東方創星神録 ~始まりと終わりの物語~〖凍結〗 作:星の屑鉄
などと宣いながら一言、二言。
さて、お気に入り登録3件達成、また感想1件、ありがとうございます! 今後も、これを励みに精進していく次第です。
今回から、第二章に入ります。時系列は敢えて明確にはしません。
それでは、本編をどうぞ!
二章 第一話 信仰のもとに輪廻する
――星を救った神。善神、人星様の為、これより祭りを執り行う!
――供物を捧げよ! 酒を飲め! 騒いで、賑やかに歌い、人星様を楽しませるのだ!
――まだまだ足りぬと申しておるぞ! 人星様を目覚めは近い! 皆の者、我らが神、人星様に祈りを捧げよ!
――さすれば――
◆
「……むぅ」
ある日、それは目覚めた。黒髪、薄く開かれた瞼から覗く紺碧の双眸、晒された上半身に、下半身に纏うキトン。造形美の如き肉体美は男から羨望の眼差しを集め、女からは好意の眼差しを集めるだろう。整った顔立ちは誰に負けることなく美しく、力強く、その風貌はまさに、常軌を逸している。当然、良い意味である。
「うぐっ……何だ、この体の痛みは?」
まるで全身を引き裂かれた後の様な痛み。一体、何があったのかと過去を思い出そうとする。
「……そうか」
彼は納得したように1つ頷いて見せる。そして、「はぁ」と溜息を吐いて、肩を竦めてニヒルな笑みを浮かべて――
「わからん」
などと宣った。即ち、記憶喪失。あるいは、記憶というものを持っていない。しかし、それについてさほど気にした様子もなく、彼は今が大切だと言わんばかりに現状の確認を始める。
「……此処は、神社か? 賽銭箱、鳥居、社……」
彼が寝ていたのは、賽銭箱のすぐ後ろだった。よくも風邪をひかないものだ、と我がことながら自嘲して、彼は周囲を歩く。
――赤い鳥居は本殿まで続いており、石段を登り切ったところから数えて、その数は壱七。
――左右は森に囲まれ、神社の裏には山がある。
――神社の土はよく肥えており、やろうと思えば作物くらいは作れるだろう。
彼は次に石の階段に足を運ぶ。一体、何段あるんだよ、と言いたくなるような長ったらしさに、さしもの彼も数えるのを諦める。代わりに、彼は鳥居の上に登って、その世界の景色を一望する。
「……美しい田畑よ。家々は質素であるが、それがまた趣深い。自然にも恵まれ、山鳥の鳴き声を朝の目覚めとする。川は流麗にして、女子供はそこに集い談笑する……。男は田畑にて駄弁るか」
緑溢れる土地だ。田畑は土と鮮やかな緑色の調和を生み出し、家々はそれらの飾りにポツポツと建ち、山より川が流れていることから土地が一層豊かに見える。川が分岐しているすぐ先には、湖があるようだ。村人たちが笑顔を浮かべていることもまた、この村の良い所の1つだろう。
「さて、どうして我が此処に居るのか、存在するのか」
疑問は尽きない。しかし、情報がほぼ皆無な状態では、答えの出しようなどある筈がない。まずは人里に降りるかと、彼は鳥居から飛び降りる。
「あっ――」
たん、と軽快な音を立て着地すると同時に、声が上がる。それは彼のものではなく、すぐ目の前に居た少女からのものだった。
セミロングの黒髪、黒曜石のように綺麗なつぶらな瞳、紅白の巫女服、そこから覗く美しい二の腕と、サラシ。見た目からわかる年齢は、おおよそ15歳といったところか。
また、その恰好から、此処の神社の巫女であることは一目瞭然の事実だ。彼は「ちょうどいい」と思い、その少女に声を掛けようとして――
「ひ、人星様!」
ばっ、と巫女服を風に靡かせ、少女は彼が何かを言う前にそう言って飛びついた。少女は彼の両手を取り、目をキラキラと輝かせて彼のことを見上げる。
「やっと、やっとお目覚めになられたのですね! 嗚呼、この土地に貴方様の魂が宿ってから、どれほどお待ちしたことか!」
歓喜に満ち溢れ、少女の調子と舌の回りはとても素晴らしかった。しかし、状況を理解していない彼からしてみれば、ただ首をかしげる他ない。
「……済まぬが、我には記憶が無い。加えて、貴様が誰だか、我には分からぬ」
「あっ」
少女は自分の失態に気づいたのだろう。やっちゃった、といった風に気まずそうな、引き攣った笑みを一瞬浮かべ――取り繕うことをやめて腰を折る。
「申し訳ありませんでした! 魂だけとなった者がどうなるか、すっかり忘れていました!」
いっそ清々しいまでの失態の暴露に、彼は「もう良い」と許しの言葉を与える。そして続けざまに、「貴様、何者だ?」と訊く。
「あ、はい! 申し遅れました。私はこの神社の巫女をしております、博麗と申します。能力は『魂を司る程度の能力』といって、不躾ながらその能力を使い、人星様がこの土地に宿ったことを確認させていただきました」
「ほぅ? 推察するに、我はもとからここに居たわけではなく、何らかの理由でこの土地に宿ったようだが……その原因、何かわかるか?」
「はい! ご推察、お見事です。人星様のおっしゃる通りで、原因の方はおそらく、信仰心の急激な増加だと考えられます」
少女、博麗の言葉に、彼は少し頭を悩ませる。それは話が理解出来なかったわけではなく、知識として先にどちらを訊くべきか、その判断に迷った。
「……では、その人星様、とは我の名か?」
「はい、もちろん。あ、それと付け加えますと、人星様が信仰心を得ることが出来たのは、過去にこの世界を救ったということ、その後、滅びかけた大地に再び命を芽吹かせたこと、またこの村では、小石を積み上げ川を塞き止め湖を作られた、という伝承もあり、これらの功績を持つ御方……人星様に信仰することで、その恩恵の一部でも、この土地にもたらしてほしいといった、村の人々の願いからきていますね」
「……要約すると、我の功績が凄いから、信仰することによりその恩恵を分け与えてほしい、と。……しかし、信仰は我に何か利点でもあるのか?」
あっ、と博麗は声を上げる。表情からして、また何かを忘れていたようだ。手で口を隠しながら驚く様は妙に似合っているのは、彼女のうっかり気味の性質のせいか、それとも元来の性格によるものか。
彼……人星は1つ頷き、先を話すように促す。
「失礼しました。今の話を聞いたところによると、どうやら人星様は初めて神になられたご様子なので、順を追って説明させていただきますね。……それと、長くなる話なので、部屋で話しましょう」
「そうか。ならば、相伴に預かるとしよう」
こちらです、と博麗に促され、人星は社の中の部屋に入る。
社の中にあることもあって、部屋は小さい。五畳半、といったところか。前方と後方に障子が構えてあり、部屋は見た限りでは一室のみ。その一室の中には畳が敷き詰められ、家具は桐箪笥、食器棚、食卓(こたつ)のみ。調理場は部屋と一緒になっており、浴室などといった贅沢なものはない。家具は食卓以外全て端っこに寄せられており、調理場も申し訳程度の広さ。椅子などという便利なものはなく、代わりに座布団が隅っこに積まれている。掃除はよくされており、埃っぽいとは思わない。仄かな木の香りは鼻に優しい。
単純かつ質素故に、社の中の部屋として違和感が全くない。人星はこれを良と評価する。
「こちらにどうぞ。すぐにお茶を用意しますね」
「ふむ……そうだな。頼もう」
一瞬、お茶を断ろうとした人星だが、聡く喋る方は水分が無ければ喉を傷めるだろうと気づいた人星は、断ることなく、むしろそれを自ら頼み込む。
博麗は台所でお茶の葉を取り出し、薪に火を点け、水を入れた陶器の持ち手を支柱の鉤(囲炉裏の上にある鍋などを引っ掛けるためのもの)に引っ掛ける。
「それで、信仰心を我が得るとして、それによる利点は何かあるのか?」
「はい。人星様は現在、莫大な信仰心を得ることにより、肉体を形成しております。一度肉体を形成されれば、信仰心が完全に無くなるまでは、その肉体を維持することが可能です。それについての利点ですが、これは信仰心を更に得ることにより、ご自身のお力を高めることが出来るのです」
「なるほど。有体にいうと、信仰心が更に増大することにより我は強くなる。だが、信仰心が全て無くなると消滅する。ならば、信仰心が減れば……弱くなる、ということだろう?」
「はい、その通りです」
人星は心の中で静かに感嘆する。上手い具合に出来た仕組みだ、と。何せ、お互いに与えれば与えるだけ利益が出てくるのだから。失うものなど、何一つない。
「ふむ……。しかし、我には記憶が無い。正確には、元から無かったのかもしれぬが……そんな者に、一体何が出来る?」
「そうですね……なら、まずは村の方々に挨拶参りをしてみてはどうでしょう? 人星様が降臨なさったと聞けば、それだけで信仰心は飛躍的に高まりますよ」
「そうだな……しかし、まずはこの村のことを知らなければならないだろう。我がやることは、知識として得て、この目で見て初めて、決まるのだからな」
人星が言い終わると同時に、陶器の中の水がぶくぶくと音を立てる。どうやら、お湯が沸いたようだ。
「はい。ちょうどお湯も沸いたことですし……時間もたくさんあります。焦らず、ゆっくりと説明していきましょう」
茶葉の入った急須の中にお湯を入れ、机の上に置く。そして博麗は棚から茶碗を二つ取り出して机まで持ってくる。その後、急須から茶碗にお茶を注ぎ、それを人星の前に置く。そうした一連の動作を終えた博麗は、ようやく座布団に腰を下ろした。
「それでは、まずは村の成り立ちからご説明をしましょう」
そう言って話し出した博麗は、実によく舌が回っていた。そして、終始笑顔だったことが非常に特徴的だった。
――曰く、この土地の全ては人星によって育てられた、と。
――曰く、この土地は人星が最も多く触れ合った場所であり、また手入れをした場所であると。
――曰く、この村の近くにある湖は、人星が何億もの小石を積み上げて作った湖なのだとか。
――曰く、この土地の生物は非常に穏やかで、あふれ出る神聖な気のようなものによって、妖怪が近づいてこないと。その神聖な気は、人星が育てた自然と大地から出ているのだとか。
――曰く、この村の川や湖……水源は一度も枯れたことは無く、また水害に遭うことも、暴風に晒されたことすら無いらしい。それを村人たちは、人星を信仰したことによる加護と思っているのだとか。
――曰く、この村の人々の中に人星を信仰していない者はいないとか。
――曰く、周辺諸国の神々も、この土地だけは攻めてこない。原因はもちろん、人星の数えきれない伝説がもたらした恩恵らしい。
――曰く、人星は天変地異を操る。その拳は天をも打ち砕き、怒りは星の変革を意味するとか。
パッと思い出せるだけでも、これだけの話がある。他にもまだ話はあったが、それらはあまりに現実味が無い。
(――何なのだ。星さえも滅ぼす破滅の歪みを消滅させたというのは。幾ら何でも、話を美化し過ぎであろうに)
人星の伝説はまさに普通とは規模が違う。内容も、話しの量も。そして、前半の1割だけ村の成り立ちに触っただけで、残りの9割すべてが人星に関しての伝説とは如何なものだろうか。博麗の話は、あまりに脱線し過ぎていた。止めない人星も悪いのだが、あまりに気分よく話すものだから、止めるに止められなかった。
そして何より、自分自身についての情報は、記憶の無い人星にとっては非常にありがたいものだった。
(しかし、どうにも実感が湧かぬ。規模が大きすぎる故に、想像をつけにくいのだ)
はぁ、と人星は心の中で溜息を吐く。自分のどうしようもない出鱈目な伝説に、人星自身が辟易としていた。そして、頭を抱えた。どれが真実なのか、誇大なのかわからない、と。
「あ、それと人星様のお力については、幾つか通説があるんですよ!」
博麗は話していくうちに、その言葉を徐々に軟化させている。無意識なのか、それとも意図的にやっているのか、少なくとも人星の知る由は無い。そして、そのことに対して気づくそぶりも見せない。
「ほぅ? 我の力についてか……どんなものなのだ?」
人星はその話に興味を持った。一体、どのような力を自分が持っているのか。今までの話を聞く限りでは、『天変地異を操る程度の能力』程度しかわからなかったため、その情報は非常に欲していたところだった。
「はい。一つ目は、『天変地異を操る程度の能力』です。これは、伝承に準えて、絶対にあるだろうと云われているお力です。通説の中でも、最も信憑性が高いです」
つまり、人星が持っている力は、『天変地異を操る程度の能力』の可能性が一番高い、ということになる。恐ろしいものだ、と人星は心中で自嘲する。
「二つ目は、『天地を揺るがす程度の能力』です。一説には、人星様はあの空にある月に行こうとして、その際に竜巻を利用して空を飛び、それに失敗して着地した時に、大地の軸を歪めるほど揺らし、その震動は天の雲にさえ伝わったとか」
その話を聞いた人星は、自身のことながら阿呆か、と胸の内で吐き捨てる。星と星との絶大な距離を、たかだか風の力で埋められる筈もない。
「三つ目は、『星の恩恵を受ける程度の能力』ですね。これは星を救ったという伝えから、そして星に名前を授かったということから、そうではないのか、といった推測のようなものですね」
「星の恩恵……」
ふと、何かが喉に詰まったような違和感が人星を襲う。星の恩恵、星に名前を授かる。二つの言葉に、妙に違和感を覚えた。
「他には、『命を芽吹かせる程度の能力』とか、『活力を沸かせる程度の能力』とか、そんな感じですよ」
博麗の話が終わると同時に、人星は瞼を閉じて、思考の海に潜る。
(今の話を聞いた以上、我の力に関して唯一の共通点があるとすれば、自然に多大な影響を与える規模だということだ。命を芽吹かせる、活力を湧かせるは、この星に生命を芽吹かせたという伝承から来ているのだろう。天変地異も、天地を揺るがすも、どちらも星の災厄とカテゴライズできる。広義に、星の恩恵を受ける方を基軸にして考えた場合、それらを統合して導き出される答えは……)
人星は基本、提供された情報から推測できる範囲内のことしか考えない。もしも、もしかしたら、などと新しく仮定を生み出して考える話は、結論を迷宮入りさせる悪手だと考えているからだ。
そしてこうした、情報が全くなく、新たに与えられた情報のみがある場合は、その傾向が顕著になる。今までの知識、というものが殆どない以上、経験則から生み出される仮定の話など意味がある筈もない。
「……答えは、『災厄と恩恵を操る程度の能力』かもしれぬな」
人星が今の情報から引き出せる答えは、そうなった。天変地異と天地を揺るがす、という話を災厄と解釈し、命を芽吹かせ、活力を湧かせるという話を恩恵と解釈する。そうすることで、今までの人星の伝承との整合性が取れると、彼は考えていた。
「確かに、それならば伝承と大きく外れることはないですね……。ただ、その災厄を振るうことは殆ど無いですよね」
それは暗に、人星を良く評価しているのか、それとも逆か。少なくとも、今の彼女の笑顔から影の様なものは見当たらない。
「確かに、話を聞いた限りではそうであろうな。しかし、我は力を振るうことに別段、抵抗があるわけでもない。努々、忘れぬように」
「御心のままに」
瞼を下ろし、恭しく頭を垂れて形式的に彼女は返事をする。その動作は流麗と評価出来るが、しかし形式的なところが、人星の琴線を揺らさない。
「……そろそろ、日が落ちる。博麗、貴様は普段と同じように生活せよ。我は少し、忍びながら村を見て回ろう」
「――? わかりました。お夕飯はどうしましょうか?」
「我の分は必要ない。不思議と、腹が減ることが無いのだ。……朝までには戻ろう」
人星はそう言い残して、神社の部屋の中から出ていき、石段に差し掛かったところで空を見上げる。
「今夜は満月か……」
――嫌な予感がするものだ。
ざわつく心を押さえつけ、人星は足を運ぶ。ただ勘の赴くままに、踵を返して彼は神社の裏にある山へ向かうのだった……。
ここから、かなり独自設定、独自解釈のオンパレードとなっていきますので、注意勧告をしておきます。
次の話は11月1日の17:00に投稿いたします!
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それでは、ご愛読の方、お疲れさまでした。