東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗 作:星の屑鉄
また、記念すべき30話目です! まだまだ物語は中盤に入るあたりですが、どうかこれからも、この二次創作にお付き合いいただければと思います。
今日より、第五章を毎日投稿していきたいと思います。
総合文字数は7万文字を突破する長編になっております。
それでは、本編をどうぞ!
五章 第一話 修行と役割
およそ二百と五十年の間、剣の極致を既に啓いていた人星は、今度は己の肉体だけを以て一騎当千の英雄の域に到達しようと、独り様々な山に籠った。これは、刀しか使えず、それを看破、対策されたときのための対抗策だ。
最初にやったことは実に簡単。基礎体力向上のための運動だ。登山1時間、下山30分、登山1時間、下山30分、これを一日8セット繰り返すだけ。進むにつれて空気の層が薄くなり、呼吸が難しくなる。3歩(1時間)進んで、2歩(30分)下がる。彼は最初、これを一年間、飽きず繰り返した。
しかし、一年経って自分の体を見て、彼は気づいた。果たして、人外相手に人間如きの筋力がどれほどの役に立つのだろうか、と。
試しに、彼は全力で幹の太さおおよそ1メートルほどの木を殴りつけた。しかし、殴られた木の幹は無傷だった。逆に、人星の手の皮が無惨にも抉れたほどだ。そこで人星は、筋力を底上げするよりも、技術力を上げた方が良いと優先順位を変えた。基礎体力向上の時間を半分にして、残りすべての時間を歩法、踏み込み、型(八極拳、太極拳などの伝来してきたもの)、立ち回りの考察などに費やした。
――修行から十年。
ようやく型が体に馴染む。歩法は刀の時の癖が治らず、悪戦苦闘する。踏み込みも、刀の時との若干の違いから、四苦八苦する。立ち回りの考察は、未だ解決案が出ていない。
――修行から三十年。
型が体に定着してきた。歩法はようやく改善が見られた。踏み込みも、少しだけ先が見えてきた。立ち回りの考察は、未だに案が出てこない。
――修行から五十年。
型が体に定着した。歩法はようやく、抜刀術に用いるものから、無手で戦うものに適した形に切り替わる。踏み込みは未だに完成しない。震脚とやらを行うための足腰は十分にある筈なのだが、どうしてか成功しない。立ち回りの考察は、この時から考えなくなっていた。
――修行から七十年。
型を意識せずとも、体が勝手に反応するようになった。歩法はようやく、体に定着した。踏み込みもようやく、震脚と云われるものを行えるようになった。最初と同じように、正拳突きを直径1メートルほどの太さの木に打ったところ、木がその芯から震えた。木の皮が吹き飛び、その綺麗な中身が露出した。相変わらず、人星の手の皮も抉れるが、威力は申し分ない。考察など、この時には頭の中から抜けていた。
――修行から百年。
日々、体を鍛え、型を繰り返し、歩法を反復練習し、踏み込みを何百回も失敗を繰り返していてふと、剣術の方を疎かにしていることに気が付き、試しに抜刀術を行うと、風を切る音が付き纏った。音速を越える抜刀術は、明らかに劣化していた。それに焦り、慌てて彼は日々の鍛錬に抜刀術のそれも追加する。
余談だが、この時には既に、一日あれば富士の山を軽々と頂上まで登れるほど、体力がついていた。
――修行から、百五十年。
人星は頭を抱えた。抜刀術が音を振り切れない。踏み込みが思うように出来ない。行えるようになっていた震脚が使えなくなり、歩法も時折、自分で何をしているのか訳の分からないことが増えてきた。この時、彼は明らかに、抜刀術と体術の技術が混ぜこぜになっていた。
――修行から二百年。
いつの間にか、人星は斬撃を放つことが出来なくなっていた。代わりに、気まぐれにやってみた刺突が音を振り切った。正拳突きが、直径五十センチほどの太さの木であれば、(手の長さが足りないため)貫通とまではいかないまでも、木の中に拳が埋まるようになっていた。踏み込みの方法も、いつの間にか刺突に特化したものになっていた。型もいつの間にか、八極拳も太極拳も行えず、ただの正拳突きしか打てなくなっていた。
彼は諦めたように、いつの間にか極まっていた、定着していた、体に刷り込まれた二つの技を、反復練習する。この時からようやく、立ち回りの考察のことを思い出した。
――修行から二百二十年。
刀の刺突は岩すらも貫いた。正拳突きは岩盤を突き崩すほどの威力を発揮する。左手、右手、どちらの手で打っても問題ない。皮膚も、この頃は繰り返し行いすぎたせいか、異常なまでに固くなり、抉れることが無くなった。立ち回りの考察は、どうしても捗らない。
――修行から二百三十年。
刀の刺突を、抜刀術で行えるようになった。刺突抜刀、とでもいうのだろうか。斬る抜刀術ではなく、貫き通す抜刀術。もはや自分の技術に対して、彼は考察を放棄した。答えが出たことといえば、器用貧乏になるか、何かに特化する以外に技術は身に付かない、という呪いの様な事実だけだ。姿が戻っても、やはり彼は凡夫だった。正拳突きは、相変わらずの威力だ。最近になって山から離れて海に立ち寄ったので、試しに水の中で打つと、最初の一、二回は失敗に終わったが、水の中に適用した三回目では、結果、海が真っ二つに割れた。その出来事があってからというもの、彼は自分が何者であるか見失い始めていた。
――修行から二百四十年。
ふと、彼は思いつく。自分の刺突、正拳突きにコラプサーの力を上乗せしたらどうなるのだろうか、と。好奇心に負け、彼はコラプサーの御札を右腕に貼りつけ、試しに水平線に向けて全力で正拳突きを打つと……目の前から、海が消失した。海がもとに戻ったのは、一ヶ月後という結果だ。もう二度と、全力で打つものかと人星は心に誓う。コラプサーの刀など、それを見た瞬間に試す気力さえ失った。
――修行から二百五十年ほど。それは現在――
彼が都に団子を食べに来た時に、ある噂を聞いた。何でも、最強の鬼、酒呑童子が人を攫い、人間に勝負を挑んでいるのだとか。詳しく話を聞くと、その鬼は山城・丹波国境の大江山の老ノ坂峠を本拠地として、多くの鬼を部下に抱えているらしい。
鬼という種族について聞いてみると、何でもその力は拳を振り下ろせば山を揺さぶり、体の頑丈さときたら鋼鉄の刃、矢、高温で熱した鉄の棒、金棒を用いても傷一つさえ付かないとか。俊敏さは人間の数段上を行き、気づけば見失っている、とのこと。
その鬼は、一対一の正々堂々の勝負を好むという。人を攫うのは、どうやら人間と勝負をするための口実を作るためらしい。人が鬼に勝てた試しは今まで無い。
多少の誇張は入っているのだろうが、大体はそんな感じだった。勝負といっても、出来レースもいい加減にしろと言いたくなるような実力差だ。
人星は話を聞いた後、溜息を吐いた。どうやら、鬼という種族は人間という種族のことをまるで理解していないらしい。窮鼠猫を噛む、という言葉がある通り、人間はそれを地で行う。正々堂々が無駄だと分かれば、確実に寝首を掻く、だまし討ち、物量による暴力、などといった手段に訴えかける。
即ち、鬼は少しやり過ぎた。これをただ武芸者に喧嘩を吹っ掛ける程度ならば笑い話で済むが、人を攫い、まるで返す気の無い条件を突きつければ、人間は必ずその誠実さを損ない、陰鬱なる牙を晒しだす。
「少し、灸を据えねばならぬか」
とはいっても、すぐに本拠地に向かうわけではない。その前に、帝の前に赴いて「裁定者が現れた」という事実を認識させる。既に姿を消して二百五十年ほどが経過しているのだ。影響力を維持出来ているとは思えない。故に、このあたりでまた、影響力を高めなければならない。
何より、そうした方が今後、断然に動きやすい。
帝の前に赴いて、おおよそ30分ほど話をした後、人星は鬼の総本山に向かう。その時、都の裏通りにあったキナ臭い店で面白い酒を見つけたので、これもいい薬かと思って大枚を叩いて購入する。手頃な大きさの瓢箪に入っているので、持ち運びには苦労しなかった。
――そして。
運命の歯車は、その軸を大きくずらして、回り始めるのだった。
第一話ということもあり、触りの部分だけとなります。第二話より、物語が加速していきます。
それでは、次話は12月21日の21:00に投稿します。
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それでは、また次回にお会いしましょう。