東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗 作:星の屑鉄
今回もまた物語のキーとなるものです。
それでは本編をどうぞ!
――すべてはあの時から始まった。
世界が始まったあの日。名も無き、意思無き、力無き、ただの『それ』が生まれ落ちたあの日のこと。
それは本来、意思を持つ運命を持ってはいなかった。生まれたのはいいものの、それ以上の何かをするわけでもなく、ただ忘却の彼方に消えていくだけの存在だった。
しかし、それは本来進むべき道を辿らなかった原点のイタズラによって、運命を急変させた。力を持ち、意思を持ち、五感を持つようになり……偶然に偶然が重なり続けた結果、可能性という名の化け物によって今の形を手に入れた。
世界は今も平常運転している。しかし、本来の世界と今の世界は、あまりに終焉という名の節目が違う。人類にはあまりに無縁で、自覚の出来ない、どうしようもない結末ともいえない筋道は、本来は線である筈の運命を円環へと変質させた。
全てはあの時。どうしようもない、始まりの日。
全ての世界を観測できる者がいるとしたら、その者はこの世界をこう名付けるだろう。
――”特異点”――
盛者必衰の理という言葉があるが、原点はまさに、その理に縛られている。時が経つにつれて、生み出すにつれて、世界が完成に向かうにつれて、原点はその世界で力を弱めていく。
しかし、もしも仮に、原点が原点でなくなる方法があるとすればどうだろうか。
本来、原点とは意思を持たず、ただ無作為に生み出すだけの存在であり、長い時を経て意思を持った時には、既にどうしようもなくか弱いものとなっている。故に、原点は何者にも気づかれず、老い、消え去ってしまう。誰にも、原点に対しての答えを持ち得ない。
だからこそ、原点が原点でなくなった時、世界はあるべき姿を変質させる。たった一人の例外を除いて、誰にも覚られることもなく、陰の支配者としてすべての上に君臨する。気づけないからこそ、対処など出来る筈もない。原点は命を持たずとも、世界に蠢く確かな特異として、今も存在し続けている。
しかし、原点にも計算外のことが発生した。寄生木(やどりぎ)が、偶然にも関わらず、原点の力を大幅に抑えたのだ。その時にはまだ意思が生まれておらず、対処など出来る筈もなかった。後の祭りとなった今、唯一の対処方法である寄生木の乗っ取りも、それの魂が更なる”特異点”に隔離されてしまったのだ。加えて、その特異点に入れば最後、力を抑制される。
流石の原点も、その力が及ぶ範囲は、自分がもとから存在した世界だけであり、他の関係の無い場所(せかい)ではその力を十全に発揮出来ない。抑制という付属効果がなければ、無理やり魂をこちらの世界に引っ張ってきたものを、よくもこれほどの偶然が重なったものだ。
それだけには飽き足らず、寄生木にしているのを良いことに、その身を死の淵に追いやっている。生物は死ねば、その内の力を完全に分解し、その全てを世界に還元する。辛うじて、輪廻の理が生み出されたことによって、たった一厘と少しの力の損失……世界への還元に収まったが、もともと有り得ぬほど膨大な力を持っている原点にとって、たかが一厘といえどもそれは非常に大きい。加えて、それが二度も起こったのだから、堪ったものではない。
また、それが意識してやったわけではないが、原点の力を使うことで器を生み出し、それを様々な場所に分散させたというのも笑えない話である。
それでも、原点は己の理想……影の宗主で在り続ける為に、その力を密かに使い、終着点を生み出した。ふりだしに戻る、という終着点を。
しかし、此処にもまた誤算が生じる。それが支配する領域以外の終着点を生み出せただけで、それによって隔絶されたあの場所だけは、どうしても本来の力を行使することが出来なかったのだ。これでは、世界そのものに異常が現れ、その齟齬によって乖離が始まり、やがて崩壊してしまう。
原点のあまりに簡単な理想郷計画は、しかし度重なる偶然という名の可能性によって、多大なる妨害を受けた。
このままでは、せっかく”特異点”と相成ったにも関わらず、またも交差してしまう。原点はそれが許せない。断固たる支配欲が、それを看過しない。自分以外の存在の宗主を認めない。君臨し続けるために、原点は何とか現状を打開しようと、食まれながらも力を蓄えプラスの持っていくため、己を高めていく。隔絶されたあの場所の支配、それを出来るだけの力が蓄えた時、それで原点は勝利を永遠のものとすることが出来る。
これから、それがどう動いていくか。
世界の命運は、ただそれの手に委ねられた。このまま動かなければ、原点は覆らぬ勝利の美酒を味わえることだろう。
――くくっ。
ひとつ、喉が鳴った。それは何者かを嘲笑うように、馬鹿にしたように、不快な音を響かせる。
――命運はもはや、俺の管理するところじゃないんだよ。未来は全て、その未来に託されたんだ。これから出逢う者たち、そして俺の子どもたち。
その声からは、あの日の年相応の青臭さと、大人ぶった甘さが感じられる。
――さぁ、世界を理のもとへ回帰させよう。未来を打ち砕けよ、者共!
それを合図に、砂時計がひっくり返された。砂はゆっくり、ゆっくり、ぽつ、ぽつ、と勢いなく落ちていく。しかし、それは確実に等間隔に落ちる。故に、いつか尽きるであろうことが予想される。
砂時計の前で、原点とそれは嗤う。
――勝つのは自分だ。
そう、原点は言う。
――負けるのはお前だ。
そう、それは言った。
時間は進む。進む。進み続ける。
砂時計の砂は、一粒、一粒、また一粒と落ち続ける。
賽は投げられた。
もうすぐ、君たちの舞台が完成するだろう。
だから待っていてほしい。
主役は君たちだ。
俺はあくまで、道標に過ぎない。
それに従って進むか、あるいは自分で道を切り拓くか。
未来が楽しみだよ。
明るいね。
きっと、じゃない。
絶対に、舞台は整うよ。
だって、それが現実なんだから。
――そうだろう? 君たちが主役になるまでは、俺がこの物語の主役を演じ切り、君たちを始点に立たせるのだから。それが現実にならない筈がない。
――さて、時間が惜しい。そろそろ、舞台を整える主役の役割を果たすとしよう。
――出陣だ。
次話は12月28日の21:00になります。
それでは。