東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗   作:星の屑鉄

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 これが本日最後の投稿分になります。少々焦り過ぎた気もしますが、一気に読めた方が読者の皆様も理解しやすいのではないかと思い、早めに投稿させていただきました。

 それでは、本編をどうぞ!


一章 後日談 コラプサー事件

 月の民、月の兎の誰もが、その光景を目に焼き付けた。

 

 一人逃げることなく、むしろ唯独りでコラプサーへと立ち向かい、散って行った月の王。彼が最期に何を思ったのか、知る由は無いと思われたが……八意××は人星すら思わぬ機転を巡らせ、彼に発信機と盗聴器を取り付けていた。光速の中、それらが壊れなかったのは流石月の科学力というべきか。運が良いというべきか。

 

 ――開幕。

 それを思わせる閃光が奔り、闇と歪みを切り拓く。誰もが「おぉ!」と歓声を上げる。その声には王への賛辞が含まれていた。

 

『そう邪険にするな。我も貴様も、同罪である。我は貴様を生み出し止められなかった罪。貴様は無秩序を図ろうとした罪。まさか、我の力が〈創造する程度の能力〉であったとは、貴様の声を聴くまで気づきはしなかった。宇宙は、星は、大地は、我の無意識と力によって生み出された産物などと、想像出来る筈もない』

 

 八意××の耳にだけ、そんな人星の言葉が入る。当然ながら、彼女はこの声を録音している。今の世代にそれを伝え、より団結力を高めるために、彼女は不敬と知りながらもその行為に及んだ。

 

 しかし、だからこそ彼女は触れてしまった。人星の持つ、最大の秘密に。

 

『我は無意識であった時の記憶を、未だに保持しているのだ。最初は、眠いと感じた。次に、熱いと感じた。その次は、寒いと。更にその次は、邪魔だ。そして最後に、疲れたと。しかし、それよりも前、最初に五感というものは存在しなかったことも、覚えている。……ならば、我の体は一体、いつ、形成され――』

 

 そこで一度、音が消えた。まさか、と八意××は空を見上げると、切り拓かれたはずの道が、またも闇と歪みに侵食されていた。

 

 ――まさか、既に飲み込まれたの?

 八意××は心中、不安に煽られながらもコラプサーを見る。両手を合わせて、まるで祈るように願う。無事であってくれ、と。

 

『貴様は結局、我の子供の様な存在だ。太陽も、月も、地球も、全てそうだ。しかし、子供が殺し合う姿を見る親ほど、辛いものはない。ならば、我は親として、殺し合いをさせないためにも、貴様を殺そう。何、心配するな。貴様には我と一緒に、輪廻してもらう。名づけるならば、〈輪廻する程度の能力〉といったところであろうが……』

 

 聞こえてくる、人星の声。それに彼女は安堵しながらも、あることを悟った。

 

「そう。貴方は……死ぬ気、なのね」

 

 しかし、彼女は絶望しない。何故なら、彼はただ肉体的な死を迎えると言っているだけなのだ。魂……魂魄として死ぬことは無い。それはつまり、本質的に彼とまた逢えることを意味している。

 

『言ったであろう? 我の本質的な、根本の能力は〈創造する程度の能力〉であると。それはつまり、”どのような能力も創造することが可能”ということだろう?』

 

 ――ならば、何故!?

 八意××は心の中で叫ぶ。今の声を聞いた限りでは、それは即ち『コラプサーを破壊する程度の能力』や、『あらゆるものを破壊する程度の能力』、『あらゆるものを消滅させる程度の能力』、『無敵になる程度の能力』さえ、創造することが可能である。

 

 それが表すことは即ち、彼が自らの意思でわざと、死のうとしていること。

 

 真意を理解できない八意××の耳に、まるで答え合わせをするかのように、彼の声が届く。

 

『安心せよ。今発動しているのは、〈自身と対象の相手を消滅させる程度の能力〉だ。我だけ助かろうとは、思わぬよ。子の不始末、それは我が今世を以て帳消しとさせてもらう』

 

 人星はただ、けじめをつけようとしていた。その生き様は八意××には眩しすぎる。まるで太陽。もしくは、天上の存在。あまりに真っ直ぐで純粋。汚れを知っている筈なのに、まるで汚れを知らない子どもの様に信念を貫くその姿勢。

 

 彼女の瞳に、煌めく雫が浮かぶ。

 

 それを誤魔化すように天に顔を向ける。その時、不意にコラプサーの中心部から極光が漏れてきた。

 

『しかし、何ともこれでは、月の民や月の兎を騙したような気がして、安らかに、とはいかぬ。故に、我は最期のひと時を以て、月へ贈ろう。チャンドラの宝珠……受け取れ、月の者達よ!』

 

 コラプサーの中心部から、この月の都の、先ほど人星が居たバルコニーまでを、光が切り拓いた。しかし、光によって目を痛めることは無い。むしろ、その光は目に負担を掛けることのないほど優しいものだ。だから、今もまだ目を開けていられる。

 

 八意××は光の到達点……即ち、自分の目の前を見る。すると、そこには白銀と黄金色に煌々とする、先に宝珠のようなものをつけた矢が、直立不動に浮遊していた。

 

 一体、何がどうなっているのか。この矢は何なのか。八意××に、思考する時間は与えられない。

 

『これにて、この一件の全てを不問とする。辞世の句は、そうだな……』

 

 その言葉と共に、衝動的に彼女はまた天にあるコラプサーを見る。次に行われるであろう、最悪の事態を予測して。目を見開き、唇を震わせ、鼓動に早鐘を打たせ、ただ溢れる極光を見つめる。

 

『我は逝く されど輪廻の 輪の下に 廻り逢おうぞ 愛しき宝』

 

 辞世の句は、八意××の頭に深く、深く刻み込まれた。

 

 刹那、すべての音を奪取し、コラプサーを、太陽を、月を、宇宙を、全てを光が包み込む。まさに、世界の全てが光に包まれる中、八意××は決意する。

 

「必ず、伝えるわ。一部始終、月の全てに。地上の全てに」

 

 ――光に包まれた世界は、もとの姿を取り戻す。

 ――誰しもが喜び、しかし一方で、王の安否を心配する者が多々存在し。

 ――どうにもまとまらない、バルコニー周辺の空気。

 

 手始めに、まずはその全てを纏めるために。八意××は、月の民、月の兎に呼びかけ、その全てを伝えるのだった――

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ――全てが終わった。

 

 人星は死に、コラプサーは消滅する。

 

 彼は去る。されど他の全てを掬い取る。それは言葉に出来ないほど立派なことであることは当然、理解できる。

 

 しかし、人星への恋愛感情が芽生えていた鈴仙にとっては、あまりに衝撃的な光景であり、事実であった。

 

 八意××という月の民から聞いた話では、録音された声を聴いた限りでは、人星が生きていることはまず有り得ない。

 

 輪廻するといっても、それが何時になるのかわからない。ショックのあまり、大事な会議すら出席せず、鈴仙は家にふさぎ込む。

 

「どうして、どうしてよ……。何で、貴方は……」

 

 泣き腫らした瞳。いつも以上に赤いそれを見ると、彼女が一体、どれだけ人星のことを想っていたのか、その断片は感じ取れる。

 

 ――こん、こん。

 扉をノックする音に、彼女のウサミミがピクと反応する。もしかすると、自分を驚かせるドッキリか何かだったのではないか。鈴仙は有り得ない希望に、しかしそれに縋りつくことで力を全身に駆け巡らせ、自ら扉を開いて外の人物を招こうとする。

 

「あっ……」

 

 明らかに落胆したような声が、鈴仙から漏れる。それは態度からも明らかで、ウサミミは完全に垂れて、その顔に影が差す。

 

 来訪者は、月の民の議員の一人、八意××だった。

 彼女は鈴仙の態度に眉一つ動かすことなく、「失礼するわね」と一言おいて、勝手に鈴仙の家に上がり込む。

 

「貴女も、早く座りなさい。今日は大切な話があって来たの」

 

 ――大切な話?

 鈴仙はその言葉に少しだけ興味を示す。鈴仙の記憶が正しければ、この時間は重要な会議が始まっており、議員は全員が出席しなければいけない筈だ。それを抜け出してまで、八意××が鈴仙に会いに来た理由。

 

 促されるままに、鈴仙は八意××の対面に、囲炉裏を挟んで座る。

 

「どうして会議に出席しなかった、なんてつまらない話をするつもりはないわ。貴女には、もう一度、彼の声を聴いてほしいのよ」

「……どうして?」

「一個人として、放っておけないからよ」

 

 これは嘘だ、と鈴仙の本能が警戒音を鳴らす。しかし、そんな鈴仙の放つ不穏な空気を気にすることなく、八意××はボイスレコーダー……声を録音する機械を取り出した。

 

「貴女に聴いてほしいのは、彼の辞世の句よ」

 

 カチ、と八意××はその機械のボタンを押す。それから程なくして、彼の声が室内に響く。

 

『我は逝く されど輪廻の 輪の下に 廻り逢おうぞ 愛しき宝』

 

 切なくて、儚くて、それでも強く堂々とした美しさが伝わる声音。傾聴していた鈴仙は、懐かしい彼の声にまたも涙を流す。しゃくりあげ、涙を拭き、声を押し殺して泣く。

 

 それはまさしく、声無き慟哭とも呼べるものだった。手傷を負い、痛々しい姿となっても健気に生きようとする獣の姿と、今の鈴仙は酷似する。

 

 しかし、まだ足りない。鈴仙に必要なものは、生きようとする意思ではない。前を向いて歩くための灯火だ。

 

「貴女は考えなさい。『廻り逢おうぞ 愛しき宝』……これは一体、何を意味するのか。その先に、貴女に必要な希望の篝火があると、私は考えているわ」

 

 言いたいことを全て伝えた八意××は立ち上がり、扉の前まで歩いたところで、鈴仙へと振り返る。

 

「あとは貴女が考え、答えを出しなさい」

 

 八意××はそれ以上の言葉は残さない。語るべきことが無い。故に、静かにその場を立ち去った。

 

 静寂の中、取り残された鈴仙は考える。辞世の句の意味を。自分なりに噛み砕きながら、ただ無心に、一心に、考える。もしかすると、そこに人星からのメッセージがあるかもしれないと思ったから。

 

「……………………………あっ」

 

 ふと、鈴仙はあることに気が付いた。

 

「『我は逝く されど輪廻の 輪の下に 廻り逢おうぞ 愛しき宝』……」

 

 復唱する。全体を見て、一部を見て、言葉の意味を吟味して、それを意味の通る文字に直して、ようやく鈴仙は理解した。

 

「そう、だったのね……」

 

 鈴仙の瞳から真珠のような雫がポロポロと零れ落ちる。先ほどの声なき慟哭とはまるで違う。それは幸せに満たされ過ぎて泣いてしまう者のそれに、限りなく近い。

 

 鈴仙は球の雫を拭い取る。そしてそこからは、今までの亡霊の様な表層とは全く違う、絶世の美貌が現れた。

 

「機を見て、探してあげる。見つけたら、私の言うことの1つくらい、絶対に聞いてもらうわよ」

 

 立ち上がり、よし、と気合を入れる。そしてふと、「あ、会議のこと忘れていたわ」とバツの悪そうな顔をして、どうしたものかと考える。

 

「……あれ、これは?」

 

 鈴仙はふと、視界の端に入る紙を発見する。机の上に文鎮で固定されているところから、少なくとも鈴仙自身が置いたものでないことは容易に分かった。それでは誰が、と疑問に思いながら、彼女はその紙のもとに足を運び、それに目を通す。

 

『鈴仙よ。貴様、まさかとは思うが開き直った後に、この我……人星からの手紙を見ているわけではあるまいな?』

 

 読んで最初の一文。それだけで、鈴仙は胸を鷲掴みにされたような感覚に陥る。思わず、「何でわかるのよ!?」と叫びそうになるが、それをグッと堪えて、文面の続きを読むことにする。

 

『まぁ、臆病で精神的にも弱い貴様のことだ。大方、我が死んだことでショックを受けて引きこもっていたところを、八意××のお節介にでも捕まり、ようやく我の真意に気づいて立ち上がったところ、この文面を発見したなどという、阿呆な展開になっていることは想像に難くない。』

 

「だから何でわかるのよ!? あと、誰が阿呆よ、誰が!」

 

 今までの感動は一体どこに逝ってしまったのか。鈴仙は別の意味で顔を赤くして、人星の面影の残った文面へと叫び散らす。しかし、それでも読み進めていく。

 

『さて、本題に入ろう。我は自身の不始末に決着をつけた。そして、その罪を今世の終焉を以て贖(あがな)った。貴様だけには教えておくが、我の本当の力は〈創造する程度の能力〉だ。宇宙も、太陽も、月も、地球も、これらは全て我が、意図的ではないにしろ、創った。コラプサーもまた、その1つである。そして、〈星の恩恵を受ける程度の能力〉は、本質的な能力から派生した副次的能力に過ぎない。

 それと、我は別に魂そのものまでも消滅してしまったわけではない。我は〈輪廻する程度の能力〉を生み出すことにより、この世にまた生を授かることになるだろう。何年、何十年、何百年、もしかしたら何千年後になるかは分からぬが、我が生を受け、貴様らに恥じぬ恰好となった時は、こちらから月へと赴こう。我が住処、それまでしっかりと護っておくのだぞ。帰る場所は、無ければ辛いものなのだ。』

 

「……仕方ないわね」

 

 目的が出来る。希望の篝火は暗い未来を照らし出し、ようやくその道が見え始めてきた。

 

『鈴仙。貴様に渡した器は、使い方によってはコラプサーさえも封じることが出来るほどのものだ。我と再会するまでには、せめて使い方に慣れる程度には強くなっていることを願う。……書きたいことは記した。また逢おう、鈴仙。』

 

 手紙はそこで終わっていた。

 

 鈴仙が振り返る理由は、もはや無い。しかし、ふと彼女は思う。自分だけで強くなるのは、あまりに効率が悪い。誰か、師範となる人物を先に見つけた方がいいだろう。

 

 鈴仙はそこまで頭を回したが、しかし、月の兎の中にそのような人物はいない。これは驕りでもなければ慢心でもない。鈴仙は月の兎の中でも、トップクラスの実力なのだ。今更、師範となれるような人物は、少なくとも同種の中にはいない。

 

 どうしたものか。鈴仙が頭を抱えて考えそうになったところを、ふと八意××の顔が思い浮かぶ。彼女は確か、家庭教師、そして薬剤師であるにも関わらず、月の民の中でも高い地位に座している。しかし、ただそれだけの役職で、高い地位を獲得出来る筈がない。鈴仙は瞬時にそれに気づき、八意××には何か、決定的なものがあるとあたりをつける。

 

「……うん。決定ね」

 

 決まれば早い。鈴仙は先ほど帰った八意××の後を追い、そして追いついた矢先に自ら弟子入りを懇願する。八意××はそれを快く了承し、代わりに幾つかの条件をつける。鈴仙は最初、その幾つかの条件のうちの1つに嫌そうな顔をするが、背に腹は代えられないと了承することで、八意××と鈴仙の師弟関係が締結する。

 

 余談だが、鈴仙は弟子入りすることによって、八意××から「優曇華院」という名を与えられることになる。その後、鈴仙は八意××――八意永琳――から「優曇華」と呼ばれることになる。

 

 

 ――進展は多い。しかし、再会の日はまだ遠いのだった。

 

 

 




 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます! これにて、『Chapter1 Legend of the king of the month』は終了となります!

 今回、個人的には大きな原作改変……つまるところ、鈴仙の弟子入りが非常に早まった件についてですが、それは二次創作なので目を瞑っていただければと思います。

 なんだかいろいろ黒歴史を創ってしまった気もしますが、読者の皆様が面白く読める二次創作になっていれば何よりと思います。

 文章表現におかしなところ、矛盾点などなどを見つければ、遠慮なくご指摘をお願いいたします。

 また、これにて第一章完結ということにより、もしよろしければ、全体の感想、評価、コメント、批判、ご指摘などなどしていただければと思います。

 それでは、本日はこれにて。明日は一度休みとして、10月31日の土曜日、17:00に第二章を投稿させていただきたく思います。

 それでは、本日はこれにて。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
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