ローレライの支配者   作:フクブチョー

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第十四公演 天使の島

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、俺はこっちだから」

 

リオンを追いかけて遺跡の奥へと入ったグレイとカイル。しかし途中でカイルは進路を変えた。

 

「なんだよカイル。一緒にリオンを止めてくれるんじゃなかったのか?」

「バカヤロウ。身内の問題だろ?てめえで解決しやがれ。カイルさんだってなんでもしてくれるわけじゃないんだよ?それに負けたままじゃ名折れだろうが。言っとくけどてめえじゃねえぞ」

「わかってる」

「「フェアリーテイルのだ」」

 

声が揃う。少し口元が綻ぶ。グレイもナツも実力、思慮、色々と足りないが、誇りだけはちゃんと持っている事が嬉しかった。

グレイと別れ魔力の源へと走って行く。途中傾いた遺跡が元に戻った。そこに、ナツと対峙している仮面の男がいた。

 

「げっ!!カイル!?てことは俺達を連れ戻しに!?」

「それは後。ナツ、こいつ譲れ」

「わかった。俺はグレイのとこにいってくる」

 

それを聞いたカイルは驚き、目を見開いた。

 

「意外だな、ダダこねるかと思ったが」

「気に入らねーけどグレイの事が気になるからな!そんかわり絶対勝てよ!!」

「フン、誰に向かって言っている?」

 

ナツもニヤっと笑い、親指を立てると、上へとかけて行った。

 

「まさか黒の騎士王が来ていたとは……想定外でしたね」

「遺跡を戻したのはてめえか。それとそのわざとらしいおっさん喋りやめろウルティア。年寄りのフリして油断誘おうってんなら相手が悪りいぞ」

 

仮面の男はふっと笑い、正体を明かした。長い黒髪に水晶を浮かばせた美女が現れる。

 

ウルティアだ。

 

「流石…と言ったところかしら?カイル。初見で見抜かれるとは思わなかったわ」

「お前とは何度かやりあってんだ。この俺がわかんねえわけねえだろう。あとカイルって呼ぶな」

「連れないわね。まあそこが魅力でもあるけど」

「ムーンドリップを教えたのはてめえだな。何で教えた?リオン程度じゃデリオラは倒せない事ぐらいわかんねえてめえじゃねえだろ?」

 

ゼレフ書の悪魔の中でも、高位に位置する怪物だ。ララバイなどとは格が違う。俺を除けば、スレイヤー系の魔導士でもない限り、アレに勝つのは相当困難だろう。

 

「もちろん。でも楽しそうじゃない?無敵の化け物が復活したら」

「本当のところを教えるつもりはねえってことか……ジークレインの指示か?それとも……闇か?」

 

問いかける質問に答える様子はない。水晶を弄びながら、ただ、皮肉げに冷笑するだけ。

 

「ムーンドリップは再開されたわ。時期にデリオラは復活する」

「したところでこの俺がいるんだぞ。すぐに叩き潰してやるよ。手始めに貴様を叩きのめす。今日こそ色々と聞かせてもらうぜ」

 

氷の精霊王フリージアを憑依させる。コレはウルティアへの精神攻撃の意図もあった。母の得意とする魔法を使う事により、相手の余裕をなくさせ、心的優位に立つ。しかしこの戦術はあまり成功したとは言えなかった。わざと使ったと思わせられるならばともかく、カイルは普段からワリと氷の魔法を使っている。加減さえ間違えなければ殺傷力や周囲への被害は炎や雷より低いし、扱いもそこまで難しくないからだ。平然とした様子で水晶を操り始める。

 

「貴方とは戦いたくないんだけど……仕方ないか。見せてあげるわ、ロストマジック。時のアークを」

 

水晶が宙に浮き、四方八方からカイルに襲いかかる。常人ならまず対応できない手数と速度だ。

瞬時に氷を周囲に展開させ、ガードを固める。精霊王の氷の強度は鉄に迫る。水晶程度なら難なく防げる。

 

「カイルの周囲の氷の時を進める」

「なっ!?」

 

かなりの厚さで展開した氷壁が一瞬で消えた。水晶が四方から襲いかかる。

 

「ぉおおおおおお!!!」

「わっ、すごっ」

 

いつ抜いたのか、ウルティアの目をもってしても見えなかった。銀の大剣を目にも留まらぬ速さでふるい、水晶を全て弾き落とす。

 

「やっぱ一筋縄じゃいかないわね。フラッシュフォワードだけじゃ無理か。ならこれでどう?」

 

指を鳴らすと、天井が崩れ落ちてくる。また全て凍らせ、その氷塊をウルティアに飛ばした。が溶けて消えてしまった。

 

「チッ」

 

時のアーク発動速度が以前より上がっている。遠距離からの攻撃は無効と判断した。跳躍し、瞬速でウルティアに迫る。ウルティアは水晶を出して応戦しようとするがあっさりかわされ、間合いに入られ、蹴りをかまされた。壁まで吹き飛ばされる。

 

「ぐはっ!!!」

「なんだ、相変わらず体術はヘボいな」

 

身体能力は以前と大して変わっていない。これならばやりようはいくらでもある。

地面に手をかざす。力を込めると一瞬で地が氷に変わった。

 

「なっ!?」

 

これだけの範囲を氷で覆うには多少厚さが薄くなるが……数瞬の躊躇を稼げれば充分。

壁面を駆け抜ける。ウルティアが地面の氷の時を進ませ、足場を確保した時には既に懐に潜り込んでいた。

 

足払いで引き倒す。そのまま鋒を喉元に突きつける。

 

「生きている物の時は操れない。それじゃあ俺には勝てねえよ。死なない程度に氷漬けにして評議会に引き渡してやる」

 

手を翳し、魔力を集中させた。その瞬間大きな破壊音と怒声が遺跡に響き渡った。

 

「復活したか……クソ、グレイ達はなにをやってたんだ」

「…………私の役目は終わったみたいね。それじゃあさよならカイル。また会える日を楽しみにしてるわ」

 

地面が脆くなり、そのまま崩れ落ちる。カイルが飛び下がった先には水晶が待ち構えていた。

 

「チッ」

 

撃ち落とす。問題なく対処できたが、舌打ちする。しっかり時間稼ぎをされた。

 

「アイスメイク……薔薇の王冠(ローゼンクローネ)!!」

 

今の数秒でウルティアは造形魔法を完成させていた。かつてウルが得意としていた造形魔法、薔薇の王冠。美しくも危険な氷の檻はカイルを数秒閉じ込めるには充分な檻となる。

 

「フリージア!!」

 

翳した手に氷が収束していく。氷の精霊王、フリージアが薔薇の森を喰らいつくした時にはもう彼女の姿はなかった。

 

「逃がしたか……まあしょうがない」

 

あのクラスに逃げに徹せられては流石のカイルといえど捉える事は困難だ。

 

───それより今はこっちだ

 

飛び上がり絶叫が聞こえた方向へと駆ける。怒声をあげつづけているデリオラの居場所は精霊王の力を使わなくても、充分にわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、グレイ。お前じゃ無理だ……こいつは俺が…」

「お前の方がもっと無理だわドアホ」

 

リオンの耳に聞き覚えのない新たな声が届く。振り返って見上げてみると、銀の大剣を手にした美青年が立っていた。

 

「き、貴様は……」

「アレがデリオラか……なるほど、確かに強いな。ララバイ辺りとは格が違う」

 

───……だが、妙だな。負ける気がしない、というか、戦う気が起こらない。精霊達もまるで殺気に反応してない。ゼレフ書の悪魔とは何度か戦ったがこんな事初めてだ。

 

違和感にカイルが逡巡しているうちにグレイは両腕を交差していた。あの魔法を使おうとしているのだろう。

 

止めるべくラヴィアスを構えたその間に、半裸の青年を桜頭の仲間が止める。激昂するグレイ。

 

「死んで欲しくねえからあの時止めたのに……俺の声は届かなかったのか…」

 

その言葉にグレイは我に帰った。取り残される苦しみをグレイは知っていたハズなのに。

膝をつくグレイ。ナツは拳を握りしめ、戦闘体制を整えた。

 

「よく言った、ナツ。後は任せろ」

 

ナツを守るようにカイルが立ちはだかる。

 

「カイル!どけ!おれが戦う!!」

「まあそう言わずに俺にやらせてくれよ。新しい精霊王の力。試し撃ちするにはちょうどいい相手で……」

 

そこまで言うと、デリオラは勝手に崩れ落ちていった。皆があぜんとする中、カイルだけは理解していた。

 

「そうか……デリオラはもう死んでたんだ…ウルの氷の中で少しづつ命を奪れて……恐れ入ったな。女の魔導士に敬意を抱いたのは初めてだ。誇れ、グレイ。お前の師匠は偉大な魔導士だ」

 

グレイは涙をこぼしていた。不意に彼の耳にだけ、ウルの言葉がささやきかける。

 

お前の闇は私が封じよう

 

「かなわんな……俺にウルは越えられん」

「ありがとうございます……先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、終わった終わった!」

「一時はどうなるかと思ったけどね〜。けどホントすごいよね、ウルさんって」

「これで俺たちもS級クエスト達成だ!」

「もしかしてあたし達二階にいけるのかな?!」

「あー、うぉっほん!!」

 

調子に乗っているナツたちに現実を教えるべく、カイルがわざとらしく咳をする。

 

「盛り上がってるとこ悪いんだが……何のために俺らがここに来たかわかってるよな?」

「「「「…………………(滝汗)」」」」

 

そこには苦笑しているカイルと般若の顔をしているエルザがいた。

 

「そ、そうだった……あたし達おしおきされるんだった!!」

「ま、今すぐじゃねえけどな。村の連中の問題を解決しねーと。エルザもそれでいいだろ?」

「………あぁ、今は村人たちを救わねばならない」

 

言いたい事は山ほどあったが、取り敢えずは飲み込む。一度やると決めた以上は最後までやり切らなければならない。責任感の塊であるエルザだからこそ、カイルが決めたこの決定に逆らう事はできなかった。

 

「で、でも!デリオラは死んだんだし、これで村人たちの呪いも解けて」

「あー、違うぞルーシィ。デリオラにそんな力ないない。十中八九ムーンドリップのせいだろうよ」

「そ、そんな〜」

「よーし、さっさと治してやるか!」

「あい!」

「だが治すにしてもどうやって?」

「八割がた検討はついてるんだが、やはりここは」

 

倒れ伏しているリオンをカイルが見つけ、首根っこを掴んで持ち上げる。まるで借りてきた猫を捕らえるかのように。

 

「今回の主犯に聞くのが一番だろ」

「「「な、なるほど」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は知らんぞ」

「何だとぉ!!」

「落ち着け、ナツ。多分嘘でもねーよ。」

「どういう意味?」

「説明してもいいんだが、まあ最後まで聞けよ」

 

一段落したのを見計らってリオンが話を続ける。

 

「三年前に村に来た時に奴らの存在は知っていた。だが奴らは遺跡にくることはなかった」

「三年間一度もか?」

 

元凶と思われる場所に一度も来なかったことを疑問に持ったエルザが問いかける。リオンは首肯した。

 

「ふーむ、となるとムーンドリップの人体への影響もマユツバだな」

「ああ」

「どういう意味?」

「少しは頭を普通に働かせろ問題児ども。三年間ずっと光を浴び続けたリオンが何ともないんだぞ」

「「「「あ、」」」」

 

確かにこれ以上ない証拠だった。

 

「もう一度詳しく村の連中に話を聞く必要がある。行くぞ、エルザ。質問内容はお前に任せる」

「?カイル?構わないがなんでだ?」

「流石に今回の絡繰は気づいてんだろ?答え合わせだ。あってたらご褒美やるよ」

「!!!わ、わかった。みていろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

村へ戻ると全て元通りになっていた。まるで時間が巻き戻ったように…

 

───あいつか……でもなんで?まあ気分屋な奴だから深い意味はねーんだろうけど。

 

村人たちを集めて、エルザが前に出て、質問を開始する。腕を組みながらスタスタと歩き、的確な質問をして行く。

 

うん、流石。ちゃんとわかってるようだ。

 

「遺跡には一筋の光が毎日のように見えてきゃあっ!!」

 

……復活していた落とし穴に見事にはまるエルザ。

 

「お、落とし穴まで復活してたのか……」

「きゃあっ!!ていったぞ」

「か、かわいいな」

「何言ってる。エルザは元々かわいいぞ」

「あたしのせいじゃない!あたしのせいじゃない!!」

 

穴に落ちたエルザにカイルが手を差し伸べる。

 

「ああ、すまない」

 

穴から出たエルザは話を続ける。

 

「つまりこの島で一番疑わしい場所ではないか」

「ふ、普通に語り始めたぞ」

「なかった事にした!なかった事にして無理矢理再編集した!」

「たくましい…」

 

そこまでわかってるなら口に出さないでいてやれと思ったがコレは言葉にしない。下手にフォローを入れると逆効果だ。

 

「なぜそんな場所を一度も調べなかったのか」

 

ここまで聞いた村長は冷や汗を流し始める。言い訳をしたが嘘だと看破され、本当のことを話し始めた。

 

「……本当にわからんのです。何度も調査には行きましたが、誰一人あそこにたどり着けんのです。こんな事を話しても信じてもらえぬと黙っていましたが…」

「俺たちは入れたぞ?ふつーに!!」

「ホントなんだ!何度行っても気づいたら村の門の前にいるんだ!たどり着いた奴は誰もいない!信じてくれ!!」

 

全員が驚愕する中、カイルとエルザだけは納得したように歩きだす。

 

「やはりか」

「となるとやっぱ壊さにゃならんな」

「ああ、村長、ここで一番高い櫓に案内してくれ、これより月を破壊する」

 

 

「「「「えええええええええ!!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

櫓の上に案内され、エルザは巨人の鎧と破邪のやりを換装し、構えた。カイルもイフリートを呼び出す。

 

「これより月を破壊する。カイル、タイミングを合わせろよ」

「誰に向かって言っている?」

 

二人ともふっと笑うとエルザは月に向かって槍を構え、炎の魔法の力を拳に込める。二人の足元に魔法陣が浮かび上がり、一つに溶け合った。

 

「「ユニゾン・レイド!」」

 

エルザの構えた槍に炎が纏われる。槍を投擲するその瞬間、完璧にタイミングを合わせ、カイルの拳が槍を捉えた。

 

紅玉を纏いし破城槌(ルビーオーバートマホーク)!!】

 

放たれた槍は空に刺さり、月を中心にひびが入って行き、粉々に砕け散った。その奥には本物の月があった。

 

「「「「う、うそーーーーー!!!」」」」

「と、どうなってんだぁ!!」

「この島は邪気の膜で覆われてたんだよ、そのせいで月が紫だったんだ。見てろ、村が本来の姿を取り戻す」

 

村人たちを光が包む。だが、彼らの姿は悪魔のままだった。

 

「かわってない!?」「失敗したのか!?」

「そうじゃない、あれでいいんだよ」

「邪気の膜は彼らの姿ではなく、記憶を冒していたんだ」

「記憶??」

「「夜になると悪魔になるってゆー間違った記憶にな」」

「とゆー事はまさか………」

「そう」

 

 

彼らは元々悪魔なんだ

 

 

「「「えええええええ!!!!!」

 

空いた口がふさがらない一同。

 

「ま、マジ?」

「う、うむ。まだちょいと混乱しとりますが…」

 

愕然とするグレイが村長に問うと、一応肯定する。

 

「彼らは人間に変身する力を持っていた。それを本来の姿と勘違いしたんだ。それがムーンドリップの記憶障害」

「元々ガルナ島は悪魔の島って呼ばれてたんだ。この事実は意外ってほどじゃないだろう」

「超意外だから!じゃあなんでリオン達は平気だったの!?」

「あいつらは人間だ。こいつは悪魔にしか効果がないらしい。ちなみに遺跡にいけなかったのも悪魔だからだ。あそこは聖なる光が満ちている。悪魔が近づけんのは当然だな」

 

全ての謎が一本の線となった。

 

「さすがだ……君たちに任せて良かった…」

 

物陰から声が聞こえてくる。そこには死んだと思われていた悪魔がいた。彼だけは記憶障害から逃れていたらしく、しばらく避難していたのだった。

 

ボボが生きていたとわかり、狂喜する悪魔たち。空へと飛び上がり、踊っている。

 

「ふふ……悪魔の島……か」

 

つぶやくとその隣に立っていたカイルに寄り添うようにしなだれるエルザ。

優しい瞳でエルザを見た後、カイルも答えた。

 

「悪魔ってよりは天使のほうが似合うな」

「うん」

「今宵は宴じゃーーー!!悪魔の宴じゃーーー!!」

「おぉおおおお!!!」

「な、なんかすごい響きね、それ」

 

天頂に輝く月、満点の星の元、悪魔たちが奏でるメロディーに天使が踊る。

 

カイルはエルザにそっと向き合うと【千の戦乙女の忠誠】でタキシードに換装した。腰をかがめ、手を差し出す。

 

「か、カイル?似合っているがどうした突然」

「見事に看破した褒美だ。踊ってくれないか?俺の妖精女王(エルザ)

 

ボンッと音がなるんじゃないかと思うほど顔を赤くする。ダンスは幼い頃カイルが教えたため、ワルツからパトソブレまでエルザは一通り踊れる。白いドレスに換装し、おずおずと手をとった。

 

「喜んで。私の騎士王(カイル)

 

悪魔たちの踊りの中で妖精が舞い踊る。妖しくも楽しげな宴は朝まで続いた。

 

 




あとがきです。ガルナ島編終了です。いかがだったでしょうか?次回からはファントム編へと突入します。それでは励みになりますので感想、評価よろしくお願いします
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