ローレライの支配者   作:フクブチョー

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第九公演 そして彼は今も信じて頼ってない

 

 

 

 

 

 

「シャバの空気はうめえなぁ!!」

 

勾留された翌日、ギルドにはいつもの喧騒が戻っていた。根城にしている酒場で牢に入れられていた三人の一人であるナツはのんきに騒いでいる。勾留期間を延ばした張本人なのだが良くも悪くも根に持たない彼はもう自分の悪事を忘れてしまっている。

 

そして忘れていないもう二人はカウンター席に腰掛け、肩を落としていた。固い地面でしかも座って眠っていたカイルとエルザは疲れがあまり取れておらず、二人の美貌には疲労感が強く滲んでいる。

 

そんな様子を察せられないナツは勝負が途中で終わっていた事を思い出し、エルザに突っかかった。

 

「エルザ!勝負しろ!!」

「よせ、疲れてるんだ」

「俺もごめんだ」

 

桜頭の少年は無視して戦おうとし、飛びかかる。それにほぼ無意識にエルザがカウンターを食らわせた。

若干不意打ちのような気もしなくはないが最初に仕掛けてきたのは彼だ。理不尽とは言えない。ひとまずエルザの勝利で収まった。

 

「へ〜、ナツがエルザの格好をしてね。それは是非見たかったわね」

「傑作だったぞ。あんなに笑ったのは久しぶりだった」

「ふふ、でもナツらしいわね」

「ああ」

 

カウンター越しに昨日あった事を話すミラとカイル。美男美女が微笑し、テーブルの上で指を絡ませ、談笑する二人の空間は他人からは別世界のように見えた。空気が甘い。

 

「どぅえぇきてぇる」

 

ーーーーふふふふ、いいんだ。昨日私はカイルの肩を借りて眠ったんだから、少しぐらい…

 

「……いいなぁ」

 

女性陣がそれぞれやっかんでいると上から野卑な笑い声がギルドに木霊する。全員の視線が一気に上に集まった。

 

………ラクサスだ。

 

「ラクサス!!」

「いたのか!!」

「めずらしいな」

「ナツ、お前は相変わらずヤラレっぷりが派手でいいよなぁ!笑っちまうぜ!」

 

タバコを加え、見下すように言う。事実見下しているのだろう。自分の価値観以外まるで信じていない男だ。

 

「ラクサスーー!!勝負しろ!」

 

意識が完全に覚めたナツがつっかかる。今のラクサスの発言に気分を害した様子はない。何を言われても基本的に気にしない、強い奴なら勝ち目がなくても突っかかるナツらしいリアクションだ。

 

「やめとけ、エルザ如きに勝てねえ奴が俺に勝てるわけねえだろ」

「それはどういう意味だ…」

 

如きと言われたエルザが青筋を立てる。強さに誇りがあるのは強者として正しい。この怒りは至極真っ当なものだがこの二人が暴れては街一つ壊しかねない。カイルが立つ。

 

「まーまー、落ち着けエルザ」「…………フン」

 

ムキになるのも馬鹿らしいと思ったのだろう。不機嫌な感情を表に出しながらもカイルの隣に腰掛ける。

 

「降りて来い!!この野郎!」

「てめえが上がって来いや」

「上等だ!!」

 

二階に上がろうとするナツをマカロフが止める。

 

「二階に上がってはならん……まだな」

 

いつものおちゃらけた様子は見せず、厳格にナツを叱責する。たかが階段を上がるくらいでそこまで本気にならなくとも、と何も知らない人間なら思うだろうが、このギルドで二階に上がるという事の意味は通常とはかなり異なる。

ソコに行く事を許されるのはマスターに認められた知恵と実力を併せ持つ本物の強者のみ。

その称号の名をS級魔導士という。カイルを含め、五人しかいない妖精の尻尾における唯一の序列。ギルドメンバーが辿り着ける最高位だ。

 

「はは、怒られてヤンの」

「その辺にしとけ、ラクサス。ナツを煽るな」

「何だぁ?カイルディア。お優しいね〜。流石はクソの騎士王様だ」

「っ!貴様「よせ、エルザ」

 

先ほどとは比べものにならない怒気を込めてエルザは椅子を蹴飛ばして立ち上がった。その烈火の勢いをいつになく厳しいカイルの低い声が止めた。

 

「っ…………だが!!「二度言わせるなエルザ。俺はよせと言ったぞ」

 

戦意すらあるかのような強い瞳で緋色の髪の少女を見つめる。その視線に怯んだのか、不安げな顔つきで黙り込んだ。

 

ーーーーちょっと険が立ったか……

 

怒ったつもりはなかったのだがどうやらそう取られてしまったらしい。一転して微笑を浮かべ、柔らかな声音に戻した。

 

「好きに言わせとけ、気にしてねえよ」

「はははは!そうだ!黙ってろ!最強の座は誰にも譲らねえよ。エルザにもカイルディアにもミストガンにも……あのオヤジにもな……俺が!最強だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあにあれ!!ムカつく〜」

「全くだ!!」

 

その後、ルーシィとエルザはヤケ酒をしていた。

 

「まあまあ二人とも、あいつについては怒るだけ損だぜ?」

「でも!カイルは悔しくないの!?」「そうだ!カイルもカイルだ!たまにはお前も怒っていいんだぞ!!」

 

自分に関する事でカイルが本気で怒る事は滅多にない。バカにされようが貶されようが柳に風だ。彼が本当に怒る時は誇りを汚された時ぐらいのものだろう。

 

「お前も剣客なら憶えておけエルザ。剣で最も大切な事は心の境地だ。怒りは一時的に力を与える事もあるが、心に余裕がなくなり、視野を狭める。一流の剣客は怒りと恐怖をコントロールするんだよ」

 

単純な剣の技倆や魔導士としての実力という点において、カイルは古今の達人の誰にも劣らない自負がある。実際、カイルが武者修行の旅から帰った際、秘密裏にマカロフと立ち合った。紙一重の勝負とはなったがカイルはマカロフに勝利した。

 

ーーーージーさん……弱くなった

 

驚いた。ピークは過ぎた事も知っていたし、体が悪いというのもポーリュシカから聞いてはいた。それでもカイルにとってマカロフが自分に敗れたという事は驚くべき事だった。

しかし、成長して対峙したおかげでわかった事もあった。

 

ーーーー俺なら負けた時、ああも潔くいられるだろうか?

 

敗れたマカロフは心からカイルの成長を喜んでくれていた。努力を褒め、伸び代がある事を教え、驕らないように諭し、背を叩く。少しの皮肉も悔しさも滲ませずマカロフはそんな態度で迎えてくれた。

旅の折に自分も弟子をとった。どうひっくり返ってもその子に負けはしないが、もし将来敗れた時、自分はマカロフと同じ行動が取れるだろうか?

自らに問いかけてもその答えは出なかった。

 

ーーーー俺なんぞはまだまだああはいかん。力は落ちても人間が格段に上がっている。魔導とは所詮、勝負ではないな。

 

その事に気づいた時、カイルの剣は変わった。今のカイルを表すなら優しさという鞘の中に収めた斬れ味の鋭い剣。しかし以前は凛々しさの中に鋭利な気配を放ち、触れるもの全てを切り裂く刃のような男だった。

溢れる才気を隠す事がない抜き身の刃。彼を見れば子供でもその斬れ味が尋常ではないわかるほどだった。

しかしその頃の彼はたった一つ欠陥があった。

 

人間を愛していないという事だ。

 

凄惨な過去を送ってきたおかげか、彼は誰も信じていなかった。こと戦いにおいてはあのエルザさえも。仲間は大切な存在だが信頼できる存在ではなく、自分の才覚と力量のみを信じ、頼っていた。

しかし表に出る、それも子供にさえわかるという才気は人を警戒させる。

そういう人物は得てして徳がない。そして徳が無ければどれほど能力があろうと大事は成せない。

 

その事に気づかせてくれたのがマカロフだった。だから自分はまだまだマカロフには及ばないと思っている。そしてそれ以来怒りを表に出す事をしなくなった。

 

「…………それにな」

「それに?」

「エルザが怒ってくれたろ?それで充分だよ、俺は」

「……フン」

 

顔を紅くしながらソッポを向く。ずるい言い回しをされた事への怒りと喜びが声に出ていた。その後、ルーシィは二階の意味をミラに聞いていた。

S級魔導士しか上がれない階で行けるのはカイルとエルザ、ミストガンにラクサスだけだと教える。自分を含めなかったのは第一線から退いたゆえの謙遜だろう。

 

「まあS級なんて目指すものじゃないわよ。命が幾つあっても足りないから」

「はははは、デスよね〜」

 

冷や汗かいてるルーシィを尻目にマカロフが奥から現れた。手には一通の手紙を持っている。

 

「カイル、評議会からじゃぞ」

「!!!」

 

事情をある程度知っているエルザはその知らせに目を見開く。

 

「来たか…思ったより早かったな…」

 

何だなんだと皆が集まる。手紙には昨日、評議会から言い渡された依頼について書かれていた。もちろんクエストのランクも記載されている。

 

「な、なにこれ!!」

「評議会め!またカイルに無理難題を!!」

 

一斉に不満が湧き上がる。こういった依頼がカイルに押しつけられるのは何度かあった。カイルはすべて無視して旅支度を整え始める。と言っても剣を一本、腰に差すだけなのだが。

 

「待って!カイル!行かないで!!こんなの行く必要ないわよ。あなたは何も悪い事はしてないわ!!」

 

一番近くにいたミラが縋り付くようにカイルに抱きつき、止めようとする。

 

「そーゆー問題じゃねえんだよ、ミラ。評議会の依頼だ。断れねえよ」

「行くなよ!カイル!二年前と同じ目に会いてえのか!!」

「あの頃より俺は遥かに強くなってる。心配すんな、グレイ」

「気をつけるんじゃぞ」

「すまんなじーさん。苦労をかける」

「謝らねばならんのはワシじゃ。本当にすまん。尻ぬぐいばかりさせてしもうて」

「いいって…じゃ行ってくる」

 

出て行こうとするカイルにミラがすがりつく。

 

「やめて!行かないで!お願いよ、カイル。リサーナにいなくなられて、あなたにまでいなくなられたら…私…」

「私も行くぞ、カイル。私達は銀の妖精王(シルバリオ・ティターニア)私達はチームだ。」

「ダメだ。エルザ、今回のはマジでヤバイんだ。おまえを連れてくわけにはいかない」

「そんな危険なところにおまえ一人送って私はここで待っていろというのか!!」

「そうだ」

 

そこまで聞くと、エルザは剣を抜き、カイルの前に立つ。

 

「ならば行かせるわけにはいかない!!斬ってでも止める!」

「ここで無駄な魔力は使わせないでくれ。頼むよエルザ」

「うるさい!どうしても行くというのなら私を殺して行け!」

「女騎士か、お前は………ああ、女騎士(そう)だったな」

 

気配に戦意すら滲ませ、剣を突きつけるエルザの姿を見て、戦いは避けられないと悟ったカイルが柄に手をかけたその時、急激に眠気が襲いかかってくる。卓越した精神力と魔法耐性により白銀の剣士は意識を失う事はなかったが、目の前に立つ緋色の女騎士を含め、全員が眠りにつく。

 

ミストガンだ。

 

「おかえりミスト。助かったよ」

 

ローブで顔を隠した青年に笑顔で語りかける。とある事情から正体を隠している彼はギルドに戻るときは必ず強力な眠りの魔法をかける。それが今回は違う形で効果を発揮してしまったのだ。

大体の事情は彼も察しているらしく、信頼と不安がない交ぜになった視線をカイルに向けていた。

 

「久々にゆっくり話したいところだが、俺も忙しくてな。また今度メシでも食いに行こうぜ、ブラザー。奢ってやるからよ」

「…………気をつけて」

「ああ……ジーさん、皆にはすまなかったって伝えといてくれ」

「自分で言うんじゃ、カイル」

「……わかったよ」

 

ローブを羽織り、腰に剣を差す。ギルドの扉を閉じた時にはもう次の戦いの事しか頭にはなかった。

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。今回は少し短め。次回から完全オリジナル編です。それでは励みになりますので感想、評価よろしくお願いします
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