東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗   作:星の屑鉄

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 UA数1400件突破、ありがとうございます!

 完全に寝落ちしておりまして、一時間遅れての投稿になります。本当に、申し訳ありませんでした……。

 それでは、本編をどうぞ!


三章 第六話 心の炉にくべるもの

 

 ――四者、ほぼゼロ距離からの睨み合い。

 

 一人は、左瞼と左目を失い、全身焼けただれ、更に青あざと腫れが絶えない、あまりに悲惨な姿をした男、アユム。彼は戦う力を残していないながらも、その眼光と纏う気力で相手を威圧する。

 

 一人は、美しい白銀の体毛を纏った狼、ハクロウ。ハクロウは体毛を逆立たせ、唸り声を上げて目の前に居る者たちを威嚇する。

 

 一人は、神槍を受け止めている金髪のショートボブ、青と白を基調とした「壺装束」と呼ばれる女性の外出時の格好をしている女の子、洩矢諏訪子。彼女は突然の乱入者に驚きながらも、その警戒を怠らない。アクションを起こせば、すぐにでも妨害、あるいは排除できるように構えている。

 

 一人は、御柱を真後ろに弾かれた、注連縄を背中に背負っている、サイドが左右に広がった、非常にボリュームのあるセミロング、また冠のような注連縄を頭に付けた女性、八坂神奈子。彼女は自身の危機的状況を認識して大量の冷や汗を流しながらも、好戦的な笑みを浮かべて虎視眈々と隙を伺っている。

 

 ――外野には二神。しかし、この状況に手出しをするほど蛮勇でなければ、阿呆でもない。この二神は、諏訪子と神奈子が危なくなった瞬間、自身も戦いに参戦しようと構えている。

 

 一触即発の張り詰めた空気。一歩間違えれば、すぐさま戦闘は再開するだろう。それも、先ほどとは違う、大規模な戦が。

 

「……ハクロウ」

 

 不意に、その空気の中、アユムが口を開いた。

 一体、どんな内容か。内容次第では、攻撃も止むを得ないと諏訪子が身構え、神奈子は諏訪子に合わせていつでも戦いに移れるようにまた構える。二神も、それに応じるように構える。

 ハクロウは威嚇する唸り声をより低く上げる。飛び出すタイミングを見失わないように、地面を軋ませるほど足に力を入れる。

 

「――我々の、負けだ。退くぞ」

 

 しかし、次の言葉はあまりに拍子抜けするほど、そして当の本人であるアユムからは、絶対に出ないであろう言葉だった。

 

「……は?」

 

 ハクロウは耳を疑った。今、この場で一番の激戦を強いられていたのは、アユムのはずだ。もっとも苦労を強いられたのは、傷を負ったのは、間違いなくアユムだ。それにも関わらず、アユムはそんな言葉を吐いた。

 

「貴様が帰ってきた今、もはやこの場に、用は無い。帰る場所など、また見つければ良い。今、貴様が此処に居る。それが、重要なのだ」

「……何を、何を言っている!? お前が頑張って、此処を死守しようとしたんだろう! このアタシの為に! なのにどうして、それほど簡単に捨てられる!?」

 

 後ろを向かず、前方を警戒したまま、ハクロウが吠える。人星はその声を聞いて、力なく笑みを浮かべる。

 

「なに、本当に簡単なこと。俺は、ハクロウの居ない間に、帰るべき場所を失うことを、是としなかっただけ、だ。貴様が帰ってきた、今、当事者は、集まった。選択は……自由なのだ」

 

 アユムは、力なく垂れていた両腕の支えとなっていた神槍を消し、もとの御札に戻して懐に収めた。

 

「……肩を、貸せ。情けないが、もはや指先1つ、動かせぬ」

 

 彼はもはや、虫の息だ。全身に重度の火傷を負い、出血は多量。痙攣は酷く、立っていることすら……いや、もはや生きていることが奇跡だと言わざるを得ない状況だ。

 

「だけど、目の前のやつらはどうする? 簡単に、逃がしてはもらえそうもないよ」

「くくっ、面白い、ことを聞く」

 

 しかし、そんな状況にも関わらず、アユムはいつも通り、大胆不敵の笑みを浮かべて、目の前の諏訪子と神奈子を睨み付ける。

 

「そうすれば、彼奴等が、そして星が死ぬ。俺にはまだ、太陽系全てを殺す切り札が、ある」

「……嘘だよね、それ」

 

 言い終わった瞬間、諏訪子が口を挟む。それに対して、アユムはただニヒルな笑みを浮かべて、こう口にする。

 

「人星に、不可能は無い」

「っ……!」

 

 それは相手を封殺するための殺し文句だ。人星という存在の伝説は、諏訪子と神奈子との会話より、絶大な影響力を持っていることが窺えた。ならば、本人であり、また本人と認識させているアユムは、その言葉を以て最後の抑止力として働かせることが出来る。一度、その力の片鱗の神槍を見せていることも大きい。また、アユムの態度が何より、嘘を吐いている者の、追い詰められた者のそれではない。

 

 こうした様々な要素が、時に戯言に、虚言に、脅し文句に、真実味を持たせる。一度してしまえば取り返しがつかない。その状況下に立たされた者は、誰であれリスクとリターンの計算に移る。もしもの物語を頭に浮かべ、損得の中で動かざるを得なくなる。

 

 そして、誰もがこう思う。

 

 ――アユムとハクロウの命が、太陽系全てと……そもそも星1つとも、釣り合うはずがない。

 

「ならどうして、さっきの戦いで使わなかったの?」

「貴様ら如きのために、太陽系を殺せというのか?」

 

 諏訪子の疑いの声を、しかしアユムは損得で判断した結果を告げることで潰す。もはやこの舌戦、アユムが主導権の全てを握っている。これを打ち破ることなど出来る筈もない。鍬と鎌などの農具だけで、城を攻め落とせと言っているようなものだ。

 

「……いつ、出ていくつもりかな?」

「この怪我だ。山を下るだけでも、最低五日は掛かる。更に、荷造りもある。7日、待て」

「神奈子、それでいいよね?」

「……立ち退いてくれるなら、それでいいわ」

 

 戦えなくて残念、といった雰囲気をおもむろに顔に出しているが、しかしそれを口に出すようなことはしなかった。諏訪子はその答えに満足して、「それじゃあ、早く出て行ってね」と背を向けて歩き始めた。神奈子、そして他の二神も後に続く。

 

「いいのかい? アユム、本当に出て行って、いいのかい?」

「……敗者はただ、去るのみ。何、次は俺たちが、勝てばいいだけだ」

 

 ――それよりも、肩を貸せ。

 アユムの言葉に、ハクロウは「仕方ないねぇ」と彼の右腕を自分の首に回して、脇から押し上げる。

 

「歩けそうか?」

「……少し、だけなら、な」

 

 そうかい、とハクロウは返して、アユムのペースに合わせて歩き出す。その後ろ姿は、言葉の通り敗者のものだ。

 

 諏訪子は振り返る。そして敗者の後ろ姿を数秒見つめる。あまりに綺麗に収まり過ぎている問題。それに違和感を覚えながらも、彼女はどうせ何も出来ないだろうとタカを括って、その問題を捨て置いた。

 

「くくっ……」

 

 アユムは喉を鳴らす。肩を貸していたハクロウはそれを間近で聞いて、何事かとそちらを見ると、彼の瞳に陽炎が揺らめいていた。

 

「弱者がいつまでも弱者である道理はない。逆だ。弱者は、常に強者に化ける可能性を秘めている。この屈辱、理不尽、忘れはせぬぞ……!」

 

 ぞくり、とハクロウの背中に怖気が走る。ケタケタと、禍々しい笑い声が小さく木霊する。復讐と雪辱のための心の炉に、目的という名の燃料が放り込まれた。それが生み出す炎があまりに激しくて、ハクロウは思わず震えてしまった。

 

「……いや、そうだね。忘れはしないよ、今日の屈辱は。親友に永遠に消えぬ傷を与えた罪、今度は神々に、贖ってもらおうじゃないか」

 

 しかし、それも一瞬。ハクロウはアユムの様態を見て、彼と同様に心の炉に薪をくべる。それは轟々と燃え上がり、ハクロウの気力に変換されていく。

 

 ――その日、ハクロウはアユムの手当てをした後、彼を寝かせて荷造りを済ませた。そして、翌日には彼を背負って、荷物を両手に持って旅立った。

 

 山を下りきる前、美しい紅葉が別れを惜しむように葉を散らせる。しかし、それにアユムは「敗者は去るだけだ」と返して、ハクロウに背負われて山から消えた。

 

 

 

 ――数年後、大和の国に、ある噂が湧き上がる。

 

 その者は刀と呼ばれる剣を操り、傍らに美しき人狼を連れて神を倒す。

 倒された神々は口々に言う。「人間の極致を見た」と。

 大和の国の各地をさまよい、気まぐれに神に勝負を申し込み打倒していく。そんな二人組の噂。

 

 その者たちは『神狩り』と呼ばれ、今もなお、各地を巡っているらしい。

 

 次は一体、どの神が倒されるのか。

 

 ある二神は、一方は楽しそうにその時を待ち、一方は肝を冷やしながらそれを待つ。

 

 

 

「あ、すまない。団子を二皿、追加で頼む」

「その二皿のうち、一皿は醤油だよ!」

 

 その日、もと洩矢の国のある茶屋にて、そんな明るい声が聞こえた。左目に眼帯をした凡夫と、それとは対照的な美しい白銀のウルフヘアの少女。二人は茶を啜り、団子を頬張りながら笑う。

 

「嗚呼、楽しみだ。果たして、これでどこまで通じるか」

「ははっ! 気にすることないさ。お前なら余裕さ。あの武器を使わなくたってね」

「くくっ、その期待に応えねばならぬか」

 

 凡夫は腰に差した平凡な刀を、少しだけ抜いて刀身を見る。しかし、そこに芸術性などはなく、また実用性も平凡。判を押したような凡刀。しかし、彼はその凡刀がお気に入りだ。

 

「凡夫に堕ちた俺を、果たして神如きが止められるか、本当に楽しみだ」

 

 毎度あり! と声が響き、茶屋を後にする。目指すは、ただ1つ。

 

「さて、行こうか」

 

 凡夫と美少女、あまりに不釣合いな二人は、ぶらりぶらりと、洩矢の土地を踏みしめるのだった――

 

 

 




 さて、三章もそろそろ大詰めのところに入ってきました。

 現在、四章の方は21000文字、といった感じで、完成率は5分の2といったところです。

 それでは、感想、評価、コメント、批判、ご指摘、お気に入り登録など、常時募集しておりますので、もしよろしければよろしくお願いいたします。

 次回の投稿は11月19日の21:00になります。今のうちに予約投稿しておきます。

 それでは。
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