ローレライの支配者   作:フクブチョー

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第十公演 最後の精霊王

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルドを出たカイルは旅支度を整えた後、空を見上げていた。雲一つない天覧の空。カイルは昼でも夜でも、空を見るのが好きだった。

 

【奏者?何をぼーっとしている】

 

シルフが語りかけてくる。カイルはゆっくりと首を振った。

 

「ごめん、ちょっとこれからが憂鬱でな」

 

カイルは今、とある人物の家を訪ねていた。ぱっと見は巨大な木。しかし内部は加工されており、人の住居となっている。

今から会う人物は非常に人間嫌い。カイル自身は嫌いではないし、恐らくはカイル本人も嫌われてはいない。しかし常に不機嫌な人間と会うとなると憂鬱にもなる。

 

一度息を吐くと覚悟を決めて戸を叩く。返事はなかったがいつもの事なので扉を開けた。

 

「ポーさん。いるか?」

「…………何だ、ぼーやか」

 

勝手に扉を開けた人物をギロリと睨みつけたが、訪ねてきた人物を見てその険しさは少し和らいだ。

 

「いい加減ぼーやはよせよ。今年で21だぜ」

「はっ、年を気にしているうちはまだまだぼーやさ」

 

この家の家主、ポーリュシカは椅子を一つ用意してくれる。年老いてなお、魅力のある女性で若い頃はたいそう美人だったと容易に想像できる。

彼女が家としている木の中は意外と広く、インテリアも中々趣味がいい。そのまま座る。

 

「護衛くらいつけたらどうだ」

 

妖精の尻尾専属顧問医師である彼女の存在は重要だ。そして医師とは何かと恨みを買う事が多い。この心配は正しい。

 

「おや、ぼーやに心配される日が来るとはね」

「ちゃかすな、俺は真剣に言っている」

「ふん、人間に心配されるほど耄碌しとらん」

「俺を人間と称するには少し抵抗があるけどな」

 

紅茶が出される。茶葉の良い香りが鼻をくすぐる。

 

「しばらくすっかり顔を見せなかったじゃないか。まったく貴様は用がなくなれば全く音沙汰が無くなるな」

「………悪い、言いにくいが頼みがあって来た」

 

その一言を聞いて嘆息する。

 

「私を便利屋だとでも思ってるんじゃないか、ぼーやは」

「…………すまん」

「ふん、まあいい。お前に顔だけ見せに来たと言われても到底信じられんしな。で、何の用だ」

 

紅茶に口をつけながら片目でジロリと睨む。若干怯んだが黙っているわけにもいかない。切り出した。

 

「少し仕事で出る事になった。魔力回復薬と耐性ラクリマ一式、頼みたい」

「…………一式?お前に?」

 

ポーリュシカの眉間に怪訝な色が滲まれる。回復も耐性も自分一人で充分に出来る彼がこのあたりの薬品を求めるのはおかしい。

 

「全て話せ」

「評議会依頼のクエストで……」

 

今回の件に至った事情を手短に話す。

聞き終えたポーリュシカはさらに眉間に大きくシワを刻んだ。

 

「…………まったく、相変わらず人間はどうしようもないな」

「はは、否定できんな」

 

二人とも人間とは少し違う位置にいる。一人は天竜、そして一人は精霊王。ゆえに彼らの視点は通常の人間とは異なっていた。

 

「場所は?」

「アストラル」

「…………それはまた」

 

何百年も前から特急危険区域に指定されている霊峰アストラル。この反応は当然と言える。

 

「どうしても行かないとならんのか」

「ならんね、仕方ない」

「…………私が薬を渡さないと言えば?」

「そん時は仕方ない。無しで発つさ」

 

選択権はポーリュシカにある。どんな答えを出しても彼女の自由だ。口出し出来ることじゃない。

 

また一つ嘆息する。もう意思が変えられないならカイルを危険に晒すわけには行かない。いや、既に危険に晒されるのは決定事項なのだが、準備不足などにさせるのは顧問として許されない。

奥の戸棚から一式を揃えて用意する。その質はカイルの目から見ても一級品だった。

 

「流石だな」

 

一式纏めて荷に背負う。コレでできる限りの準備は出来た。

 

「行ってくる」

「生きて帰ってきな。死んでさえいなければ何とかしてやる」

「………ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

パンパンに膨れ上がった荷物を換装空間にしまう。持っていってもいいのだがやはり嵩張る。出来るだけ身軽でいたい。

 

「さてと、行くか」

【どうする?私が飛ばそうか?】

「いや、やめておく。出来るだけ魔力を使いたくない」

 

指笛を吹く。甲高い音が響くと同時に、遥か上空から巨大な銀の毛並みの狼が現れた。

 

「よく来た、テリー。ちょっと遠出になるぞ?大丈夫だな?」

「ウォフ!!」

 

カイルの問いに力強く答えるテリー。彼はバトルウルフと呼ばれる魔物で、その最高速度は時速300キロを越える。

カイルが背中に飛び乗ったのを確認すると、駆け出した。逐一カイルが方向の指示を出す。

 

「おお、また速くなったな、テリー」

【そんな事より奏者よ、わかってるのか?今回の相手……霊峰アストラルといえば恐らく】

「わかってる。竜の精霊王バハムート。現存する精霊王で俺が唯一使役出来てない一柱」

 

ローレライであれば無条件に精霊王を使役できるというわけではない。精霊王と対峙して己の力を示す時、初めて精霊王はローレライの一部となるのだ。

 

「二年前はまるで相手にならなかった……だがあの時とは違うぞ」

【というか、二年前はバハムートの試練じゃなかったのに奏者が私とやった後に立て続けでやるから歯が立たなかったのよ。全力ならもう少しいけてたわ】

「めずらしいな、ノクターン。おまえが俺を褒めるなんて」

【だって貴方は歴代ローレライで初めて私を使役できるローレライなのよ。少しぐらいは肩を持つわ】

 

そう、闇の精霊王ノクターンはかなりのじゃじゃ馬だった。完全に制御できるようになったのは結構最近だったりする。

 

そうこうしているうちにアストラル近くにまで到着していた。深い森林が生い茂る山だ。ここにいるだけで既にかなりの魔力を感じる。

しかし早い…テリーの成長速度は俺の想像を遥かに超えている。

 

「着いたな、アストラル。ご苦労だった、テリー」

「ウォン!」

 

はっはっと息を切らしながら誇らしげな顔をするテリー。宿の最高級の寄宿舎に預けよう。そこでならゆっくりと休める。

 

【どうする奏者よ。すぐに挑むか?」

「まさか、今夜一晩は休ませてもらう。何処かに宿があるだろ」

 

荷物を背負いなおし、街へと入る。テリーの背からは降りなかった。バトルウルフの存在はこの国に生きるものなら大抵は知っている。それを使役していればそれだけでかなり高位の魔導士と見なされるだろう。見知らぬ土地でハッタリを聞かせるには丁度いい。

 

「この辺りの地理、わかるか?」

【勿論。伊達に何百年も暇人やってないわ。こっちよ】

 

精霊王に宿の場所を尋ねる。町並みは彼女が知るものと少し変わっていたが、権威ある宿は変わっていなかった。

 

リッツガーデン。それが精霊王の案内でたどり着いた宿の名前だった。この国ではあまり見ない東洋風のデザインの屋敷だ。

 

宿の前に来るとやはりと言うべきか、宿中の視線が一気に集まる。

 

「すまない、一名なんだが空いている部屋はあるだろうか」

「は、はい、人魚姫の宿へようこそ!」

 

とても和風な宿だ。女将も着物を着ている。紺色がよくにあっている。本人の美貌もあいまって実に美しい。

 

「この仔が休める厩舎はあるか?」

「こ、このサイズですとかなり高価になりますが……」

「構わない。なんなら新しく厩舎をこちらで用意してもいい」

「い、いえいえ!魔獣をテイムされている魔導士様は時々いらっしゃいますから大丈夫です。どうぞこちらへ」

「ああ、テリー」

 

指でサインを出すと白狼は指示通りに行動し、用意された厩舎で寝そべる。

 

「か、賢いテイムモンスターですね」

「ああ。あの仔はその辺のゴロツキなんかより遥かに聡明だ。君達が攻撃でもしない限り、危害を加える事はない」

 

怒らせたら超怖いけどね〜、とだけ付け加える。バトルウルフの毛皮や牙はとんでもなく高く売れる。高級な宿なのだからないとは思うが、下手な真似をしないようにこの程度の忠告はしておいたほうがいい。

 

「女将、少し聞きたい事がある。いいだろうか?…」

 

部屋を案内する為に前を歩く女将に尋ねる。評議会からだけでなく、現地の情報を少しでも得ておきたかった。

 

「はい、何なりとお聞きください」

「アストラルについて少し……」

 

そこまで言ったところで破砕音が室内に響き渡る。

 

「お客様………あの霊峰に入られるおつもりですか?」

「あ、ああ……仕事でな。何?まずいの?」

「あそこは危険区である以前に聖域です。お見受けしますところ、高名な魔導士様であらせられるのでしょうが、勝手に進入する事は許されておりません」

「マジで?評議会の依頼なんだけど」

「恐らくは入場の許可を頂く事も仕事の内に入っておられるのだと愚考します」

 

評議会の連中はこの事を知っていたのかどうか……恐らく知っていたんだろう。性格の悪い事だ。ろくな死に方はすまい。

 

「因みにその許可っていうのは?」

 

山が神聖な存在に見られるのは珍しい事ではない。とある国では神が住むとさえ言われている場所なのだ。

 

「深い霧に覆われているのです。資格なき者がその中に立ち入るとどれほど真っ直ぐ歩いても入口に戻らされるか、魔獣に食い殺されるかのどちらかなのです」

 

なるほど、おそらく魔術的な結界が張られているのだろう。精霊王の封印場所にはよくある事だ。破り方も勿論知っている。

 

「わかった。忠告感謝する」

「いえ、では食事は夕刻にお持ちいたします」

「ああ、頼む」

 

ーーーー人に迷惑をかけるようなことは恐らくしないだろう。精霊王は基本人のために行動しているからな。それがここまで派手に動くってことは俺を誘ってんのか、まああってみればわかるか…

 

しばらく経った後食事を出され、風呂を浴びた後、カイルは部屋で浴衣を着てくつろいでいた。

 

【のんきね、明日は恐らく死闘になるわよ。そんな余裕でいけるの?】

「お前は俺が慌てふためく姿がみてえか?リート」

 

ニヤリと挑戦的な笑みを浮かべる。沈黙は宿主の意思を理解した証だった。

 

「どう過ごしても流れる時間はかわんねえよ。なら落ち着いて、己の魔力を正常に張り巡らしておく方がいい」

 

満月の夜空を見上げながら、部屋においてあった三味線に手をかける。

ビンビンっと音を奏でる。三味線を弾きながら、明日の運命の一戦に心を静かに燃やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、よく晴れた早朝にカイルはアストラルへと入って行った。深い霧は辺りを覆い、10センチ先も見えない状況にしていたが、自分が少し歩くと嘘のように霧は晴れた。恐らくは晴らしたのだろう。自分以外を入れないための結界。コレは他の一般人を踏み入れさせないための防護膜でもあったのだ。なるほど確かにバハムートらしい。

 

【奏者、わかってると思うが】

「わかってるよ、何回目だと思ってんだ」

 

この試練の間カイルはローレライの力を使えない。

精霊王の力を借りずに、自分だけの魔法。戦闘力で闘わなければならない。それが精霊王の試練。

術者の魔力次第でありとあらゆる武器を呼び出す事ができる、精霊王に魅入られなければ主力となっていたであろうカイル本来の魔法。

 

【千の戦乙女の忠誠】

 

その中でもカイルは警戒して最も強い剣である約束された勝利の剣(エクスカリバー)を構え、奥へと進んで行った。

 

不意に広い空間のある場所に出た。そこには並の魔導士ならば踏み入れただけで失神してしまいかねないほどの魔力に満ちた空間だった。

 

「…………来る」

 

目の前の空間が歪む。巨大な円形の光が現れたと思った時には輝きは竜の形を取った。

 

「…………ファフニール、か」

 

出現した竜の魔獣の名を呟く。ワイバーンの完全上位種。単純な強さで言うなら先日闘ったララバイに勝るとも劣らない。

 

「まずは一次試験って訳か。舐めてくれるねバハムート」

 

腰間の一刀を抜く。なに、準備運動には丁度いい。唇を舐めた。

 

「行くぜ………」

 

巨大な鉤爪が振り下ろされる。圧倒的な重量が乗った一撃をカイルは真正面から受け止めた。

 

足が地面にめり込み、円形にヒビ割れる。威力の程は充分に伺える。

 

「…………この程度か?ファフニール」

 

ムンっと気を入れる。鉤爪をカチ上げ、地面に叩き落とした。そのまま一閃を繰り出す。鉤爪は見事に真二つに斬れた。

 

怒りの叫び声をファフニールが上げ、上空へと舞い上がる。同時に口腔に閃光が生まれた。

 

「へえ、咆哮(ブレス)か。腐っても竜種だな。面白い」

 

腰だめに剣を構え直す。相手がこちらを舐めるというならこちらも見下してかかる。トコトン正面から、真っ向勝負で相手をしてやる。そちらの武器を全て叩き潰し、そして斬る。

 

極大のエネルギー弾がファフニールから放たれる。一直線に飛翔するそれに向けてカイルは踏み込んだ。

 

「ぉおおおおおおッッ!!」

 

居合斬り。極めればこの世に斬れないものはないとまで言われる東洋の技術。それにカイルの魔力をチャージして斬撃にして解き放つ。カイルが修めた剣技の基本中の基本。

 

ブレスは十字に切り裂かれる。一瞬で二閃が放たれた証。斬撃の勢いは止まらず、ファフニールの翼を斬り裂いた。飛翔が困難になった竜は地面へと錐揉み回転し、落下する。

 

地の上でのたうち回り、ファフニールが体制を整えた時にはもう遅い。落下地点で待ち構えていたカイルは鍔鳴りを一度ならす。鞘に剣を収めたときにはファフニールの首は跳ね飛んでいた。

 

「…………前座はもういいだろう。来い、バハムート。決着をつけよう」

 

薄闇の空間に向けてカイルが呼びかける…そこに佇む黒いドレスを纏った銀髪の美女がいた。

 

「待たせたな、竜の精霊王よ」

「待っていたぞ、当代のローレライ」

 

心地よい寒気が背中を走り、震える。敵を前にしての武者震いなどいつ以来か。心躍る強敵を前に、カイルは死闘を予感する。

 

ーーーー2年ぶりに……使わねえといけねえだろうな

 

【絶剣技】

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。最後の精霊王編スタートしました。あと2話ほどでデリオラ編に移りますのでしばらくお付き合いください。それでは感想、評価よろしくお願いします。ご存知の方もいるかもしれませんが、ダンまちでも新しく連載を始めました。その他3作品もよろしくお願いします
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