東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗 作:星の屑鉄
そしてクリスマス・イヴですね! 私は両親や兄弟と共に過ごしております。ボッチではありません(`・ω・´)
さてさて、クリスマス特別編なんてそんな気の利いたものはありません。まだそれを出せるだけのピースも足りていませんし。
さて、今回は過去に登場したあの方との再会です!
それでは、本編をどうぞ!
それは、後に妖怪の山と呼ばれる山の中。もとは八ヶ岳(やつがたけ)と呼ばれていた場所。
その入り組んだ山の中、そこには小さな集落がぽつり、ぽつりと存在する。
その中でも、特に白狼天狗と呼ばれる者たちが住まわっている集落。その周囲を、ざっ、ざっ、と大地をしっかりと踏みしめて凛々しく警邏に励む、齢十歳ばかりの、幼い少女の姿がある。
彼女はいつも通りの巡回ルートを歩く。幼い彼女が働いているのは単純な理由、人手不足だからだ。未だたった三百年ほどの歴史しか築いていない白狼天狗は、種族的にも個体数が少なく、また武力的にも数名を除いてか弱い。今は白狼天狗の始祖の導きのもと、何とか鴉天狗と手を取り合えているが、その協力体制はあまりに危うい。ちょっとしたことで、すぐさま崩壊してしまいそうなほどに。
幼いながらも、そのことを大人たちから聞かされ、理解した彼女は、この警邏を必要なことだと精を出して取り組んでいる。故に、手を抜く、または怠るなどの中途半端なことは一切しない。警邏を怠る者など居ないだろうが、もしも見つけた場合は大人であろうと怒ることを辞さない覚悟も持っている。
「お、やっときたねぇ。調子はどう?」
ふと、何処からか声を掛けられる。声を主が誰なのかは、その声の質からすぐにわかるのだが、如何せん、それが木々に反響してしまうせいで位置が特定出来ない。前から声を掛けてきたようにも聞こえれば、上や背後から声を掛けられたようにも思える。
「……あ、正面にいらしたのですね」
「おっ、ばれたか。いやぁ、やっぱり椛の能力相手に隠れるのは分が悪いねぇ」
看破されても、機嫌を悪くして声の質を変えることなく、いつものお気楽な調子の美麗な声が響く。すぐ後に、少女……椛の目の前にある木々の陰から、本物の銀よりも美しい絹糸のような銀色のストレートロング、そして流麗ながらもどこか子供らしさと大人の魅力を同時に含んだ端正な顔。紺碧の双眸はまるで大空を内包しているかのように美しく、しかしその内には揺れ動かぬ固い決意を持っている。外見年齢は、齢20あまりか。
この目の前の美しい女性こそが、白狼天狗の始祖。その名も――
「ハクロウ樣、御戯れも程々に。まして、私は警邏の最中の身。この間に敵が忍び寄ってきては、目も当てられません」
「ケラケラケラ。何を言っている? 椛、お前が一番良く分かっているだろう。アユムの血を最も濃く受け継いだお前こそが。忍び寄る阿呆なんて、居るものか」
――ハクロウ。
彼女の言う通り、敵なんて存在は一切近づいていない。それどころか、今はどこか別の集落の使者や観光人さえ来ていない。椛の能力を以てすれば、それを瞬時に把握することが出来る。
故に、本来であれば椛が巡回などする必要はないのだが、せっかくの警邏なのだ。ついでに体づくりくらいしても、怒られはしないだろう。そんな打算的な目的が、警邏中の椛にはある。
「それはともかく、今日はどうして此処に?」
「曾孫の顔を見に来るのに理由なんているのか?」
「………」
訊き返されて、椛は胡散臭げにハクロウを見る。するとすぐに、ハクロウは「冗談、冗談だ」と言って、言葉を続ける。
「まぁ、歩きながら話そうか」
「そうしましょう」
直接的な戦闘能力がほとんどない椛にとって、それは願っても無い提案だ。侵入者が来た場合、椛は決まってすぐさま誰かに報告しなければならなかったので、その手間が省けるのは大変嬉しい事だった。
「それじゃあ、本題に入るけど……椛はアユムのこと、どれくらい知っているのか、簡単に教えてほしい」
「……私たちのご先祖様で、ハクロウ様の番、ということだけなら……」
「あ、番ってのはちょっと間違い。正確には親友だよ。アタシが襲って成功しただけだし」
「えっ……」
「あ、でもだから逃げられたとか、そんなのじゃないから。それと、アユムっていう名前はアタシがつけた名前。正式な名前は人星っていうから。覚えておくように」
すらすらとハクロウの口から語られる新しい情報に、椛は目を白黒させる。
「それと実力の方だけど、上位の神様相手にもやり方次第では勝てる。見た目は平々凡々、ごくごく普通の、そこらへんに居る様な男。刀っていう武器を使うから、椛と勝手は似ているよ。頼み込めば、きっと教えてくれると思うよ」
「……あの、その方は今も生きておられるのですか?」
椛は恐る恐る、といった様子で尋ねる。既にハクロウと別れて三百年ばかりが経過している。それだけ長い間であれば、人間ならばとっくに寿命で死んでいる。アユムが何かの種族、といった話を聞いたことは無い。果たして、寿命的に、そして世の中を上手くわたって、しっかりと生きているのだろうか。椛は問わずにはいられなかった。
「死ぬわけない。あのアユムが死ぬなんて、そんなことはこの土地が消滅するよりも確率が低いから、アタシとしては心配もしていないよ」
あっけらかんと言うハクロウを見て、椛は思う。
「……信頼していらっしゃるのですね」
「信頼? それは断じて違う。黙って出て行ったあの馬鹿なんて、二度と信頼するものか」
あ、そのことは根に持っていたんですね、と椛は心の内で呟く。ハクロウはいつも、威厳があるのか無いのかわからない。そういった能力はもっているのは確実だが、いつの間にか、誰も気づかないうちに纏っているそれが霧散しているのだ。
「アタシはただ、事実を述べているだけ。理屈なんて必要ない。根拠も必要ない。強いて言えば、勘こそが最大の根拠だね。そして、アタシの勘が告げているんだよ。もうすぐ、あの馬鹿が帰ってくるって」
ハクロウは椛を見て、ほれ、と顎を正面に少しだけ突き出す。その動作だけでわかったのか、椛は一度頷いて、能力を行使する。
「…………えっ?」
一瞬、椛は自分の目を疑った。ぱち、ぱち、と瞬きを幾度か行い、まさか見間違いだろう、ともう一度能力を行使する。
「……えっ、え、あれ?」
「ん、どうした?」
椛の様子が尋常ではないことを察して、ハクロウは訊ねる。
「あっ、た、たた、たたた、大変です! お、おお、お、お、に……鬼が! 百鬼夜行が!」
「……はぁ?」
鬼。それは日ノ本の国の中でも最強格の妖怪の1つであり、この幻想郷の中でも勝てる存在は、精々スキマ妖怪の八雲紫、そして突然変異した規格外な妖精、圧倒的存在の龍神程度だろうといわれている、妖怪の代表格。
しかし、鬼は未だ表の世に蔓延っており、今も人間に多大な影響を与えている存在のはずだ。八雲紫がつい数年前に言っていた情報なので、間違いはない。
それに、『神聖結界』の存在もある。この幻想郷と表の世界は、アユム……人星の残した結界によって隔絶されている。境界を操る八雲紫でさえ、突破にはかなりの労力を強いられる強固な結界。それを鬼が突破したとは考えづらい。鬼はそうした小手先ではなく、単純な身体能力を以て戦う存在だ。よって、鬼が何らかの術で神聖結界を解いたとは思えない。物理攻撃を行ったとしても、龍神でさえ破壊出来なかったのだ。鬼如きの一撃が効くとは、到底思えない。人間が解いた可能性は論外だ。八雲紫が連れてきたとも考えづらい。今はまだ、この幻想郷は閉鎖的なのだ。
ならば、可能性はたった1つ。
「人の姿は見える?」
「……あの、その人間ですけど……」
言いづらそうに、あるいはどう言えばいいのか分からないのか、椛は言葉に詰まっていた。それからしばらく考えて、椛はありのままを伝えようと決める。
「……まず、切り落とされたのか、左腕がありません」
「あ~、また怪我したのか。それで?」
特に驚いた様子もなく言うハクロウに、しかし椛は同じ調子で話し続ける。
「左目が抉られたのか、それとも潰されたのか、空洞になっています。体は傷だらけで、所々が止血のためか、凍結しています。それと……なぜか、私と目を合わせているのですが……」
「あぁ、決まりだ。アユムだね。椛、さっさと迎えに行くよ」
「それと右腕が……どうしてか、真っ黒です」
「どうせ表面を炭にでもされたんだと思うけど。それよりも、さっさと迎えに行くよ」
椛の手を引いて、ハクロウはさっさと視線の先へと歩き始める。あっ、と椛は小さく声を上げるが、それに構うことなくハクロウは椛を引っ張って歩き続ける。
そうして、ついに二人が再会を果たした場所は、山の東側の麓だった。
「久しぶりだな、ハクロウ」
声を掛けてくるのは、傷だらけの美男子。その顔に笑みを浮かべて、手を挙げて、およそ300年ぶりだというのに、随分と軽い挨拶をしてくる。
「……いや、誰だよ、お前」
「――はっ?」
しかし、再会には擦れ違いが起きるというのは、もはやお決まりの出来事だ。
山の麓、百鬼に届かないものの鬼が集い、それを先導する傷だらけの美男子が、誰か知らない鬼の少女を肩に担ぎ、それに対立するようにハクロウと椛が前に立つ。
世の中とは本当に、ままならないものである。
ようやく、ハクロウとの再会。なんだか白狼天狗の始祖なんてことになっていますが、これは当初から決めておりました。人星の子孫という立場は果たして、今後どう影響していくのか……それは現代に入って、異変が発生してからですね。
最近はお気に入り登録が本当にさ迷っているなぁ、などと思いつつ、今回はこれにて。
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次話は12月25日の21:00になります。
それでは、失礼いたします。