いなく軋む。今にも崩壊しそうな、張り詰めた雰囲気。もはや一触即発の状態。しかし、それでも二者は動かない。
「へ、へぇ……それ、喧嘩売ってるの? 祟っちゃうよ?」
「それは困る。脆弱なる我が身に神の祟りなど、嗚呼、実に恐ろしい」
「その余計な動き、挑発してるの?」
「まさか。祟り神、土着神にそれほど恐ろしいことを、まさか矮小なるこの身でする筈もない」
「っ、舌戦とか、やっぱり嫌だよぉ……」
「はて、どこに戦う要素などあったのか」
アユムは顔を少し横に向け、諏訪子にその口元が見える位置取りで止めたかと思うと――流麗に、見事に、あくどく、嗤った
「本気で祟るよ? 神様挑発するとか、北の神様でも気取っているの?」
「いや、これは大胆不敵というやつだ。貴様が言いたいことはわかるが、別に神々を陥れようとは思わぬ」
「……本当に、ここで祟って殺してもいいかもね」
「貴様に俺は殺せない。何故なら、そんなことをすれば、貴様は近い将来、殺される」
「脅しのつもり?」
「事実だ。俺がどれだけ脆弱になろうとも、我が子は俺を裏切らない。世界が逆説的に輪廻するとして、果たして同じ体系の神が生まれる確率は、どれくらいだと思う?」
「で、その我が子が裏切った場合はどうするのさ」
「決まっている。もう一度、この俺が誰なのか、教えてやる。例え何億年の月日を経ようとも、俺は決して止まらない」
彼は一度たりとも怯まない。言葉に詰まりもしない。1つ1つの言葉に、絶対の自身が込められている。あまりに現実からかけ離れた言葉。しかし、彼が言えばたちまち、それが当たり前のように錯覚させられる。
「……あっちの方が、よっぽど祟り神だよ」
諏訪子は小さな声で呟いた。同時に、何を思ったのか滲み出る威圧感というものを、完全に内に隠す。軋んだ空間は、壊れずもとの形へと戻っていく。
「ふぅ。なんだか、馬鹿らしくなってきたよ」
「むしろ、どうして遠回しに言うのか疑問に感じる。やましいところが無ければ、堂々と聞けばいいものを」
「誰しも、やましいところは一つ二つあるものだよ」
「俺には無い」
「特異なだけだよ、それは」
「あぁ、それは俺の得意だ」
アユムの言葉に、諏訪子は完全に脱力する。
「はぁ……疲れたよ。今日はもう帰るね」
「なんだ、話しに来ただけか。また何時でも来い。基本、俺は暇人だからな」
「それ、誇れることじゃないよ。まぁ、またね~。今度はちょっと、大人数で押しかけるよ」
「そうか。なら、宴会の準備でもしておくとしよう。三日後くらいに、また来い」
「いや、明日そっちに行くから」
言いたいことだけ残して、諏訪子はその場を去った。アユムはやれやれ、と肩をすくめて、ニヒルな笑みを浮かべる。
「これは、死んだか」
――今回は短かったな。しかし、通さなければならない筋もある。逃げることは許されぬ。故に、ここで散るとしても、この体が動く限り――
「さぁ、宴の用意でもしよう」
アユムはキトンを纏い帰路につく。そして自室に籠り、たった独り、特別な宴会の準備を進めるのだった――
はい、ただ諏訪子を弄るだけの回でした(ぇ
さて、次はいよいよあの御方もセットで登場します。それはズバリあの人! とか言わなくても絶対にわかるので、今回は追及しません。
さて、それでは今回はこれにて!
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それでは、次の話は11月16日の21:00に投稿させていただきます。