東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗   作:星の屑鉄

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 あと、今回は少し臭い台詞が出てきますので、注意喚起をば。

 そして、今回はかなり短めです。それでは、本文をどうぞ!


一章 第五話 終焉へのカウントダウン

「ようやく一段落ね」

 

 八意××はふぅ、と溜息を吐いて肩の力を抜く。書類仕事、薬の研究、条文の作成、各有力な玉兎達との友好関係の向上。今までやることは様々にあったが、それらがようやく一段落ついたのだ。

 

「……星の力の宿る器、ね」

 

 部屋に飾っている弓を見ながら、八意××は人星の思惑を考察していた。建前上、月を護るための防衛戦力、などと言っているが、それは違うだろうと聡明な彼女は気づいていた。

 

 そもそも、防衛戦力を整えるだけであれば、月の民の技術力を以てすれば、防衛能力だけならば容易に備えられる。その話は人星にも書類を通しているため、知らない筈がない。

 

 彼女は再三と書類上ではあるが忠告した。星の力の宿る器など過ぎた力であり、敵の手に渡れば最悪の事態が待っている、と。内輪揉めになる可能性が非常に高い、と。力が暴走するかもしれない、と。そうした様々なケースを想定し、メリットとデメリットを記した書類を提出した。しかし、人星は器を配布した。

 

 月の民、そして玉兎のことを真に考えるのであれば、星の力の宿る器の分配などしてはいけなかった。ならば、別に目的があると考えることが必然だ。

 

 そして、八意××は人星の真意にたどり着いていた。力の分配の意味。それはきっと――

 

「……あら?」

 

 ふと、彼女は思考を中断して、窓から蒼穹を見る。最初は、ただの第六感のようなものだった。しかし、それを確認していくうちに、それは鮮明に、確実に映し出されていく。

 

「あれは……」

 

 法則上、それはあってはならない事態だ。しかし、目の前にはそれが徐々に、徐々に迫ってきている。彼女の知識が正しければ、それは――

 

「……彼に、相談が必要ね」

 

 星の力を宿した弓を手に持ち、彼女は月の王のもとへと向かう。ただこの異常を、極秘裏に伝えるために、彼女は静かに動き出したのだった。

 

 

 

「緊急事態よ。入っていいかしら?」

 

 八意××は、月の都の外にある玉兎の旧集落……その一角の、国王の住まう小屋の前に居る。藁と木で出来た申し訳程度の家なのだが、どういうわけか人星は此処が気に入った様子で、住み込んでしまっている。八意××としては、威厳を保つためにも都へと移り住んでほしいのだが、そんな些細なことのために議会を開きたいとは誰も思わない。また、人星からの希望ということもあって、そもそも玉兎達は黙認を決め込んでいる。今、人星の住居について懸念を抱いているのは、八意××と、他数人の並外れた見識を持つ人物だけである。

 

「……来たか。少し待て」

 

 八意××は人星の言葉の意味にすぐさま気が付いた。どうやら彼も、彼女と同じ違和感を抱き、そして気づいていたらしい。ならば話は早いと、八意××は静かに家の前で待機する。

 

 時間にして数分。人星が出てきた。いつもの陽気な様子は何処にもなく、彼の周囲を暗い影のようなものが纏わりついている様だった。

 

「聞かれては不味い。少し離れるぞ」

「……そうね」

 

 八意××は、人星の後についていく。5分、10分、15分、そして20分ほど歩いてようやく、人星は止まる。たどり着いた場所は、未開拓のクレーターの中だった。

 

「正直に言おう。八意、貴様が最初の発見者だったこと、非常に運が良いと思う」

「……あれが何なのか、わかっているのね」

「この我が間違えると思っているのか? 星の事象を、間違える筈もない」

 

 それもそうだ。何せ人星の能力は、『星の恩恵を受ける程度の能力』だ。星に関することに対してだけは、今まで知識を蓄えてきた八意××よりも理解しているだろう。だからこそ、彼女は人星に話を持ち掛けたのだ。

 

「確認のために聞くわ。……あの宇宙の歪み、あれはブラックホールで間違いないのでしょう? それも、この太陽系に近づいている」

「あぁ、正解だとも。酷いことに、あれは今も質量を貯えながらこちらに迫っている。今すぐに、どうにかなるものでもないが……影響が出るのは5年後、月の滅亡までは20年、といったところか。月の民、玉兎の滅亡には……7年を用いないだろう。何が原因なのか、あの星は理から外れてしまっている。我らが生存するには、アレを破壊するほか無いだろう」

 

 覇気はあるが、人星は目に見えるほど疲弊している。言葉の端々に、疲れの色がくっきりと見えてくる。いつもの大胆不敵な姿は、そこにはない。

 

「単刀直入に言うわ。私たち月の民には、あれを破壊することも、問題を解決することも不可能よ」

「わかっている。アレは我が破壊しよう。……しかし、貴様には請け負ってもらわねばいけないことがある」

「……何かしら?」

 

 はぁ、と重いため息が吐き出される。人星はとうとう、立っているのさえ嫌になったのか、その場に寝転び、宇宙に見えるブラックホールを睨み付け、その重い口を開く。

 

「八意××よ、貴様に託すことはただ一つ。――人星を伝説にせよ」

 

 聡明な彼女は、人星の言葉の意味を間違える筈がない。彼女は苦虫を噛み潰したような表情で俯き、「そう」と小さく答える。

 

 ――人星の意図。

 それは、ひどく残酷なものだ。何故なら、人星はそもそも、ブラックホールを破壊するにあたり、自分が生還出来る確率を全く想定していない。つまり、自らの身を犠牲にしてでも、迫りくるブラックホールを破壊しようとしている。

 

 しかし、解決後に問題になってくるのは、玉兎と月の民との関係である。今はまだ、人星という絶対的な力を持った王の監視下にあるからこそ、お互いの共存が成立しているに過ぎない。もし、人星という楔が無くなれば、月の民の武闘派によって戦争が再発するのも時間の問題だろう。

 

 では、人星が居なくなったとしても、玉兎と月の民、二者の共存と平和を約束させるためにはどうするべきか。人星はこれに対して、感情、善悪二元論、道徳、倫理、そうしたものを用いて、人星という星と両者を救った『英雄』を、恒久的平和のための楔にしようとしているのだ。

 

 即ち、人星が命を賭して月の国民全員を救ったという事実を作ることにより、玉兎、月の民、それぞれの感情に訴えかけるのだ。”救世主である人星が命を捨てて助けたのだ。ならば、それに報いて共存と平和、繁栄を築き、二度とこのような事態にならないようにしよう”と、キャッチフレーズはそういったところか。

 

 人間という生物は、ルールによって縛るよりも、感情に働きかけることにより行動を促した方が、断然に良い動きをする。そして徳の高い人間が感情に働きかけるほど、その効果は高い。

 

 ――それでは、人星の徳とは何か?

 それは、星の力を宿した器を託すという心の広さ。平和の礎の象徴である条文。そして、これから起こる、全てを救うという『英雄』としての全てに勝る貢献だ。

 

 ただし、死人に口なしという言葉があるように、救った後で人星が月の国民に語り掛けることは出来ない。そのため、人星にはある程度、事前の準備というものをしなければならない。

 

 ――これらを踏まえた上で、人々をそこまで導くにはどうすればいいのか?

 方法は実にシンプルだ。作戦決行当日に、月の国民全員に対して、人星が演説することだ。この事実を全て包み隠さず、国民全員に伝えながらも、自身の想いと願いを国民の感情に訴える。そして、事が終わった後は、月の民の中でも最も見識の高い八意××に人々を指揮させる。実力もリーダーシップも申し分ない存在といえば、人星が見た中でも彼女だけだった。今回は、それ故の人選だ。

 

 こうして、最後は八意××が中核となり、人星という英雄を背景にすることで、月の国民全員の平和と繁栄を導いていく。

 

 そうして人星は――

 ――伝説となる――。

 

「はっきり言わせてもらうけど、貴方は人間として破綻している」

「……面白いことを言う。――そんなもの、とうの昔にやめている。あの美しき星を救う、その瞬間から、我は人間ではなくなった……」

 

 寂しさと哀しみ。二つの灯火が人星の瞳を揺らした。

 

 八意××は喉を鳴らす。今の人星は、あまりにも儚い。まるで今にも消えてしまいそうなほど、霞んでしまいそうなほど、儚い存在に見える。陽炎、桜吹雪、桃の花、朧月夜……彼女の見てきた何よりも、人星は儚い。

 

「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」

「……それは?」

「何、決意の表明とでも思えばよい。どのみち、我は生きていようと、死んでいようと、月を去る。貴様らの姿を、他の星々から見守ろう。だからこそ、礎にせよ。この我を。星を二度救った、英雄を。見返りは、貴様らの発展としてもらう。……期待しているぞ、八意××よ」

 

 言い終わると、人星は立ち上がり、その場を後にするように歩き始める。しかし、八意××にはそれを追うことが出来ない。追ってしまえば、すぐにでも霧散してしまいそうな雰囲気。泡沫のごとき後姿に、追うこと自体が躊躇われた。

 

「……貴方は一体、何だというの?」

 

 八意××の疑問に、答える者は誰もいなかった――

 

 




 あまりに短いため、もう一話続きます。
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