ローレライの支配者   作:フクブチョー

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第十二公演 悪魔の島へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マグノリアの街に巨大な白狼が舞い降りる。通常であれば魔獣の唐突な登場に街の人間は恐れ戦くところなのだが、ことマグノリアに至ってはそれはない。この狼がカイルのテイムモンスターである事は皆知っている。テリーは半端な人間よりよほど賢い。ヘタしたらナツより賢い。

 

「皆ぁ!カイル様が帰ってきたぁ!!」

 

誰かが叫ぶ。二人の眼下に人がワッと集まってくる。どうやら10年クエストに行っていた事は街中の皆が知ってるらしい。

 

テリーに町人を踏みつぶさないように注意を促しながら慎重にギルドへと向かう。

 

「愛されてるな」

「騒ぎたいだけだろ、ここの連中は」

 

テリーの背中に乗る二人の男女。一人は白銀の髪を首筋あたりまで伸ばした美青年。そしてもう一人はその白銀と完全な対をなす緋色の髪をなびかせる凜とした美少女。

名はカイルディア・ハーデスとエルザ・スカーレット。マグノリアが誇るフィオーレ一のギルド、妖精の尻尾S級魔導士。二人の名は国中に轟いている。

見慣れた酒場が視界に入り、ようやく肩の力が抜けた。飛び降りて、テリーに住処に戻るように指示する。

 

「あ〜……着いちゃったか」

 

肩を落とす。これから待ち構える未来を思うと気が重い。最も厄介な障害は既に超えたが、これから待ち受ける試練も、カイルを憂鬱にさせるには充分すぎた。

 

「サッサと済ませて、今日は休もう」

 

それでも向かわない訳にはいかない。エルザに引きずられつつ、ギルドへと歩く。

 

ーーーーあ……

 

門の前に人影が見える。マカロフ、ミラ、カナ、ジェット、ドロイ。皆そこにいた。どうやら総出で待ち構えていたらしい。

 

ーーーーみんな……

 

「この、バカタレが」

 

マカロフの一言で全員の時が動き出す。真っ先に走り出したのはミラだった。

 

「カイルっ!!」

「おわっ!?」

 

止める間もなく抱きつかれ、押しのられる。

 

「おかえりっ……本当に、おかえりなさい!」

 

胸に頭を擦り付けながら再会を喜んでくれる。目を細め、艶やかな白髪を撫でた。

 

「ただいま……ミらぁ!?」

 

自分にかかる負荷が一気に増える。次から次へと仲間達がのしかかってきていた事にその時ようやく気付いた。

 

「ガイ゛るぅううう!この大馬鹿ヤロウがぁあああああん」

「おかえり……信じてたよゔぇっ!!」

「だぁあああ!わかったからどけお前ら!あ、やば、なんか出そう…」

 

人のピラミッドから這い出る。全員苦しそうにしながらも、皆笑顔があふれていた。

 

ーーーーああ、帰って、きた。

 

ようやく、その実感が湧いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風がたなびく野原、一人の男が女性の膝を枕に眠っていた。

白銀の髪を靡かせる男はカイルディア・ハーデスと名乗っている。当代の奏でる者にして、絶剣の継承者。イシュガルにおける最強の魔導士の一人。

 

ーーーー…………ああ、ここか。

 

風が肌を撫で、歌が耳に届き、意識が浮上していく。その間で自分が眠っている場所の検討をつける。此処は自分の精神世界。ローレライは皆この世界に入る事ができる。コレには相当の集中力と精神力を必要とする。座禅に於ける悟りに近い。コレだけでも常人には生涯辿り着けない境地だろう。

 

そして精神世界とは人によって異なる。断崖絶壁な者もいれば海のど真ん中、果ては重力がない世界などという者もいる。カイルの場合は風が穏やかな緑生い茂る平原。恐らくこれは彼の生まれた環境に起因する。幼い頃、こんな場所で過ごしていた事を朧げに記憶していた。

 

ーーーー久しぶりだな、此処に来るのも……

 

「流石に理解が早いな。奏者よ」

 

意識が覚醒した事がわかったのか、膝を貸していた女性が口を開く。

 

「バハムート。来てたのか」

「うむ、妾を使役するにあたって注意事項が少々あるからな」

 

そう、精霊王の試練を終えたら奏でる者は彼女たちの扱い方を彼女ら自身から聞かなくてはならないのだ。他の精霊王たちも今この場に集まっている。聞こえてくる歌は彼女たちのものだった。

 

「まずはトランスの時だが、その時そなたは全ての滅竜魔導士の力を得る。物体が魔力であるなら喰らえば己の力にする事が可能だ」

「へえ、今までは精霊王をそれぞれの相手で変えて戦ってたが今後はずいぶん楽が出来そうだな」

「むぅ。そういう考えはあまりよくはないのだが……それと精霊魔装だが、妾の形は恐らく青龍偃月刀だ。能力はトランス時とほぼ同じ。妾を振れば、相手の魔力を力とし、あらゆる滅竜魔法が撃てる。あと銘を教えておく。知ってると知らんとでは威力が自然違ってくる。よいか、我が銘は………神をも食い殺す龍の牙(ニーズヘッグ)だ」

 

説明を聞いているうちに周りで歌い、踊っていた精霊王たちもカイルが起きた事に気づき、集まってくる。

 

「コレで現存する精霊王は全て手に入れた事になるわね、おめでとう」

 

最初の精霊王、イフリートがカイルの背中に抱きつきながら祝辞を述べる。自分の目は間違っていなかったと言わんばかりのドヤ顔だ。

 

「素晴らしい事だが、同時に恐ろしい事でもある。奏でる者の力の強さは背負う世界の運命に比例する。奏者、貴方の運命は相当過酷なものになる」

 

初代はそれに屈した。実力で言えば今のカイルを上回るにも関わらず、心の強さが足りなかった。

 

「妾を取り込んだということは間違いなくそなたには試練が課せられる。世界の運命を握るほどの試練が」

 

知っている。すべて覚悟した上で彼女達と契約したのだ。

 

「臆するなよレグナス。決して妾たちの力に溺れるな。妾達などいなくとも、そなたは誰より強い魔導士だ。己の信じた道を行け。その道がそなたの心の正義に従っている限り、妾達はそなたの力になる」

 

精霊王達の表情には悲しみがにじみ出ている。それも聞いた事がある。今までの奏でる者は精霊王の力を恐れるか、溺れるかのどちらかだったと。

 

「大丈夫だよ、皆」

 

仲間がいなければこんな日の当たる道を歩けなかったかもしれない。

 

「俺には仲間がいるから」

 

俺のこの強すぎる力を知っても、俺を恐れたり、必要以上に依存したりしない、仲間だと言ってくれる家族がいるから。

 

だからきっと……

 

その言葉に納得したのか、精霊王たちは一様に笑顔を見せた。

 

「ならそろそろ起きろ。そなたを待っている者らがおるのだろ?早く帰ってやれ」

 

うなずき、目を閉じる。すると淡い光に囲まれ、消えて行った。野原に精霊王達のみが残る。

 

「………言うべき事はすべて伝えた。なら後は我らが奏者を信じよう。奏者が此処に来る事が今回で最後となる事を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚める。潮風が鼻をくすぐり、風が肌を撫でた。

 

「起きたか、カイル。そろそろ着くぞ」

 

マストに背を預け、座りながら眠っていたカイルの肩をエルザが揺らす。

 

ーーーー…………あぁ、そうだったか。

 

日常ではお目にかかれない、目の前に広がる海を見て、一瞬、自分の現状を忘れかけた。なぜ今海賊船に乗って、こんな海上にいるのか、理由は少し遡る。

 

帰ってきて早々、皆に一通りお叱りを受けた後、マカロフにナツ達を捕獲してくるように言い渡された。

詳しく話を聞いたところによると、俺がいない間に、またラクサスがナツにケンカふっかけたらしくラクサスを見返すべく、ナツ達はS級クエストに行ってしまったということらしい。止め役にグレイが向かったそうだが帰って来ない。恐らくミイラ取りがミイラってとこだろう。

帰還を果たしたエルザとカイルは直ちにつれ戻すようにマカロフに指示された。

それだけなら10年クエストの疲労が残る今のカイルは引き受けはしなかっただろう。事実最初は断った。それでも今、海上にいるのは理由がある。

 

ラクサスとナツの喧嘩の原因が自分だったのだ。仲間達を置いて、一人で10年クエストへと向かった後、エルザが追いかけると宣言。マカロフは止めようとしたそうなのだが、無理だったらしい。S級魔導士であるエルザを止める口実が見当たらなかった事がまず一つ。そしてエルザの気持ちにも大いに共感してしまったマカロフはカイルを追いかける事を許可した。

それに伴い、ナツが同行を申し出たが、コレは却下した。荷が重すぎる、と。その時、ラクサスがナツを雑魚呼ばわりしたそうだ。

そしてラクサスと、間接的に俺とエルザを見返すべく、S級クエストへと行く事を決めたらしい。

 

「よりによって悪魔の島とは……なに考えてんだか」

 

ナツ達が向かったS級クエストの報酬は七百万ジュエル。数字だけ見ればすさまじい額だが、S級の報酬の中では少額の部類に入る。実力だけで言えば、厳しいとはいえ、ナツなら出来ないとは言い切れないクエストだ。しかし場所が悪い。

ガルナ島。別名悪魔の島。いい評判はあまり聞かない。地元の漁師達も近づかない魔窟だ。騙し合いや心理戦というジャンルにおいて、ナツはあまりに無力だ。悪魔達がどういうやつらなのかは知らないが、そういう事には長けていると思っていいだろう。

 

「くぁあ……」

 

生欠伸が漏れる。やはり疲労はかなり残っている。絶好調を100とするなら今は60いくかどうかというところだろう。

 

「…………やっぱりお前は来なくても良かったんじゃないか?」

 

カイルが今回の件に出張る事をエルザは最初反対した。ナツを連れ戻すだけなら恐らく自分だけでも出来る。死闘を終えたばかりのカイルにやらせる必要はない、と。

 

「そんな訳にもいかねえだろう」

 

疲労で言えばエルザだってあるはずだ。一昼夜寝ずにアストラルまで駆け抜け、俺を探していたのだから。それも元を正せば俺のせい。そんな彼女に任せきりにする訳にはいかない。

 

「私は別にお前のせいだなんて…」

「ああ、ぶっちゃけお前もナツも俺のせいだなんて思ってねえよ。そこまで傲慢じゃない」

 

二人とも既に一人前の魔導士なのだ。自分の責任は自分で持てる。過保護は彼らに対する侮辱に当たる。

 

「それでも、責任の一端は俺にある」

 

これもまた、紛れもない事実だ。俺が一人で動かなければ多分こうはなっていない。こうはさせなかった。

 

「…………お前は強いな」

「甘いだけさ」

「違うぞ、お前は優しいんだ」

 

海賊船の速度が落ちる。紫色の不気味な月が照らす、悪魔の島が見えてきた。

 

 

 

 

 

 




後書きです。今回は少し短め。次回からデリオラ編です。それでは励みになりますので感想、評価よろしくお願いします。活動報告で別の小説のアンケートもやっていますので、そちらもよろしくお願いします。
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