東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗   作:星の屑鉄

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 それでは、特に語ることも無いので本編をどうぞ!


四章 第四話 一度目偶然 二度奇跡 三度目必然

 

 突然だが、輝夜は月から地上に追放された、月の民だ。それを知っているのは、輝夜本人と、兄という立場にいる人星だけである。

 

 今の人星はけして、超越者ではない。天才という枠組みにも入らない。剣術を磨き続けることによって弱者から這い上がった、単なる凡夫に過ぎない。転生した今でも、隠し札の多さならいざ知らず、通常の手札の少なさは変わらない。むしろ、前回よりも少なくなっていると言える。

 

 聞くところによれば、『森を一瞬で素粒子レベルで浄化する扇子』、などというおぞましい兵器まであるらしい。更に、移動手段は宇宙空間を移動できる船ときたものだ。攻撃力、防御力、共に今の人星に対処する術は無い。

 

 故に、人星はそれを聞いてからというもの、準備をしてきた。来襲する月の民を迎撃するための準備ではない。来襲する月の民を蹂躙するための準備を。

 

 その準備とは一体何かと問われれば、それは多岐に渡る。例えば、人脈を広げるために帝の前で舞を披露し、その後の話し相手となり、友好を深めたこと。他の貴族たちと、輝夜との面談の話を断った後で世間話して、酒の相手を務め、帝と同じように、しかし更に親しくなったこと。そして、自分の力を別の媒介に蓄積する、など。

 

 個人に出来る範囲……人星はまず、いざとなった時に頼れる人間関係を広げていった。広げるたびに、輝夜との面談の話が上がって煩わしく思うが、それも後のことを考えれば些細なことだ。それより前には、自分の力を別の媒介に蓄積するというのは、つまり切り札の準備という意味だ。

 

 まだ時間はある。故に、準備を進め続ける。少しでも、成功率が上がるように。失敗率が下がるように。巻き添えを食らって出てくる死者が減るように。

 

 

 

 ――太陽が頂点に居座る時――

 

「ふっ!」

 

 一閃。竹藪の中で閃光が瞬いた。それはあまりに短い時の出来事であり、刹那の閃光とはまさしく今の現象のことだ。瞬きをしただけで、見ることはかなわない。ただそれを凝視することによって、初めて閃きが奔ったことがわかる。刀身など、一瞬のことに過ぎて、どれだけ注意深く見ようとも、目視出来る筈がない。

 

 舞台の中央には、美しい青年が居合の構えで目を閉じ、集中している。あまりに見事な静の構え。そして、見る者によってはわかる、絶対の間合い。刀剣の達人が彼を見たならば、たちまち感嘆の溜息を吐くだろう。

 

 ひらり。不意に、青年の目の前に葉が落ちてきた。それは彼の間合いに入った瞬間、六つに分裂した。絶対の間合いに反応した彼が、今度こそ、目にもとまらぬ速さを以て、葉を切り刻んだのだ。

 それにも関わらず、青年は未だに、居合の構え、静の姿勢を保っているように見える。今度はその動作さえ、目に映ることは無かった。

 

 都のどこを探しても、彼ほどの剣豪は見つからないだろう。あれはもはや、絶技すらも越えた、神技の領域。どれだけの素人が見ようとも、一目瞭然の卓越した技量。ひらり、ひらりと葉が彼の領域に入るたびに、四つ、六つ、八つ、と細かく分裂する。

 

 抜刀して、刀を振るい、そして鞘に納める。この一セットの動きが、まるで目につかない。見ることがかなわない。まるで妖怪、カマイタチの所業を見ているようだ。

 

 ――それから、何十という葉が切り裂かれた所で、彼はようやく、その瞼を開けて、構えを解いた。

 

「ふぅ。隠れていないで、出てきてはどうだ? 邪見になどする筈もなく、またその理由もない」

 

 びくっ、と竹の陰に隠れていた(実際には両肩がはみ出して全く隠れられていない)妹紅が震える。彼女は気まずそうな、しかし紅潮した顔でその陰から出てきた。

 

 妹紅はどうしよう、何を話そう、と二度目に逢った時と同じような思考をしながら、口をパクパクと動かす。それがどうにも可笑しくて、青年……人星は優しく笑みを浮かべて言う。

 

「一度目偶然、二度奇跡。三度目必然……という言葉を、知っているか?」

「えっ?」

 

 知らない言葉だ。思わず首を傾げてしまう妹紅に、人星は優しく説いた。

 

「一度目の出会いは、単なる偶然の産物によるものだ。しかし、それが二度目となれば、奇跡となり、三度目は必然とされる。これの意味は、即ち縁とは切っても切れないものだが、それだけ繋がるということが難しい、ということでもある。これだけ広い都の中、連日、立て続けに出逢いを果たす」

 

 皆まで言わないでも、その言葉の意図がわかり、妹紅の顔は更に赤みを増していく。

 

「しかし、この言葉には続きがある」

「――続き?」

 

 その時の妹紅は、恥ずかしさに顔を真っ赤に染めながらも、好奇心へと傾くだけの余裕があった。しかし、次の瞬間、それさえも崩されることになる。

 

「一度目偶然、二度奇跡。三度目必然、四運命。即ち、この出逢いは運命。縁は今、この場において結ばれたと考えるべきだろう」

 

 ボフッ! とコミカルな音を立てて妹紅の顔から湯気が出た。それを見た瞬間、あまりに物珍しい光景と初心な反応に、人星は「く、くくっ!」と喉を鳴らして笑いを堪える……が、すぐさま吹き出し、「はははっ!」と大きく笑い声を上げた。

 

「っ! わ、笑わなくても……! う、うぅ……!」

「はははっ! いや、すまない。どうにも、その反応が楽しくて、な。懐かしさと面白みが相まって、気分が高揚し過ぎたようだ」

 

 心温まるその光景。しかし、懐かしいと感じても、彼にはそれの正体が分からない。それは非常に悲しいことだ。やはり、あの時から記憶が欠けていたのだろう。それでも、後悔だけはしていない。自分のしたことに、間違いはないと確信している。自分を信じてやれる存在は、結局、最後は自分自身しか存在しなくなるのだから。

 

「それで、今日は何用だ? 何か、話したいことがあるのだろう?」

「っ! そ、そう。そうなの。実は、お父様ったら昨日の夜から、ずっと惚けているの! うわごとの様に、『あぁ、美しかった。美しかった。』って! それで、今朝もそれが続いて、私に構ってくれなくて……」

 

 どうやら、妹紅の父親も随分な色狂いらしい。これは、もしかすれば浮気をすれば刺されるかもしれないな、などと考え、想像して、人星は苦笑を浮かべる。

 

「知っているか? 恋という病は、実は二種類あるのだ」

「えっ、突然どうしたの?」

 

 まぁ聞け、と人星は妹紅の言葉を抑止して、自分の言葉を続ける。

 

「1つ目は、玉響(たまゆら)のものだ。つまり、さめる恋、というものだ。広くは、ここに属するものだ。ずっと構ってくれない、そんな心配は、そうそう無いだろう」

「……なら、いつお父様は恋からさめるの?」

「それは敗れた時だ。もしくは、飽きたとき、か。いつ、と断定できるものではない」

 

 そんなぁ、と妹紅の情けない声に、どうしようもなく保護意欲というものを誘われる。人星はふと、ならばこうしよう、と言葉を置いて、そして本題を口にする。

 

「ならば、父が構ってくれない間、俺が妹紅に接しよう。それで、問題はあるまい?」

「……ふぇ?」

 

 予想外の提案に、しばし妹紅の思考回路が停止する。そして再起動したかと思うと、目の前に映る光景は、優しい笑みを浮かべる人星の姿。着流しの袖に両の腕を隠し、竹藪を背景に刀を差した想い人の姿。

 

 ――果たして、次にどうすればいいのだろうか。どう反応すればいいのか。そうだ、まずは返事をしないと……。

 

「……う、うん」

 

 ぎこちなく、妹紅は首を縦に振った。それに対して、人星は笑みを深めて、妹紅の手を取り、どこかへと歩き始める。

 

「え、え、っと、何処に行くの?」

「都だ。ここで立ち話、というのも疲れるだろう? この前の茶屋で、ゆっくりと、話し合おうではないか」

「わわっ!?」

 

 妹紅は人星に手を取られて、そのまま引き連れられるように、竹藪を出て、都に入り、茶屋に居座って話を始めた。

 

 内容は世間話であったり、愚痴であったり、人星が聞かせる物語であったりと、様々だ。しかし、どうやら娯楽に餓えたこの時代、人星の聞かせる物語というものはどうにも好評で、話しの7割をそれに費やしてしまうのは、ある意味で仕方のない事だった。

 

 こうして、日は傾いていき、夕刻になったところで、二人は解散した。お茶代は人星が快く払い、妹紅はそれに遠慮しながらも折れて、感謝を述べて去っていく。

 

 人星も帰宅した折、またも屋敷に群がる男共に時間を取られる。昨日よりも人が増えたな、などと心の中で溜息を吐いて、彼は男共の対応に追われるのだった――

 

 




妹紅パートでした。
また、これ以上に語ることもないので、今回はこれにて。

次回にて竹取物語編は最終話です。

いつも通り、次話は12月10日の21:00に投稿します。

それでは、また明日にお会いしましょう。
(尚、現在少々スランプに陥っています。第五章は5万2千字突破。予定文字数は7万文字以上になりそうです。)
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