東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗   作:星の屑鉄

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 今回、作者の自作の歌という黒歴史待ったなしの、とんでもない地雷が含まれています。一応、かなり考えて作ったものですが、歌のルールなどめちゃくちゃなので、そのあたりを要求されるのはご勘弁を。

 それでは、2話続きですが、どうぞ!


一章 第六話 星は死なず、されど王は消え去った

 八意××のブラックホール発見の報告から4年、条文仮施行から9年の時が経つ。ここまで、些細ないざこざ程度は何度も発生したが、特別大きな問題が発生したことは一つを除いてなかった。

 

 人星は筆を置く。机の前で真剣に取り組んでいた作業をようやく終えた彼は、「ふぅ」と肩の力を抜いて首の骨を鳴らす。

 

「いよいよ、明日か」

 

 今日、鈴仙は仕事の大詰めに取り掛かっているため、この家には帰ってこない。人星の口から直接話さない分、彼の負担は減ったと言えるが、同時に直接言葉にして伝えなかったことで彼女に対しての負担が増えたかもしれない。

 

「立ち直れることを願うばかりだが……さて、どうなるか」

 

 こればかりは予想が出来ない。人星はそう思いながら、文鎮を書き記した紙の上に乗せ、これでもう用は無いと言わんばかりに家を出る。

 

 予定の時間よりもまだ時間がある。人星は歩く。土を踏みしめ、砂利を潰し、石を蹴る。同じ動作を何度も繰り返し、そうしてたどり着いた場所は、彼にとって思い出深い桃の木のもとだ。

 

「暇な時、いつも此処には世話になったな」

 

 桃の木を見ながら、人星は目を瞑り感傷に浸る。網膜の裏に映るのは、短い間ではあったが、それなりに濃密だった月での、玉兎、月の民に巡り合ってからの日々。それらはモノクロ映画のフィルムのように流れていく。まるで走馬燈のような映像の数々。ゆっくり、ゆっくり思い起こし、反芻し、納得のいったところでようやく、人星は瞼というスクリーンをしまう。

 

「……宇宙は無から始まったか、それとも有から始まったか……原点を決める日が、来たのだろう」

 

 ――不本意なことこの上ない。

 人星はそう思いながらも口端を吊り上げる。そこにもはや、儚いといったイメージは微塵も無い。いつものように大胆不敵にして泰然自若、守護者、そして王として計り知れない存在が、そこにはいる。

 

「さぁ、幕開けといこうではないか」

 

 桃の木を背に、人星は歩き出す。不安も、迷いも、ましてや敗北などというイメージとは、まったくかけ離れた存在。その立ち振る舞いは勝利が当然だと言わんばかりに堂々としている。

 

 桃の花は、彼の出陣をその花を散らすことで祝う。孤独な戦いに挑む守護者に対して、桃の木は精一杯、華やかな幕開けを手伝うように、その花びらを吹雪かせるのだった――

 

 ――後に、この光景を見ていた玉兎と月の民、二人によって描かれた至高の絵画、『幕開けは桃の吹雪と共に』として、その光景は世に広く知れ渡ることになるのを、まだ誰も知る由は無かった。

 

 

 

 その体は太陽の力を宿した鎧に包まれ、日輪のマントをはためかせて、彼は月の都の八意××の邸宅、そのバルコニーに姿を現した。その隣には、邸宅の持ち主である八意××も控えている。

 

 重大な報告がある。その一声と、八意××の用意によって集まった、月の民、そして玉兎達は、ただ彼の発言を待つ。ある者は固唾を飲み、ある者は羨望の眼差しを送り、またある者は手に汗を握り彼を見る。

 

 誰もが彼に注目する中、数十秒。永遠にも似た僅かな時間が過ぎ去った後、ようやくその重い口を開いた。

 

「国民よ、我は現在この月の王として君臨している、人星という者だ。前置きなど無駄なものは取り払おう。今回、貴様らに集まってもらった理由は、国の存続に関わる重大な発表をしなければならないからだ」

 

 威厳に満ちた声だ。誰もがその声を静聴し、人星という存在を認める。この人こそが王だ、と。

 

 見覚えのある者が、その紅い瞳に不安を滲ませる。しかし、人星はそれを無視し、話を進める。

 

「天を見よ。貴様らには、何が見える?」

 

 促され、誰もが上を向く。最初は、ほとんどの者が首をかしげる。気づいた者は数名だ。しかし、時間が経るにつれて徐々に、徐々にバルコニーの周りが喧騒に包まれていく。

 

「お、おい。あの黒いのは何だ?」

「う、嘘だろ。空間が、歪んでいる?」

「そんな……それも、何かを吸い込んでいる?」

「……違う! あれは、あれは他の星を吸い込んでいるんだ!」

 

 聡明な若者が声を上げた瞬間、バルコニーの空気が凍り付いた。まるで時間を停止させたかのように、誰一人として動かない。

 ――いや、その時間の停止現象にすら逆らって、ただ一人、人星だけは動いた。

 

 ジャラ、と鎧の擦れる音が響く。その音に、誰もが停止した世界から戻ってくる。

 

「あ、あれは一体何なんだ!?」

「星を、星を吸い込むって、そんなこと!?」

「いや、それよりも月とあの歪み、一体どういう関係があるんですか!?」

「国王、聞かせてくれ! 月は、我々はどうなってしまうんだ!?」

 

 バルコニー周囲に居た聴衆のほとんどがパニックに陥る。ある者は頭を抱え、ある者はヒステリックに叫び出す。世界の終わりだ! などと叫ぶ者までいた。

 

「静まれ」

 

 しかし、その混乱をたった一言。怒鳴ったわけでもなく、かといって小さい声でもない。よく透き通る、ただ威厳に溢れるだけの声。王の声が、国民の混乱を完全に制した。

 

「民の質問に答えよう。このままでは、あと3年もしないうちに、我々は滅ぶだろう。13年もあれば、月はおろか、地球、太陽さえも、アレに飲み込まれる」

 

 言葉に出来ない絶望が、聴衆を襲った。現実を受け入れたくない、冗談だ、などと現実逃避する者は少なくない。中には咄嗟のことに、意味を理解してない者もいる。しかし、その状態でも人星は、ただ一人、揺れ動くことなく堂々と言う

 

「しかし、それは放置すればという仮定の話である。月の科学力でも、あれは破壊出来ない。だが、我であれば、我だからこそ、あれを破壊することが出来る!」

 

 聴衆はまたも思考を停止させる。月の科学力では破壊出来ないという絶望と、国王だからこそ破壊出来るという一縷の希望。それが混ざり合い、どういった反応をすればいいのか分からなくなった。

 

「月の民よ、月の兎よ、混乱していることだろう。しかし、我はそこに更なる混乱を生む発言をしなければならない」

 

 一体何なんだ。聴衆は既に、予想をすることすら出来ないほど、頭の中の混乱は広がっていた。しかし、その前置きで思考の一部が人星の次の言葉に向いたからこそ、彼ら彼女らは正確に、次の言葉を理解することが出来るようになる。

 

「我は、アレを破壊するとともに……消えるだろう」

 

 消える。破壊するとともに消える。つまり――死ぬ。

 聴衆の誰もがそう解釈し、理解し、何も疑わなかった。バルコニーの周囲は、もはや何の音も響かせない。

 

「だからこそ! 星の恩恵を一身に受ける我を犠牲にするからこそ、貴様らに我は望む! 月の平和! 発展! 調和! 秩序! そして栄光! 我という礎を超えて行け! 振り返るな! 我が屍の先にこそ、まだ見ぬ希望の世界がある!」

 

 聴衆、観衆、誰もがその姿に魅了された。その演説に魅了された。隣に控える八意××ですらも、大衆の中に紛れていた鈴仙ですらも、その演説に、その存在に、その生き様に、その全てに、魅せられた。

 

 あれこそが、まさしく王の姿。誰もが到達し得ない高みの存在。人々を統べ、誰もが対処できない剣ヶ峰に対峙し、命を賭して未来を紡ぐ。王無き国は滅ぶ。しかし、民なき領土を国とは呼ばず。民も領土も無きは孤独である。ただ国の存命のため、全てを擲つ存在。

 ――それこそが、王という絶対者である。

 

「月の民よ、月の兎よ。この先の未来はその手で創るのだ。そして何時しか輪廻する我を驚嘆させてくれ。我が救った者たちが、これほど素晴らしいものだったと、我が自慢できるほど輝かせてくれ」

 

 頼み、委託、願い。そうしたものが込められた言葉は酷く儚い。気づかぬうちに誰もが目を潤ませ、頬に温かいものが伝う。

 

 ――ジャラ。

 鎧の音と共に、人星は一歩、前に出る。

 

「刮目せよ。我が最期の舞台に! そしてその目に焼き付けよ! 我という存在を! これこそが、月の王として君臨した我が生き様! 行くぞ、仇敵『コラプサー』! その全てを、我が力によって打ち砕いてくれる!」

 

 太陽の鎧が輝く。あまりの眩しさに誰もが目を瞑ったとき、人星は星を滅ぼす歪み、コラプサーに向かって行った。

 

 光が消え、ようやく目を開けたときには既に、人星の姿はバルコニーには無い。

 代わりに、空に光が満ちた。その光を誰もが理解する。あれが、国王人星の光なのだろうと。

 

 ――月の民、月の兎、両者全員が見守る中。人星はただ一人、コラプサーの破壊に乗り出すのだった。

 

 

 

 コラプサー……超大型よりも更に規模の大きなブラックホールに向かう人星は、ただ目標を鋭く睨み付け、力を溜めている。

 

「アポロンよ……」

 

 右腕に宿る力は、太陽の力。月の守護の力を展開しながらも、彼は小さな太陽を形成する。しかし、小さいと言って侮るなかれ。そのエネルギーは、本物の太陽に匹敵する。

 

「アルテミスよ……」

 

 左腕に宿る力は、月の力。月から生み出される魔力と守護、それらを限界まで凝縮したそれは、矢の形態となってその先をコラプサーに向ける。

 

 出力はそれぞれ、一つの星を滅ぼすには十分。しかし、彼は右腕の小さな太陽を、左腕の月の矢の先端に付与した。今、月と太陽は混ざり合い、互いの存在を認めるかのように力を合わせる。月の矢は、燃え盛る月と太陽の矢となって、白銀と紅蓮に輝く。

 

 彼は左腕を引き絞る。その動作はまるで、弓矢を今まさに射ようとする、狩人の姿のようだった。

 

「切り拓け、『流星(ミーティア)』――ッ!」

 

 限界まで引き絞られた左腕が、前面へと押し出される。同時に、白銀と紅蓮に輝く矢は光速を超越してコラプサーへと真っ直ぐに突き進む。その姿は名称の通りまさに流星の如し。

 

 光速ではない。神速を宿した矢はコラプサーの歪みへと突入し――その歪みを切り裂いた。貫通はしない。しかし、突き進んだ跡には光が満ち溢れ、光の軌跡はまるで王のために用意された道のようだった。

 

 ――ゴォォォ……。

 低く、猛獣が威嚇するような唸りが聞こえる。しかし、それを気にすることなく、人星は『流星』の切り拓いた道を、自身に光の特性を宿して走破する。目指すはただ、コラプサーの中枢部分。その胸に未だ力を溜めながら、彼は長い道を進む。

 

「そう邪険にするな。我も貴様も、同罪である。我は貴様を生み出し止められなかった罪。貴様は無秩序を図ろうとした罪。まさか、我の力が『創造する程度の能力』であったとは、貴様の声を聴くまで気づきはしなかった。宇宙は、星は、大地は、我の無意識と力によって生み出された産物などと、想像出来る筈もない」

 

 ――しかし、判断材料は幾つか存在した。

 人星は言葉を続ける。

 

「我は無意識であった時の記憶を、未だに保持しているのだ。最初は、眠いと感じた。次に、熱いと感じた。その次は、寒いと。更にその次は、邪魔だ。そして最後に、疲れたと。しかし、それよりも前、最初に五感というものは存在しなかったことも、覚えている。……ならば、我の体は一体、いつ、形成され――」

 

 突如、周囲の音が消え去った。拓かれた光の道は闇へと飲まれ、闇に触れた人星の右腕が見るも無惨に圧壊する。

 それをつまらなさそうに一瞥した人星は、まだ飲まれていない光の道へと入り、また変わることなく光の速度で中枢へと突き進む。

 

「貴様は結局、我の子供の様な存在だ。太陽も、月も、地球も、全てそうだ。しかし、子供が殺し合う姿を見る親ほど、辛いものはない。ならば、我は親として、殺し合いをさせないためにも、貴様を殺そう。何、心配するな。貴様には我と一緒に、輪廻してもらう。名づけるならば、『輪廻する程度の能力』といったところであろうが……」

 

 ゴォォォ、と唸り声が上がる。いつ、そんな能力を手に入れた? と疑問を表現しているような音に、人星は苦笑する。

 

「言ったであろう? 我の本質的な、根本の能力は『創造する程度の能力』であると。それはつまり、”どのような能力も創造することが可能”ということだろう?」

 

 コラプサーは声にならない悲鳴を上げる。実際、それはただの雑音のようなもので、また人星の耳からも言語として聞き取ることは出来ない。

 

 ――不意に、人星の体が淡い黄金色に発光を始める。

 

「安心せよ。今発動しているのは、『自身と対象の相手を消滅させる程度の能力』だ。我だけ助かろうとは、思わぬよ。子の不始末、それは我が今世を以て帳消しとさせてもらう」

 

 コラプサーの闇すら飲み込めぬ、極光が人星の体を支配する。その極光こそが能力の顕現の合図。あと数秒もしないうちに、両者はこの世から消える。

 

「しかし、何ともこれでは、月の民や月の兎を騙したような気がして、安らかに、とはいかぬ。故に、我は最期のひと時を以て、月へ贈ろう」

 

 威力を調整、しかし速度は今までよりも速い『流星』を創造し、更にその先に人星が短い時間を以て創造した、水晶のような宝珠を付ける。

 その『流星』の見た目は、白銀と黄金の二色に煌々とした矢ではあるが、ヤジリの部分には宝珠が付けられた、何とも不格好なものであった。しかし、それ故にわかる。それは矢という役割を担っているのでは無い、と。

 

「チャンドラの宝珠……受け取れ、月の者達よ!」

 

 号令と同時、煌めきが奔る。何よりも神聖に見えるそれは、精確に月へと到達する。それを見届けた人星は、憑き物が落ちたような清々しい、爽やかな笑顔を浮かべる。

 

「これにて、この一件の全てを不問とする。辞世の句は、そうだな……」

 

 人星はそこでふと俯いて考え、しかしすぐにその顔を上げたかと思うと、顔に大胆不敵にして垢抜けた、満面の笑みを浮かべて詠う。

 

「我は逝く されど輪廻の 輪の下に 廻り逢おうぞ 愛しき宝」

 

 ――そして彼は、光に飲み込まれる。

 人星はその身を塵も残さず、この世を去った。コラプサーという、最悪の脅威と共に。後に残ったのは、彼の大切な宝物。

 終焉を迎えた彼は、輪廻の輪の中に組み込まれる。次の誕生は、果たして何時になるのか。

 

 それは誰にも、わからない。

 

 




 更にもう一話続くドン。

 もはやここまでくると、月編は完結させた方がいいので、もう一話続けさせていただきます。

 ……短歌については、これからも出てきます。黒歴史絶賛増産中かもしれません。

 それでは、あと一話、どうぞ!
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