東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗 作:星の屑鉄
最近、お気に入り登録がなかなか増えないな、などと思いつつ、踏ん張りどころだと思って一話完結の短編を書き進めております。
それでは、本編をどうぞ!
「あぁ、そうだ。あんたに1つ聞きたいことがあったんだよ」
「何だ?」
百鬼夜行、とまではいかないものの、相当な数の鬼が勇儀と萃香を肩に担いだ人星のあとについてきている中。勇儀はふと思い出したように前置きをおいて、1つの疑問を投げかけた。
「その血肉、萃香が食った瞬間から様子がおかしかったけど……どういうことだい?」
あの戦いの中。萃香は鬼の象徴ともいえる角、二本あるうちの一本を圧し折られて、それに激怒して人星の体の一部……左腕を引き千切り、更にはその後に左目を抉って食ってみせた。しかし、萃香はそれを食えば食うほど、味わえば味わうほど、様子がおかしくなっていった。正気ではなくなっていった、と言えばいいのだろうか。
訊かれて、人星は「あぁ、そのことか」と一つ頷いた。
「その前に、1つ聞く。俺の種族……いや、立場や強さでもいい。どれほどのものだと考える?」
「えっ? そりゃあ……」
人星からの問いにすぐさま答えようとして、ふと勇儀は思う。そういえば、人星はどれほどの力まで行使出来るのだろうか、と。少なくとも、戦いの中で分かっていることは、『星の器』なるものを生み出すことが出来る程度……これはあくまで勇儀の推測だが、人星は星の力のほぼ全てを行使することが出来ると考えている。太陽系全てを滅ぼすなんて得体のしれない天体を扱うほどだ。それくらいは出来て然るべきだ。
しかし、気になるのはそれ以上のことが出来るのか、という疑問だ。例えば、星を創造することは出来るのか。宇宙を創造することは出来るのか。自然現象に干渉することが出来るのか。生命を自由自在に操ることは出来るのか。
考えるときりがない。立場や強さなどといっても、そんなものは千差万別だ。ただの腕力だけが強さではないと知っている勇儀は、答えを出すことが出来なかった。
「……問い方が悪かったな。ならば、俺の存在の格とは、どの程度のものだ?」
存在の格。即ち、自然の畜生か、人間か、低級の妖怪か、上級の妖怪か、鬼よりも上なのか、はたまた神よりも上なのか、この天と地よりも上なのか、それとも……星そのものよりも、上なのか。
その質問にならば、勇儀は辛うじて答えることが出来る。
「そりゃあ、星よりは格上でしょ」
「そうだ。そんな星よりも格上の存在を食えば、その食した本人はどうなると思う?」
「――ッ!」
勇儀は気づいた。気づかされた。妖怪は人間を食えば食うだけ力が増す。殺した数だけ強くなる。所詮人間でも、どれだけ強い妖怪であっても、微力ながら自分を強くすることが出来る。
ならば、それが人間どころか、妖怪や神ですら手の届かない、星と同格、あるいはそれ以上の人物を食った場合はどうなるか?
――答えは至極簡単。爆発的に力が増す。人星という肉体はいわば、食った瞬間に今までの自分の限界を全て吹き飛ばし、それこそ太陽の格融合の如きエネルギーを食した者に与える、永続的なドーピングアイテムだ。
また、それほどの存在の肉が、肉体が、不味いわけがない。血はきっと濃厚で甘く、酒が主食とまで言えるほどに大好きな鬼でさえ、酒を放って求めるほどに、人星の血は美味しいだろう。その肉もまた然り。他の部位も、きっと他の全てを殴り捨てでも食べたくなるほど、美味しさの極みを有しているだろう。
想像していると勇儀の口から涎が少しだけ溢れてきた。彼女はそれに気づくやすぐに口の中に戻し、「ごほん」と取り繕うように咳をする。
「なるほどねぇ。極めて強い中毒性と、強化作用があるわけね」
「そういうことだ。今回、鬼がその欲望に抗えるか、実験も兼ねていたのだが……無理なようだな」
大切な仲間を実験台にされたのは癪に障るが、だからといって悪い事ばかりでもないだけに、勇儀は人星を怒るに怒れないでいる。
ただし、萃香の角が折られたことに関しては別だ。
「でも、何も角を折る必要は無いんじゃないかい?」
「そう怒るな。直す術は用意している。とはいっても、完全に直すわけでもなく、戒めの意味合いが大きいが」
「……戒めだって?」
一体、何を戒める必要があるというのか。言われて、聞き返した後、勇儀は少し考えて、すぐにあることに思い至る。
「……もしかして、中毒性? 人間を無暗に食わないようにってことかい?」
「それもあるが……論点がずれている。一番大事なのは、俺の手元に巷を騒がせている鬼の大将の折れた角があることだ」
「あんたの手元に? 酒呑童子を討伐した、っていう偽装工作でもするつもりかい?」
「付け加えるならば、執拗に追われて鬼を皆殺しにされないための雲隠れ、とでも思え」
みしっ、と空気が軋みを上げる。急な圧力を感じ取ったのか、ついてきていた鬼共は皆一様にお喋りをやめて口を閉ざす。そして、何事かと圧力の発生源……四天王が一人、星熊勇儀の方を見る。
「人間から逃げろって言うのかい?」
「何度も言うが、人間を舐めるな。奴らは追い詰められれば、神と共闘してでも貴様らを潰しにくる。酒に毒を混ぜられ、動けないところ首を刎ねられる可能性もあり得る。もしも山伏せに化けられ、酒に毒を混ぜられた場合はどうする? 鬼といえども、もしも人間が神々から何らかの毒を与えられれば、効かない筈がない。こうなれば、もはや首を刎ねられ、その場の全員が死ぬぞ」
「私たちは今まで、汚い手を一度として使ったことは無い!」
「だから人間も、使わないと? 戯け。人間は嘘を吐く生き物だ。また、本質的に手段を択ばない生物でもある。いくら鬼共が潔白で在り続けようとも、人間がそれに従う義理は無い。信じ続けるのは結構だが、それで足元を掬われれば、ただの道化だ。それでも、そんな妄想に縋り続けたいというのであれば、俺はもう知らん。無惨に、哀れに、無様に、理想を抱いて溺死しろ」
ふん、と人星は鼻息を荒くして、さっさと歩き始める。最後の数々の暴言、とても聞き逃せるものではない。おい! と声を掛けて肩を掴み、勇儀は人星を静止させるが……。
「………」
振り向いて向けられた視線は、とても冷めたものだった。それこそ、先ほどまで頭に血が上っていた勇儀が、一瞬にして冷静になるほどに。その瞳はまるで、そこらにある石ころでも見ているように、無関心で、虚無に覆われていた。
「正直者と馬鹿正直は別物だと、努々、忘れるな」
誰に言うわけでもなく呟いて、人星は今度こそ、勇儀の手から足捌きだけで逃れ、そのまま進んでいく。
「……何なのさ」
勇儀のその言葉は、鬼共全員の心の内を代弁したものだった。呆然としている勇儀たちから見た彼の背中は、どこか遠い場所にあるような気がした。
◆
「……ふむ、今も結界は機能しているか」
気づいた時には、既に人星に先導されていた勇儀たちは、見知らぬ土地まで足を運ばされていた。途中で伊吹山から進路が外れていることに気づいて、人星に声を掛けてみたはいいが、まるで聞こえていないかのように無視されたものだから、勇儀たちはやむを得ずついていくしかなかった。
「なぁ、いい加減、答えなよ。此処は一体、何処なんだい?」
「ん? 我が故郷に決まっているだろう。この件が終われば、貴様等に美酒を振る舞うと、約束したはずだ」
何ともなしに言う人星に、勇儀は驚いた。まさか、このタイミングでその約束が果たされるとは思っていなかったのだ。勇儀は確かに伊吹山に行こう、と言った筈なのに、この男はことごとく、こちらの話を無視してくれる。
いい加減、一発ぐらい殴ろうか、と勇儀は本気で考え始める。
「――If『Deus ex machina』――」
そんなことを考えている勇儀をよそに、人星は懐からまた龍神との戦いにて用意して使っていなかった御札の力を行使する。効果としては、龍神の使った森羅万象『デウス・エクス・マーキナー』とほとんど一緒と考えていい。彼はその力によって、故郷……幻想郷に至るための結界に一時的に穴をつくり、久方ぶりのその場所へと帰還する。当然、後続の勇儀たちもそれについてきた。
「ようこそ、我が故郷。幻想郷へ」
まだ時期は早いのに、その土地には桜が満開になって咲いていた。
まるで、新参者の鬼たちを歓迎するかのような土地の振る舞い。
恭しく頭を垂れる、あまりに不格好な創設者の姿は、どうしようもなく見られたものではない。
しかし、それでも来訪者たちはその光景に感嘆の溜息を吐かざるを得なかった。
創設者の背後には桜吹雪。
来訪者の目の前には桃源郷。
きっかけなんてものは、時折、くだらないほど単純なのだ。
そう。来訪者たちはただ、その光景に一目惚れした。
故郷の全員が培ってきた土地は、今までのこと全てを忘れるほどに美しい。
さぁ、詠おう。
「桜舞う 並木の道を 過ぎ去れば 新たな光 先を拓かん」
さぁ、お前たちの故郷は此処にある。
だから先に行け。
そこにはきっと、新たな世界が待っている。
終わりを迎えるのではない。
此処で始まりを迎えるのだ。
もう一度言わせてもらう。
我が故郷ともども、そなた等を歓迎しよう。
後ろに道がある筈もない。
だから進むのだ。
ただ、光差す前へ、真っ直ぐに。
――ようこそ、我々淘汰された者たちの故郷、幻想郷へ――
タイトルは日本人ならば誰でも知っているであろう、某小説の一節をもじりました。
また、台詞の方は某弓兵さんの言葉を借りました。
ようやく、人星の能力についてのヒントを出すことが出来ました。あとは少しずつ、その正体を明らかにしていくだけ、ですね。
ちなみに現在、まだ第六章に手をつけていません。存外に一話完結の短編の方が長くなって、少々手をこまねいているところです。
また、六章は少々、どうやって開始するかを悩んでいる最中です。今までの既存の始め方をするのは嫌ですし、かといってそれ以外となるとつじつま合わせが大変で……。
さて、そんな愚痴を言ったところで、本日はこれにて。
もう少し風景描写を美しく描きたいですね。なので、第六章では主に風景描写に力を入れていこうと思います。もちろん、他の部分で手は抜きません。工夫をこらせないだけです。
それでは、感想、ご指摘、批判、コメント、お気に入り登録等々、常時募集しておりますので、もしよろしければ、よろしくお願いいたします。
次話は12月24日です。ちなみに、私はボッチマス・イヴです。もしよろしければ、そんな日にもこの二次創作を御目通し願えればと思います。
それでは、失礼いたします。