東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗 作:星の屑鉄
いただいた二週間の間、第五章をほぼ完成までもっていきました。第四章は27000文字と非常に短いです。
それでは、本編をどうぞ!
四章 第一話 今は昔から始まる物語
――今は昔、竹取の翁といふものありけり――
――今昔、有竹取翁者――
そこから始まる物語。
そこには、竹取の翁と呼ばれる人がいた。野や山に分け入って竹を取っては、いろいろなものを作るために使っていた。
ある日、その竹林の中に、根元の光る竹が一本だけあった。竹取の翁は不思議に思い近寄ってみると、筒の中が光っている。目を凝らしてみれば、中には背丈が三寸ばかりの人が、本当に可愛らしい様子で二人、身を寄り添わせて眠っていた。
周囲を見回してみるが、親の姿は見当たらない。竹取の翁は、これを神から授かった子どもだと喜び、その子たちを籠の中に入れ、帰ろうとしたところで、足に何かが引っかかる。
おや、と足元を見てみると、そこには漆のような美しい光沢を放つ鞘に納まった刀がある。恐る恐る、その刀を抜いてみると、月の光に反射してたいそう美しい輝きを放った。これを翁は、神から贈られた神器だと思い、大切に鞘に納め、籠が揺れ動かないように慎重に、家へと帰った。
授かった子たちを妻であるお婆さんにみせると、たいそう喜んだそうだ。育児はお婆さんに任せて、翁は仕事に精を出した。
翌日、いつもと同じように竹を取ろうとすると、竹の節と節の間ごとに黄金の詰まっている竹を見つけることが続いたそうだ。そうして、翁……お爺さんと、お婆さんは、次第に豊かになっていった。
その子たちを育てて、早三ヶ月。二人はすくすくと大きく成長していき、ついには人並みの背丈のある、立派な人となった。一人が女の子、もう一人が男の子。
女の子には、髪を結い上げる成人の儀式をして裳を着せた。
男の子には、神から授けられた神器の刀と、お爺さんの作った竹の弓を成人の祝いとして持たせた。
女の子は部屋の几帳の中から外にも出さず、(箱入り娘のようにして)大切に育てていた。
男の子はお爺さんの手伝いと狩りを自ら行い、気まぐれに歌を詠い、その立派な姿をお爺さんとお婆さんにみせたという。
子どもたちは、男の子が兄として、女の子が妹として仲睦まじく、お爺さんとお婆さんと共に暮らしていく。
妹の容貌はこの世に比肩するものがなく、その姿を見せるたびに、お爺さんとお婆さんの心を癒していった。
兄の容貌は妹に負けないほど美麗で整っており、5尺7寸の偉丈夫だ。彼の刀剣の舞はこの世の風情を置き去りにして視線を惹きつけ、弓の腕は百発百中。その上、非常なる学を備えている。これほど文武両道の人物は他にいないだろう。お爺さんとお婆さん、そして妹さえも誇らしくなる、聖人君子だ。
二人はとても大きく成長したので、三室戸斎部の秋田という名士を呼んで名前を付けて貰うことになる。
妹の方は、「なよ竹のかぐや姫」と。
兄の方は、「きら竹のひとほしの彦」と。
この後の三日間は打ち上げをして、酒を飲み、詩歌、舞などの色々な遊びを行った。誰彼構わず呼び集めては、とても盛大な宴を催すのだった。
◆
「……ふぅ。ようやく、宴が終わったか」
宴会の片づけを済ませたひとほしの彦……人星は自室で呟いた。首を回して、刀の柄を撫でて、彼は窓から見える雲一つない美しい夜空を見上げる。
「さて、これからどうしたものか」
人星は覚えている。自分が最後に何をしたのか。誰に助けられたのか。どういう説教を受けたのか。故に、その通りに動こうとしたのだが、今やれることといえば、育て親であり恩人のお爺さんとお婆さんに少しでも恩返し、親孝行をすることくらいだ。しかし、そんなことは働ける体になってから常にやっている。時間を持て余したときは妹の面倒を見ているが、それでも時間を使い切ることは出来ない。
「兄様、入るわよ」
彼が返事をする前に、その人物は部屋に入ってきた。この世の全てを置き去りにする容貌がまず目に入り、続いて腰より長い程の美麗な黒髪が見える。
彼女こそ、「なや竹のかぐや姫」と名付けられた少女……輝夜だ。
「どうした? また、伝承でも聞きにきたのか?」
「それもいいけれど、今回は別。当日のことについて、もう少し詳しく話しておきたいの」
なるほど、と人星は納得する。しかし、彼はその直後に不敵な笑みを浮かべて、腰に差した刀の、刀身の根元をみせた。
「敵は切り伏せる。愛らしい妹を渡すくらいならば、下郎の首、跳ね飛ばしてくれる」
「まぁ、怖いこと。うちの兄様は本当に、妹に溺愛し過ぎではないかしら?」
「この世の中、別におかしいこともないそうだ」
あら、それは大変。これから寝る時には注意しましょう。などと宣うものだから、人星は苦笑を浮かべることしかできない。
「話を戻しましょう。当日、きっと私を迎えに来てくれる味方が一人、来るはずよ。名前は永琳。銀色の髪と、赤と青の奇抜な服装だから、すぐにわかると思うわ」
「そして、それ以外は切り捨てる。出来なければ、時間稼ぎといったところか。把握した」
カチャン、と音を立てて納刀される。
「ホント、今の会話だけ抜き取ってみれば、聖人君子なんて詐欺ね。どちらかと言えば、竹を割ったような性格じゃない」
「それが俺だ。それにしても、つくづく竹とは縁があるようだ」
「ふふ、確かにそうね」
いつの間にか、輝夜は人星の正面にまで来ていた。窓から見える夜空を見上げて、はぁ、と溜息を吐く。
「私は永遠でも、周りは常に変わっていく。変わってほしくないことは、いつも変化が絶えない。とんだ皮肉だと思わない?」
「さて、どうだか。変わりたくとも、その在り方をどうしても変えられない俺に一体、何の力になれるだろうか」
「つくづく、上手くいかないものね。呪われているわ~」
あながち、間違ってもいない輝夜の言葉に、人星はやはり苦笑するしかない。
「まったく、今宵の月は綺麗すぎる」
「新月は果たして、綺麗なのかしら?」
「あぁ、綺麗だとも。見えないからこそ、そこにだけ見えるものがある。それは、とても美しいものだ」
そう、と輝夜は小さく呟いて、背を向ける。
「夜も遅いのだから、もう寝るわ。おやすみ」
「あぁ、そうだな。おやすみ」
輝夜が部屋から去った後も、人星は夜空を見上げ続ける。その双眸を鋭く、刃のようにして、睨み付ける。
「色狂いだと思うならば、笑え。この哀れな俺を。もはや支えが無ければ崩れ去ってしまうほど脆い俺を嘲笑え。星に縋り、王という立場に縋り、神に縋り、子どもに縋り、友に縋り、矜持に縋り……。そう、俺は今まで、縋り続けて生きてきた。そして今度は、妹に縋ろうとしている」
だが、と彼は言葉を続ける。
「それを自覚して孤独になるのは、また違うものだ。だから、宣言する」
――俺は二度と、失わない――
一陣の風が、窓からそっと彼の頬を撫でる。
「一方的に縋り続けた結果、受け止める側は折れてしまった。あるいは、俺自身が自壊した。ならば、共に支え合えばよい。そうすれば、お互いに折れることは、けしてないだろう」
――だから。
「断ち切ろう。前に立ちはだかるすべての障害を。そして守り抜こう。俺たちの繋がりを。死守した先にこそ、未来はあるのだ」
鍔を親指で押し上げて、その刀身を少しだけ外にさらす。
刹那。光の無い常闇の夜だというのに。
それは怪しく、不気味に輝いたのだった。
皆さまもわかっていましたでしょうが、この章は竹取物語です! あるところとひとくくりにしようかと思いましたが、そうすると逆に長くなりすぎる弊害が出てきたので、今回は「竹取物語」で一区切りにしました。
おそらく、異変開始前の現代に入るまでは、その時間帯を今までの比では無い程(とはいっても今までの密度がスカスカだったので、ようやく平常に戻る程度ですが)圧縮してお送りすることになると思います。地味にこのあたりが一番絡ませようとしている登場人物が多いですからね。
さてさて、それでは今回のコメントはこれにて。
感想、評価、コメント、批判、ご指摘、お気に入り登録などなど、随時募集しておりますので、もしよろしければお願いいたします。
次話は12月7日の21:00になります。