東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗   作:星の屑鉄

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 感想を新しく一件、本当にありがとうございます! テンション上がって第五章をその勢いで更に5000文字ほど書き上げるほどに気分が高揚しました。

 さて、今回はあの人が登場します。はい、竹取物語といったらやはりあの人も欠かせませんよね!

 それでは、本編をどうぞ!



四章 第二話 散歩と出逢い

 ――宴会の翌日――

 

 きら竹のひとほしの彦こと人星は、気まぐれに仕事前に都を歩いていた。いつも通り、腰に凡刀を差し、背中には矢の入った矢筒を背負い、その左手には弓矢を持って歩く。

 

 まだ太陽も昇っていない時間ということもあってか、人通りはほとんどない。明かりが灯っている家も少ない。時折、大通りに店を構えようと準備を進める商人が居るが、それだけだ。

 

 ――いつも通りで、つまらない。

 

 いつもと変わらない風景に、人星はそう思う。家を悪戯に抜け出した当初は、真新しい風景に心が躍ったものだが、それを何度も繰り返せば当然、飽きがやってくる。

 

 だからこの日は、いつもとは違う、表通りではなく裏通り――家と家の間を抜けた裏道――を通ってみよう、と思いついた。

 

 思い立ったが吉日。そう言わんばかりに、彼は足の向きを変えて裏通りに入っていく。妙に入り組んだ、迷路のような場所に、この日ばかりは彼も心が躍った。

 

 右へ、左へ、そして直進する。入り組んだ道で、かなりの確率で行き止まりに行き当たるが、それがまた楽しいと人星は感じた。

 

 ある程度、裏道を歩き続けたところで、人星は表通りへと出た。周囲を見回して現在位置を確認すると、どうやら東側から南東側へと出たようだ。しかし、これでは普通に歩いた方が早い。今後、裏道を完全把握することにより、移動の際の近道に使おうともくろみながら、彼は振り返ってもう一度、今度は確認のために裏通りへと入ろうとして、足を踏み出したときだった。

 

「わっ!?」

 

 ぼふ、と人星の体に誰かがぶつかった。そして、そのまま弾かれる様に、ぶつかった人は尻もちをついた。

 

「――っと、人が居たか。すまない。怪我はないか?」

 

 まさか自分と同じ場所から人が出てくるとは思わなかった人星は、一瞬呆気にとられながらも、謝罪を口にして手を差し伸べる。

 

「えっ? わ、わっ!」

 

 しかし、その人は何か焦ったような声を上げて、あたふたとし始める。綺麗な長い黒髪と声音から、少なくとも少女であることがわかる。しかし、笠を着ているために顔が見えないことから、年齢を特定することは出来ない。人星の予想は、12~14といったところだ。

 

「……? もしかして、どこか痛むのか?」

「え、いえ、あの、ち、違います!」

 

 ぶんぶん! と残像が見えそうになるほど必死に首を横に振る姿は妙に愛らしい。その姿に思わず微笑むと、少女はまた「わ、わっ!」と驚きの声を上げる。

 

「え、えっと、その……!」

 

 何かを言いたい様子は伝わってくるが、少女は焦っているためか、上手く言葉が紡げないでいた。

 

「き、き……!」

 

 あわあわ、と口を忙しなく動かす。一体、どうしたのか。もしかして、何か自分に落ち度があったのではないかと、人星も少々不安になり始めたときだった。

 

「――! 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな――!」

(藤原義孝 【後拾遺集】)

 早口で詠い終わるとともに、少女から綺麗に折り畳まれた和紙を押し付けられる。あまりに突然のことに、呆気にとられた人星が次に我に返った時には、既に少女は裏通りの闇の中へと消えていた。

 

「…………」

 

 人星は無言で、何とも言えない気持ちになりながら、和紙を開いた。

 

『君がため

 惜しからざりし

 命さへ

 長くもがなと

 思ひけるかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                    藤原妹紅 』

 

 彼はまたしても、改めて何とも言えない気持ちになった。少女の恋文は、あまりに不器用すぎる。恋歌と名前、和紙にはそれしか記載されておらず、その行が盛大に余っていた。この空白をどう捉えるべきか、人星は頭を悩ませる。

 

「……お爺さんと、お婆さんに、相談しよう」

 

 あまりに唐突な出来事だったために、頭が固くなってしまっている。ここは一度、他者の意見を取り入れるべきだろうと、人星は帰路に立つのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ――少女、藤原妹紅は歓喜に心を震わしていた。

 

 彼女は早朝、まだ日も出ない間に、ふと思い立って家を抜け出し、散歩に出かけた。父、藤原不比等には悪いと思ったが、どうしても外出への衝動を抑えきれなかったのだ。

 

 妹紅はちょうどその日から、懐に恋文を忍ばせていた。理由は簡潔で、つい先日、宴に赴いた時に出逢った男、きら竹のひとほしの彦に一目惚れをしてしまったからだ。

 

 まず、その容姿が好みのど真ん中を突いた。続いて、彼が行ったこの世の全てを置き去りにする剣舞に目を奪われた。そしてトドメに、その奇抜な歌に惹かれた。

 

 彼の歌は、妹紅や貴族たちの主観からすれば、けして上手いとはいえない。何がダメかといえば、言葉を捻らないのだ。それらしく、大和言葉を最低限使っているだけで、意味を婉曲的に伝えようとする意思がまったく感じられない。まさに、竹を割ったような歌だ。しかし、それが妹紅の琴線に触れた。思わず胸がときめいた。

 

 宴会が終わり、帰宅した妹紅はすぐに恋文を書いた。そして、恋する乙女は夢を抱いた。いつか、運命のもとに再会した時、この文を送ろうと。

 

 文を書いた後、妹紅はそれを懐に忍ばせて、散歩に出た。父不比等に何も言わないあたり、彼女のお転婆な性格が窺えるのだが、それはこの際おいておこう。

 

 彼女は大通りを歩いていた。そしてふと、裏通りに目がいった。そういえば、昔はよくこの入り組んだ道に入って、父を困らせたものだと、ついつい懐古の情が湧いた。確か、この場所から入れば、南東の方に出られたはずだ。記憶を辿るように、妹紅は裏通りへと身を投じた。

 

 一歩一歩、その懐かしさをじっくりと味わうように、妹紅は裏通りを迷うことなく、軽快な足取りで進んでいく。これで入り口に、彼が居たら良いのに、なんて甘い幻想を抱きながら、迷うことなく足を運んでいき、そして勢いよく南東の通りに出ようとしたときだった。

 

「わっ!?」

 

 妹紅は何かに……感触からして、何者かにぶつかり、尻もちをついてしまう。どうして、裏通りの出口何かに人が、などと思いながら、一体誰なのか、その顔を見ようとしたとき――

 

「――っと、人が居たか。すまない。怪我はないか?」

 

 声を掛けられた。続けて、手を差し伸べられた。

 

 妹紅はその声音に聞き覚えがあった。え、まさか、と恐る恐る、その顔を確認すると……見間違う筈もない、妹紅の初恋の人、きら竹のひとほしの彦、その人だった。

 

 妹紅は焦った。まさか、これほど早くに再会するなどと、思ってもみなかった。予想外の事態に、彼女の思考回路はショート寸前にまで熱を帯びる。どうしよう、何を話そう、なんて言おう、という悩みがぐるぐると頭の中で堂々巡りを繰り返し、口から出るのは驚きの言葉だけ。

 

 そんな中、彼は妹紅を心から心配した様子で、優しく声を掛けてきた。それがどうしようもなく嬉しくて、彼女の心の臓が早鐘を打つ。どうしよう、どうしよう、と悩んだ挙句、彼女はついには、過程の全てをすっ飛ばして、歌を詠った。そして、文を押し付けるように手渡して、来た道を急いで引き返した。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 またも、心の臓が暴れ出す。しかし、それは苦しみではなく幸せの福音となって心地よく、妹紅の体に浸透していく。

 

「っ、そうだ。お父様に報告をしなければ――!」

 

 彼女は走り出す。一秒でも早く、今の状況を誰かに伝えたいから。まだ人通りのほとんどない大通りを駆け抜けて、我が家の門を潜って、そうして父の部屋に入り、まだ眠っている不比等を無理やり起こして、話を聞いてもらった。

 

 不比等は娘の成長を喜んだ。嬉々として初恋をした、恋文を渡した、などと宣う妹紅の話を、たたき起こされたことを全く気にすることなく、親身になって聞いた。時に、自分はこうだった、などと明るく話して、お互いに笑い合った。

 

 ――そして朝日がようやく昇る――

 

 不比等はふと、その時になってようやく、今までの話の内容に違和感を覚えた。あれ、この愛娘はそもそも、いつきら竹のひとほしの彦に、恋文を渡す時間があったのだろうか、と。

 

 二人が初めて一緒になったのは、昨日の宴会だ。即ち、奇跡的に再会したという愛娘の話が誠ならば、宴会の後から、不比等が目覚めるまでの間、まだ朝日が昇っていない早朝に、家を抜け出したことになる。一緒に家まで帰ってきたのだから、間違いはない。

 

 愛娘からの話を聞き終わった後、不比等はそのことについて問い質した。屋敷を抜け出したのか、と。

 

 妹紅は「あっ」と声を漏らす。不比等はやれやれ、といった様子で、愛娘の不用意な行動の危険性を教え諭した。

 

 しゅん、とひどく反省した様子になったところで、不比等は「次からは勝手に抜け出さないように」と話を締めくくり、そして続けざまに「初恋、応援しているよ。手伝えることがあれば、何でも手伝おう」と頼もしい様子で言い切った。

 

 それを聞くと、妹紅は途端に表情を明るくして、元気よく頷いた。やはり、子どもは笑顔が一番だと思いながら、不比等は愛娘のこれからについて、真剣に考え始めるのだった――

 

 

 

 




君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
藤原義孝 【後拾遺集】より抜粋。

はい、出典を明示したところで、今回の駄弁りに入りたいと思います。

では、どうして藤原妹紅の歌を自作しなかったか、ということに関してから。

まず、私は当然ながら歌人というわけではありません。最低限のルールを知っているだけですし、しかしそれを守るように作って更に恋歌というテーマのもと芸術的に詠うなど、出来る筈がありません。

藤原妹紅は貴族です。それはもうボンボンの貴族の娘です。つまり、この時代であれば歌が上手くて当然であり、私の様な凡人が勝手に作ってそれを藤原妹紅の歌にするなど、失礼千万に当たるわけです。そのため、今回は同じ藤原の名字の方の和歌を利用させていただきました。

幻想入りしたあとの藤原妹紅であれば、性格もだいぶ変わっているので問題はないのですが……この時はまだ純粋な貴族なので、私が自作した和歌を当てることは躊躇われた、というのがことの真相です。


おそらく、第六章においても同じく、こうした出典を明示して、和歌を引用すると思われます。何せ第六章はあの御方が登場しますから。私が自作した和歌を貼りつけるなんて、本当に思い上がりも甚だしいというか、歴史の偉人に対しての冒涜になります。一応、分は弁えているつもりです。人星の和歌については無理やりに美化しましたが、実際にあの歌が私自身、上手いとは思っていません。というか、前提からして(評価基準がわからないので)評価すらできません。

こうした弁明のもと、今回は締めさせていただきたく思います。

感想、ご指摘、コメント、批判、お気に入り登録、評価、などなど随時募集しておりますので、もしよろしければよろしくお願いいたします!

それでは、次回は12月8日の21:00に投稿します。

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